Coolier - 新生・東方創想話

チルノ、羽ばたかないのか

2006/01/15 10:57:06
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 ちまたで流行りの『紅魔拳』で巫女の霊夢と勝負してボロ負けし、あやうく羽までむしられそうになった天狗文。
 その徹夜明け特有の血走った眼に、見覚えのある人影がふと映った。
 湖上の氷精、チルノ。
 薄ぼんやりと水辺に腰かけて、ガラにもなく眉をひそめ、何やらブツブツとつぶやいている。
 射命丸文は持ち前の知的好奇心を刺激され、彼女に歩み寄っていった……



 ときに読者よ。
 そも、『紅魔拳』とはいったい何であろうか。
 名詮自性、その由来は紅い悪魔レミリア・スカーレットに起因している。
 世に言う狐拳やじゃん拳同様、三つの手の形を駆使して勝敗を競うもので、その種類とは


 悪魔
 メイド
 門番


 である。
 このうち、悪魔はメイドに勝ち、メイドは門番に勝つ。
 そんなら門番は悪魔に勝つのかというと、これは勝たない。
 (考えても見られよ。館の門番が、メイドや悪魔に勝ついわれがあるだろうか?)
 門番はメイドには負けるが、悪魔に対してはあいこ、すなわち引き分けとなる。


勝ち 悪魔×メイド 負け
勝ち メイド×門番 負け
分け 門番×悪魔  分け


 こうなる。
 つまり、悪魔だけ出していれば負けることはないが、勝ち抜くことはむずかしい。
 危険を冒してメイドを出し、門番を討つか。
 門番で相手を誘い、悪魔でメイドを狩るか。
 駆け引きというより、我慢比べといってよい。
 もともとは紅魔館の下っ端メイドの間で退屈しのぎにたしなまれていたが、やがて屋敷外にまで広まり、いまや辺境においてはちょっとしたブームともなっている――と、そういう次第。
 ちなみに、紅魔拳には決まった前口上もある。
 拳を出す前に、歌い踊りながらこの文句を唱えるのだ。
 その句、以下のごとし。


♪あゝスカーレット スカーレット
 あるじは悪魔 手下はメイド ヨイヤサ
 代われるものなら代わりたい チャイナ
 デビルデビル 何が出る
 イー アル サン!
 (引き分けの場合)
 あいこで ホン!
 (決着した場合)
 首が切れたよ 生首だ ゴロリン


 二番以降もあるというが、定かではない。
 さて、勝敗が決した後はどうなるのか。
 ほんらいは暇つぶしのわざであり、決まったルールなどはなかったのであるが、昨今の風潮としては、敗者は
 “吸われる”
 ということになっている。
 むろん、何を吸われるかはその時々である。
 先の文でいえば、彼女は霊夢にさんざん“懐を吸われ”、つんつるてんになってしまったという次第。
 このことを歌った句がある。


 ――射命丸 名まで毟られ 文も無し (詠み人知らず)


 さて一世を風靡した紅魔拳であるが、のちには『騒霊拳』『冥土拳』『八雲拳』『羽虫拳』『永遠拳』といった亜種が多々発生し、細分化にともなって衰退、ついには自然消滅するにいたった。
 もっとも、そうなるのはずっと後代のことである。
 このことについて、印象ぶかい逸話を記している者がいる。
 ほかでもない、歴史喰いワーハクタクの上白沢慧音。
 その著作『わが幻想郷』より該当部分を引用すると、こうだ。


「紅魔拳が廃れてずっと後世のことだ。あるとき、私は野暮用あって悪魔の館を訪ねた。そのおり、ふと思い出してあるじに紅魔拳を挑んだ。すると彼女は、どうしたわけか『悪魔』と『門番』の二つしか出そうとせず、私はやすやすと勝利をとげた。私はルールに従って、彼女から歴史を吸った。その歴史によって、私は悪魔が『メイド』を出さなかったわけを理解したが、それはここに書くことではない。ひとつ言えるのは、その味を、私は今でも忘れることができないということだ」



 閑話休題――(それはさておき……)
 われわれは眼を血走らせてチルノに迫る文に視線を戻さねばならない。
 迫ってくる天狗に気付いたチルノはギョッとして、
「な、何!? ハゲタカみたいなのが歩いてくる!」
 ひどいことを言う、と文はぼやきながらも、何をしているのかたずねた。
「あー? ……別に、なんでもないけど」
「へぇ? またぞろ大ガマに食べられかけた、とか」
「ちがう違うっ。そんなわけないでしょっ」
「じゃあ何なんです」
 むう……とうめいて、チルノはまた湖面に眼を向けた。
 だんまりを決め込まれては面白くない文、
「それじゃあ、こうしましょうか。『紅魔拳』で私が勝ったら私に教える。私が負けたら、あなたに教える」
「え……え??? なんか、おかしくない? って、あたしが勝ったら何をあたしに教えるっての?」
「もちろん、あなたが落ち込んでいる理由を」
「あぁ、なるほどね」
 納得したチルノは文と紅魔拳で勝負した。そして負けた。
「ムキー! 悔しい!」
「さぁ、約束どおり話してもらいましょう」
「しょうがないなあ……」
 そこで氷精はぽつりぽつりと話し始めた。
 聞説(きくならく)――

