出演人物
博麗霊夢:主役。外道。貧乏人
霧雨魔理沙:被害者1
紅美鈴:被害者ボーダーライン
十六夜咲夜:エキストラ
魂魄妖夢:苦労人
西行寺幽々子:大食い亡霊。ツッコミ役
パチュリー・ノーレッジ:被害者2
射命丸文:被害者3。デバガメ
伊吹萃香:のんべ
八雲紫:仕掛け人。黒幕
以上、役回りを理解したところでお楽しみ下さい。
ここの名前は、幻想郷。
そしてここは、そのどこにあるともしれない――実際は、とってもよく知られているのだが――博麗神社。
そこに一人の、巫女がいる。
「……お腹が空いた」
ぽつりとつぶやく彼女の名前は、博麗霊夢。
地獄の赤貧帝王とも、清貧の人生転落真っ最中巫女とも言われる、この幻想郷で右に出るものがいないと言われている貧乏人である。そんな彼女は、ここ三日ほど、食事をまともに口にした覚えがなかった。きゅ~、と悲しく切なげに鳴くお腹を押さえつつ、
「……はぁ」
ため息をついたりする。
とりあえず、少しでも、お腹の足しになればと思い、立ち上がった彼女は、神社の中を横断してお茶を淹れるためにキッチンに向かおうとした。
だが、しかし。
「大変よ。霊夢」
いきなり現れるスキマ妖怪。
その唐突な現れ方に、彼女は問答無用でその妖怪を見つめて、さりげなく言い放つ。
「お帰りはあちら」
「……出てきたばっかりで 帰れと?」
「うん」
開きっぱなしの隙間を指さし、無敵の笑顔を浮かべる霊夢に、スキマ妖怪――八雲紫は顔を引きつらせる。しかし、ぶるぶると、首を左右に振って、
「実はね……よく聞いて」
「やだ」
「聞いてくれたら 藍の特製おいなりさんを進呈」
「一体どうしたの!? 紫!」
「……相変わらずわかりやすいわね」
頬に汗を一筋、つつっと流しつつ、紫。しかし、今の、餓えた巫女にはそんなもの関係ない。『さあ、話を聞いてやるからおいなりさんよこせ』とその目が語っている。とりあえず、この状態を放置していたら、いきなり夢想封印が飛んできそうな気がしたので、紫は隙間からおいなりさんを取り出し、霊夢に渡して、
「……実はね 霊夢」
「はいはい」
はぐはぐ、と効果音つきでそれをむさぼる巫女。もはやその姿に、女の子、としてカテゴリされる姿はないのだが、ともあれ。
「……萃香がさらわれたのよ」
「あっそ」
「いや……あっそ じゃなくて」
「どうせ あの脳天気鬼娘のことだから お酒がたくさん置かれた酒蔵に忍び込んで そのままお酒の樽の中にはまって出られなくなってるんじゃない?」
何ともあり得そうな可能性である。
しかし、それをここで肯定しては話が進まない。紫は、それはこっちに置いといて、とジェスチャーで示してから、
「あなたに 助けに行って欲しいのよ」
「何で私が」
「それはね 霊夢」
ぽん、と霊夢の肩に置かれる両手。
「あなたが この幻想郷の申し子! 博麗の巫女であり 東方シリーズの主人公だからよ!」
「……」
ぴくっ、と霊夢の耳が動いたのを、紫は見逃さなかった。ここぞとばかりにたたみかける。
「過去 全てにおいてあらゆる難事件を片づけ 多くの人々に 知られてはいなくとも 人間のために戦い続けてきたあなたこそ まさに勇者! まさに主人公! あなたほどの力と あなたほどの心がなければ 萃香を助け出すことは出来ないの!」
「……そ そうなのぉ。それじゃ 仕方ないわねぇ」
「ええ 頑張ってきてね!
とりあえず 萃香の行方について知っていると思われるのは この人物よ」
霊夢は 情報 を手に入れた!
情報:写真×1
「……何 今の妙な神の声」
「気にしちゃダメよ」
「ついでに聞いておきたいんだけど 何でいちいち半角スペースが空いてるの?」
「ルールなのよ」
「戻せ 鬱陶しい」
ごめんなさい。
「……それで? この写真の人物って……あのデバガメ烏じゃない」
その写真は、なぜか、その烏こと幻想郷のゴシップ捏造器、射命丸文本人の、色々な意味で全開写真だった。どうやら、彼女の真下から盗撮したらしい。まぁ、あの烏のやっていることも、たまにこれっぽいことが混ざっているため、気にしてはいけないだろう。
「彼女こそ、萃香の行方を知る、重要な人物よ」
「……まぁ、鬼と天狗は仲がいいらしいし。わからないでもないけど」
「このアイテムは重要なアイテムだから、アイテム欄の、『重要アイテム』のところに入るからね。捨てられないから」
「……アイテム欄?」
「こういうの」
霊夢 所持アイテム 重要アイテム
E祓え串 文のぱんちら写真
E改造巫女服
Eリボン
陰陽玉
陰陽玉
「……」
「ほらね?」
「Eってなに」
「装備品」
「……」
とりあえず、何かを諦めた方がいいと彼女は判断したらしい。はぁ、とため息をついた後、
「……まぁ、わかったわ」
「さあ、旅立つのよ! 勇者にして主人公巫女、霊夢よ!」
何だかよくわからない宣言と共にあさっての方向を指さしつつ、紫。そして、どこからか、荘厳なBGMが流れ出す。視線を彼方に向ければ、「さあ、私たちの出番よ!」とやる気満々のポルターガイスト姉妹たち。
「えーっと……」
「旅立ちには、こういう素晴らしいスタートはお約束よ。
名付けて、『レイムクエスト 幻想郷と共に生きるもの』!」
「……クエストって……何」
とりあえず、霊夢(勇者)は旅だった。
しかし、行き先がわからない。というか、あの烏天狗を捕まえる事なんて並大抵の努力ですむことではない。彼女の行動のフィールドは幻想郷全てである以上、手がかりなどないに等しいのだ。いきなり難題である。たとえるなら、レベル1なのにイベントバトルじゃないボス戦闘を勝利しろ、というくらいに。
「うーん……。どうしたものかしら」
コマンド
話す スペル アイテム しらべる
「……この四つから選べと?」
顔を引きつらせる霊夢。
とりあえず、手に持った『コマンド表』なるものを見つめつつ、これ、と指を指す。
コマンド
話す スペル アイテム →しらべる
「そうよね。写真に、何かの手がかりがあってもおかしくないわよね」
あのスキマ妖怪のことだ。実はちゃっかり、手がかりみたいなものを残しておいてくれているかもしれない。一応、多少は信用がおける相手なのだし。
そう思って、改めて写真を見る。
しかし、相変わらず、壮絶なくらいのベストアングルからの撮影である。どうやって撮影したのだろうか。そっちの方が萃香の行方より気になったが、ともあれ、それをじーっと見つめて、
「……食い込み角度がすごいわね」
その一言をつぶやいた瞬間。
「み、見つけたーーーーーっ!」
絶叫と共に、疾風が駆け抜けた。
何事かと目をやれば、顔を真っ赤にして、ぜはー、ぜはー、と肩を上下させているくだんの人物の姿。
「あら、ごきげんよう」
「ご、ごきげんよう、とかじゃなくて! そ、その写真っ! お願いですから返して下さい!」
「いや、返して、っていわれても。そもそも、紫からもらったものだし」
「ええいっ! あの時、気配を感じたと思ったら! この私ですら欺く不意の付き方、まずは見事!」
怒ってるのかほめてるのかよくわからない言葉を叫んだ後、
「お願いですから返して下さいよぅ……。そんな下着を着けてるなんてことがわかったら、私の周囲への評判というものが……」
色んな意味で、この天狗の評判というものは地に落ちていると思うのだが。
しかし、このとき、霊夢の頭にはいい考えが浮かんだらしい。にやりと、彼女に悟られないように笑う。
コマンド
話す スペル アイテム しらべる →ゆすって脅す
「うーん。そう言われてもねぇ?」
「お、お願いです! 何でもしますから! 私の新聞、向こう三年くらい無料で差し上げますから!」
「いやいらないし」
即答。
「そうねぇ。
何でも、する?」
「は、はい! 何でもします! ええ、そりゃもう! 誰かのスキャンダルを収めてこいというのならいくらでも! 霊夢さんの、素晴らしい活躍劇を捏造しろと言われても、ジャーナリズムを心がけている私のポリシーに反しますが、背に腹は代えられないのでやっちゃいましょう!」
相当、追いつめられているようである。
というか、確かに盗撮写真は撮影する側が悪いのだが、空を飛んでいるというのにスカート姿という彼女にもある程度の落ち度は認められるべきではないだろうか。それを指摘してやりたかったが、必死になって訴えてくる文の姿を見ていると、そんなことは言えなかった。理由は簡単、言うとつまらないからである。
「じゃあ、ね。文ちゃん」
「ち、ちゃんって……」
「何。何か文句あるの?
あ、そう。それなら、この写真を『博麗新聞』に大々的に掲載して世間様に公表……」
「わーっ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! ちゃんでいいです、ちゃんでいいですぅっ!」
「よろしい」
ふっふっふ、と笑いつつ、
「実はね、文ちゃん。私ね、ちょっと欲しいものがあるの」
「……欲しいもの、ですか?」
何でしょう? と問いかけてくる。
それはね、とにっこり笑いながら、
「お・さ・い・せ・ん」
「………………」
「新聞の売り上げ、あるのよね? それをぜーんぶ、あるだけくれないかなぁ?」
「えぇぇぇぇぇぇっ!? あ、あの、それだけは……せ、せめて、半分くらいで……。全部取り上げられちゃったら、私の生活がぁ……」
「じゃ、ばらまき決定」
「きゃーっ! わかりましたー!」
最初から素直にそう言えばいいのよ、と腕組みして傲然と彼女を見下しつつ、霊夢は唇の端をつり上げる。文は泣きながら、服のポケットを探って、その中に入っていたお金を取り出し、霊夢の手に渡していく。その額は、まぁ、それなり。博麗神社のお賽銭箱に収められる浄財の額と比べると、向こう数年分の資金にはなった。……比べてみて、どうしようもないくらいにむなしくなったが。
「よろしい」
「……はぁ。あの、それじゃ……写真……」
「その前にさ。
何か、紫が、萃香がいなくなった、って言っていたんだけど。あなた、知らない?」
「萃香……。ああ、彼女ですか? 彼女でしたら、白玉楼の方に『お酒~』ってふわふわ飛んでいくのを見ましたよ。多分、あっちの方にある酒蔵の匂いに引かれたんじゃないかな」
「……ごきぶりほいほいか」
さすがにツッコミを入れずにはいられなかった。
ともあれ、約束は約束である。霊夢は手にしていた写真を文の手に渡して、
「はいよ」
にっこりと、優しい微笑みを浮かべる。その微笑みこそ、まさに、貧しい者達を、苦しむ人々を救う巫女の微笑み。その笑みに、『ありがとうございます、ありがとうございます』と何度も何度も文が頭を下げてきびすを返す。
だが、そんな彼女に、霊夢は一言。
「こんなすごい下着つけて、誰を誘うの?」
ぼふっ、という妙な音を立てて、へろへろと文は落下していった。あまりの恥ずかしさに意識を飛ばしたのだろう。お手軽な現実逃避方法だ。
「さあ、目指せ、白玉楼!」
文をノックアウトした霊夢は、一路、白玉楼を目指す。
――のだが。
「……お腹空いたぁ」
空を飛びながら、そんなことをつぶやいた。
いい加減、お腹の減り具合も限界なのだ。水やお茶でしのいできたとはいえ、何かカロリーになるものを摂取しなければ、ふとしたことで墜落死、という可能性もないことはない。
霊夢
HP10/1000 MP∞ 状態:空腹
と、このようにパラメータも示していることであるし。
「ん~……」
空の上から視線を巡らせる。
視界に映るのは、緑色の空間。白玉楼を目指しているはずだったのだが、お腹の減り具合が限界に達しているため、方向感覚も失っているようだった。彼女がいるのは、魔法の森上空。白玉楼とは、反対方向とは言わないが、かなり方向がずれていた。
――魔法の森、か。
「よし」
彼女は、ふわふわふよふよと頼りなく飛んでいく。
ああ、お腹空いた、とぶつぶつつぶやきながらやってきたのは、一軒の家の前。
「まーりーさー」
どんどん、とドアをノックして声を上げる。
返事はなし。
「入るわよー」
がちゃっ。
ドアが開く。鍵をかけてないなんて不用心ね、とつぶやきながら家の中へ。
霊夢の一番の友人であり、一番のライバルでもある魔法使い、霧雨魔理沙の家の中は、相変わらずのカオスぶりだった。あちこちに転がった書物やらマジックアイテムやらで足の踏み場もない。それに、何とも言えない、すえたような臭いも漂っていた。あんまり見たくはないのだが、そっと、積み重なったものを持ち上げてその下を見ると、かびが生えている。魔法の森は湿気が高いため、掃除をしなければこうなるのは当たり前のことだ。
彼女の蒐集癖にも困ったものだ、とため息。誰かがここの掃除をしてくれるようになればいいのだが、あいにく、魔理沙には、未だにその手の相手がいないと来た。いや、いないということはないのだが、そこまで親しくはない、ということなのだが。
「魔理沙ー、どこー。お腹が空いたからご飯おごってよー」
コマンド
話す スペル アイテム しらべる →たかる
「ねー、まーりーさー」
室内を歩き回り、声を上げるのだが、魔理沙の姿はどこにもなかった。
一体どこに行ったのかしら、と思いながら首をかしげる。もしかして、留守かな? それなら、とりあえず、適当に食料庫をあさって、そこにある、食べられそうなものでも強奪していくかと思いながら、足を進めて――。
「……ん?」
何やら、声。
誰の声だろうと耳を澄ませば、この家の主の声に違いなかった。何だ、いるんじゃない。全く、魔理沙も意地が悪い。せっかく、この私が訪ねてきたのだから、笑顔で出迎えつつ、何でもいいから食事をフルコースでおごってくれてもいいじゃない、と。
ある意味、本当に魔理沙のライバルとしてふさわしい思考を浮かべながら足を進める。そして、
「魔理沙ー」
いるんでしょー? と訊ねながら、がちゃっ、とドアを開いて――、
「…………………………」
「…………………………」
両者、共に沈黙した。
光速を越えた速さで霊夢はばたんとそのドアを閉める。
「……すごいもの見ちゃった」
霊夢は すごいもの を手に入れた!
