むかしむかし、とある海に、人魚が住んでいました。
人魚とは、半分人間で半分魚な、そんな生き物です。
その人魚の王様には六人の娘が居て、みんな美しい娘でした。
その中でも末の娘は、より一層、美しい娘でした。
妖夢「…いくら私が半分だけ人間だからって、人魚の役は無理があるんじゃない?」
紫「えら呼吸も出来ないようじゃ、人魚失格よ。」
妖夢「紫様……もといお父様、人間でも幽霊でも、えら呼吸は出来ません。」
そんな末の娘は、人魚姫と呼ばれて、大切に育てられました。
大切に育てられているうちに大きくなった人魚姫は、15歳になりました。
15歳になると、海の上に出て、外の世界を見てきても良いことになっていたのです。
妖夢「紫様が境界弄ってくれてるって言っても、ずっと水の中は嫌だな。」
初めて見る海の上は、人魚姫にとってとても新鮮なものです。
しばらく辺りを見回していました。
と、そんなとき、人魚姫の目に、あるものが映りました。
妖夢「ん、あれは……?」
人魚姫は、一隻の小さな船を発見しました。
小町「お客さん、乗り心地はどうだい?」
幽々子「御飯は出ないの?」
小町「うちじゃ、そういうサービスはやってないんでねえ。」
幽々子「え~。お腹空いた~。」
その船には船頭さんと、とある国の王子様が乗っていたのです。
どうやら王子様は、舟遊びの真っ最中のようです。
王子様はとても素敵で、気品溢れる姿をしていました。
妖夢「……幽々子様。御飯食べれるのは屋形船です。」
人魚姫は、その姿をじっと眺めていました。
と、そのときです。
ミスティア「ブレイク♪ブレイク♪欠陥船舶~♪」
何やら、妖しい歌が聞こえてきました。
小町「誰だ!?あたいの船に欠陥など無い!」
ミスティア「木製♪鉄製♪宇宙戦艦~♪」
歌は、時間が経つ度に、はっきりと聞こえてきます。
ミスティア「魚雷の発射はお手の物♪絶対命中致します♪」
小町「む、海が荒れてきたな。お客さん、気をつけておくれ。」
ミスティア「バミューダ海峡嵐を起こっせ~♪」
小町「うわっとっと。風が出てきたな…。何で?」
さっきまでいい天気だったのに、何時の間にか空はどんよりと曇っていました。
さらに、歌声が大きくなるにつれて、海がどんどんと荒れていっています。
そして。
ミスティア「Break Out!」
小町「うわ~!嵐が起きた~!?」
嵐が起きました。
先程から歌っていたのは何と、歌をうたって船を沈める、とんでもない悪魔だったのです!
小町「だあああああ!」
幽々子「あ~れえ~……。」
風で船が転覆し、王子様と船頭さんは、海に投げ出されてしまいました。
そしてそのまま、荒れ狂う海へ、消えていってしまいました。
妖夢「た、大変!」
人魚姫は急いで、海に潜りました。
妖夢「幽々子様…!」
見ると王子様が、どんどんと沈んで行ってます。
どうやら、気を失っているようです。
妖夢「幽々子様!今お助けします!」
人魚姫は王子様の所へ泳いで行きました。
そして王子様を担ぐと、急いで水面へと上がりました。
小町「こら!あたいを無視するながぼはっ!」
船頭さんは溺れて死んでしまいました……。
・
・
・
人魚姫は、王子様を近くの海岸へ連れて行きました。
王子様は、まだ目を覚ましません。
妖夢「…中々目を覚まさないなあ。」
王子様が心配な人魚姫は、ずっと王子様を解放しています
紫『これ、可愛い末っ子や。ここは、人工呼吸をするところです。』
妖夢「は!ゆ、紫様!一体何処から?」
紫『そんなことはどうでもいいの。それより、人工呼吸、よ。』
妖夢「はあ、人工呼吸ですか………じんこうこきゅう!!?」
突然聞こえてきた父の声に、人魚姫は二度くらいびっくりしました。
そして二度目のびっくりの後、顔をこれでもかと言うくらい真っ赤にしました。
妖夢「ああああそそそそれはそそそそその…じ、人工呼吸といいますのはですね…その……。」
紫『眠る幽々子の唇を無理矢理奪うなんて。妖夢ってば、意外と大胆ね。』
妖夢「ゆ、紫さま!私はそんなこと!」
紫『でもぉ。このままじゃ幽々子、もとい王子様、目を覚まさないかもね?』
妖夢「う……。」
紫『ひょっとしたら、死んじゃうんじゃないかしら?』
妖夢「紫さま…。」
紫『幽々子はもう死んでる、なんて言ったら、私泣いちゃうわ。しくしく。』
妖夢「ああもう、どこからツッコんで良いものやら…。」
しかし、これだけ騒いでも王子様は目覚めないので、人魚姫は心配になってきました。
妖夢「すぅぅう~……はぁぁぁ~………。よし!」
人魚姫は、覚悟を決めました。
大きく深呼吸をして、王子様に接近します。
紫『どきどき…。』
文『どきどき…。』
紫『こら。貴方の出番はまだでしょう?』
文『いいじゃないですか。減るもんじゃないですし。あ、いくみたいですよ!』
紫『どれどれ?』
何故か野次馬が増えています。
しかし、人魚姫はそんなことには気付きません。
目を閉じて、顔をゆっくりと近づけて、そして…
妖夢「ん~………。」
ちゅっ!
紫『きゃ~。』
文『きゃ~。スキャンダルスキャンダル。』
人魚姫の唇が、王子様に触れました。
妖夢「(ん………何か、硬い……?)」
しかし、何か違和感を感じました。
人魚姫は、閉じていた目を開きました。
妖夢「わ~~~~~~~~!!う、腕~~~!?」
王子様の口から、腕が生えていたのです!
人魚姫はまたまたびっくりして、腰が抜けてしまいました。
?「ぷは~!あ~、やっと出られた~。」
妖夢「うわわわわ!……え?」
何かが、王子様の口の中から出てきました。
藍「おや、そこに見えるは人魚姫。」
妖夢「え~、ええと、お、お姉様?」
出てきたのは、人魚姫の、一番上のお姉さんでした。
藍「何でこんな所から出てきたか、聞きたい?」
妖夢「あ~、何か、聞かなくても大体何があったかは分かります。」
藍「うん。まあ話せば長くなるが、この王子様に食べられてしまったんだ。」
妖夢「短いじゃないですか。」
藍「で、漸く脱出に成功したわけで。」
お姉さんは王子様に食べられてしまい、
プリンセスなんとかのイリュージョン顔負けの脱出劇をやってのけたのでした。
藍「あ、紫様…じゃなくてお父上。何でこんなとこに居る…弾幕結界ぃぃいいいい!?」
お姉さんは弾幕結界に放り込まれて、強制退場させられてしまいました。
幽々子「う~ん……。」
妖夢「あ…!」
と、流石に騒ぎが大きすぎたのでしょうか?
