「今日も平和だなあ」
外で笑う子どもの声を聞きながら私はルナサ・プリズムリバーのソロライブのレコードを流す。落ち着いた雰囲気のこの店には彼女の演奏曲がよく合うものだ。
私はハンドルを回し、レコードを回転させると針をそっと乗せる。ジジッとノイズが走った後、ルナサ・プリズムリバーのソロ演奏の曲が流れると私は珈琲用のカップを磨いてお客さんが来るのを待つ。
騒霊であるルナサ・プリズムリバーの音楽には精神に影響を与えるとの話である。なので長時間聴いているのは配慮しなくてはならないが、彼女の弾くヴァイオリンの音色は本当に心を落ち着かせてくれる。
そんな事を考えているとドアの鐘がカランと鳴り響く。
「いらっしゃいませ」
来客者に私は営業スマイルで迎えると仕事に入る。本日、最初のお客さんは霧雨さんのところのお嬢さん──魔理沙ちゃんである。
「よう、おっちゃん! 相変わらず、元気にやっているか!」
「今日も元気だね、魔理沙ちゃんは・・・まあ、うちは相変わらず、見ての通りだよ」
私は魔理沙ちゃんに軽く笑うとカウンターに座って欠伸を一つする彼女を見やる。
「今日は一番乗りだけれど何か良い事でもあったのかい?」
「逆なんだよ。研究しているものが行き詰まってて徹夜続きって感じだな」
「それは良くないね。ちゃんと寝なきゃ駄目だよ?」
私の言葉に魔理沙ちゃんは「はいはい」と軽く流すとカウンターに突っ伏す。親父さんに勘当されているとは云え、魔理沙ちゃんとは古くからの付き合いだ。
親父さんの代わりにも魔理沙ちゃんの事をたまには気に掛けて上げないとな。
香霖堂で店を構える森近くんとくっ付けば、私も余計なお節介を焼かずに済むのだが・・・もっとも森近くんも相当な変わり者で淡白なところがあるので二人がくっ付くのは私が生きている内に見たくは感じる。
「そう言えば、今日は森近くんのところには行かないのかい?」
「んー。今日はそんな気分じゃないし、霊夢の顔でも拝んでからサッサと眠るよ」
森近くんに負けず劣らず、彼女も淡白であるのが、また難点である。さっさと結婚の一つでもして、おじさんを安心させて欲しいものだ。
まあ、魔理沙ちゃんもまだ婚期を逃すとか、そう言った年頃でもないし、もう少し大人になれば森近くんとも上手くやっていけるだろう。
「それよりもおっちゃん、今日は暑くてかなわないんだ。キンキンに冷えて頭がスッキリする奴を頼むよ」
「ああ。アイスコーヒーの事だね?・・・今日はまだ仕込みが途中なんだ。出来上がるのに小一時間ほど掛かるよ」
「そんなに待てないぜ!」
「まあまあ。そんなに焦らないで・・・ほら、音楽でも聴きながら心を落ち着けて」
私は焦れたように頬を膨らませる彼女にそう言うとアイスコーヒーの準備をする。
手間暇を惜しまず、豆にもこだわり、おもてなしの一杯を。それが私のモットーである。
最初はブーブー言っていたが魔理沙ちゃんもレコードのメロディーを聴いて落ち着いたのか、普段から肩にぶらさげた鞄から本を出して読み始める。その間に私は仕上げに入る。
「お待たせ、魔理沙ちゃん。うちの特製アイスコーヒーだよ。アイスクリームはおまけして上げるよ」
「ああ。悪いな、おっちゃん」
魔理沙ちゃんは本から目を離すとストローを使ってアイスコーヒーを飲む。
「まっず!──てか、苦っ!」
「その苦みを楽しめるようになったら大人だよ。魔理沙ちゃんには少し早かったかな?」
「おいおい。また子ども扱いするなよな、おっちゃん」
魔理沙ちゃんは不貞腐れながら、それでもチビチビとアイスコーヒーを飲むつつ、アイスクリームを食べ始める。
アイスクリームの甘味とアイスコーヒーの苦味が程良くマッチしたのか、魔理沙ちゃんは美味しそうにその二品を堪能する。
「・・・ふう。御馳走様」
アイスクリームとアイスコーヒーをペロリと平らげると魔理沙ちゃんは軽くゲップをしてから私にニカッと笑う。
「心なしか、頭がスッキリした気がするな・・・なんだか今日も徹夜出来そうな気がして来た」
「珈琲に含まれるカフェインの影響らしいよ。まあ、過剰摂取は不眠症の原因になるから控えるように八意先生も言っていたねえ。まあ、無理せずに用事を済ませて早めに休むんだよ?」
「あー。はいはい。まったく歳を取ると小言が多くなるのはなんとかならんもんかね?」
「亀の甲より年の功って言うだろう? 年寄りの言う事にも耳を傾けるのも時には必要なのさ」
魔理沙ちゃんは「そんなもんかねえ?」とぼやきながら、席を立つ。
「そんじゃあ、世話になったな、おっちゃん。また来てやるよ!」
魔理沙ちゃんはそう言って出て行くと私は後片付けをして次の来客者が来るのを待つ。
時間はまだある。今日もゆったりとした時間の中、お客さんが来るのを待つとしよう。