どたばたというものすごい音が響いた後、次の瞬間、ドアが消し飛んだ。だが、それも霊夢は予測済み。その一撃が放たれるより早く、ドアの前からは飛び退いている。木製のドアをあっさりと粉みじんに吹き飛ばした魔法の光が消える頃、粉塵の向こうから魔理沙が現れる。
「れぇぇぇぇぇいぃぃぃぃむぅぅぅぅぅ!」
顔を真っ赤にして、全力で怒っていた。
……いや、あれは怒りなのだろうか。どっちかっていうと恥ずかしさの方が際だっているような感じもする。それに、ほら。それを証明するように、ちょっぴり着衣が乱れてる。
「お前ぇぇぇぇぇ! ドアくらいノックしろぉぉぉぉぉっ!」
「何言ってるのよ。来たわよー、って宣言したじゃない!」
「聞こえてないっ!」
「聞こえないくらい没頭してる方が悪い!」
「わ、悪いか!? 私だって、女だ! その……い、一ヶ月に一度くらいは、どうしようもない時はあるんだ!」
「だからって、真っ昼間っから(自主規制)してる方が悪いんでしょうが!」
「やかましい! 何の用だ!」
「お腹が空いたから、ご飯を食べさせにもらいに来たのよ!」
「じょぉぉぉぉぉだんじゃないぜっ! お前に食わせてやる飯なんて、米粒一つもうちにはないぜっ! さあ、とっとと帰れ! ついでにここで見たこと全てを口外しないと確約させてやるっ!」
「ふっ……この私、博麗の巫女を甘く見ない事ね!」
ぎらりと霊夢の目が輝きを帯びる。
その鋭さに、魔理沙は一歩、後ずさった。しかし、相手を前にして後退することなど、己のプライドが許さないのか、引いた足を前に戻す。
「じっ、上等だ! 今、うちの食料庫には、念願かなって手に入れた、特上の牛の霜降り肉もあるんだ! 絶対にお前になんてやらないからな!」
選択肢
頼む! 譲ってくれ!
そう、関係ないね
→殺してでも奪い取る
「うっふっふ。い・い・こ・と、聞いちゃったぁ~!」
「しまっ……!」
世の中、藪をつついて蛇を出す、という言葉もありました。
霧雨魔理沙が現れた!
どうする?
たたかう
にげる
→スペル →夢想封印×10
防御
アイテム
「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇっ!」
「おーっほっほっほ! 牛肉ぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
「うわーっ、何をする霊夢ーっ! ちょっと、それはしゃれになんな……ぎゃあぁぁぁぁぁっ!」
霧雨魔理沙を倒した!
念願の 牛の霜降り肉 を手に入れたぞ!
魔理沙の(ぴー!)を手に入れた!
「う……うう……。霊夢……お前……キャンセルスペカは萃夢想限定だぜ……」
「何の話をしてるのやら」
それじゃ、ご飯、おごってね♪
ツッコミどころのない、隙のない笑顔に、魔理沙は「ちくしょ~……」と涙したのだった。
「さぁて。お腹も一杯になったことだし」
「ああ……私の……私の牛肉……」
魔理沙が『念願かなって』と前置きを置いただけあり、その牛肉の味は、霊夢が普段食べている貧相な、薄っぺらい、向こう側が透けて見えそうな肉とは格段に違った。かめばかむほど、味が出てジューシーで、思わず「うまいぞー!!」と叫びながら陰陽鬼神玉ぶっ放しそうになったほどだ。その他にも、あるだけの料理を提供させて、ようやくご満悦。実に三日ぶりのお食事は、とてもおいしゅうございました。
「んじゃ、魔理沙。ご飯はおいしかったわ。あなた、いいお嫁さんになれるわよ」
「うるさい、帰れ帰れ!」
塩を持ち出してきて、それをぱっぱと霊夢にぶつけてくる。
全く、なんて無礼な奴だろう。私は巫女よ。そこらを漂う白玉楼の大食い亡霊じゃないのよ。
じろりと魔理沙を睨みつけて、ふふふ、と笑う。
「な、何だ」
一歩、足を引く魔理沙。
そんな彼女に、にんまりと、霊夢は笑顔で笑いかけ、
「これからも、ちょくちょく、ご飯、おごってもらいに来ていい?」
「な、何言ってるんだ! そんなこと……!」
コマンド
話す スペル →アイテム しらべる
→魔理沙の声真似
どうする?
→使う
捨てる
「ああ~ん(ぴー!)、私、あなたが(ぴぴー!)で(ぴー!)なのぉ! お願い、(ぴー!)私の(ぴー!)を(ぴー!)で(ぴぴぴー!)ぇ!」
「なっ、なななななななっ!」
「ふっふっふ。これぞ博麗奥義、音声模倣!」
「……」
「これを使って、魔理沙のあんな事やこんな事を暴露されたくなかったら! さあ、私のためにご飯を作りなさい!」
「う……うう……」
じりっ、じりっ。
両者の距離が詰まっていく。椅子から立ち上がった霊夢が魔理沙に詰め寄り、魔理沙は顔面蒼白にして後ろに下がり、徐々に、徐々に、後ろへ、後ろへ。
どすん、と魔理沙の背中が部屋の壁に当たった。
逃げられない!
「さぁぁぁぁぁぁ!」
「うっ……!」
ずいっ、と詰め寄った霊夢に。
「うわぁぁぁぁぁぁん! アリスぅ~! 霊夢がいじめるぅぅぅぅぅ!」
何か、妙に『キャラじゃない』声音でそんなことを叫びながら、魔理沙は壁を蹴り破って、泣きながら駆けだしていってしまった。
その後ろ姿を見送ってから、「ご飯はおいしかったわよ~」と、とどめの一言。
「さぁて、それじゃ、腹ごしらえも終わったことだし。行きますか」
かつて、これほど、悪逆非道の限りを尽くした巫女がいただろうか。幻想郷に生まれ落ちた、まさに、邪悪な、人畜無害を装った夜叉が。
霊夢は満足そうにお腹をさすりながら、ひょいと外へと足を踏み出し、空の上へと飛び上がる。
「さあ、目指すは白玉楼よ!」
その視界の片隅に、泣きながらアリスの家に向かって飛んでいく魔法使いが見えたような気がするが、霊夢はそれを見なかったことにしたのだった。
お腹が一杯になれば、動きもよくなる。
つい先ほどまでの、墜落死一歩手前の飛び方とは打って変わって、彼女は軽快に空を飛び、白玉楼に繋がる結界を超える。
相変わらずの冥界ぶりに、何とも言えない感想を口にしようとして――とりあえず、めんどくさいからそれは自分の心の中にひっそりとしまっておくことにする。
そうして空を飛び続けることしばし。
「あ、見えてきた見えてきた」
視界の遙か彼方を埋め尽くす、広大な屋敷。そここそが、目指す地――西行寺の亡霊お姫様が住んでいる世界である。目的地が見えてくれば、後は早いもの。飛ぶ速度を上げて、あっという間に屋敷の庭に舞い降りる。
相変わらず、見事に整えられた庭の風景に感嘆のため息を漏らしながら、
「ゆーゆーこー。ちょっと用事があるんだけどー」
声を上げて、しばし待つ。
「はーい。どなたですか……って……あっ! 霊夢さん!」
「あ、妖夢。おひさ」
「はい、お久しぶりです」
ここ、白玉楼で庭師として働いている少女が現れ、霊夢に向かって頭を下げた。相変わらず、礼儀正しくてまじめな奴ね、と思いながら、霊夢が言葉を続ける。
「ねぇ、妖夢。幽々子はいないの?」
「あ、そうなんです! 霊夢さん、幽々子様、知りませんか?」
「え? いないの?」
「ええ。実は、朝から」
彼女は、少しだけ、困ったようにため息をつきながら、
「……朝方、私が出した朝食が気に入らなかったのでしょうか」
「何を出したの?」
「白いご飯と納豆と、焼き魚。おみそ汁にお新香に、ほうれん草の和え物です」
「……おいしそうじゃない」
頭の中にリアルに浮かぶ、その光景。
うむ、見事。
まさに、これぞ、和の心。今時の、和を忘れた者達に見せつけてやりたいくらいに、これ以上ないほどの『朝ご飯』。あ、いかんいかん。ついさっき、ご飯を食べたばかりだというのにお腹が減ってきた。
ぶるぶると、霊夢は首を左右に振ると、
「別段、あいつが気に入らなそうなもの、ないけどね」
西行寺幽々子。
その正体は、ここ、冥界のお姫様。だが、その実体は、幻想郷において右に出るものなどいないと誰にも言わしめるほどの食欲魔人。奴の胃袋は無限だ。奴にものを食わせるな。全てを食い尽くされるぞ、というのが『幻想郷標語集』(編纂:上白沢慧音)にも書かれているほどなのだ。
その彼女に好き嫌いがあるとは思えない。というか、食べ物なら来るもの拒まず、という感じがする。これ以上ないくらい。
「ええ、そのはずなんですけど……。
『妖夢ぅ、何よ、このご飯はぁ』って、いたくご機嫌斜めでして……」
「ふぅん……」
だからって、出て行く……というか、行方をくらましてしまうだろうか。その程度のことで。
――と、考えてみて、『いや、あいつならやりうるか』と考えを変える。食に関しては、その道を極めつつある幽々子だ。当然、そこにかけられる情熱や、もっと簡単に言い換えて『魂』は普通の人間にはわからないくらいに深くて激しいものなのだろう。だから、自分が気に入らないご飯を、自分を最もよく理解してくれている人が出してきたら、へそを曲げて当然かもしれない。
しかし。
そんなことを理解しても、こちらにはプラスになるものは何一つない。というか、マイナスばかりだ。
「あの……恐縮なんですけど。
霊夢さん。幽々子様を捜すの、手伝って頂けませんか?」
選択肢
はい
→いいえ
「……あの、霊夢さん。幽々子様にご用事があるんですよね? お手伝いを……」
選択肢
はい
→いいえ
「その……別に、強制しているわけではないんですけど。手伝ってくれたら嬉しいんですけど……」
選択肢
はい
→いいえ
「……私一人で白玉楼を探すのは大変ですし、もしかしたら、現世の方に行っているかもしれなくて……」
選択肢
はい
→いいえ
「……あの。話を聞く気はありますか?」
選択肢
はい
→いいえ
「……もういいです」
だー、と涙を流しながら、妖夢。
「じゃ、頑張ってねー。見つかるまでお世話になるから」
「えぇっ!? 手伝ってくれないのにですか!?」
「当然よ。
あ、お茶とお菓子、よろしくね」
「そんなぁ~……」
さっさと、霊夢は屋敷に上がり込んでいく。その彼女の後ろ姿に、文句の一つも言ってやろうとしてはいるようだが、その勢いが、今の妖夢には足りないようだった。がっくりと肩を落とすと、言われたように、霊夢にお茶を出すべく、一度、屋敷の中へと戻っていく。
「あんたの淹れたお茶はおいしいからね~」
「……ありがとうございます」
肩越しにじろりと睨み、妖夢。
いい人だって思ってたのに。
ぶつくさ文句をつぶやきながら、応接間としても使っている居間の障子をすっと開ける。
「あら、お帰りぃ。妖夢ぅ」
「ゆっ、幽々子様!?」
「どこへ行ってたのよぉ。もぉう。お腹が空いちゃったわぁ」
「あれ? 幽々子、いるんじゃない」
「あらぁ、霊夢じゃないのぉ。久しぶりねぇ」
「えっ!? ええっ!? 何でいるんですか、幽々子様!」
「なぁによぉ。私がいたらダメなのかしらぁ?」
ぷっく~っとほっぺたをふくらませてにらんでくる。一応、怒ってはいるのだろう。しかし、そんな子供っぽい仕草で怒ってもらっても怖くない。というか、こんなんだからカリスマが足りないと言われるのだ、この人は。
そんな失礼なことを思い浮かべつつ、しかし、口に出すわけにもいかず、妖夢は霊夢と幽々子を交互に見て、どうしようと思案する。
「幽々子、あんた、どこかへ行ってしまったって妖夢が言っていたけれど?」
「そうよぉ」
「どうしてここにいるの?」
「だってぇ。
私が今日、食べたかったのはわかめのおみそ汁だったのに、妖夢ったらねぎとお豆腐のおみそ汁を出すんですものぉ。昨日、ちゃんと、寝る前に言ったのにぃ」
「……あれ。そうでしたっけ?」
「そうよぉ。もう、忘れん坊さんねぇ、妖夢ってばぁ」
ぷぅ~っとほっぺたをふくらましたまま、にらんでくる。やっぱり怖くない。それどころか、愛らしい。
……まぁ、それは置いておいて。
「……すいません」
「別にもういいわぁ」
「じゃあ、何で、ご機嫌斜めになって出て行ったのに戻ってきてるの?」
「お腹が空いたからよぉ」
……なるほど。
お子様の家出と同じ、というわけか。この幽々子にとっては、何よりも食欲が優先されるわけである。お腹が空いてしまえば、それまでのしがらみなど何もかもをかなぐり捨てて、それを満たすという目的が頭の中を埋め尽くしてしまうのだろう。だから、平然と、
「よーむー。お腹空いたー」
と、やっているわけである。
なお、ただいまの時刻、午後の十二時を少し回った頃。
「あ、は、はい。ただいま、昼食をお持ち致します。霊夢さんも、ご一緒にどうですか?」
「さっき、私は食べてきたから。お茶だけちょうだい」
「はい。ようかんも添えてお持ちします」
では、と妖夢は頭を下げ、ぱたぱたと足早にその場を去っていく。
「しかし、あの子は、ほんと真面目ねぇ」
「うふふ、そうでしょぉ。私の妖夢は、誰よりも素晴らしいのよぉ」
「はいはい。おのろけは結構」
それをぱたぱたと手で払いのけて、テーブルに着く。
そうして、おもむろに、霊夢は切り出した。
「あのさ、幽々子。悪いんだけど、萃香、どこにいるか知らない?」
「萃香ちゃんがぁ、どうかしたのぉ?」
「いやね。何か、紫がさ、あいつが行方不明になった、って」
「……あら?」
そこで、なぜか首をかしげる大食い亡霊。
「どしたの?」
「う~ん……萃香ちゃんって、あの萃香ちゃん……よねぇ?」
「それ以外に、どの萃香がいるのよ」
あいつは分裂するけど、と内心で付け加える。
「う~ん……。萃香ちゃんなら、昨日、うちの酒蔵に忍び込んでいたところを捕まえて、西行妖にくくりつけておいたんだけどぉ」
「……」
「今朝になって、紫が連れて行ったわよぉ?」
「………………………ほう」
その刹那。
確かに、屋敷の温度が急速に降下した。
目の前にいる少女は幽霊だからして、寒さ暑さなどとは無縁の存在であるが、その時、別室にて料理にいそしんでいた妖夢は、あまりの気温の低下に「まさか、あの時、春を集めすぎた祟りが!?」と震え上がるほどだった。
霊夢
HP1000/1000 MP∞ 状態:穏やかな心で激しい怒りに目覚めたスーパーレイムだ
「……で?」
「で、と言われても。それだけよぉ?」
「オーケー。了解。そりゃーもう徹底的に……」
くっくっく、と含み笑いが漏れる。徹底的に邪悪な。
つり上がった口の端など、もはや人間のものではない。悪鬼のごとき形相である。……いや、悪鬼と比べたら、まだあちらがかわいいだろうか。修羅か羅刹のごとし、と言った方が正しいかもしれない。
それはともあれ。
「……ねぇ、幽々子」
「何かしらぁ?」
「あのさぁ。ちょーっと、紫に会いに行くんだけどさぁ。
あいつの弱点って知らない?」
「あんまり派手にやりすぎるのはよくないわよぉ。でも、弱点は知らないわねぇ」
「?」
「っていうかぁ……あ、思い出したら腹が立ってきた……」
一体どうしたというのか。
いつものとろけた表情が徐々に硬化し、こめかみの辺りに、青筋が一つ、二つ、三つ、と増えていく。
「いいわぁ! わかった、協力するぅ!」
「……そ、そう? 何か知らないけど、やる気になってくれたのならありがたいわね」
「うふふふふぅ。てってぇ~てきにぃ、痛い目に遭わせてあげましょうねぇ!」
「……一体、何があったのよ。あんた」
思わず、一歩後ろに下がってしまうほど、その時の幽々子の顔と言ったら以下略。
幽々子 が仲間に加わった!