王子様が目を覚ましたようです。
紫『おっといけないわ。ここで見つかっては裏ルート、バッドエンドへまっしぐらよ。』
妖夢「既にバッドエンドな気が……。と、とにかく逃げなきゃ。」
人魚姫は急いで、海の中へ潜りました。
紫「まったく。藍には、場の雰囲気を読み取る訓練をさせなくちゃ。」
文「教育的指導は大切です。ガツンと調教してやってください!」
妖夢「いや、あれは不可抗力と言うか助かったと言うか残念と言うか…。」
そんなこともあって人魚姫は、王子様のことが好きになってしまいました。
もう思考回路はショート寸前で今すぐ会いたいのですが、それは出来ません。
来る日も来る日も、人魚姫は王子様のことが忘れられません。
そこで人魚姫は、魔女のところへ行きました。
きっと、何かいい手があるだろうと、思ったからです。
妖夢「ごめんくださ~い。」
人魚姫が魔女の家のドアを開けると、中から魔女が出てきました。
メディスン「私こそが真の人魚姫!」
妖夢「………。」
メディスン「ほら、にんぎょ(う)だけに、ね?」
妖夢「お邪魔しました。」
人魚姫は一礼すると、ドアを閉めました。
メディスン「あ、うそです。ちょっと言ってみたかっただけです。だから待って~。」
魔女は慌てて、人魚姫を引き止めました。
メディスン「こほん。さて人魚姫、今日は何の用ですか?」
妖夢「う~ん。貴方に相談するのも不安だけど、かくかくしかじかの理由で……。」
人魚姫は、事情を説明しました。
メディスン「なるほど。それなら、うってつけの毒……薬があるわ。」
妖夢「今、毒って言った?」
メディスン「気のせいよ。はい、これ。」
魔女は、薬を人魚姫に渡しました。
メディスン「さて、この毒はあなたを人間にしてくれます。」
妖夢「うわ、毒って言い切った。」
メディスン「しかし、それと引き換えに、喋れなくなってしまうのです。」
妖夢「そんな……。」
メディスン「ついでに、王子様と結婚出来なかったらスッパテンコーしてしまうオマケつき。」
妖夢「え~!!」
メディスン「と、言うのは冗談で。結婚できなかったら死んじゃう呪いが憑くだけだから、安心して。」
妖夢「は~、よかっ……よくない!」
メディスン「文句が多いわねぇ。あ、ところでスッパテンコーって何?」
妖夢「それを私の口から言うのは……。うちのお姉様に聞いてみて。」
人魚姫は、悩みました。
声がなければ、王子様に話しかけることも出来ません。
愛の告白をすることも出来ません。
大好きな歌も、歌えません。
王子様に、ツッコミを入れることも出来ません。
みょんと鳴くことも出来ません。
妖夢「いや、下二つには色々言いたいことが。」
メディスン「誰に話してるの?あ、毒にやられたのね。」
声が無いと、王子様に求婚することも出来ません。
結婚するとなると、とても難しいことになります。
しかも、王子様と結婚出来なければ死んでしまうと言うのです。
でも、王子様に会いたい人魚姫は、ついに…。
妖夢「お願い…します。凄く嫌だけど。」
返事をしてしまいました。
メディスン「そうかいそうかい。」
魔女は、満足そうな返事をしました。
メディスン「それじゃあ、その(毒)薬を、一気にぐいっ、て。」
妖夢「………ぐいっ。」
人魚姫は勧められるままに、薬を飲みました。
メディスン「感じで飲んじゃ駄目だから。」
妖夢「へ?」
メディスン「用法、用量を守って正しく服用してください。」
妖夢「何で飲んだ後で言ウボァーーーー!!」
人魚姫は悶絶して転げまわった挙句、気を失ってしまいました。
メディスン「って、言ってる傍からこれなんだから。」
・
・
・
妖夢「(う……。)」
人魚姫は、意識を取り戻しました。
?「生きてますか?」
???「半死に、ってところね。」
声が、聞こえます。
妖夢「(あ~、身体が重い…。毒のせいかな?)」
人魚姫は、目を開けました。
すると、
文「あ、目を覚ましましたよ、王子様。」
幽々子「あら本当。」
妖夢「(あ、ゆゆ…じゃなくて、王子様…)」
文「残念です。海辺に打ち上げられた死体、第一発見者の王子様。記事になると思ったのに。」
幽々子「残念。今夜の晩御飯にしようと思ったのに。」
妖夢「(私のこと食べる気だったんですか……)」
何やら物騒なことを言っているのは、王子様と、その側近の人です。
幽々子「まあ、過ぎたことをくよくよしても仕方ないですわ。それより貴方、大丈夫?」
妖夢「(あ、はい。この通り大丈夫です。)」
幽々子「もしもし?大丈夫?」
妖夢「(大丈夫ですって。)」
文「何も言いませんよ?」
幽々子「あら、外国の人?困ったわ~。」
妖夢「(いや、だから大丈夫………あ!)」
人魚姫は、魔女の言葉を思い出しました。
人間になることと引き換えに、声を失ってしまう、と。
文「How do you do?」
妖夢「(ええと、ふぁいんせんきゅー。って、聴こえないのよね…)」
文「May I help you?」
妖夢「(へ?あ~ええと……)」
文「Do you speak English?」
妖夢「(あ~……?)」
文「Merupo?」
妖夢「(ガッ!)」
側近の人は外国語を喋っていますが、人魚姫にはさっぱりわかりません。
ついカッとなってしまったのか、人魚姫は側近の人の頭を叩いてしまいました。
妖夢「(あ、ついうっかり…)」
文「うう…いきなり叩かれました…。酷いです反省するべきです。」
幽々子「う~ん。それじゃあ、私がやってみるわ。」
今度は、王子様が人魚姫に話しかけます。
幽々子「だ~いじょ~ぶだぁ~?」
妖夢「(なんか違う!)」
幽々子「いあ、いあ、はすた~?」
妖夢「(邪神でも呼ぶ気ですか、幽々子さま!)」
何と話しかけられても返事が出来ず、何とボケられようとツッコむことが出来ません。
幽々子「むむ、ほんとに困ったわね~。」
文「きっと、何かのショックで喋れなくなってしまったのですよ。ミステリーです。」
幽々子「とりあえず、この娘は私が運ぶから、貴方は帰って鍋の準備をしておいて。」
文「畏まりました。鳥は準備出来ないのであしからず。」
側近の人は、城へ帰って行きました。
妖夢「(ちょっと待った!鍋の準備って……!)」
幽々子「さて。行き倒れを放って置くほど、亡霊は冷たくないの。お城に行きましょう。」
妖夢「(いや、鍋!鍋って何する気ですか!)」
幽々子「よいしょ。」
妖夢「!!」
王子様は、人魚姫を抱きかかえました。
幽々子「妖夢をお姫様抱っこ出来るなんて、役得ってものよね~。」
