「なあ月のウサギさん。お前は何でジャケットを着ているんだ? おおよそ夏だぜ?」
昨日の敵は今日の友とでもいうべきものだろうか。永夜異変後の博麗神社で、永遠亭の面々を交えての宴会が行われていた。お猪口の酒を飲み切った霧雨魔理沙が、白のYシャツ・赤いネクタイ・紺のブレザー・桃色のスカート姿な鈴仙・優曇華院・イナバに尋ねた。
「私の名前は鈴仙・優曇華院・イナバよ!」
鈴仙は強く自分の名前を言うと、魔理沙のお猪口に酒を注ぎ、「夏だからって軍服を着ない兵隊がどこにいるの?」と答えた。
「うどんなのか蕎麦なのかしらんけど軍服って物騒だなあ。一体お前は何と戦ってるんだ? そりゃ、昨日まで私はお前たちと弾幕ごっこしていたけど、もうこんな仲じゃないか」
魔理沙はお猪口に口を付け、再度質問した。
「何と戦ってるって言われるとピンと来ないけど、強いて言うなら永琳様の命令かな」
鈴仙はお猪口を側に置くと、八意永琳のいる方を見つめた。永琳は八雲紫と摩多羅隠岐奈と何やら話し込んでいるようだ。
「どんな命令なの? うどんさん」
鈴仙と魔理沙の間に割って入ってきたのは、アリス・マーガトロイドであった。
「私の名前は鈴仙・優曇華院・イナバよ、うどんなんて無いわ」
再び名乗った鈴仙は、「言えるわけ無いわ。密命よ密命」と鋭くアリスを睨んだ。アリスは「物騒ね、あなたの中では戦いは終わっていないの?」と質問し直す。鈴仙は「戦いって言われても、命令は命令よ」と返した。
「そんな怖い顔しないで」
アリスはお猪口を鈴仙に渡す。鈴仙はお猪口に口を付け、一気に飲み干した。
「うわあ、『飲んだフリ』だ」
「本物の軍人さんね……暫くは打ち解けれなさそうね」
鈴仙の胸元が酒で濡れたのを見て、魔理沙とアリスは驚きの声を漏らした。
「ほら、あなたも飲んで」
鈴仙は渡されたお猪口に酒を注いでアリスに返す。アリスは「ありがとう」と返し、口を付けた。
「お前は飲まないのか?」
「飲んだじゃない」
「その濡れたシャツで言われてもな」
魔理沙が困惑の表情を浮かべるが、鈴仙は「飲みました」と返し、さらに魔理沙のお猪口に酒を注いだ。
†
「ウドンゲ、いいかしら」
これは困ったぞと、魔理沙とアリスが困惑していたところに永琳がやってきた。鈴仙は永琳の姿を見ると立ち上がり、「はい、永琳様」と敬礼した。永琳の後ろには紫と隠岐奈の姿があり、二人は鈴仙の動きを見て、「良く教育されているわね」「私の二童子の教育もお願いしようかしら」と言葉を交わした。
「気をつけ」
永琳の言葉を聞いた鈴仙は敬礼を解き、気をつけをした。
「鈴仙・優曇華院・イナバ。ただ今を持って、貴女の全任務の解除し、兵役を解除する」
永琳の命令をじっと聞いた鈴仙は、「はい!」と答え、再び敬礼する。永琳は鈴仙の方を叩くと、「お疲れ様、鈴仙。どこへ行っても良いわよ」と伝えると、紫と隠岐奈と再び話し始めた。
「……っ!!」
鈴仙はその場に崩れ落ちた。
「おい、大丈夫か!」
魔理沙がしゃがむ頃には、鈴仙の目には大粒の涙がこぼれていた。
「私……やっぱダメな子……」
鈴仙はブレザーのポケットから一錠の薬を取り出す。それを見逃さなかったアリスは指先に糸を通すと、鈴仙の腕を自在に操る糸で縛り上げた。
「何するのよ!」
鈴仙が赤い目を輝かせる。
