* かなり短いです。
「…なあ、“暇”ってどういう事なんだろうな。」
「何よいきなり。―――っていうかそれ嫌味?」
黒の呟きに、いきなり食って掛かる紅白。
「待て待て、箒を構えるな。あとお札も。今から散らかすと終わらんぞ。」
「別に終わらせる必要なんて無いんだけどね。…で、何だっけ。」
「あー…ちょっと待て。調子が狂った。」
やれやれ、と冷や汗付きで漏らす。全く、冗談の通じない奴だ。
「そうそう、暇ってそもそもどういう状況を指すんだ? お前は毎日暇だ暇だって言ってるが、今だって境内の掃除をやってるじゃないか。このくそ寒いのに。」
「言われてみれば、木枯らしが身に染みる季節ね。あんたも厚着してるし。」
「私の事はいいから。…話ズレるけど、お前腋寒くないのか? その格好で。」
「寝る時は着替えるわよ。」
じゃあ日中はどうなんだよと言いたくなったが、コイツのアレは昔からの謎なのでもう深く追及しない事にする。
「…まあそれはいいか。とにかく、“掃除”っていうやる事があるのにお前は暇だと言う。それって矛盾してないか?」
気を取り直して本題に戻す。命題を追及することを生業とする私達魔法使いにとって、命題自体が矛盾を孕んでいては、その真理に辿り着く事など不可能だ。
なので、それが矛盾ではない事を証明しなければならないのだが―――
「矛盾してないわよ。だって暇だもの。」
この目出度い紅白の巫女は、たった一言で証明終了。QED。……どこぞの妹もこれ位簡潔だとありがたいのだが。
「クシュン!」ボゴォン!!
「風邪ですか、妹様? すぐにお粥とテーブルの替えをお持ちしますわ。」
「……吸血鬼って、風邪引くのかしら。」
「鳥インフルエンザって奴じゃないのか?」
「…お嬢様、うちに臆病者(チキン)はおりませんわ。」
「―――人の話聞いてたか? 現に今も箒で掃いてるじゃないか。する事してたら暇って言葉は当てはまらないぜ。」
呆れ全開でそう言うと、彼女はさも不可解そうな顔をして、
「あんたこそ私の言ってる事を聞いてないみたいね。暇なもんは暇なのよ。あんたみたいに暇そうな顔して忙しいのとは違うの。」
箒を持っていた右手の人差し指を立て、いい?と前置きした上で、
「例えば、あんたがこれから夕飯の支度をやるとする。もうすぐ日が落ちるし、そろそろ始めるべきね。」
「何だそれ。また私に押し付ける気か? 冗談じゃないぜ。」
「いいから黙って聞きなさい。―――まあ、そう思うのが普通よね。じゃあ逆に訊くけど、あんたは自分一人の時に食事の用意をする事が忙しいと思う?」
「そんなの決まってるじゃないか。作らなきゃ食えないんだから―――」
するのが当たり前だろ、と言う言葉を呑み込む。
……そうか。だって、それは。
「して当然の事だから。忙しくも何とも無い。つまり何もしてないのと同じ、って事か。」
「そういう事。私にとって境内を掃除するのも、幻想郷をそうじ妖怪退治するのも、縁側でお茶を飲むのも、朝起きて夜眠るのも、『博麗 霊夢』として在る事に変わりない。私が私で在る事は当たり前なんだから、何もしてないのに等しい。つまり、“暇”って事なのよ。」
勿論、あんたにこうして説教するのもね、と付け加えて、掃除を再開する霊夢。
……何というか、こいつのこの超然とした態度は正直凄いと思う。何物にも縛られず、己の思うがままに生きる彼女の生き様は、到底真似出来るものではない。
幻想郷の連中は皆寸分違わず勝手気ままだが、それでも誰かの影響を何かしらの形で受けてはいる。
だが霊夢は違う。どんな事があろうとも、絶対に己のスタンスを変えない。そうあろうと固執する訳でもなく、そうでしかないのだと自覚するでもない。
―――ただ、彼女は彼女で在るだけ。そこにそれ以上の意味は何一つ無い。
「……羨ましい奴だよな、お前って。」
「何が?」
背を向けたままの問いかけに、私は苦笑して、こう答えた。
「何でもないぜ。空耳じゃないのか?」
ふぅん、と素っ気無い返事が返って来た事に、小さく安堵の息を吐く。
と、思い出したように振り返る霊夢。そしていつもの微笑で、
「それじゃ、授業料代わりに夕飯の支度お願いね。」
「…まあ、そう来ると思ってたよ。」
やれやれ、とため息付きで立ち上がり、台所に向かうために襖を開ける。
そこでふと気付いて、振り返りながら訊ねた。
「なら、賽銭箱の中を探るのは暇潰しか?」
ぴたり、と動きを止める霊夢。…しまった、墓穴ったか。
そのまましばらく眉根を詰めた表情で固まっていた後、
「……あれほど辛い仕事も無いわよ。魔理沙、今度あんたもやってみなさい。虚しくなるから。」
心底苦々しい声で、そう呟いた。
終わり
「…なあ、“暇”ってどういう事なんだろうな。」
「何よいきなり。―――っていうかそれ嫌味?」
黒の呟きに、いきなり食って掛かる紅白。
「待て待て、箒を構えるな。あとお札も。今から散らかすと終わらんぞ。」
「別に終わらせる必要なんて無いんだけどね。…で、何だっけ。」
「あー…ちょっと待て。調子が狂った。」
やれやれ、と冷や汗付きで漏らす。全く、冗談の通じない奴だ。
「そうそう、暇ってそもそもどういう状況を指すんだ? お前は毎日暇だ暇だって言ってるが、今だって境内の掃除をやってるじゃないか。このくそ寒いのに。」
「言われてみれば、木枯らしが身に染みる季節ね。あんたも厚着してるし。」
「私の事はいいから。…話ズレるけど、お前腋寒くないのか? その格好で。」
「寝る時は着替えるわよ。」
じゃあ日中はどうなんだよと言いたくなったが、コイツのアレは昔からの謎なのでもう深く追及しない事にする。
「…まあそれはいいか。とにかく、“掃除”っていうやる事があるのにお前は暇だと言う。それって矛盾してないか?」
気を取り直して本題に戻す。命題を追及することを生業とする私達魔法使いにとって、命題自体が矛盾を孕んでいては、その真理に辿り着く事など不可能だ。
なので、それが矛盾ではない事を証明しなければならないのだが―――
「矛盾してないわよ。だって暇だもの。」
この目出度い紅白の巫女は、たった一言で証明終了。QED。……どこぞの妹もこれ位簡潔だとありがたいのだが。
「クシュン!」ボゴォン!!
