タイトルの通り、それいけ霊夢さん!の外伝っぽいと言うか後日談ですね。もう止まれません。
幻想郷を包み込もうとしていた霧は、博麗神社の可愛い巫女さんである博麗霊夢さんの素敵な活躍によって晴らされました。
その霧は、我侭で傍迷惑な美少女レミリア・スカーレットの仕業だったのです。
霊夢さんは彼女をちょちょいと食……いえ、諭して、見事霧を出すのを止めさせたのでした。
………しかし!
なんと聞く話によれば、レミリアには金髪紅眼超絶美幼女の可愛過ぎる妹が居るらしいのです!これはいけません!もしかしたらその美幼女も、何か問題を起こすかも知れないのです!明らかな食べ残しです!
暴れるレミリアを優しく黙らせた霊夢さんは、きちんと畳んでおいたいつもの衣装を身に纏い、毛布を被せた彼女を弄びながら再び空へと舞い上がるのでした。
それいけ霊夢さん!外伝~止めときな、気が(ウボァ
眩しい朝日の中を霊夢さんは紅魔館とは違う方向へ飛んでいました。何故か?勘が告げているからです!……いえ、嘘です。ちょっとした道具補充の為です。
時折、妖精やら何やらが通り過ぎる度に、霊夢さんが腕の中の少女を高らかに奏でつつ飛んでいると、ひっそりと建つお店が見えてきました。霊夢さんが優しく告げます。
「あれが香霖堂よ」
「はふ…」
レミリアは言葉少なく霊夢さんに答えます。ちなみに、毛布ですっぽり包まれている為、彼女は前が見えてません。
霊夢さんは愉しげに店の前へ降り立つと、無造作に扉を蹴り開けました。両手が塞がっているので、仕方が在りませんね。
可愛い巫女さんは自慢のソプラノボイスで店主の名前を呼びます。
「霖之助さーん!居るんでしょー?霖之助さーん?霖之助ー、こらっ、犬ー!」
次の瞬間、がたがたがっしゃんどんじゃららーと騒音が奥から聞こえると、一人の男が慌てて転がり出てきました。
灰色掛かった髪の、眼鏡を掛けた青年です。美を付けても問題ありません。
女性じゃない?いえいえ、霊夢さんは美の付くものなら選り好みしないのですよ。
整った面長の顔立ちは何処か懐古的で、それでいて瞳の鋭いのが印象的です。アンバランスさが良いですね。今日も高得点です。
眼鏡の奥に在る瞳は良く見えませんが、とても理知的な感じがします。けれど何処か優柔不断な雰囲気が在るので、取って付き難い感じはしません。
落ち着いた配色の着物も彼に合っていて、周囲に穏やかな空気を流してくれます。実は優しいお兄さんと言う感じですね。居てくれると何故か安心する、そんな青年です。
彼こそがこの店、香霖堂の店主である森近霖之助です。ちょっと呼び辛い名前ですよね。なので、結構店名で呼ばれてしまっています。霊夢さんは可愛い巫女さんなので、ちゃんと呼んでいるんです。
「こ、こら霊夢!人聞きの悪い事を言うものじゃないよ!」
彼は慌てたように霊夢さんに詰め寄ろうとして、ふと、彼女の腕の中に在る人物へ目が行きました。そして思わず逸らします。
慌てた仕草が中々に可愛らしいですね。でも、目も当てられない状態になっているので、仕方が無い事だと思います。
レミリアが恥ずかしそうに毛布に縮こまるのを見つつ、霊夢さんは霖之助に笑顔で言いました。
「お払い棒を寄越しなさい♪」
「………」
霖之助が思わず言葉を失います。
霊夢さんは彼が聞き取れなかったのだと思い、もう一度笑顔で言いました。
「お払い棒を私に寄越しなさい♪」
「…いや、霊夢、何度も言うようだけど」
「黙ってお払い棒を私に寄越しなさい♪」
「いや、だからね。物はお金」
「黙ってお払い棒を私に今すぐ寄越しなさい♪」
「……解ったよ」
霊夢さんの得意技、笑顔でおねだりの前に霖之助は快くお払い棒を差し出してくれました。無論、おねだり中の霊夢さんの表情は一切変わっていません。
彼女の笑顔は全てを受け入れてくれます。だからこそ、彼女も全てに受け入れられているのです。流石は可愛い巫女さんですね。それは間違い無く思い込みです。それと恐喝です。あと、ねだるとは、ゆするとも書くんですよ?
「はぁ…、今回もツケなんだね…」
「あら……」
いつの間にか霖之助の傍に寄っていた霊夢さんが妖しく微笑みます。
びくっと強張る彼の頬に手を添えると、霊夢さんはゆっくりと指を降ろして行きました。これからがお楽しみなのです。
男性にしてはきめ細かな肌。あまり外に出ず、基本的には家の中で本を読んだりと言う彼は、何処か耽美な印象も感じさせます。
「ちゃんと支払ってるじゃない…?」
「い、いや…!僕はちゃんとお金で」
「レミリア、ちゃんと見てるのよ」
「へ?…え、えぇ…っ!?」
「とう!」
「うわぁぁぁぁ…っ」
この先を、お見せ出来ないのが残念でなりません。
なので、この言葉を送ります。
さんびょう
…と。
………。
……。
…。
「さて、問題無くお払い棒も手に入ったし、幸先良いわね♪」
未だつやつやしている霊夢さんは、にっこり笑顔で言いました。
知らない世界を見せられたレミリアは、そんな霊夢さんを見て頬を染めるのみです。
それを満足気に見遣り、霊夢さんは再び彼女を毛布で包み込むと、弄びながら宙へと舞い上がりました。
これから向かうのはレミリアの城、紅魔館です。湧き上がる期待は霊夢さんに無限の力を与えてくれます。
勘が告げています。美幼女の存在は確かなものだと!
向かう先は、そう、己の勘の告げるがままにです!
………ちなみに、可愛い巫女さんは純潔でないと務まりません。入れられるなんて以ての外です。意味が解らないのであればとても良い事です。純粋と言うのは良い事なのですよ。
再び訪れた紅魔館の廊下をやはりレミリアを弄びながら霊夢さんは飛んでいました。何故か?言うまでも在りません。勘が告げているのです。ここがエクストラステージだと!
猛然と襲い掛かろうとしたスーパーメイド達は、囚われのお嬢様を目にした途端、力無く墜落していきました。其処に霊夢さんが追撃を掛け、余す所無くご馳走様ですと言う心温かな食物連鎖が始まります。この頃になるとレミリアも慣れてきたもので、積極的にスーパーメイド達を食べ始めていました。良く寝良く食べ良く運動。これが美人になる為の秘訣です。良い事ですね!
彼女達を止められる者は、最早誰も居ないと言った勢いでした。
しかし、彼女達の快進撃はある程度進んだ所で止められてしまいます。
「ま…、また来てくれたの…?ってレミィ!?何やってるのっ」
そう言ってゆっくりと現れたのは、昨日霊夢さんが可愛がってあげたパチュリーでした。
彼女は霊夢さんの姿を見て一度頬を染めましたが、親友らしいレミリアの所業を見て思わず声を荒げました。
喘息持ちと言う話でしたが、彼女が咳き込む様子も無かったので霊夢さんの眉が僅かに動きます。しかし、吸血鬼美少女も隠れ巨乳魔女も、その事には気付きませんでした。
「また来たの。…美幼女は何処?」
「パチェ…、大人しく其処を退いて頂戴」
「それって…、レミィ…まさか…」
「ええ…」
パチュリーの問い掛けに、レミリアは霊夢に寄り添う事で答えました。その瞳は何処か熱っぽく、怪しげな催眠術にでも掛かったかのようです。潤んだ瞳が何より彼女の状態を教えてくれます。
切なげな声で、彼女は言いました。
「霊夢だったら……やってくれるわ…」
…そりゃあ彼女ならやってくれるでしょう。何せ可愛い巫女さんですから、即日解決です。
しかし、パチュリーの問いはレミリアが受け取った解釈から、実に百五十度ほど離れたものだったのです。彼女の言葉には、こう続く予定でした。
…貴女も?と。
「…そう」
「……パチェ?」
嫉妬に燃えるパチュリーには、目の前に親友の姿など見えませんでした。居るのは敵です。悲しい事に、彼女は初めての感情に呑まれてしまっていました。
今の彼女の心情はこんな感じです。
愛しさ>切なさ>心強さ
……全く意味が解りませんね。と言うよりも、嫉妬は何処に行ったのでしょうか?
「あの時からとっても喘息の調子が良いから、今日は取って置きの魔法を見せてあげるわ!」
ぽ…っと薄ら頬を染めながらも、パチュリーが両手を広げます。
彼女の胸の前に浮かんだ魔道書が忙しなく捲れ、昨日とは比べ物にならないほどの魔力によって、館全体が震え始めました。何処からとも無く舞い上がった風が彼女の髪をはためかせ、その華奢な身体を中心に紫電が走り出します。…正直、頬を染めながらだと物凄く怖いです。
今までの付き合いの中でもトップクラスの魔力に、レミリアも慌てて構えました。
「女神の零す月の涙…、その雫に…貴女はただ、貫かれるだけ。…サイレントセレ」
「巫女無視んな!」
「あうっ…!」
「パ、パチェ…!」
何だか今日は元気そうだったので、ちょっとだけ普通に殴打です。帰ってきたお払い棒が唸りました。
HPゲージの事は言うまでも無いですよね。
テンプルを打ち抜かれたボクサーのように、パチュリーが膝から崩れ落ちました。
彼女は何故殴られたのか解りません。朦朧とする意識の中、必死に考えるパチュリーを霊夢さんが抱き起こします。
その行為にやはり自分は大切にされているのだと彼女は喜び
「美の付く全てのものは私の物よ!」
に浸る事は出来ませんでした。
霊夢さんの宣言は、明らかに自分以外も指しているのです。
パチュリーは初恋がテンプル共々打ち抜かれた事に気が付きました。……こうなったらもう自棄酒です!そして時間が癒してくれるのを待つばかりなのです!
ふらつく身体を起こそうとしたパチュリーは、最後に自分の思い人だった可愛い巫女さんの顔を見ようとして、
「今日も色々と絶好調だから、取って置きのお仕置きを見せてあげる…」
「ひっ…!?」
自分がもう彼女から逃れられない事を悟りました。ご愁傷様です。
…十分後。
その宣言通りの霊夢さんを前に、身体を横たえたパチュリーが其処に居ました。辛うじて意識の有るところを見るに、身体は病弱でも精神は丈夫なようです。流石は魔女ですね。
後ろで怯えているレミリアを満足げに見つつ、霊夢さんがとても素敵な笑顔で言います。
「今日はいつにもまして熱いわね。こんなに躰が熱いのは、丈夫なペットが出来たから?」
「甘いわ!そこの紅白!」
そんな彼女に届く、鋭い声。
らしくも無く霊夢さんの鼓動が跳ねます。勿論、期待にです!
「他にも私の獲物が居るのね?」
霊夢さんがゆっくりと声の方に顔を向け
「おまたせ」
ずきゅーーーーーんっ!!!
ると同時に彼女の心臓は百八ビートを刻み始めました。ヤバいです!人間だったら過剰が過ぎて死んでしまいます!
