今日の倶楽部活動は、特に帰りが遅くなった。夜空を見上げると、既に時刻は五時を回っていた。山の麓から伸びる長い坂を、私たちは足早に下って行く。しかし帰りが遅い分、戦利品は多かった。私たちの両腕は、メリーの能力で持ち帰った旧時代の遺物で一杯だ。近道をするために私たちは、八坂神社の敷地を北に抜け、メリーの自宅へと向かった。
ようやくメリーの家に着いた。リビングに入り、脇の空いたスペースに戦利品を置く。私はそのままカーペットの上にへたりこんだ。
「ねえメリ~。もう動きたくな~い。もうここで寝てい~い?」
「え? 自分のお家に帰りなさいよ」
「ここから大学の北まで? やだ~、今日はここがいい~」
メリーは少し戸惑っている。しかしすぐに微笑を浮かべて、やれやれといった顔をした。
「分かった、分かった。いいわよ、じゃあ今日は泊まっていきなさい。でも、せめてシャワーは浴びたら? ほら、着替えも貸してあげるから」
メリーから着替えとバスタオルを渡されて、私はお風呂場に送り出された。シャワーを軽く浴びて身体を拭き、借りた着替えを広げると、そこには模様が付いていた。もこもことした雲があしらわれ、とてもメルヘンだなと思った。
メリーにお礼を言ってシャワーを交代し、私はリビングに転がった。戦利品を眺めながらウトウトしていると、頭上の遠くからメリーの声が聞こえてきた。
「もう蓮子ったら、そんな所で寝てたら風邪引いちゃうわよ。ほら立って」
引っ張り起こされた私は、そのままメリーのベッドへ連れて行かれる。
「ほら蓮子、今日は私の横で寝て良いから」
メリーと一緒に、私はベッドに滑り込んだ。布団の中でもぞもぞとしていると、どこからか微かに甘い薫りがした。薫りのもとをたどって顔を出すと、枕元の棚の上に紫色のキャンドルが置かれていた。火は着いていなかったが、その立ち姿はとても上品に見えた。
「良い薫りね、ラベンダーか何か?」
「そうよ。これはちょっと良いものでね、特別な時だけに着けてるの」
「へー、メリーの家ほんとおしゃれよね。それにきれい」
「あなたほど物が溢れてないからね。蓮子の家だったら、何か持ち去っても気付かないんじゃないかしら。どうせ本とか、服の残りの数とか、よく分かってないんでしょ?」
「ちょっとちょっとメリー? あれでも本の位置は全部決まってるのよ。服の数とかは……、まあ、確かによく分かんないけれど」
「あら、それこそ、ただの引き算じゃないの?」
私は暫く弁明を試みた。しかしまたすぐに瞼が重くなり、いつしか私はメリーの懐で眠ってしまっていた。
あれから数か月。メリーの家に倶楽部活動を終えて泊まる回数は、各段に増えた。あらかじめ泊まるのを見越して、着替えを鞄に詰めて出かける事も多くなった。
しかし今日は活動日ではない。私は家で調べものだ。資料を何冊も眺めては、怪しい場所のリストを倶楽部活動ノートにメモしていく。そんな事を繰り返していたら、夜も段々更けてきた。そろそろシャワーでも浴びよう。そう思って立ち上がり、タオルと替えの下着を出そうと棚を開けたところ、中がすっかり空だということに気が付いた。
あれ? もしかして全部メリーの家?
