Coolier - 新生・東方創想話

恋色 Mystic Princess

2006/01/25 12:23:22
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※百合成分が含まれています。というか百合だらけです。
※アリスとパチュリーのカップリングです。
※15禁?
※それでも構わないという強者だけお読み下さい。




※本当にいいんですね?






「パチュリー様、アリス様がいらっしゃいましたが」
「通してちょうだい」
「はい」

ここは紅魔館、ヴワル図書館。来客などほとんどなかったこの場所に、最近よく客が訪ねて来るようになった。
特に頻繁に来るのが、紅霧騒ぎ以来の黒白の魔法使いと、もう少し新顔で永夜騒ぎ以来の七色の魔法使いだった。
両方ともこの場所に集積されている知識に多大な関心があるし、パチュリーとしても二人から代わりに持ち込まれる魔道書や魔具の数々から学ぶものは多かった。
だから、二人を追い返すことはしなかった。自分の領域に踏み込まれることに多少の面倒を感じてはいても。

「こんにちは。昨日の続きに来たわよ、パチュリー」
「いらっしゃい。好きに読んで行くといいわ、アリス」
読んでいる本から顔も上げずに答えたパチュリーに、アリスは特に気を悪くすることもなく、目当ての本を引っ張り出して読み始めた。
アリスの人形達は、没頭しきっている主人の邪魔にならないよう、司書の小悪魔のもとへと飛んで行っていた。
手先が器用で可愛いものが好きな小悪魔にとって、この人形達が来る日は非常な楽しみだった。
色とりどりの布地でドレスを仕立てて着せたり、おはじきやカードなどで遊んでやったり。
パチュリーも、特に言葉には出さないが、人形達の来ている日には極力小悪魔を呼ばないようにしている。
どんなに有能な司書も、たまには休ませてやらないとうまく働けない。
…まあ、輝くような小悪魔の笑顔を見るのはそう悪い気分でないのも、また事実ではあったのだが。

二人は向かい合うように閲覧机に着き、小悪魔が持って来た紅茶を飲みながら、ただ静かに本をめくり続けていた。
…いや、少なくともアリスは熱心にそうしていた。だから、気付かなかった。パチュリーが、時折横目に彼女を観察していたことを。
ふわふわの金髪ととびきり深くて澄んだブラウンの瞳、それにつんと尖った赤いくちびる。すべらかで柔らかそうな肌。
取り澄ました、でも生気を隠し切れないどこか挑戦的な表情。それらを見ると、思わずパチュリーの口からため息がこぼれた。
彼女は、とても愛らしかった。きっと、魔理沙もそう思うのだろう。それを考えると、ほんの少し胸が痛かった。
月の異変の際には、二人は力を合わせて行動していたと言う。どうして自分を誘いに来てくれなかったのか。
…魔理沙のことだ。たぶん、手近に住んでいるアリスをちょうど良いと引っ張って来たのだろう。
(事実はどうあれ)彼女はそう信じていた。しかしそれでも、少しだけ腹が立った。
ほんの少し、毛ほどに微かな言葉のイントネーションを工夫しつつ、彼女は話しかけた。
「ねえ、アリス」
「…何?」
「今日は魔理沙が来てくれなくて残念でしょ?」
がたん!大きな音がした。椅子からずり落ちたのだろう。パチュリーは内心でほくそ笑んだ。
「…図書館では静かに」
「な、あなたっ、いきなり何」
ちらと目を上げて見ると、真っ赤になったアリスがぱんぱんと服を払いながら身を起こしていた。
「魔理沙が来なくて実験の続きが出来ないから残念でしょって言ったんだけど、どうかしたの?」
澱みもなくすらすらとパチュリーは述べ、いつものような無愛想な表情の中で目もとと口の端だけを僅かにゆるめた。
「っ…べ、別になんでもないわよ!」
さしもの都会派のエレガンテもどこへやら、どっかと椅子を砕かんばかりに腰掛けると、彼女は憤然と本に目を戻したのだった。
パチュリーは目だけで意地悪く笑ったが、ふと気付いた。これは、ただアリスの気持ちを確認しただけではないか。強力なライバルの気持ちを。
高揚していた心は萎え、彼女は視線を下げて再び本の文字へと目をやった。