でも霊夢さんは、可愛い巫女さんなので大丈夫でした。可愛い巫女さんと言うのは色々と得ですね。……と、そんな事を言っている場合では在りません!霊夢さんは瞳がギラギラと輝くのを抑える事が出来ません!涙の数だけ強くなれる人とは違い、彼女は煩悩の数だけ凄くなってしまうのです!
そんな彼女の前に、可愛らしくもちょっと生意気そうな声で現れてしまったのは、如何見ても金髪紅眼超絶美幼女でした。
お姉さんであるレミリアとは対極と言っても良い、甘く柔らかそうなハニーブロンド。それを片側で尻尾にした、ちょっと変わった髪形です。でもそれが良い!姉妹でお揃いな帽子は、むしろ一緒にお召し上がり下さいと言っているようなものです!
キラキラと無邪気に輝く瞳も、お姉さんと同じで紅でした。いえ、ひょっとしたら彼女よりも深く鮮やかかも知れません。けれど、小さくもぷにぷにな顔立ちと頬っぺたは、間違い無く美幼女のものでした!どちらにせよ一緒にお召し上がり下さいと言っているようなものです!
霊夢さんはもう、この時点で感極まってます!しかし、まだまだ続くのです!
少女を飾るのは紅い衣装。ドレスでないその姿は、真っ赤なベストとちょっぴり丈の短いスカート。其処から伸びる手足は細いのに、やっぱりぷにぷにです!それを見つめていた霊夢さんの身体が、落ち着かなそうに痙攣を始めました。禁断症状の一歩前って感じです!
そして何より目を引くのは、七色の輝きを放つ羽を提げた、異形の翼でした。
あれで如何やって飛んでいるのでしょうか?解りません。でも羽ばたいています。飛んでいるのです!
そんな不思議なフランドールは、片手に悪魔の尻尾のような杖を携えて、びしっとポーズを取りました。彼女的には格好良いと思っているのでしょう。………とても可愛いらしいですっ!
そう言うのは、もう少し酷薄な笑みを浮かべられるようになってからやってください。
兎に角、その活発的な服装から何となく彼女はお転婆な感じがしましたので、お転婆美幼女吸血鬼フランドール。
これで行く事にします!
「お゛おおぉぉ…ぉぉ、お゛ぉぉ……っ!!あ、貴方は…っ?前来た時は居なかったような気がするけど……!」
「何でそんなに震えてるの?…まあ、居たよ。居たけど、見えなかったの……って、あれ…お姉様、久し振り!」
「ええ…、久し振りねフラン…」
「何年振りかなぁ…顔見たの。ま、良いや。…で、あなたはもしかして人間?」
「ええ、そうよ」
「お姉様には聞いてないよ」
「………そ、そうね」
仲が良いのか悪いのか、解らない姉妹ですね。
元気に挨拶したかと思えばつれなく返すフランドールに、レミリアは顔に縦線を浮かべて肩を落としました。
「ねえねえっ、人間って飲み物の形でしか見たこと無いの」
「ああ、人間だよ。人間は、紅茶よりは複雑なものなのよ。心と体は近くて遠い。そんな悲し」
「ほら、鶏って」
「くも…って、うん?」
「捌いたり出来ない人でも美味しく頂けるの」
「…解かってないわねぇ。人間はそのままで頂くのが美味しいんじゃない♪」
「……あなた、人間?」
霊夢さんの足元に転がっているパチュリーを見つつ、フランドールが言います。
そんな彼女に対し、霊夢さんはにっこりと素敵な笑顔で答えるのでした。
「人間よ」
「うーん…。お姉様、そうなの……?」
「霊夢の言う事は全てが真実よ!」
「……コレ、お姉様じゃない。レプリカだ」
「レ、レミリアよ!!」
……何だか、フランドールに対してレミリアの一方的な愛情に見えてきますね。
フランドールのレミリアを見る視線には、年季の入った諦観のようなものが見え隠れしています。
これはいけませんね。
姉妹とは、可愛く仲良く大胆でなければいけません!
「駄目よ?お姉さんをそんな風に言ったら」
「だってさぁ…、人が居ない時は妙にベタベタしてくるし、なんか視線が怖いし…」
「襲われたりしたの?」
「しないわ」
「…まだか。妹君に言いたいけど、お姉様はこれから家の神社に入り浸る予定なのよ」
「しってるわよ。私も行こうとしたら……」
「大歓迎!」
「止められる」
「何だって!?」
「豪雨を降らされて、お外は歩けない」
「誰がそんな事を!!」
「パチュリー」
「……要お仕置きね」
横たわっているパチュリーの身体が、びくっと震えました。それを見たレミリアは、ただ心の中で羨む限りです。
「…それにしても、過去になんかやらかしたの?問題児っぽいけど」
「何も出来るはずがないわ。私は495年間一回も、お外に出てないのよ」
「ふむ…。ほんとに、初物なのね……」
レミリアが500歳らしいので、霊夢さんは確証を得るに至ります。
彼女が嬉しそうに笑顔を浮かべるのと、フランドールが悪魔のような微笑を浮かべるのは同時でした。
「そこに飛び込む遊び道具……」
可愛らしい声のまま、フランドールが笑います。
それは見ている側も微笑んでしまいそうになる笑顔でしたが、何処か、ピントの外れた笑顔でもありました。
「何して戯ぶ?」
すっと、霊夢さんがお払い棒を袖から出しました。
この展開は、
「弾幕ごっこ!」
「ああ、パターン作りごっこね。それは私の得意分野だわ!」
弾幕ごっこの始まりです!
フランドールの放つプレッシャーが上がっていき、ついにはレミリアのものを上回り始めます。
姉への愛情を取り戻させ、そして美味しく二人を頂く為に、霊夢さんはこの戦いを負ける訳にはいきません!
霊夢さんは右斜め四十五度に在った空間の綻びを繋ぎ合わせて、愛を取り戻せと瞬間移動しました。幻想空想穴です!
「…あれ?」
「巫女嘗めんな!」
「いたぁぁぁぁぁっっ!!」
霊夢さんの相棒が唸りを上げ、フランドールの側頭部を殴打します。
お姉さんのレミリアと同じで、やっぱり彼女も丈夫です。悲鳴まで似ている所が、ちょっぴり微笑ましいですね。
削れたのはHPゲージ一本分だけで、まだまだフランドールも元気です。
「うー…、痛い。…けど、すごいっ!こんな弾幕見た事ないよ!すごいすごーいっ!!」
「ええっ?フランっ、それは弾幕じゃな」
「なら、もっと味あわせてあげるわ!」
再度唸りを上げたお払い棒は、フランドールの杖に受け止められていました。お姉さんが何か言ったような気がしましたが、恐らくは気の所為ですね。
人間と吸血鬼。力では後者に軍配が上がってしまいます。流石の可愛い巫女さんでも、こればかりは如何しようも在りません。
じりじりと押し返される霊夢さんを見て、吸血鬼美幼女が甲高い声を上げました。
「キャハハハハハハッ!炎の剣で真っ赤に二つよ!!」
「霊夢…っ!!」
「っ!?」
なんと、次の瞬間。
フランドールの声に応じたように、その杖から炎が吹き上がったのです!
レミリアの声と共に、嫌な予感を感じた霊夢さんがお払い棒を手放して逃げるのと、お払い棒が一瞬で燃え尽きたのは同時でした。
「あれれ…、燃え尽きると思ったのになぁ…」
残念そうに霊夢さんを見つめるフランドールは、まるで鼠を逃がしてしまった子猫のようです。
可愛く唇を尖らせてはいますが、やってる事は洒落になりません。
彼女が炎の剣を揺らす度に火の粉が零れ落ち、それが廊下の床や壁を削り取っていきます。
燃え尽きて灰になってしまった相棒を見つめつつ、霊夢さんが小さく震えました。
「ねえ…、フランドール…」
「なぁに、紅白さん?」
そんな霊夢さんを愉しげに笑いながら、フランドールが首を傾げます。
震えている彼女の身体から、それを恐怖と感じたのでしょう。鼠を甚振る無邪気で無慈悲な子猫のような笑みを、より一層深いものへします。
霊夢さんはゆっくりと顔を上げると、身体を震わせて言いました。
「貴女は私のハートに火を点けたッ!!」
「…は、はい…?」
「もう我慢出来ないわ…っ!!」
恐怖とは正反対の言葉でした!
当たり前です………彼女は可愛い巫女さんなのですから!
彼女がそう宣言した瞬間、フランドールのお姉さんがぶるぶると身体を震わせましたが、それは如何でも良い事です。
「次回作まで取って置きたかったけれど…」
そんな意味の解らない言葉と共に、霊夢さんがお払い棒を取り出した裾の中へ、再び手を突っ込みます。
恍惚とレミリアが、怪訝そうにフランドールが見つめる中、彼女は裾の中から何かを取り出しました。
霊夢さんが取り出したのは、
何だか、とても大きな、
針でした!
「そ、それは…っ!フランっ避けっ、………」
レミリアが霊夢さんの手に在る物を見た瞬間、妹さんに何かを叫ぼうとしました。
しかし、
霊夢さんが後ろ手に何かを放る仕草と共に、彼女の一切の動きが止まってしまいます。…見れば彼女のお腹辺りに、霊夢さんの持っていた大きな針が、ぷすっと刺さっていたのです。
それが霞むようにして姿を消して、
「はふん…」
くったりとレミリアが床に崩れ落ちます。
丁度パチュリーの隣に倒れた為、端から見るとお昼寝のようなので、ちょっぴり微笑ましいですね。
フランドールはそんなお姉さんの姿を見て、とても嫌な汗を流しました。
よく見れば口の辺りが動いているので、死んでしまったのではないと解ります。しかしそれでも、吸血鬼であり強大な力を持っているお姉さんを一撃でこんなにしてしまった針を、フランドールは怖いものでも見るように後ず去りました。
「悪い子ねぇ…。駄目じゃないの…レミリア?」
「あぅ…あぅあぅ…」
甘ったるくそんな事を言いながらも、霊夢さんの瞳はフランドールを捕らえて離しません。
その針を片手に、ゆっくりと近付いて来る霊夢さんに、とうとうフランドールは恐慌に陥ってしまいました。
「わ…っ、わぁぁぁぁぁぁっ!!」
大きな声を上げながら、燃え盛る剣を思い切り振り被ります。
しかし、そんなあからさまな攻撃を、霊夢さんが当たる筈も在りませんでした。
炎の剣が通過した後に彼女の姿は無く、霊夢さんは幻想空想穴でフランドールの背後にあっさり回ると、
「ふぅ~…」
「わひっ!?!?」
そっとフランドールの髪を分け、可愛らしい耳に息を吹き掛けます。
それが、フランドールの限界でした。
彼女はぺたんと座り込むと、怯えたように両手で身体を抱きしめました。涙目が堪りません!
