妖精たちにとって音楽とは自然の音であった。
虫の声、風のささやき、雨の足音、そんな天然の楽器の奏でる音色は彼女たちにとって大きな楽しみであった。彼女たちはそんな音色に合わせて時折歌を歌った。作詞もなにもあったものではない。ただ思いつくままに、適当な言葉を意味が通るようにつなぎ合わせて歌を歌った。素朴と言えば聞こえが良いし、粗野といえば聞こえが悪い。そんな妖精たちの歌は人間たちにとっても季節の風物詩でもあった。
ある日のこと、一匹の妖精がみんなで歌を歌いたいと言い出した。妖精のうち一匹が指揮者を買って出た。滅茶苦茶な指揮に合わせて15匹ほどの妖精が集まり揃って声を上げる。てんでバラバラな歌声。それでも頑張って声を張り上げていると、一人の少女が近くを通りかかった。
「なんかうるさいわね……」
リリカ・プリズムリバーはやかましいその歌を聞いて顔をしかめた。無論彼女とて騒霊ではあるものの、やかましさの質が違う。がなりたてるようなその歌声はお世辞にも聞いていて心地の良いものではなかったからだ。耳を両の手で塞ぎながらその騒音の中心部へと歩み寄る。
「あんたたちなにやってんのよ」
「合唱してたんだ」
指揮者役の妖精が目をきらきらさせながらそう告げた。
「あのねえ……合唱というのは声量だけじゃなくて技術もいるのよ。あんたたちみたいに技術もないのに合唱と呼べるのかしら?」
分かったのか分かっていないのかよく分からない顔で指揮者役の妖精は首を傾げた。
どうやら音楽における技術というものがよく分かっていないらしい。
「まあいいわ。あんたたち、別にそこら辺で適当に歌うのは構わないけど私が通りかかるときぐらい静かにしてよね」
流石にそこまで言われると妖精いえどもむっとする。
「なによ、そこまで言わなくたっていいじゃない」
「あら? 面白いじゃない、少しはうまくなろうって気になったの?」
ああだこうだと言い合っていると妖精がわらわらと集まってきた。
「どうしたの?」
「このお姉ちゃんが私達の合唱、下手くそだって」
ひどいひどいと言い合う中、一人の賢そうな妖精がおずおずと気まずそうに言った。
「でもさ、たしかにそのとおりかもしれないよ。私達って歌の練習なんてしたことなかったじゃない」
「そりゃまあそうだけど……」
指揮者役はそう言われ、そこでようやく少し恥ずかしそうな顔を見せた。
「指揮っていうのは一番難しいの。そうだ、あんたがリーダーになりなさい」
「リーダーってなんの?」
「決まってるでしょ? あんたたちで合唱団を組むのよ。そして今度の幻想郷音楽フェス、目指しなさい。私が伴奏と指導をしてあげるから」
最近姉たちも忙しく、なかなか三人揃って演奏ができない、だからただの暇つぶし。
妖精たちのことだ、すぐに嫌になって解散するだろう。
リリカにとってはそういう腹づもりだった。
「わかった。リリカさん、ちゃんと指導してね!」
指揮者役の妖精は嬉しそうにそう答えた。
さて、合唱の練習は楽しいことが何よりも好きな妖精たちにとってはひどく退屈でどこまでも苦痛なものだった。
発声練習に始まり、ピッチや声質をあわせる練習、それが終わるとパート練習。
もとより今まで好き勝手に歌ってきた者たちである。
こうやって人に聞かせるために練習をするということを彼女たちはしたことがなかった。
ある者はつまらなさに不平を言い、またある者は音を上げそうになった。
リリカは厳しかった。
少しでも妖精が手を抜こうとしようものならたちまち指導が入った。
実を言うと、最初の方は姉たち、特にメルランから受けた苛烈な指導を見様見真似でやっていただけだった。
もっともリリカの場合はそういうときはルナサが決まって助け舟を出してくれていた。
無論ルナサもリリカが手を抜くとメルランほどではないが厳しく接したのだが。
次女は分かっているのかどうか微妙だったが、長女は自分たちの存在理由が音楽ということを分かっていたからこそのそれであった。
「ちょっとそこ、声出てないわよ!」
「ああ、もう、何度いえばわかるの、そこは声を上げるんじゃなくて声を伸ばすの!」
「全然ハモってない! もう一度最初からやり直し!」
「リリカさんの鬼……悪魔……人でなし……」
そんなことを呟く妖精もいた。
ある日のこと、一匹の妖精が合唱の練習に来なかった。
「あの子、どうしたの?」
「ごめんなさい、リリカさん、私もよく知らないの」
その妖精と一番仲が良かった妖精はそう答えた。
「どうするの? あの子抜きで練習する?」