妖夢「(あ~、う~……。嬉しいやら恥ずかしいやら……)」
人魚姫は、王子様の居るお城へ連れて行かれました。
文「あ、お帰りなさいませ。鍋の準備は出来てますよ。」
先に帰った、側近の人が出迎えに来ました。
文「鍋の準備は出来てますよ。」
幽々子「ご苦労さま。案内して頂戴。」
王子様と人魚姫は、鍋の準備がしてあると言う部屋へ行きました。
ミスティア「ババンババンバンバン♪……って、温度上げすぎ!熱いってば~~~~!!」
鍋の具は悪魔でした。
文「鳥鍋は嫌だって言ったのに。酷いです。」
幽々子「まぁ、用意したものは食べなきゃね。ほら、食いねえ食いねえ。」
妖夢「(はぁ、いただきます)」
王子様の折角の厚意を、無下にしたくはありませんでした。
人魚姫は、悪魔鍋を食べました。
妖夢「(あ、普通に美味しい)」
幽々子「これで契約成立ね。」
妖夢「(……はい?)」
幽々子「この悪魔鍋を食べたらあら不思議。私には絶対に逆らえなくなるのでした~。」
妖夢「(何ですかそれ~~!!……って、よく考えたら普段と同じか)」
こうして人魚姫は、お城で暮らすことになりました。
大変美しい人魚姫は、声が出せずとも優しい性格だったので、王子様はとても気に入りました。
このまま人魚姫は王子様と結婚して、幸せになれる、と思われました。
しかし、ある日。
文「王子様。婚約者の方がお見えになってますよ。」
妖夢「(え……!)」
幽々子「は~い。すぐ行くわね~。」
婚約者の人が来たと聞かされ、王子様は急いで迎えに行きました。
その一方で、人魚姫は、愕然としています。
王子様には、婚約者が居たのです。
妖夢「(そんな……王子様に婚約者が……)」
居てもおかしくは無い、と思いますが、それでも、人魚姫はショックを隠せません。
文「王子様を巡る三角関係。泥沼闘争の結末や以下に…!」
妖夢「(それじゃあ、三流恋愛漫画です…)」
良からぬ事を思っている側近の人は放っておいて、人魚姫は、急いで王子様の後を追いかけました。
王子様の婚約者を、一目見ておこうと思ったからです。
幽々子「この間送ってくれたお菓子、美味しかったわ~。」
?「喜んで頂けて何よりだわ。」
王子様と婚約者の談笑が、人魚姫の耳に入ってきます。
妖夢「(一体、どんな……)」
婚約者がどんな人か気になったので、人魚姫は二人の所へ近づきます。
そして。
紫「ああ、そうそう。今度は凄い果物を見つけたんだけど。」
妖夢「(だあああああ!)」
人魚姫は盛大にずっこけました。
それだけでは飽き足らず、3メートル程ヘッドスライディングをしてしまいました。
妖夢「(ゆ、紫様!あなた何やってるんですか!)」
紫「あら王子様、この人は?」
妖夢「(何言ってるんですか!あなた私の父親役でしょう!)」
幽々子「実はこの間、浜辺に打ち上げられていたのを保護したの。」
紫「なるほど。それでぶくぶく太らせて、鍋に…。」
幽々子「あ、わかる~?」
紫「それはもう。婚約者だもの。」
妖夢「(やっぱり食べる気だったんですか幽々子さまぁあああ!)」
人魚姫は色々言いたいのですが、やっぱり声が出ません。
二人とコミニュケーションを取ることが出来ません。
幽々子「何か、あなたの方を見てるわよ~?ひょっとしてお知り合い?」
紫「はて、ちんぷんかんぷんですわ。」
妖夢「(あなたさっき私に人工呼吸しろだとか何だとか言ったでしょう!)」
幽々子「その割には、ジャ~ンジャ~ン『げえ!ゆかりん!』な顔してるけど。」
妖夢「(あ~、まあ、面食らったことは否定しませんけど…)」
紫「さて、そんなことはいいとして。今日は二人でラーメンでも食べに行きましょ。」
幽々子「紫の奢りで?」
紫「幽々子の奢り。だって婚約者だもの。」
幽々子「それもそうね~。」
妖夢「(いや、意味が…って言うか、王子様とその連れが、二人そろってラーメンですか……)」
王子様と婚約者は、そのまま二人で何処かへ行ってしまいました。
残された人魚姫は、途方に暮れてしまいました。
妖夢「(は~……。もう、何がなんだか………)」
溜息一つだけで、独り言は出ません。
人魚姫は喋ることが出来ず、王子様には婚約者がいました。
しかし、王子様と結婚出来なければ、人魚姫は死んでしまいます。
妖夢「(……でも、どうすれば……)」
と、その時です。
藍「人魚姫や~。」
橙「人魚姫~。」
妖夢「(あ、あれは!)」
ルナサ「まだ生きてたみたいね。」
リリカ「そりゃ生きてるよ~。だって死んでたら私たちの出番無いし。」
メルラン「死亡確定でも明るく生きる。素敵なことね~。」
妖夢「(取ってつけたかのようなお姉様たち!何か酷いこと言ってるけど…)」
人魚姫のお姉さんたちが現れました。
ルナサ「一体何をしに来たの?って言う顔してるから手短に説明してあげて。」
藍「こほん。あ~、実は可愛い末の妹を助けようとして、みんなで魔女をシメに行ったんだ。」
メディスン「酷いでしょう?よってたかって、私を苛めに来るんだから~。」
妖夢「(って、居たの?)」
お姉さんたちに拉致された魔女も、一緒でした。
藍「で、どうなんだ?元に戻す方法はあるのか?」
メディスン「有るには有るけど……。」
リリカ「だったらさっさとゲロっちまいな~。」
ルナサ「リリカ、表現がお下品よ。」
メディスン「でも、これは人魚姫にとって残酷なことだから、オブラートに包む様に、言うね。」
妖夢「(何やらされるんだろう?)」
メディスン「王子様殺れ。」
妖夢「(ぜんっぜん包まれて無い!)」
ルナサ「全然隠れて無いじゃない。」
メルラン「ほら~、アレよ。毒が強すぎてオブラートが溶けたの。」
魔女が言うには、人魚姫が王子様を殺したら、人魚姫にかけられた呪いが解けると言うのです。
妖夢「(で、でも……王子様を殺すなんて……)」
人魚姫は戸惑いました。
結婚出来ないのなら、大好きな王子様を殺さなければならないのです。
それが出来なければ、人魚姫は死んでしまいます。
藍「で、ここに父上様がパクってきた銀のナイフがあるから、これを使いなさい。」
メディスン「これで、こんな風に、ブスっ!」
ルナサ「ぐふっ!」
リリカ「ああ、姉さんが!」
メディスン「と、殺れば、呪いは解けるよ。」
妖夢「(はぁ、わかったけど……。けど…)」
ルナサ「うぐぐ……。」
リリカ「姉さん、死んじゃだめ~!」
メルラン「姉さん、傷は深いわ。ほら、笑って笑って。」
文「いちたすいちは~?」
リリカ「に~。」
パシャッ!