からんと音を立てて杖が転がるのを見取ると、霊夢さんが優しく微笑み、解り切った事を問い掛けました。
「降参?」
でも目は笑ってません。
目の前の極上の美幼女を前に、その瞳が爛々と輝きを増していきます。
フランドールが小さく頷くのを見ると、霊夢さんはいつものように、決め台詞を放つのでした。
「見た?これが神に仕えるものの力なのよ!」
…どんな神に仕えているか、解ったもんじゃ在りませんね。と言うより、霊夢さんは神様を信じていません。それどころか、自分が神様だと思ってる節さえ在る気がします。流石は可愛い巫女さんですね。
まあ、そんな事は置いておきまして…。
霊夢さんはいそいそと針を裾に仕舞うと、フランドールの目の前で膝を折りました。これからがお楽しみなのです。
フランドールの頭に手を置いた霊夢さんは、優しく微笑みながらその頭を撫でてあげました。不思議そうに顔を上げたフランドールに、霊夢さんがお母さんのように言いました。
「私がセ(ピーーーーー)ドになってあげるから」
とんでもないお母さんがここに居ました。
これでもかと言わんばかりに、放送禁止用語を音が伏せます。
「セッ(ピーーーーー)?」
洒落にならない台詞をオウム返しにするフランドールに、お姉さんの身体がびくびくっと跳ねます。
そんなお姉さんにお仕置きしないといけない事を思い出した霊夢さんは、フランドールを促しました。
「とっても良い戯びを教えてあげる」
「…あそび?」
「そう…、悪い子だけの…とっても良い戯び」
「悪い子…」
「…ね、フラン?」
「………うん」
この先を、お見せ出来ないのが残念でなりません。
なので、この言葉で想像の翼を広げて下さい。
しまいど(ピーーーーー)
…と。
………。
……。
…。
「悪い子って、本当に素敵だわぁ…♪」
レミリア、フランドール、途中参戦のパチュリー、咲夜を侍らせて、両頬に手を当てた霊夢さんがうっとりと言いました。
そんな霊夢さんのちょっぴり可愛い一面を見て、彼女達は頬を染めるのみです。
それに気付いた霊夢さんは、少しだけ照れたように微笑みます。
こうしている分には、至って年相応な美少女なのですが…。これが可愛い巫女さんだと言う事なのでしょう。
そろそろ疲れてきた霊夢さんは、家の掃除とかもしなければならない事も在り、神社へ帰る事にしました。
名残惜しむような彼女達の頬っぺたに優しくキスをすると、霊夢さんは静かに立ち上がります。
「私は大抵神社に居るわ。…いつでもお出でなさい?」
振り向き様にそれだけ告げると、霊夢さんはいつものように高らかと舞い上がりました。
その姿を、彼女達は頬を押さえて見送る事しか出来ません。
髪を撫でる心地良い風に目を細め、霊夢さんは鮮やかな青空へと身を投じるのでした。
注意!
ここから先は、二次創作の産み出したEXルーミアが出て来ます。
そしてそんな彼女の性格は、勿論人其々であり、場合によっては嫌悪感すら抱く事も在りえます。(ここまでやっておいて、今更ですが
あほっぽくてちょっとえっちなコンセプトは変わりませんが、「嫌だ断るこれまでだ!」と言う方は、下までぶっ飛ばしちゃって下さい!
紅魔館を後にした霊夢さんは澄みやかな青空を飛んでいました。何故か?神社の掃除をしなければならないからです。愛人達に気を使わせたりしないよう、不衛生で病気をさせないようにと、常に清潔を保っておく必要が在るのです。
今回の一件で、新しく増えた愛人達。
その中でも特に印象が残ったのは、
ルーミア、大妖精、チルノ、美鈴、小悪魔、パチュリー、咲夜、レミリア、フランドール、
の九人です。
不眠不休で食べ続け、紅魔館のメイド達を入れてしまうと、その数を数える事すら出来ません。
徹夜だろうとなんのその!霊夢さんは清々しい笑顔で神社への帰路を辿っていました。
「霊夢ーっ!」
「あら…?」
もう少しで神社に到着と言う所で、自分を呼ぶ声に霊夢さんが止まります。
後ろから彼女を追い駆けてきたのは、先程たっぷりとご馳走になったお転婆美幼女吸血鬼フランドールでした。
彼女は日傘片手に満円の笑みで霊夢さんの所までやって来ましたが、いざ霊夢さんの前に立つと、急にもじもじとし始めてしまいました。
「あのね…」
おや?…と、霊夢さんが疑問に思う間も無く、
「わるいこと、…もっと、教えて欲しいな…って」
「くぁ…っ」
上目遣いに言うフランドールの一撃に、可愛い巫女さんは思わず墜落しそうになりました。
やはり間違っていなかったのです。霊夢さんの勘は、今日この日の為に!そして、これから、先へと、続いている事を、改めて実感しました!
掃除なんて後です!今はこのいけない子に色々と今後に役立つ様々な教養と言う教養を技術と言う技術をそれこそ三日三晩で教え込まなければいけません!睡眠?要りません!三日四日忘れた所で問題在りません!食事!?それこそ時間の限りに摂っているじゃないですか!不要ッ!!
徐々に変わりゆく霊夢さんの目の色に、フランドールは高鳴る鼓動を抑える事が出来ません。
逸る気持ちを抑えられず、霊夢さんは日光に当たらないように気を付けながらフランドールの手を握ります。
「あれ~、霊夢?」
「ッッッ!!」
突然聞こえたその声に、霊夢さんは今度こそ心臓の鼓動に至るまで一切合財活動を停止しました。
その声はちょっとのんびりとしていて、ほにゃほにゃと…まあ兎に角そんな感じで、霊夢さんが間違っていないのなら…今回第一のとてもご馳走様を飾った美少女…、
「…神様、貴方はちゃんと居たのですね…!」
振り向いた霊夢さんが瞳に映したのは、違う事無く、闇を纏った美少女妖怪ルーミアだったのです!
霊夢さんの思考は一瞬でした。
ちょっと似た所の有る、ほにゃほにゃしたこの二人を……いえ、言うまでも在りませんね。
ここに来て、今日この後は穏やかに終わると思っていた霊夢さんにとって、フランドールの行動自体が不意打ちでした。そこにきてルーミアまで参戦となると、如何やらまだ宴は続いているようです。
そんなこんなで二人の自己紹介は和やかに終わり、ルーミアもフランドールも、パチュリーのような状態にならないのを、霊夢さんはとても嬉しく思いました。
神社に辿り着いた霊夢さんは準備が在ると言い、二人に仲良くしてるよう言い聞かせると、奥へと引っ込んでしまいます。何せ、必要となるものが沢山有るのです。
二人は笑顔で霊夢さんを見送ると、和気靄々とお話を始めるのでした。
「ねえ、ルーミア」
「?」
フランドールの問い掛けに、ルーミアが小さく首を傾げる事で応えます。
自分と共通点の有るルーミアに、フランドールも興味津々なようです。
一つ一つ交互に質問しながら笑い合う二人は、とても微笑ましい光景ですね。
ふと、フランドールは不思議そうにルーミアの真っ赤なリボンに目を向けました。
それは少し古ぼけた感じがしていて、自分と同じの綺麗なブロンドをした彼女には、少し不釣合いのような気がしたのかも知れません。
「そのリボンって、…あれ?…リボンじゃない?」
「そうだよー。これ、何だか封印のお札みたいなのよ」
はふぅ…と盛大に溜息を吐いて、ルーミアが肩を落とします。
「自分じゃ触れないから、取れないの。それに、普通の妖怪とかも触れないし」
「ふーん…」
そのリボンを、フランドールが興味深そうに凝視します。
暫くの間、そうやってリボンを見つめていたフランドールでしたが、悪戯っ子の笑顔を浮かべてルーミアに言います。
「多分、その封印壊せるよ」
「え?ホント?」
「うん。…やる?」
「うーん…」
ルーミアは少しだけ考えてしまいます。
そのお札が何を封印しているのか解りませんし、少し躊躇いを感じてしまうのです。
けれど、ルーミアも妖怪です。もしこの封印が、自分の力を封じ込めているのだとしたら、それを解放する事で強い力を得る事が出来るのだとしたら……。
随分と長く考えて、ルーミアはフランドールに言いました。
「…やって」
それが彼女の答えでした。
誰だろうと強くなりたい気持ちは有るものです。それは誰にも責められる事では在りません。
フランドールはそんなルーミアに好意的な笑顔を向けて、大きく頷きました。
「それじゃ、行くよー」
「うん」
そして、
その瞬間、幻想郷は闇に包まれたのでした。
「…何…?」
うきうきしながら道具を掻き集めていた霊夢さんは、突然真っ暗になった視界に思わず道具を落としてしまいました。
慌てて拾おうにも、暗闇の所為で見えません。
「この闇…」
ちょっとだけいやな予感を、霊夢さんは感じ取りました。
何も聞こえない闇。それは落ちた道具の跳ねる音さえ飲み込んでしまっているのだと、可愛い巫女さんである霊夢さんは解りました。これは明らかな異常です。
そこまで考えて、霊夢さんはハッと息を飲みました。
寝室には、ルーミアとフランドールが居るのです!
これは緊急事態だと言わんばかりに、幻想空想穴で霊夢さんは寝室まで一飛びしました。ちょっと疲れるので、普段は戦いの時にしか使っていないのですが、今はそんな事を言っている場合では在りません!
寝室に居る少女達の身に何か在ったら、切腹ものです。そんな事をしたら、皆が悲しみます。涙で幻想郷が沈んでしまうに違い在りません。
そうして彼女が寝室に辿り着いた時、一見変わり無い二人に霊夢さんは安心しかけ………、それはすぐさま自慢の勘が否定しました。いえ、勘に頼るまでも在りません。
ルーミアの身体から闇が噴き出し、全てを暗黒に染めていたからです。
「これは…」
「れ、霊夢…!」
声のする方にフランドールが駆け寄りますが、霊夢さんの身体に触れても、彼女の姿を見る事は叶いませんでした。瞳が闇に覆われたように、一切が見えないのです。
しかし、何故か彼女の姿だけは見えました。
闇を噴き出している張本人、美少女妖怪ルーミアの姿だけが、この闇の中で見える唯一のものでした。
「…霊夢……?」
そのルーミアが、俯き加減で見えなかった顔を上げ、霊夢さんの顔を見ます。ついさっきまでの可愛らしい笑顔とは打って変わり、彼女の表情は酷く冷めたものでした。
パッチリとしていた瞳は、眠たく憂鬱そうに細まり、霊夢さんとフランドールを見ています。
顔も、身体の作りも全く変わっていないのに、別の何かに変わってしまったような感じです。
変わっている所と言えば、髪に括り付けてあった赤いリボンが無くなっている事でしょうか。
ルーミアは可愛らしい顔のまま、妖艶に笑って見せました。
「おやおや、懐かしな感じ。お前は博麗だろう…?」
「ルーミア……、ね。…成る程、これを封印していたのか」
「有難う。久々の自由だよ、お嬢ちゃん」
声も変わらず可愛らしいのに、気だるげな、まるで老人のような口調でした。
「お二人には、これだと少し見辛いか…。まあ…お礼と言う事で、闇は抑えてあげようかな」
その言葉と同時で辺りの闇が晴れていき、霊夢さんとフランドールがお互いの姿を見る事が出来るまで明るくなりました。
変わってしまった…いえ、この場合は元のルーミアに戻った、と言うのでしょうか?そんな彼女に対して、霊夢さんは先程から何かを感じるように胸が締め付けられるのを自覚します。
「…それがお礼なのかしら?」
「十分過ぎるお礼でしょう?視覚を持った生き物は、常に闇に囚われる。例え聴覚を基にしていたとしても、見ると云う事が出来るのなら…、見えぬ違和感はいずれ重圧へと転じ、其れは容易く……壊れる」
「壊れる…」
「ええそうよ、お嬢ちゃん。…そう言えば、貴女が私の封印を壊してくれたんだっけ。……って、あれ?」
フランドールに妖しく微笑んでいたルーミアは、自分の身体を見て、そこで初めて可愛らしい声を上げました。
腕を伸ばしたり、肩越しに背中を覗いたり、背伸びしたり、身体を捻ったり、胸元を引っ張って中を見たりと一通りやると、ちょっとだけ困ったように眉を寄せます。
ずきゅーーーーーんっ!!!
