Coolier - 新生・東方創想話

病膏肓・雪粉症

2006/01/24 09:19:53
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一 白い刺客たち


 ――くちんくちん!

 ト景気よく鼻を鳴らしてやまないのは誰あろう、ここ博麗神社のぬし、巫女の霊夢にほかならない。
「なンだ。風邪かね」
 愉快そうに覗き込む相方は、ご存じ魔法使の魔理沙。
「そうじゃあないわよ――」
 いまいましげに唇とがらせ霊夢いわく、「あンたとちがって、鍛え方がちがうもの。そうそう風邪なんかしょい込んだりしないっての」
「へぇ、へぇ、どうせこちとはインドア派ですがねぇ――この寒空にその格好じゃ、小風邪も引くだろう、よ」
 む、と霊夢がしばし言葉につまったのは、おのれの服がなるほど冬支度にはあまり向いていない、ということを実感しているからでもあったろうか。
 それにじじつ、今まさにチラリハラリと粉雪が降り始めている。
「仕方ないでしょうよ! どだい決まりなんだもの」
「はぁん……巫女稼業も楽じゃないてか」
「まぁ、そう、くちんっ、ぐす、ぐす。あぁ、もう」
「風邪じゃないって言うなら」飛んでくるしぶきをスラリハラリと回避しながら魔理沙。「いったいぜんたい何なんだい」
「それが分かれば」世話はない、と言いかけてまたもやくちんくちんとくしゃみの大安売りというありさま。
「やれやれ。オヤ――ちょうど、事情通っぽいのが来やがるが」
 ふたりが腰掛けている縁側にヒラリハラリと舞い降りてきたのは、これなん天狗の射命丸、ブン屋稼業は足で稼ぐ、どっこいこちとら羽がある――の、文であった。
「おお寒い……おやまぁ! 巫女ともあろう者がくちんくちんと無様なクシャミ、これはとんだお笑いぐさですね」
 頭に乗った雪を払いながら、カラカラと嗤う文。
「毟るわよこの鳥畜生」
「毟られるのは嫌ですね。……見たところ、風邪でもないのに?」
「だからなおさら」困っているというのに、と言いかけてまたもや一人くしゃみのつづれ長屋。
「ああ」ポンと手を打つ天狗文。「それは、アレですよ――雪粉症」
「なに? せっぷんしよう?」
「てんで違います。そもそも、雪粉症とは……」

 ――ごく最近、見られるようになった病の一種。ふだんはこれっぽっちも難なき太平そのものだが、ある特定の粉雪に身体が過剰に反応し、くしゃみや目の痛みなどの諸症状をずんずんずいずいと引き起こしてくる。

「ふーん。だが私はてんで何ともないのにな」
「個人差があるのですよ。妖、人を問わずにね。私も今のところはてんで大丈夫ですが……」
「くちんくちん」
「てんでふだんの行いの差ってやつかね」
「てんでそんな具合ですね」
「どういう、意味よ!」
“そのままの意味だよ”
 ふたりして魔理沙と文は思った。


二 ドクター、今何と?


「――それで」
 八意永琳は鍼を握り直した。「私に治してほしい、と?」
「治せ、とまでは言わないわよ」鼻を赤らめ、目も腫れぼったい霊夢。「防ぐ方法を教えて頂戴」
 フムン、と薬師は隣の寝台を見やった。
「あれぐらい鍼を差せば、わりと大丈夫だと思うけれど。わりと、ね」
「……あれ、動けるの?」
 寝台に横たわり、両の耳にびっしり鍼を差された優曇華院に顎をしゃくり霊夢。
「動けませんよぉ。そりゃ確かに、症状は治まりましたけど、どだい重すぎて……これじゃ歩くたびに鍼が動いてぶつかり合って大ごとですよ!」
 情けない声でぼやく優曇華院。
永琳「結局のところ……」
霊夢「ところ?」
永琳「これはもう、雪に触れないようにするしか手立てはないわね。つまりは冬のあいだ、ずっと引きこもっていれば良いのよ」
霊夢「簡単に言うじゃないの。あんたのところのお嬢様じゃあるまいし、こっちはそんなに暇じゃないんだからね!」
「暇でしょ」呆れ顔の永琳。
「暇だぜ」付き添いの魔理沙。
「暇ですよね」付き添い二号の文。
「うるさい煩い五月蝿い」当の巫女。
 詮方ないわねぇ、と八意永琳は肩をすくめ「ま、ひとつ、手がないではないけど」
「と、いうと?」
 薬師は慌てずさわがず、説明を開始した。


