ご注意。
この作品には少々残虐な描写が含まれます。
0
内臓が引きずり出される音がする。
痛覚は遥か昔に吹き飛び、ただ意識だけが此処にある。
死んでしまえれば楽だろう。
だが、死ねない。
もし死んでしまえば、意思の範疇を超えた体の再生が始まってしまう。そうすればコイツ等の食料を増やすだけで、いつまで経っても家には帰れない。
朧な意識で再生を抑えつつ、思う。
何故こんな事になったのだろうかと。
だが、それが不味かった。
脳裏に浮かんだのはアイツの顔。
無意識に、怒りが湧き上がる。
制御出来ない力が全身を駆け巡り、嫌でも体の再生が始まった。
嗚呼、嫌だ嫌だ。コイツ等には、今まで一度も勝てた事がないというのに。
また、勝てない戦いをしなくては。
1
愛された記憶など無かった。
だが、父親は父親だった。
だからこそ怒りは湧き、そして少女は帝の手から薬を奪い取った。
焼かれるならばとそれを飲み干し、望まずして少女は不老不死となった。
……
変化する事の無い少女の外見は疑念を呼んだ。
それを誤魔化すように少女は住む土地を変え、各地を転々とした。
そして……ようやっと見つけた安住の地は、人間の寄り付かぬ山奥だった。
だが、人間が寄り付かぬのには理由があった。
其処は、恐ろしい妖怪達の住処だったからだ。
退治されぬ妖怪は脅威でしかなく、結果人々は山中へと寄り付かなくなっていった。
しかし、それでも妖怪は里の人間を襲い、その腹を満たしていた。
そんな場所に、不老不死である少女が現れた。
喰っても死なず、蘇り続ける少女が標的になったのは、最早必然。
殺され続ける日々の始まりだった。
2
荒れた息を吐きながら、少女は地に倒れこんだ。
「……」
今日は逃げ切る事が出来た。
明日も逃げ切る事が出来るだろうか。
日々鍛錬は続けている。しかし、妖怪の力は人間である少女とは桁が違う。
「……帰ろう」
何度考えた所で、結果は変わらない。
ならば、もっと強くなれるようにならなければ。
体に付いた汚れを無造作に叩いて、少女は自宅への道をゆっくりと歩き出した。
3
「……」
嫌な事は重なるのだろうか。
思い出したくもないヤツの顔を思い出した日に限って、こんな目に合うとは。
「……ハ」
燃えていた。
自宅にしていた空き家は、数人の人間の手によって火がくべられ、轟々と燃え上がっていた。
人間の一人が、少女に気付いた。
その瞳にあるのは恐れで……妖怪に対するそれと変わりはなかった。
「ハハ」
笑い声が漏れる。
おかしな事があったものだ。
視界は涙で滲んでいるというのに。
4
当てもなく、ただぼんやりと歩いていく。
悲しいとか辛いとか、そんな感情が浮かんでは消える。
流れてくる涙に、声を上げて泣き出したくなる。
もう、何もかもが嫌になっていた。
と、そんな時だ。
森の奥から、楽しげな声が聞こえてきた。
少女の気持ちとは正反対のそれに怒りが湧くも……こんな場所で宴会を開く者達の顔も気になった。
ゆっくりと歩を進め、少女は暖かな光を持つ宴会の場へと忍び寄った。
5
「……え?」
自然、声が出た。
だが次の瞬間、馬鹿な事をしたと確信した。
そして、宴会の場に居る者達全員の視線が、少女に向いた。
全員、角を生やしていた。
6
逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる――
あれは鬼だ。
妖怪など、ましては人間など足元にも及ばない。
嗚呼、あれが鬼だ。
鬼の宴会に足を踏み入れてしまった。
逃げる傍から足音が響く。
笑い声が響く。
ただ、逃げる。
7
もう、逃げられない。
8
手を捥がれる。足を砕かれる。頭を潰される。
だが、死なない。
再び動き出した心臓を抉られる。自身の内臓を喰わされる。脳を掻き回される。
だが、死なない。
体を燃やされる。体を両断される。体を酒樽に沈められる。
だが、死ねない。
これは鬼の宴会。
終わる事が無い宴会。
朝も昼も夜も。
絶叫と、笑い声だけが響く。
9