その瞬間でした。霊夢さんの身体に稲妻が疾ったのは!
今まで出会ってきた数々の美少女達。
そのどれにも感じてきた、心地良い、官能を、幸福を伴った甘い稲妻!
「中途半端に解けてしまったのか…。…まあ、良い。これはこれで、使い道が」
「成る程…」
「何だ?博麗」
ゆらりと、霊夢さんは前へ踏み出します。
「ギャップ…」
「は…?」
「小さいくせに大きな態度」
「い…、いや、博麗霊夢…!なんで近寄ってくるっ!?」
「可愛いくせにやらしい仕草。それに気付かず振舞うぽけぽけ」
わきわきと両手の指を動かして、一歩……また一歩…と、霊夢さんがルーミアに近付いて行きます。
「それはさながら、隣のお姉ちゃんが大人びた人が好きだと聞いてそういう仕草を間違って勉強しちゃったそんな態度を取ってるつもりの純真無垢な女の子」
「絶対に違う!捏造などするな!!…この…っ、馬鹿にしよって!!」
「いけない子…。いけない子が、こんなにいっぱい…♪」
「っ、何だその危ない目はっ!?」
「悪い子だけが出来る、とっても良い戯び~♪」
「お前までっ!?」
霊夢さんに続いてフランドールまで、ルーミアに近付いて来ます。
慌てて飛び退いた彼女は、ぽてっと言う感じに着地すると、軽く右手を持ち上げました。
その仕草に、霊夢さんとフランドールが足を止めます。
ピリピリとした空気は、今まさに、ルーミアが魔力を凝縮しているものだったのです。
「後悔させてやろう…!
永劫の静寂に囚われた貴様らは、闇に侵され狂いゆく…。
左右も解らぬ恐怖に抱かれ、私の静かな胎内―ゆりかご―を、嘆きと赦しで満たすが良いっ!」
「出来るかしら?
私は博麗霊夢。美少女達の守護者。後ついでに幻想郷の素敵な巫女さん。
貴女はちっとも解ってない…。貴女自身が、私の捕食対象で在る事を…っ!」
ルーミアが両手を広げて目付きをキツくします。
嘲笑うような彼女を前に、霊夢さんとフランドールは身構えました。
弾幕ごっこの始まりです!
「…あれ?」
…が、彼女が困ったように首を傾げました。
そんな彼女に、霊夢さんもフランドールも不思議そうな顔をします。
「なっ、何でも無い!手足を切り裂いて達磨にしてくれる!」
広げた両手に何の意味があったのかは知りませんが、ルーミアは剣を振りかぶるような仕草と共に、猛然と霊夢さんに駆け寄りました。
…弾幕ごっこは何処に行ったんでしょうね。
嫌な予感を覚えた霊夢さんが、背中から金属お払い棒を抜き出し振るうのと、ルーミアの腕が横薙ぎに振るわれるのは同時でした。
「霊夢っ!!」
フランドールの叫び声。
ギイィィィィンッッ!!
金属の噛み合う音がして、霊夢さんの身体が吹き飛ばされます。
血の気の引いた霊夢さんが側転の要領で巧みに床へ降り立つと、ルーミアが満足げに微笑みました。
「…っく…!何…!?」
「く、ふふ…っ、そうよ博麗…。まだ終わったら駄目……」
そう言ったルーミアの右手。何かを握ったようなその先が、寝室の畳を鋭利に引き裂いています。
「さあ…、まだまだ…」
ルーミアが不敵に笑み、再度、霊夢さんに襲いかかろうとしたその時です。
「これからっつあ!?…お、おもっ!」
「はい?」
かくん、と、ルーミアの身体が転びそうになりました。上半身が置き去りになったような、ちょっと間抜けっぽい姿勢です。
少しの間、フランドールは時間が止まったような気がしました。
「なんでっ!…このっ!……う~~~…っ!!」
ハッと正気に返ったルーミアが、手に持っているらしい何かを一生懸命引き抜こうとしましたが、……如何にも持ち上がらないようです。
「…はぁっ…はぁっ…はぁっ」
「………」
「………」
「う……」
場を沈黙が支配します。
中途半端に封印を壊された影響でしょうか?
霊夢さんは彼女の身体から、もうあまり力を感じませんでした。恐らく、あの見えない何かを顕現した際に、力の大半を使ってしまったのでしょうね。
ルーミアは愕然とフランドールを見ます。
「♪」
「……あぅ」
良い笑顔でした!
ルーミアは恐る恐る霊夢さんを見ました。
「…♪」
「ひっ…!」
すっごい笑顔でした!
「くそ…っ!!」
あまり良くない言葉を吐き捨てて、ルーミアが左手を前に突き出します。
先程と同じようにして霊夢さん達を見据えると、最後の力を振り絞って高らかに叫びました。
「おいで!私の可愛い子供達!ナイトレイヴンッ!!」
ぽうん。…と。
そんな可愛い音と共に、ルーミアの前に拳程の弾が現れます。
一つだけ。
……それはもう弾幕では在りませんでした。幕じゃ在りません。どちらかと言うと、なんて言葉も使えない、…弾でした。
霊夢さんもフランドールも、見ていられなくて目を逸らします。
「……、うわぁぁぁんっ!」
目に涙を浮かべたルーミアは、霊夢さん目掛けてナイトレイヴン(単発)を撃ち出しました。
程良いスピード。大きさ。高さ。
霊夢さんの瞳がキランと光ります。……そして、
「貰ったぁぁぁーーーーっ!!!!」
バッティングコーチに迎え入れたいほどの腰の切れを持ったスウィングで、霊夢さんはその弾を打ち返しました!
軸足の強力な回転と圧力に耐えられず、畳が捩れ、草を散らします!強烈なピッチャー返しですっ!
弾の飛んで行った方を見遣りつつ、霊夢さんが満足げに唇を持ち上げます。惚れ惚れするような笑みでした。
顔面擦れ擦れに飛んでいったナイトレイヴン(単発)に、ルーミアは泣いたまま笑顔を浮かべました。もう、それしか出来ませんでした。……ところで、ピッチャー返しとは何でしょうね。
力無く座り込んだルーミアに、霊夢さんはビシッと金属お払い棒を突きつけて、いつものように宣言します。
「さあっ、私の勝ち…ね…、…って」
しかし、その言葉は尻すぼみになってしまいました。
ぺたんと座り込んだルーミアが、アヒル座りのまま両足をきつく閉じて肩を震わせていたからです。
泣いているのでは在りません。それは所謂、おも(ピーーー)だったのです。
霊夢さんは優しく微笑み彼女の肩に手を置くと、そっと告げました。
「大丈夫よ。怒ったりしないから」
そんな霊夢さんにルーミアは抱き付き、小さく身体を震わせます。
「ルーミア、ごめんなさい」
フランドールもルーミアを優しく抱きしめると、呟くようにして言いました。
ルーミアの肩から、強張りが抜けます。
霊夢さんはルーミアの頭を撫でながら、そっと顔を近付けると、彼女の耳に優しく囁くのでした。
「三日三晩掛けて、慰めてあげる」
「………ぇ?」
霊夢さんがルーミアとフランドールを横たわらせると、其処には既に布団が敷かれていました。
それは一切の乱れなく、完璧なまでに整えられています。枕元に置かれたティッシュ箱が、とても意味深でした。壁に掛けられた様々な道具が、とても卑猥でした。布団を囲む大小の器具が、何故か身を凍らせました。
「いっ、いつ、のっ、まに…!」
「霊夢はやっぱりすごいねっ」
可愛い巫女さんだからね、と霊夢さんは微笑み、ゆっくりと少女達との距離を詰めます。
その顔は、まるで仏様のように慈悲に満ち溢れていると言うのに、ルーミアの感じたものは恐怖でしか在りません。
「や…っ」
ルーミアの顔が、また泣き笑いのそれに戻ってしまいます。
それを笑顔にするべく、霊夢さんは全身全霊を懸けて、ルーミアとフランドールに挑むのでした。
「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっっっ!!!!!」
この先をお見せ出来ないのが残念でなりません。…が!
ここから先は、貴方の想像が全てを決めるのです。
…そう、全ては貴方に掛かっていると言っても過言では在りませんっ!
心の目を開いて下さい。
………。
……。
…。
それから三日間、博麗神社では遊びに来た愛人達が遠慮してしまうような声が、絶え間無く響いていました。
その声がぴたりと止んだ後、障子を開けて出て来た霊夢さんは、この上なく素敵な笑顔だったとか。
彼女の後ろを覗き込んだ愛人さんが、暫くの間、遠い世界に行ってしまったのは、今でも語り継がれている逸話でもあります。
霊夢さんは額の汗を腕で拭うと、誰に聞かせる訳でも無く、ニヒルに言いました。
「私は、美少女の為に幻想郷を護っている」
…ちなみに、
封印の解けたルーミアですが、霊夢さんがお札を貼り付けると、いつものルーミアに戻りました。流石は可愛い巫女さんですね。
彼女がルーミアと戯んでいる時は、何故かもう一人の声が聞こえてきたそうです。
幻想郷には、不思議がいっぱいです。
その最たるものが可愛い巫女さんだと言うのは、言うまでも在りません。
こうして、霊夢さんの素敵な物語は、一時の閉幕を迎えたのでした。
今度こそ、めでたしめでたし。
幻想郷を包み込もうとしていた霧は、博麗神社の可愛い巫女さんである博麗霊夢さんの素敵な活躍によって晴らされました。
その霧は、我侭で傍迷惑な美少女レミリア・スカーレットの仕業だったのです。
霊夢さんは彼女をちょちょいと食……いえ、諭して、見事霧を出すのを止めさせたのでした。
………しかし!
なんと聞く話によれば、レミリアには金髪紅眼超絶美幼女の可愛過ぎる妹が居るらしいのです!これはいけません!もしかしたらその美幼女も、何か問題を起こすかも知れないのです!明らかな食べ残しです!