幽々子
HP20000/20000 MP∞ 状態:腹ぺこ天然
所持アイテム E着物
Eド○キ○スマークつき帽子
E死兆s……もとい、死蝶霊
「それで、どこに行くの?」
「えっとねぇ、紅魔館よ」
「……あそこに、何の因果が?」
「バカねぇ。あそこのヴワル図書館はぁ、幻想郷の歴史と知識の集積庫でしょぉ。あそこなら、紫の弱点の一つや二つぅ、眠ってるわよぉ!」
「……いや。あいつと一番付き合いが長いの、あんたじゃなかったっけ?」
「私はぁ、過去は振り返らない女なのぉ」
なるほど。
だから、妖夢が、『幽々子様も、少しは昔に懲りて下さい!』と怒るわけか、と思う。なお、幽々子のおつき従者である妖夢は、現在は白玉楼にてお掃除の真っ最中。『ついて行きましょうか?』との申し出に、別にいい、と断ったのだ。あの幽々子が、珍しく。なお、ご飯はしっかり平らげていたので、お腹が一杯になったから、後のことは妖夢任せでオッケーということなのだろうか。
まぁ、ともあれ、幽々子にやることにいちいち文句をつけたりツッコミをしたりしていたら、それこそ、幻想郷の歴史が終わってしまう。だから、気にしないことにして、前を行く彼女の後をついて行く。幽々子は幽々子らしく、ふんわりふわふわ飛んでいるため、非常に足が遅いのだが、やる気になっている彼女に花を持たせてやるのも友人としてのつとめだろう。
「あ、見えてきたわぁ」
「そうね」
広い広い湖の中央に佇む赤い館。
二人はその門の前へと降りていく。そして、当然ながら、紅魔館の門番を預かるもの、紅美鈴が二人の前に立ちはだかる。
「あの、何かご用でしょうか?」
「ご用よぉ」
「……いや、幽々子さんにそう言われてもものすごく説得力がないので。霊夢さん、お願いします」
「あんたの気持ち、よくわかる」
目の前の亡霊ほど、気まぐれと気の赴くままに行動する生き物(死んでるけど)はいないからだ。かくかくしかじかと事の顛末を、詳細に語って聞かせると、美鈴は小さくうなずきながら、
「……なるほど。それで、図書館を?」
「そういうことなの。よかったら通してくれないかな。通してくれたら、今ならもれなく、幻想郷の皆様に、美鈴さんの名前をお伝えして回るわ」
「……」
「というわけだからぁ、えーっとぉ……め……中国さん?」
「何で『め』まで出かかってて『中国』に逆戻りするんですか! っていうか、一文字も引っかかってないじゃないですか! 逆戻りどころか全力疾走よーいどんで突っ走って遙か彼方に置き忘れてきた感じですよそれ!」
ぜはー、ぜはー、と声を荒げてから、彼女は肩を上下させつつ、
「と、ともあれ。
その……そう言う訳のわからない報酬で動くわけにはいきません。それに、本日、図書館は立ち入り禁止です。お帰り下さい」
「ねぇ、お願いよ。美鈴さん。私と美鈴さんの仲じゃない」
「そうやって、上目遣いにこびても無駄です」
「……あっそ」
その一言に。
すぅっと、霊夢の顔から表情が抜け落ちた。
コマンド
話す スペル アイテム しらべる →脅す
「それじゃあ」
「……な、何ですか? 私は暴力には屈しませんよ! ええ、そりゃもう!」
「じゃあ、ギャストリドリーム十発くらいでよろしいかしらぁ?」
「え? いや、その、それはいくら何でも……」
「ふっふっふ」
甘いわね、幽々子、と。
霊夢は前に出て、美鈴にびしっと指を突きつけた。その迫力に、美鈴は、真剣でも喉元に突きつけられたかのような錯覚を受け、一歩、後ずさる。
「美鈴さん。そっちがそのつもりなら、こちらには奥の手があるわ!」
「な、何ですか? 言っておきますが……」
「今後一切、私はあなたのことを『美鈴』とは呼ばない!」
「なっ……!?」
ドッギャァァァァァァァン!! という書き文字が、美鈴の上に現れたような気がして、幽々子はちょっぴり顔を引きつらせた。
ふらふらとよろめいた美鈴が、その場にがっくりと膝を落とす。
「わ……私の……私の名前が……」
「ふっふっふ。いいのかしら? 幻想郷に数少ない、あなたの名前を呼んでくれる人が少なくなって!」
「うぅっ……!」
「何か根本的に間違っているような気がするんだけどぉ……」
「しゃらーっぷ!」
至極まともなツッコミを入れる幽々子に、びしっと祓え串突きつけつつ、霊夢。
「さあ、どうするの!? 紅美鈴!」
「ああっ、今、『くれないみすず』って言ったぁ!」
「さあ、さあ、さあ! どうするのかしら、中国!」
「うわぁぁぁぁぁん! 中国って言ったぁ!」
「おーっほっほっほ!
結末は二つ! 私たちを追い返し、永久に中国と呼ばれる地獄に苛まれるか、あえてここで私たちを通し、美鈴という名の栄光を掴むか!
勝敗は、貴様の手にゆだねられている! さあ、いえ! そして、選べ! お前の進む道がどちらであるのかを!」
「……だからぁ。何かが絶対に間違ってるってばぁ」
普段はツッコミを入れられる側のものがツッコミを入れなくてはいけないという状況がいかほどのものであるかは、推して知るべし。
詰め寄る霊夢。膝を落としたまま、動けない美鈴。
両者の、絶対の拮抗が破られるきっかけは、やはり、美鈴だった。
「……わかりましたぁ。どうぞお通りくださいぃ……」
「ありがと、美鈴さん」
「うう……試合に負けて勝負に勝ったと言うのでしょうか……」
「……逆だと思うわぁ」
「さあ、行くわよ、幽々子」
その場にうなだれたままの美鈴はほったらかしに門をくぐり、中庭を通り抜け、館への大扉を開く。そして、開くと同時に、目の前には見たことのある人間が立っていた。
「あら、あなた達」
紅魔館のメイド長、十六夜咲夜だ。片手にはティーカップの載ったトレイが一つ。誰かにお茶を渡して戻る途中だったらしい。
「何の用?」
「ちょっと、図書館にね」
「あら、そう。今日は、図書館は入室禁止よ。美鈴に言われなかった?」
「彼女ならぁ、あそこで膝を抱えて落ち込んでるわぁ」
「……何したのよ」
こめかみに汗を一筋流しつつ、咲夜。その視線は、門柱に寄りかかって「私の人生、これでいいのかな」と自問自答している美鈴に向けられる。それを遮るかのように、霊夢が視線の間に割って入り、びしっと指先で咲夜を指さした。
「さあ、図書館へ案内なさい!」
「……聞こえなかったのかしら。本日は、図書館は入館禁止です。お帰り下さい。――これでよろしい?」
「オー、ワターシ、ゲンソウキョウノコトバ、ワッカリーマセーン」
「あんた、今、普通にしゃべってたでしょが」
さすがは生来のツッコミ気質。霊夢のボケにもあっさりと、素で返してくる辺りは歴戦の強者である証である。
「それを永遠亭の人間が言うならまだしも。あなたでは、ネタにもならないわ」
「……ちっ」
「それで? どうして、珍しいコンビが雁首そろえて図書館に入りたいなんて言うのかしら。霊夢、あなたはともかく、そっちの亡霊は、図書館には永遠に無縁じゃない」
「それもそうねぇ」
あっさりと肯定する幽々子。自分が知識の探求者などという身分には、どう頑張ってもたどり着けないとわかっているのだろう。肯定したら肯定したで、何か色々なものを捨て去っているような気もするのだが。
「第一、何で図書館に入れないのよ」
「パチュリー様が、何だかよくわからない研究をしていてね。外部から下手な刺激を与えたら、その研究が暴走する虞があるから、って。何が起こるのかはわからないけど、魔法実験の類なんて、大抵、よくない結果が起こるに決まっているわ」
なるほど、とうなずく二人。だが、ここで引き下がっては、彼女たちの目的を果たすことは出来ない。何よりも偉大で崇高で、汚されてはならない神聖な目的が、彼女たちにはあるのだから。
「事情を説明すると長くなるからはしょるけど、図書館になら大ボスの弱点はあるでしょ」
「ええ、そうね。なぜだか、そう言う場合、多いわよね。けど、大ボスって?」
極めて普通に言葉を返してくる。あまりにもあっけない……というか、予想外の返事に、言葉を口にした霊夢が固まった。次の言葉が出てこないらしい。
その間に、ふわふわと幽々子が前に歩み出る。
「あのねぇ、私たちはぁ、これからぁ、とっても大変なことをしないといけないのよぉ。だから、そこを通してちょうだいな?」
「……はぁ。言っても聞かない人たちだとはわかっていたけれど。
迎撃するにしても、理由があれだしね。まぁ、好きなようにしてちょうだい。言っておくけれど、図書館には結界が張られているわよ」
言うことだけ言うと、やることは終わった、とばかりに咲夜は歩いていく。こちらに興味をなくしたらしい。簡単に言うと、あきれられた、ということなのだが。
ともあれ、道を塞ぐ障害がなくなったのなら臆することはない。二人は紅魔館の中を進み、幻想郷の知識の宝物庫、ヴワル図書館へとやってくる。扉に手を触れさせると、ばちっ、という音と共に火花が散った。
「あいたた……」
手を伸ばした霊夢が、ちょっぴり火傷した右手を軽く振る。
「……さすがね、パチュリー。かなり強烈な魔法結界だわ」
「どうするのぉ?」
「ん? どうするか、って?
簡単よ。押してダメならぶっ壊せ」
コマンド
話す →スペル アイテム しらべる
→陰陽鬼神玉
どうする?
→使う
使わない
「……押してダメなら引いてみろ、だったと思うわぁ」
轟音と爆風が弾け飛ぶ。
音と一緒に、図書館への扉も結界も、何もかもが吹き飛んだらしい。青白い電光が、しばしの間、粉塵の向こうに残っていたのだが、それも徐々に消えて道を示し出す。意気揚々と進んでいく霊夢の後を、ふよふよ漂って進んでいく幽々子。どこもかしこも本に埋もれた世界は、いつ来ても、自分たちは場違いだと感じることの出来る数少ない世界である。
その中で、歩いていく先に、光が見えた。
「あそこかな」
少し足早に進んでみると、そこには、本棚に挟まれた通路の真ん中に巨大な机を出して、その上に無数の本を積み上げているパチュリーの姿。
「おーい、パーチュリー」
返事、なし。
「おーい」
もう一回、声をかけてみるのだが、やはり返事はなかった。
彼女の前にくるりと回ってみると、パチュリーは真剣な顔で目の前に書かれた何かの魔法図と格闘しているようだった。霊夢達など、最初から眼中に入れる予定はないのだろう。ついでに言えば、司書をしている小悪魔もそこにいない。
「どうするのぉ?」
幽々子が首をかしげた。
これほどまでに、何かの物事に集中している誰かを引き戻すというのは難しいことだ。確かに、普通に考えれば、それを実行するのは極めて難しい難題である。
だが、霊夢には秘策があった。任せておいて、とウインクを一つして。
コマンド
話す スペル →アイテム しらべる
→魔理沙の声真似
どうする?