…何て綺麗なんだろう。ちらりと視線を上げて、アリスは思った。
長く艶めかしいラベンダー色の髪、底の見えない深い紫の瞳、病的を通り越して神秘的でさえある雪白の肌、ネグリジェの上からでもうかがえる豊かな身体の曲線。
そして、僅かな動きだけで様々な意味合いの表情を見事に作り上げる苺の色の小さな唇。
魔理沙は、この少女と仲がいいらしい。なにぶん、この図書館はあの本泥棒を強力に引き寄せる。
当然、訪問回数も多くなると言うものだ。…そう、魔理沙に他意がないのは分かっていたのだが、やはり落ち着かなかった。
いや、他意と言うのは何だ。魔理沙がどういう気持ちを抱こうがアリスに関係はない。
…そうだ、これはあくまで学術的好奇心による心理調査なのだ。
先ほどのお返しも兼ねて、彼女は軽く探りを入れた。
「ねえ、パチュリー」
「…何」
「あなたも何だか物足りなさそうね、今日は」
しかし、帰って来たのは沈黙だけだった。そして、少ししてようやくパチュリーは答えた。
「そりゃ、研究に協力してもらえないからね。済んだことで読書の邪魔をしないで」
「…っ」
アリスは歯噛みをしながら視線を本に戻した。しかし、彼女は確かに見た。パチュリーのくびすじにほの紅く血の気が上ったのを。
同じ気持ちを持つものとしてはっきり判った…彼女の本心は、きっと。
沈黙の中で、視線すら交わさないままに、二人の思念は絡み合い、戦い続けていた。

その次の日も、アリスはまたパチュリーを訪ねて来ていた。
我ながらおかしなものだとアリスは思っていた。恋敵のところに来れば気分が悪くなるだけなのに。
それなら、魔理沙の家をこちらから訪ねるべきだろう。
パチュリーもまた、不思議に思っていた。魔理沙はどう防いでも入って来るが、アリスは拒めば(基本的には)入って来ない。
読書の邪魔をする客の来訪を、なぜ彼女は受け入れているのだろう?
おそらく、相手に対して意地を張っているのだろう。非常に不本意ながらも、二人ともそう認めていた。
そして、そのままその次の日もアリスは図書館を訪ね、そのまた次の日もパチュリーは客を迎えていた。
時折休みを入れつつ、あるいは魔理沙も交えつつ、そんなことを1ヶ月ばかりも繰り返しただろうか。
「こんにちは」
「いらっしゃい」
回数を経るにつれて、二人のやり取りは簡易になって行った。
日々ほとんど表情の変化もなく、魔法に関する議論を除いてはろくろく言葉を交わすこともなく、ただ互いに空気のように相手の傍にいる、そんな静かな時間が続いていた。

…しかし、それとは裏腹に。二人の視線が、こっそりと互いを捉える回数は増えて行っていた。
ことにアリスの方は、態度にことさら素っ気無さを増しつつも、相手を窺う動作はいらいらと不安げになって行った。
やがて、ある日のこと。その日は曇りで、しとしとと銀の糸のような雨の降る日だった。
水滴の落下は無秩序なはずなのに、それが奏でる音はどこか規則的でここちよく、緩やかで甘美な死のように身体の力を抜いて行った。
パチュリーはいつしか、机に座ったままうとうととしていた。心地よいまどろみの中、彼女は魔理沙と初めて会った時を夢に見ていた。
追憶の中でも色あせることのない、生命の輝きでいっぱいの彼女の笑顔が、パチュリーの心の隙間を温かく埋めて行く。
…そう、だから惹かれた。自分にはないものを持っている彼女だからこそ、何よりも愛しく感じたのだ。
しかし今日は、その笑顔の隣りに何やらおぼろげな影も共に見えていた。
(…?)
今まで見たことのなかったそれを、パチュリーはじっと見つめていた。徐々にそれは黄金の輝きを帯び、輪郭をはっきりさせ、やがて全貌を現した。
たなびく金の髪と、優しく快活なブラウンの瞳…つまりはアリスの顔だった。
彼女は、今まで一度も見たことのない笑顔で、魔理沙の隣りからパチュリーに笑いかけていた。
しかし、パチュリーには分かっていた。きっと、アリスはこんなふうに素敵に笑えるのだ。
見たことがなくても、これこそがアリスの本来の笑顔に間違いなかった。
そして、それを魔理沙に見せたことがないのもまた、間違いなかった。なぜなら…