暴れるレミリアを優しく黙らせた霊夢さんは、きちんと畳んでおいたいつもの衣装を身に纏い、毛布を被せた彼女を弄びながら再び空へと舞い上がるのでした。
それいけ霊夢さん!外伝~止めときな、気が(ウボァ
眩しい朝日の中を霊夢さんは紅魔館とは違う方向へ飛んでいました。何故か?勘が告げているからです!……いえ、嘘です。ちょっとした道具補充の為です。
時折、妖精やら何やらが通り過ぎる度に、霊夢さんが腕の中の少女を高らかに奏でつつ飛んでいると、ひっそりと建つお店が見えてきました。霊夢さんが優しく告げます。
「あれが香霖堂よ」
「はふ…」
レミリアは言葉少なく霊夢さんに答えます。ちなみに、毛布ですっぽり包まれている為、彼女は前が見えてません。
霊夢さんは愉しげに店の前へ降り立つと、無造作に扉を蹴り開けました。両手が塞がっているので、仕方が在りませんね。
可愛い巫女さんは自慢のソプラノボイスで店主の名前を呼びます。
「霖之助さーん!居るんでしょー?霖之助さーん?霖之助ー、こらっ、犬ー!」
次の瞬間、がたがたがっしゃんどんじゃららーと騒音が奥から聞こえると、一人の男が慌てて転がり出てきました。
灰色掛かった髪の、眼鏡を掛けた青年です。美を付けても問題ありません。
女性じゃない?いえいえ、霊夢さんは美の付くものなら選り好みしないのですよ。
整った面長の顔立ちは何処か懐古的で、それでいて瞳の鋭いのが印象的です。アンバランスさが良いですね。今日も高得点です。
眼鏡の奥に在る瞳は良く見えませんが、とても理知的な感じがします。けれど何処か優柔不断な雰囲気が在るので、取って付き難い感じはしません。
落ち着いた配色の着物も彼に合っていて、周囲に穏やかな空気を流してくれます。実は優しいお兄さんと言う感じですね。居てくれると何故か安心する、そんな青年です。
彼こそがこの店、香霖堂の店主である森近霖之助です。ちょっと呼び辛い名前ですよね。なので、結構店名で呼ばれてしまっています。霊夢さんは可愛い巫女さんなので、ちゃんと呼んでいるんです。
「こ、こら霊夢!人聞きの悪い事を言うものじゃないよ!」
彼は慌てたように霊夢さんに詰め寄ろうとして、ふと、彼女の腕の中に在る人物へ目が行きました。そして思わず逸らします。
慌てた仕草が中々に可愛らしいですね。でも、目も当てられない状態になっているので、仕方が無い事だと思います。
レミリアが恥ずかしそうに毛布に縮こまるのを見つつ、霊夢さんは霖之助に笑顔で言いました。
「お払い棒を寄越しなさい♪」
「………」
霖之助が思わず言葉を失います。
霊夢さんは彼が聞き取れなかったのだと思い、もう一度笑顔で言いました。
「お払い棒を私に寄越しなさい♪」
「…いや、霊夢、何度も言うようだけど」
「黙ってお払い棒を私に寄越しなさい♪」
「いや、だからね。物はお金」
「黙ってお払い棒を私に今すぐ寄越しなさい♪」
「……解ったよ」
霊夢さんの得意技、笑顔でおねだりの前に霖之助は快くお払い棒を差し出してくれました。無論、おねだり中の霊夢さんの表情は一切変わっていません。
彼女の笑顔は全てを受け入れてくれます。だからこそ、彼女も全てに受け入れられているのです。流石は可愛い巫女さんですね。それは間違い無く思い込みです。それと恐喝です。あと、ねだるとは、ゆするとも書くんですよ?
「はぁ…、今回もツケなんだね…」
「あら……」
いつの間にか霖之助の傍に寄っていた霊夢さんが妖しく微笑みます。
びくっと強張る彼の頬に手を添えると、霊夢さんはゆっくりと指を降ろして行きました。これからがお楽しみなのです。
男性にしてはきめ細かな肌。あまり外に出ず、基本的には家の中で本を読んだりと言う彼は、何処か耽美な印象も感じさせます。
「ちゃんと支払ってるじゃない…?」
「い、いや…!僕はちゃんとお金で」
「レミリア、ちゃんと見てるのよ」
「へ?…え、えぇ…っ!?」
「とう!」
「うわぁぁぁぁ…っ」
この先を、お見せ出来ないのが残念でなりません。
なので、この言葉を送ります。
さんびょう
…と。
………。
……。
…。
「さて、問題無くお払い棒も手に入ったし、幸先良いわね♪」
未だつやつやしている霊夢さんは、にっこり笑顔で言いました。
知らない世界を見せられたレミリアは、そんな霊夢さんを見て頬を染めるのみです。
それを満足気に見遣り、霊夢さんは再び彼女を毛布で包み込むと、弄びながら宙へと舞い上がりました。
これから向かうのはレミリアの城、紅魔館です。湧き上がる期待は霊夢さんに無限の力を与えてくれます。
勘が告げています。美幼女の存在は確かなものだと!
向かう先は、そう、己の勘の告げるがままにです!
………ちなみに、可愛い巫女さんは純潔でないと務まりません。入れられるなんて以ての外です。意味が解らないのであればとても良い事です。純粋と言うのは良い事なのですよ。
再び訪れた紅魔館の廊下をやはりレミリアを弄びながら霊夢さんは飛んでいました。何故か?言うまでも在りません。勘が告げているのです。ここがエクストラステージだと!
猛然と襲い掛かろうとしたスーパーメイド達は、囚われのお嬢様を目にした途端、力無く墜落していきました。其処に霊夢さんが追撃を掛け、余す所無くご馳走様ですと言う心温かな食物連鎖が始まります。この頃になるとレミリアも慣れてきたもので、積極的にスーパーメイド達を食べ始めていました。良く寝良く食べ良く運動。これが美人になる為の秘訣です。良い事ですね!
彼女達を止められる者は、最早誰も居ないと言った勢いでした。
しかし、彼女達の快進撃はある程度進んだ所で止められてしまいます。
「ま…、また来てくれたの…?ってレミィ!?何やってるのっ」
そう言ってゆっくりと現れたのは、昨日霊夢さんが可愛がってあげたパチュリーでした。
彼女は霊夢さんの姿を見て一度頬を染めましたが、親友らしいレミリアの所業を見て思わず声を荒げました。
喘息持ちと言う話でしたが、彼女が咳き込む様子も無かったので霊夢さんの眉が僅かに動きます。しかし、吸血鬼美少女も隠れ巨乳魔女も、その事には気付きませんでした。
「また来たの。…美幼女は何処?」
「パチェ…、大人しく其処を退いて頂戴」
「それって…、レミィ…まさか…」
「ええ…」
パチュリーの問い掛けに、レミリアは霊夢に寄り添う事で答えました。その瞳は何処か熱っぽく、怪しげな催眠術にでも掛かったかのようです。潤んだ瞳が何より彼女の状態を教えてくれます。
切なげな声で、彼女は言いました。
「霊夢だったら……やってくれるわ…」
…そりゃあ彼女ならやってくれるでしょう。何せ可愛い巫女さんですから、即日解決です。
しかし、パチュリーの問いはレミリアが受け取った解釈から、実に百五十度ほど離れたものだったのです。彼女の言葉には、こう続く予定でした。
…貴女も?と。
「…そう」
「……パチェ?」
嫉妬に燃えるパチュリーには、目の前に親友の姿など見えませんでした。居るのは敵です。悲しい事に、彼女は初めての感情に呑まれてしまっていました。
今の彼女の心情はこんな感じです。
愛しさ>切なさ>心強さ
……全く意味が解りませんね。と言うよりも、嫉妬は何処に行ったのでしょうか?
「あの時からとっても喘息の調子が良いから、今日は取って置きの魔法を見せてあげるわ!」
ぽ…っと薄ら頬を染めながらも、パチュリーが両手を広げます。
彼女の胸の前に浮かんだ魔道書が忙しなく捲れ、昨日とは比べ物にならないほどの魔力によって、館全体が震え始めました。何処からとも無く舞い上がった風が彼女の髪をはためかせ、その華奢な身体を中心に紫電が走り出します。…正直、頬を染めながらだと物凄く怖いです。
今までの付き合いの中でもトップクラスの魔力に、レミリアも慌てて構えました。
「女神の零す月の涙…、その雫に…貴女はただ、貫かれるだけ。…サイレントセレ」
「巫女無視んな!」
「あうっ…!」
「パ、パチェ…!」
何だか今日は元気そうだったので、ちょっとだけ普通に殴打です。帰ってきたお払い棒が唸りました。
HPゲージの事は言うまでも無いですよね。
テンプルを打ち抜かれたボクサーのように、パチュリーが膝から崩れ落ちました。
彼女は何故殴られたのか解りません。朦朧とする意識の中、必死に考えるパチュリーを霊夢さんが抱き起こします。
その行為にやはり自分は大切にされているのだと彼女は喜び
「美の付く全てのものは私の物よ!」
に浸る事は出来ませんでした。
霊夢さんの宣言は、明らかに自分以外も指しているのです。
パチュリーは初恋がテンプル共々打ち抜かれた事に気が付きました。……こうなったらもう自棄酒です!そして時間が癒してくれるのを待つばかりなのです!
ふらつく身体を起こそうとしたパチュリーは、最後に自分の思い人だった可愛い巫女さんの顔を見ようとして、
「今日も色々と絶好調だから、取って置きのお仕置きを見せてあげる…」
「ひっ…!?」
自分がもう彼女から逃れられない事を悟りました。ご愁傷様です。
…十分後。
その宣言通りの霊夢さんを前に、身体を横たえたパチュリーが其処に居ました。辛うじて意識の有るところを見るに、身体は病弱でも精神は丈夫なようです。流石は魔女ですね。
後ろで怯えているレミリアを満足げに見つつ、霊夢さんがとても素敵な笑顔で言います。
「今日はいつにもまして熱いわね。こんなに躰が熱いのは、丈夫なペットが出来たから?」
「甘いわ!そこの紅白!」
そんな彼女に届く、鋭い声。
らしくも無く霊夢さんの鼓動が跳ねます。勿論、期待にです!
「他にも私の獲物が居るのね?」
霊夢さんがゆっくりと声の方に顔を向け
「おまたせ」
ずきゅーーーーーんっ!!!
ると同時に彼女の心臓は百八ビートを刻み始めました。ヤバいです!人間だったら過剰が過ぎて死んでしまいます!
でも霊夢さんは、可愛い巫女さんなので大丈夫でした。可愛い巫女さんと言うのは色々と得ですね。……と、そんな事を言っている場合では在りません!霊夢さんは瞳がギラギラと輝くのを抑える事が出来ません!涙の数だけ強くなれる人とは違い、彼女は煩悩の数だけ凄くなってしまうのです!
そんな彼女の前に、可愛らしくもちょっと生意気そうな声で現れてしまったのは、如何見ても金髪紅眼超絶美幼女でした。
お姉さんであるレミリアとは対極と言っても良い、甘く柔らかそうなハニーブロンド。それを片側で尻尾にした、ちょっと変わった髪形です。でもそれが良い!姉妹でお揃いな帽子は、むしろ一緒にお召し上がり下さいと言っているようなものです!
キラキラと無邪気に輝く瞳も、お姉さんと同じで紅でした。いえ、ひょっとしたら彼女よりも深く鮮やかかも知れません。けれど、小さくもぷにぷにな顔立ちと頬っぺたは、間違い無く美幼女のものでした!どちらにせよ一緒にお召し上がり下さいと言っているようなものです!
霊夢さんはもう、この時点で感極まってます!しかし、まだまだ続くのです!
少女を飾るのは紅い衣装。ドレスでないその姿は、真っ赤なベストとちょっぴり丈の短いスカート。其処から伸びる手足は細いのに、やっぱりぷにぷにです!それを見つめていた霊夢さんの身体が、落ち着かなそうに痙攣を始めました。禁断症状の一歩前って感じです!
そして何より目を引くのは、七色の輝きを放つ羽を提げた、異形の翼でした。
あれで如何やって飛んでいるのでしょうか?解りません。でも羽ばたいています。飛んでいるのです!
そんな不思議なフランドールは、片手に悪魔の尻尾のような杖を携えて、びしっとポーズを取りました。彼女的には格好良いと思っているのでしょう。………とても可愛いらしいですっ!
そう言うのは、もう少し酷薄な笑みを浮かべられるようになってからやってください。
兎に角、その活発的な服装から何となく彼女はお転婆な感じがしましたので、お転婆美幼女吸血鬼フランドール。
これで行く事にします!