リリカの問いかけに指揮者役の妖精は思案する。
「うーん、でもやっぱり気になる。ねえ、リリカさん、あの子の住んでるところに行ってきてもいい?」
「そりゃまあ、大丈夫だけど」
「ごめんなさい、ちょっと待っててね」
その妖精が住んでいるのは湖のほとりにある、大きな木の中だった。
彼女と仲の良い妖精と指揮者役の妖精が二匹でその住処に訪れる。
「どうしたのさ、練習こないから心配したよ」
「私、あんたと一緒じゃないとつまらないの。ただでさえリリカさん、鬼なのに」
そう告げられた妖精はきまりの悪い顔をした。
「……だって私、歌、下手だもの」
「下手? そりゃ最初はみんな下手だよ。私だって最近やっと、少し形になった指揮ができるようになってきたというのにさ」
「みんなに迷惑かけたくないもの……私抜きで歌ってよ……」
「あんたいないと始まらないじゃない……」
仲の良い妖精はそう告げるけれども、その妖精はどうしても首を縦に振らなかった。
「わかったよ。あんたぬきでやるからさ」
仲の良い妖精はため息を付いた。彼女がここまで言うのだから仕方がない、無理矢理にでもそう思うことにした。
さて、リリカが鼻歌を歌いながら楽器を磨いていると、固い顔をしたメルランがやってきた。
「リリカさ、音楽フェスの件、あんた、妖精たちに合唱の指導してるって聞いたけど」
「え、ええと……まあ、あれは期限付きって感じで……」
明後日の方向を見るリリカに対して、メルランの目つきが鋭くなったのがリリカは分かった。
いつもの目だ。私に対して厳しく接するときのあの目。
「……ねえ、リリカ。はっきり言ったらどう? 私達と今度の音楽フェス、やりたくないんじゃないの?」
「ええっと……」
「どうしたの?」
ああ、なんてことだ。一番上の姉までやってきてしまった。
「いやね、リリカが……」
「ああ、もう、わかった! わかった! 私から言うから! そうだよ! 私は今回は姉さんたちとはやらないから!」
「どうしたのさ、急に。そんなに私達とやりたくないの?」
ルナサは首をかしげる。
「そうさ! 私だって姉さんたちに頼らなくったって一人でやれるんだから!」
その調子に二人は驚いたようだった。あの妹が自分たちにこれほど強く主張するのを二人は見たことがなかった。
「……本当に良いの? リリカ?」
ルナサは恐る恐るそう尋ねた。
「ふーん、あんた一人であの下手くそ共をまとめようっていうんだ。やってみたら? 別に期待はしてないけど」
「な、なによ! あいつらは下手くそなんかじゃないし、私だってやればできるんだから!」
「まあいい。そこまで言うんだったらやってみたら良いと思うよ。私達だってリリカ抜きなのは結構きついものがあるけど、こちらも一切手は抜かない」
ルナサはリリカにそう静かに告げた。
「わかったわよ、姉さん! 姉さんたちになんて絶対負けないんだからさ!」
「最近のリリカさん、なんか随分と熱が入ってない?」
「うん、前々から一生懸命やってくれてるとは思っていたけど」
妖精たちは練習の休み時間にそんなことをつぶやきあった。
リリカが熱心に指導してくれるのは確かにありがたい、しかし頑張り過ぎではないだろうか、そう思ったのだ。
無論リリカを鬼、悪魔、人でなし呼ばわりしていたわけではある。しかし、彼女たちもだんだんと手の抜き方を覚えてきた。
そしてその手抜きをリリカは見抜けていないのだ。
リリカさんらしくない、妖精たちはそう思わざるをえなかった。
「こんにちは」
「ごめんね、いつも」
「ううん、別に」
彼女が来なくなって一週間ほど経ったにも関わらず、今日も今日とて仲の良い妖精は彼女のところに訪れて合唱の様子についてひとしきり話した。
「へえ、そうなんだ」
「私、ちょっと心配なの」
「心配って?」
「リリカさんも周りがよく見えてないみたいだし、それをいいことにみんな手を抜き始めているし、こんなので音楽フェス、うまくいくのかな……」
「…………」
来ていない妖精の方は俯かざるを得なかった。
無論音楽フェスでの成功を願っていないわけではない。しかし、練習にも参加していない自分にそんなことを思う資格があるとはとても思えなかった。
「まあいいや。気が向いたらまた練習きなよ」
「うん、ありがとう」
仲の良い妖精の方は彼女にじゃあね、と告げて外に出ていった。
後には彼女一人が残された。
心配だった。
思えばほころびの始まりは自分が休みがちになってからだったような気がする。
それが回り回ってこんなふうになっているのではないだろうか?