外で笑う子どもの声を聞きながら私はルナサ・プリズムリバーのソロライブのレコードを流す。落ち着いた雰囲気のこの店には彼女の演奏曲がよく合うものだ。
私はハンドルを回し、レコードを回転させると針をそっと乗せる。ジジッとノイズが走った後、ルナサ・プリズムリバーのソロ演奏の曲が流れると私は珈琲用のカップを磨いてお客さんが来るのを待つ。
騒霊であるルナサ・プリズムリバーの音楽には精神に影響を与えるとの話である。なので長時間聴いているのは配慮しなくてはならないが、彼女の弾くヴァイオリンの音色は本当に心を落ち着かせてくれる。
そんな事を考えているとドアの鐘がカランと鳴り響く。
「いらっしゃいませ」
来客者に私は営業スマイルで迎えると仕事に入る。本日、最初のお客さんは霧雨さんのところのお嬢さん──魔理沙ちゃんである。
「よう、おっちゃん! 相変わらず、元気にやっているか!」
「今日も元気だね、魔理沙ちゃんは・・・まあ、うちは相変わらず、見ての通りだよ」
私は魔理沙ちゃんに軽く笑うとカウンターに座って欠伸を一つする彼女を見やる。
「今日は一番乗りだけれど何か良い事でもあったのかい?」
「逆なんだよ。研究しているものが行き詰まってて徹夜続きって感じだな」
「それは良くないね。ちゃんと寝なきゃ駄目だよ?」
私の言葉に魔理沙ちゃんは「はいはい」と軽く流すとカウンターに突っ伏す。親父さんに勘当されているとは云え、魔理沙ちゃんとは古くからの付き合いだ。
親父さんの代わりにも魔理沙ちゃんの事をたまには気に掛けて上げないとな。
香霖堂で店を構える森近くんとくっ付けば、私も余計なお節介を焼かずに済むのだが・・・もっとも森近くんも相当な変わり者で淡白なところがあるので二人がくっ付くのは私が生きている内に見たくは感じる。
「そう言えば、今日は森近くんのところには行かないのかい?」
「んー。今日はそんな気分じゃないし、霊夢の顔でも拝んでからサッサと眠るよ」
森近くんに負けず劣らず、彼女も淡白であるのが、また難点である。さっさと結婚の一つでもして、おじさんを安心させて欲しいものだ。
まあ、魔理沙ちゃんもまだ婚期を逃すとか、そう言った年頃でもないし、もう少し大人になれば森近くんとも上手くやっていけるだろう。
「それよりもおっちゃん、今日は暑くてかなわないんだ。キンキンに冷えて頭がスッキリする奴を頼むよ」
「ああ。アイスコーヒーの事だね?・・・今日はまだ仕込みが途中なんだ。出来上がるのに小一時間ほど掛かるよ」
「そんなに待てないぜ!」
「まあまあ。そんなに焦らないで・・・ほら、音楽でも聴きながら心を落ち着けて」
私は焦れたように頬を膨らませる彼女にそう言うとアイスコーヒーの準備をする。
手間暇を惜しまず、豆にもこだわり、おもてなしの一杯を。それが私のモットーである。
最初はブーブー言っていたが魔理沙ちゃんもレコードのメロディーを聴いて落ち着いたのか、普段から肩にぶらさげた鞄から本を出して読み始める。その間に私は仕上げに入る。
「お待たせ、魔理沙ちゃん。うちの特製アイスコーヒーだよ。アイスクリームはおまけして上げるよ」
「ああ。悪いな、おっちゃん」
魔理沙ちゃんは本から目を離すとストローを使ってアイスコーヒーを飲む。
「まっず!──てか、苦っ!」
「その苦みを楽しめるようになったら大人だよ。魔理沙ちゃんには少し早かったかな?」
「おいおい。また子ども扱いするなよな、おっちゃん」
魔理沙ちゃんは不貞腐れながら、それでもチビチビとアイスコーヒーを飲むつつ、アイスクリームを食べ始める。
アイスクリームの甘味とアイスコーヒーの苦味が程良くマッチしたのか、魔理沙ちゃんは美味しそうにその二品を堪能する。
「・・・ふう。御馳走様」
アイスクリームとアイスコーヒーをペロリと平らげると魔理沙ちゃんは軽くゲップをしてから私にニカッと笑う。
「心なしか、頭がスッキリした気がするな・・・なんだか今日も徹夜出来そうな気がして来た」
「珈琲に含まれるカフェインの影響らしいよ。まあ、過剰摂取は不眠症の原因になるから控えるように八意先生も言っていたねえ。まあ、無理せずに用事を済ませて早めに休むんだよ?」
「あー。はいはい。まったく歳を取ると小言が多くなるのはなんとかならんもんかね?」
「亀の甲より年の功って言うだろう? 年寄りの言う事にも耳を傾けるのも時には必要なのさ」
魔理沙ちゃんは「そんなもんかねえ?」とぼやきながら、席を立つ。
「そんじゃあ、世話になったな、おっちゃん。また来てやるよ!」
魔理沙ちゃんはそう言って出て行くと私は後片付けをして次の来客者が来るのを待つ。
時間はまだある。今日もゆったりとした時間の中、お客さんが来るのを待つとしよう。
珈琲の香りが漂う穏やかな話でよかったです