「お゛おおぉぉ…ぉぉ、お゛ぉぉ……っ!!あ、貴方は…っ?前来た時は居なかったような気がするけど……!」
「何でそんなに震えてるの?…まあ、居たよ。居たけど、見えなかったの……って、あれ…お姉様、久し振り!」
「ええ…、久し振りねフラン…」
「何年振りかなぁ…顔見たの。ま、良いや。…で、あなたはもしかして人間?」
「ええ、そうよ」
「お姉様には聞いてないよ」
「………そ、そうね」
仲が良いのか悪いのか、解らない姉妹ですね。
元気に挨拶したかと思えばつれなく返すフランドールに、レミリアは顔に縦線を浮かべて肩を落としました。
「ねえねえっ、人間って飲み物の形でしか見たこと無いの」
「ああ、人間だよ。人間は、紅茶よりは複雑なものなのよ。心と体は近くて遠い。そんな悲し」
「ほら、鶏って」
「くも…って、うん?」
「捌いたり出来ない人でも美味しく頂けるの」
「…解かってないわねぇ。人間はそのままで頂くのが美味しいんじゃない♪」
「……あなた、人間?」
霊夢さんの足元に転がっているパチュリーを見つつ、フランドールが言います。
そんな彼女に対し、霊夢さんはにっこりと素敵な笑顔で答えるのでした。
「人間よ」
「うーん…。お姉様、そうなの……?」
「霊夢の言う事は全てが真実よ!」
「……コレ、お姉様じゃない。レプリカだ」
「レ、レミリアよ!!」
……何だか、フランドールに対してレミリアの一方的な愛情に見えてきますね。
フランドールのレミリアを見る視線には、年季の入った諦観のようなものが見え隠れしています。
これはいけませんね。
姉妹とは、可愛く仲良く大胆でなければいけません!
「駄目よ?お姉さんをそんな風に言ったら」
「だってさぁ…、人が居ない時は妙にベタベタしてくるし、なんか視線が怖いし…」
「襲われたりしたの?」
「しないわ」
「…まだか。妹君に言いたいけど、お姉様はこれから家の神社に入り浸る予定なのよ」
「しってるわよ。私も行こうとしたら……」
「大歓迎!」
「止められる」
「何だって!?」
「豪雨を降らされて、お外は歩けない」
「誰がそんな事を!!」
「パチュリー」
「……要お仕置きね」
横たわっているパチュリーの身体が、びくっと震えました。それを見たレミリアは、ただ心の中で羨む限りです。
「…それにしても、過去になんかやらかしたの?問題児っぽいけど」
「何も出来るはずがないわ。私は495年間一回も、お外に出てないのよ」
「ふむ…。ほんとに、初物なのね……」
レミリアが500歳らしいので、霊夢さんは確証を得るに至ります。
彼女が嬉しそうに笑顔を浮かべるのと、フランドールが悪魔のような微笑を浮かべるのは同時でした。
「そこに飛び込む遊び道具……」
可愛らしい声のまま、フランドールが笑います。
それは見ている側も微笑んでしまいそうになる笑顔でしたが、何処か、ピントの外れた笑顔でもありました。
「何して戯ぶ?」
すっと、霊夢さんがお払い棒を袖から出しました。
この展開は、
「弾幕ごっこ!」
「ああ、パターン作りごっこね。それは私の得意分野だわ!」
弾幕ごっこの始まりです!
フランドールの放つプレッシャーが上がっていき、ついにはレミリアのものを上回り始めます。
姉への愛情を取り戻させ、そして美味しく二人を頂く為に、霊夢さんはこの戦いを負ける訳にはいきません!
霊夢さんは右斜め四十五度に在った空間の綻びを繋ぎ合わせて、愛を取り戻せと瞬間移動しました。幻想空想穴です!
「…あれ?」
「巫女嘗めんな!」
「いたぁぁぁぁぁっっ!!」
霊夢さんの相棒が唸りを上げ、フランドールの側頭部を殴打します。
お姉さんのレミリアと同じで、やっぱり彼女も丈夫です。悲鳴まで似ている所が、ちょっぴり微笑ましいですね。
削れたのはHPゲージ一本分だけで、まだまだフランドールも元気です。
「うー…、痛い。…けど、すごいっ!こんな弾幕見た事ないよ!すごいすごーいっ!!」
「ええっ?フランっ、それは弾幕じゃな」
「なら、もっと味あわせてあげるわ!」
再度唸りを上げたお払い棒は、フランドールの杖に受け止められていました。お姉さんが何か言ったような気がしましたが、恐らくは気の所為ですね。
人間と吸血鬼。力では後者に軍配が上がってしまいます。流石の可愛い巫女さんでも、こればかりは如何しようも在りません。
じりじりと押し返される霊夢さんを見て、吸血鬼美幼女が甲高い声を上げました。
「キャハハハハハハッ!炎の剣で真っ赤に二つよ!!」
「霊夢…っ!!」
「っ!?」
なんと、次の瞬間。
フランドールの声に応じたように、その杖から炎が吹き上がったのです!
レミリアの声と共に、嫌な予感を感じた霊夢さんがお払い棒を手放して逃げるのと、お払い棒が一瞬で燃え尽きたのは同時でした。
「あれれ…、燃え尽きると思ったのになぁ…」
残念そうに霊夢さんを見つめるフランドールは、まるで鼠を逃がしてしまった子猫のようです。
可愛く唇を尖らせてはいますが、やってる事は洒落になりません。
彼女が炎の剣を揺らす度に火の粉が零れ落ち、それが廊下の床や壁を削り取っていきます。
燃え尽きて灰になってしまった相棒を見つめつつ、霊夢さんが小さく震えました。
「ねえ…、フランドール…」
「なぁに、紅白さん?」
そんな霊夢さんを愉しげに笑いながら、フランドールが首を傾げます。
震えている彼女の身体から、それを恐怖と感じたのでしょう。鼠を甚振る無邪気で無慈悲な子猫のような笑みを、より一層深いものへします。
霊夢さんはゆっくりと顔を上げると、身体を震わせて言いました。
「貴女は私のハートに火を点けたッ!!」
「…は、はい…?」
「もう我慢出来ないわ…っ!!」
恐怖とは正反対の言葉でした!
当たり前です………彼女は可愛い巫女さんなのですから!
彼女がそう宣言した瞬間、フランドールのお姉さんがぶるぶると身体を震わせましたが、それは如何でも良い事です。
「次回作まで取って置きたかったけれど…」
そんな意味の解らない言葉と共に、霊夢さんがお払い棒を取り出した裾の中へ、再び手を突っ込みます。
恍惚とレミリアが、怪訝そうにフランドールが見つめる中、彼女は裾の中から何かを取り出しました。
霊夢さんが取り出したのは、
何だか、とても大きな、
針でした!
「そ、それは…っ!フランっ避けっ、………」
レミリアが霊夢さんの手に在る物を見た瞬間、妹さんに何かを叫ぼうとしました。
しかし、
霊夢さんが後ろ手に何かを放る仕草と共に、彼女の一切の動きが止まってしまいます。…見れば彼女のお腹辺りに、霊夢さんの持っていた大きな針が、ぷすっと刺さっていたのです。
それが霞むようにして姿を消して、
「はふん…」
くったりとレミリアが床に崩れ落ちます。
丁度パチュリーの隣に倒れた為、端から見るとお昼寝のようなので、ちょっぴり微笑ましいですね。
フランドールはそんなお姉さんの姿を見て、とても嫌な汗を流しました。
よく見れば口の辺りが動いているので、死んでしまったのではないと解ります。しかしそれでも、吸血鬼であり強大な力を持っているお姉さんを一撃でこんなにしてしまった針を、フランドールは怖いものでも見るように後ず去りました。
「悪い子ねぇ…。駄目じゃないの…レミリア?」
「あぅ…あぅあぅ…」
甘ったるくそんな事を言いながらも、霊夢さんの瞳はフランドールを捕らえて離しません。
その針を片手に、ゆっくりと近付いて来る霊夢さんに、とうとうフランドールは恐慌に陥ってしまいました。
「わ…っ、わぁぁぁぁぁぁっ!!」
大きな声を上げながら、燃え盛る剣を思い切り振り被ります。
しかし、そんなあからさまな攻撃を、霊夢さんが当たる筈も在りませんでした。
炎の剣が通過した後に彼女の姿は無く、霊夢さんは幻想空想穴でフランドールの背後にあっさり回ると、
「ふぅ~…」
「わひっ!?!?」
そっとフランドールの髪を分け、可愛らしい耳に息を吹き掛けます。
それが、フランドールの限界でした。
彼女はぺたんと座り込むと、怯えたように両手で身体を抱きしめました。涙目が堪りません!
からんと音を立てて杖が転がるのを見取ると、霊夢さんが優しく微笑み、解り切った事を問い掛けました。
「降参?」
でも目は笑ってません。
目の前の極上の美幼女を前に、その瞳が爛々と輝きを増していきます。
フランドールが小さく頷くのを見ると、霊夢さんはいつものように、決め台詞を放つのでした。
「見た?これが神に仕えるものの力なのよ!」
…どんな神に仕えているか、解ったもんじゃ在りませんね。と言うより、霊夢さんは神様を信じていません。それどころか、自分が神様だと思ってる節さえ在る気がします。流石は可愛い巫女さんですね。
まあ、そんな事は置いておきまして…。
霊夢さんはいそいそと針を裾に仕舞うと、フランドールの目の前で膝を折りました。これからがお楽しみなのです。
フランドールの頭に手を置いた霊夢さんは、優しく微笑みながらその頭を撫でてあげました。不思議そうに顔を上げたフランドールに、霊夢さんがお母さんのように言いました。
「私がセ(ピーーーーー)ドになってあげるから」
とんでもないお母さんがここに居ました。
これでもかと言わんばかりに、放送禁止用語を音が伏せます。
「セッ(ピーーーーー)?」
洒落にならない台詞をオウム返しにするフランドールに、お姉さんの身体がびくびくっと跳ねます。
そんなお姉さんにお仕置きしないといけない事を思い出した霊夢さんは、フランドールを促しました。
「とっても良い戯びを教えてあげる」
「…あそび?」
「そう…、悪い子だけの…とっても良い戯び」
「悪い子…」
「…ね、フラン?」
「………うん」
この先を、お見せ出来ないのが残念でなりません。
なので、この言葉で想像の翼を広げて下さい。
しまいど(ピーーーーー)
…と。
………。
……。
…。
「悪い子って、本当に素敵だわぁ…♪」
レミリア、フランドール、途中参戦のパチュリー、咲夜を侍らせて、両頬に手を当てた霊夢さんがうっとりと言いました。
そんな霊夢さんのちょっぴり可愛い一面を見て、彼女達は頬を染めるのみです。
それに気付いた霊夢さんは、少しだけ照れたように微笑みます。
こうしている分には、至って年相応な美少女なのですが…。これが可愛い巫女さんだと言う事なのでしょう。
そろそろ疲れてきた霊夢さんは、家の掃除とかもしなければならない事も在り、神社へ帰る事にしました。
名残惜しむような彼女達の頬っぺたに優しくキスをすると、霊夢さんは静かに立ち上がります。
「私は大抵神社に居るわ。…いつでもお出でなさい?」
振り向き様にそれだけ告げると、霊夢さんはいつものように高らかと舞い上がりました。
その姿を、彼女達は頬を押さえて見送る事しか出来ません。
髪を撫でる心地良い風に目を細め、霊夢さんは鮮やかな青空へと身を投じるのでした。
注意!
