Coolier - 新生・東方創想話

Puppet of doll

2006/01/07 08:48:05
最終更新
サイズ
8.21KB
ページ数
1
閲覧数
761
評価数
4/43
POINT
1960
Rate
9.02


巡り行く風の中に人形達の息遣いがきこえる。
たしかに彼女等は詠んでいる。儚きいのちの詩を。

―――でも、誰も人形たちの心は知らない。









「……全く、相変わらず酷い所ね」

言いながらアリス・マーガロイドはため息をつく。
辺りは一面の鈴蘭の花畑。普通の人間なら秒の間もなく息の根が止められることだろう。
毒殺がマイブームの亡霊や毒を集めてる薬師ならばとにかく、彼女としては出来ることならこんな所には来たくない。
にもかかわらず彼女がこの地に訪れているかはある理由がある。

「あらスーさん。あの人間また来たわ。いつもご苦労なことね」
「人間以外、よ。いい加減に覚えなさい」

声のかけられた方を見てみれば一人の小さい人形を持った少女の姿。
少女はこの鈴蘭畑の中にいるのが当たり前のように自然に立っている。
曰く、少女―――メディスン・メランコリーの体は毒で出来ておりそのおかけで毒を自在に操ることが出来るのだという。

「あなたは人形にも優しいから特別にスーさんに頼んで毒分が近付かないようにしてあげる」
「それはどうも」

と、こんな風に故意に毒を遠ざけることが出来るのだから便利なものだと思う。
まぁ、そのせいで彼女はこの毒畑から遠くでは長時間活動できなくなってしまっているわけだが。
そのせいでアリスはここまでわざわざ来ているのだから。

「さて、早く済ますわよ。私だって暇じゃないんだから」

はーい、と言いながらメディスンは近くの手ごろな岩の上に座る。
アリスが魔法の森から決して近くはないこの鈴蘭畑まで定期的に顔を出しているのは、メディスンの定期チェックのためである。
彼女が鈴蘭畑の奇妙な人形の噂を聞いたのはつい最近のことだ。
割とちょくちょく顔を出してくる天狗からその話を聞いた時、アリスはすぐにその話に飛びついた。
完全に自立した意識を持つ人形を目指す彼女としては無視できる話ではない。
そして、鈴蘭畑にいるメディスンと出会ったわけだ。
それからは人形の間接をチェックしたりするという名目で定期的に様子見に来ているわけである。

「はい、異常はないわよ」

ありがとう、と言いながらメディスンは立ち上がる。

「そろそろ人形革命の狼煙を上げる時が来たと思うのよ」

曰く、メディスンは人形の地位向上のための運動をしようとしているらしい。
普段完全な道具としてしか扱われない人形達の下克上のために日々活動しているとかしていないとか。
それなら真っ先に狙われるのはアリス自身なはずなのだが、メディスンが曰く「あなたの人形達は自分の意思であなたに使われてるから問題はないわ。あなたのこと好いてるみたいだし」とのこと。
光栄ではあるが、それはそれとして一応忠告はしておかなければならない。

「何度も言ってるけど止めときなさい。当の人形達が望んでないわよ」
「えー、何でよ。道具としてしか扱われない人形達が自由を望んでないわけないわっ!」
「私が言いたいのは道具としての使用価値を抜いたら人形の存在価値自体無くなるってことよ」

夜のベットのお供然り、寂しいときの話し相手然り、人形は道具として使用されるからこそ価値があるといえる。
それを否定するということは存在意義を丸ごと否定されているのと同じことだ。
無論、捨て駒のように使うのはさすがにやりすぎだとは思うが、利用価値まで失くすことはない。

「それじゃ根本的解決にならないじゃない!」
「根本的に解決するなって言ってるのよ」
「何でよー」
「だから……」

何度も同じ説明を繰り返しているのだが、その効果が現れたことはない。
ただの天然なのか、はたまた学習能力が皆無なのかいまいち定かではない。
出来れば後者でないことを願いたいところではある。

「まぁ、いつかあなたにも私達の計画に喜んで協力するときが来るわよ」
「だからそんな時は来ない……いいわ、もう」

ため息一つ。きっと彼女達の主張は一生交わることはないのだろう。

「で、あの子を今日もつれて来ているの?」
「ええ……ほら、出てきなさい」

ひょこり、と鞄から顔を出すは上海人形。
曰く、メディスン・メランコリーは人形の声が聞け、上海人形とは特に波長が合うのだと言う。
ちなみにアリスは信用していない。それには二つ理由がある。
一つ目、この人形が自律した思考を持っているはずがないのだ。アリスが命じればその通りに動くし、命令せずとも動く場合もある。
だが、それは自分の思考でではない。それまでの行動やパターンなどを蓄積し『学習』した結果を反映しているにすぎない。
それはデータどおりの行動を取っているだけで、断じて自律した行動ではない。
だが、この少女との会話が無駄になるとは考えていない。だから、積極的に連れて来るようにしている。
信じていないからと言って全てを否定するのは三流のすることだ。

「今年のスーさんはまだまだ元気よ。この調子なら一年中咲いているんじゃないかしら」

上海人形に語りかけるメディスンを傍目にアリスは近くの岩に腰掛ける。
見渡す限りに広がる鈴蘭の花。ここまで鈴蘭が増えたのは花の騒動のせいではないだろう。
彼女が知る限り、ここは何年か前まで鈴蘭はほとんどなかったはずなのだから。









人形の声は誰にも届かない。
人形がいくら声を張り上げても人には届かないから。
人の心は少し人形から離れすぎている。

―――では、人形は人の心を知っているだろうか?