「何してるのはこっちのセリフだぜ!」
魔理沙はミニ八卦炉を鈴仙に構えた。
「姫様も守れない! 永琳様からは暇を出された 私はもう終わりなの! だから離して!」
鈴仙は涙混じりに訴えた。
「だからって死ぬことはないじゃない!」
「温室育ちのあなた達には分かるわけない!」
アリスも止めるが、鈴仙はさらに目を光らせる。
「それ以上目を光らせるな!」
魔理沙は帽子のリボンを外すと、鈴仙の目を縛り上げた。抵抗しようにも抵抗できない鈴仙は、その場で倒れ、号泣し始めた。
「んー、永琳さんはそんなつもりで言ったわけじゃないんだけどなあ」
三人の膠着を聞きつけたのか、紫と永琳と隠岐奈が再び戻ってきた。
「とりあえず、そのリボンを外しな。このクッションにでも座ったらどうだ」
隠岐奈は宴会のお酌で走り回っている爾子田里乃と丁礼田舞に、キングサイズのクッションを2つ準備させると、永琳・紫・隠岐奈が片方のクッションに座る。魔理沙は鈴仙のリボンを外し、アリスを含めて三人はもう片方のクッションに座った。
紫と隠岐奈は鈴仙に幻想郷の歴史、大結界の話、博麗の巫女の話、月と幻想郷の関係の話と、幻想郷について説明した。胡散臭そうに聞いていた鈴仙であったが、永琳の相槌や魔理沙とアリスのフォローもあったお陰で、ある程度は納得したようだ。
「幻想郷は基本的には自由なの。だから、永琳は貴女に与えた命令を解消したのよ。鈴仙さん、あなたにやりたいことはある?」
紫の最後の言葉を聴いた鈴仙は下を向くと、「私のやりたいことって何だろ…… 月でも永遠亭でも訓練と任務ばかりだったから、分からないや……」と漏らした。
「本当に何もないのか?」
魔理沙が鈴仙の顔をのぞき込むと、鈴仙は頷いた。
「ウドンゲ、これは命令じゃなくて提案なんだけども」
永琳が鈴仙に声をかけると、鈴仙はゆっくりと顔を上げた。
「実は、幻想郷の医療はとんでもなく脆弱って話を紫と隠岐奈(ふたり)から聞いたの。その話を聞いて、私は幻想郷の医療レベルを上げたいと思ったの。手始めに永遠亭に診療所を作ることと薬を売り始めようと思ってるんだけど、もし良かったら、あなたも協力してくれない?」
永琳は「衣食住もあるわよ」と付け加えると、鈴仙は、今までに見せたことのない、とびきりの笑顔になり、大きく頷くと、「はい! 私にできることなら!」と、元気よく答えた。
†
宴会から一ヶ月後の人里。魔理沙とアリスが甘味処へ向かおうと歩いていると、向こうから鈴仙が歩いているのが見えた。ブレザーは着ておらず、手には少し大きめの薬箱を持っていた。
「おっ鈴仙じゃないか! 元気そうだな!」
「はい!」
魔理沙に声をかけられた鈴仙は耳をぴょこぴょこさせながら答える。
「ブレザーはいいの?」
アリスが尋ねると、鈴仙は「はい! 今は誰とも戦ってませんから!」と返す。
「次に着るときは、寒くなったときと、みんなを守るときです!」
鈴仙は付け加えるように答えた。
「それは頼もしいな!」
魔理沙が鈴仙の肩を叩く。鈴仙は「ありがとうございます!」と返し、近くの民家へと消えていった。
「あれが、鈴仙の本当の姿なのかもね」
「やっぱあの時はプレッシャーに押しつぶされてたんだな」
二人はそれぞれ呟くと、甘味処を目指し、再び歩き始めた。
