「ちょっと、隣いいかい」
「おう、いいぞ。えーっと、あんたは……」
「大将、いつもので。俺は、あれだよ。鍛冶屋んとこの」
「あーあそこの倅か。じゃあ今大変だろ?傘の嬢ちゃんが張り切ってるせいで」
「あー、まあな」
「鍛冶の腕がいいってのもあるが、俺はやっぱりあの足だね!妖怪だとわかっててもあのスカートっていうのからほどよく肉の付いた腿からスラっと伸びる──」
「そ、そんなことより消え女の噂は知ってるかい?」
「あー?あれかい。なんでも家に入ると見知らぬ女が居て驚いて目を離したすきに姿が消えるっていう」
「そうそう、それだよ」
「俺が聞いた話だと着物屋の女房が見たって言ってたな」
「へえ」
「なんでも赤ん坊が泣きだしたから見に行ったら知らない女が赤ん坊を覗き込んでたんでびっくりして部屋から出ちまってそのあと覗き込んだら居なくなってたって話だ」
「そりゃ大変だ。赤ん坊は無事だったのかい」
「ああ、何も。赤ん坊どころか物一つ盗まれなかったらしいぜ。そうだ、盗むで思い出したがあのケチな商屋んとこにも出たらしいんだ。そんときの主人一体何したと思う?」
「なんだ。箪笥でもひっくり返したのかい?」
「そんなもんじゃねえ!家中ひっくり返した後便所紙の一枚まで数えたんだってよ!ケチもあそこまでいきゃあむしろ天晴れってなもんよ!なあ、あんたもそう思うだろ?」
「……里からは出てないのか。いつもみたいにふらふらしてる様だしこっちも動き回るより張ってたほうがいっそ捕まえやすいか?でもあいつが私の撒いた餌に食いつくかどうかもあいつのただの気まぐれで決まるからな……。私の力だって待ってどうこうなるわけでもなしやっぱりこっちから地道に動いて探し回った方がいいか……」
「おーい?聞いてんのか」
「おっとすまん、ちょっと考え事しててね。他にはなんかあるかい?」
「他ぁ?……後は姿は見てねえが釣屋のじいさんが釣り竿貸してくれないかって声かけられたとか団子屋の赤い髪の女中んとこにも出て驚いた拍子にその女中の首が落ちたとかなんとか」
「なにやってんだあいつ……」
「そうそう!その女中も器量が良くてな。上は夏でも長いの着てるんだが下は丈の短いもん穿いててな。太めだがピッと締まってていーい足をしてんだよこれがまた」
「あ、足の話はいいだろう…それより消え女の」
「なかでも一等良かったのはあのお寺さんとこに居る子だな!なんだっけな…たしかにーそっくすっていうの履いてんだがそれが逆に腿を強調させて──」
「お、俺ちょっと用事思い出したわ。大将、ツケといてくれ」
「今回だけじゃぞ」
「──でなあ、正に至高の絶対領域、人類が行き着く最後の桃源郷……って、あの兄ちゃんは?」
「もうおらんぞ」
「はあー。自分から話振ったってえのにまったく。……あれ?でも大将、鍛冶屋の倅ってたしかまだ5つ6つじゃなかったか?」
「人ってのは成長するもんじゃよ」
「そういうもんかねえ。しかし大将、いつもはもっと腰曲がってんのに今日はしゃっきりしてるねえ」
「あ、いやこれはじゃの……」
「さては大将……竹林のとこの薬使ったんだろう!」
「あ、ああ。そうじゃよ。いやー良く効くわい」
「前からあんなに勧めてたのにやっと行ったのかい。あそこの薬はほんとに良く効くんだが、あそこの薬師がいい足しててなあ──」
「はぁーもう。何であたしがこんな…聖に言われなけりゃこんな事……」
『別にいいじゃんか!飽きたらそのうちここでも地底でも勝手に帰るだろ。どのみち誰にも見つけられないんだしあいつをどうこう出来る奴なんて居ないんだからほっとけばいいじゃん!』
『だからですよ。想像してご覧なさい。さっきまで楽しく遊んでいたのに気が付くと一人だった時のあの子の寂しさを。あの子は能力が故に終わらなかった遊びがいくつもあるでしょう。遊びを終わらせて、居なくなったことをちゃんと叱ってあげなさい。それが友人の役目ですよ』
「……上等だよ。妖怪一つ見つけられないで何が大妖怪だ。あんたはあたしが絶対に見つけてやる。そして次も、その次も、ずっとあたしの遊びに絶対付き合ってもらうからな!覚悟しとけよ!」
「おう、いいぞ。えーっと、あんたは……」