「あたしは必死にパタパタ飛んでいるけれど、あの忌々しいお天道様にはどだい届きやしない。ひとつどうにか、あのギラついた奴に故障を申し立てに行きたいものだけれど、いい知恵も浮かばなくって……さ」

 天狗のブン屋さんは呆れ、また感嘆した。たかが妖精の分際で、太陽に文句を言いに行きたいとは!
 稚気愛すべし――とはいえ、そのうち上空へ飛んでいって、しまいにチルノが消えうせるようになっては、ちと目覚めがよくない。
 そこで。
「何も、わざわざ行かなくてもいいでしょう。手紙でも出してみては?」
「手紙ぃ? あたしは字なんて書けないもの」
「なに、代筆してあげますよ。むしろ問題は、誰に託せばいいのかってことですけど」
「フムーン……」
「それに、届いたとしても、紙だと燃えちゃうでしょうしね」
「ううーーん……」
「おまけに、そもそも、太陽は字を読めるか、どうか?」
「………………」
 チルノは指折り課題を数え、目を白黒させた。
「あぁ、もう、七面倒! やめやめ、こんりんざいそんな企てはやらないよ!」
 どうだか、と文は内心思いながら――
「……それはそうと、どうです、また一勝負?」
「飛んで火に入るカトンボね!」

 やがて、氷精の懐からなけなしの小遣いを吸い上げた文は帰りみちみち思うに、
「それにしても……」
 あの氷精は、そんなにお日様に苦情を言いたいのだろうか、と疑問をもった。
「むしろ逆に」
 チルノは太陽に焦がれているのかもしれぬ。
 身の程知らずにも、ほどがあるというものだが……
(また、飛んでいる)
 風が運ぶ小刻みなはためきをかすかに感じ取り、天狗少女は微笑をさそわれた。
 空をゆく者たちよ、心して飛べ。
 天狗の耳目はとどかずとも、天日はすべてお見通し。
 その頼りない羽根に力をこめて、せいぜい懸命に羽ばたくがいい。
 吹き抜けゆく風に身をまかせ、射命丸文は嘯いた。
野球拳の発祥の地は愛媛県だそうです。
でも生まれた場所は香川県だそうです。どうも、よくわかりませんね。
STR
letcir@hotmail.com
http://f27.aaacafe.ne.jp/~letcir/
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コメント



0.2340簡易評価
7.80名前もない削除
ははぁ、短いけどいやどうして。こういう語り口は面白いと思います。うむ、いい。
10.80七死削除
紅魔拳、おもしろそうだよ紅魔拳。
どうやって悪魔、メイド、門番を出すのか気になるところ。
それで噺を一本作っちゃう筆主様の御脳味噌はもう少し気になる所でございます。
16.80A削除
紅魔拳~、す~るなら~♪
軽快な語り口が、かえって悪魔の悲哀を強調するような。
20.70aki削除
門番じゃ勝てないよなぁ…。
でも、悪魔と引き分けるってのはなんでだろう?
作ったのは下っ端メイドだから…ううむ謎一杯。
26.無評価shinsokku削除
閑話に惑わされました・・・こんなに素っ気無くその事実を伝えるなんて。
自分もその歴史を味わってみたいものですが、みっともなく泣いてしまいそうだ。
33.無評価かずま削除
詠み人知らずが中国だったら面白いなぁと思ったダメな自分。
36.80はむすた削除
さり気に閑話が凄くいい話。
チルノも格好良い程無邪気です。
40.80名前が無い程度の能力削除
太陽に文句言おうとするチルノがそれっぽくていいな~

…紅魔拳と聞いてもしや実戦弾幕とブーメランを組み合わせた全く新しい格闘技なのではと連想してしまった…
42.70床間たろひ削除
>チルノは太陽に焦がれているのかもしれぬ

この一文が凄く、ぐっときた。ひょっとしたら文はチルノを羨ましく
思っているのかもしれませんね。
直接聞いたら否定するでしょうけどw
47.80名前が無い程度の能力削除
チルノはほんとに素敵なやつだ