→使う
捨てる
「おーい、パチュリー。聞こえないのかー?」
「魔理沙?」
一体どうやっているのかしらぁ、と幽々子に首をかしげさせるほど、魔理沙にそっくりな声を出す霊夢にパチュリーがあっさりと反応した。顔を上げて、周囲をきょろきょろした後、空耳かしら、と小首をかしげて、再び視線を本に落とそうとする。
だが、そうは問屋が卸さない。
「はいストップ」
「いたっ」
霊夢が片手にした祓え串でパチュリーのあごを持ち上げる。当然、こんな事されれば誰だって痛い。痛いわね、と抗議の声を上げて、ここで初めて彼女が霊夢を見る。
「……霊夢? って、あれ? 魔理沙は?」
「いないわよ。空耳でしょ」
「……そうかしら。疲れてるのね」
「そうねー」
「……って、ちょっと待って。何であなたがここにいるの? あ、大食い亡霊魔人まで。結界は!?」
「……私ってぇ、そんな風に見られているのねぇ」
自分の日頃の行いほど、自分の目には見えないものである。顔を引きつらせる幽々子はさておいて、パチュリーはじろりと霊夢をにらむ。
「壊したわよ」
「……あっさり言うか」
ぼそりとツッコミ。
「……ったく。魔理沙のマスタースパーククラスの攻撃を耐えられるようにしないとダメなのかしら……」
「ダメね」
「素直に言うなっての」
一発の水の弾丸が霊夢に向かって飛ぶ。それを、ひょい、と霊夢は回避した。
「……で? 何の用よ」
私は忙しいの、とばかりに霊夢からは視線を外し、彼女は視線を机の上に置かれた魔法図へと戻した。それは一体何の実験なの、とは聞かない。あえて、霊夢は己の要求のみを告げることにしたらしい。
「実はね、パチュリー。紫の弱点を教えてほしいの」
「そっちの幽霊の方が詳しいでしょ」
「私もそう思ったんだけど、実はそうでもないのよ」
「……ま、大ボスってのは、訳のわからない弱点ばかりをさらして、本物の弱点は隠しているものよね」
何だか、知った風に言う彼女。
こちらの話でも聞いていたのだろうか。二人は首をかしげ、視線を絡めた。そして、一瞬の間にアイコンタクトを終えて、再び顔をパチュリーに戻す。
「それでぇ、いい弱点を知らないかしらぁ?」
「そもそも、弱点というのは、外部から指摘されるウィークポイントではあるけれど、決してそれが弱点たり得るものではないのかもしれないわよ? たとえば、私が知っている――」
「ああ、もう。講釈はいいから」
「そう? 残念ね」
心底、残念だという風に肩をすくめる彼女。
「ま、いいわ。それを教えたら出て行ってくれるんでしょ?」
あるのかよ。
まさかとは思っていたのだが、その予想が当たったことに、少なからず、霊夢は驚いたらしい。一方の幽々子は、いつも通りの飄々としたものだったが。
「一度しか言わないからよく聞いて。
この通路をまっすぐ行って、突き当たりを左に折れて、右から三番目の本棚の隙間を通って、さらに右へ。その突き当たりにある本棚の、上から三段目、右から八列目の本を、下から五段目、左から四列目の本と取り替えて、さらにそこから左に、およそ十歩歩いたところにある本棚の、上から九段目、左から十三列目の本を抜き出して、その正面、五歩歩いたところにある本棚の、下から三段目、右から八十五列目の本と取り替えて、出来た通路を直進して、九歩進んだところにある、左右の本棚のうち、左の本棚は、上から五段目、右から百五十三列目の本を、右の本棚は、上から二十二段目、左から九十一列目の本と取り替えるの。そうしたら、また新しく、正面の道が延びるから。今度はその先の、通路の限界まで行った先にある、袋小路の本棚の、正面のものは上から五十五段目、左から八列目の本、右の本棚は、上から三十二段目、左から四十八列目、左の本棚は、下から九十七段目、右から八十四列目の本を、それぞれ、正面、右、左、の順番で入れ替える。すると、その三つの本棚が左右にスライドして、新しい本棚が現れるから、新しい三つの本棚を、上、上、下、下、左、右、左、右、B、Aの順番でスライドさせると、床の中から新しい本棚がまた出てくるわ。そしたら、そこの本棚の前で、パンを尻に挟み、右手の指を鼻の穴につっこんで左手でボクシングをしながら『命をだいじに!』と叫ぶと、お目当ての本が出てくるわよ」
「…………………」
「…………………」
「さあ、出て行って。私は忙しいの」
「…………………」
選択肢
仕方ないわね。行くわよ。
そんなめんどくさいこと、やってられない。帰る
コマンド
↑↑↓↓LRLRBA
新しい選択肢が 出現しました
仕方ないわね。行くわよ。
そんなめんどくさいこと、やってられない。帰る
→パチュリーに無理矢理行かせる
「レッツ、夢想封印」
「……あんたは鬼よ」
「さんきゅー」
ぼろぼろになったパチュリーが、ふらつきながらその本を持って戻ってくる。
それを受け取った霊夢は、じゃじゃーん、という効果音つきでそれを頭上に掲げた。
紫の秘密が書かれた本 を手に入れた!
「……ふむふむ。どれどれ」
「あらまぁ~」
「くっくっく……なぁるほど。あいつ、こんな秘密を持っていたのね」
「ひどいわぁ。私には教えてくれないなんて」
くっくっく。
くすくすくす。
その本のページを繰っていくと、自然と笑みが漏れる。徹底的に邪悪な、悪魔の微笑みが。
「パチュリー様ー、お茶をお持ち……」
その笑みの邪悪さは。
お茶を持って現れた、本物の悪魔である小悪魔が、主人の無事など考えずに全力逃亡したことから察するべし。
そして、霊夢達の旅路も終着点を迎える。
「さあ、来たわよ」
「ええ、来たわねぇ」
彼女たちの目の前には、今回の騒動(?)の黒幕、八雲紫が住まうマヨヒガ。ちなみに本日、その式とその式の式はお出かけ中であるということはすでに確認済み。つまり、あそこには、にっくき仇敵しかいないということになる。
二人は顔を見合わせ、うなずいた。
――行くわよ。
――ええ、いつなりとも。
「紫ぃーっ!」
入り口部分を蹴りで破壊し、室内に入るなり、叫ぶ。
当然のことだが、玄関口にまで、あのぐーたらスキマ妖怪が他人を出迎えに出てくるなどあり得ない。だから、ずかずかと室内に踏み入って、適当な部屋のふすまをがらっと開けてみた。
「あ、霊夢ー」
ビンゴ。
囲炉裏にくつくつといい音を立てて煮込まれている鍋が置かれ、その片隅には熱燗の一升瓶が一本。そして、その酒と鍋を同時に味わって、にこにこ笑顔の萃香。当然、その対面には、
「ふふふ……どうやら、気づかれてしまったようね」
「やかましい!」
「そうよぉ。紫ぃ!」
「……何で幽々子が?」
「理由はわかんないけどついてきたのよ」
そうよ、と胸を張る幽々子。自分で『理由がわからない』を肯定してしまってどうするんだ、とツッコミを入れたかったが、霊夢は、『まぁ、幽々子だから』という理由でそのツッコミを封印した。
「よくも、この私をからかってくれたわね!」
「別にからかっていたわけじゃないわ。ただ、端から見ていてにやにやしていただけじゃない」
「それを『からかってる』っていうのよ!」
「まあまあ~。霊夢も、お酒、飲まない~?」
「あとでもらう!」
杯向けてくる萃香に『いらない』ではなく、ちゃんと請求する辺り、さすがは赤貧巫女である。
「第一、何でこんな事しでかそうと考えたのよ! 紫だから、っていう理由で納得はしてあげるけど!」
「……しないでよ」
こいつなら何をしようとも、何でもあり。
それが、霊夢の中にある紫の認識である。というか、その程度の相手と言うことだ。このスキマ妖怪は。
しかし、紫は気を取り直すと、「ふっふっふ」と悪役笑いをしつつ、ばさぁっ、とマントを翻した(ような仕草をした)。
「簡単よ! 退屈だったから!」
「うわぁ。」
さすがに声に出た。
「幸い~、霊夢って~、とりあえず食料かお金があれば~、何だってやってくれるし~」
「何でいちいち語尾を伸ばして上げるのかしらぁ?」
「くっそむかつく」
「と、いうわけでぇ~。楽しかったから、あんた達、帰っていいわよ」
「えー? あたしとお酒飲むんじゃないのー?」
一人、我関せずでお酒を楽しんでいた萃香が不平の声を上げる。だが、紫はそれに取り合わず、よいしょ、とその場に腰を下ろして、しっしっ、と言わんばかりに手を振る。こちらなど、もう見ることすらない。
「……ふっ、まあいいわ。
あんたがそう言う態度に出てくるなら、こちらとしても、手段があるのよ」
「あら、どんな手段かしら? 言っておくけれど、この私を相手に、楽に勝てると思わない事よ? たとえ、そちらが二人がかりでもね」
「甘いわねぇ、紫ぃ」
「どういうことよ」
「ふふっ。
紫、あんたがどこまで私をのぞき見していたかはわからないけれど、肝心なところを見てなかったようね!」
コマンド
話す スペル →アイテム しらべる
→紫の秘密の日記帳
どうしますか?
→使う
捨てる
「なっ……!!」
霊夢が懐から取り出した一冊の本。それを見て、紫の顔色が変わる。
「さあ、幽々子!」
「はぁい。かもぉん、新聞屋さぁん!」
コマンド
話す スペル →アイテム しらべる
→文召喚の笛
どうしますか?
→使う
捨てる
響き渡る、よくわからない音色。
それが遠く澄み渡って消える頃、どこからか『きーん!』という音が聞こえてきて、直後、マヨヒガの壁がソニックブームで粉砕された。どっごーん、という壮絶な音と共に粉塵が巻き起こり、それが現れる。
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん! 幻想郷一、確かな情報を手軽にお手元にお届けする、幻想郷の皆さんのお供! 文々。新聞の記者にして編集長、射命丸文、ただいま参上……って……あら? 霊夢さん?」
何やらかっこよく、カメラとペンを構えて現れた彼女は室内のメンツを見て首をかしげた。
「ぐ……うぅ……早くどけぇ~……」
「ああっ、すいません!」
壁を吹っ飛ばした瞬間、それに巻き込まれた紫を、あまつさえ足で思いっきり踏みつけていた文は、大慌てでそこから飛び退いた。
「な、何事……?」
とっさに熱燗と鍋を死守していた萃香が顔を引きつらせる。
そんな状況の中、ふっふっふ、と霊夢が笑う。
「さあ、文ちゃん。私たちがこれから言うことを、一言一句、書き留めて、明日の新聞の一面に見出しつきで掲載するのよ!」
「……ちゃんって……。まぁ、いいですけど……」
ぶつぶつつぶやきつつも、ちゃんとペンとメモ帳を構えるのは記者として合格である。
紫が、顔を真っ青にした。
だが、霊夢と幽々子は、にやりと笑い、その本をぱらららっ、とめくって、おもむろに読み上げる。
「『○月×日
今日も、幻想郷はとても平和。あまりにも平和すぎて退屈だったので、ちょっとトラブルを起こしてみたら、ちょっとどころじゃないトラブルになってしまった。てへっ、ゆかりん、大失敗☆』」
「んなっ……!」
「『×月○日
今日は、博麗神社に遊びに行った。そしたら、偶然、博麗の巫女に遭遇。ああ、いつ見てもかわいいわ。艶やかな黒髪、ふっくらとした顔立ち、そして、扇情的な体つき。彼女を(ぴー)して(ぴぴー)して(ぴぴぴー)してみたいわぁ。
とりあえず、今日はその未来を思い描きつつ、(ぴー)で終了』」
「ひっ……!?」
「『□月△日
今日、藍という狐を拾った。や~ん、この子、かわい~。ゆかりんの好み~。
なので、久方ぶりに式神を持つことにした。あん、もう、この子ってば反抗期♪ でも、いいわ。これからじっくりと、ゆかりん色に染め上げちゃうんだから♪ うふふふ』」
「そっ……!」
「『△月□日
早速、拾った藍を私の色に染め上げることにする。
あの子はとてもかわいいから、ちょっとかわいがってあげたらやみつきになったらしく、何度も何度も(ぴー)されてしまって、ちょっと疲れちゃったかも。でも、いいわね、これは。ああ、もう、私の(ぴー)が(ぴぴー)で(ぴー)になってしまいそう。
長く生きていると、こういうチャンスに事欠かないから素敵すぎる。びば、妖怪人生』」
「あああっ……!」
「『○月□日
ああ……博麗の巫女さま……。私は……紫は、もう我慢できません。日々を藍でごまかしてきたものの、積み重なった想いは、もはや、私の体を突き動かしてしまいます。あなたを思うと心が高ぶり、体がうずき、耐えられそうにないのです。
どうか、どうか、私の方を振り向いて下さい。枕を涙でぬらす日々は、もういやなのです。ああ、お慕いしておりますぅ』」
「なっ、なっ、なっ……!」
ぱたん、と。
日記が閉じられたその時の雰囲気をどのように説明したらいいものか。
紫は顔を真っ赤にして、ぱくぱくと口を動かし、文は猛烈な速度でがりがりとペンを動かし、萃香はジト目を紫へと向けて。
そして、霊夢と幽々子は勝ち誇った笑みを浮かべていた。
「さて、と」
ぱたん、と。
文がメモ帳を閉じてペンを胸元にしまい、ちゃっ、と片手を上げた。
「じゃ、私、明日の朝刊の編集に入りますね」
「ああっ! ちょっと! ちょっと待ってぇっ! それだけはっ! それだけはやめてお願いぃぃぃぃぃっ!」
「新聞は真実を伝えるものです。だから、私は、幻想郷に隠された真実を伝えなければいけません。明日の朝刊は、これまでで最高の部数を売り上げることが出来そうです」
「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「頑張ってねー」
「マージンちょうだいねぇ~」
「はーい。霊夢さん、幽々子さん、感謝しまーす!」
「きゃーっ!」
幻想郷トップクラスのスピードを誇ると自称しているのは伊達ではなく、文の姿はあっという間に空の彼方に消えていった。色は赤くないが、まさに普通の人の三倍の速度で動いていると言っても過言ではないだろう。
「わ、私の……私の威厳が……」
「最初からないよ、そんなもの」
ぼそりと、横から萃香がツッコミを入れる。その時点で、彼女の視線はしらけまくっていた。
「あんたもバカよねぇ」
「そうよねぇ。こぉんな大切なもの、どうしてちゃんと保管しておかないのかしらぁ」
「さーて、と。
んじゃ、幽々子。お鍋にしましょうか」
「そうねぇ」
「うっ……ううっ……うぇぇぇぇぇぇぇん! 藍ーっ!」
泣きながら隙間の中に逃げ込んでいく紫。
二人はそんな彼女を見送って、ぱん、と高く掌を打ち合わせた。
「ねぇ、幽々子」
「なぁに?」
「あんた、紫に何の恨み持ってたの?」
「ああ~。
あのねぇ、紫がね、以前ね、『くれる』って言っていた、おいしいおまんじゅうをくれなかったことがあったのよぉ」
「……」
「食い物の恨みは恐ろしいね」
全くだ、と。
霊夢は深く深くうなずいたのだった。
八雲紫 を倒した!
鍋 を手に入れた!
お酒 を手に入れた!