そして……気が付けば、少女は鬼達から奇異の目を向けられていた。
助かったのかどうかは解らない。
しかし、終わらないと思っていた苦痛は止んでいた。
「……」
不意に、立ち向かってみようかという気が起きた。
勝てる相手達でないのは百も承知。
しかし、もう恐怖は無い。数百と繰り返した死の内に消えてしまった。
だから、と思う。
このまま酒の戯れに殺され続けるのなら、例え一発でも殴ってやろうと。
「――」
腹が決まれば、行動はすぐだ。
気合を叫びとしながら起き上がり、少女は鬼達へと向かって行った。
10
響く響く音が響く。
酒の席に音が響く。
拳と拳の音が響く。
気が付けば、少女は幼い外見を持った女の鬼と相対していた。
11
鬼が名乗る。
「私は萃香。伊吹の萃香。アンタは?」
少女は答える。
「――藤原・妹紅」
……
腕が飛ぶ腹が飛ぶ頭が飛ぶ。
振るわれるは豪腕。
人の身である妹紅には止められない。
だが、妹紅は死なない。
何があっても死ぬ事は無い。
何度でも何度でも、蘇っては立ち向かっていく。
12
そして。
「あ」
一発。
萃香と名乗った鬼に、初めて一撃が入った。
だが、次の瞬間には数十メートルの距離を吹き飛ばされていた。受身を取れず、地に叩き付けられた妹紅の体を次に襲ったのは、痛みではなく、楽しそうな笑い声だった。
「好い加減頑張るなー、とは思ってたけど、まさか私に一撃入れるなんてね」
笑みを持ち、体から力を抜いて萃香は言う。
「妹紅って言ったっけ? アンタ、此処に来てからずっと体を鍛えてたよね。毎日妖怪に襲われてもめげずに、ただひたすらに」
何故その事を知っているのか。
問いかけようと開いた口に差し出されたのは、萃香が持つ瓢箪だった。
「死なない人間は初めてだったけど、私を殴ってみせた人間も始めて。だから、アンタも宴会に参加しなさい。アンタみたいなのが居れば、もっと宴会は騒がしくなるから」
言葉の意味がすぐに飲み込めない。
だが、
「――」
妹紅へと萃まる視線に、恐ろしさは感じなかった。
13
それは不可思議な感覚。
つい先日までは自分を殺して遊んでいた者達と一緒に酒を飲む。
様々な話を聞き、笑い、泣く。
だから、と思う。
自分とは違うのだと、そう実感する。
彼等は鬼であり、人間である妹紅とは違う生き物なのだと。
そう割り切ってしまえば、後はもう酒の席を楽しむのみだった。
14
長い……長い間、宴会は続いた。
気が付けば、過去の話も、自身が不老不死である事も、全て全て酒のせいにしてぶちまけた。
恨みも、辛みも、全て、全てを。
だから後には、虚無が残った。
15
そして、更に長い時が流れた。
ただ酒を飲み続ける日常に少しずつ飽きてきた妹紅は、萃香にある提案をした。
「私に稽古をつけてくれない?」
独学で強くなるには限界がある。しかし、目の前には人間の限界を軽く超えた者が居る。
半ば無謀かと思いながらの問い掛けは意外にも快諾され、その日から再び萃香と拳を交える事となった。
16
そんな日々が暫く続いた頃。
妹紅の身の周りに兎が現れるようになった。
……
兎。うさぎ。ウサギ。
まるで妹紅の命を狙うかのように。
……
輝夜と再会したのは、そのすぐ後の事だった。
17
空になっていた心に、再び何かが満たされる感覚。
終わりの無い殺し合い。
アイツを、いつまでもいつまでも殺す事が出来る。
嗚呼、これ以外に何を望もう。
18
だから少女は気が付かなかった。
この幻想郷が外界から隔離された事に。
そして少しずつ、鬼が居なくなっていった事に。
19
「萃香ー」
20
「何?」
森の奥深く。
久しぶりに逢った萃香は、昔と変わらぬ姿で酒を飲んでいた。
その姿に苦笑しつつ……ふと、あれだけ騒がしかった宴会が、彼女一人だけになっている事に気が付いた。
「一人で飲んでるなんて珍しいじゃない」
「んー、そうでもないよ」
久々に萃香から杯を受け取りつつ、何気ない話をしていく。
だが、彼女の表情が少しだけ暗かったのは何故だったのだろうか。
……