他の棚も開けてみると、生活用品のほとんどが無くなっていることに気が付いた。まるで神隠しにでも遭っているような気分だが、どうも私は何度もメリーの家に寄る度に、ほとんどの生活用品を持ち込んでしまっていたらしい。今更それを全部回収する? それは中々に億劫だ。
さて、どうしたものか。考えあぐねていると、机の上の倶楽部活動ノートが視界に入った。
……メリーと、話したいな……。
今日もメリーの家に泊まってしまおう。この時間なら、まだメリーは起きてるはずだ。私は資料とノートを両腕にたくさん抱えて家を出た。
メリーの家の前に来た。抱えた資料を目の前の玄関の壁に押し付けて、支えながらインターホンを鳴らした。真っ暗な深夜の空気に、電子音が吸い込まれる。しばらくして、カメラ付きのスピーカが声を発した。
「あら蓮子、遅かったじゃない」
「あははー、遅くにごめんメリー。でも私、面白い事見つけちゃったのよ! ちょっとでいいからさ、倶楽部活動のこと話しましょうよ!」
メリーが少し沈黙したかと思ったら、スピーカーの向こうでクスクスと笑う声がした。含みのある、初めて聞いた声だった。
「しょうがないわね。一緒にお話しましょ」
扉がガチャリと開いて、私は家の中に招かれた。
部屋の中は薄明るく、ほんのり甘い薫りがした。
ようやくメリーの家に着いた。リビングに入り、脇の空いたスペースに戦利品を置く。私はそのままカーペットの上にへたりこんだ。
「ねえメリ~。もう動きたくな~い。もうここで寝てい~い?」
「え? 自分のお家に帰りなさいよ」
「ここから大学の北まで? やだ~、今日はここがいい~」
メリーは少し戸惑っている。しかしすぐに微笑を浮かべて、やれやれといった顔をした。
「分かった、分かった。いいわよ、じゃあ今日は泊まっていきなさい。でも、せめてシャワーは浴びたら? ほら、着替えも貸してあげるから」
メリーから着替えとバスタオルを渡されて、私はお風呂場に送り出された。シャワーを軽く浴びて身体を拭き、借りた着替えを広げると、そこには模様が付いていた。もこもことした雲があしらわれ、とてもメルヘンだなと思った。
メリーにお礼を言ってシャワーを交代し、私はリビングに転がった。戦利品を眺めながらウトウトしていると、頭上の遠くからメリーの声が聞こえてきた。
「もう蓮子ったら、そんな所で寝てたら風邪引いちゃうわよ。ほら立って」
引っ張り起こされた私は、そのままメリーのベッドへ連れて行かれる。
「ほら蓮子、今日は私の横で寝て良いから」
メリーと一緒に、私はベッドに滑り込んだ。布団の中でもぞもぞとしていると、どこからか微かに甘い薫りがした。薫りのもとをたどって顔を出すと、枕元の棚の上に紫色のキャンドルが置かれていた。火は着いていなかったが、その立ち姿はとても上品に見えた。
「良い薫りね、ラベンダーか何か?」
「そうよ。これはちょっと良いものでね、特別な時だけに着けてるの」
「へー、メリーの家ほんとおしゃれよね。それにきれい」
「あなたほど物が溢れてないからね。蓮子の家だったら、何か持ち去っても気付かないんじゃないかしら。どうせ本とか、服の残りの数とか、よく分かってないんでしょ?」
「ちょっとちょっとメリー? あれでも本の位置は全部決まってるのよ。服の数とかは……、まあ、確かによく分かんないけれど」
「あら、それこそ、ただの引き算じゃないの?」
私は暫く弁明を試みた。しかしまたすぐに瞼が重くなり、いつしか私はメリーの懐で眠ってしまっていた。
あれから数か月。メリーの家に倶楽部活動を終えて泊まる回数は、各段に増えた。あらかじめ泊まるのを見越して、着替えを鞄に詰めて出かける事も多くなった。
しかし今日は活動日ではない。私は家で調べものだ。資料を何冊も眺めては、怪しい場所のリストを倶楽部活動ノートにメモしていく。そんな事を繰り返していたら、夜も段々更けてきた。そろそろシャワーでも浴びよう。そう思って立ち上がり、タオルと替えの下着を出そうと棚を開けたところ、中がすっかり空だということに気が付いた。
あれ? もしかして全部メリーの家?
他の棚も開けてみると、生活用品のほとんどが無くなっていることに気が付いた。まるで神隠しにでも遭っているような気分だが、どうも私は何度もメリーの家に寄る度に、ほとんどの生活用品を持ち込んでしまっていたらしい。今更それを全部回収する? それは中々に億劫だ。
さて、どうしたものか。考えあぐねていると、机の上の倶楽部活動ノートが視界に入った。
……メリーと、話したいな……。
今日もメリーの家に泊まってしまおう。この時間なら、まだメリーは起きてるはずだ。私は資料とノートを両腕にたくさん抱えて家を出た。
メリーの家の前に来た。抱えた資料を目の前の玄関の壁に押し付けて、支えながらインターホンを鳴らした。真っ暗な深夜の空気に、電子音が吸い込まれる。しばらくして、カメラ付きのスピーカが声を発した。
「あら蓮子、遅かったじゃない」
「あははー、遅くにごめんメリー。でも私、面白い事見つけちゃったのよ! ちょっとでいいからさ、倶楽部活動のこと話しましょうよ!」
メリーが少し沈黙したかと思ったら、スピーカーの向こうでクスクスと笑う声がした。含みのある、初めて聞いた声だった。
「しょうがないわね。一緒にお話しましょ」
扉がガチャリと開いて、私は家の中に招かれた。
部屋の中は薄明るく、ほんのり甘い薫りがした。
理由を作ってでも会いに行きたがったやつですね