三 レティの時代


「レティ様レティ様! 大変ですたいへんです」
 かまくらの中で冷凍みかんの皮をむいていた手を止め、冬妖怪レティはぶしつけな闖入者を見やった。
「おやチルノ……どうしたのそんなに慌てて。まぁ冷凍ゴタツにでも入って涼みなさい」
「どっこい、そんなにのんびりしてる場合じゃないんですよレティ様!」
「というと何が?」
「巫女です巫女! あの妖怪なみの巫女が、レティ様を探し回ってるんです」
「そりゃ悪い知らせだこと。でもどうして」
「しかじか」
「なるほどね……雪粉症だから、私が寒気を操ってより寒くするのを防ごうっていうの? 人間らしい身勝手な考え方」
「批評はおいといて、早く風くらって逃げないと、手ひどい目にあいますよ」
「いや! むしろ逆に、これはチャンスではなくて?」
「へぇぇ?」
「だって相手は、雪粉症で弱ってるんでしょ? そんなら、今迎え撃てば、こっちが断然有利って寸法。降りかかる火の粉も払えて、しかもいつぞやのリベンジも果たせるって次第よ」
「い、いわれてみれば……さすがレティ様、クールデブー!」
「……クールでビューティー、と教えたでしょ」
「こりゃ失礼しました。じゃあさっそく巫女の畜生めを懲らしめに行きましょうや。クールでB級のレティ様!」
「あんた、わざと間違えてるでしょ」


四 雪をも溶かすくちづけを


 レティやチルノをちょちょいのちょいと退治たものの、さして降雪量が変わったわけでもなく、霊夢はなおも雪粉症に悩まされていた。
「あぁもう……こんなことなら、あいつみたいに冬眠したいくらいだわ……くちゅんくちゅん!!」
「おやまぁ、まだまだ苦労してるのね」
 と能天気に訪ねてきたのは、同病相憐れみあうはずの優曇華院であった。
「ほっといてよ……って、あんた、雪は平気なわけ? 鍼だって刺さってないのに」
「というのは、」ウドンゲいわく「人にうつしたら、直ったのよ」
「へぇぇぇ……!?」
 彼女によれば。
 サンプルを得ると称し、いろいろと兎体実験を繰り返したあげく、永琳はみずからが雪粉症になってしまった。
 それを境に、優曇華院のほうはすっかり完治してしまったのだ、という。
「因果はめぐるって感じだけど……風邪じゃあるまいしねぇ?」
「いかさま。風邪ではないわ」
 と、ひょっくり現れたのは、人形使のアリスであった。
「えぇ? あんたに何が分かるって言うのよ」
「は、ご挨拶じゃないの。せっかく、あんたの雪粉症の元凶を取り払ってあげようっていうのにさ」
「へぇぇ……?」
 そこへ、マスク姿の永琳がやってきていった。「雪粉症の原因が分かっ……クシュン! つまりその、元凶は……あなたなのよ」
「はぁぁ??」
 ドクターはなおいう。「あなたの体内の虫――疝気の虫か悋気の虫だかは知らないけど――が、何らかの影響で妖怪化したわけ。その微妖怪は、あなたを宿木にして仲間を増やし、大量にばらまいているのよ。ウドンゲから私に移ったのは、私のほうが居心地が良かったんでしょうね」
「ちょっと、淡々ととんでもないこと言わないでよね! ……じゃあ何? 私の頭だかお腹だかに妖怪が棲んでるってこと?」
 まぁそうねとうなずいて永琳、「たぶんその微小妖怪――仮に、寒気の虫とでも名づけましょうか――が雪に過剰反応することで、雪粉症の諸症状が出るんでしょうね……ぐしゅぐしゅっ」
「タチの悪い話ねぇ……まさか身体の中にお札は撃てないし?」
「そこで、よ」アリスニヤリ。「私がこしらえた、この子たちが役立つって寸法なの」
「……はぁ? 何? ただの小汚い手のひらで、何にもないじゃないの」
「汚くないわよ! 節穴のあんたには見えないでしょうけどね。ごく小さい人形が載ってるの」
「!? ちょっと、まさか?」
 そのまさかよ、とアリスニタリ。「この微小人形をあんたの体内に送り込んで、その寒気の虫とやらを退治するってわけ。そうすれば、他の分身は自壊するそうだから」
「嫌よ!」
「わがままねェ。治りたくないの?」
「治りたいけど! そんな妙なものを、口に……」
「あぁ、もう鼻から入っていったから」
「!?」
 霊夢がとっさに鼻を押さえるのと、お留守になった口へとアリスが人形を送り込んだのは、ほぼ同時であった。
「~~~~~~~~~!!」
「さぁ、頑張ってきて頂戴」アリスニコリ。


