Coolier - 新生・東方創想話

守矢神社で□□□東風谷早苗の□□□

2022/09/02 11:24:10
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『博麗神社 夏祭り〜灯〜』
その記事を見て、何度目かのため息をつく。最近博麗神社は異変解決はもちろんのこと、イベント、宣伝、御守りなどの販売活動全般、上手くいきはじめているようである。
最初の頃は、「またすぐにボロがでるだろう。霊夢さんだし。」で済ませていたが、今ではもう結構な月がたっている。
「はぁ……霊夢さんはいつもだらけているから、こういう時怖いんですよね……。異変解決の専門家2人と山の仙人、河童や天狗まで味方につけられ始めると、うちはやっていけないわ。」
私はというと、守矢神社の蔵にて、次のイベントのネタになるアイデアの模索をしていた。
博麗神社のケセランパサランの件を参考にして、「早苗ー、蔵の掃除してきて。」と諏訪子様にお願い(もとい命令)されたのだった。
「はぁ……まったく、霊夢さんがだらけているといっても、ここは普段から人里からのアクセスも悪いし、索道はたまに止まるし宣伝しにくいしーイベントの時も買い物の荷物ここまで運ぶの大変だしー……」
普段の不満をぶつくさと呟きながらもう何個目かになる箱を手にする。
「けほっけほっ……」
埃っぽいなぁもう……!
唸るような暑さとうるさい蝉の声も相まってだんだんとイライラしてくる。
この箱の中身は何?どうでもいいものなら即刻捨ててやるんだから!
かぱっと箱を開ける。
「わあ!!」
埃まみれの私の心はぱぁっと明るくなった。
「なつかしぃいい!」
目をキラキラさせて手に取った中身は『卒業アルバム』だった。
「うわぁ、懐かしい懐かしい!」
これは自室でゆっくり確認したい!
その欲に負けてか、「まぁ、あらかた掃除出来たでしょ。」と自分に対して事実を誤魔化すと、さっさと蔵を出ていった。



「ふわぁあ、燃える体育祭!憧れの文化祭!青春の修学旅行!涙の卒業式!!」
きゃいきゃいとページを捲るごとに歓声をあげる。
卒業証書を入れるアレで きゅっぽん したなぁ。
「あれぇ、早苗もう蔵の掃除終わったのー?」
自室の襖の外から諏訪子様の声が聞こえる。
「掃除ですかー?しましたよ。」
終わったの?という問に対して「しましたよ。」と返す。
嘘ではない。誠である。
「入るよ。」
カラカラと襖が開く。
「おおー!……何それ。」
入ってすぐ歓声を上げた割に、卒業アルバムを卒業アルバムとして認識してなかったらしい。
「中学の頃の卒アルですよ!懐かしいなぁー!!」
「あー。そういうことね。」
諏訪子様は私の隣に座ると、パラパラとアルバムを捲り始める。
「早苗はどこにいるの?」
「えっと、わたしは3Bだったので……ここです。」
クラスの集合写真をとりあえず示す。
「早苗が制服着てるの久々に見たよ。」
感慨深そうに私の写っているところを凝視する。
「えーと、あれないの?旅行とか。」
「修学旅行のことですか?修学旅行はここです。」
自分が載っている修学旅行のページを見せる。
京都で宇治抹茶パフェを食べている私、お寺で座禅をくんでいる私、友達とお揃いの鹿の被り物を買って、カメラにピースをする私。
「おー、楽しくやってんねぇ。この頃に戻りたいなーとかないの?」
修学旅行の次は野活を確認して、アルバムを閉じた。
「…………まぁ、私はどうだっていいんです。」
ん?と言いながら諏訪子様が帽子を脱ぐ。
「だって、戻ってももう誰も私の事なんか覚えてないんですから。ここに写ってる友達も、先生も、……思い出も。みんなが持ってるアルバムには私はいないんです。戻っても、きっともう幻想入りした私を覚えていないんですよ。」
「……そっかぁ。」
諏訪子様は立ち上がって襖に手をかける。
「じゃあ、お邪魔したねー。…………みんなと一緒の思い出を、早苗はまだ持ってるよ。」
「……え?」
みんなと一緒の……思い出?
「じゃあねー。」
「ちょ!ちょっと!?諏訪子様あぁ!」
ぱたん、と襖は閉じられた。
……みんなと一緒の思い出かぁ…。
記憶じゃないなら、物とか?
物……物……。
物と言えば、魔理沙かな。