ここから先は、二次創作の産み出したEXルーミアが出て来ます。
そしてそんな彼女の性格は、勿論人其々であり、場合によっては嫌悪感すら抱く事も在りえます。(ここまでやっておいて、今更ですが
あほっぽくてちょっとえっちなコンセプトは変わりませんが、「嫌だ断るこれまでだ!」と言う方は、下までぶっ飛ばしちゃって下さい!
紅魔館を後にした霊夢さんは澄みやかな青空を飛んでいました。何故か?神社の掃除をしなければならないからです。愛人達に気を使わせたりしないよう、不衛生で病気をさせないようにと、常に清潔を保っておく必要が在るのです。
今回の一件で、新しく増えた愛人達。
その中でも特に印象が残ったのは、
ルーミア、大妖精、チルノ、美鈴、小悪魔、パチュリー、咲夜、レミリア、フランドール、
の九人です。
不眠不休で食べ続け、紅魔館のメイド達を入れてしまうと、その数を数える事すら出来ません。
徹夜だろうとなんのその!霊夢さんは清々しい笑顔で神社への帰路を辿っていました。
「霊夢ーっ!」
「あら…?」
もう少しで神社に到着と言う所で、自分を呼ぶ声に霊夢さんが止まります。
後ろから彼女を追い駆けてきたのは、先程たっぷりとご馳走になったお転婆美幼女吸血鬼フランドールでした。
彼女は日傘片手に満円の笑みで霊夢さんの所までやって来ましたが、いざ霊夢さんの前に立つと、急にもじもじとし始めてしまいました。
「あのね…」
おや?…と、霊夢さんが疑問に思う間も無く、
「わるいこと、…もっと、教えて欲しいな…って」
「くぁ…っ」
上目遣いに言うフランドールの一撃に、可愛い巫女さんは思わず墜落しそうになりました。
やはり間違っていなかったのです。霊夢さんの勘は、今日この日の為に!そして、これから、先へと、続いている事を、改めて実感しました!
掃除なんて後です!今はこのいけない子に色々と今後に役立つ様々な教養と言う教養を技術と言う技術をそれこそ三日三晩で教え込まなければいけません!睡眠?要りません!三日四日忘れた所で問題在りません!食事!?それこそ時間の限りに摂っているじゃないですか!不要ッ!!
徐々に変わりゆく霊夢さんの目の色に、フランドールは高鳴る鼓動を抑える事が出来ません。
逸る気持ちを抑えられず、霊夢さんは日光に当たらないように気を付けながらフランドールの手を握ります。
「あれ~、霊夢?」
「ッッッ!!」
突然聞こえたその声に、霊夢さんは今度こそ心臓の鼓動に至るまで一切合財活動を停止しました。
その声はちょっとのんびりとしていて、ほにゃほにゃと…まあ兎に角そんな感じで、霊夢さんが間違っていないのなら…今回第一のとてもご馳走様を飾った美少女…、
「…神様、貴方はちゃんと居たのですね…!」
振り向いた霊夢さんが瞳に映したのは、違う事無く、闇を纏った美少女妖怪ルーミアだったのです!
霊夢さんの思考は一瞬でした。
ちょっと似た所の有る、ほにゃほにゃしたこの二人を……いえ、言うまでも在りませんね。
ここに来て、今日この後は穏やかに終わると思っていた霊夢さんにとって、フランドールの行動自体が不意打ちでした。そこにきてルーミアまで参戦となると、如何やらまだ宴は続いているようです。
そんなこんなで二人の自己紹介は和やかに終わり、ルーミアもフランドールも、パチュリーのような状態にならないのを、霊夢さんはとても嬉しく思いました。
神社に辿り着いた霊夢さんは準備が在ると言い、二人に仲良くしてるよう言い聞かせると、奥へと引っ込んでしまいます。何せ、必要となるものが沢山有るのです。
二人は笑顔で霊夢さんを見送ると、和気靄々とお話を始めるのでした。
「ねえ、ルーミア」
「?」
フランドールの問い掛けに、ルーミアが小さく首を傾げる事で応えます。
自分と共通点の有るルーミアに、フランドールも興味津々なようです。
一つ一つ交互に質問しながら笑い合う二人は、とても微笑ましい光景ですね。
ふと、フランドールは不思議そうにルーミアの真っ赤なリボンに目を向けました。
それは少し古ぼけた感じがしていて、自分と同じの綺麗なブロンドをした彼女には、少し不釣合いのような気がしたのかも知れません。
「そのリボンって、…あれ?…リボンじゃない?」
「そうだよー。これ、何だか封印のお札みたいなのよ」
はふぅ…と盛大に溜息を吐いて、ルーミアが肩を落とします。
「自分じゃ触れないから、取れないの。それに、普通の妖怪とかも触れないし」
「ふーん…」
そのリボンを、フランドールが興味深そうに凝視します。
暫くの間、そうやってリボンを見つめていたフランドールでしたが、悪戯っ子の笑顔を浮かべてルーミアに言います。
「多分、その封印壊せるよ」
「え?ホント?」
「うん。…やる?」
「うーん…」
ルーミアは少しだけ考えてしまいます。
そのお札が何を封印しているのか解りませんし、少し躊躇いを感じてしまうのです。
けれど、ルーミアも妖怪です。もしこの封印が、自分の力を封じ込めているのだとしたら、それを解放する事で強い力を得る事が出来るのだとしたら……。
随分と長く考えて、ルーミアはフランドールに言いました。
「…やって」
それが彼女の答えでした。
誰だろうと強くなりたい気持ちは有るものです。それは誰にも責められる事では在りません。
フランドールはそんなルーミアに好意的な笑顔を向けて、大きく頷きました。
「それじゃ、行くよー」
「うん」
そして、
その瞬間、幻想郷は闇に包まれたのでした。
「…何…?」
うきうきしながら道具を掻き集めていた霊夢さんは、突然真っ暗になった視界に思わず道具を落としてしまいました。
慌てて拾おうにも、暗闇の所為で見えません。
「この闇…」
ちょっとだけいやな予感を、霊夢さんは感じ取りました。
何も聞こえない闇。それは落ちた道具の跳ねる音さえ飲み込んでしまっているのだと、可愛い巫女さんである霊夢さんは解りました。これは明らかな異常です。
そこまで考えて、霊夢さんはハッと息を飲みました。
寝室には、ルーミアとフランドールが居るのです!
これは緊急事態だと言わんばかりに、幻想空想穴で霊夢さんは寝室まで一飛びしました。ちょっと疲れるので、普段は戦いの時にしか使っていないのですが、今はそんな事を言っている場合では在りません!
寝室に居る少女達の身に何か在ったら、切腹ものです。そんな事をしたら、皆が悲しみます。涙で幻想郷が沈んでしまうに違い在りません。
そうして彼女が寝室に辿り着いた時、一見変わり無い二人に霊夢さんは安心しかけ………、それはすぐさま自慢の勘が否定しました。いえ、勘に頼るまでも在りません。
ルーミアの身体から闇が噴き出し、全てを暗黒に染めていたからです。
「これは…」
「れ、霊夢…!」
声のする方にフランドールが駆け寄りますが、霊夢さんの身体に触れても、彼女の姿を見る事は叶いませんでした。瞳が闇に覆われたように、一切が見えないのです。
しかし、何故か彼女の姿だけは見えました。
闇を噴き出している張本人、美少女妖怪ルーミアの姿だけが、この闇の中で見える唯一のものでした。
「…霊夢……?」
そのルーミアが、俯き加減で見えなかった顔を上げ、霊夢さんの顔を見ます。ついさっきまでの可愛らしい笑顔とは打って変わり、彼女の表情は酷く冷めたものでした。
パッチリとしていた瞳は、眠たく憂鬱そうに細まり、霊夢さんとフランドールを見ています。
顔も、身体の作りも全く変わっていないのに、別の何かに変わってしまったような感じです。
変わっている所と言えば、髪に括り付けてあった赤いリボンが無くなっている事でしょうか。
ルーミアは可愛らしい顔のまま、妖艶に笑って見せました。
「おやおや、懐かしな感じ。お前は博麗だろう…?」
「ルーミア……、ね。…成る程、これを封印していたのか」
「有難う。久々の自由だよ、お嬢ちゃん」
声も変わらず可愛らしいのに、気だるげな、まるで老人のような口調でした。
「お二人には、これだと少し見辛いか…。まあ…お礼と言う事で、闇は抑えてあげようかな」
その言葉と同時で辺りの闇が晴れていき、霊夢さんとフランドールがお互いの姿を見る事が出来るまで明るくなりました。
変わってしまった…いえ、この場合は元のルーミアに戻った、と言うのでしょうか?そんな彼女に対して、霊夢さんは先程から何かを感じるように胸が締め付けられるのを自覚します。
「…それがお礼なのかしら?」
「十分過ぎるお礼でしょう?視覚を持った生き物は、常に闇に囚われる。例え聴覚を基にしていたとしても、見ると云う事が出来るのなら…、見えぬ違和感はいずれ重圧へと転じ、其れは容易く……壊れる」
「壊れる…」
「ええそうよ、お嬢ちゃん。…そう言えば、貴女が私の封印を壊してくれたんだっけ。……って、あれ?」
フランドールに妖しく微笑んでいたルーミアは、自分の身体を見て、そこで初めて可愛らしい声を上げました。
腕を伸ばしたり、肩越しに背中を覗いたり、背伸びしたり、身体を捻ったり、胸元を引っ張って中を見たりと一通りやると、ちょっとだけ困ったように眉を寄せます。
ずきゅーーーーーんっ!!!
その瞬間でした。霊夢さんの身体に稲妻が疾ったのは!
今まで出会ってきた数々の美少女達。
そのどれにも感じてきた、心地良い、官能を、幸福を伴った甘い稲妻!
「中途半端に解けてしまったのか…。…まあ、良い。これはこれで、使い道が」
「成る程…」
「何だ?博麗」
ゆらりと、霊夢さんは前へ踏み出します。
「ギャップ…」
「は…?」
「小さいくせに大きな態度」
「い…、いや、博麗霊夢…!なんで近寄ってくるっ!?」
「可愛いくせにやらしい仕草。それに気付かず振舞うぽけぽけ」
わきわきと両手の指を動かして、一歩……また一歩…と、霊夢さんがルーミアに近付いて行きます。
「それはさながら、隣のお姉ちゃんが大人びた人が好きだと聞いてそういう仕草を間違って勉強しちゃったそんな態度を取ってるつもりの純真無垢な女の子」
「絶対に違う!捏造などするな!!…この…っ、馬鹿にしよって!!」
「いけない子…。いけない子が、こんなにいっぱい…♪」
「っ、何だその危ない目はっ!?」
「悪い子だけが出来る、とっても良い戯び~♪」
「お前までっ!?」
霊夢さんに続いてフランドールまで、ルーミアに近付いて来ます。
慌てて飛び退いた彼女は、ぽてっと言う感じに着地すると、軽く右手を持ち上げました。
その仕草に、霊夢さんとフランドールが足を止めます。
ピリピリとした空気は、今まさに、ルーミアが魔力を凝縮しているものだったのです。
「後悔させてやろう…!
