Coolier - 新生・東方創想話

midnight dance.(下)

2006/01/03 13:17:31
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midnight dance./4 博麗神社



「…来るわね」

ぽつりと言い湯飲みを置いたのは、縁側に座った博麗霊夢であった。
隣に居るレミリア・スカーレットもその事は知っていたが、まだ彼女の感覚に引っ掛かる気配は無い。

「思うんだけど、霊夢って本当に人間?」
「失礼なっ、私は歴とした人間よ!」

言い置いて、霊夢がすっくと立ち上がる。
かちゃかちゃと音を立て、愛用のお茶セットを盆に乗せると、それを片付けに奥へと向かった。
そんな彼女を寝転がったまま見遣るレミリアの感覚には、未だ何も掛からない。
相当微弱なのか、はたまた霊夢の口先か、それとも巫女の直感か。
確率的には、三、一、二だろう。

「…本当に人間かしら。自信無くなるよ」

ごろりごろりと右へ左へ。レミリアはだらしなく転がりながらも、再度感覚を張り詰めて、

「居た」

ゆっくりと身を起こした。
数は六。
小さな唇が、ニィ…と吊り上がる。

「しかし、嘗められたものだ。たったの六で博麗の巫女に掛かるのか?」

口を突いて出たのは、少女の姿に合わぬ横柄な言葉。
普段の彼女を知らぬ者が居たのなら、フルートで軍歌を奏でているような錯覚を覚えただろう。
しかし、この一面こそが、夜の王として名を馳せる彼女の姿でもあった。

「ここには私、レミリア・スカーレットも居るのだぞ?」

縁側に腰掛けたまま足を組み優雅に頬杖を付くと、レミリアは鳥居の方へ目をやった。
其処に浮かんだ影六つ。
幼きデーモンロードが、はぁ…と小さく溜息を吐く。

「本当に、人の来ない神社だわね」
「余計なお世話よ」

霊夢の声に反応したか、紅白の色を見たからか、その影が一直線に霊夢へと迫る。
隣に座り、優雅に振舞う少女には目もくれずに。
明らかな殺気を、博麗の巫女にだけ向けて。
それがレミリアには気に入らなかった。

「大人気ね。霊夢」

レミリアが頬杖を解き、両手を口元の前で逆手に広げ、

「スカーレットシュート…」

蒲公英の綿毛を吹くように、小さく可憐な唇を窄めて、ふぅー…と吹いた。
其処から吹き上がったのは、大小様々な紅色の綿毛。
風のままに軽やかに、触れれば弾けるその吐息。
紅色のそれを見て、真っ黒なドレスに身を包んだ少女が何者なのか、その影達は漸く悟るに至る。
その影達が蜘蛛の子を散らしたように別れた一瞬後、其処を血の弾幕が通過した。
影は軽く距離を取ると、様子を窺うようにして身を低く構えた。

「あら…、外れてしまったわね」

ふわりと彼女は立ち上がり、珍しくも殊勝に頭を下げて見せた。

「私にも構ってくれないかしら、寂しイタっ!?」

所でバシリと後頭部を叩かれた。
振り向けば、眉を吊り上げた博麗の巫女。それが指差すは吹き飛んだ鳥居。

「あは、あははは…」
「ふふ、ふふふふ…」

レミリアはくるりと霊夢に背を向けると、

「其処の三匹!そう、貴方達!付いて来なさい!死にたくなければ生き残れば良いだけの事よ!」

まるで自分に言い聞かせるように宣言すると、翼をはためかせ高らかに舞い上がった。
一瞬の事で思わず見上げるだけだった霊夢が、下で怒鳴り始めたのに冷や汗を掻きつつ、レミリアは其処から飛び立つ。
指名された三匹も、スカーレットデビルがあんな少女だとは思っても居なかったらしい。
汚らしく嗤いながら後を追う。
それを見送りながら、霊夢は口にした。

「…ご愁傷様、と」

縁側に置いたままとなっていた履物に、彼女がゆっくりと足を通す。
その仕草があまりにも自然過ぎて、この上無いチャンスであったにも係わらず、残った影は微動だにしなかった。…いや、出来なかった。
そして、
すぅ…と顔を上げた彼女の顔は………能面。
健康的な血色であったそれが、今は凄惨なまでに白く変わっていた。
瞳がどんどんと冷めていく。…否、褪せていく。
人の温度が消え去って、残る影達は悟った。
先程のチャンスこそが、唯一勝てたかも知れぬ、最初で最後のものだった事を。

