Coolier - 新生・東方創想話

白玉楼で綴る魂魄妖夢の日常。

2022/07/21 09:02:11
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りん、りん、と音が聞こえる。
それは、最近取り付けられた風鈴のものだった。
あぁ。もう起きないといけない。
「もう...すこし...ぃ」
そう言いながらも、仕事がそうはさせてくれない。
気だるさを吹き飛ばすようにばたばたと自分の布団を畳んで押し入れにしまっていく。
「そろそろ押し入れも整理した方がいいかも...。」
押し入れは上段と下段に分かれていて、下段に寝具をおさめているのだが、上段はほぼ物置状態だった。
子供の頃の服までおさめられているものだから、自分がびっくりする。
それら全て、胸元に 魂魄妖夢 と記された名札、バッチ、ゼッケンがついていた。すっと頬がほころぶ。
すっと押し入れを閉めると、部屋の端で畳まれた服に着替えていく。
「むー。私はどうもここが...」
サラシを巻く時、毎日のように胸に触れる。まるでまな板のよう...いや!もう少しはある...はず...。
「なんでかなぁ。」
否が応でも気分が下がっていくのを感じた。
よし。今日もサラシを多めに巻くことにした。
私の足元で畳まれていたものは、上から服、スカート、白の靴下、その隣に白い紐パンツ、私の手の中にサラシだった。
最近衣替えした服は真新しく綺麗で、冬物よりも色か鮮やかに見える。
衣替えのときは、巻きスカートにするか迷った末、履くタイプのスカートにした。
服を着てスカートと靴下を履くと、全身鏡で姿を確認する。
「大丈夫、そう。」
新調した服もピッタリで、下がっていた気分が吹き飛んでいった。
その場でくるん、くるんと回りながらもう一度鏡を見る。
「うーん、なにか忘れているような...」
顎に手を当てて、まじまじと自分の顔を見つめる。
「あ、リボン!」

✿*❀٭✿*❀٭✿*❀٭✿*❀٭✿*❀٭✿*❀٭✿*

「おはようございます、幽々子様。」
入りますよ、と声をかけて幽々子様の部屋の中にはいる。
部屋に入ると、ふわっといい香りがした。
「すぅ、すう。」と寝息を立てる幽々子はとても可愛らしく、いつも通りこのまま寝させてあげたい...と思ってしまう。
ううん、と頭をふって、もう一度声をかける。
「幽々子様、朝ですよー。」
とんとん、と幽々子様の布団を軽く叩くと、どこかうっすらと日本酒の香りがした。
「もう、幽々子様ったら昨夜は紫様と夜通しパーティーをなさられて...。お体にさわりますよ。」
「ふわぁ。妖夢、もうお酒は仕方ないの。」
紫が最高級とかいう日本酒を持ってくるのが悪いのよぉ。と言いながらうっすらと目を開ける。
妖夢は呆れながら、
「おはようございます。今日は空が綺麗ですよ。いま、障子を開けますね。」
「あー、いいのよ。眩しいから後で開けるわ。着替えてからご飯を頂くわ。」
幽々子がむくりと起き上がって、あくび混じりの伸びをする。
この方はどうして何をしても綺麗なのだろう、と頬が少し紅くなる。
「あら?妖夢どうしたの?」
「あ、いえ。なんでもないです!え、えーと、ここに服を置いておきましたので、また後で!」
「ふふ、さらし、多めに用意しておいた?」
寝巻きをずらして少し胸を見せる。
「あ、わわわ。」
今度は耳まで真っ赤にしてもたつく私を見て、幽々子様がころころと笑う。
もう、はしたないですよ、幽々子様。