文「仲良し三姉妹、長女殺される!犯人は次女か三女か……!良い記事になりそうです。」
リリカ「写真見せて~。……姉さん、笑顔じゃないなぁ。」
メルラン「困ったわね~。こういう写真は笑顔じゃないと~。」
ルナサ「笑え…ない……わ……よ……。」
何だか大変な騒ぎになりましたが、人魚姫のお姉さんたちは、海に帰って行きました。
残されたのは人魚姫と、王子様を殺すためにお姉さんたちが持って来た、銀のナイフです。
人魚姫は、どうしたものか悩みました。
幽々子「ふ~。美味しかったわね~。劇薬ラーメンえーりん風。」
紫「あら、私の食べた、慧角ラーメンも中々いけたわよ。」
幽々子「今度は、褌ラーメンこーりん風でも食べてみようかしら?」
紫「じゃあ、私は座薬うどんにしようかしら。」
悩んでいるうちに、王子様と婚約者が帰ってきました。
王子様を殺してしまうにしても、婚約者が見ています。
ここで殺るわけにはいきません。
紫「それじゃ、おやすみなさい。」
幽々子「おやすみ~。」
婚約者は、自分の家か城かへ帰ったようです。
王子様もまた、自分の部屋へ戻って行きました。
妖夢「………。」
部屋の中は、王子様一人しか居ません。
殺るなら、今しかありません。
妖夢「(し、しかし……!)」
しかし、どうしても、王子様を殺すことが出来ません。
人魚姫の脳裏に、王子様と過ごした日々が、思い出されます。
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
幽々子『えい、油断大敵おかずはいただきよ。』
妖夢『(あ~!私の卵焼き~!)』
幽々子『あ、そのイチゴ、要らないなら食べてあげるわね~』
妖夢『(え?ああ!楽しみに取っておいたのに~!)』
幽々子『ねえねえ。本棚からお金が出てきたんだけど。』
妖夢『(私のへそくり~!)』
幽々子『あ、これって妖夢の日記………。』
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
妖夢「(……えい)」
ぷす
妖夢「(………あ………)」
人魚姫は、王子様を 刺 し て し ま い ま し た …… 。
妖夢「(ど、ど、どどどどどどどうしようどうしよう!?)」
人魚姫は慌てました。
どうしようと言っても、周りには誰も居ません。
切羽詰って逃げようとでも思った、その時です。
幽々子「ふ、ふふふ………。」
妖夢「(へ……?ひゃあああああああああああ!!!?)」
刺し殺したはずの王子様が、生き返りました。
妖夢「(お、お、お、お、おば、おば、おば………!)」
幽々子「だ~れがおばさん、ですって?」
妖夢「(違います!違います!おばかさんはチルノ~~!)」
幽々子「まあそれはともかく、何で私が死ななかったか、不思議でしょう?」
妖夢「(そ、それは……もう死んでますし……)」
幽々子「忘れたのかしら?貴方が始めて城に来たとき、何を食べた?」
妖夢「(歌う鳥鍋……でしたっけ?)」
幽々子「そう、悪魔鍋。あれを食べた者は、私に逆らえなくなる。
だから、私がおかずを食べても文句が言えない。当然、私を殺すなんてもってのほか。」
妖夢「(あ~、文句言えないのは、魔女の毒のせいのような気が……)」
幽々子「貴方は、そう。私が死ぬまで死ねないし、私が死ねと言うまで死ねないの。わかった?」
そう、人魚姫はもう、王子様に逆らえない身体になってしまっていたのです。
魔女の呪いもなんのその。
王子様が命令しない限り、人魚姫は死ねないのです。
妖夢「(って~、そんなの有りなんですか~?)」
幽々子「ありなの。細かい事何て、いちいち気にしてはいけないわ。」
結局人魚姫は、元に戻ることも出来ず、ず~~っとお城で暮らさなければならなくなりました。
でも、大好きな王子様と、一生暮らしていく事が出来ます。
その後、王子様は婚約者と結婚したみたいですが、離婚したとか。
人魚姫は後妻に迎えられて王子様と結婚し、魔女の死んでしまうと言う呪いも解け、
お城でずっと幸せにくらしたそうですが……。
妖夢「(まぁ、いいか……細かいことなんて……)」
幽々子「チャーシュー貰うわね。」
妖夢「(あ~!チャーシュー麺からチャーシュー抜いたらだたのラーメンじゃないですか~!)」
幽々子「あらまぁ、これって、妖夢のしたぎ……。」
妖夢「(いや~~~~!!やめてくださ~~~い!!)」
そのままず~~~っと、喋ることが出来ず、気苦労の絶えない生活を強要されたとか何とか……。
幽々子「○月×日晴れ。今日は気になったので、体重を計ってみた。私の体重は………。」
妖夢「(やっぱりよくな~~~~い!!)」
めでたし めでたし
キャスト
人魚姫 ・・・魂魄 妖夢
王子様 ・・・西行寺 幽々子
魔女 ・・・メディスン・メランコリー
人魚の王様 ・・・八雲 紫
王子様の婚約者 ・・・八雲 紫
人魚姫の姉たち ・・・八雲 藍、橙、プリズムリバー三姉妹
船頭さん ・・・小野塚 小町
悪魔 ・・・ミスティア・ローレライ
側近 ・・・射名丸 文
人魚とは、半分人間で半分魚な、そんな生き物です。
その人魚の王様には六人の娘が居て、みんな美しい娘でした。
その中でも末の娘は、より一層、美しい娘でした。
妖夢「…いくら私が半分だけ人間だからって、人魚の役は無理があるんじゃない?」
紫「えら呼吸も出来ないようじゃ、人魚失格よ。」
妖夢「紫様……もといお父様、人間でも幽霊でも、えら呼吸は出来ません。」
そんな末の娘は、人魚姫と呼ばれて、大切に育てられました。
大切に育てられているうちに大きくなった人魚姫は、15歳になりました。
15歳になると、海の上に出て、外の世界を見てきても良いことになっていたのです。