「うえぇ、ジメジメしてる……」
「人ん家来といてその発言はないだろ!」
魔理沙はお茶を持ってきながらそう言った。
そう、わたしは霧雨魔法店に出向いていた。
もちろんその思い出の物はなんだと思うかと聞く用件でだ。
「んで?思い出のものが何かを知りたくてここまでやってきた、と。」
「はい。諏訪子様は何を考えているのか……」
「はは、まぁ探すことに意味があるってことなんじゃないのか?アイツ流の教育方針なんだろ。」
魔理沙は椅子に腰掛けた。
「んー、でもなぁ。その手のものは私はよく分からないんだよなぁ。外の世界にしか無いものだとすれば、入手しずらいだろうし……。しかも学校だとすると魔力だばだばのマジックアイテムでも無さそうだな。」
魔力だばだば…………。
顎に手を当てて考えているところ、魔理沙は本気で考えているのだろう。
「うーん、私が学校にいる時はそんな魔力溜まってそうなものは手をつけてないですね。」
「だとしたら、誕生日とか、入学とか卒業とか、めでたい時に貰うものとかじゃないか?」
貰うもの……?
「貰うものじゃなくていい、作る物とかもあるかもしれない。」
「作るものであるなら、そんなに技術を要さないものですよね。」
技術を要さない、作り物……。貰い物の場合、食べ物ではないな。
「あるいは……、実態の無いものの場合だってある。」
「というと?」
「例えば、言葉とかだな。早苗が先生に何か言葉を言ったとしよう。その言葉を先生が他の生徒に言ったとすれば、その他の生徒は『先生の言葉』として認識するだろ?だから、間接的に早苗が関わった“何か”かもしれない。」
私が間接的に関わった何か……。
「なら、逆の場合だってありえますよね。」
「逆?」
「私が誰かに言われた言葉で、その誰かは、『誰に言ったかは覚えてないけど、言った記憶はある。』という状態の可能性です。」
言葉関連でいくと、そんなところだろうか。
「けど、その早苗の案だとすると、皆と一緒のなにか、と言うよりは誰か単体と共有した何かになりそうだよな。」
「あーーー。」
確かにその通りである。
なんだか頭がこんがらがってくる。
「まぁ、私から出せる案はこのくらいかな。物だと、咲夜も蒐集癖があるからな。咲夜に聞いてみるといいかもしれない。」
「分かりました。ありがとうございます。」
咲夜さんか。確かに、紅魔館は色々と外の世界のものなんかもあるし、実際に外の世界にいたことがある咲夜さんに聞くのもいいかもしれない。
次に向かうのは、紅魔館!



「思い出ですか。」
私は紅魔館に出向いて咲夜さんに事情を説明した。
「あなたがこっちに来るなんて、何があったのかと思えば...。思い出ねぇ。思い出...」
わざわざ仕事を止めてもらってまで話を聞いてくれているからか、若干罪悪感が湧く。
「私、学校行ったことないのよね。だからなにがあるのか...。」
「そうですよねぇ.........。」
「あなたが1番大切にしていたものが詰まっているような...、寄せ書きとかないの?」
寄せ書き!確かに寄せ書きの文章は残っているかもしれない。
「あ...けど、みんなと一緒の思い出ではないわね。」
確かに、それだと私だけが持っている思い出というような気がする。
「そもそも、博麗大結界は人工的に作られたものであるとか、自然以外のものを分ける境目だから、あなたが持っていたとしても、その物単体は忘れられているでしょうね。」
うーん、物じゃないものかぁ...
「じゃあやっぱり言葉とかなのでしょうか...」
「言葉ねぇ...、言葉も、貴方という存在がいなかったということになっているのならば、あなたと過ごした記憶も無くなってるのでしょうね。」
うーーーん、じゃあなにがあるの...?
「もしかしたら、現実世界に置いてきている物で、あなたはもう持っていないものかもしれないわ。」
...けど、諏訪子様は持っているもの、と言っていたけど...。
「みんなとの物理的な.....。」
2人で数分間頭を悩ませる。
沈黙の後、咲夜さんが先に口を開いた。
「けど、鵜呑みにするほど悲しいものもないのよ?」
どういうこと...?
「貴方がそう思っていなかったとしても、諏訪湖にはあなたが淋しそうにしていたように見えたのかもしれない。もしかすると、ただの慰めで言った言葉だった、という可能性だってあるの。まだ皆との思い出がある、なんて甘い言葉を全て鵜呑みにするのは危険よ。それでもまだその思い出を追いかけるなら、相応の覚悟が必要なの。」
「っ...」
私が逃避していた可能性を目の前に出されて頭が痛くなる。
「そもそも、博麗大結界という絶対的な理の抜け道を探そうだなんて、貴方がしようとしていることも大概よ?まぁ、気持ちが分からないでもないけれど...」
「...分かりました。ありがとうございます。」
咲夜さんはお礼を言う私のことをしばらく見つめた後、
「......宇佐美菫子。彼女ならいいアドバイスをくれるんじゃないかしら。相変わらずの昼夜逆転生活で、さっき博麗神社で見かけたわ。私はそろそろ仕事に戻るから。」
そう言って目の前から姿を消した。
宇佐美菫子。
彼女なら、知っているかもしれない。