「妖怪退治は巫女の仕事」

その右手には何時の間に握られていたのか、玉串が。
博麗の巫女、博麗霊夢はそれをヒュ…と横に薙ぎ、言った。

「あんた達に手加減は必要無し!」

高らかな声とは裏腹に、その動きは優雅且つ自然。
ふわりと身体が沈むと同時に、懐から抜き放った左手には、鋭い針が広げられていた。

「ふっ!」

霊夢は駆け出し様、その針…パスウェイジョンニードルを放つ!
彼女の霊気が込められたその針は、妖怪が触れればたちまちに拒絶され弾かれる。
そんな代物が突き刺されば、如何なるかなどは想像に容易い。
相手もそれを解っていて、呆然と受け入れる筈も無かった。
霊夢の狙った影は寸分の狂い無く飛んできた針を、背後の木に駆け登る事で避けてみせた。一瞬の出来事である。

「ケェーーッ!!」

思わず立ち止まった霊夢に、両左右から挟み込むようにして残る二匹飛び掛った。
僅かに見えたのは細長い腕。それを伸ばして、頂点の五指が爪を立てる。
鋭くは無いだろうが、妖怪の持つ怪力に、何よりどんな雑菌を持っているかも解らぬそれに、霊夢は触れる事を良しとはしない。
裾を優雅に舞わせながら、その場で緩やかに回転。
ふわりと靡いた両裾に目を隠され、その二匹は無様に躓いた。
其処から彼女が距離を取ると同時で、彼女の居た地面を木の上から跳んだ影が貫く。
その時、雲に隠されていた月が姿を現し、再び纏まった影をゆっくりと照らした。

「猿、か」

彼女の呟いた、ましらと言う言葉通り、それは白い体毛を持つ猿の姿をしていた。
細く華奢な姿をしていたが、それで嘗めて掛かると手痛い返しを受けるだろう。
霊夢ははしたなく舌を打つと、再度針を抜いた。

「面倒臭いなぁ…」

しかし、その表情は言葉とは真逆。
剣呑に相手を見据えると、霊夢は再度針を放った。一度、二度、三度と連続の投擲。
纏まっていた三匹が素早く散開する。
その一匹、賽銭箱の方へと逃げるそれを追いながら四度、五度目の投擲が放たれる。その間、あからさまに放って置かれた二匹も黙っては居なかった。
躍り掛かる二匹を気配と奇声で察しつつも、霊夢は今までの布石から流れるように大型の符を取り出す。

「アミュレット!行け!」

玉串を持ったままの手で放ると、その符…博麗アミュレットが弧を描きつつ上から迫る。

「臨、兵」

跳ねるようにして針を回避していた猿は空中に在り、回転しながら迫るアミュレットを避ける事が出来なかった。

「闘、者」

バシッと強い静電気の立ったような音と共に、その身体が符に縫い付けられ、一切の動きを奪い取られる。

「皆、陣」

それを巫女の肩越しに見つつも、残る二匹は博麗の首を獲ったとばかりに腕を伸ばし、

「烈、在」
「「!?」」

それは空しく空を掴んだ。
地に飲まれるようにして消えた巫女が、二匹の後ろに、居た。

「前!」

振り向いたその時には、既に九字をなぞった後。
先程まで針を放っていた左腕は高く掲げられており、その指には一枚の符が、注がれる霊力に震えていた。


「神技―八方鬼縛陣ッ!!」


地に叩き付けられた符が、宣言通り、八方に陣を広げる。
それは一瞬。しかし地に描かれた紋様は、溜息が出るほどに美しく。
その光は、縫い付けられた二匹でさえも、思わず息を忘れさせた。
そして、光が立ち昇る。

「魔は等しく伏すが定め。…諦めてこの世を去りなさい」

強力な力の放出に耐えられず、囚われた二匹が足掻きながらも存在を消滅させられていく。
毛を剥がれ、肌を剥がれ、爪を剥がれ、次々と奪い取られ逝くその後に、残るもの等何一つも無い。
完全に消え去った二匹を看取ると、霊夢はアミュレットに捕縛された最後に一匹に目を遣った…。



レミリアはある程度飛ぶと、適当な位置で降り立った。
其処は魔法の森と呼ばれている、間違っても夜に訪れてはならないとされる場所だ。…が、今は夜。それも月の照らす祝福されし夜である。
その主たるレミリアに、夜訪れてはならない場所など存在しない。
くすりと笑んで、幼きデーモンロードは振り返った。

「随分嬉しそうだけど、ここがお前達の住む場所か?」

彼女の問いに、ソレはにやりと口元を歪ませる事で応えてみせた。
その様を見て、レミリアは少し肩を落とす。言葉は通じるものの、どうやら言葉のキャッチボールは出来そうに無かったからだ。
この件がどうせ、稀に在る反逆やら下克上の類であるのは解っている事だった。
問題は、…いや、愉しみは、それがどのような理由から来るものであるか、だ。
永遠にも等しい刻を生きるレミリアにとって、退屈とは何よりも大きな宿敵であり、常に付いて回る業でもある。
ある程度の周期を置いて発生するこの娯楽も、そんな退屈を幾分紛らわせてくれる有難い事象の一つだ。
今回はどんな面白い戯言を聞かせてくれるかと楽しみにしていたのに、これではまさしく、肩透かしであった。

