ある日、山の川で、雛が水浴びして身体を清め清潔な服に着替えてさあてこれから、どっか行こうって時にそいつは表れた。
「やあ、雛! 今日は雛にミツバチの巣を取り付けて私が考えた雛型遠心分離器でハチミツ精製するよ」
「もう、にとりさんたら急にやってきて何を言って?」
そいつ、にとりは、雛が川からあがるのを水中で今か今かと光学迷彩して潜んでいたのだった。光学迷彩が水中で出来ないとかそういう難しい事はわかんねでしょう。
「ごめんね。いつも急な思い付きでつい発明しちゃうんだ」
「いやその、ミツバチの巣からハチミツ作るのは発明じゃないですよね?」
水中に居たくせに、どこから取り出したのか。にとりは蜜がいっぱい詰まったミツバチの巣を右手と左手に装備していたのだった。これだけあれば必ず勝てる位の大量配備である。
「まあ、そこはあれだよ。雰囲気とノリって事で!」
「ちょっと、ノリって……それで、そのミツバチの巣を身体に貼り付けないでください」
にとりは右手の装備と左手の装備を外しながらその装備を、今度は雛の身体に貼り付け始めたのだった。
(Q 防御力は上がるの?)
「良いから。良いから。ね、騙されたと思って私に任せれば良いから」
にとりは、慈しむような眼をしながら、雛の両手を蜜まみれの手でつかみ。
ね、ね、信じてって感じで3秒くらいやった後に作業を再開し始めた。それに意味があるのかないのか。
「いや、貼り付けないでくださいよ」
「大丈夫だよ。ほら、その貼り付けてるところも、巣から出た蜜でくっついてるから、新鮮で安全だよ」
このミツバチの巣は、今日、にとりがショートソード片手にカッコつけてから採って来たから新鮮で安全だ。
「服がベタベタになっちゃう」
(A 服がベタベタになってしまう祝いの装備だよ)
「まあそこは素敵な厄神様の雛だから、わかってくれるよね?」
人々の不幸を一手に引き受けてくれる優しい神様である。だから、多分わかってくれるっていうのは神への冒涜なのであろうか。それとも、……ううん。いいの。
「厄神だからってわかる事とわからない事がありますよ」
「うーん、じゃあ。簡単な所から行こうか。今やってる作業はわかるよね?」
話ながらも作業は続いていて、順調にミツバチの巣は貼り続けられている。わかるわからないの意味を履き違える為に、にとりは真面目な雰囲気でそんなことを言ってのける。
「はい、ベタベタの蜂の巣をさっきから、私に貼り付けてますよね」
結局、それは流し雛の精神を刺激したのだろう。その発言に、雛は流されてしまった。
「そうそう、雛! 雛の服の赤いところ前半分までは全部貼り付けたところ。だから、今度は背中側に貼り付けるよ!」
そんなこんなで、いつものゴスロリ服前面は既に知らない人が見たら巨大なミツバチの巣になっていたのである。
残る反対側の背中を制する事でこの発想は発明に昇華しようというのである。
「いやいや、やらせませんよ」
「まあまあ、もうここまでやっちゃった以上はもう引けないよ」
「やめて下さい」
流されて半分は許してしまった雛だったが、強引にミツバチの巣を背中につけようと迫って来たから我に返り、にとりが背中に貼り付けてくるのを止めたのだった。
「……お願い雛! そこを、そこを何とか! この、にとりを漢にして!」
「にとりさん、あなた女の子ですよね?」
「そこは、あれだよノリだよ。ね、分かってよ雛。もう私にはこの半自動雛型遠心分離器で勝負するしかないんだ! お願い。お願いします!」
しかし、もうその制止を聞かず。いや聞けないところまでにとりは来てしまっているのである。
ここで止まってしまったら、ミツバチ達が生涯をかけて集めた蜜が台無しになってしまう。もう止まれない。絶対に泊まるんじゃねえぞ。
「……仕方ないですね。今回だけですよ。えっと、にとりさん! やるからには漢になって下さいね!」
「へっへっへ、そうこなくっちゃ! これで貫目が上がるってもんだよ」
にとりに懇願されて、雛はとうとう折れた。半身は既にミツバチの巣で侵されながらも、優しい神様の雛は健気にも、にとりにその背を差し出したのだった。
「……その、やさしく、貼って下さいね」
背を向けているので雛の表情は、にとりからは見えない。多分、全身にミツバチの巣を貼り付けられるという意味不明な状態であるから、漢云々の表現あたりから置き換えて書くに、顔を真っ赤にしているに違いない。
雛の意思と前半分に貼り付けてある巣が落ちないよう、にとりは優しく背中に触れて貼り付け作業を再開したのだった。甘いひと時、もといハチミツの甘い匂いが2人を包んだのだった。
「さあ、出来たよ雛」
にとりは全ての装備を、雛に明け渡した。ついにやり遂げたのであった。
その表情は、安土桃山時代が織豊時代と呼び名が変わって居ることに気が付かず、授業で安土桃山時代と言ってしまった時に、それを訂正するインテリジェンスのように、してやったりという表情である。
「ええ、そのようですね」
「さあ、あとは回転するだけだね。それで、全自動雛型遠心分離器の完成だ!」
さしもそれは、迫り来るペルシア軍100万の前に立ちふさがる300のスパルタ軍のように、雄々しく。それでいてハニーのように甘い香りを発している。
さあ、いまだ。今、雛は満を持して大回転したのである!
ビチャビチャビチャと辺りに、蜜が飛び散った。雛の大回転は確実にハチミツを精製して辺りを蜜まみれにしたのだ!
「どうですか? にとりさん? ハチミツ出来てますか?」
回転しているから、周りの状況が雛には見えて居ない。
「うん、うん! 出来て居るよハチミツが! うん、出来てる!」
飛び散り自身にかかった蜜を指を一掬いして、にとりはそれを一舐め、とても甘いハチミツだ。うん発明は大成功と大満足だ。
雛がこの後また水浴びしないといけない事は確実であるがそこは考えない事にしたのであった。
面白かったです。あと150作品おめです!
>雛は流されてしまった。
誰が上手いこと言えと。
150作品おめでとうっす