「れーいーむーさーん」
博麗神社にて、彼女に声をかける。
「こんにちは。お守りは其方の列に......って!早苗じゃない!忙しいんだから退いてよね!営業妨害なら退治するわよ!」
営業スマイルから移り変わる怒涛の怒りに狼狽える。
「え、ええ?ご、ごごごめんなさい!?す、菫子さん来てませんか?」
「...菫子?菫子なら御神木あたりにいるわ。あ、お客さん、お守りですね。え、お子様が産まれたんですか!おめでとうございます!」
営業スマイル...。
あの霊夢さんも営業スマイルを学んだのね。
誰から学んだのかしら。
幻想郷の中ではもともと一応常識を持ち合わせている部類だったけど...。
それより、菫子さんを探さないと。
御神木か。行ってみよう!



「ははぁ、学校での思い出ですか。」
「はい。なにか学校で貰えたり作ったりする思い出ってありますか?」
私は御神木の下にいた宇佐美菫子に声をかけ、勝手に博麗神社の縁側に座っていた。
「うーん、1番マイナーなところでいくと、卒業証書、卒業アルバム、オルゴールあたりでしょうか。あとは制服自体ですとか。」
「オルゴール?」
「あれ、早苗さんの学校ではしませんでしたか?オルゴール制作です。オルゴールのメロディーをみんなで作って、それを発注するんですよ。それぞれのクラスの個性がでる、卒業前の人気の学校行事ですね。」
確かに、『音楽』という観点は頭から抜けていた。
「オルゴール、探してみようかしら。」
「ええ、いいと思いますよ。...早苗さんは、なんで思い出を探したいんですか?」
「...なんでって、それは諏訪子様が変なことを言い出したからで...。」
............違う。
楽しかったから。大好きだったから。みんなと笑いあった生活を、もう一度感じたかったから。
「...そんな大好きなみんなからのプレゼントっていう可能性もありますよ。」
「プレゼント...?」
「そう。プレゼント。もしかしたら、クラスぐるみで早苗さんにプレゼントをくれていたのかもしれません。」
「そんな大掛かりなことあるのかしら...。」
クラスぐるみ、かぁ。
全然思いつかない。
「とにかくオルゴール、聞いてみてはどうでしょう。早苗さんが作ったメロディーが残っている可能性がありますよ。」

私が作った、メロディー!!
あるかもしれない。
「菫子さん、ありがとう。もう一度帰ってみる。私の思い出の幻想に!!」



ない、ない、ない、ない。
もう一度守矢神社に帰ってきて、蔵の中を探している。
オルゴール。
色んな箱を出してはしまい、しまっては出す。
「ううん...ない...。きゃ!」
どん、と後ろの棚に体をぶつけてしまう。

♬*.*・゚ .゚・*.

「...いま、音が...ならなかった...?」
おそるおそる棚を開く。

♬*.*・゚ .゚・*.•*¨*•.¸¸♪.•*¨*•.¸¸♬♪。.:*・゜♪。.:*・゜

「...オルゴール...。」
中で小さく、オルゴールがなっていた。
私が棚にぶつかった衝撃で、音がなったようだ。
けど、すぐに音は止まってしまう。
「こんな所にあったんだ...」
クルクルとゼンマイを回す。

カチカチ、カチチチ...

♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜•*¨*•.¸¸♪.•*¨*•.¸¸♬♫

次々とメロディーが流れ出す。
確か、一人一人ワンフレーズを楽譜に書き込んで作った音楽だったはず。
もし、流れるなら。もし、幻想のベールに隠されていなければ。もし...、みんなとまだ私が繋がれるなら、次のフレーズで...!

︎︎ᕷ♪。.:*『*♬೨...♪*゚♬*‎⋆ 』♬・ .゚・*.