「…ん…」
ふと、身体に何かが触れるのを感じて彼女は目をうすく開いた。
おぼろげな視界が少しづつはっきりして行き…そこに見えたのは、またも金の髪とブラウンの瞳…隙だらけで、優しげなアリスの顔だった。
ただ、なぜだか少し頬が赤い。透き通った瞳と赤い顔を間近で見ていると、胸の鼓動がとくとくと高鳴るのがわかった。
「…アリス…?」
呟いたとたんに、アリスはばっと飛び退いた。
「一体何…」
言いかけて、パチュリーは気付いた。彼女の身体に毛布がかけられていた。
「こ、小悪魔に頼まれただけなんだからね!私はあなたが風邪を引いたって知ったことじゃないんだから!」
視線を向けられるや、まだ何も言わないのに、アリスは顔を真っ赤にしてがあっとまくし立てた。
パチュリーはくすっと笑った。嘘ばっかり、と。あんなに嬉しそうに毛布をかけてくれようとしていたのに。
その必死な慌てぶりが、とても可愛らしかった。

…起きたばかりの心は、まだ夢の世界から帰ったばかりだ。月の下で開かれる心の扉は、太陽の下で意識が鍵をかけるまでは開かれたままになる。だから、今まで隠れていたパチュリーの本心は、何に遮られることもなく身体を動かして、最も素直な行動を取らせた。
彼女は立ち上がり、ゆっくりとアリスに近づいた。
「…な、何よ…って、ちょ、ちょっと…何を…んむぅっ…?!?!」
「…ん…」
パチュリーの両腕がゆるやかにアリスをからめ取り、唇がそっと重なった。
ただ唇を重ねただけだったが、それだけに他のどんなキスの形よりも強烈に気持ちが表されていた。
そのまま、ただ前へ、前へとパチュリーの唇は進み、ひたすらに心を注ぎ込んでいった。
アリスは声にならない声を上げながらじたばたともがいたが、すぐにその身体からは力が抜け、目が潤んで蕩けた。
やがて、永遠ほどに長い僅かな時間の後に、二人の唇が勢い良く離れた。とろりと光る糸が、その間につうっと垂れ落ちた。

「ちゅ…ぷは…」
「…っはぁっ…」
アリスは、そのまま膝を折って床にへたり込んだ。七色にちかちか瞬く世界の中でよく見れば、パチュリーもだった。
視線が彼女から逸らせなかった。胸が破れそうなほど高鳴っていた。
「…ようやく…判った」
身体を小刻みに震わせながら、やがてパチュリーが口を開いた。真っ赤な、それでもいつものように素っ気無い
表情で。
「…意地じゃなかった。あなたが愛しいから、私はあなたを拒絶しなかったの。だって、あなたは私と同じだから。他人にも、自分にすらも素直になれない、Locked Girl.」
「…えっ…」
すでに燃えているような顔が、さらにかあっと熱くなった。肉体とは、なかなか耐熱性に優れたものだ。
「私は魔理沙が好き。だけど、あなたも好き。自分に欠けているものと、自分自身。どっちだって愛しいものだから。
だから、私は決めたの。魔理沙とあなた、どっちも手に入れてみせる。どっちをどっちに取られるのも許せないから」
動き出した不動は、簡単には止まらない。淡々とした口調に火のような想いを込めて、パチュリーは語り続けた。
「…あなたは、私の手に入ってくれる?」
彼女は、言葉を切ってそっとアリスの目を覗き込んだ。アリスは、からからの口をぱくぱくと開けて、必死に酸素を取り入れようとした。
勝手に涙が溢れていた。苦しくてたまらない胸を両手でぎゅっと押さえて、今にも消え入りそうな声を絞り出した。
「…だから…私もずっと、ここに来ていたんだと…思う」
その返事を聞いたか聞かなかったか、パチュリーの腕が、その柔らかに息づく胸にアリスの頭をどこまでも優しく、しっかりと抱きしめていた。
その時、そこにたまたま顔を出しかけた小悪魔は、慌てて傍らの上海人形の目を覆って、全力で逃げ出していた。


