飯綱丸龍は自らが企画、設計したアビリティカードの試作品を手に考えを巡らせていた。
テストも終え、商品化への準備は整ったように思えたが一つ課題が残った。カードの量産だ。
想定以上に工数が増え、量産に必要な経費が膨れ上がってしまったのだ。手持ちの資金では到底足りない、それが龍の試算した結果だった。
こんなことでアビリティカードを企画倒れにするわけにはいかない。資金が無いのなら、他の天狗に融資してもらうしかない。
当てはいくつかあるが、資産家である姫海棠家の協力はなんとしても得たい。
そこで姫海棠家の御息女、姫海棠はたての出番だ。あの家は娘に激甘で、はたてさえ取り込めば問題は解決したようなものだ。
懐柔する手段も勿論、ある。
「と、言うわけで典。お前の出番だ」
「マヂですか」
菅牧典はしかめっ面を隠そうともせず、主人である龍の顔を見た。姫海棠はたては典が唯一苦手としている相手で、龍も勿論それを知っている。
「大マジよ。それにたった一日だ。一日我慢してくれれば融資が得られる。協力してほしい」
協力してほしいなどと言ってはいるが、その言葉には有無を言わせないものがあった。
口振りからして、既に向こうと話がついているのだろう。嫌だと言っても無理矢理協力させるつもりなのだ。
一日か。はぁーと大きなため息と共に、典は肩を落とした。これから起こる事を考えると嫌気が差すが、これも従者の務めと覚悟を決めた。
「ご褒美、ちゃんと用意しておいてくださいね」
「わかったわかった。じゃあ行くぞ、姫海棠の本家に行くんだ。粗相のないように」
はーい、と気の無い返事をする典の姿は、耳も尻尾も力なく垂れ下がっていた。
姫海棠本家のお屋敷。守衛に挨拶をし、客間に通され待つこと数分、何やらドタドタと慌ただしい足音が屋敷に響いたかと思うと、勢い良く障子が開かれた。
「キャー! つかさちゃーん! かわいー!」
でた。これが典がはたてを苦手とする理由だ。
おいでおいでー、と屈んで両腕を広げるはたての表情はこれ以上無いくらいにデレデレに緩みまくっている。
実は、前に会った時も随分揉みくちゃにされたのだ。しかもこちらの話を聞かないものだから付け込む隙さえ無い。
ほら行けと背中を押す龍を、典は今一度恨めしく見つめてから渋々はたての元に向かった。
はたては待ってましたとばかりにぎゅうっと典を抱き締めると、ぐえぇと空気が絞り出される音がした。
「お、お久しゅうございますはたて様。できればもう少し加減をしていただけるとありがたいのですが」
「あっ、ごめんねぇ典ちゃぁん」
謝ってはいるものの、腕の力は一切弱まる気配が無く、そのまま頬擦りとよしよしを並行して行う始末だ。もうだめだ。
「それでは姫海棠殿。うちの典を一ヶ月間、御宅のはたて嬢にお預けするという事でよろしいですね」
「一ヶ月!?」
龍が遅れて入室してきた姫海棠の主人に放った台詞に、典は耳を疑った。話が違うと龍に目で訴えるが、すまん、と目を伏せるだけだった。
驚きのあまり二倍に膨れ上がった典の尻尾ははたての格好の餌食となっており、典の心情をよそに嬉しそうにモフモフを堪能している。
図ったなと気付いた時には既に遅く、はたてのベアハッグは典を逃す気は微塵も無いようだ。
「さあ典ちゃん、ブラッシングしてあげるからねぇ」
典の恥辱に塗れた一ヶ月が今、始まりを告げた。
そしてこの一ヶ月間、典は一緒にお風呂に入れられ、着せ替え人形にされ、写真に撮られ、撫で回され、抱き枕にされ、妹にされ、弟にされ、口に含まれ、過剰な愛情表現の標的にされ続けた。
いつしか典の目から光が消え、龍に対する恨みだけが積もった。
このうらみ、はらさでおくべきか。
絶対にメチャクチャにしてやる。典は心の中で静かに誓った。
かくして、管狐の性かアビリティカードはその意思に反し成功してしまうのだが、典は拗ねに拗ねまくりしばらく龍と目も合わせなかったとか。