確かに自分は歌が下手だ。だけど、練習に参加している間、手を抜くことは決してしなかった。
もとより自分が休みがちになったのも、手抜きができなかったからだ。
……少し自己練習をしてみようかな、そう思い、彼女はリリカに教えてもらったとおりに発声練習を始めた。
翌日も、その翌日も、そのまた翌日も、彼女は遅くまで練習を続けていた。
「おはよう、みんな」
リリカや他の妖精が来るよりもずっと早く、彼女は練習の場に来ていた。
「どうしたの? 随分と久しぶりに来たじゃない」
「やっぱり、私も練習参加したいな、って思ってさ」
「まあいいけど……練習随分と先に進んじゃったけど大丈夫?」
それを聞いた彼女は、おもむろに口を開き、声を紡ぎ始めた。
皆息を呑んだ。
練習の手を抜いていた自分たちではその音色は到底出すことができないだろうと思わされた。
ひとしきり歌い終えると、拍手の音まで聞こえてきた。
「すごーい! 休んでたのにこんなに上手だなんて!」
「……恥ずかしくないの?」
「え?」
「私、休んでたんだよ? だけど一人で練習した。みんなで一緒にやってたのに、なんで私より下手なの?」
「そ、それは……」
「ねえ、まだフェスには間に合うからさ、手を抜かずにやってみようよ。いっそのこと、優勝しようよ。だってそうじゃないと、何よりも練習が、歌が、楽しくないじゃない。私達、楽しいことが好きなんだからさ」
楽しいこと。もしかしたらそれは一番最初に合唱をしようと言い始めたときの、あの耳障りな歌なのかもしれない。
だけど人に聞いてもらってその歌が感動を呼び起こしたら、きっと歌だけでなく、歌ってきたこと、練習してきたことが光り輝くのではないか。ある妖精はそう思った。
「……そうだね」
「うん、あんたの言う通り。だいたい手を抜いても楽しくないんだもの」
「ごめんね、私、ああ言ったけど、別に嫌ならいいよ」
しかしそれを聞いてだれも抜けるものはいなかった。
自分たちが手を抜いていたことを指摘されて恥ずかしく感じられたし、だからこそ負けたくない、という思いが強くなったのだった。
その日の練習ですぐにリリカは違和感を覚えた。
いつもはどこか気の抜けたような歌い方で、自分も姉にああ言われた頃こそ、姉たちに負けるかと熱心にやっていたけれども、そのうち妖精に期待しても仕方がないと半ば諦めたのだが、今日は違った。
皆一生懸命に歌っている。
もちろん、だからといって別に特別に上手いわけではない。
むしろそれは最初の頃のがなりたてるような声に近かった。
それでも、妖精たちにはやる気が感じられた。
一旦リリカは演奏を止めた。
「……どうしたの? 今日のあんたたち、随分とやる気があるじゃない」
「リリカさん、私達、楽しく歌いたいんだ。そのためにフェスで優勝を目標にしたい」
「楽しく? 優勝?」
「うん、だからさ、指導、ちゃんとしてほしい。ごめんね、今までちゃんとできなくて」
「…………」
妖精にこんなことを言われるなんて少し恥ずかしかった。
いや、たかが妖精だと舐めてかかっていたのだろう。
思えば姉が自分に熱心に指導してくれていたのも、きっとそこに自分なら応えてくれるという期待があったからだ。
期待が裏切られるほど辛いことはない。
だったら最初から期待しなければよい。
そんなことを思い、妖精だから仕方ない、と期待するのをやめた。
だけど自分は宙ぶらりんだった。
負けたとき、自分はどうするのだろうか?
きっと妖精たちが一生懸命練習しなかったからだ、と思っただろう。
「……わかった。練習は厳しくなる。あんたたち、覚悟しなさい」
妖精たちは黙ってうなずいた。
確かにその言葉通り、練習は厳しくなった。
だけどリリカが大声を上げたりするようなことは少なくなった。
それはリリカの指示に妖精たちがなんとか合わせようとするようになったからだ。
妖精たちも、厳しい指導が自分たちのためを思ってだということにようやく気づいたのだった。
音楽フェス前日。
「はい、これで練習はすべて終わり」
「ありがとう! リリカさん」
「ねえ、私達、優勝できるかな?」
「きっとできるわよ。練習通りにやったなら」
リリカは妖精たちに優しくそう語りかけた。
その言葉に偽りはなかった。
妖精たちは自分の期待に応えてくれた。
嬉しいことだったし、ここまで来れたのも彼女たちが頑張ったおかげだと思った。
だからこそ、彼女たちに表彰のときの景色を見せてやりたい。
そう思うのだった。
当日。
命蓮寺の敷地内で行われる音楽フェスは大盛況だった。
妖精たちは普段、そこまで大勢の人間を見ることがなかったので皆こわばっていた。
出場するのは全部で12組。