「…ああ、つまらない。どんな言葉で私を愉しませてくれるか期待してたのに、これじゃ本当に暇潰しじゃないか」

ぶつくさと言いながら、レミリアが腕を伸ばす。
ただそれだけの行為で、森の全てがざわめきを止めた。
次いで感じたのは、舞い降りた夜の支配者の遊戯に巻き込まれぬよう、息を殺して逃げる生物の気配である。
レミリアの瞳が、爛々と輝き始める。
にたりと口元を吊り上げて、幼きデーモンロードは楽しそうに笑った。

「染めてあげる。目に映るもの全てを、紅色の私の色に」

その瞳が捉えたのは、奇しくも想像で弄んだ、霊夢の肌と同じ白。尤も、その是非は比べるべくも無かったが。

「お前の汚いその白も、多少はマシになるだろうさ!」

その言葉で先に動いたのは、意外な事にレミリアでは無かった。
その事に、何よりもレミリアは目を丸くする。
言の葉の終わりと同時に、牙を剥いて跳び掛って来たのは白い猿の方だったからだ。
大きく開かれた口。其処から覗くのは並びの悪い牙。
咬むのは吸血鬼の特権だろうなどと思いながら、レミリアは思わず飛び退いた。ガチリと鳴る間抜けな音と勢いを潰されたような苛立ちに、レミリアが歯を鳴らす。ぎらりと獲物を睨め付け、彼女は腕で宙を薙ぎ払った。
振るわれた軌跡が歪み、其処から凝縮された紅色の魔力が撃ち出されて行く。
血のように紅い弾丸は、不用意に飛び掛った一匹の腕を、代償とばかりに攫った。
悲鳴を上げて下がろうとするソレを、レミリアは逃がす心算は無い。
しかし、追い詰め爪を立てようとした彼女の行動は、時間差を置いて跳び掛って来た他の一匹に阻まれた。

「えぇい…!」

レミリアがソレに対して腕を向ける。
無造作に魔力を打ち出そうとして、今度は真上から降ってきたもう一匹に服を裂かれた。白過ぎる肌が、黒のドレスから顔を覗かせる。
信じ難い事に……劣勢。
最初にイニチアシブを持って行かれた分、相手を威圧する普段の行動に視野を移せない。
撃つ弾撃つ弾が、悉く外れていく。
腕一本を代償にこの状況を作り出せたソイツが、これを意図しての事であれば諸手を打ってでも喝采してやりたい気分である。
咲夜の選んでくれたドレスを裂かれた事も、レミリアの頭から平静を奪う事に一役買っていた。

「千に貫かれて千切れろっ!」

片腕を失ったソレに向け、レミリアが魔力によって具現化された千の針を射出する。
腕を失っているとは思えぬ機敏さで、ソレは木の陰に隠れた。
だが、木を盾にした程度で、この猛威を凌げる筈も無い。
真っ赤に染まるソレを想像して、レミリアは愉悦の笑みを浮かべた。
…しかし、ソレはその想像を何処までも裏切った。根元を貫かれた木が此方へと倒れて来たのだ。
その上には、まるで見下すようにしてレミリアを見る猿の姿が有った。

「こ、の…っ、ちょこまかと!」

その場に無謀とも思える勢いで跳び込んで来る二匹の猿。
ざくりと、其々の腕が少女の身体を貫いた。真白い肌を、零れた朱が鮮やかに染めた。
喜色を見せ、その二匹が木の倒れ切る前にレミリアから離れようとする。
…離れようとして、それは叶わなかった。
腕が、抜けない。
レミリアが抑えている訳でも無く、少女の細い腕はだらりと下がったままだ。
だが、腕が抜けない。
木が此方に倒れ込んで来る。その二匹が慌てたような態度を見せ、其処でいきなり、レミリアが愉しそうに笑った!