そして、文の宣言通り、翌日の『文々。新聞』は史上最高の発行部数を記録し、紫の恥部が幻想郷の皆様方に知れ渡ることになった。
それに尽力した一人の巫女と一人の亡霊の事は、記録には残らず、永遠の謎となった。
誰が、この秘密を暴いたのか。
その、真実の探求者達は、今日も日がな一日、境内を掃除してお茶で空腹をごまかし、従者と一緒に幻想郷グルメの道を究めんと、いつもの日々を送るのだった。
博麗霊夢:主役。外道。貧乏人
霧雨魔理沙:被害者1
紅美鈴:被害者ボーダーライン
十六夜咲夜:エキストラ
魂魄妖夢:苦労人
西行寺幽々子:大食い亡霊。ツッコミ役
パチュリー・ノーレッジ:被害者2
射命丸文:被害者3。デバガメ
伊吹萃香:のんべ
八雲紫:仕掛け人。黒幕
以上、役回りを理解したところでお楽しみ下さい。
ここの名前は、幻想郷。
そしてここは、そのどこにあるともしれない――実際は、とってもよく知られているのだが――博麗神社。
そこに一人の、巫女がいる。
「……お腹が空いた」
ぽつりとつぶやく彼女の名前は、博麗霊夢。
地獄の赤貧帝王とも、清貧の人生転落真っ最中巫女とも言われる、この幻想郷で右に出るものがいないと言われている貧乏人である。そんな彼女は、ここ三日ほど、食事をまともに口にした覚えがなかった。きゅ~、と悲しく切なげに鳴くお腹を押さえつつ、
「……はぁ」
ため息をついたりする。
とりあえず、少しでも、お腹の足しになればと思い、立ち上がった彼女は、神社の中を横断してお茶を淹れるためにキッチンに向かおうとした。
だが、しかし。
「大変よ。霊夢」
いきなり現れるスキマ妖怪。
その唐突な現れ方に、彼女は問答無用でその妖怪を見つめて、さりげなく言い放つ。
「お帰りはあちら」
「……出てきたばっかりで 帰れと?」
「うん」
開きっぱなしの隙間を指さし、無敵の笑顔を浮かべる霊夢に、スキマ妖怪――八雲紫は顔を引きつらせる。しかし、ぶるぶると、首を左右に振って、
「実はね……よく聞いて」
「やだ」
「聞いてくれたら 藍の特製おいなりさんを進呈」
「一体どうしたの!? 紫!」
「……相変わらずわかりやすいわね」
頬に汗を一筋、つつっと流しつつ、紫。しかし、今の、餓えた巫女にはそんなもの関係ない。『さあ、話を聞いてやるからおいなりさんよこせ』とその目が語っている。とりあえず、この状態を放置していたら、いきなり夢想封印が飛んできそうな気がしたので、紫は隙間からおいなりさんを取り出し、霊夢に渡して、
「……実はね 霊夢」
「はいはい」
はぐはぐ、と効果音つきでそれをむさぼる巫女。もはやその姿に、女の子、としてカテゴリされる姿はないのだが、ともあれ。
「……萃香がさらわれたのよ」
「あっそ」
「いや……あっそ じゃなくて」
「どうせ あの脳天気鬼娘のことだから お酒がたくさん置かれた酒蔵に忍び込んで そのままお酒の樽の中にはまって出られなくなってるんじゃない?」
何ともあり得そうな可能性である。
しかし、それをここで肯定しては話が進まない。紫は、それはこっちに置いといて、とジェスチャーで示してから、
「あなたに 助けに行って欲しいのよ」
「何で私が」
「それはね 霊夢」
ぽん、と霊夢の肩に置かれる両手。
「あなたが この幻想郷の申し子! 博麗の巫女であり 東方シリーズの主人公だからよ!」
「……」
ぴくっ、と霊夢の耳が動いたのを、紫は見逃さなかった。ここぞとばかりにたたみかける。
「過去 全てにおいてあらゆる難事件を片づけ 多くの人々に 知られてはいなくとも 人間のために戦い続けてきたあなたこそ まさに勇者! まさに主人公! あなたほどの力と あなたほどの心がなければ 萃香を助け出すことは出来ないの!」
「……そ そうなのぉ。それじゃ 仕方ないわねぇ」
「ええ 頑張ってきてね!
とりあえず 萃香の行方について知っていると思われるのは この人物よ」
霊夢は 情報 を手に入れた!
情報:写真×1
「……何 今の妙な神の声」
「気にしちゃダメよ」
「ついでに聞いておきたいんだけど 何でいちいち半角スペースが空いてるの?」
「ルールなのよ」
「戻せ 鬱陶しい」
ごめんなさい。
「……それで? この写真の人物って……あのデバガメ烏じゃない」
その写真は、なぜか、その烏こと幻想郷のゴシップ捏造器、射命丸文本人の、色々な意味で全開写真だった。どうやら、彼女の真下から盗撮したらしい。まぁ、あの烏のやっていることも、たまにこれっぽいことが混ざっているため、気にしてはいけないだろう。
「彼女こそ、萃香の行方を知る、重要な人物よ」
「……まぁ、鬼と天狗は仲がいいらしいし。わからないでもないけど」
「このアイテムは重要なアイテムだから、アイテム欄の、『重要アイテム』のところに入るからね。捨てられないから」
「……アイテム欄?」
「こういうの」
霊夢 所持アイテム 重要アイテム
E祓え串 文のぱんちら写真
E改造巫女服
Eリボン
陰陽玉
陰陽玉
「……」
「ほらね?」
「Eってなに」
「装備品」
「……」
とりあえず、何かを諦めた方がいいと彼女は判断したらしい。はぁ、とため息をついた後、
「……まぁ、わかったわ」
「さあ、旅立つのよ! 勇者にして主人公巫女、霊夢よ!」
何だかよくわからない宣言と共にあさっての方向を指さしつつ、紫。そして、どこからか、荘厳なBGMが流れ出す。視線を彼方に向ければ、「さあ、私たちの出番よ!」とやる気満々のポルターガイスト姉妹たち。
「えーっと……」
「旅立ちには、こういう素晴らしいスタートはお約束よ。
名付けて、『レイムクエスト 幻想郷と共に生きるもの』!」
「……クエストって……何」
とりあえず、霊夢(勇者)は旅だった。
しかし、行き先がわからない。というか、あの烏天狗を捕まえる事なんて並大抵の努力ですむことではない。彼女の行動のフィールドは幻想郷全てである以上、手がかりなどないに等しいのだ。いきなり難題である。たとえるなら、レベル1なのにイベントバトルじゃないボス戦闘を勝利しろ、というくらいに。
「うーん……。どうしたものかしら」
コマンド
話す スペル アイテム しらべる
「……この四つから選べと?」
顔を引きつらせる霊夢。
とりあえず、手に持った『コマンド表』なるものを見つめつつ、これ、と指を指す。
コマンド
話す スペル アイテム →しらべる
「そうよね。写真に、何かの手がかりがあってもおかしくないわよね」
あのスキマ妖怪のことだ。実はちゃっかり、手がかりみたいなものを残しておいてくれているかもしれない。一応、多少は信用がおける相手なのだし。
そう思って、改めて写真を見る。
しかし、相変わらず、壮絶なくらいのベストアングルからの撮影である。どうやって撮影したのだろうか。そっちの方が萃香の行方より気になったが、ともあれ、それをじーっと見つめて、
「……食い込み角度がすごいわね」
その一言をつぶやいた瞬間。
「み、見つけたーーーーーっ!」
絶叫と共に、疾風が駆け抜けた。
何事かと目をやれば、顔を真っ赤にして、ぜはー、ぜはー、と肩を上下させているくだんの人物の姿。
「あら、ごきげんよう」
「ご、ごきげんよう、とかじゃなくて! そ、その写真っ! お願いですから返して下さい!」
「いや、返して、っていわれても。そもそも、紫からもらったものだし」
「ええいっ! あの時、気配を感じたと思ったら! この私ですら欺く不意の付き方、まずは見事!」
怒ってるのかほめてるのかよくわからない言葉を叫んだ後、
「お願いですから返して下さいよぅ……。そんな下着を着けてるなんてことがわかったら、私の周囲への評判というものが……」
色んな意味で、この天狗の評判というものは地に落ちていると思うのだが。
しかし、このとき、霊夢の頭にはいい考えが浮かんだらしい。にやりと、彼女に悟られないように笑う。
コマンド
話す スペル アイテム しらべる →ゆすって脅す
「うーん。そう言われてもねぇ?」
「お、お願いです! 何でもしますから! 私の新聞、向こう三年くらい無料で差し上げますから!」
「いやいらないし」
即答。
「そうねぇ。
何でも、する?」
「は、はい! 何でもします! ええ、そりゃもう! 誰かのスキャンダルを収めてこいというのならいくらでも! 霊夢さんの、素晴らしい活躍劇を捏造しろと言われても、ジャーナリズムを心がけている私のポリシーに反しますが、背に腹は代えられないのでやっちゃいましょう!」
相当、追いつめられているようである。
というか、確かに盗撮写真は撮影する側が悪いのだが、空を飛んでいるというのにスカート姿という彼女にもある程度の落ち度は認められるべきではないだろうか。それを指摘してやりたかったが、必死になって訴えてくる文の姿を見ていると、そんなことは言えなかった。理由は簡単、言うとつまらないからである。
「じゃあ、ね。文ちゃん」
「ち、ちゃんって……」
「何。何か文句あるの?
あ、そう。それなら、この写真を『博麗新聞』に大々的に掲載して世間様に公表……」
「わーっ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! ちゃんでいいです、ちゃんでいいですぅっ!」
「よろしい」
ふっふっふ、と笑いつつ、
「実はね、文ちゃん。私ね、ちょっと欲しいものがあるの」
「……欲しいもの、ですか?」
何でしょう? と問いかけてくる。
それはね、とにっこり笑いながら、
「お・さ・い・せ・ん」
「………………」
「新聞の売り上げ、あるのよね? それをぜーんぶ、あるだけくれないかなぁ?」
「えぇぇぇぇぇぇっ!? あ、あの、それだけは……せ、せめて、半分くらいで……。全部取り上げられちゃったら、私の生活がぁ……」
「じゃ、ばらまき決定」
「きゃーっ! わかりましたー!」
最初から素直にそう言えばいいのよ、と腕組みして傲然と彼女を見下しつつ、霊夢は唇の端をつり上げる。文は泣きながら、服のポケットを探って、その中に入っていたお金を取り出し、霊夢の手に渡していく。その額は、まぁ、それなり。博麗神社のお賽銭箱に収められる浄財の額と比べると、向こう数年分の資金にはなった。……比べてみて、どうしようもないくらいにむなしくなったが。
「よろしい」
「……はぁ。あの、それじゃ……写真……」
「その前にさ。
何か、紫が、萃香がいなくなった、って言っていたんだけど。あなた、知らない?」
「萃香……。ああ、彼女ですか? 彼女でしたら、白玉楼の方に『お酒~』ってふわふわ飛んでいくのを見ましたよ。多分、あっちの方にある酒蔵の匂いに引かれたんじゃないかな」
「……ごきぶりほいほいか」
さすがにツッコミを入れずにはいられなかった。
ともあれ、約束は約束である。霊夢は手にしていた写真を文の手に渡して、
「はいよ」
にっこりと、優しい微笑みを浮かべる。その微笑みこそ、まさに、貧しい者達を、苦しむ人々を救う巫女の微笑み。その笑みに、『ありがとうございます、ありがとうございます』と何度も何度も文が頭を下げてきびすを返す。
だが、そんな彼女に、霊夢は一言。
「こんなすごい下着つけて、誰を誘うの?」
ぼふっ、という妙な音を立てて、へろへろと文は落下していった。あまりの恥ずかしさに意識を飛ばしたのだろう。お手軽な現実逃避方法だ。
「さあ、目指せ、白玉楼!」
文をノックアウトした霊夢は、一路、白玉楼を目指す。
――のだが。
「……お腹空いたぁ」
空を飛びながら、そんなことをつぶやいた。
いい加減、お腹の減り具合も限界なのだ。水やお茶でしのいできたとはいえ、何かカロリーになるものを摂取しなければ、ふとしたことで墜落死、という可能性もないことはない。
霊夢
HP10/1000 MP∞ 状態:空腹
と、このようにパラメータも示していることであるし。
「ん~……」
空の上から視線を巡らせる。
視界に映るのは、緑色の空間。白玉楼を目指しているはずだったのだが、お腹の減り具合が限界に達しているため、方向感覚も失っているようだった。彼女がいるのは、魔法の森上空。白玉楼とは、反対方向とは言わないが、かなり方向がずれていた。
――魔法の森、か。
「よし」
彼女は、ふわふわふよふよと頼りなく飛んでいく。
ああ、お腹空いた、とぶつぶつつぶやきながらやってきたのは、一軒の家の前。
「まーりーさー」
どんどん、とドアをノックして声を上げる。
返事はなし。
「入るわよー」
がちゃっ。
ドアが開く。鍵をかけてないなんて不用心ね、とつぶやきながら家の中へ。
霊夢の一番の友人であり、一番のライバルでもある魔法使い、霧雨魔理沙の家の中は、相変わらずのカオスぶりだった。あちこちに転がった書物やらマジックアイテムやらで足の踏み場もない。それに、何とも言えない、すえたような臭いも漂っていた。あんまり見たくはないのだが、そっと、積み重なったものを持ち上げてその下を見ると、かびが生えている。魔法の森は湿気が高いため、掃除をしなければこうなるのは当たり前のことだ。
彼女の蒐集癖にも困ったものだ、とため息。誰かがここの掃除をしてくれるようになればいいのだが、あいにく、魔理沙には、未だにその手の相手がいないと来た。いや、いないということはないのだが、そこまで親しくはない、ということなのだが。
「魔理沙ー、どこー。お腹が空いたからご飯おごってよー」
コマンド
話す スペル アイテム しらべる →たかる
「ねー、まーりーさー」
室内を歩き回り、声を上げるのだが、魔理沙の姿はどこにもなかった。
一体どこに行ったのかしら、と思いながら首をかしげる。もしかして、留守かな? それなら、とりあえず、適当に食料庫をあさって、そこにある、食べられそうなものでも強奪していくかと思いながら、足を進めて――。
「……ん?」
何やら、声。
誰の声だろうと耳を澄ませば、この家の主の声に違いなかった。何だ、いるんじゃない。全く、魔理沙も意地が悪い。せっかく、この私が訪ねてきたのだから、笑顔で出迎えつつ、何でもいいから食事をフルコースでおごってくれてもいいじゃない、と。
ある意味、本当に魔理沙のライバルとしてふさわしい思考を浮かべながら足を進める。そして、
「魔理沙ー」
いるんでしょー? と訊ねながら、がちゃっ、とドアを開いて――、
「…………………………」
「…………………………」
両者、共に沈黙した。
光速を越えた速さで霊夢はばたんとそのドアを閉める。
「……すごいもの見ちゃった」
霊夢は すごいもの を手に入れた!