妖精たちのグループ「妖精合唱団なのはな」は最後から二番目である。
「あんたたち、緊張してる? 大丈夫よ、あんたたちなら。いままでやってきたことを思い出しなさい」
「ありがとう、リリカさん」
10組目の演奏が終わり、ステージに妖精たちが立つ。
「それでは次のグループは『妖精合唱団なのはな』です!」
幕が上がる。
練習のときにはなかった観客の視線を妖精たちは感じた。
やはり緊張する。
だけれども、各自がリリカの言葉を思い出していた。
しんと静まり返っていた。
その静寂を、リリカの演奏がそっと破っていった。
あるときあなたはいいました
明日は一体いつ来るのだろう
それで私はいいました
あなたが消えたらきっと来る
そのとき私も消えるでしょう
そのとき、リリカ・プリズムリバーは演奏を止めた。
後に残ったのはかすかな自然音だけであった。
しかし妖精たちは歌を止めなかった。
自然の音に合わせて歌詞を紡いでいく。
あなたが消えたその日には
あの日に植えた花が咲く
その日私は思い出す
あなたが一緒にいたことを
合唱が終わった後、しんと静まり返った。
その静寂は随分と長い間続いたように思われたが、次第に拍手が鳴り始め、そのうちどんどんと大きくなっていった。
拍手は静寂よりも長い間続いていたのを妖精たちもリリカもはっきりと感じた。
「やったね、リリカさん!」
「上手くいったわね。あんたたち、ちゃんと練習通りやれたじゃない」
リリカも妖精たちもほっとしていた。
今までやってきたことは無駄ではない、そう思えた。
拍手の音は今までの練習の成果を祝福してくれているように聞こえた。
あとは――相手がどれだけ食い下がるか、だ。
トリを飾るのは姉たちと堀川雷鼓だったのに今更気づいた。
「それでは結果発表です」
審査員が咳払いをし、マイクに顔を近づける。
「第三位は……「ザ・ミステリアスウィッチズ』!!」
「やったな! アリス!」
「魔理沙ったら……絶対に優勝するんだって言ってたんじゃないの?」
妖精たちとリリカの顔が緊張でこわばる。
「第二位は……『ホリズムリバー』!」
「やっぱりリリカ抜きだと厳しいものがあったね」
「姉さんはいつも以上に冴えていたというのにね」
妖精たちとリリカはいよいよ固唾を呑んで審査員長の方を見る。
「それでは発表します。第二回幻想郷音楽フェスティバル、栄えある優勝は…………『草の根音楽隊』!!」
妖精たちは皆泣いていた。
しくしくと泣くものもいれば声を上げて泣くものもいた。
あれだけみんなで頑張ったのに1位をとれなかった。
ベスト3にすら入れなかった。
それが妖精たちにとってはひどく悔しかった。
「あんたたち……よく頑張ったわね」
そんな妖精の頭を一匹ずつリリカは撫でてやった。
それでも泣き止む者はいなかった。
妖精たちの泣き声はどこまでも遠くこだましていた。
翌日、リリカは一人悔しくて泣いていた。
姉たちに啖呵を切ったのに、結果は足元にも及ばなかった。
自分一人で何かを成し遂げることができるなんて思ったのが馬鹿みたいだ。
自分はまだまだ未熟者なのだ。
そんなことが心の大部分を占めていた。
「リリカ」
メルランが泣いているリリカにそっと声をかけた。
「なんでもない……なんでもないったら……」
メルランは、涙を拭い顔をそむけるリリカを見て、ため息を付いた。
「……あの合唱、私はすごく好きだったわよ」
「姉さん、別にお世辞は……」
「あのねえ、この私ともあろうものが安っぽいお世辞なんて言うと思ってるの? だとしたら随分と舐められたものね」
気がつくと、一番上の姉も側にいた。
「雷鼓も言ってた。あの下手くそな連中を上手くまとめ上げて、あれだけ形になるまで持っていったのは本当にすごいって」
「ひっく……ありがとう……」
「ところでさ」
メルランが少しきまりが悪そうにつぶやいた。
「……?」
「あんたたち、あんまり悲しそうにしてるから審査員長も告げられなかったんだけど、これ、代わりに預かってきたから」
「これは……努力賞?」
「そ。まあ、慰めにもならないかもしれないけど、確かにあんたたちの合唱で心動かされた人もいるってこと、覚えておいてね」
「姉さん」
「?」
「あの子達にも見せてくるから。一番頑張ったのはあいつらだからさ」
妖精たちにとって音楽とは自然の音であった。
虫の声、風のささやき、雨の足音、そんな天然の楽器の奏でる音色は彼女たちにとって大きな楽しみであった。彼女たちはそんな音色に合わせて時折歌を歌った。彼女たちの歌が大きく上達したことに気づくものはあまりいなかった。だけれども、誰も彼も季節が変わるたびにその歌を楽しみとするのだった。