「大将、いつもので。俺は、あれだよ。鍛冶屋んとこの」
「あーあそこの倅か。じゃあ今大変だろ?傘の嬢ちゃんが張り切ってるせいで」
「あー、まあな」
「鍛冶の腕がいいってのもあるが、俺はやっぱりあの足だね!妖怪だとわかっててもあのスカートっていうのからほどよく肉の付いた腿からスラっと伸びる──」
「そ、そんなことより消え女の噂は知ってるかい?」
「あー?あれかい。なんでも家に入ると見知らぬ女が居て驚いて目を離したすきに姿が消えるっていう」
「そうそう、それだよ」
「俺が聞いた話だと着物屋の女房が見たって言ってたな」
「へえ」
「なんでも赤ん坊が泣きだしたから見に行ったら知らない女が赤ん坊を覗き込んでたんでびっくりして部屋から出ちまってそのあと覗き込んだら居なくなってたって話だ」
「そりゃ大変だ。赤ん坊は無事だったのかい」
「ああ、何も。赤ん坊どころか物一つ盗まれなかったらしいぜ。そうだ、盗むで思い出したがあのケチな商屋んとこにも出たらしいんだ。そんときの主人一体何したと思う?」
「なんだ。箪笥でもひっくり返したのかい?」
「そんなもんじゃねえ!家中ひっくり返した後便所紙の一枚まで数えたんだってよ!ケチもあそこまでいきゃあむしろ天晴れってなもんよ!なあ、あんたもそう思うだろ?」
「……里からは出てないのか。いつもみたいにふらふらしてる様だしこっちも動き回るより張ってたほうがいっそ捕まえやすいか?でもあいつが私の撒いた餌に食いつくかどうかもあいつのただの気まぐれで決まるからな……。私の力だって待ってどうこうなるわけでもなしやっぱりこっちから地道に動いて探し回った方がいいか……」
「おーい?聞いてんのか」
「おっとすまん、ちょっと考え事しててね。他にはなんかあるかい?」
「他ぁ?……後は姿は見てねえが釣屋のじいさんが釣り竿貸してくれないかって声かけられたとか団子屋の赤い髪の女中んとこにも出て驚いた拍子にその女中の首が落ちたとかなんとか」
「なにやってんだあいつ……」
「そうそう!その女中も器量が良くてな。上は夏でも長いの着てるんだが下は丈の短いもん穿いててな。太めだがピッと締まってていーい足をしてんだよこれがまた」
「あ、足の話はいいだろう…それより消え女の」
「なかでも一等良かったのはあのお寺さんとこに居る子だな!なんだっけな…たしかにーそっくすっていうの履いてんだがそれが逆に腿を強調させて──」
「お、俺ちょっと用事思い出したわ。大将、ツケといてくれ」
「今回だけじゃぞ」
「──でなあ、正に至高の絶対領域、人類が行き着く最後の桃源郷……って、あの兄ちゃんは?」
「もうおらんぞ」
「はあー。自分から話振ったってえのにまったく。……あれ?でも大将、鍛冶屋の倅ってたしかまだ5つ6つじゃなかったか?」
「人ってのは成長するもんじゃよ」
「そういうもんかねえ。しかし大将、いつもはもっと腰曲がってんのに今日はしゃっきりしてるねえ」
「あ、いやこれはじゃの……」
「さては大将……竹林のとこの薬使ったんだろう!」
「あ、ああ。そうじゃよ。いやー良く効くわい」
「前からあんなに勧めてたのにやっと行ったのかい。あそこの薬はほんとに良く効くんだが、あそこの薬師がいい足しててなあ──」
「はぁーもう。何であたしがこんな…聖に言われなけりゃこんな事……」
『別にいいじゃんか!飽きたらそのうちここでも地底でも勝手に帰るだろ。どのみち誰にも見つけられないんだしあいつをどうこう出来る奴なんて居ないんだからほっとけばいいじゃん!』
『だからですよ。想像してご覧なさい。さっきまで楽しく遊んでいたのに気が付くと一人だった時のあの子の寂しさを。あの子は能力が故に終わらなかった遊びがいくつもあるでしょう。遊びを終わらせて、居なくなったことをちゃんと叱ってあげなさい。それが友人の役目ですよ』
「……上等だよ。妖怪一つ見つけられないで何が大妖怪だ。あんたはあたしが絶対に見つけてやる。そして次も、その次も、ずっとあたしの遊びに絶対付き合ってもらうからな!覚悟しとけよ!」
おっさんの意見にはすこぶる同意できますが、弁々を知らないあたりアンテナの低さへ苦言を呈せざるを得ませんでした。
しかしやはりばんきちゃんと言えば足。