テストも終え、商品化への準備は整ったように思えたが一つ課題が残った。カードの量産だ。
想定以上に工数が増え、量産に必要な経費が膨れ上がってしまったのだ。手持ちの資金では到底足りない、それが龍の試算した結果だった。
こんなことでアビリティカードを企画倒れにするわけにはいかない。資金が無いのなら、他の天狗に融資してもらうしかない。
当てはいくつかあるが、資産家である姫海棠家の協力はなんとしても得たい。
そこで姫海棠家の御息女、姫海棠はたての出番だ。あの家は娘に激甘で、はたてさえ取り込めば問題は解決したようなものだ。
懐柔する手段も勿論、ある。
「と、言うわけで典。お前の出番だ」
「マヂですか」
菅牧典はしかめっ面を隠そうともせず、主人である龍の顔を見た。姫海棠はたては典が唯一苦手としている相手で、龍も勿論それを知っている。
「大マジよ。それにたった一日だ。一日我慢してくれれば融資が得られる。協力してほしい」
協力してほしいなどと言ってはいるが、その言葉には有無を言わせないものがあった。
口振りからして、既に向こうと話がついているのだろう。嫌だと言っても無理矢理協力させるつもりなのだ。
一日か。はぁーと大きなため息と共に、典は肩を落とした。これから起こる事を考えると嫌気が差すが、これも従者の務めと覚悟を決めた。
「ご褒美、ちゃんと用意しておいてくださいね」
「わかったわかった。じゃあ行くぞ、姫海棠の本家に行くんだ。粗相のないように」
はーい、と気の無い返事をする典の姿は、耳も尻尾も力なく垂れ下がっていた。
姫海棠本家のお屋敷。守衛に挨拶をし、客間に通され待つこと数分、何やらドタドタと慌ただしい足音が屋敷に響いたかと思うと、勢い良く障子が開かれた。
「キャー! つかさちゃーん! かわいー!」
でた。これが典がはたてを苦手とする理由だ。
おいでおいでー、と屈んで両腕を広げるはたての表情はこれ以上無いくらいにデレデレに緩みまくっている。
実は、前に会った時も随分揉みくちゃにされたのだ。しかもこちらの話を聞かないものだから付け込む隙さえ無い。
ほら行けと背中を押す龍を、典は今一度恨めしく見つめてから渋々はたての元に向かった。
はたては待ってましたとばかりにぎゅうっと典を抱き締めると、ぐえぇと空気が絞り出される音がした。
「お、お久しゅうございますはたて様。できればもう少し加減をしていただけるとありがたいのですが」
「あっ、ごめんねぇ典ちゃぁん」
謝ってはいるものの、腕の力は一切弱まる気配が無く、そのまま頬擦りとよしよしを並行して行う始末だ。もうだめだ。
「それでは姫海棠殿。うちの典を一ヶ月間、御宅のはたて嬢にお預けするという事でよろしいですね」
「一ヶ月!?」
龍が遅れて入室してきた姫海棠の主人に放った台詞に、典は耳を疑った。話が違うと龍に目で訴えるが、すまん、と目を伏せるだけだった。
驚きのあまり二倍に膨れ上がった典の尻尾ははたての格好の餌食となっており、典の心情をよそに嬉しそうにモフモフを堪能している。
図ったなと気付いた時には既に遅く、はたてのベアハッグは典を逃す気は微塵も無いようだ。
「さあ典ちゃん、ブラッシングしてあげるからねぇ」
典の恥辱に塗れた一ヶ月が今、始まりを告げた。
そしてこの一ヶ月間、典は一緒にお風呂に入れられ、着せ替え人形にされ、写真に撮られ、撫で回され、抱き枕にされ、妹にされ、弟にされ、口に含まれ、過剰な愛情表現の標的にされ続けた。
いつしか典の目から光が消え、龍に対する恨みだけが積もった。
このうらみ、はらさでおくべきか。
絶対にメチャクチャにしてやる。典は心の中で静かに誓った。
かくして、管狐の性かアビリティカードはその意思に反し成功してしまうのだが、典は拗ねに拗ねまくりしばらく龍と目も合わせなかったとか。
個人的に新カップリングを見るとテンションが上がるという体質を持っていることもあり、とても楽しく読ませていただきました。
おかしくなっているはたてがよかったです