心地良い風が並木の間を吹き抜ける。
うっそうと茂る木々が揺れ、葉の擦れ合う音が演奏を成す。
漏れる日の光が、真っ直ぐに延びる道に幻想的な雰囲気を与える。
これで足場が良ければ文句ないんだがな。
でこぼこに荒れた地面。
それは殆ど人が通っていないことを意味する。
「慧音さま、どこまで行くのーー?」
「ん、もう少しだな」
「おーー」
歓声が上がり、子供達のはしゃぎ声が一段と大きくなる。
初めての土地は彼らにとって冒険そのもの。
そのクライマックスが近いとあって、盛り上がりは今や絶頂にある。
そんな賑やかな子供達10人前後を連れて歩いているのは、歴史と知識のワーハクタク、上白沢慧音。
「見えたーー」
延々と続いた並木の向こうにぼんやりと見えた石造りの階段。
我先にと一斉に子供達が駆け出す。
「げぇー」
「えー」
「そんなぁ」
聞こえてくる悲鳴に慧音は苦笑する。
彼らが何に困っているか、容易に想像がつくからだ。
「慧音さまーー、これ上るのーー!?」
未だ後方の並木通りを最後尾の子供と一緒に歩いている慧音。
「あぁ、上った先がゴールだ!」
子供に負けじと声を張り上げる。
階段を駆け上がる子供、がっくり肩を落としてとぼとぼ上る子供。
彼らが立ち向かっているのは、博麗神社の名物、心臓破りの階段。
きっとこれがなければ、普通の参拝客も少しは……いや、なくても来ないんだろうなぁ。
~~~~~~~~~~
「いっちばーーーん」
無邪気な声が境内に響き渡る。
珍客にお茶を飲む霊夢の手が止まり、目が丸くなる。
「はやくはやくーー」
その子供は後続を急かすだけで境内には入って来ようとはしない。
チャンスだ。
どんな出会いも最初の印象が大切。
茶飲み巫女というイメージはあまりよろしくない。
急いで茶を奥へやり、箒片手に境内に繰り出す。
戻った時には子供が数人になっていたが、やはり躊躇しているようで入って来ない。
どうやら保護者なる人物を待っているようだ。
そういえば、どう声をかけるのがいいのだろう。
長らく一般人の相手をしたことがなかったため、普通の対応を忘れてしまったようだ。
というか、この神社に普通の対応なんてあったのかも疑わしいが……。
とにかくこの機会を逃すわけにはいかない。
神社に浄財をもたらし、明日の食事をグレードアップさせる千載一遇の機会。
ビバ白米。
いや、浮かれるな私。
一度の参拝で終わらせるなんて勿体無い。
何度も神社に来てもらう方法を考えるんだ。
ん? いつもみんな勝手に来てるじゃん。
なんだ、いつも通りでいいのか。
……って、んなわけあるかー!
あいつらと子供達を一緒にしてはいけない。
何しろ彼らはまだ純情純真。
どんな色にでも染められるはず。
神社のために尽くしてもらうためには……。
『お客さんには何度も来てもらいたいですから』
赤提灯の主人、ミスティアの言葉が蘇る。
いつもツケにしているにも関わらず、行けば必ず何かしらを恵んでくれる神の言葉である。
その商売姿勢には頭が上がらない。
見習うべきはこの姿勢だ。
何度も来てもらうためには、例え見返りが期待できなくとも尽くす姿勢。
……私はしっかり期待しているけどね。
この神社で出せるものは……出涸らしのお茶しかないのが何とも悲しい。
「なに固まってるんだ霊夢」
「え、よ、ようこそ博麗神社へ! って何だ、慧音か」
「何だとは心外だな」
「あー、でも良く考えたら、こんな物好きあんたくらいか」
「物好きで悪かったな」
「いや悪くない、悪くないわよ、全然」
「慧音さまー……」
不安そうにこちらを見上げる多数の視線。
数の暴力だ。
そんなに怯えた目を向けられると、何か悪いことをしたかのようだ。
「あぁ、ほら、霊夢、自己紹介してやれ」
「え? あ、うん。えと、博麗霊夢よ。ここの巫女をしているわ」
「こんにちは霊夢おねーちゃん!」
「「こんにちはー!」」
一瞬でひまわりの笑みに変わる早業。
あぁ、若いっていいなぁ。
……私もまだまだ若いはずよねぇ。
~~~~~~~~~~
「遠足ぅ?」
石畳に陣取ってお弁当を頬張る子供達を眺めながら、慧音と慧音にべったりの子供と共に縁側に腰掛ける。
「あぁ、誰も来ないとはいえ、博麗神社は由緒ある神社だからな。子供達も一度くらい来ておくべきだと思ってな」