どたばたというものすごい音が響いた後、次の瞬間、ドアが消し飛んだ。だが、それも霊夢は予測済み。その一撃が放たれるより早く、ドアの前からは飛び退いている。木製のドアをあっさりと粉みじんに吹き飛ばした魔法の光が消える頃、粉塵の向こうから魔理沙が現れる。
「れぇぇぇぇぇいぃぃぃぃむぅぅぅぅぅ!」
顔を真っ赤にして、全力で怒っていた。
……いや、あれは怒りなのだろうか。どっちかっていうと恥ずかしさの方が際だっているような感じもする。それに、ほら。それを証明するように、ちょっぴり着衣が乱れてる。
「お前ぇぇぇぇぇ! ドアくらいノックしろぉぉぉぉぉっ!」
「何言ってるのよ。来たわよー、って宣言したじゃない!」
「聞こえてないっ!」
「聞こえないくらい没頭してる方が悪い!」
「わ、悪いか!? 私だって、女だ! その……い、一ヶ月に一度くらいは、どうしようもない時はあるんだ!」
「だからって、真っ昼間っから(自主規制)してる方が悪いんでしょうが!」
「やかましい! 何の用だ!」
「お腹が空いたから、ご飯を食べさせにもらいに来たのよ!」
「じょぉぉぉぉぉだんじゃないぜっ! お前に食わせてやる飯なんて、米粒一つもうちにはないぜっ! さあ、とっとと帰れ! ついでにここで見たこと全てを口外しないと確約させてやるっ!」
「ふっ……この私、博麗の巫女を甘く見ない事ね!」
ぎらりと霊夢の目が輝きを帯びる。
その鋭さに、魔理沙は一歩、後ずさった。しかし、相手を前にして後退することなど、己のプライドが許さないのか、引いた足を前に戻す。
「じっ、上等だ! 今、うちの食料庫には、念願かなって手に入れた、特上の牛の霜降り肉もあるんだ! 絶対にお前になんてやらないからな!」
選択肢
頼む! 譲ってくれ!
そう、関係ないね
→殺してでも奪い取る
「うっふっふ。い・い・こ・と、聞いちゃったぁ~!」
「しまっ……!」
世の中、藪をつついて蛇を出す、という言葉もありました。
霧雨魔理沙が現れた!
どうする?
たたかう
にげる
→スペル →夢想封印×10
防御
アイテム
「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇっ!」
「おーっほっほっほ! 牛肉ぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
「うわーっ、何をする霊夢ーっ! ちょっと、それはしゃれになんな……ぎゃあぁぁぁぁぁっ!」
霧雨魔理沙を倒した!
念願の 牛の霜降り肉 を手に入れたぞ!
魔理沙の(ぴー!)を手に入れた!
「う……うう……。霊夢……お前……キャンセルスペカは萃夢想限定だぜ……」
「何の話をしてるのやら」
それじゃ、ご飯、おごってね♪
ツッコミどころのない、隙のない笑顔に、魔理沙は「ちくしょ~……」と涙したのだった。
「さぁて。お腹も一杯になったことだし」
「ああ……私の……私の牛肉……」
魔理沙が『念願かなって』と前置きを置いただけあり、その牛肉の味は、霊夢が普段食べている貧相な、薄っぺらい、向こう側が透けて見えそうな肉とは格段に違った。かめばかむほど、味が出てジューシーで、思わず「うまいぞー!!」と叫びながら陰陽鬼神玉ぶっ放しそうになったほどだ。その他にも、あるだけの料理を提供させて、ようやくご満悦。実に三日ぶりのお食事は、とてもおいしゅうございました。
「んじゃ、魔理沙。ご飯はおいしかったわ。あなた、いいお嫁さんになれるわよ」
「うるさい、帰れ帰れ!」
塩を持ち出してきて、それをぱっぱと霊夢にぶつけてくる。
全く、なんて無礼な奴だろう。私は巫女よ。そこらを漂う白玉楼の大食い亡霊じゃないのよ。
じろりと魔理沙を睨みつけて、ふふふ、と笑う。
「な、何だ」
一歩、足を引く魔理沙。
そんな彼女に、にんまりと、霊夢は笑顔で笑いかけ、
「これからも、ちょくちょく、ご飯、おごってもらいに来ていい?」
「な、何言ってるんだ! そんなこと……!」
コマンド
話す スペル →アイテム しらべる
→魔理沙の声真似
どうする?
→使う
捨てる
「ああ~ん(ぴー!)、私、あなたが(ぴぴー!)で(ぴー!)なのぉ! お願い、(ぴー!)私の(ぴー!)を(ぴー!)で(ぴぴぴー!)ぇ!」
「なっ、なななななななっ!」
「ふっふっふ。これぞ博麗奥義、音声模倣!」
「……」
「これを使って、魔理沙のあんな事やこんな事を暴露されたくなかったら! さあ、私のためにご飯を作りなさい!」
「う……うう……」
じりっ、じりっ。
両者の距離が詰まっていく。椅子から立ち上がった霊夢が魔理沙に詰め寄り、魔理沙は顔面蒼白にして後ろに下がり、徐々に、徐々に、後ろへ、後ろへ。
どすん、と魔理沙の背中が部屋の壁に当たった。
逃げられない!
「さぁぁぁぁぁぁ!」
「うっ……!」
ずいっ、と詰め寄った霊夢に。
「うわぁぁぁぁぁぁん! アリスぅ~! 霊夢がいじめるぅぅぅぅぅ!」
何か、妙に『キャラじゃない』声音でそんなことを叫びながら、魔理沙は壁を蹴り破って、泣きながら駆けだしていってしまった。
その後ろ姿を見送ってから、「ご飯はおいしかったわよ~」と、とどめの一言。
「さぁて、それじゃ、腹ごしらえも終わったことだし。行きますか」
かつて、これほど、悪逆非道の限りを尽くした巫女がいただろうか。幻想郷に生まれ落ちた、まさに、邪悪な、人畜無害を装った夜叉が。
霊夢は満足そうにお腹をさすりながら、ひょいと外へと足を踏み出し、空の上へと飛び上がる。
「さあ、目指すは白玉楼よ!」
その視界の片隅に、泣きながらアリスの家に向かって飛んでいく魔法使いが見えたような気がするが、霊夢はそれを見なかったことにしたのだった。
お腹が一杯になれば、動きもよくなる。
つい先ほどまでの、墜落死一歩手前の飛び方とは打って変わって、彼女は軽快に空を飛び、白玉楼に繋がる結界を超える。
相変わらずの冥界ぶりに、何とも言えない感想を口にしようとして――とりあえず、めんどくさいからそれは自分の心の中にひっそりとしまっておくことにする。
そうして空を飛び続けることしばし。
「あ、見えてきた見えてきた」
視界の遙か彼方を埋め尽くす、広大な屋敷。そここそが、目指す地――西行寺の亡霊お姫様が住んでいる世界である。目的地が見えてくれば、後は早いもの。飛ぶ速度を上げて、あっという間に屋敷の庭に舞い降りる。
相変わらず、見事に整えられた庭の風景に感嘆のため息を漏らしながら、
「ゆーゆーこー。ちょっと用事があるんだけどー」
声を上げて、しばし待つ。
「はーい。どなたですか……って……あっ! 霊夢さん!」
「あ、妖夢。おひさ」
「はい、お久しぶりです」
ここ、白玉楼で庭師として働いている少女が現れ、霊夢に向かって頭を下げた。相変わらず、礼儀正しくてまじめな奴ね、と思いながら、霊夢が言葉を続ける。
「ねぇ、妖夢。幽々子はいないの?」
「あ、そうなんです! 霊夢さん、幽々子様、知りませんか?」
「え? いないの?」
「ええ。実は、朝から」
彼女は、少しだけ、困ったようにため息をつきながら、
「……朝方、私が出した朝食が気に入らなかったのでしょうか」
「何を出したの?」
「白いご飯と納豆と、焼き魚。おみそ汁にお新香に、ほうれん草の和え物です」
「……おいしそうじゃない」
頭の中にリアルに浮かぶ、その光景。
うむ、見事。
まさに、これぞ、和の心。今時の、和を忘れた者達に見せつけてやりたいくらいに、これ以上ないほどの『朝ご飯』。あ、いかんいかん。ついさっき、ご飯を食べたばかりだというのにお腹が減ってきた。
ぶるぶると、霊夢は首を左右に振ると、
「別段、あいつが気に入らなそうなもの、ないけどね」
西行寺幽々子。
その正体は、ここ、冥界のお姫様。だが、その実体は、幻想郷において右に出るものなどいないと誰にも言わしめるほどの食欲魔人。奴の胃袋は無限だ。奴にものを食わせるな。全てを食い尽くされるぞ、というのが『幻想郷標語集』(編纂:上白沢慧音)にも書かれているほどなのだ。
その彼女に好き嫌いがあるとは思えない。というか、食べ物なら来るもの拒まず、という感じがする。これ以上ないくらい。
「ええ、そのはずなんですけど……。
『妖夢ぅ、何よ、このご飯はぁ』って、いたくご機嫌斜めでして……」
「ふぅん……」
だからって、出て行く……というか、行方をくらましてしまうだろうか。その程度のことで。
――と、考えてみて、『いや、あいつならやりうるか』と考えを変える。食に関しては、その道を極めつつある幽々子だ。当然、そこにかけられる情熱や、もっと簡単に言い換えて『魂』は普通の人間にはわからないくらいに深くて激しいものなのだろう。だから、自分が気に入らないご飯を、自分を最もよく理解してくれている人が出してきたら、へそを曲げて当然かもしれない。
しかし。
そんなことを理解しても、こちらにはプラスになるものは何一つない。というか、マイナスばかりだ。
「あの……恐縮なんですけど。
霊夢さん。幽々子様を捜すの、手伝って頂けませんか?」
選択肢
はい
→いいえ
「……あの、霊夢さん。幽々子様にご用事があるんですよね? お手伝いを……」
選択肢
はい
→いいえ
「その……別に、強制しているわけではないんですけど。手伝ってくれたら嬉しいんですけど……」
選択肢
はい
→いいえ
「……私一人で白玉楼を探すのは大変ですし、もしかしたら、現世の方に行っているかもしれなくて……」
選択肢
はい
→いいえ
「……あの。話を聞く気はありますか?」
選択肢
はい
→いいえ
「……もういいです」
だー、と涙を流しながら、妖夢。
「じゃ、頑張ってねー。見つかるまでお世話になるから」
「えぇっ!? 手伝ってくれないのにですか!?」
「当然よ。
あ、お茶とお菓子、よろしくね」
「そんなぁ~……」
さっさと、霊夢は屋敷に上がり込んでいく。その彼女の後ろ姿に、文句の一つも言ってやろうとしてはいるようだが、その勢いが、今の妖夢には足りないようだった。がっくりと肩を落とすと、言われたように、霊夢にお茶を出すべく、一度、屋敷の中へと戻っていく。
「あんたの淹れたお茶はおいしいからね~」
「……ありがとうございます」
肩越しにじろりと睨み、妖夢。
いい人だって思ってたのに。
ぶつくさ文句をつぶやきながら、応接間としても使っている居間の障子をすっと開ける。
「あら、お帰りぃ。妖夢ぅ」
「ゆっ、幽々子様!?」
「どこへ行ってたのよぉ。もぉう。お腹が空いちゃったわぁ」
「あれ? 幽々子、いるんじゃない」
「あらぁ、霊夢じゃないのぉ。久しぶりねぇ」
「えっ!? ええっ!? 何でいるんですか、幽々子様!」
「なぁによぉ。私がいたらダメなのかしらぁ?」
ぷっく~っとほっぺたをふくらませてにらんでくる。一応、怒ってはいるのだろう。しかし、そんな子供っぽい仕草で怒ってもらっても怖くない。というか、こんなんだからカリスマが足りないと言われるのだ、この人は。
そんな失礼なことを思い浮かべつつ、しかし、口に出すわけにもいかず、妖夢は霊夢と幽々子を交互に見て、どうしようと思案する。
「幽々子、あんた、どこかへ行ってしまったって妖夢が言っていたけれど?」
「そうよぉ」
「どうしてここにいるの?」
「だってぇ。
私が今日、食べたかったのはわかめのおみそ汁だったのに、妖夢ったらねぎとお豆腐のおみそ汁を出すんですものぉ。昨日、ちゃんと、寝る前に言ったのにぃ」
「……あれ。そうでしたっけ?」
「そうよぉ。もう、忘れん坊さんねぇ、妖夢ってばぁ」
ぷぅ~っとほっぺたをふくらましたまま、にらんでくる。やっぱり怖くない。それどころか、愛らしい。
……まぁ、それは置いておいて。
「……すいません」
「別にもういいわぁ」
「じゃあ、何で、ご機嫌斜めになって出て行ったのに戻ってきてるの?」
「お腹が空いたからよぉ」
……なるほど。
お子様の家出と同じ、というわけか。この幽々子にとっては、何よりも食欲が優先されるわけである。お腹が空いてしまえば、それまでのしがらみなど何もかもをかなぐり捨てて、それを満たすという目的が頭の中を埋め尽くしてしまうのだろう。だから、平然と、
「よーむー。お腹空いたー」
と、やっているわけである。
なお、ただいまの時刻、午後の十二時を少し回った頃。
「あ、は、はい。ただいま、昼食をお持ち致します。霊夢さんも、ご一緒にどうですか?」
「さっき、私は食べてきたから。お茶だけちょうだい」
「はい。ようかんも添えてお持ちします」
では、と妖夢は頭を下げ、ぱたぱたと足早にその場を去っていく。
「しかし、あの子は、ほんと真面目ねぇ」
「うふふ、そうでしょぉ。私の妖夢は、誰よりも素晴らしいのよぉ」
「はいはい。おのろけは結構」
それをぱたぱたと手で払いのけて、テーブルに着く。
そうして、おもむろに、霊夢は切り出した。
「あのさ、幽々子。悪いんだけど、萃香、どこにいるか知らない?」
「萃香ちゃんがぁ、どうかしたのぉ?」
「いやね。何か、紫がさ、あいつが行方不明になった、って」
「……あら?」
そこで、なぜか首をかしげる大食い亡霊。
「どしたの?」
「う~ん……萃香ちゃんって、あの萃香ちゃん……よねぇ?」
「それ以外に、どの萃香がいるのよ」
あいつは分裂するけど、と内心で付け加える。
「う~ん……。萃香ちゃんなら、昨日、うちの酒蔵に忍び込んでいたところを捕まえて、西行妖にくくりつけておいたんだけどぉ」
「……」
「今朝になって、紫が連れて行ったわよぉ?」
「………………………ほう」
その刹那。
確かに、屋敷の温度が急速に降下した。
目の前にいる少女は幽霊だからして、寒さ暑さなどとは無縁の存在であるが、その時、別室にて料理にいそしんでいた妖夢は、あまりの気温の低下に「まさか、あの時、春を集めすぎた祟りが!?」と震え上がるほどだった。
霊夢
HP1000/1000 MP∞ 状態:穏やかな心で激しい怒りに目覚めたスーパーレイムだ
「……で?」
「で、と言われても。それだけよぉ?」
「オーケー。了解。そりゃーもう徹底的に……」
くっくっく、と含み笑いが漏れる。徹底的に邪悪な。
つり上がった口の端など、もはや人間のものではない。悪鬼のごとき形相である。……いや、悪鬼と比べたら、まだあちらがかわいいだろうか。修羅か羅刹のごとし、と言った方が正しいかもしれない。
それはともあれ。
「……ねぇ、幽々子」
「何かしらぁ?」
「あのさぁ。ちょーっと、紫に会いに行くんだけどさぁ。
あいつの弱点って知らない?」
「あんまり派手にやりすぎるのはよくないわよぉ。でも、弱点は知らないわねぇ」
「?」
「っていうかぁ……あ、思い出したら腹が立ってきた……」
一体どうしたというのか。
いつものとろけた表情が徐々に硬化し、こめかみの辺りに、青筋が一つ、二つ、三つ、と増えていく。
「いいわぁ! わかった、協力するぅ!」
「……そ、そう? 何か知らないけど、やる気になってくれたのならありがたいわね」
「うふふふふぅ。てってぇ~てきにぃ、痛い目に遭わせてあげましょうねぇ!」
「……一体、何があったのよ。あんた」
思わず、一歩後ろに下がってしまうほど、その時の幽々子の顔と言ったら以下略。
幽々子 が仲間に加わった!
