Coolier - 新生・東方創想話

神VS神?

2022/06/24 20:57:03
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「やあ。私の研究所に、よく来てくれたね。歓迎するよ」
「来てくれたねって、あんたが誘ったんでしょうが!」

 穣子は、にとりに誘われて研究所へ来ていた。
 なんでも本人そっくりなクローンを作る装置を作ったので、実験体になってくれとのこと。

 どうせまたロクでもない結果になるに決まってる。と、思いながらも人付き合いのいい穣子は、彼女の研究室へやってきていた。
 二人の目の前には、人が入れるくらいの小さなカプセルが二つ見える。これが例の装置らしい。

「じゃあ、さっそく実験開始するから装置に入ってくれ」
「……にとり、約束覚えてるわよね?」
「ああ、もちろん。もう用意してあるさ」

 そう言ってにとりは、部屋の隅に置いてあった箱を持ってくる。中には大量のじゃがいも。

「ほら、この通りさ。好きなだけ持っていってくれ」
「わかってるじゃない。それでこそ盟友よ!」

 都合のいい時だけの盟友を横目に、穣子はカプセルの中に入る。にとりはさっそく装置のスイッチを入れた。

「ちょっと盟友! あの、熱いんだけど!?」
「文句言わないでよ。今、ラーニング中なんだ。大丈夫。すぐ終わるから」
「え? ラーメン? 何、私ラーメンの具にされちゃうの!? なんだかわかんないけど、はやくしてよ! このままじゃラーメンになる前に焼き芋になっちゃうわ!」
「だから、もうすぐだから待ってって……。あと、ラーメンにはならないよ」

 しばらくすると、別のカプセルの中に人影が現れる。

「おお! すごいぞ!? 成功だ!!」

 にとりは、興奮気味に叫ぶ。
 しかし、人影はカプセルから出てこようとしない。

「あれ……?」

 にとりは首を傾げつつ、もう一回ボタンを押してみる。だが、やはり何も起こらない。カプセルから出てきた穣子が尋ねる。

「どうしたのよ?」
「おかしいなぁ……。クローンがカプセルから出て来ないんだよ。故障したのかも」
「どれどれ、ちょっと見せなさいよ」

 穣子は、にとりを押し退けると、カプセルを無理矢理こじ開ける。
 抗議するにとりを尻目に、穣子が中をのぞき込んだ瞬間、思わず動きが止まる。
 そこには確かに穣子そっくりのクローンがいた。ただし……。

「なんじゃこりゃあああ!!!?」

 穣子の絶叫が部屋中に響き渡った。

「ねえ、にとり!? こいつ。……付いてるわよ……!? どういうことなの!?」

 にとりが慌ててクローンを確認すると、申し訳なさそうに舌を出す。
「……あーこれは、どうやら設定間違えちゃったみたいですねぇ」
「間違えちゃったみたいですねぇって! どうすんのこれ。しかも何か寝てるし」
「まあまあ、ほっといても害はなさそうだし。ほら、そこの芋でも食べて落ち着いて……」
「じゃがいもを生で食えっていうの!?」
「え? だって、きゅうりは生でも食えるでしょ。だからじゃがいもも大丈夫だよ」
「んなわけあるか! 芋の芽なめんな! ソラニンなめんな!」

 などとギャアギャア言い争っていると、クローンが目を覚ます。
 クローンは首をゴキゴキと鳴らしながら、カプセルから出てくると二人に告げる。

「……誰だ。おめーら」
「それはこっちのセリフよ。あんたは誰よ?」
「俺か? 俺は神だよ」
「はい……?」
「だから神様だ!」

 クローンは胸を張って答える。その姿から威厳はみじんも感じられないが、素っ裸なためか無駄に神々しくは感じる。

「あのね! あんたは私のクローンってやつなのよ! 私そっくりじゃなきゃいけないの! なんで男なのよ!? てか服着ろ!」
「あぁ!? そんなの俺が聞きてえよ! なら、服よこせ!」

 にとりがぼそりと「……その粗暴な性格がクローンの性別に影響したんじゃないの?」と、呟いたので、穣子は問答無用で裏拳をかます。
 吹っ飛ぶにとりを横目に穣子は、じゃがいもを一つ持つと、クローンに向かって投げる。