妖夢「紫様が境界弄ってくれてるって言っても、ずっと水の中は嫌だな。」
初めて見る海の上は、人魚姫にとってとても新鮮なものです。
しばらく辺りを見回していました。
と、そんなとき、人魚姫の目に、あるものが映りました。
妖夢「ん、あれは……?」
人魚姫は、一隻の小さな船を発見しました。
小町「お客さん、乗り心地はどうだい?」
幽々子「御飯は出ないの?」
小町「うちじゃ、そういうサービスはやってないんでねえ。」
幽々子「え~。お腹空いた~。」
その船には船頭さんと、とある国の王子様が乗っていたのです。
どうやら王子様は、舟遊びの真っ最中のようです。
王子様はとても素敵で、気品溢れる姿をしていました。
妖夢「……幽々子様。御飯食べれるのは屋形船です。」
人魚姫は、その姿をじっと眺めていました。
と、そのときです。
ミスティア「ブレイク♪ブレイク♪欠陥船舶~♪」
何やら、妖しい歌が聞こえてきました。
小町「誰だ!?あたいの船に欠陥など無い!」
ミスティア「木製♪鉄製♪宇宙戦艦~♪」
歌は、時間が経つ度に、はっきりと聞こえてきます。
ミスティア「魚雷の発射はお手の物♪絶対命中致します♪」
小町「む、海が荒れてきたな。お客さん、気をつけておくれ。」
ミスティア「バミューダ海峡嵐を起こっせ~♪」
小町「うわっとっと。風が出てきたな…。何で?」
さっきまでいい天気だったのに、何時の間にか空はどんよりと曇っていました。
さらに、歌声が大きくなるにつれて、海がどんどんと荒れていっています。
そして。
ミスティア「Break Out!」
小町「うわ~!嵐が起きた~!?」
嵐が起きました。
先程から歌っていたのは何と、歌をうたって船を沈める、とんでもない悪魔だったのです!
小町「だあああああ!」
幽々子「あ~れえ~……。」
風で船が転覆し、王子様と船頭さんは、海に投げ出されてしまいました。
そしてそのまま、荒れ狂う海へ、消えていってしまいました。
妖夢「た、大変!」
人魚姫は急いで、海に潜りました。
妖夢「幽々子様…!」
見ると王子様が、どんどんと沈んで行ってます。
どうやら、気を失っているようです。
妖夢「幽々子様!今お助けします!」
人魚姫は王子様の所へ泳いで行きました。
そして王子様を担ぐと、急いで水面へと上がりました。
小町「こら!あたいを無視するながぼはっ!」
船頭さんは溺れて死んでしまいました……。
・
・
・
人魚姫は、王子様を近くの海岸へ連れて行きました。
王子様は、まだ目を覚ましません。
妖夢「…中々目を覚まさないなあ。」
王子様が心配な人魚姫は、ずっと王子様を解放しています
紫『これ、可愛い末っ子や。ここは、人工呼吸をするところです。』
妖夢「は!ゆ、紫様!一体何処から?」
紫『そんなことはどうでもいいの。それより、人工呼吸、よ。』
妖夢「はあ、人工呼吸ですか………じんこうこきゅう!!?」
突然聞こえてきた父の声に、人魚姫は二度くらいびっくりしました。
そして二度目のびっくりの後、顔をこれでもかと言うくらい真っ赤にしました。
妖夢「ああああそそそそれはそそそそその…じ、人工呼吸といいますのはですね…その……。」
紫『眠る幽々子の唇を無理矢理奪うなんて。妖夢ってば、意外と大胆ね。』
妖夢「ゆ、紫さま!私はそんなこと!」
紫『でもぉ。このままじゃ幽々子、もとい王子様、目を覚まさないかもね?』
妖夢「う……。」
紫『ひょっとしたら、死んじゃうんじゃないかしら?』
妖夢「紫さま…。」
紫『幽々子はもう死んでる、なんて言ったら、私泣いちゃうわ。しくしく。』
妖夢「ああもう、どこからツッコんで良いものやら…。」
しかし、これだけ騒いでも王子様は目覚めないので、人魚姫は心配になってきました。
妖夢「すぅぅう~……はぁぁぁ~………。よし!」
人魚姫は、覚悟を決めました。
大きく深呼吸をして、王子様に接近します。
紫『どきどき…。』
文『どきどき…。』
紫『こら。貴方の出番はまだでしょう?』
文『いいじゃないですか。減るもんじゃないですし。あ、いくみたいですよ!』
紫『どれどれ?』
何故か野次馬が増えています。
しかし、人魚姫はそんなことには気付きません。
目を閉じて、顔をゆっくりと近づけて、そして…
妖夢「ん~………。」
ちゅっ!
紫『きゃ~。』
文『きゃ~。スキャンダルスキャンダル。』
人魚姫の唇が、王子様に触れました。
妖夢「(ん………何か、硬い……?)」
しかし、何か違和感を感じました。
人魚姫は、閉じていた目を開きました。
妖夢「わ~~~~~~~~!!う、腕~~~!?」
王子様の口から、腕が生えていたのです!
人魚姫はまたまたびっくりして、腰が抜けてしまいました。
?「ぷは~!あ~、やっと出られた~。」
妖夢「うわわわわ!……え?」
何かが、王子様の口の中から出てきました。
藍「おや、そこに見えるは人魚姫。」
妖夢「え~、ええと、お、お姉様?」
出てきたのは、人魚姫の、一番上のお姉さんでした。
藍「何でこんな所から出てきたか、聞きたい?」
妖夢「あ~、何か、聞かなくても大体何があったかは分かります。」
藍「うん。まあ話せば長くなるが、この王子様に食べられてしまったんだ。」
妖夢「短いじゃないですか。」
藍「で、漸く脱出に成功したわけで。」
お姉さんは王子様に食べられてしまい、
プリンセスなんとかのイリュージョン顔負けの脱出劇をやってのけたのでした。
藍「あ、紫様…じゃなくてお父上。何でこんなとこに居る…弾幕結界ぃぃいいいい!?」
お姉さんは弾幕結界に放り込まれて、強制退場させられてしまいました。
幽々子「う~ん……。」
妖夢「あ…!」
と、流石に騒ぎが大きすぎたのでしょうか?