「さりげに酷い事言うわね」
「お前にとっても悪いことではないだろ?」
「うん、そりゃあね」
隣に目をやれば、竹の水筒に入った水をぐびぐびと飲む子供。
あ、お茶……出し忘れたなぁ。
「それにしても驚いたよ。お前が掃除をしていたなんて」
「あ、当たり前よ。掃除は日課なんだから」
子供の純粋な視線が突き刺さる。
その威力は見た目同じ年くらいの吸血鬼とは比べ物にならない。
痛い痛い、心が痛い。
「そうか……いつもお茶ばかり飲む巫女と教えていたんだが」
「おい」
第一印象は既に慧音の手によって失墜していた。
しかし、真実だから何とも言い返しづらい。
というか、歴史を知るワーハクタクに私の日ごろの行い筒抜けかも。
だめじゃん私。
「ねぇ慧音さまー」
「何だ?」
「霊夢おねーちゃんは強いの?」
「あぁ、強いさ。なんせ博麗の巫女だからな」
「慧音さまとどっちが強いのー?」
「はは、どっちだろうなぁ」
きっ、と睨みつけた視線は相手にされなかった。
あんた、子供に嘘を教えてどうする。
……私も嘘ついたけど。
「そっかー、ねぇ霊夢おねーちゃん」
「ん?」
「たまには慧音さまを助けてあげてねー」
「へ?」
「慧音さまはいつも一人で村を守ってくれるんだよ。だから慧音さまに休んでもらいたいのー」
「はは、その言葉だけで私には十分だ。私はお前達が好きだから守っているんだから」
「でも……」
「霊夢お姉ちゃんも、私とは違うところで頑張っているんだ。だから、お姉ちゃんを困らせちゃいけない。わかったか?」
「はーい、慧音さまー!」
~~~~~~~~~~
ランチタイムが終わった子供達は境内で元気に駆け回っていた。
腰を下ろしているのは年長者二人だけ。
「慧音さまを助けて……か」
「私のことは気にしなくていいぞ」
「うん、気にしてない」
「そんなはっきり言わなくても……」
「助けて、なんて言われたことなかったなー、って」
「ふむ」
その言葉に戸惑いすら覚えた。
「誰も頼って来ないのよねー……あ、紫なら来たことあるか」
「村のことは私が守っているし、幻想郷に起こる異変はお前が勝手に解決しているからな」
「鴉も私の活躍は新聞に載せないし」
「載ったところで人間がその新聞を読むと思うか?」
「私なら読むわ」
「遺憾ながらお前も人間だったな」
「失礼な半獣ねぇ」
私だって人間だ。
関わり合いを持っている奴らの大半が人間以外という事実は覆せないが。
「思ったんだけどさ」
「ん?」
「あーーー!!」
会話は大声に遮られた。
「どうした?」
「空に黒いものがー!」
見上げれば神社の上空を旋回している黒い物体があった。
思いっきり速度を落とし、ゆっくりと降りてくる。
子供達がいたから境内での滑走を諦めたのだろう。
ドロワーズ履いているにしても、少しは下を気にしろ。
「おー、明日は嵐か? 大雪か?」
「わーー、魔女だーー」
「魔女だーー」
「おいおい、私は普通の魔法使いだぜ」
「普通のまほー使い?」
「魔女じゃないのー?」
「魔女っていうのは、病弱で引き篭もりで図書館にいるもんだ。私は魔法使い。魔女と一緒にされちゃあ困る」
「そうなのかー」
「そうなんだぜー」
「間違った知識が教え込まれてるわよ」
「若干1名については間違ってないが……あまりにも偏りすぎた情報だな」
「暑くないのー?」
「これが魔法使いの正装だからな」
「せいそう?」
「あー、正しい服装ってことだ。巫女が腋を出した紅白の衣装を着るのも正装ってことだな」
「へぇー」
「それは正装なのか?」
「ん、たぶんに正装」
「慧音さまのあれもせいそう?」
「あぁ、きっと正装だぜ」
「それ正装なの?」
「帽子を含めて正装だ」
あぁ、やっぱり帽子も肝心だったんだ。
「その箒で飛べるのー?」
「いや、私は魔法使いだから飛べるんだ」
「じゃあ私も魔法使いになったら飛べるのー?」
「お、どう答えるのやら」
「うーん、あまり変な影響を持たせたくないんだが」
「いや、私は魔法使いで、この魔法の箒に認められたから飛べるんだぜ」
「すごーい」
「なんとも苦しい言い訳ね」
「魔法使いを目指されるよりは遥かにマシな答えだ」
「何か魔法見せてー」
「ねー、おねがーい」
「ん、それは……」