幽々子の部屋を出た妖夢はまず台所に向かった。
朝ごはんはいつもは多めに作るのだが、今日は昨日のうちで行われた宴会が遅くまで続いたので軽めに作ることにした。
「えーっと、鮭ご飯と、お野菜と、お味噌汁...で、十分かなぁ。」
指をおって料理を数えていく。
台所の勝手口から外に出て、釜でお米を炊く。釜は水加減や時間などが非常に大切になってくるが、それを なぜか 毎日何人分もの炊飯をこなしていくうちに上達していった。幽々子様は釜で炊いたお米が大好きだ。そのせいか、なぜか何人分もの量になってしまう。
今では慣れた手つきでお米をたく準備をすると、火をつけて白玉楼の中に戻っていく。頭に三角巾をつけると、野菜を取り出して次々と切っていった。
「ううむ、人参とお芋がもうない...人里に買い出しに行かないと。」
サラダの中にいれた人参と、お味噌汁に使ったさつまいもでもうストックが切れてしまった。
人里に行くと咲夜に会えるかな...と思ってしまったところで、ダメダメ、と気持ちを切り替える。
紅魔館の方のレミリアは、やたらとうちにつっかかってくる節がある。それにともなってか、表面上は咲夜もうちに敵対的しているが、人里で会った時などは気さくに話かけてくれるため、本心は分からずじまいだ。幽々子様はレミリアの方はあまり気にかけていないようだが、主同士の関係が気にかかって、咲夜と話す時はいつも負い目を感じてしまう。本当は...咲夜と友達になりた......いやいや!!
「私もダメだなぁ。」
はぁ、とため息をつくと、昨日作り置きしておいたきゅうりの酢漬けを取り出して、小さな器に盛る。
お味噌汁の具材を揃えると、味噌を溶かしたりしながら温めていく。
ほかほかとお味噌汁から美味しそうな匂いがする。
度々ご飯の方も確認しながらお味噌汁を完成させたところで、居間から幽々子様の声がした。
「妖夢、ご飯はまだかしら。」
「すみません、そろそろご飯が炊けますので、少々お待ち下さい!」
大きめの声でそう答えると、急いでお野菜とお味噌汁、きゅうりの酢漬けを居間の机に並べに行く。
「あら、今日は量が少なめなのね。」
「昨日いっぱい食べられていたので、今日は全体的に少なめにしようと思っています。」
「むー。」
少し残念そうな顔をする幽々子様に、
「けど、今日は満月なので、お団子も作ろうかと思って。」
と告げる。
分かりやすく笑顔になった幽々子様を見て自然と笑いが出てくる。
「満月なんだから、今日もお酒、用意しておいてね?」


✿*❀٭✿*❀٭✿*❀٭✿*❀٭✿*❀٭✿*❀٭✿*
今日も人里は賑やかだった。
人里は子供からおじいちゃんおばあちゃんまで幅広く親しまれている。
何やらお店の影で妖精がコソコソやっているけど...。まぁ、どうせすぐ霊夢にバレて、叱られるでしょ。
妖夢は買い出しのメモを見ながら、次々と店に入っていった。
「むー。日本酒はどうしましょう。」
最後のお店を出たところで、メモとにらめっこをし始める。
「昨日もたくさん呑まれていましたし...。」
一応お店に行くだけ行って、いい日本酒があれば...、よし、そうしよう!
今日は1本だけと決めて再び歩き出した。
...と。
「きゃあああああああああああぁぁぁ!」
「わぁあああぁぁぁあ!」
「っ!」
人里のちょうど真ん中で、人だかりが出来ていた。悲鳴はそこからのようだった。
「強盗!?窃盗!?万引き!?どなたであろうと許しません!」
楼観剣を手に妖夢は走り出した。
隣を歩いていた男性が、「うおっ」と急に声を上げた。
「お嬢ちゃん、急に剣を出すと危ないよ。」
「あ、、はい......ごめんないさい......」
ぺこりと頭を下げる。
剣をしまうと、また走り出した。
「待ちなさぁあい!」
ようやく人だかりにたどり着く。
「中心はどこ?」
人混みをかき分けて進むと、中心には1人の女性が立っていた。
「って...咲夜!?」
「あら?」
咲夜は少し驚いた表情をみせる。
「あなたとうとう人を...!」
「なにか凄まじい勘違いをされている気がするのだけれど。」
咲夜はふぅ、と息を着くと、「お茶をしましょう。説明するわ。」そう言って、近くの団子屋を指さした。