王子様が目を覚ましたようです。
紫『おっといけないわ。ここで見つかっては裏ルート、バッドエンドへまっしぐらよ。』
妖夢「既にバッドエンドな気が……。と、とにかく逃げなきゃ。」
人魚姫は急いで、海の中へ潜りました。
紫「まったく。藍には、場の雰囲気を読み取る訓練をさせなくちゃ。」
文「教育的指導は大切です。ガツンと調教してやってください!」
妖夢「いや、あれは不可抗力と言うか助かったと言うか残念と言うか…。」
そんなこともあって人魚姫は、王子様のことが好きになってしまいました。
もう思考回路はショート寸前で今すぐ会いたいのですが、それは出来ません。
来る日も来る日も、人魚姫は王子様のことが忘れられません。
そこで人魚姫は、魔女のところへ行きました。
きっと、何かいい手があるだろうと、思ったからです。
妖夢「ごめんくださ~い。」
人魚姫が魔女の家のドアを開けると、中から魔女が出てきました。
メディスン「私こそが真の人魚姫!」
妖夢「………。」
メディスン「ほら、にんぎょ(う)だけに、ね?」
妖夢「お邪魔しました。」
人魚姫は一礼すると、ドアを閉めました。
メディスン「あ、うそです。ちょっと言ってみたかっただけです。だから待って~。」
魔女は慌てて、人魚姫を引き止めました。
メディスン「こほん。さて人魚姫、今日は何の用ですか?」
妖夢「う~ん。貴方に相談するのも不安だけど、かくかくしかじかの理由で……。」
人魚姫は、事情を説明しました。
メディスン「なるほど。それなら、うってつけの毒……薬があるわ。」
妖夢「今、毒って言った?」
メディスン「気のせいよ。はい、これ。」
魔女は、薬を人魚姫に渡しました。
メディスン「さて、この毒はあなたを人間にしてくれます。」
妖夢「うわ、毒って言い切った。」
メディスン「しかし、それと引き換えに、喋れなくなってしまうのです。」
妖夢「そんな……。」
メディスン「ついでに、王子様と結婚出来なかったらスッパテンコーしてしまうオマケつき。」
妖夢「え~!!」
メディスン「と、言うのは冗談で。結婚できなかったら死んじゃう呪いが憑くだけだから、安心して。」
妖夢「は~、よかっ……よくない!」
メディスン「文句が多いわねぇ。あ、ところでスッパテンコーって何?」
妖夢「それを私の口から言うのは……。うちのお姉様に聞いてみて。」
人魚姫は、悩みました。
声がなければ、王子様に話しかけることも出来ません。
愛の告白をすることも出来ません。
大好きな歌も、歌えません。
王子様に、ツッコミを入れることも出来ません。
みょんと鳴くことも出来ません。
妖夢「いや、下二つには色々言いたいことが。」
メディスン「誰に話してるの?あ、毒にやられたのね。」
声が無いと、王子様に求婚することも出来ません。
結婚するとなると、とても難しいことになります。
しかも、王子様と結婚出来なければ死んでしまうと言うのです。
でも、王子様に会いたい人魚姫は、ついに…。
妖夢「お願い…します。凄く嫌だけど。」
返事をしてしまいました。
メディスン「そうかいそうかい。」
魔女は、満足そうな返事をしました。
メディスン「それじゃあ、その(毒)薬を、一気にぐいっ、て。」
妖夢「………ぐいっ。」
人魚姫は勧められるままに、薬を飲みました。
メディスン「感じで飲んじゃ駄目だから。」
妖夢「へ?」
メディスン「用法、用量を守って正しく服用してください。」
妖夢「何で飲んだ後で言ウボァーーーー!!」
人魚姫は悶絶して転げまわった挙句、気を失ってしまいました。
メディスン「って、言ってる傍からこれなんだから。」
・
・
・
妖夢「(う……。)」
人魚姫は、意識を取り戻しました。
?「生きてますか?」
???「半死に、ってところね。」
声が、聞こえます。
妖夢「(あ~、身体が重い…。毒のせいかな?)」
人魚姫は、目を開けました。
すると、
文「あ、目を覚ましましたよ、王子様。」
幽々子「あら本当。」
妖夢「(あ、ゆゆ…じゃなくて、王子様…)」
文「残念です。海辺に打ち上げられた死体、第一発見者の王子様。記事になると思ったのに。」
幽々子「残念。今夜の晩御飯にしようと思ったのに。」
妖夢「(私のこと食べる気だったんですか……)」
何やら物騒なことを言っているのは、王子様と、その側近の人です。
幽々子「まあ、過ぎたことをくよくよしても仕方ないですわ。それより貴方、大丈夫?」
妖夢「(あ、はい。この通り大丈夫です。)」
幽々子「もしもし?大丈夫?」
妖夢「(大丈夫ですって。)」
文「何も言いませんよ?」
幽々子「あら、外国の人?困ったわ~。」
妖夢「(いや、だから大丈夫………あ!)」
人魚姫は、魔女の言葉を思い出しました。
人間になることと引き換えに、声を失ってしまう、と。
文「How do you do?」
妖夢「(ええと、ふぁいんせんきゅー。って、聴こえないのよね…)」
文「May I help you?」
妖夢「(へ?あ~ええと……)」
文「Do you speak English?」
妖夢「(あ~……?)」
文「Merupo?」
妖夢「(ガッ!)」
側近の人は外国語を喋っていますが、人魚姫にはさっぱりわかりません。
ついカッとなってしまったのか、人魚姫は側近の人の頭を叩いてしまいました。
妖夢「(あ、ついうっかり…)」
文「うう…いきなり叩かれました…。酷いです反省するべきです。」
幽々子「う~ん。それじゃあ、私がやってみるわ。」
今度は、王子様が人魚姫に話しかけます。
幽々子「だ~いじょ~ぶだぁ~?」
妖夢「(なんか違う!)」
幽々子「いあ、いあ、はすた~?」
妖夢「(邪神でも呼ぶ気ですか、幽々子さま!)」
何と話しかけられても返事が出来ず、何とボケられようとツッコむことが出来ません。
幽々子「むむ、ほんとに困ったわね~。」
文「きっと、何かのショックで喋れなくなってしまったのですよ。ミステリーです。」
幽々子「とりあえず、この娘は私が運ぶから、貴方は帰って鍋の準備をしておいて。」
文「畏まりました。鳥は準備出来ないのであしからず。」
側近の人は、城へ帰って行きました。
妖夢「(ちょっと待った!鍋の準備って……!)」
幽々子「さて。行き倒れを放って置くほど、亡霊は冷たくないの。お城に行きましょう。」
妖夢「(いや、鍋!鍋って何する気ですか!)」
幽々子「よいしょ。」
妖夢「!!」
王子様は、人魚姫を抱きかかえました。
幽々子「妖夢をお姫様抱っこ出来るなんて、役得ってものよね~。」