永劫の静寂に囚われた貴様らは、闇に侵され狂いゆく…。
左右も解らぬ恐怖に抱かれ、私の静かな胎内―ゆりかご―を、嘆きと赦しで満たすが良いっ!」
「出来るかしら?
私は博麗霊夢。美少女達の守護者。後ついでに幻想郷の素敵な巫女さん。
貴女はちっとも解ってない…。貴女自身が、私の捕食対象で在る事を…っ!」
ルーミアが両手を広げて目付きをキツくします。
嘲笑うような彼女を前に、霊夢さんとフランドールは身構えました。
弾幕ごっこの始まりです!
「…あれ?」
…が、彼女が困ったように首を傾げました。
そんな彼女に、霊夢さんもフランドールも不思議そうな顔をします。
「なっ、何でも無い!手足を切り裂いて達磨にしてくれる!」
広げた両手に何の意味があったのかは知りませんが、ルーミアは剣を振りかぶるような仕草と共に、猛然と霊夢さんに駆け寄りました。
…弾幕ごっこは何処に行ったんでしょうね。
嫌な予感を覚えた霊夢さんが、背中から金属お払い棒を抜き出し振るうのと、ルーミアの腕が横薙ぎに振るわれるのは同時でした。
「霊夢っ!!」
フランドールの叫び声。
ギイィィィィンッッ!!
金属の噛み合う音がして、霊夢さんの身体が吹き飛ばされます。
血の気の引いた霊夢さんが側転の要領で巧みに床へ降り立つと、ルーミアが満足げに微笑みました。
「…っく…!何…!?」
「く、ふふ…っ、そうよ博麗…。まだ終わったら駄目……」
そう言ったルーミアの右手。何かを握ったようなその先が、寝室の畳を鋭利に引き裂いています。
「さあ…、まだまだ…」
ルーミアが不敵に笑み、再度、霊夢さんに襲いかかろうとしたその時です。
「これからっつあ!?…お、おもっ!」
「はい?」
かくん、と、ルーミアの身体が転びそうになりました。上半身が置き去りになったような、ちょっと間抜けっぽい姿勢です。
少しの間、フランドールは時間が止まったような気がしました。
「なんでっ!…このっ!……う~~~…っ!!」
ハッと正気に返ったルーミアが、手に持っているらしい何かを一生懸命引き抜こうとしましたが、……如何にも持ち上がらないようです。
「…はぁっ…はぁっ…はぁっ」
「………」
「………」
「う……」
場を沈黙が支配します。
中途半端に封印を壊された影響でしょうか?
霊夢さんは彼女の身体から、もうあまり力を感じませんでした。恐らく、あの見えない何かを顕現した際に、力の大半を使ってしまったのでしょうね。
ルーミアは愕然とフランドールを見ます。
「♪」
「……あぅ」
良い笑顔でした!
ルーミアは恐る恐る霊夢さんを見ました。
「…♪」
「ひっ…!」
すっごい笑顔でした!
「くそ…っ!!」
あまり良くない言葉を吐き捨てて、ルーミアが左手を前に突き出します。
先程と同じようにして霊夢さん達を見据えると、最後の力を振り絞って高らかに叫びました。
「おいで!私の可愛い子供達!ナイトレイヴンッ!!」
ぽうん。…と。
そんな可愛い音と共に、ルーミアの前に拳程の弾が現れます。
一つだけ。
……それはもう弾幕では在りませんでした。幕じゃ在りません。どちらかと言うと、なんて言葉も使えない、…弾でした。
霊夢さんもフランドールも、見ていられなくて目を逸らします。
「……、うわぁぁぁんっ!」
目に涙を浮かべたルーミアは、霊夢さん目掛けてナイトレイヴン(単発)を撃ち出しました。
程良いスピード。大きさ。高さ。
霊夢さんの瞳がキランと光ります。……そして、
「貰ったぁぁぁーーーーっ!!!!」
バッティングコーチに迎え入れたいほどの腰の切れを持ったスウィングで、霊夢さんはその弾を打ち返しました!
軸足の強力な回転と圧力に耐えられず、畳が捩れ、草を散らします!強烈なピッチャー返しですっ!
弾の飛んで行った方を見遣りつつ、霊夢さんが満足げに唇を持ち上げます。惚れ惚れするような笑みでした。
顔面擦れ擦れに飛んでいったナイトレイヴン(単発)に、ルーミアは泣いたまま笑顔を浮かべました。もう、それしか出来ませんでした。……ところで、ピッチャー返しとは何でしょうね。
力無く座り込んだルーミアに、霊夢さんはビシッと金属お払い棒を突きつけて、いつものように宣言します。
「さあっ、私の勝ち…ね…、…って」
しかし、その言葉は尻すぼみになってしまいました。
ぺたんと座り込んだルーミアが、アヒル座りのまま両足をきつく閉じて肩を震わせていたからです。
泣いているのでは在りません。それは所謂、おも(ピーーー)だったのです。
霊夢さんは優しく微笑み彼女の肩に手を置くと、そっと告げました。
「大丈夫よ。怒ったりしないから」
そんな霊夢さんにルーミアは抱き付き、小さく身体を震わせます。
「ルーミア、ごめんなさい」
フランドールもルーミアを優しく抱きしめると、呟くようにして言いました。
ルーミアの肩から、強張りが抜けます。
霊夢さんはルーミアの頭を撫でながら、そっと顔を近付けると、彼女の耳に優しく囁くのでした。
「三日三晩掛けて、慰めてあげる」
「………ぇ?」
霊夢さんがルーミアとフランドールを横たわらせると、其処には既に布団が敷かれていました。
それは一切の乱れなく、完璧なまでに整えられています。枕元に置かれたティッシュ箱が、とても意味深でした。壁に掛けられた様々な道具が、とても卑猥でした。布団を囲む大小の器具が、何故か身を凍らせました。
「いっ、いつ、のっ、まに…!」
「霊夢はやっぱりすごいねっ」
可愛い巫女さんだからね、と霊夢さんは微笑み、ゆっくりと少女達との距離を詰めます。
その顔は、まるで仏様のように慈悲に満ち溢れていると言うのに、ルーミアの感じたものは恐怖でしか在りません。
「や…っ」
ルーミアの顔が、また泣き笑いのそれに戻ってしまいます。
それを笑顔にするべく、霊夢さんは全身全霊を懸けて、ルーミアとフランドールに挑むのでした。
「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっっっ!!!!!」
この先をお見せ出来ないのが残念でなりません。…が!
ここから先は、貴方の想像が全てを決めるのです。
…そう、全ては貴方に掛かっていると言っても過言では在りませんっ!
心の目を開いて下さい。
………。
……。
…。
それから三日間、博麗神社では遊びに来た愛人達が遠慮してしまうような声が、絶え間無く響いていました。
その声がぴたりと止んだ後、障子を開けて出て来た霊夢さんは、この上なく素敵な笑顔だったとか。
彼女の後ろを覗き込んだ愛人さんが、暫くの間、遠い世界に行ってしまったのは、今でも語り継がれている逸話でもあります。
霊夢さんは額の汗を腕で拭うと、誰に聞かせる訳でも無く、ニヒルに言いました。
「私は、美少女の為に幻想郷を護っている」
…ちなみに、
封印の解けたルーミアですが、霊夢さんがお札を貼り付けると、いつものルーミアに戻りました。流石は可愛い巫女さんですね。
彼女がルーミアと戯んでいる時は、何故かもう一人の声が聞こえてきたそうです。
幻想郷には、不思議がいっぱいです。
その最たるものが可愛い巫女さんだと言うのは、言うまでも在りません。
こうして、霊夢さんの素敵な物語は、一時の閉幕を迎えたのでした。
今度こそ、めでたしめでたし。
しまいど(略)万歳。GJ!
えろいよーえろいよー
思わずニヤニヤしてしまった。
ごちそうさまです。
最高だけど・・・でも1つだけ。
香霖のさんびょうが泣けた(ノд`)
相変わらず幼女食いまくりな罰当たり巫女ですね。
とりあえずそりゃそうだろと(対こーりん戦の後の言葉に
半解除なボケEXサイコー。やっぱり俺にも食わせr(ジュッ
クソ笑
愛しさ>切なさ>心強さ
うま
妹様は別腹です。ほんとうに美味でした。今、俺の心は素敵な巫女とシンクロして――。
ああ、巫女っていいなあ。(おおむね間違った感想
頑張れ(ノД`)
セ(ピーーーーー)ドwww
なんていうか本当に素敵な巫女s(ry
これが神そのものの力なんですね?
それにしても相変わらずテンポが良くサクサク読むことが出来ました。
また貴方のHPも拝見させて頂きました。そこの小説・絵もごちそうさまでした。GJ( ´ω`)b
とりあえず前作同様最高でした
霊夢食べすぎだよ!
ちょwwwせめて腹八分目www
天上天下、唯我独尊。もうそのままイッちゃって下さい。
なんて一瞬思ってしまった自分がイヤだ!
でもそれも俺…霊夢になら、その(二十弾幕結界
…しかし、毎回レス(ryだと、ちょっとマンネリな気がしてきますよねぇ。如何しよう。
取り合えずっ、気合入れてレス返しますよ!
ハラショー、笑った、とか>ちょっとでもクスっとさせれば絵描人は満たされてしまうのです。ふふふ…。
えろい、ぎりぎり、とか>だ、大丈夫…、まだまだ大丈夫な筈…。EXの罠と云う事にして下さい!(錯乱
霊夢、巫女さん、とか>原作にこんなのが出たら…いや、考えちゃ駄目だ。恐れ多い…!兎に角っ、今回も可愛い巫女さんですよー。勘の告げるままにです!
香霖、とか>香霖兄さんで軽いジャブを放った心算でしたが、外れちゃう人も居ましたか。むぅ…。あと、一回で済むような……いえ、何でも在りませんよ(脱兎
愛しさ、とか>解る人には解る筈!マリパチュで流すとしっくりする気がします。良い曲ですよねっ、ストリートファ(サイレントセレナ
妹様、しまいど、とか>ぷにぷにですよ~。頬っぺたを押してあげてください。死にます!多分!
世界、空間、とか>現実から失われしものの行き着く場所、幻想郷。つまりはそう云う事だったんですよ!…すいません、言ってて自分でも意味不明です。
(ピーーーーー)、とか>放送禁止用語って心惹かれますよね!あの伏せ音とか!
前回、前作、続編、とか>それいけ霊夢さん!は心温まウワナニヲスルキサマラー!………いーとーしーさとー、せーつーなーさとー(ry
へたれみりゃ様、とか>これだけピンポイントとか言ったら駄目ですよすいませんだって可愛いじゃないですか贔屓なんですごめんなさいお嬢ーお嬢ーっ!(全世界ナイトメア
欠片へのレスですいません!近いものは、上記の内に含まれていると思って下さいませ!
…コメントでも壊れましたねぇ…(汗
今、ふと正気に戻りました。と、兎に角!長々と有難う御座いました!
……やっぱり、口調が変だなぁ(遠い目
てかここの巫女は止めとかなくても気がふれて(ウボァ
ちょwww 中国・・・ 。・゚・(ノД`)
つ【ネチョスレ】
で、それはそうとして
魔理沙の登場はいつかね?ん?
あくまで美少女だけを守る霊夢さんのが良かったな。
EXルーミアはGJ!
好き嫌いは無いんでしょうね・・・・・
それと勝てる気は全くしねえが一応言っとく、香霖は俺の嫁