…そして、その二日後のこと。
「…ちょ、ちょっと待て、ストップ!何でお前ら、コンビで撃退に来てるんだ?!」
あちこち被弾してぼろぼろの本泥棒、もとい魔理沙が叫んだ。
パチュリーとアリスはスペルを展開する手を一時止め、にっこりと笑みを交わした。
「利害が一致したから、かしらね」
「あなたが光を落とし過ぎるから、影が濃くなって気付いちゃったのよ。自業自得だわ」
「何だそりゃ?!」
「問答無用よ。『白亜の露西亜人形』」
「加えて『月符 サイレントセレナ』」
「反則ダブルスペルぅううう?!?!??!」
ほうほうの態で一目散に逃げ出した魔理沙を追いながら、二人はくすくす笑い合った。
「二人で一緒に分ければ、どっちも丸く収まるものね」
「違いないわ」


「「…逃がさないわよ、魔理沙?」」

皆様、御久しぶりです。外回りの仕事になると、物語を完結させる気力がなかなか湧かなくって困りますorz

さて、一度でいいからカップリングも挑戦してみようかとふと思い、その勢いのまま一気にがっと仕上げてみました。
…あげく、マイナーにもほどがあるアリパチェ。いや、むしろ魔理沙のハーレムエンド。題名とエンディングに微妙に関係があるのは秘密。

どうか投石だけはご勘弁下さい。

※1/26、ご指摘を受けた箇所を修正。
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コメント



0.1800簡易評価
3.50名前が無い程度の能力削除
俺はマリパチュなので注意書きが許せなかった。けど頑張って読んだ。
俺は間違えちゃいなかった。
7.60haruka削除
一言:同時プレイは疲れますよ?

恋愛ものはいいものです。ハッピーエンドならなおさら。
でも、愛は過ぎれば哀に変わりますよ、そこの幸せそうなお二人さん。
17.60れふぃ軍曹削除
パチェの夢をヤマにするには、少し内容が弱いかなと思いました。
でもまあ、もともと恋愛には理由なんていらない物ですしね。(笑)

個人的にはこういう独占欲なパチェも有りかな~と…。
23.無評価削除
今回は、「相手を強く意識していればこその感情変化」と「魔女+収集家ならではのぶっ飛んだ価値観」に出来るだけ重点を置いてみました。でも、細かい点をあらためて見直してみようとすると身体中がかゆくてダメです。誰か助けて(笑)
26.40名前が無い程度の能力削除
…魔理沙のことだ。たぶん、手近にいた者をちょうど良いと引っ張って来たのだろう。

これ。永夜って、妖怪が人間を引っ張り出す設定だったはず。
33.100削除
パチュアリ派です。えぇ、もちろん。

まぁ、あのツンデレが魔理沙を連れ出すってシチュは、知ってないと思いつかないかも知れない。
34.無評価削除
>>永夜って、妖怪が人間を引っ張り出す設定だったはず

しまった…しばらく妖phばかりで永夜をやってなかったツケが回ったかorz
ご指摘ありがとうございます、確かにその通りでした。修正します。
47.70自転車で流鏑馬削除
>だって、あなたは私と同じだから。
>他人にも、自分にすらも素直になれない、Locked Girl

すげえ、このパチュリーかなりジゴロジゴロしてる!!