昨日の敵は今日の友とでもいうべきものだろうか。永夜異変後の博麗神社で、永遠亭の面々を交えての宴会が行われていた。お猪口の酒を飲み切った霧雨魔理沙が、白のYシャツ・赤いネクタイ・紺のブレザー・桃色のスカート姿な鈴仙・優曇華院・イナバに尋ねた。
「私の名前は鈴仙・優曇華院・イナバよ!」
鈴仙は強く自分の名前を言うと、魔理沙のお猪口に酒を注ぎ、「夏だからって軍服を着ない兵隊がどこにいるの?」と答えた。
「うどんなのか蕎麦なのかしらんけど軍服って物騒だなあ。一体お前は何と戦ってるんだ? そりゃ、昨日まで私はお前たちと弾幕ごっこしていたけど、もうこんな仲じゃないか」
魔理沙はお猪口に口を付け、再度質問した。
「何と戦ってるって言われるとピンと来ないけど、強いて言うなら永琳様の命令かな」
鈴仙はお猪口を側に置くと、八意永琳のいる方を見つめた。永琳は八雲紫と摩多羅隠岐奈と何やら話し込んでいるようだ。
「どんな命令なの? うどんさん」
鈴仙と魔理沙の間に割って入ってきたのは、アリス・マーガトロイドであった。
「私の名前は鈴仙・優曇華院・イナバよ、うどんなんて無いわ」
再び名乗った鈴仙は、「言えるわけ無いわ。密命よ密命」と鋭くアリスを睨んだ。アリスは「物騒ね、あなたの中では戦いは終わっていないの?」と質問し直す。鈴仙は「戦いって言われても、命令は命令よ」と返した。
「そんな怖い顔しないで」
アリスはお猪口を鈴仙に渡す。鈴仙はお猪口に口を付け、一気に飲み干した。
「うわあ、『飲んだフリ』だ」
「本物の軍人さんね……暫くは打ち解けれなさそうね」
鈴仙の胸元が酒で濡れたのを見て、魔理沙とアリスは驚きの声を漏らした。
「ほら、あなたも飲んで」
鈴仙は渡されたお猪口に酒を注いでアリスに返す。アリスは「ありがとう」と返し、口を付けた。
「お前は飲まないのか?」
「飲んだじゃない」
「その濡れたシャツで言われてもな」
魔理沙が困惑の表情を浮かべるが、鈴仙は「飲みました」と返し、さらに魔理沙のお猪口に酒を注いだ。
†
「ウドンゲ、いいかしら」
これは困ったぞと、魔理沙とアリスが困惑していたところに永琳がやってきた。鈴仙は永琳の姿を見ると立ち上がり、「はい、永琳様」と敬礼した。永琳の後ろには紫と隠岐奈の姿があり、二人は鈴仙の動きを見て、「良く教育されているわね」「私の二童子の教育もお願いしようかしら」と言葉を交わした。
「気をつけ」
永琳の言葉を聞いた鈴仙は敬礼を解き、気をつけをした。
「鈴仙・優曇華院・イナバ。ただ今を持って、貴女の全任務の解除し、兵役を解除する」
永琳の命令をじっと聞いた鈴仙は、「はい!」と答え、再び敬礼する。永琳は鈴仙の方を叩くと、「お疲れ様、鈴仙。どこへ行っても良いわよ」と伝えると、紫と隠岐奈と再び話し始めた。
「……っ!!」
鈴仙はその場に崩れ落ちた。
「おい、大丈夫か!」
魔理沙がしゃがむ頃には、鈴仙の目には大粒の涙がこぼれていた。
「私……やっぱダメな子……」
鈴仙はブレザーのポケットから一錠の薬を取り出す。それを見逃さなかったアリスは指先に糸を通すと、鈴仙の腕を自在に操る糸で縛り上げた。
「何するのよ!」
鈴仙が赤い目を輝かせる。
「何してるのはこっちのセリフだぜ!」
魔理沙はミニ八卦炉を鈴仙に構えた。