「ね、リリカさん」
「今度の音楽フェスは負けないから!」
リリカはやれやれ、といった感じで微笑んだ。
今度は歌だけではなく楽器も教えてやらなければと思った。
望むところだ。
私ももっと精進しなければな。
そんなこともリリカは思うのだった。
虫の声、風のささやき、雨の足音、そんな天然の楽器の奏でる音色は彼女たちにとって大きな楽しみであった。彼女たちはそんな音色に合わせて時折歌を歌った。作詞もなにもあったものではない。ただ思いつくままに、適当な言葉を意味が通るようにつなぎ合わせて歌を歌った。素朴と言えば聞こえが良いし、粗野といえば聞こえが悪い。そんな妖精たちの歌は人間たちにとっても季節の風物詩でもあった。
ある日のこと、一匹の妖精がみんなで歌を歌いたいと言い出した。妖精のうち一匹が指揮者を買って出た。滅茶苦茶な指揮に合わせて15匹ほどの妖精が集まり揃って声を上げる。てんでバラバラな歌声。それでも頑張って声を張り上げていると、一人の少女が近くを通りかかった。
「なんかうるさいわね……」
リリカ・プリズムリバーはやかましいその歌を聞いて顔をしかめた。無論彼女とて騒霊ではあるものの、やかましさの質が違う。がなりたてるようなその歌声はお世辞にも聞いていて心地の良いものではなかったからだ。耳を両の手で塞ぎながらその騒音の中心部へと歩み寄る。
「あんたたちなにやってんのよ」
「合唱してたんだ」
指揮者役の妖精が目をきらきらさせながらそう告げた。
「あのねえ……合唱というのは声量だけじゃなくて技術もいるのよ。あんたたちみたいに技術もないのに合唱と呼べるのかしら?」
分かったのか分かっていないのかよく分からない顔で指揮者役の妖精は首を傾げた。
どうやら音楽における技術というものがよく分かっていないらしい。
「まあいいわ。あんたたち、別にそこら辺で適当に歌うのは構わないけど私が通りかかるときぐらい静かにしてよね」
流石にそこまで言われると妖精いえどもむっとする。
「なによ、そこまで言わなくたっていいじゃない」
「あら? 面白いじゃない、少しはうまくなろうって気になったの?」
ああだこうだと言い合っていると妖精がわらわらと集まってきた。
「どうしたの?」
「このお姉ちゃんが私達の合唱、下手くそだって」
ひどいひどいと言い合う中、一人の賢そうな妖精がおずおずと気まずそうに言った。
「でもさ、たしかにそのとおりかもしれないよ。私達って歌の練習なんてしたことなかったじゃない」
「そりゃまあそうだけど……」
指揮者役はそう言われ、そこでようやく少し恥ずかしそうな顔を見せた。
「指揮っていうのは一番難しいの。そうだ、あんたがリーダーになりなさい」
「リーダーってなんの?」
「決まってるでしょ? あんたたちで合唱団を組むのよ。そして今度の幻想郷音楽フェス、目指しなさい。私が伴奏と指導をしてあげるから」
最近姉たちも忙しく、なかなか三人揃って演奏ができない、だからただの暇つぶし。
妖精たちのことだ、すぐに嫌になって解散するだろう。
リリカにとってはそういう腹づもりだった。
「わかった。リリカさん、ちゃんと指導してね!」
指揮者役の妖精は嬉しそうにそう答えた。
さて、合唱の練習は楽しいことが何よりも好きな妖精たちにとってはひどく退屈でどこまでも苦痛なものだった。
発声練習に始まり、ピッチや声質をあわせる練習、それが終わるとパート練習。
もとより今まで好き勝手に歌ってきた者たちである。
こうやって人に聞かせるために練習をするということを彼女たちはしたことがなかった。
ある者はつまらなさに不平を言い、またある者は音を上げそうになった。
リリカは厳しかった。
少しでも妖精が手を抜こうとしようものならたちまち指導が入った。
実を言うと、最初の方は姉たち、特にメルランから受けた苛烈な指導を見様見真似でやっていただけだった。
もっともリリカの場合はそういうときはルナサが決まって助け舟を出してくれていた。
無論ルナサもリリカが手を抜くとメルランほどではないが厳しく接したのだが。
次女は分かっているのかどうか微妙だったが、長女は自分たちの存在理由が音楽ということを分かっていたからこそのそれであった。
「ちょっとそこ、声出てないわよ!」
「ああ、もう、何度いえばわかるの、そこは声を上げるんじゃなくて声を伸ばすの!」
「全然ハモってない! もう一度最初からやり直し!」
「リリカさんの鬼……悪魔……人でなし……」
そんなことを呟く妖精もいた。
ある日のこと、一匹の妖精が合唱の練習に来なかった。
「あの子、どうしたの?」
「ごめんなさい、リリカさん、私もよく知らないの」