妖夢「(あ~、う~……。嬉しいやら恥ずかしいやら……)」
人魚姫は、王子様の居るお城へ連れて行かれました。
文「あ、お帰りなさいませ。鍋の準備は出来てますよ。」
先に帰った、側近の人が出迎えに来ました。
文「鍋の準備は出来てますよ。」
幽々子「ご苦労さま。案内して頂戴。」
王子様と人魚姫は、鍋の準備がしてあると言う部屋へ行きました。
ミスティア「ババンババンバンバン♪……って、温度上げすぎ!熱いってば~~~~!!」
鍋の具は悪魔でした。
文「鳥鍋は嫌だって言ったのに。酷いです。」
幽々子「まぁ、用意したものは食べなきゃね。ほら、食いねえ食いねえ。」
妖夢「(はぁ、いただきます)」
王子様の折角の厚意を、無下にしたくはありませんでした。
人魚姫は、悪魔鍋を食べました。
妖夢「(あ、普通に美味しい)」
幽々子「これで契約成立ね。」
妖夢「(……はい?)」
幽々子「この悪魔鍋を食べたらあら不思議。私には絶対に逆らえなくなるのでした~。」
妖夢「(何ですかそれ~~!!……って、よく考えたら普段と同じか)」
こうして人魚姫は、お城で暮らすことになりました。
大変美しい人魚姫は、声が出せずとも優しい性格だったので、王子様はとても気に入りました。
このまま人魚姫は王子様と結婚して、幸せになれる、と思われました。
しかし、ある日。
文「王子様。婚約者の方がお見えになってますよ。」
妖夢「(え……!)」
幽々子「は~い。すぐ行くわね~。」
婚約者の人が来たと聞かされ、王子様は急いで迎えに行きました。
その一方で、人魚姫は、愕然としています。
王子様には、婚約者が居たのです。
妖夢「(そんな……王子様に婚約者が……)」
居てもおかしくは無い、と思いますが、それでも、人魚姫はショックを隠せません。
文「王子様を巡る三角関係。泥沼闘争の結末や以下に…!」
妖夢「(それじゃあ、三流恋愛漫画です…)」
良からぬ事を思っている側近の人は放っておいて、人魚姫は、急いで王子様の後を追いかけました。
王子様の婚約者を、一目見ておこうと思ったからです。
幽々子「この間送ってくれたお菓子、美味しかったわ~。」
?「喜んで頂けて何よりだわ。」
王子様と婚約者の談笑が、人魚姫の耳に入ってきます。
妖夢「(一体、どんな……)」
婚約者がどんな人か気になったので、人魚姫は二人の所へ近づきます。
そして。
紫「ああ、そうそう。今度は凄い果物を見つけたんだけど。」
妖夢「(だあああああ!)」
人魚姫は盛大にずっこけました。
それだけでは飽き足らず、3メートル程ヘッドスライディングをしてしまいました。
妖夢「(ゆ、紫様!あなた何やってるんですか!)」
紫「あら王子様、この人は?」
妖夢「(何言ってるんですか!あなた私の父親役でしょう!)」
幽々子「実はこの間、浜辺に打ち上げられていたのを保護したの。」
紫「なるほど。それでぶくぶく太らせて、鍋に…。」
幽々子「あ、わかる~?」
紫「それはもう。婚約者だもの。」
妖夢「(やっぱり食べる気だったんですか幽々子さまぁあああ!)」
人魚姫は色々言いたいのですが、やっぱり声が出ません。
二人とコミニュケーションを取ることが出来ません。
幽々子「何か、あなたの方を見てるわよ~?ひょっとしてお知り合い?」
紫「はて、ちんぷんかんぷんですわ。」
妖夢「(あなたさっき私に人工呼吸しろだとか何だとか言ったでしょう!)」
幽々子「その割には、ジャ~ンジャ~ン『げえ!ゆかりん!』な顔してるけど。」
妖夢「(あ~、まあ、面食らったことは否定しませんけど…)」
紫「さて、そんなことはいいとして。今日は二人でラーメンでも食べに行きましょ。」
幽々子「紫の奢りで?」
紫「幽々子の奢り。だって婚約者だもの。」
幽々子「それもそうね~。」
妖夢「(いや、意味が…って言うか、王子様とその連れが、二人そろってラーメンですか……)」
王子様と婚約者は、そのまま二人で何処かへ行ってしまいました。
残された人魚姫は、途方に暮れてしまいました。
妖夢「(は~……。もう、何がなんだか………)」
溜息一つだけで、独り言は出ません。
人魚姫は喋ることが出来ず、王子様には婚約者がいました。
しかし、王子様と結婚出来なければ、人魚姫は死んでしまいます。
妖夢「(……でも、どうすれば……)」
と、その時です。
藍「人魚姫や~。」
橙「人魚姫~。」
妖夢「(あ、あれは!)」
ルナサ「まだ生きてたみたいね。」
リリカ「そりゃ生きてるよ~。だって死んでたら私たちの出番無いし。」
メルラン「死亡確定でも明るく生きる。素敵なことね~。」
妖夢「(取ってつけたかのようなお姉様たち!何か酷いこと言ってるけど…)」
人魚姫のお姉さんたちが現れました。
ルナサ「一体何をしに来たの?って言う顔してるから手短に説明してあげて。」
藍「こほん。あ~、実は可愛い末の妹を助けようとして、みんなで魔女をシメに行ったんだ。」
メディスン「酷いでしょう?よってたかって、私を苛めに来るんだから~。」
妖夢「(って、居たの?)」
お姉さんたちに拉致された魔女も、一緒でした。
藍「で、どうなんだ?元に戻す方法はあるのか?」
メディスン「有るには有るけど……。」
リリカ「だったらさっさとゲロっちまいな~。」
ルナサ「リリカ、表現がお下品よ。」
メディスン「でも、これは人魚姫にとって残酷なことだから、オブラートに包む様に、言うね。」
妖夢「(何やらされるんだろう?)」
メディスン「王子様殺れ。」
妖夢「(ぜんっぜん包まれて無い!)」
ルナサ「全然隠れて無いじゃない。」
メルラン「ほら~、アレよ。毒が強すぎてオブラートが溶けたの。」
魔女が言うには、人魚姫が王子様を殺したら、人魚姫にかけられた呪いが解けると言うのです。
妖夢「(で、でも……王子様を殺すなんて……)」
人魚姫は戸惑いました。
結婚出来ないのなら、大好きな王子様を殺さなければならないのです。
それが出来なければ、人魚姫は死んでしまいます。
藍「で、ここに父上様がパクってきた銀のナイフがあるから、これを使いなさい。」
メディスン「これで、こんな風に、ブスっ!」
ルナサ「ぐふっ!」
リリカ「ああ、姉さんが!」
メディスン「と、殺れば、呪いは解けるよ。」
妖夢「(はぁ、わかったけど……。けど…)」
ルナサ「うぐぐ……。」
リリカ「姉さん、死んじゃだめ~!」
メルラン「姉さん、傷は深いわ。ほら、笑って笑って。」
文「いちたすいちは~?」
リリカ「に~。」
パシャッ!