「姫様も守れない! 永琳様からは暇を出された 私はもう終わりなの! だから離して!」
鈴仙は涙混じりに訴えた。
「だからって死ぬことはないじゃない!」
「温室育ちのあなた達には分かるわけない!」
アリスも止めるが、鈴仙はさらに目を光らせる。
「それ以上目を光らせるな!」
魔理沙は帽子のリボンを外すと、鈴仙の目を縛り上げた。抵抗しようにも抵抗できない鈴仙は、その場で倒れ、号泣し始めた。
「んー、永琳さんはそんなつもりで言ったわけじゃないんだけどなあ」
三人の膠着を聞きつけたのか、紫と永琳と隠岐奈が再び戻ってきた。
「とりあえず、そのリボンを外しな。このクッションにでも座ったらどうだ」
隠岐奈は宴会のお酌で走り回っている爾子田里乃と丁礼田舞に、キングサイズのクッションを2つ準備させると、永琳・紫・隠岐奈が片方のクッションに座る。魔理沙は鈴仙のリボンを外し、アリスを含めて三人はもう片方のクッションに座った。
紫と隠岐奈は鈴仙に幻想郷の歴史、大結界の話、博麗の巫女の話、月と幻想郷の関係の話と、幻想郷について説明した。胡散臭そうに聞いていた鈴仙であったが、永琳の相槌や魔理沙とアリスのフォローもあったお陰で、ある程度は納得したようだ。
「幻想郷は基本的には自由なの。だから、永琳は貴女に与えた命令を解消したのよ。鈴仙さん、あなたにやりたいことはある?」
紫の最後の言葉を聴いた鈴仙は下を向くと、「私のやりたいことって何だろ…… 月でも永遠亭でも訓練と任務ばかりだったから、分からないや……」と漏らした。
「本当に何もないのか?」
魔理沙が鈴仙の顔をのぞき込むと、鈴仙は頷いた。
「ウドンゲ、これは命令じゃなくて提案なんだけども」
永琳が鈴仙に声をかけると、鈴仙はゆっくりと顔を上げた。
「実は、幻想郷の医療はとんでもなく脆弱って話を紫と隠岐奈(ふたり)から聞いたの。その話を聞いて、私は幻想郷の医療レベルを上げたいと思ったの。手始めに永遠亭に診療所を作ることと薬を売り始めようと思ってるんだけど、もし良かったら、あなたも協力してくれない?」
永琳は「衣食住もあるわよ」と付け加えると、鈴仙は、今までに見せたことのない、とびきりの笑顔になり、大きく頷くと、「はい! 私にできることなら!」と、元気よく答えた。
†
宴会から一ヶ月後の人里。魔理沙とアリスが甘味処へ向かおうと歩いていると、向こうから鈴仙が歩いているのが見えた。ブレザーは着ておらず、手には少し大きめの薬箱を持っていた。
「おっ鈴仙じゃないか! 元気そうだな!」
「はい!」
魔理沙に声をかけられた鈴仙は耳をぴょこぴょこさせながら答える。
「ブレザーはいいの?」
アリスが尋ねると、鈴仙は「はい! 今は誰とも戦ってませんから!」と返す。
「次に着るときは、寒くなったときと、みんなを守るときです!」
鈴仙は付け加えるように答えた。
「それは頼もしいな!」
魔理沙が鈴仙の肩を叩く。鈴仙は「ありがとうございます!」と返し、近くの民家へと消えていった。
「あれが、鈴仙の本当の姿なのかもね」
「やっぱあの時はプレッシャーに押しつぶされてたんだな」
二人はそれぞれ呟くと、甘味処を目指し、再び歩き始めた。
面白かったです!
鈴仙も違う生き方を見つけられたようでよかったです