暫くして、萃香が突然声を上げた。
「……決めた。宴会をやるわ」
それは本当に突然で、そしてその時の彼女の姿は少し儚げで……だから妹紅は、その提案に対して何も言う事が出来なかった。
ただ酒を飲み、頷く事しか出来なかった。
……
それから暫く経ち……人間と妖怪が一緒になり、妹紅の元へと肝試しに現れた。
奇妙なその組み合わせ。しかし彼女達は萃香の事を知っていた。
そして少女は知る事になる。
この幻想郷に、鬼はもう居ないのだという事を。
21
「ごめんね、萃香」
「別に良いよ」
「でも……」
「良いって。その代わり、次の宴会からはアンタも参加しなさい。どれだけ強くなったか、また確かめてあげるから」
微笑む萃香に頷きを返す。
傾ける酒は、懐かしい味がした。
――――――――――――――――――――――――――――
0
夢を、見た。
様々な事があり、そして様々な人妖と出逢って来た過去の夢。
だが、これは夢だ。
遠い遠い、昔の夢。
何故だろう。
少しだけ、視界が滲んだ。
1
人里にある、少々大きめの屋敷。
教室としている部屋の戸を開けながら、私は普段と変わらぬ台詞を口にした。
「よし、授業を始めるぞー」
私の声が響くと同時、部屋の中に居た子供達が声を上げながら席に着いていく。
その姿を微笑ましく眺めつつ、一人一人の顔を確認する。
「欠席は居ないな。それじゃ、今日は国語からだ」
言いながら、持参した鞄から教科書を取り出す。もう何年も使い古し、何度も糊で綴じ直したそれを教卓の上に起き、鞄を床へと降ろそうとして……生徒の一人が声を上げた。
「今日の先生、なんか別人みたーい」
「別人?」
別人とは、どういう事だろうか。
疑問を浮かべる私に対し、生徒達は口々に別人別人と繰り返す。
「一体、何で別人なんだ?」
その意味が解らない私の問いに、
「先生、いつもと着てる服が違うから」
「服が?」
言われ、自分の服装を見、
「あ」
と、小さく声が漏れた。
別人と言われるのも仕方が無い。何故なら今日の服装は――
「でもさ、その服の方が、妹紅先生には似合ってるかもしれないよねー」
……
慧音が死んでから、私は彼女の代わりに里を守るようになった。
私を守ろうとしてくれた彼女へ、少しでも恩返しになれば良いと思ったのだ。
だが、里へと顔を見せる事が少なかった私は、慧音の友人という事を差し引いても、里の皆から信用を得る事が出来なかった。
何度説明をしても拒絶され……しかし、私は里の為に働き続けた。
里の人間へと襲い掛かる妖怪を打ち倒し、季節毎の収穫に手伝いに走り、森で迷った子供達を助けて回った。今まで縁の無かった勉強を覚え、慣れないながらも授業を始めた。
そうやって行く内に、少しずつ里の皆との交流は深まり、私は慧音に代わる守人として認められていった。
そして気が付けば、慧音の事を覚えている人間が里から居なくなっていた。
慧音が死んで何年経つのか、私にはもう解らない。
解りたくも、ない。
……
今日の先生は何か変だ、という事で、授業は子供達の意向により中止となった。
まぁ、こんな日があっても良いだろう。
しかし、空いた時間にする事も無く……私は久々に散歩をする事にした。
2
まず向かったのは、森を越えた先にある紅い屋敷だ。
紅魔館と呼ばれるその屋敷。今まで何度も目にしてはきたが、中に入った事は一度も無かった。
良い機会だ。
私は屋敷の中へと入る事にした。
……
朽ち果てた紅い屋敷には、物音一つ無い。
一歩一歩と歩く毎に埃が舞い、本来は真紅だっただろう廊下は、黒く血色にくすんでしまっていた。
「もう誰も住んでないのか……」
呟きつつ、数少ない窓へと視線を向ける。汚れた硝子にはひびが入り、割れてしまっていた。その先にあるのは恐らく庭園で……手入れがされなくなったそこは、雑草で溢れていた。
と、曲がり角を曲がった所に、開け放たれたドアが見えた。
悪いな、と思いつつ覗き込むと、そこには不可思議な空間が広がっていた。