その妖精と一番仲が良かった妖精はそう答えた。
「どうするの? あの子抜きで練習する?」
リリカの問いかけに指揮者役の妖精は思案する。
「うーん、でもやっぱり気になる。ねえ、リリカさん、あの子の住んでるところに行ってきてもいい?」
「そりゃまあ、大丈夫だけど」
「ごめんなさい、ちょっと待っててね」
その妖精が住んでいるのは湖のほとりにある、大きな木の中だった。
彼女と仲の良い妖精と指揮者役の妖精が二匹でその住処に訪れる。
「どうしたのさ、練習こないから心配したよ」
「私、あんたと一緒じゃないとつまらないの。ただでさえリリカさん、鬼なのに」
そう告げられた妖精はきまりの悪い顔をした。
「……だって私、歌、下手だもの」
「下手? そりゃ最初はみんな下手だよ。私だって最近やっと、少し形になった指揮ができるようになってきたというのにさ」
「みんなに迷惑かけたくないもの……私抜きで歌ってよ……」
「あんたいないと始まらないじゃない……」
仲の良い妖精はそう告げるけれども、その妖精はどうしても首を縦に振らなかった。
「わかったよ。あんたぬきでやるからさ」
仲の良い妖精はため息を付いた。彼女がここまで言うのだから仕方がない、無理矢理にでもそう思うことにした。
さて、リリカが鼻歌を歌いながら楽器を磨いていると、固い顔をしたメルランがやってきた。
「リリカさ、音楽フェスの件、あんた、妖精たちに合唱の指導してるって聞いたけど」
「え、ええと……まあ、あれは期限付きって感じで……」
明後日の方向を見るリリカに対して、メルランの目つきが鋭くなったのがリリカは分かった。
いつもの目だ。私に対して厳しく接するときのあの目。
「……ねえ、リリカ。はっきり言ったらどう? 私達と今度の音楽フェス、やりたくないんじゃないの?」
「ええっと……」
「どうしたの?」
ああ、なんてことだ。一番上の姉までやってきてしまった。
「いやね、リリカが……」
「ああ、もう、わかった! わかった! 私から言うから! そうだよ! 私は今回は姉さんたちとはやらないから!」
「どうしたのさ、急に。そんなに私達とやりたくないの?」
ルナサは首をかしげる。
「そうさ! 私だって姉さんたちに頼らなくったって一人でやれるんだから!」
その調子に二人は驚いたようだった。あの妹が自分たちにこれほど強く主張するのを二人は見たことがなかった。
「……本当に良いの? リリカ?」
ルナサは恐る恐るそう尋ねた。
「ふーん、あんた一人であの下手くそ共をまとめようっていうんだ。やってみたら? 別に期待はしてないけど」
「な、なによ! あいつらは下手くそなんかじゃないし、私だってやればできるんだから!」
「まあいい。そこまで言うんだったらやってみたら良いと思うよ。私達だってリリカ抜きなのは結構きついものがあるけど、こちらも一切手は抜かない」
ルナサはリリカにそう静かに告げた。
「わかったわよ、姉さん! 姉さんたちになんて絶対負けないんだからさ!」
「最近のリリカさん、なんか随分と熱が入ってない?」
「うん、前々から一生懸命やってくれてるとは思っていたけど」
妖精たちは練習の休み時間にそんなことをつぶやきあった。
リリカが熱心に指導してくれるのは確かにありがたい、しかし頑張り過ぎではないだろうか、そう思ったのだ。
無論リリカを鬼、悪魔、人でなし呼ばわりしていたわけではある。しかし、彼女たちもだんだんと手の抜き方を覚えてきた。
そしてその手抜きをリリカは見抜けていないのだ。
リリカさんらしくない、妖精たちはそう思わざるをえなかった。
「こんにちは」
「ごめんね、いつも」
「ううん、別に」
彼女が来なくなって一週間ほど経ったにも関わらず、今日も今日とて仲の良い妖精は彼女のところに訪れて合唱の様子についてひとしきり話した。
「へえ、そうなんだ」
「私、ちょっと心配なの」
「心配って?」
「リリカさんも周りがよく見えてないみたいだし、それをいいことにみんな手を抜き始めているし、こんなので音楽フェス、うまくいくのかな……」
「…………」
来ていない妖精の方は俯かざるを得なかった。
無論音楽フェスでの成功を願っていないわけではない。しかし、練習にも参加していない自分にそんなことを思う資格があるとはとても思えなかった。
「まあいいや。気が向いたらまた練習きなよ」
「うん、ありがとう」
仲の良い妖精の方は彼女にじゃあね、と告げて外に出ていった。
後には彼女一人が残された。
心配だった。
思えばほころびの始まりは自分が休みがちになってからだったような気がする。
それが回り回ってこんなふうになっているのではないだろうか?