 かくして、雪粉症の原因たる『寒気の虫』を討つべく、アリス操る微小人形たちが霊夢の体内に侵入し、死闘を展開することとはなるのだが、それを詳述するにはチト稿がたりない。
 口内における雑菌妖怪との攻防、胃における酸の海の恐怖、腸を駆け抜けるスピード対決……いや、なかなか一口に語りつくせるものではなく。
 ちなみに、虫について詳しい虫妖怪のリグル・ナイトバグは、一連の騒動についてこう語っている――
「なんでも虫のせいにされちゃう、っていうのは正直、違和感があるっていうか。どだい、巫女の虫が化けたのも、彼女が妖怪じみてるからなんじゃない? ぶっちゃけ自業自得だよね。そうやって、なんでもかんでも責任を他所に押し付ける風潮はどうかと思うよ」
 が、彼女が発言したのはとうに雪も溶け、風もなまぬるくなって久しい時分であったから、人々は雪粉症のことなどすっかり忘れてきっていたのであった。
雪というものはなかなか付き合うと難儀なものであります。
そうはいってもまぁ、折り合いをつけてやっていくしかないのですよね。なにごともね。
どうせ免れえぬのなら、せいぜい愉しんでやる、くらいの気持ちで。むしろひとつ。
それにしても雪もね、せめてあれで冷たくなければねぇ、と思わないではないですよね。
まーでも、しょーがないですよね。こればっかりはね。雪なんだし。
だけど雪のほうもね。もうちょっとこう、遊び心が欲しいというか。たまに緑色、とかそういうね。
「雪だと思ったらカエルだった」って、そりゃチルノの悪戯だろうというね。ひどい話ですよね。
寒い話を書くとむしろ暖かくなるのでは?と思ったけどそうでもないですね。カタカタ。
STR
http://f27.aaacafe.ne.jp/~letcir/
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コメント



0.1430簡易評価
6.70床間たろひ削除
去年より花粉症デビューの俺。このうえ冬までくしゃみ鼻水に悩まねばならぬ
とはー!
とりあえずアリスのミクロン人形は「マギー!」とか叫ぶんでしょうか?

相変わらずのノリ、大好きですw
26.無評価七死削除
レティチルがあんまりと言えばあんまり(ノД`)
しかし毎度毎度良くお創りになられる、その発想力が羨ましい。

後一ヶ月かそこいらで引っ越すのですが、今の部屋の暖房が全て
ぶっ壊れてしまい、治そうか治すまいか考え中です。 ガタガタ。
28.70A削除
軽快!でもレティチルあんまりッスよぅ。

>微小人形
史上最弱が…最も恐ろしい。
29.80はむすた削除
ノリが良くてすいすい読めるー。
面白かったです。
ちょっと短いのが残念なくらいに。
32.60反魂削除
綺麗なノリ。
日本語の上手さを感じました。

また花粉症の季節か(鬱