幽々子
HP20000/20000 MP∞ 状態:腹ぺこ天然
所持アイテム E着物
Eド○キ○スマークつき帽子
E死兆s……もとい、死蝶霊
「それで、どこに行くの?」
「えっとねぇ、紅魔館よ」
「……あそこに、何の因果が?」
「バカねぇ。あそこのヴワル図書館はぁ、幻想郷の歴史と知識の集積庫でしょぉ。あそこなら、紫の弱点の一つや二つぅ、眠ってるわよぉ!」
「……いや。あいつと一番付き合いが長いの、あんたじゃなかったっけ?」
「私はぁ、過去は振り返らない女なのぉ」
なるほど。
だから、妖夢が、『幽々子様も、少しは昔に懲りて下さい!』と怒るわけか、と思う。なお、幽々子のおつき従者である妖夢は、現在は白玉楼にてお掃除の真っ最中。『ついて行きましょうか?』との申し出に、別にいい、と断ったのだ。あの幽々子が、珍しく。なお、ご飯はしっかり平らげていたので、お腹が一杯になったから、後のことは妖夢任せでオッケーということなのだろうか。
まぁ、ともあれ、幽々子にやることにいちいち文句をつけたりツッコミをしたりしていたら、それこそ、幻想郷の歴史が終わってしまう。だから、気にしないことにして、前を行く彼女の後をついて行く。幽々子は幽々子らしく、ふんわりふわふわ飛んでいるため、非常に足が遅いのだが、やる気になっている彼女に花を持たせてやるのも友人としてのつとめだろう。
「あ、見えてきたわぁ」
「そうね」
広い広い湖の中央に佇む赤い館。
二人はその門の前へと降りていく。そして、当然ながら、紅魔館の門番を預かるもの、紅美鈴が二人の前に立ちはだかる。
「あの、何かご用でしょうか?」
「ご用よぉ」
「……いや、幽々子さんにそう言われてもものすごく説得力がないので。霊夢さん、お願いします」
「あんたの気持ち、よくわかる」
目の前の亡霊ほど、気まぐれと気の赴くままに行動する生き物(死んでるけど)はいないからだ。かくかくしかじかと事の顛末を、詳細に語って聞かせると、美鈴は小さくうなずきながら、
「……なるほど。それで、図書館を?」
「そういうことなの。よかったら通してくれないかな。通してくれたら、今ならもれなく、幻想郷の皆様に、美鈴さんの名前をお伝えして回るわ」
「……」
「というわけだからぁ、えーっとぉ……め……中国さん?」
「何で『め』まで出かかってて『中国』に逆戻りするんですか! っていうか、一文字も引っかかってないじゃないですか! 逆戻りどころか全力疾走よーいどんで突っ走って遙か彼方に置き忘れてきた感じですよそれ!」
ぜはー、ぜはー、と声を荒げてから、彼女は肩を上下させつつ、
「と、ともあれ。
その……そう言う訳のわからない報酬で動くわけにはいきません。それに、本日、図書館は立ち入り禁止です。お帰り下さい」
「ねぇ、お願いよ。美鈴さん。私と美鈴さんの仲じゃない」
「そうやって、上目遣いにこびても無駄です」
「……あっそ」
その一言に。
すぅっと、霊夢の顔から表情が抜け落ちた。
コマンド
話す スペル アイテム しらべる →脅す
「それじゃあ」
「……な、何ですか? 私は暴力には屈しませんよ! ええ、そりゃもう!」
「じゃあ、ギャストリドリーム十発くらいでよろしいかしらぁ?」
「え? いや、その、それはいくら何でも……」
「ふっふっふ」
甘いわね、幽々子、と。
霊夢は前に出て、美鈴にびしっと指を突きつけた。その迫力に、美鈴は、真剣でも喉元に突きつけられたかのような錯覚を受け、一歩、後ずさる。
「美鈴さん。そっちがそのつもりなら、こちらには奥の手があるわ!」
「な、何ですか? 言っておきますが……」
「今後一切、私はあなたのことを『美鈴』とは呼ばない!」
「なっ……!?」
ドッギャァァァァァァァン!! という書き文字が、美鈴の上に現れたような気がして、幽々子はちょっぴり顔を引きつらせた。
ふらふらとよろめいた美鈴が、その場にがっくりと膝を落とす。
「わ……私の……私の名前が……」
「ふっふっふ。いいのかしら? 幻想郷に数少ない、あなたの名前を呼んでくれる人が少なくなって!」
「うぅっ……!」
「何か根本的に間違っているような気がするんだけどぉ……」
「しゃらーっぷ!」
至極まともなツッコミを入れる幽々子に、びしっと祓え串突きつけつつ、霊夢。
「さあ、どうするの!? 紅美鈴!」
「ああっ、今、『くれないみすず』って言ったぁ!」
「さあ、さあ、さあ! どうするのかしら、中国!」
「うわぁぁぁぁぁん! 中国って言ったぁ!」
「おーっほっほっほ!
結末は二つ! 私たちを追い返し、永久に中国と呼ばれる地獄に苛まれるか、あえてここで私たちを通し、美鈴という名の栄光を掴むか!
勝敗は、貴様の手にゆだねられている! さあ、いえ! そして、選べ! お前の進む道がどちらであるのかを!」
「……だからぁ。何かが絶対に間違ってるってばぁ」
普段はツッコミを入れられる側のものがツッコミを入れなくてはいけないという状況がいかほどのものであるかは、推して知るべし。
詰め寄る霊夢。膝を落としたまま、動けない美鈴。
両者の、絶対の拮抗が破られるきっかけは、やはり、美鈴だった。
「……わかりましたぁ。どうぞお通りくださいぃ……」
「ありがと、美鈴さん」
「うう……試合に負けて勝負に勝ったと言うのでしょうか……」
「……逆だと思うわぁ」
「さあ、行くわよ、幽々子」
その場にうなだれたままの美鈴はほったらかしに門をくぐり、中庭を通り抜け、館への大扉を開く。そして、開くと同時に、目の前には見たことのある人間が立っていた。
「あら、あなた達」
紅魔館のメイド長、十六夜咲夜だ。片手にはティーカップの載ったトレイが一つ。誰かにお茶を渡して戻る途中だったらしい。
「何の用?」
「ちょっと、図書館にね」
「あら、そう。今日は、図書館は入室禁止よ。美鈴に言われなかった?」
「彼女ならぁ、あそこで膝を抱えて落ち込んでるわぁ」
「……何したのよ」
こめかみに汗を一筋流しつつ、咲夜。その視線は、門柱に寄りかかって「私の人生、これでいいのかな」と自問自答している美鈴に向けられる。それを遮るかのように、霊夢が視線の間に割って入り、びしっと指先で咲夜を指さした。
「さあ、図書館へ案内なさい!」
「……聞こえなかったのかしら。本日は、図書館は入館禁止です。お帰り下さい。――これでよろしい?」
「オー、ワターシ、ゲンソウキョウノコトバ、ワッカリーマセーン」
「あんた、今、普通にしゃべってたでしょが」
さすがは生来のツッコミ気質。霊夢のボケにもあっさりと、素で返してくる辺りは歴戦の強者である証である。
「それを永遠亭の人間が言うならまだしも。あなたでは、ネタにもならないわ」
「……ちっ」
「それで? どうして、珍しいコンビが雁首そろえて図書館に入りたいなんて言うのかしら。霊夢、あなたはともかく、そっちの亡霊は、図書館には永遠に無縁じゃない」
「それもそうねぇ」
あっさりと肯定する幽々子。自分が知識の探求者などという身分には、どう頑張ってもたどり着けないとわかっているのだろう。肯定したら肯定したで、何か色々なものを捨て去っているような気もするのだが。
「第一、何で図書館に入れないのよ」
「パチュリー様が、何だかよくわからない研究をしていてね。外部から下手な刺激を与えたら、その研究が暴走する虞があるから、って。何が起こるのかはわからないけど、魔法実験の類なんて、大抵、よくない結果が起こるに決まっているわ」
なるほど、とうなずく二人。だが、ここで引き下がっては、彼女たちの目的を果たすことは出来ない。何よりも偉大で崇高で、汚されてはならない神聖な目的が、彼女たちにはあるのだから。
「事情を説明すると長くなるからはしょるけど、図書館になら大ボスの弱点はあるでしょ」
「ええ、そうね。なぜだか、そう言う場合、多いわよね。けど、大ボスって?」
極めて普通に言葉を返してくる。あまりにもあっけない……というか、予想外の返事に、言葉を口にした霊夢が固まった。次の言葉が出てこないらしい。
その間に、ふわふわと幽々子が前に歩み出る。
「あのねぇ、私たちはぁ、これからぁ、とっても大変なことをしないといけないのよぉ。だから、そこを通してちょうだいな?」
「……はぁ。言っても聞かない人たちだとはわかっていたけれど。
迎撃するにしても、理由があれだしね。まぁ、好きなようにしてちょうだい。言っておくけれど、図書館には結界が張られているわよ」
言うことだけ言うと、やることは終わった、とばかりに咲夜は歩いていく。こちらに興味をなくしたらしい。簡単に言うと、あきれられた、ということなのだが。
ともあれ、道を塞ぐ障害がなくなったのなら臆することはない。二人は紅魔館の中を進み、幻想郷の知識の宝物庫、ヴワル図書館へとやってくる。扉に手を触れさせると、ばちっ、という音と共に火花が散った。
「あいたた……」
手を伸ばした霊夢が、ちょっぴり火傷した右手を軽く振る。
「……さすがね、パチュリー。かなり強烈な魔法結界だわ」
「どうするのぉ?」
「ん? どうするか、って?
簡単よ。押してダメならぶっ壊せ」
コマンド
話す →スペル アイテム しらべる
→陰陽鬼神玉
どうする?
→使う
使わない
「……押してダメなら引いてみろ、だったと思うわぁ」
轟音と爆風が弾け飛ぶ。
音と一緒に、図書館への扉も結界も、何もかもが吹き飛んだらしい。青白い電光が、しばしの間、粉塵の向こうに残っていたのだが、それも徐々に消えて道を示し出す。意気揚々と進んでいく霊夢の後を、ふよふよ漂って進んでいく幽々子。どこもかしこも本に埋もれた世界は、いつ来ても、自分たちは場違いだと感じることの出来る数少ない世界である。
その中で、歩いていく先に、光が見えた。
「あそこかな」
少し足早に進んでみると、そこには、本棚に挟まれた通路の真ん中に巨大な机を出して、その上に無数の本を積み上げているパチュリーの姿。
「おーい、パーチュリー」
返事、なし。
「おーい」
もう一回、声をかけてみるのだが、やはり返事はなかった。
彼女の前にくるりと回ってみると、パチュリーは真剣な顔で目の前に書かれた何かの魔法図と格闘しているようだった。霊夢達など、最初から眼中に入れる予定はないのだろう。ついでに言えば、司書をしている小悪魔もそこにいない。
「どうするのぉ?」
幽々子が首をかしげた。
これほどまでに、何かの物事に集中している誰かを引き戻すというのは難しいことだ。確かに、普通に考えれば、それを実行するのは極めて難しい難題である。
だが、霊夢には秘策があった。任せておいて、とウインクを一つして。
コマンド
話す スペル →アイテム しらべる
→魔理沙の声真似
どうする?