確かに自分は歌が下手だ。だけど、練習に参加している間、手を抜くことは決してしなかった。
もとより自分が休みがちになったのも、手抜きができなかったからだ。
……少し自己練習をしてみようかな、そう思い、彼女はリリカに教えてもらったとおりに発声練習を始めた。
翌日も、その翌日も、そのまた翌日も、彼女は遅くまで練習を続けていた。
「おはよう、みんな」
リリカや他の妖精が来るよりもずっと早く、彼女は練習の場に来ていた。
「どうしたの? 随分と久しぶりに来たじゃない」
「やっぱり、私も練習参加したいな、って思ってさ」
「まあいいけど……練習随分と先に進んじゃったけど大丈夫?」
それを聞いた彼女は、おもむろに口を開き、声を紡ぎ始めた。
皆息を呑んだ。
練習の手を抜いていた自分たちではその音色は到底出すことができないだろうと思わされた。
ひとしきり歌い終えると、拍手の音まで聞こえてきた。
「すごーい! 休んでたのにこんなに上手だなんて!」
「……恥ずかしくないの?」
「え?」
「私、休んでたんだよ? だけど一人で練習した。みんなで一緒にやってたのに、なんで私より下手なの?」
「そ、それは……」
「ねえ、まだフェスには間に合うからさ、手を抜かずにやってみようよ。いっそのこと、優勝しようよ。だってそうじゃないと、何よりも練習が、歌が、楽しくないじゃない。私達、楽しいことが好きなんだからさ」
楽しいこと。もしかしたらそれは一番最初に合唱をしようと言い始めたときの、あの耳障りな歌なのかもしれない。
だけど人に聞いてもらってその歌が感動を呼び起こしたら、きっと歌だけでなく、歌ってきたこと、練習してきたことが光り輝くのではないか。ある妖精はそう思った。
「……そうだね」
「うん、あんたの言う通り。だいたい手を抜いても楽しくないんだもの」
「ごめんね、私、ああ言ったけど、別に嫌ならいいよ」
しかしそれを聞いてだれも抜けるものはいなかった。
自分たちが手を抜いていたことを指摘されて恥ずかしく感じられたし、だからこそ負けたくない、という思いが強くなったのだった。
その日の練習ですぐにリリカは違和感を覚えた。
いつもはどこか気の抜けたような歌い方で、自分も姉にああ言われた頃こそ、姉たちに負けるかと熱心にやっていたけれども、そのうち妖精に期待しても仕方がないと半ば諦めたのだが、今日は違った。
皆一生懸命に歌っている。
もちろん、だからといって別に特別に上手いわけではない。
むしろそれは最初の頃のがなりたてるような声に近かった。
それでも、妖精たちにはやる気が感じられた。
一旦リリカは演奏を止めた。
「……どうしたの? 今日のあんたたち、随分とやる気があるじゃない」
「リリカさん、私達、楽しく歌いたいんだ。そのためにフェスで優勝を目標にしたい」
「楽しく? 優勝?」
「うん、だからさ、指導、ちゃんとしてほしい。ごめんね、今までちゃんとできなくて」
「…………」
妖精にこんなことを言われるなんて少し恥ずかしかった。
いや、たかが妖精だと舐めてかかっていたのだろう。
思えば姉が自分に熱心に指導してくれていたのも、きっとそこに自分なら応えてくれるという期待があったからだ。
期待が裏切られるほど辛いことはない。
だったら最初から期待しなければよい。
そんなことを思い、妖精だから仕方ない、と期待するのをやめた。
だけど自分は宙ぶらりんだった。
負けたとき、自分はどうするのだろうか?
きっと妖精たちが一生懸命練習しなかったからだ、と思っただろう。
「……わかった。練習は厳しくなる。あんたたち、覚悟しなさい」
妖精たちは黙ってうなずいた。
確かにその言葉通り、練習は厳しくなった。
だけどリリカが大声を上げたりするようなことは少なくなった。
それはリリカの指示に妖精たちがなんとか合わせようとするようになったからだ。
妖精たちも、厳しい指導が自分たちのためを思ってだということにようやく気づいたのだった。
音楽フェス前日。
「はい、これで練習はすべて終わり」
「ありがとう! リリカさん」
「ねえ、私達、優勝できるかな?」
「きっとできるわよ。練習通りにやったなら」
リリカは妖精たちに優しくそう語りかけた。
その言葉に偽りはなかった。
妖精たちは自分の期待に応えてくれた。
嬉しいことだったし、ここまで来れたのも彼女たちが頑張ったおかげだと思った。
だからこそ、彼女たちに表彰のときの景色を見せてやりたい。
そう思うのだった。
当日。
命蓮寺の敷地内で行われる音楽フェスは大盛況だった。
妖精たちは普段、そこまで大勢の人間を見ることがなかったので皆こわばっていた。
出場するのは全部で12組。
妖精たちのグループ「妖精合唱団なのはな」は最後から二番目である。
「あんたたち、緊張してる? 大丈夫よ、あんたたちなら。いままでやってきたことを思い出しなさい」
「ありがとう、リリカさん」
10組目の演奏が終わり、ステージに妖精たちが立つ。
「それでは次のグループは『妖精合唱団なのはな』です!」
幕が上がる。
練習のときにはなかった観客の視線を妖精たちは感じた。
やはり緊張する。
だけれども、各自がリリカの言葉を思い出していた。
しんと静まり返っていた。
その静寂を、リリカの演奏がそっと破っていった。
あるときあなたはいいました
明日は一体いつ来るのだろう