鈴蘭畑から少し離れた森の中。その途中でアリスはため息混じりに足を止める。

「いい加減に出てきたら?隠れてこそこそ観察なんてどこぞのスキマ妖怪じゃあるまいし」
「あら、ばれてたのね」

と、姿を現すのは永遠亭の大黒柱の八意永琳。
『月』のではあるが一応人である。ただ、胡散臭さではそこらの大妖怪とも並ぶが。

「あなたは存在感が強烈なんだから隠密行動は向いてないわ。そもそも隠れるようなタマでもない」
「褒めてるんだか貶してるんだかよく分からないわね」

アリスとしては褒めているつもりだ。

「で、あなたがどうしてここにいるのかしら?」
「勿論毒集めよ。ここの毒はなかなか上質だもの。薬の原料にはちょうど良いわ」
「それはご苦労様。―――で、私が聞きたいのは何でこそこそ見てたかって事なんだけど?」
「それこそ簡単ね。人形使いのあなたがあの子をどう見るか興味があったのよ」

その瞳からは嘘を言っているようには見えない。永琳は本当に純粋に興味があるだけなのだろう。
彼女は疑問に対しては子供のように純粋だ。
……だからこそ底が知れない。
                                                           
「最初聞いた時は耳を疑ったけど、あれならウドンゲが間違えるのも無理はないわね。あそこまで成りきってるのは初めてみたもの」

それがメディスンが人形と会話できないと考える二つ目の理由。どちらかと言えばこちらの方が大きい理由。

メディスン・メランコリーと名乗る少女は『人形ではない』のだから。人形と会話が出来るはずがないのだ。

勘違いはどこからか。少女が自分が人形だと思い込んだことか、それとも誰もそれに気付かなかったのが悪かったのか。
それも無理はないとは思う。人形使いのアリスですら一目見ただけでは分からなかったのだ。
彼女はそれほど完璧に人形になりきっている。

だからこそ死神は彼女のことを『道具』と言った。道具に使われる『道具』と指した。
閻魔は裁くことが出来ないと言った。『道具』と化した彼女はあの世に逝くことは決してないと言った。

「……前例がないわけじゃないわ。人形に魂が篭るのはよくあることだから」

藁人形然り、呪術など用いられる人形然り、人形とは本来人間の身代わりとして作られたものなのだから、人の霊魂が他のどんなものよりも宿りやすい。
あの少女の魂が人形に宿って元の自分の肉体を動かしているのか、それとも別の魂が入り込んであの肉体を動かしているのかは知らない。
言ってしまえば人形の『人形』。

「ああ、あれがそうなのね。話には聞いてたけれど、初めて見たわ」

良く言うわ、と内心毒づく。
あの屋敷の中に永琳が長き年月で集めた、もしくは最初から持っていた物がごろごろしている。
その中に何らかの形で魂を持った人形が幾つあることやら。
魔理沙ではないが、あの屋敷の中に入ればそれこそ考古学者の気分になれることだろう。
そこまで辿り着ければ、の話ではあるが。

「それで、それに気付いている数少ないあなたとしては彼女のことをどうするのかしら?」
「別にどうもしないわよ」
「あら、どうして?」
「あの子は幻想の者よ。私が口出しするようなことでもないわ」

分かったところで特に何をする気もない。ただ好奇心が満たせればいい程度のものだ。
向こうが害を及ぼすのならともかく、害を及ぼしてこない以上手を出すつもりもない。
確かに彼女は異常ではあるが、あのくらいの異常ならそこら中に溢れている。
ここは幻想郷、幻想の終着駅。この世界が彼女を受け入れているというのなら、どうするつもりもない。
与えられた役目に興じるだけのこと。

「ふーん、まぁ、それならそれで別に構わないわ」

永琳は話はこれで終わりと言わんばかりにアリスとは別の方向へと歩いていく。
腹黒いのと必要以上に馴れ合うつもりもない。
……が、彼女は何かを思い出したかのように、

「鈴蘭の花言葉、ご存知かしら?」

底知れぬ笑みを見せながらそのまま去っていく。

――知っている。そんなもの最初から気付いている。

嗚呼、何と言う皮肉。
嗚呼、何て言う面白い偶然。
神様とやらがいたとしたらよほどこう言った趣向が好きなのだろう。

―――そんな世界だからこそ、こんなにも面白い。









不老不死とは違った意味で永遠に囚われてしまった哀れな少女。
それでも、少女は幸せなのだろう。

だって、鈴蘭の花言葉は『幸せの再来』。
鈴蘭に囲まれている限り、彼女はきっと幸せなのだ。







というわけでメディスンとアリスの話でした。

新年早々空気を全く読まずに投下してみたわけで。
こういう話が大好きでs
ゆな
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1640簡易評価
7.90名前が無い程度の能力削除
果たして人の心を持ってしまった人形はいつか人になりたくなかったと言うのでしょうか。
ただ「鳥の血に悲しめど、魚の血に悲しまず。声あるものは幸いなり」との言葉もありますが。
10.80削除
誤字>無効が害を及ぼすのならともかく、

仲悪いのって逆にあんまり見ないんですけど・・・むぅ、調査が足らんのか。
15.無評価ゆな削除
>鱸さん
誤字修正しました。仲悪いというか目の敵にしてるのが……単純にそういうのしか見てないだけかもしれません。該当文は抜いておきます、ありがとうございました
27.70ルドルフ削除
少女の幸せは人形の幸せ、逆も有り得るなら、果たしてどっちの幸せがどっちの再来なのやら
すでに関係ないのかな
30.80A削除
人間の「自律」も「学習」なんじゃないかなとも思うけれど
魂とかそういう「大元」っていうのが人形には無いのが相違点なのか…
でも上海はアリスの吹き込んだ魔力っていう「大元」があるわけで…
なんだか自分の思考がループしてきましたがとにかくメラン子かわいいよ