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「ははぁ、そういうことだったんですね。」
むぐむぐと団子を頬張りながら妖夢はそういった。
団子屋の軒下の椅子に2人で腰掛けながら、咲夜は串の団子にきな粉を追加していた。
「そういうこと。まさか猫の怪我を治しただけで、ここまで注目されるとは思ってなかったわ。」
「『とっても深く傷をおっていた』猫を『能力を使って』治したんでしょう?」
ふふ、と笑って咲夜はもうひとつ団子を口に入れる。
まったく、この人、人里でいつもこんな感じなのかな。「そんなに安売りする能力じゃないわ。」とか言って否定されることは目に見えてるけど。
とにかく、あの悲鳴と思ったあの声は、どうやら歓声だったらしい。
「ところで、あなたはどうして人里にいたの?まぁ、おつかいでしょうけど。」
「あぁ、はい。なくなってしまった食材と、今日の夜に作るお団子の材料を。」
「あら?主人より先にそのお団子を堪能してるけど、いいのかしら。」
あ...と妖夢は団子を食べる手を止める。
咲夜の方は?と聞くと、
「私?私はなくなってしまった食材と、今日の夕食のデザートに作る大福の材料を。」
「似たようなもんじゃない。それにしても、あの吸血鬼も大福を食べるのね。」
そう聞くと、咲夜は「んー、」と考えて、「今日は珍しく妹様の御要望なのよね。何かの本に影響を受けたのかしら。今回は分厚い小説を読んでいたけど...。」と続けた。
紅魔館は読書家が多い気がするなぁ。
「妹様は読書家というか...ね。」
咲夜は最後のひとつの団子を食べ終えると立ち上がった。
「お互い仕事の最中だったわね。そろそろ帰らないと。」
「え、あ、はい!」と言って妖夢も最後のひとつを口に入れる。
「また会えたら、今度はゆっくりお話しましょ?」
じゃあ、とだけ言うと、次の瞬間にはもう咲夜は隣にいなかった。
「今度はゆっくり......!って、お酒買わないと!」


✿*❀٭✿*❀٭✿*❀٭✿*❀٭✿*❀٭✿*❀٭✿*


「そう、紅魔館のメイドに...。」
「...すみません、やはり紅魔館の関係者は嫌い、でしょうか。」
帰って来てしばらくすると、予定通り満月が現れ、満月の宴会、という名のお団子パーティーが始まった。
そして、妖夢は一応今日の出来事の一部始終を幽々子に報告していた。
「ふふ、別に嫌いでもないわ。」
「あ、そうなんですね。」
ほっと肩を撫で下ろした。
ということは、咲夜とゆっくりお話を...!って、違う違う。
「ただ、まだあの吸血鬼が幼いだけ。それだけなの。時間が経つとまた変わってくる。あまり介入しすぎなければ、いずれはうちとの関係も綺麗になるでしょう。もっともっと、時間をかけるの。」
「そういう、ものなのでしょうか。」
「ええ。」
幽々子様はお団子を摘むと、お団子と満月を重ね合わせた。


「あの美しい満月のように。」
この物語を見つけてくれてありがとうございます!今回初投稿となるレアです。東方Projectが好きになって何年か経ちますが、やはり白銀コンビが好きです。共感してくれる人がいたら最高ですね!
さて、今回のお話ですが、妖夢と幽々子のほのぼのストーリーというテーマで進めていきました。妖夢の少しおちゃめなところや、咲夜さんの大人っぽさなどが伝わっていれば嬉しいです!
今回初めて障子と襖の違いを調べました
レアちゃわんむし
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コメント



0.200簡易評価
1.90奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
2.90東ノ目削除
雰囲気が良く、愛を感じました。今後も期待しています
3.100名前が無い程度の能力削除
良かったです。二人の関係性と雰囲気がいい感じでほんわかしました。可愛かったです。
5.100Actadust削除
ほんわかした空気感がいいですね。東奔西走する妖夢が可愛かったです。
6.100南条削除
面白かったです
妖夢の仕草がいちいちかわいらしくて素晴らしかったです
良いほのぼのでした
7.90めそふ削除
作品全体に醸し出される柔らかな雰囲気が好きでした。何かしらイベントがありながらもそれは日常の範疇であり、そうした1日のうちにおける緩急が心地よかったです