薄暗く、窓の無いその部屋の中には、天井に届かん勢いの本棚が並べられていた。だが、おかしな事に、部屋にある本棚が妙な位置で途切れているのだ。まるで、広かった部屋を無理矢理小さくしたかのように。
そんな部屋に首を傾げながら、更に屋敷の奥へと歩を進め――私は、彼女と再会した。
……
屋敷の奥には、一人の少女が居た。
汚れた紅い服を着たその少女は、私を見て目を見開き――しかし、溜め息と共に表情を無にして口を開いた。
「何しに来たの?」
「散歩。……あ、勝手にお邪魔したわ」
「良いわ」
言って、少女が小さく顔を伏せる。
「もうこの屋敷には、有能なメイドも、知識人も、門番も破壊魔も居ないのだから」
呟く声には、悲しげな色。
そんな少女に、半ば窺うようにして問いかける。
「……新しい人員を雇おうとか、思わなかったの? 知識人や破壊魔は解らないけど、メイドや門番は雇えるじゃない」
この紅魔館は立派なお屋敷だ。居なくなってしまった人員を補充していけば、ここまで朽ちてしまう事も無かっただろうに。
だが、少女の答えは私の考えとは違うモノだった。
「それも考えたわ。でも、結局皆死んでいく」
その言葉に、自分が最低の事を問いかけた事を知った。
心に、痛みが走る。
この少女も私と一緒なのだ。
「ごめん、失礼な事を聞いて」
「別に良いわ」
小さく首を振って言い……少女は霧となって姿を消した。
3
紅い屋敷を出、次に向かったのは魔法の森だ。
昼も夜も暗いという森を歩いていると、森の中に一件の家が現れた。
古めかしいその外観の家は店らしく、出入り口の脇には『香霖堂』という看板が立てられていた。
「こんにちわ……」
言いながら、店の扉を開く。
そのまま店の中へと入りながら、思ったよりも広い店内と、それを埋め尽くさん勢いで置かれている商品に目を奪われた。
古道具屋か何かなのだろうか。古めかしい道具を中心に、何やら用途が解らない物まで、実に様々な物が置かれている。
と、店の奥から声がして、私は視線をそちらへと向けた。
「全く、後で代金を払ってくれよ?」
「はいはい」
声と共に現れたのは二人の人間。一人は紅白の服を着た少女で、もう一人は眼鏡を掛けた若い男だった。
ひらひらと手を振る少女に重い溜め息を吐いた男は、何気ない動作で私を見、
「っと、いらっしゃいませ」
表情を改め、小さく頭を下げた。
と、紅白の少女が私の横を通り過ぎ、店の外へと出て行った。
その姿を、無意識に目で追ってしまう。
少女の服装には見覚えがあった。思考はそのまま言葉となり、私は店員であろう男へと問いかけていた。
「あの、さっきの女の子は?」
「ああ、彼女はこの先にある博麗神社の巫女です」
「やっぱり……」
「彼女を知っているんですか?」
疑問の色を持って問いかけてくる男に、首を振って意思を伝える。
「昔……昔、あんな格好をした女の子と知り合いだったので」
思わず眉が下がるのを感じながら、私は話を終わらせる意味合いを含めて店の中を見回す事にした。
すると、堆く積まれた商品の間に、ひっそりと置かれた物が目に入った。
思わず近付いてみれば、それは、硝子のケースに入れられた一本の箒だった。
「これって……」
思わず声が漏れ、しかし、
「……すみません、それは展示品で、売り物では無いんです」
悲しげな色を持つ男の声が耳に届く。
硝子ケースの中。何かの処置が施されているのか、箒は朽ちる事無く此処にあった。
「あの、この箒の持ち主は……」
「……もうずっと前に亡くなりました」
「そう、ですか」
確信は無い。だが、感じるものがあった。
この箒の持ち主はきっと、あの白黒の――
「霖之助さーん?」
と、そこへ、扉の開く音と共に誰かが店内へと入って来た。
少女の声色を持つその人物が誰だろうと、私は扉へと振り返り、
「「あ」」
意外な姿に、少女と共に声を上げた。
4
「魔理沙はね、普通にお婆ちゃんになって死んだわ」
「……」
「霊夢も同じ。魔理沙より随分と長生きだったけどね」
「そう……。でも、貴女はなんで……」
「私? 私は魔界人だからね。人間は元より、下手な妖怪よりも寿命は長いのよ」