「...っ!」
今の、フレーズ。
私のオルゴールのメロディー。



「はーーーい!号外だよーーー!」
人里で、天狗の新聞が撒かれる。
「守矢神社で音樂祭だーーー!」
『神聖な音楽集めてます。』
そういった記事が1面で大々的に取り上げられている。
そんななか、人里にて早苗による宣伝活動も行われていた。
「幻想なんて常識に囚われてはいけないのですよ」





「先生」
私は放課後、音楽室で音楽の先生を引き止めた。
「東風谷か。どうした?」
その先生は道銀(みちぎ)先生といった。
若い男性教諭で、いわゆるイケメンで、みんなからの人気者。
私は慕っていた。
幻想に消えるためでしかない想いだった。
話かける声が震えて、体が熱くなる。
「オルゴールのメロディーで、少し困っていて...。」
「ああ、オルゴールか。いまみんなで作ってるメロディーはどんな風になってるんだ?」
手に持っていた鞄から楽譜の入ったファイルを取り出し、手渡す。
「東風谷の担当はここのフレーズか。」
まだ空白のフレーズに印がつけられている。
「はい。この1つ前のフレーズが盛り上がってくるような感じなので...」
歌でいう、サビのようなフレーズを任されてしまっていた。
「この曲自体が長調だからなぁ。明るい感じでまとめたらいいと思う。もしくは卒業だから、切ないメロディーにしても合うと思うよ。」
作曲なんてやったことがなく、明るく、とか切なく、ではよく分からない。
「分からなかったら、今の東風谷がやりたいメロディーを書けばいいんじゃないかな。悲しいなら悲しいメロディーで、未来が楽しみなら楽しい音楽にすればいい。3Bのクラスのコンセプトは『想い』だっただろ?」
私が想う、私のメロディー...
「私は...寂しいです。みんなに会えなくなるから。」
あなたに会えなくなるから。
次の月が満ちるころ、私はみんなに忘れられてしまうから。
「じゃあ、少し転調するのもいいかもしれない。東風谷のフレーズを短調にして、綺麗なメロディーにすればいいんじゃないかな。」
他の曲を参考に聞いてみようかな。
「もし音の確認がしたかったら、そこのピアノ使っていいし、参考にしたい音楽があれば...」
先生はCD棚を漁って、ひとつのCDを取り出す。
「短調じゃないけど、ショパンのエチュード『別れの曲』これなら参考になると思う。」
ショパン エチュード Op.10-3 『別れの曲』
CDのジャケットには、そう記されていた。
「ありがとうございます。」
「CDならこれで聞けるから。俺、職員会議あるからちょっと行ってくる。またなんかあったらいつでも聞いて。東風谷のメロディー楽しみにしてるから。」
そう言って道銀先生は音楽室を後にした。
「別れの曲...」
私はCDを取り出して、先生の言っていた機械にいれる。
ぴかぴかと機械が光ったあと、音楽の再生ボタンを押す。
チカ、チカ、と音を立てて、機会の準備が進められる。
夕焼けに染まる音楽室で1人、『別れの曲』に期待が募る。
道銀先生が、薦めてくれたクラシック。
優しく曲が始まる。
次々と奏でられるメロディーは、深く心に沁みていく。
その場で床に座り込んで、曲に耳を傾ける。
「別れの、曲...」
ぽろぽろと目から涙が溢れ落ちる。
「忘れられたく、ないなぁ......」
涙をそのままにして、私は音楽を聴いた。
恐らく、この別れの曲が、このオルゴールのメロディーが、この世界で私の最後の思い出になるのだろう。
「...先生............」



音楽室は、いつまでも夕焼けと『別れの曲』に包まれた。
こんにちは、レアです。
まずは、この物語を見つけてくれて、ありがとうございます!
私自身、このお話の『思い出』を私も決めずに話を書き始め、オルゴールまで辿り着くのが大変でした。
最後の早苗の中学生時代に聞いていた『別れの曲』は、私も好きなクラシックで、切なくて綺麗なメロディーなのでぜひぜひ聞いてみてください!
では、「守矢神社で奏でる東風谷早苗のオルゴール」を読んでくださり、ありがとうございました!
この不定期投稿者を暖かい目で見守っていてください...!
レアちゃわんむし
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コメント



0.270簡易評価
3.90奇声を発する程度の能力削除
良かったです
4.100名前が無い程度の能力削除
良かったです。思い出を探す早苗さんも猪突猛進という感じで素敵でした。
7.100南条削除
面白かったです
オルゴールというテーマが早苗にマッチしていて読んでいて楽しかったです
すっと頭に入ってきました
8.100Actadust削除
思い出を探すという行為の原動力がどこにあるのか戸惑いながらも、それでも思い出を求めて突き進んだ早苗が良かったです。
10.100東ノ目削除
確かに音楽なら結界の垣根を超えた共通認識として遺りそうだなと思いました。良かったです。