「ほら! これでも着ときなさい!」

 じゃがいもは一瞬で衣に替わり、クローンの体を纏う。

「おぉ!! スゲーな! お前! もしかして神か何かか!?」
「だから、神だっつーの!」
「そうか! 俺と同類か! 奇遇だな!」

 そう言って彼は、にかっと笑う。呆れた様子で穣子が尋ねる。

「……そういやあんた、名前あんの?」
「俺か。俺はアキ・ミノリオ。豊穣神だぜ!」
「みのりおぉ……? センス悪い名前ね」
「あぁん!? てめぇ人の名前にケチつけんじゃねぇよ!?」
「なによ!? 私とやる気? こちとら神よ!?」
「俺も神だぞ!? やんのかオラ!」
「上等よ! コラ!」
「なにコラ! タココラ!」
「何よコラ! クレクレタコラ!」

 と、二人がメンチ切り合戦をしている側でにとりは

「……うんうん。あのけんかっ早い感じ。やっぱり彼は、間違いなく穣子さんのクローンだ。どうやら実験は成功のようだね」

 と、一人納得して、きゅうりをかじっていたが

「オラァ! 食らえ! ミノリオパァーンチ!!!」
「神なめんな! みのりこあーむすとろんぐスネたたき!!!」

 やがて二人が取っ組み合い始めたので、慌てて制止する。

「ちょ!? ここで暴れるなって! 危ない機械が沢山あるんだぞ!?」
「うるせぇ! おまえはすっこんでろ!」

 ミノリオは手頃な機械を、軽々と持ち上げると、にとりに向かって投げつける。
 「ぎゃー!」という悲鳴と共に、哀れ彼女は機械の下敷きになってしまった。

「ふん、ざまーみやがれ!」
「こら! 盟友になんてことするのよ!? この不届き千万め! 手打ちにしてやる! 手打ちうどんよ!」

 穣子は弾幕を構築しようとするが、ミノリオは有無を言わさず拳を繰り出してきた。

「悪いが俺ぁビーフン派なんだよぉー!」
「フォーーーーーっ!?」

 意表を突かれた穣子は、パンチを食らって吹っ飛んでしまう。

「ははははっ! ざまぁねーな! そんじゃあばよ!」

 ミノリオは、窓を突き破って外に行ってしまう。

「……ぐぬぬ! あんなのが外で暴れたら大変だわ! 止めないと!」

 穣子は、くたばっているにとりをたたき起こそうとする。

「ちょっと! のんきに寝てる場合じゃないわよ! どうするのよ!? アイツ外行っちゃったんだけど!?」
「うう……。穣子さんあとはまかせた」

 そう言うと、にとりは、力尽きたように倒れ込む。

「あーもー!! 結局こーなるのねっ!!! わかってたけどさっ!!」

 穣子は喚くように吐き捨てると、奴を追いかけて外へ出た。


 ◆

「……さてと、奴はどこへ……?」

 と、穣子が辺りを見回していると、遠くからドカーン! と、爆発音と誰かの悲鳴が。

「……あー……。わかりやすくて助かるわねー」

 穣子が音の方へ行くと、木々がなぎ倒され、宵闇の妖怪が倒れていた。

「あんたは。えっと。…………大丈夫?」
「……あ、芋神様……! って、もしかして私の名前忘れたの……?」
「ま、まさかー? えーと……。そうだ! インソムニア!」
「ルーミアだよ!?」
「ああ、ルーミアか! 惜しかったわー。で、何があったのよ?」

 どこが惜しかったんだと半眼を向けながら、ルーミアは答える。

「……なんかわかんないけど、いきなり変な奴に襲われて……」
「……いきなりって、あんた、どうせまた、自分の周り真っ暗にしてたから、気付かなかったってパターンでしょ?」
「うっ……それは!」
「図星かい! ……で、奴はどこへ?」
「あっち……」