「……辛くは、ない?」
「辛いわ。でも、どうする事も出来ない。全てを受け入れて生きていくしか、方法はないから……」
5
人形使いと別れた後……私は、なんとなく神社へと向かった。
そこには先程すれ違った巫女と、卍傘を持った妖怪が居た。
「……」
巫女と妖怪という組み合わせは同じなのに、感じるのは違和感のみ。
巫女の視線がこちらへと向いた瞬間、私は神社から逃げ出した。
6
ただの思い付きだったが……傷心気味の心は、進路を冥界へと向かわせた。
初めて足を踏み入れる、死者の土地。
私には一生縁の無いそこにあったのは、巨大な庭を持つお屋敷だった。
どこか懐かしさを感じるその屋敷。立派過ぎるその佇まいに少々戸惑う私を出迎えたのは、
「あら、久しぶりね」
微笑みを持った幽霊のお嬢様だった。
だが、御付きとしていた剣士が見当たらない。
少しだけ辺りを窺った私の行動から察したのか、幽霊が口を開いた。
「妖夢なら、もう居ないわ」
その言葉に、何か嫌な予感がした。
だが、私の口は止まる事無く、非情な疑問を放っていた。
「……居ない、って?」
「そのままの意味よ」
遠くを見るように目を細めながら、幽霊は続ける。
「妖夢は半分人間だったから。私とは違い、寿命が来てしまったの」
ならば、霊となった彼女は何故此処に居ないのか。そう心に浮かんだ問いは、
「私や、不老不死の貴女とは違い、妖夢は輪廻転生の輪から抜けていなかった」
「……」
「そして、此処には戻って来なかったの」
淡々と告げる幽霊の声。
だが、その表情は悲しみに満ちていた。
7
心の中に、穴が開いたような感覚。
定まらない思考を持ちながら、私は幻想郷へと戻った。
8
「萃香ー」
9
「……」
幻想郷には、鬼が居ない。
もう、居ない。
10
……気が付けば、私は永遠亭へとやって来ていた。
警備の兎を焼き払い、ただ、無心で進んでいく。
長い長い廊下の奥。幾つもの襖を越えた先。
そこに、彼女は居た。
「……輝夜」
「あら、妹紅じゃない。久しぶりね」
「――――」
何故か、その何も変わらない輝夜の姿に涙が溢れ出してきた。
敵陣のど真ん中だというのに、嗚咽が止まらない。
殺しても殺し足りない相手なのに、今は何故か、その存在を嬉しく感じる。
「ちょ、妹紅?!」
「……なんでも、無い」
服で涙を拭い、笑みと共に。
「さぁ、殺し合おう」
end
そんな中で変わらないモノをを見つけられたとき、きっと安心出来るんでしょう。たとえその相手が憎くて堪らない相手だとしても。
これから先、さらに昔の知人が減っても変わらない二人。
最後の二人になったとき(師匠もか)、この二人の関係も変わっているんでしょうかね……
むつきさんの作品の語り口と言うか、物語の視点は優しくて好きです。
だからこそのこういった未来の様子なのでしょうね。
ただ、私個人的には残酷かもしれませんが残った人々は何かしらの割り切りや新しい力強さを持っている幻想郷をイメージしておりました。
いろいろ考えさせられて楽しい時間でした。
淡々と語られる言葉の羅列に、淡々と過ぎ行く時の流れに……
お見事でした。
不死の彼女達には、もっと幸せなオチが欲しかった……と、
思ってしまうのは、それだけこの作品に引き込まれた証拠。
もちろんそんなオチなら、今の心持ちは味わえなかった。だから
これぞこの作品の最高の状態、だと思います。GJ!
最初は萃香と妹紅を絡めた話かと思いきや、淡々とした時間の流れに頭を殴りつけられてしまいました。油断は大敵であった。
割り切れたもの、割り切ったもの。それでも端数は残りゆく。
でもそれは必定のことだから。
それを抱えるか、別の数字でまた割り切れるかは本人次第。
願わくば、宿敵の存在がその新たな数字足らんことを。
もしくは、輪廻の果てに再び縁が在らんことを。
それだけは、きっと不死不変の特権でしょうから。
今幸せでも逆に辛くてもいつか嫌でも経験すること。
俺は身近な人が死んだときなにを思いなにを考えているだろう?