→使う
捨てる
「おーい、パチュリー。聞こえないのかー?」
「魔理沙?」
一体どうやっているのかしらぁ、と幽々子に首をかしげさせるほど、魔理沙にそっくりな声を出す霊夢にパチュリーがあっさりと反応した。顔を上げて、周囲をきょろきょろした後、空耳かしら、と小首をかしげて、再び視線を本に落とそうとする。
だが、そうは問屋が卸さない。
「はいストップ」
「いたっ」
霊夢が片手にした祓え串でパチュリーのあごを持ち上げる。当然、こんな事されれば誰だって痛い。痛いわね、と抗議の声を上げて、ここで初めて彼女が霊夢を見る。
「……霊夢? って、あれ? 魔理沙は?」
「いないわよ。空耳でしょ」
「……そうかしら。疲れてるのね」
「そうねー」
「……って、ちょっと待って。何であなたがここにいるの? あ、大食い亡霊魔人まで。結界は!?」
「……私ってぇ、そんな風に見られているのねぇ」
自分の日頃の行いほど、自分の目には見えないものである。顔を引きつらせる幽々子はさておいて、パチュリーはじろりと霊夢をにらむ。
「壊したわよ」
「……あっさり言うか」
ぼそりとツッコミ。
「……ったく。魔理沙のマスタースパーククラスの攻撃を耐えられるようにしないとダメなのかしら……」
「ダメね」
「素直に言うなっての」
一発の水の弾丸が霊夢に向かって飛ぶ。それを、ひょい、と霊夢は回避した。
「……で? 何の用よ」
私は忙しいの、とばかりに霊夢からは視線を外し、彼女は視線を机の上に置かれた魔法図へと戻した。それは一体何の実験なの、とは聞かない。あえて、霊夢は己の要求のみを告げることにしたらしい。
「実はね、パチュリー。紫の弱点を教えてほしいの」
「そっちの幽霊の方が詳しいでしょ」
「私もそう思ったんだけど、実はそうでもないのよ」
「……ま、大ボスってのは、訳のわからない弱点ばかりをさらして、本物の弱点は隠しているものよね」
何だか、知った風に言う彼女。
こちらの話でも聞いていたのだろうか。二人は首をかしげ、視線を絡めた。そして、一瞬の間にアイコンタクトを終えて、再び顔をパチュリーに戻す。
「それでぇ、いい弱点を知らないかしらぁ?」
「そもそも、弱点というのは、外部から指摘されるウィークポイントではあるけれど、決してそれが弱点たり得るものではないのかもしれないわよ? たとえば、私が知っている――」
「ああ、もう。講釈はいいから」
「そう? 残念ね」
心底、残念だという風に肩をすくめる彼女。
「ま、いいわ。それを教えたら出て行ってくれるんでしょ?」
あるのかよ。
まさかとは思っていたのだが、その予想が当たったことに、少なからず、霊夢は驚いたらしい。一方の幽々子は、いつも通りの飄々としたものだったが。
「一度しか言わないからよく聞いて。
この通路をまっすぐ行って、突き当たりを左に折れて、右から三番目の本棚の隙間を通って、さらに右へ。その突き当たりにある本棚の、上から三段目、右から八列目の本を、下から五段目、左から四列目の本と取り替えて、さらにそこから左に、およそ十歩歩いたところにある本棚の、上から九段目、左から十三列目の本を抜き出して、その正面、五歩歩いたところにある本棚の、下から三段目、右から八十五列目の本と取り替えて、出来た通路を直進して、九歩進んだところにある、左右の本棚のうち、左の本棚は、上から五段目、右から百五十三列目の本を、右の本棚は、上から二十二段目、左から九十一列目の本と取り替えるの。そうしたら、また新しく、正面の道が延びるから。今度はその先の、通路の限界まで行った先にある、袋小路の本棚の、正面のものは上から五十五段目、左から八列目の本、右の本棚は、上から三十二段目、左から四十八列目、左の本棚は、下から九十七段目、右から八十四列目の本を、それぞれ、正面、右、左、の順番で入れ替える。すると、その三つの本棚が左右にスライドして、新しい本棚が現れるから、新しい三つの本棚を、上、上、下、下、左、右、左、右、B、Aの順番でスライドさせると、床の中から新しい本棚がまた出てくるわ。そしたら、そこの本棚の前で、パンを尻に挟み、右手の指を鼻の穴につっこんで左手でボクシングをしながら『命をだいじに!』と叫ぶと、お目当ての本が出てくるわよ」
「…………………」
「…………………」
「さあ、出て行って。私は忙しいの」
「…………………」
選択肢
仕方ないわね。行くわよ。
そんなめんどくさいこと、やってられない。帰る
コマンド
↑↑↓↓LRLRBA
新しい選択肢が 出現しました
仕方ないわね。行くわよ。
そんなめんどくさいこと、やってられない。帰る
→パチュリーに無理矢理行かせる
「レッツ、夢想封印」
「……あんたは鬼よ」
「さんきゅー」
ぼろぼろになったパチュリーが、ふらつきながらその本を持って戻ってくる。
それを受け取った霊夢は、じゃじゃーん、という効果音つきでそれを頭上に掲げた。
紫の秘密が書かれた本 を手に入れた!
「……ふむふむ。どれどれ」
「あらまぁ~」
「くっくっく……なぁるほど。あいつ、こんな秘密を持っていたのね」
「ひどいわぁ。私には教えてくれないなんて」
くっくっく。
くすくすくす。
その本のページを繰っていくと、自然と笑みが漏れる。徹底的に邪悪な、悪魔の微笑みが。
「パチュリー様ー、お茶をお持ち……」
その笑みの邪悪さは。
お茶を持って現れた、本物の悪魔である小悪魔が、主人の無事など考えずに全力逃亡したことから察するべし。
そして、霊夢達の旅路も終着点を迎える。
「さあ、来たわよ」
「ええ、来たわねぇ」
彼女たちの目の前には、今回の騒動(?)の黒幕、八雲紫が住まうマヨヒガ。ちなみに本日、その式とその式の式はお出かけ中であるということはすでに確認済み。つまり、あそこには、にっくき仇敵しかいないということになる。
二人は顔を見合わせ、うなずいた。
――行くわよ。
――ええ、いつなりとも。
「紫ぃーっ!」
入り口部分を蹴りで破壊し、室内に入るなり、叫ぶ。
当然のことだが、玄関口にまで、あのぐーたらスキマ妖怪が他人を出迎えに出てくるなどあり得ない。だから、ずかずかと室内に踏み入って、適当な部屋のふすまをがらっと開けてみた。
「あ、霊夢ー」
ビンゴ。
囲炉裏にくつくつといい音を立てて煮込まれている鍋が置かれ、その片隅には熱燗の一升瓶が一本。そして、その酒と鍋を同時に味わって、にこにこ笑顔の萃香。当然、その対面には、
「ふふふ……どうやら、気づかれてしまったようね」
「やかましい!」
「そうよぉ。紫ぃ!」
「……何で幽々子が?」
「理由はわかんないけどついてきたのよ」
そうよ、と胸を張る幽々子。自分で『理由がわからない』を肯定してしまってどうするんだ、とツッコミを入れたかったが、霊夢は、『まぁ、幽々子だから』という理由でそのツッコミを封印した。
「よくも、この私をからかってくれたわね!」
「別にからかっていたわけじゃないわ。ただ、端から見ていてにやにやしていただけじゃない」
「それを『からかってる』っていうのよ!」
「まあまあ~。霊夢も、お酒、飲まない~?」
「あとでもらう!」
杯向けてくる萃香に『いらない』ではなく、ちゃんと請求する辺り、さすがは赤貧巫女である。
「第一、何でこんな事しでかそうと考えたのよ! 紫だから、っていう理由で納得はしてあげるけど!」
「……しないでよ」
こいつなら何をしようとも、何でもあり。
それが、霊夢の中にある紫の認識である。というか、その程度の相手と言うことだ。このスキマ妖怪は。
しかし、紫は気を取り直すと、「ふっふっふ」と悪役笑いをしつつ、ばさぁっ、とマントを翻した(ような仕草をした)。
「簡単よ! 退屈だったから!」
「うわぁ。」
さすがに声に出た。
「幸い~、霊夢って~、とりあえず食料かお金があれば~、何だってやってくれるし~」
「何でいちいち語尾を伸ばして上げるのかしらぁ?」
「くっそむかつく」
「と、いうわけでぇ~。楽しかったから、あんた達、帰っていいわよ」
「えー? あたしとお酒飲むんじゃないのー?」
一人、我関せずでお酒を楽しんでいた萃香が不平の声を上げる。だが、紫はそれに取り合わず、よいしょ、とその場に腰を下ろして、しっしっ、と言わんばかりに手を振る。こちらなど、もう見ることすらない。
「……ふっ、まあいいわ。
あんたがそう言う態度に出てくるなら、こちらとしても、手段があるのよ」
「あら、どんな手段かしら? 言っておくけれど、この私を相手に、楽に勝てると思わない事よ? たとえ、そちらが二人がかりでもね」
「甘いわねぇ、紫ぃ」
「どういうことよ」
「ふふっ。
紫、あんたがどこまで私をのぞき見していたかはわからないけれど、肝心なところを見てなかったようね!」
コマンド
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→紫の秘密の日記帳
どうしますか?
→使う
捨てる
「なっ……!!」
霊夢が懐から取り出した一冊の本。それを見て、紫の顔色が変わる。
「さあ、幽々子!」
「はぁい。かもぉん、新聞屋さぁん!」
コマンド
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→文召喚の笛
どうしますか?
→使う
捨てる
響き渡る、よくわからない音色。
それが遠く澄み渡って消える頃、どこからか『きーん!』という音が聞こえてきて、直後、マヨヒガの壁がソニックブームで粉砕された。どっごーん、という壮絶な音と共に粉塵が巻き起こり、それが現れる。
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん! 幻想郷一、確かな情報を手軽にお手元にお届けする、幻想郷の皆さんのお供! 文々。新聞の記者にして編集長、射命丸文、ただいま参上……って……あら? 霊夢さん?」
何やらかっこよく、カメラとペンを構えて現れた彼女は室内のメンツを見て首をかしげた。
「ぐ……うぅ……早くどけぇ~……」
「ああっ、すいません!」
壁を吹っ飛ばした瞬間、それに巻き込まれた紫を、あまつさえ足で思いっきり踏みつけていた文は、大慌てでそこから飛び退いた。
「な、何事……?」
とっさに熱燗と鍋を死守していた萃香が顔を引きつらせる。
そんな状況の中、ふっふっふ、と霊夢が笑う。
「さあ、文ちゃん。私たちがこれから言うことを、一言一句、書き留めて、明日の新聞の一面に見出しつきで掲載するのよ!」
「……ちゃんって……。まぁ、いいですけど……」
ぶつぶつつぶやきつつも、ちゃんとペンとメモ帳を構えるのは記者として合格である。
紫が、顔を真っ青にした。
だが、霊夢と幽々子は、にやりと笑い、その本をぱらららっ、とめくって、おもむろに読み上げる。
「『○月×日
今日も、幻想郷はとても平和。あまりにも平和すぎて退屈だったので、ちょっとトラブルを起こしてみたら、ちょっとどころじゃないトラブルになってしまった。てへっ、ゆかりん、大失敗☆』」
「んなっ……!」
「『×月○日
今日は、博麗神社に遊びに行った。そしたら、偶然、博麗の巫女に遭遇。ああ、いつ見てもかわいいわ。艶やかな黒髪、ふっくらとした顔立ち、そして、扇情的な体つき。彼女を(ぴー)して(ぴぴー)して(ぴぴぴー)してみたいわぁ。
とりあえず、今日はその未来を思い描きつつ、(ぴー)で終了』」
「ひっ……!?」
「『□月△日
今日、藍という狐を拾った。や~ん、この子、かわい~。ゆかりんの好み~。
なので、久方ぶりに式神を持つことにした。あん、もう、この子ってば反抗期♪ でも、いいわ。これからじっくりと、ゆかりん色に染め上げちゃうんだから♪ うふふふ』」
「そっ……!」
「『△月□日
早速、拾った藍を私の色に染め上げることにする。
あの子はとてもかわいいから、ちょっとかわいがってあげたらやみつきになったらしく、何度も何度も(ぴー)されてしまって、ちょっと疲れちゃったかも。でも、いいわね、これは。ああ、もう、私の(ぴー)が(ぴぴー)で(ぴー)になってしまいそう。
長く生きていると、こういうチャンスに事欠かないから素敵すぎる。びば、妖怪人生』」
「あああっ……!」
「『○月□日
ああ……博麗の巫女さま……。私は……紫は、もう我慢できません。日々を藍でごまかしてきたものの、積み重なった想いは、もはや、私の体を突き動かしてしまいます。あなたを思うと心が高ぶり、体がうずき、耐えられそうにないのです。
どうか、どうか、私の方を振り向いて下さい。枕を涙でぬらす日々は、もういやなのです。ああ、お慕いしておりますぅ』」
「なっ、なっ、なっ……!」
ぱたん、と。
日記が閉じられたその時の雰囲気をどのように説明したらいいものか。
紫は顔を真っ赤にして、ぱくぱくと口を動かし、文は猛烈な速度でがりがりとペンを動かし、萃香はジト目を紫へと向けて。
そして、霊夢と幽々子は勝ち誇った笑みを浮かべていた。
「さて、と」
ぱたん、と。
文がメモ帳を閉じてペンを胸元にしまい、ちゃっ、と片手を上げた。
「じゃ、私、明日の朝刊の編集に入りますね」
「ああっ! ちょっと! ちょっと待ってぇっ! それだけはっ! それだけはやめてお願いぃぃぃぃぃっ!」
「新聞は真実を伝えるものです。だから、私は、幻想郷に隠された真実を伝えなければいけません。明日の朝刊は、これまでで最高の部数を売り上げることが出来そうです」
「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「頑張ってねー」
「マージンちょうだいねぇ~」
「はーい。霊夢さん、幽々子さん、感謝しまーす!」
「きゃーっ!」
幻想郷トップクラスのスピードを誇ると自称しているのは伊達ではなく、文の姿はあっという間に空の彼方に消えていった。色は赤くないが、まさに普通の人の三倍の速度で動いていると言っても過言ではないだろう。
「わ、私の……私の威厳が……」
「最初からないよ、そんなもの」
ぼそりと、横から萃香がツッコミを入れる。その時点で、彼女の視線はしらけまくっていた。
「あんたもバカよねぇ」
「そうよねぇ。こぉんな大切なもの、どうしてちゃんと保管しておかないのかしらぁ」
「さーて、と。
んじゃ、幽々子。お鍋にしましょうか」
「そうねぇ」
「うっ……ううっ……うぇぇぇぇぇぇぇん! 藍ーっ!」
泣きながら隙間の中に逃げ込んでいく紫。
二人はそんな彼女を見送って、ぱん、と高く掌を打ち合わせた。
「ねぇ、幽々子」
「なぁに?」
「あんた、紫に何の恨み持ってたの?」
「ああ~。
あのねぇ、紫がね、以前ね、『くれる』って言っていた、おいしいおまんじゅうをくれなかったことがあったのよぉ」
「……」
「食い物の恨みは恐ろしいね」
全くだ、と。
霊夢は深く深くうなずいたのだった。
八雲紫 を倒した!
鍋 を手に入れた!
お酒 を手に入れた!
そして、文の宣言通り、翌日の『文々。新聞』は史上最高の発行部数を記録し、紫の恥部が幻想郷の皆様方に知れ渡ることになった。
それに尽力した一人の巫女と一人の亡霊の事は、記録には残らず、永遠の謎となった。
誰が、この秘密を暴いたのか。
その、真実の探求者達は、今日も日がな一日、境内を掃除してお茶で空腹をごまかし、従者と一緒に幻想郷グルメの道を究めんと、いつもの日々を送るのだった。
思い出して吹いた。
脳内再生はこれで始まったんですが
八雲紫を倒した!のシーンは何故か
パパパパーパーパ-パッパパー(FF戦闘勝利
になりました。不思議。スクエニマジック。
いやー、面白かったです。(自主規制)とピー音に。
私は単純でお下品なネタ大好きなので、非常に楽しめました。
つーか、ゆゆ様のHPスパロボ並なんですけど(ぇ
(*゚д゚)・・・
(゚д゚)シリーズ化期待
つ[馬鹿。]烙印押しておきますね。
いやもう古きRPGというかなんというかもう馬鹿すぎです笑いましたw GJ。
冒頭の設定通り霊夢外道wwwwwwwwwwwwww