文「仲良し三姉妹、長女殺される!犯人は次女か三女か……!良い記事になりそうです。」
リリカ「写真見せて~。……姉さん、笑顔じゃないなぁ。」
メルラン「困ったわね~。こういう写真は笑顔じゃないと~。」
ルナサ「笑え…ない……わ……よ……。」
何だか大変な騒ぎになりましたが、人魚姫のお姉さんたちは、海に帰って行きました。
残されたのは人魚姫と、王子様を殺すためにお姉さんたちが持って来た、銀のナイフです。
人魚姫は、どうしたものか悩みました。
幽々子「ふ~。美味しかったわね~。劇薬ラーメンえーりん風。」
紫「あら、私の食べた、慧角ラーメンも中々いけたわよ。」
幽々子「今度は、褌ラーメンこーりん風でも食べてみようかしら?」
紫「じゃあ、私は座薬うどんにしようかしら。」
悩んでいるうちに、王子様と婚約者が帰ってきました。
王子様を殺してしまうにしても、婚約者が見ています。
ここで殺るわけにはいきません。
紫「それじゃ、おやすみなさい。」
幽々子「おやすみ~。」
婚約者は、自分の家か城かへ帰ったようです。
王子様もまた、自分の部屋へ戻って行きました。
妖夢「………。」
部屋の中は、王子様一人しか居ません。
殺るなら、今しかありません。
妖夢「(し、しかし……!)」
しかし、どうしても、王子様を殺すことが出来ません。
人魚姫の脳裏に、王子様と過ごした日々が、思い出されます。
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
幽々子『えい、油断大敵おかずはいただきよ。』
妖夢『(あ~!私の卵焼き~!)』
幽々子『あ、そのイチゴ、要らないなら食べてあげるわね~』
妖夢『(え?ああ!楽しみに取っておいたのに~!)』
幽々子『ねえねえ。本棚からお金が出てきたんだけど。』
妖夢『(私のへそくり~!)』
幽々子『あ、これって妖夢の日記………。』
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
妖夢「(……えい)」
ぷす
妖夢「(………あ………)」
人魚姫は、王子様を 刺 し て し ま い ま し た …… 。
妖夢「(ど、ど、どどどどどどどうしようどうしよう!?)」
人魚姫は慌てました。
どうしようと言っても、周りには誰も居ません。
切羽詰って逃げようとでも思った、その時です。
幽々子「ふ、ふふふ………。」
妖夢「(へ……?ひゃあああああああああああ!!!?)」
刺し殺したはずの王子様が、生き返りました。
妖夢「(お、お、お、お、おば、おば、おば………!)」
幽々子「だ~れがおばさん、ですって?」
妖夢「(違います!違います!おばかさんはチルノ~~!)」
幽々子「まあそれはともかく、何で私が死ななかったか、不思議でしょう?」
妖夢「(そ、それは……もう死んでますし……)」
幽々子「忘れたのかしら?貴方が始めて城に来たとき、何を食べた?」
妖夢「(歌う鳥鍋……でしたっけ?)」
幽々子「そう、悪魔鍋。あれを食べた者は、私に逆らえなくなる。
だから、私がおかずを食べても文句が言えない。当然、私を殺すなんてもってのほか。」
妖夢「(あ~、文句言えないのは、魔女の毒のせいのような気が……)」
幽々子「貴方は、そう。私が死ぬまで死ねないし、私が死ねと言うまで死ねないの。わかった?」
そう、人魚姫はもう、王子様に逆らえない身体になってしまっていたのです。
魔女の呪いもなんのその。
王子様が命令しない限り、人魚姫は死ねないのです。
妖夢「(って~、そんなの有りなんですか~?)」
幽々子「ありなの。細かい事何て、いちいち気にしてはいけないわ。」
結局人魚姫は、元に戻ることも出来ず、ず~~っとお城で暮らさなければならなくなりました。
でも、大好きな王子様と、一生暮らしていく事が出来ます。
その後、王子様は婚約者と結婚したみたいですが、離婚したとか。
人魚姫は後妻に迎えられて王子様と結婚し、魔女の死んでしまうと言う呪いも解け、
お城でずっと幸せにくらしたそうですが……。
妖夢「(まぁ、いいか……細かいことなんて……)」
幽々子「チャーシュー貰うわね。」
妖夢「(あ~!チャーシュー麺からチャーシュー抜いたらだたのラーメンじゃないですか~!)」
幽々子「あらまぁ、これって、妖夢のしたぎ……。」
妖夢「(いや~~~~!!やめてくださ~~~い!!)」
そのままず~~~っと、喋ることが出来ず、気苦労の絶えない生活を強要されたとか何とか……。
幽々子「○月×日晴れ。今日は気になったので、体重を計ってみた。私の体重は………。」
妖夢「(やっぱりよくな~~~~い!!)」
めでたし めでたし
キャスト
人魚姫 ・・・魂魄 妖夢
王子様 ・・・西行寺 幽々子
魔女 ・・・メディスン・メランコリー
人魚の王様 ・・・八雲 紫
王子様の婚約者 ・・・八雲 紫
人魚姫の姉たち ・・・八雲 藍、橙、プリズムリバー三姉妹
船頭さん ・・・小野塚 小町
悪魔 ・・・ミスティア・ローレライ
側近 ・・・射名丸 文
記憶では金の斧、銀の斧以来かな?
おかげである意味原作以上に不憫な人魚姫になってしまった(ノД`)
相変わらずのPiko節、今年も健在みたいで何よりです。
本年もますますのご活躍をお祈り申し上げます。
「思考回路はショート寸前~」の辺りでムーンライトレジェンド吹きました
Pikoさんの独特のリズムを持った昔話シリーズ、大好きです!
それにしても王子様……藍をも丸呑みですかっ!