「風邪ですか、妹様? すぐにお粥とテーブルの替えをお持ちしますわ。」
「……吸血鬼って、風邪引くのかしら。」
「鳥インフルエンザって奴じゃないのか?」
「…お嬢様、うちに臆病者(チキン)はおりませんわ。」
「―――人の話聞いてたか? 現に今も箒で掃いてるじゃないか。する事してたら暇って言葉は当てはまらないぜ。」
呆れ全開でそう言うと、彼女はさも不可解そうな顔をして、
「あんたこそ私の言ってる事を聞いてないみたいね。暇なもんは暇なのよ。あんたみたいに暇そうな顔して忙しいのとは違うの。」
箒を持っていた右手の人差し指を立て、いい?と前置きした上で、
「例えば、あんたがこれから夕飯の支度をやるとする。もうすぐ日が落ちるし、そろそろ始めるべきね。」
「何だそれ。また私に押し付ける気か? 冗談じゃないぜ。」
「いいから黙って聞きなさい。―――まあ、そう思うのが普通よね。じゃあ逆に訊くけど、あんたは自分一人の時に食事の用意をする事が忙しいと思う?」
「そんなの決まってるじゃないか。作らなきゃ食えないんだから―――」
するのが当たり前だろ、と言う言葉を呑み込む。
……そうか。だって、それは。
「して当然の事だから。忙しくも何とも無い。つまり何もしてないのと同じ、って事か。」
「そういう事。私にとって境内を掃除するのも、幻想郷をそうじ妖怪退治するのも、縁側でお茶を飲むのも、朝起きて夜眠るのも、『博麗 霊夢』として在る事に変わりない。私が私で在る事は当たり前なんだから、何もしてないのに等しい。つまり、“暇”って事なのよ。」
勿論、あんたにこうして説教するのもね、と付け加えて、掃除を再開する霊夢。
……何というか、こいつのこの超然とした態度は正直凄いと思う。何物にも縛られず、己の思うがままに生きる彼女の生き様は、到底真似出来るものではない。
幻想郷の連中は皆寸分違わず勝手気ままだが、それでも誰かの影響を何かしらの形で受けてはいる。
だが霊夢は違う。どんな事があろうとも、絶対に己のスタンスを変えない。そうあろうと固執する訳でもなく、そうでしかないのだと自覚するでもない。
―――ただ、彼女は彼女で在るだけ。そこにそれ以上の意味は何一つ無い。
「……羨ましい奴だよな、お前って。」
「何が?」
背を向けたままの問いかけに、私は苦笑して、こう答えた。
「何でもないぜ。空耳じゃないのか?」
ふぅん、と素っ気無い返事が返って来た事に、小さく安堵の息を吐く。
と、思い出したように振り返る霊夢。そしていつもの微笑で、
「それじゃ、授業料代わりに夕飯の支度お願いね。」
「…まあ、そう来ると思ってたよ。」
やれやれ、とため息付きで立ち上がり、台所に向かうために襖を開ける。
そこでふと気付いて、振り返りながら訊ねた。
「なら、賽銭箱の中を探るのは暇潰しか?」
ぴたり、と動きを止める霊夢。…しまった、墓穴ったか。
そのまましばらく眉根を詰めた表情で固まっていた後、
「……あれほど辛い仕事も無いわよ。魔理沙、今度あんたもやってみなさい。虚しくなるから。」
心底苦々しい声で、そう呟いた。
終わり
あとがきをつづる前にそれを次回作への繋ぎにすべきでは。
暇の捉え方なるほどとおもうところがありました。
それはさておき。
最後の賽銭箱オチが効いてますね。
妖怪退治を日常、賽銭を仕事と言い張る霊夢って一体…。
>ムクさん
ご指摘ごもっとも。やはりヘタレ物書きでも文章で表現しないと駄目ですよね。
後から付け加えても言い訳臭いですし。
精進します。
>MIM.Eさん
慧音から言わせたら既にさぼり魔扱いですけどね(笑)
魔理沙と違って本気で努力してないわけですから。
空気に何言っても無駄です。
>れふぃ軍曹さん
時事ネタを一つでも入れようと思って苦心した所です。褒めてもらえて嬉しいです。
中国ですら「背水の陣」ですから、チキンなど一人も居ない訳ですよ、はい。
てゐ(嘘)と霊夢(不変)は相性最悪です。合い入れることはまずないでしょうね。