 と、彼女が指さした側から、またドカーンという爆発音が。

「さんきゅー! じゃ、お大事にね! 今度、お礼に焼き芋あげるから」
「え、くれるなら今ちょうだいよー!?」

 穣子はルーミアの抗議を聞かなかったことにして、音の方へ駆けつける。やはり木々がぶっ倒され、今度は招き猫が、倒れた木々の下敷きになっていた。

「あ! えっと、あんたは……ミケランジェロ! 大丈夫!?」
「……ミケだってば。なんか急に変な男に襲われて……。それはそうと助けてー。動けないよー」
「で、奴はどこへ?」
「わかんない……。なんか、俺より強い奴に会いに行くとか言って消えた……ねえ、それより助けて」
「はぁー? あいつは流浪の格闘家か何かなの?」

 と、その時だ。

「なんだ。またやられに来たのかぁ? へたれうどん!」

 目の間にミノリオが現れる。しかも何故か上半身裸だ。

「あぁ!? あんた何で半裸なのよ!? 人がせっかく服用意してやったのに!?」
「うるせー! あんな芋クセー服着てられるか!」

 確かに芋で作った服なので、彼の言い分はごもっともではある。

「あんたみたいな乱暴者を、野放しにしておくにはいかないわ! 神の名において、さばいてやる!」
「ほー? やれるもんならやってみろ! さばくってなんだ。三枚おろしにでもする気かぁ?」
「大根おろしにしてやるわ! 食らえ!」

 穣子はサツマイモの弾幕をお見舞いする。しかし、あっさり避けられてしまう。

「おらぁ! テメー食いもん無駄にすんじゃねーよパァーンチ!!」
「ぎゃーーーー!!?」

 逆に彼の反撃パンチを食らって、穣子は吹っ飛んでしまった。

「へんっ……。口ほどでもねぇ」

 ミノリオは勝ち誇るように、生のサツマイモをかじりながら、倒れている穣子を見下ろす。

「ぐぬぬ……。クローンのくせに生意気よ……!」
「そんじゃとどめといくか! 空の彼方までぶっ飛ばしてお星さまにしてやるぜ!」
「やだぁ。そんなことされたら、ほしいもになっちゃう!?」
「知るか!? 勝手になってろ!」

 と、ミノリオがガード不能の吹っ飛ばし攻撃を、放とうとしたときだ。

「ちょっと待ったぁー!!」

 突然、辺りにテノールボイスが響き渡る。二人が慌てて見回すと、木の上に人影があった。
 人影は一見、にとりと同じような髪型だが、その大柄な体は彼女と似ても似つかない。更に何故か、上半身裸だった。

「な、なんだテメーは!?」
「ハハハ! 私は河城にとろ! 河城にとりのクローンだ!」

 そう言うと彼は「とぅ!」と、飛び上がり二人の前に着地する。

「河城にとりから、お前を止めろと命を受けてきた!」

 唖然とする二人の前で、彼は腕を上げポーズを決める。そのま「変……身っ!」 とでも言いそうな雰囲気だったが、別にそういうわけではなかった。

「あー……なんだかわからないけど、邪魔するならぶっ倒すぞ!?」

 ミノリオは、にとろに向かってパンチを放とうとする。すかさず彼が制しする。

「待ちたまえ! 私はこう見えても、実はあんまり強くないし、争い事は嫌いだ! どうか、ここは私の顔に免じて、矛を収めてくれないだろうか?」
「はぁ!? ふざけんな! 先に手を出してきたのはこのヘボイモ神の方だぞ?」
「わかっている。河城にとりから説明は受けているさ。そこの神は粗雑で乱暴だから、取り扱い注意だと……」
「はあぁーーーっ!? あんのポンコツ河童ぁー……っ!!?」

 激高する穣子を尻目に、にとろは言葉を続ける。

「……もちろんタダでとは言わない。……こいつと引き換えでどうだ?」

 そう言って、彼は懐からじゃがいもを取り出す。

「……ほう。そのじゃがいもとコイツを引き換えって事か?」
「ちょっ……!? 失礼ね! じゃがいもなんかと一緒にしないでよ! 私は神さまなんだからね!? いくらなんでもじゃがいもなんかとじゃ……」
「よし。いいぞ! そのじゃがいもとコイツを交換だ!」
「はぁーーーっ!? おまっ! ふざけ」
「オーケイ! 取引成立だ。さあ、持っていくがいい!」