魔砲撃ったら殺す。
「あー、残念。ここの巫女さんの許可が下りなかったようだ。」
「えー、そんなー」
「ほらほらお前達、魔法使いさんが困っているじゃないか」
「助けるタイミングが遅いぜ、慧音」
「慧音さま、知り合いなの?」
「あぁ、幻想郷一のトラブルメーカーだ」
「幻想郷一の普通の魔法使いだぜ」
「とらぶるめぇかぁ?」
「困った奴ってことだ」
「そうなんだー」
「困った奴なんだー」
「私の言葉は無視かよ、教育がしっかりしてるぜ」
つまらなそうに箒を立てかけ、神社の奥に入って行く。
「お茶もらうぜー」
「勝手にどうぞー」
「勝手にするぜー」
残された箒は子供達のおもちゃとなったようだ。
あれこれとやっているようだが、誰も飛ぶことなどできない。
変な方向に曲がりそうになっているが知ったこっちゃない。
フランドールの杖みたいになってしまえ。
「なぁ霊夢」
「ん?」
「さっき何を言おうとしたんだ?」
「忘れた」
「おい」
「冗談よ。何で神社に誰も来ないのかなー、って思ったのよ」
「それは、お前の働きを人間にアピールしないからだろ」
「ん、それ否定しないけどね、もう一つ」
「もう一つ?」
「近くに強くて人間好きな奴がいたら、遠くの巫女よりそいつに頼ろうと思わない?」
「それって……」
「頼れるあんたがいるから誰も来ないんだろうなー、って」
「……」
「聞いてるの?」
「あぁ。そうだとしたら、私が里を守ることが正しいのか疑問に感じてな」
「正しいのかどうかなんて私にわかるわけないじゃない」
「そう……だよな」
「あんたはあんたの好きなように動けばいいんじゃない?」
「だが……」
「私は頼られるよりお茶を飲んでいる方がよっぽど性に合ってるわ」
「それだと……」
「あーうるさい、何か文句ある?」
全く、里を守りたいなら守りたいって素直に言えばいいのに。
「人が来なくていいのか?」
「いいのよ」
「賽銭も入らないぞ」
「それは困る」
「即答!?」
「賽銭どろぼー賽銭かえせー」
「いや、棒読みで言われても……」
「冗談よ」
「どこまで冗談なんだか……」
~~~~~~~~~~
「もう帰るの?」
「あぁ、明るいうちに村に戻りたいしな」
「えー」
「もう少しいたいよー」
「慧音さまー」
「こらこら、聞き分けの悪い子は妖怪に食べられてしまうぞ」
「うー」
「良かったな霊夢、だいぶ子供達に気に入られたみたいだ」
「私というよりそこの階段のせいだと思うけど」
ほれ、と指差して見せる。
延々と下に向かって伸びる階段。
「わかっているなら何とかしたらどうだ?」
「何とかできるならやってる」
「それもそうか。……邪魔したな」
「ん」
「またねー、霊夢おねーちゃん、魔理沙おねーちゃん」
「「またねー」」
「ええ、またいらっしゃい」
「またなー」
元気に手を振る子供達。
手を振り返すと、それに応えてまた振ってくれた。
「酷いぜ霊夢。お前、私に『またいらっしゃい』なんて言ってくれたことあったか?」
「あんたは言わなくても来るでしょ」
「おっしゃる通り。なぁ」
「何よ」
「あれで良かったのか?」
「……私にはお茶と貧乏が似合ってるわ。慧音は人間といるのが似合ってる」
「やれやれ。怠けた巫女なのか、優しい巫女なのかわからない返答だぜ」
「怠け者の優しい巫女なのよ」
~~~~~~~~~~
とある屋台
霊夢 「しくしく。そんなわけで今日もツケでお願い」
ミスティア 「しくしく。お客さんには何度も来てもらいたいですから」
終わり
儲かるかどうかは知らない。
つ80
それはそうとミスティアに。
つミ◎
つ80
まあ、二人にこれを。
つ(中華街の巨大肉まん)
絶対胸に当てて「中国!」とかやるなウボァー
つ⑩つ⑩つ⑩つ⑩つ⑩つ⑩つ⑩つ⑩つ⑩つ⑩つ⑩つ⑩つ⑩つ⑩つ⑩つ⑩つ⑩つ⑩
全スキマ総動員でお送りいたします。
とゆーわけで怠け者の優しい巫女に
つ80
無銭飲食は彼女なのか?
……スイマセン、妄想シマスタ
ミスティアはええ娘や…
後-10点つけてる人
とりあえず話の内容に点数をつけた後に誤字指摘すればよろしいのでは?
これは酷い漢字ミスでした。というか今までずっとそれだと思って(以下略
やっぱり商売の基本は良質なサービスと宣伝です
つミ◎
オチもいいw
彼女に。