それで私はいいました
あなたが消えたらきっと来る
そのとき私も消えるでしょう
そのとき、リリカ・プリズムリバーは演奏を止めた。
後に残ったのはかすかな自然音だけであった。
しかし妖精たちは歌を止めなかった。
自然の音に合わせて歌詞を紡いでいく。
あなたが消えたその日には
あの日に植えた花が咲く
その日私は思い出す
あなたが一緒にいたことを
合唱が終わった後、しんと静まり返った。
その静寂は随分と長い間続いたように思われたが、次第に拍手が鳴り始め、そのうちどんどんと大きくなっていった。
拍手は静寂よりも長い間続いていたのを妖精たちもリリカもはっきりと感じた。
「やったね、リリカさん!」
「上手くいったわね。あんたたち、ちゃんと練習通りやれたじゃない」
リリカも妖精たちもほっとしていた。
今までやってきたことは無駄ではない、そう思えた。
拍手の音は今までの練習の成果を祝福してくれているように聞こえた。
あとは――相手がどれだけ食い下がるか、だ。
トリを飾るのは姉たちと堀川雷鼓だったのに今更気づいた。
「それでは結果発表です」
審査員が咳払いをし、マイクに顔を近づける。
「第三位は……「ザ・ミステリアスウィッチズ』!!」
「やったな! アリス!」
「魔理沙ったら……絶対に優勝するんだって言ってたんじゃないの?」
妖精たちとリリカの顔が緊張でこわばる。
「第二位は……『ホリズムリバー』!」
「やっぱりリリカ抜きだと厳しいものがあったね」
「姉さんはいつも以上に冴えていたというのにね」
妖精たちとリリカはいよいよ固唾を呑んで審査員長の方を見る。
「それでは発表します。第二回幻想郷音楽フェスティバル、栄えある優勝は…………『草の根音楽隊』!!」
妖精たちは皆泣いていた。
しくしくと泣くものもいれば声を上げて泣くものもいた。
あれだけみんなで頑張ったのに1位をとれなかった。
ベスト3にすら入れなかった。
それが妖精たちにとってはひどく悔しかった。
「あんたたち……よく頑張ったわね」
そんな妖精の頭を一匹ずつリリカは撫でてやった。
それでも泣き止む者はいなかった。
妖精たちの泣き声はどこまでも遠くこだましていた。
翌日、リリカは一人悔しくて泣いていた。
姉たちに啖呵を切ったのに、結果は足元にも及ばなかった。
自分一人で何かを成し遂げることができるなんて思ったのが馬鹿みたいだ。
自分はまだまだ未熟者なのだ。
そんなことが心の大部分を占めていた。
「リリカ」
メルランが泣いているリリカにそっと声をかけた。
「なんでもない……なんでもないったら……」
メルランは、涙を拭い顔をそむけるリリカを見て、ため息を付いた。
「……あの合唱、私はすごく好きだったわよ」
「姉さん、別にお世辞は……」
「あのねえ、この私ともあろうものが安っぽいお世辞なんて言うと思ってるの? だとしたら随分と舐められたものね」
気がつくと、一番上の姉も側にいた。
「雷鼓も言ってた。あの下手くそな連中を上手くまとめ上げて、あれだけ形になるまで持っていったのは本当にすごいって」
「ひっく……ありがとう……」
「ところでさ」
メルランが少しきまりが悪そうにつぶやいた。
「……?」
「あんたたち、あんまり悲しそうにしてるから審査員長も告げられなかったんだけど、これ、代わりに預かってきたから」
「これは……努力賞?」
「そ。まあ、慰めにもならないかもしれないけど、確かにあんたたちの合唱で心動かされた人もいるってこと、覚えておいてね」
「姉さん」
「?」
「あの子達にも見せてくるから。一番頑張ったのはあいつらだからさ」
妖精たちにとって音楽とは自然の音であった。
虫の声、風のささやき、雨の足音、そんな天然の楽器の奏でる音色は彼女たちにとって大きな楽しみであった。彼女たちはそんな音色に合わせて時折歌を歌った。彼女たちの歌が大きく上達したことに気づくものはあまりいなかった。だけれども、誰も彼も季節が変わるたびにその歌を楽しみとするのだった。
「ね、リリカさん」
「今度の音楽フェスは負けないから!」
リリカはやれやれ、といった感じで微笑んだ。
今度は歌だけではなく楽器も教えてやらなければと思った。
望むところだ。
私ももっと精進しなければな。
そんなこともリリカは思うのだった。
妖精たちやリリカの陰をちょうど良く描き、晴れていくまでを丁寧に辿っていくところもとても良かったです。
ありがとうございました。
張り切っちゃってるリリカがかわいらしかったです
いっそ妖精の方が大人に見えて面白かったです
いつもは三女ということで「妹」としての立ち位置で見られる
彼女がお姉さん役になって妖精達を引っ張るという構図がとてもよかったです
王道を行く展開なのはよかったと思います。
リリカのコンプレックスの描き方も短くわかりやすかったのですが、
この話をやるにおいて個人的にとても重要だと思う要素、
妖精たちが上手くなろうとする理由、優勝を目指す理由が少し伝わってきませんでした。
音楽それ自体を楽しんでいたのにそこから上達を目指す切っ掛けはともかく、
その努力を継続するほどのものがいまいちつかめず、
かといってリリカの想いに影響を受けてという割にはそもそもリリカと妖精との話が若干薄く感じました。
頑張った姿はとてもうまく描写されていたのですが、
その頑張りの理由がもう少しほしかったです。