 にとろはじゃがいもをミノリオに投げ渡す。

「ありがとよ。丁度ハラ減ってたんだ。有り難くもらうぜ!」

 彼はじゃがいもを口に放り込み、あっという間に平らげてしまう。

「ふーうめぇうめぇ! やっぱじゃがいもは生に限……うっ!?」

 突然彼が、腹を抱えてうずくまる。

「ぐっ……ハラがいてぇ……テメェ!! さては、毒を盛りやがったな……!?」

 ミノリオはそう言って、にとろをにらむ。
 呆れた様子で穣子が告げる。

「あんた。……さてはバカでしょ? あのね。じゃがいもの芽には毒があるのよ? だから食べるときは、ちゃんと芽を取らなきゃいけないの。こんなのイモの世界では常識よ?」
「なんだとぉー!? うぉおおおお……っ!!」

 よっぽどつらいのか、彼は脂汗をかきながら、地べたに這いつくばってしまう。すると様子を見ていたにとろが彼に告げる。

「実は、こんなこともあろうかと、芋毒の解毒剤を用意してきたのだ!」

 彼は懐からアンプルに入った薬を取り出す。

「マジか!!? それを俺にくれ!」
「いいだろう! ただし、一つ約束して欲しい! もう二度と暴れたりしないと!」
「ああ、わかった、わかった! 約束する! もう二度と暴れない! だからその薬を早くっ!」
「よし! その言葉、確かに聞いたぞ! さあ、受け取れ!」

 にとろはミノリオに薬を渡す。彼は急いで薬を飲み干す。するとすっきりした顔で立ち上がる。

「ふー! 治った! 助かったぜ!」
「早っ!? そんな早く効くものなの!? 薬って……」
「あー、あれ、永遠亭の薬だから」
「あーなるほど、なら、納得……って! にとり!? あんたいつの間に!」
「ふふふ。どうやら上手くいったようだね。流石は私のクローンだ」

 いつの間にか姿を現していたにとりは、そう言って、どや顔を浮かべる。
 にとろは白い歯を見せながらミノリオに告げる。

「……ミノリオくん。この世界はまだ我々の知らない事が一杯だ。どうだ。これから私と一緒に旅に出ないか? そして色んなものをこの目で見てみないか?」
「……おお、いいぜ! 面白そうだ。まだ見ぬ強敵(とも)にも会えそうだしな!」
「よし、決まりだね!」
「ああ、よろしくな! 相棒!」

 二人は夕日をバックに熱い握手を交わすと、穣子達に挨拶し、そのまま去って行った。
その様子を見守っていた穣子が思わずぽつりと呟く。

「……うーん。いい話……なのかこれ?」
「まあまあ、終わりよければなんとやらって言うでしょ。これにて一件落着だよ」

 と、満足そうなにとり。穣子は依然として、どこか腑に落ちなそうな表情を浮かべていたが、ふと思い出したように声を上げる。

「あ、そうだ! 思い出した! おい、コラ! にとりぃ!!」
「ひ、ひゅいっ!?」
「誰が『粗雑で乱暴だから、取り扱い注意』だってぇ……?」
「ああ、いやそれは、ね? あの、ほら、手っ取り早く穣子さんのことを説明するためのね……?」
「うるさい!! この極悪妖怪め、成敗してやる!」
「ぎゃー! お慈悲をーーーーー!!?」


 問答無用で穣子の放った弾幕がにとりに炸裂し、彼女の断末魔が山の中にこだますのだった。




 その頃

「……ねえ……誰かぁ、助けてよぉ……」

 すっかり忘れ去られてしまったミケは、木に埋もれたまま、一人、取り残されてしまっていた。
 その後彼女は、死体と間違えて寄ってきた燐に、無事助け出されたという。
この変な二人は今も幻想郷にいるのです。多分。
バームクーヘン
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ミノリオww
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同遺伝子でも性別が違うと大変なことになりますね。やはり穣子は女性であるべきだと思いました。