いろいろ考えさせられる作品でした。
これは何だろう。もう皆様の感想が私の意見とマッチしているため、語れないんですが。
しかし、旧メンバーはやっぱり精神的に強いですな。
私的な意見ですが、香霖が存命なのは驚いた。
やはり、永遠の命ってのは何て哀しい。
時の流れの先には、永遠の孤独を迎える覚悟が必要なのですね。
この語を読み終わった後、心からストンとなにかが抜け落ちた気分になりました。そして、妹紅は救われたのか、救われないのか……と思いをはせました。
けれど――「殺し合う」ことだけが彼女達の全てなら――救われるか否かという考え事態が、すでに考え違いなのかもしれません。
素晴らしい作品をありがとうございました。
幸せな話じゃありませんか
いらないかもしれないけど、正直に言うといてくれればうれしい。
最後の変わらぬままの輝夜で落ちました。
あそこでいつものように普通に返されたらもう……
誤字を見付けたので、下に書いときます。
輝夜と再開したのは、そのすぐ後の事だった。 →再会
本当に色々考えさせられました。とてもいい作品だと思います。
けれど、限りの無い人生は……何をして生きればいいのでしょうか。
妹紅にとって、人の死は全て一方的な別れなんですね。
願わくば、彼女に再び幸せな出会いがありますように。
何気なく蓬莱人モノの文章を読んできたけど、
こんなの読まされたら改めて考えちゃうね。
何はともあれGJ。
ご指摘、そして沢山の感想、本当にありがとうございます。
感動する話多すぎ。GJ!
いや、永遠も同じかな?とにかくこの話が読めて本当に良かったです。
基本的にギャグ系統の話しか読まない私でしたが引き込まれるように読んでいました。文句なし100点です。
次に読んだ時は、慧音は何を思いながら逝ったのかを考えて泣いた
置いていかれるのも哀しいが、置いていかなければならないのも哀しい……
読む角度を変えるたびに考えさせられました。
――否。例え狂っても、正気になって見つめなおす時間はいくらでもあるのだから…狂気は救いにはなりえない。
蓬莱の薬を使用することは大罪とされた…終わることの無い命は終わり無い罰で苦しみ続ける…償われることは無い。
しかし、慧音の真似事をしたり故人を想ったりすることは変化。
願わくば、不老不死の者達に変化ある安らぎを…
淡々としていて、悲しくて空っぽで、引き込まれていきました。
残されたものは、痛い。
死ねないことの痛みが、最初の残虐なシーンから、最後の空っぽのシーンまで鮮明に描かれていると思います。
妹紅にとって、それでも、輝夜がいるから、だからきっと生きていけるのか。
ひとつだけ、確かなものだから……お見事でした。
そりゃ、傷は消えますけど…
やっぱり磨り減ってるんですよね。
素晴らしい作品でした。ありがとうございました。
今、手元にある現状が自分にとって最高の時と思えるのならそれを失う恐怖は
いかほどなものか、経験が無い今のところは知る由も無い・・・それは幸いなのだろう・・・
それこそ幻想郷が朽ち果てるまで、それ以降もあり続けるかもしれない
不老不死である少女達、憎しみあい殺しあう事しか出来ないとしても、
共にあり続けれる以上は幸せなのかもしれない・・・
色々と想う事があるお話でした。どうも有難うございます。
レミリア(?)が生きててフランが居ないのは何故だろうと思ったり。
とても良いお話でした。
人から見れば終わりが無い様に思われる妖怪でも、寿命は存在する。
どれだけの力を持とうと、どれだけの寿命を持とうと、それが有限である限り終わりは来るのでしょう。
何をしても後には自分だけが残される。
蓬莱人になってしまった妹紅には本当の意味での幸せは来ないのでしょうか。
輝夜にも、永琳にも。
悠久の時を流れなお変わること無い小川のほとりに佇んでいても、巡り来るのは
きっと兎だけではないはず。
そう信じたいですね。
読み終えた後、思わず溜息を零しました。
ただただ、ご馳走様です!
「永遠に生きるって事は、永遠に苦しむって事なんだな…」
だが、超えてはならない境界を超えてしまえば
幸福も不幸へと変わる
全てのものは表裏一体
全く昔の人はいい事を考え付いたものだ・・
苦痛や悲しみ、全ての事から解き放つ事が出来る
死なない事は永遠の苦痛にしかない
己が心次第ですけどね・・・
どんな生物でも時間のもとに生きている。
だからこそ、自らとは違うものとはずれていって···二度と交差することは無いんでしょうね。
人に赦された最大の救いは終わりが有るということでしょうかね···