「掴まえた!あははっ、やぁっと捕まえた!…安心しろよ、お前達は潰れたりはしないよ」

その嬌声はすぐに冷める。
いきなり平坦になった声と共に、少女の細腕が、自分の身体を貫く二匹の猿の頭を鷲掴む。
倒れて来た木は、掴んだ猿をそのままに、小さな右腕で止められていた。
木の重みに耐えられるだけの丈夫さは持っていたらしい。その猿は苦痛に目を見開きつつ、少女の指の隙間から幼きデーモンロードの瞳を覗き、
……この木に潰され絶命していた方が、何よりもマシだと気が付いてしまった。

「くふ…っ、はっ、あはは…、あははははははっ!!」

少女の身体がゾクリと震える。
凍り付いたその瞳に、顔に、身体に、彼女の身体は恍惚を耐える事が出来なくなった。大声を上げて、それを逃した。
レミリアが二匹の腕を引き千切る。
迸った絶叫を聞いてもまだ足らぬとばかりに、彼女は掴んだ頭を決して離さず、その二匹を振り回した。
目前に在る木が、左に叩き上げられ宙を舞った。
右の持ったソレが、深々と地を削った。
それでもまだ狂乱は続く。
木の上から振り落とされた一匹が、暴君の猛威を呆然と見る。
口元を凄惨に吊り上げ、両の腕を何でも無い事の様に振り回しながら、レミリアはソレを見遣ると、

「紅色に燃え尽きろ」

隣へ倒れた木の轟音と、吹き上がる二匹の血を心地良く身に浴び、両手のソレを空高く放り投げた。
抵抗は既に無い。だらりとした身体はまるで人形のよう。襤褸屑と化したそれが手鞠のように空を舞う。
身体に二本の腕を収めたまま、幼きデーモンロードが、右の人差し指と中指で己の小さな唇に触れた。ぺろりと赤い舌がそれを擽ると同時に、彼女がその指を横に薙ぐ。紅の軌跡を残した先には、一枚のスペルカードが持ち主の意に従い、薄く光を溢していた。


「紅符―不夜城レッド」


ゆらりと、レミリアの周囲が揺れる。
重力から解き放たれたように浮かび始めた小さな身体が、次の瞬間、落ちてきた二匹の猿に合わせたかのように紅色の炎を噴き上げた!
その形は十字。
何と言う皮肉か、吸血鬼の少女は両腕を水平に伸ばし、罪人を裁くように十字の形を取って見せた。
紅色の冥府の炎は、片腕ずつ失った二匹が落ちる事を良しとはしなかった。蛇のように絡み付いて、それを自らの胸の中に掻き抱いたのだ。
その体躯は尚も上昇を続ける。紅を纏い、二対の贄を携えて。彼女の纏う紅は悲鳴さえも飲み込み、飽きるまで贄を貪り尽した。

「ふふ…」

ざあ…と音を立てながら、紅き衣が姿を消す。
レミリアが静かに地に降りた時には、既に、紅色の灰が空しく舞うだけであった。

「…さて、と」

座り込んだまま、呆然と仲間の最後を見詰めていたソレに、レミリアが薄く微笑み掛ける。
彼女の身体に最早傷は跡も無く、最初に覗いた真っ白な肌が血に濡れ、ドレスの裂け目から覗くだけであった。
その王を前にして、ソレが浮かべるのは絶対的な恐怖のみ。
ソレの浮かべる貌に果ててしまいそうになりながらも、彼女は子供に言い聞かせるように言った。

「今宵は出血大サービス。十数える間だけ見逃してあげる」

果たして数え歌を解るかは知らないが、瞳を閉じた彼女は、それでもゆっくり歌い出した。

「いーち、にぃーい、…ほら、逃げなくても良いの?」

ぱたぱたと手を振って、少女が目の前に居るソレを煽る。
その仕草を見て、ソレもやっと意味が解ったのか、慌てて身を起こすと森の中へと駆けて行った。

「そうそう、確りと逃げなさい。…さぁーん、しぃーい、ごぉーお」

レミリアが先程と同じように、指で唇に触れる。
ぺろりと舐め、今度は頭上へとゆっくりと持ち上げた。…主の名と同じ、真紅のカードが淡く輝きを放つ。

「ろぉーく、なぁーな、はぁーち、きゅーう、じゅう、っと」

既にソレの姿は見えない。
片腕を失ってはいたものの、両足と片腕があれば遠くまで行く事は出来ただろう。
慌てふためいただろう姿を想像し、レミリアは小さく笑みを零す。
…そして、

「……お前は、これを、避けられない」

一句一句区切るように、彼女はそう宣告した。
幼きデーモンロードが、ゆっくりと瞼を開く。
それと同時に、神社の方で爆発的な力の奔流が天へと伸びた。
彼女は更に笑みを深くして、


「神槍―スピア・ザ・グングニル」


その瞬間、耳鳴りが辺りを支配した。
それ以外一切の音が、絶対的な重圧に殺される。
魔法の森に棲む全ての生き物が、本能的な恐怖に心を奪い取られる。
そしてそれは、今も尚、必死の形相で駆けて居たソレも、例外では無かった。
頭上に輝く月へ、捧げるように掲げたカードが、
渦巻くようにして、血のように紅い投擲槍へと姿を変えた。

「私を侮辱した奴を、逃がす訳が無いだろう?」

吐き捨てるように少女は言うと、己の身体の二倍は有ろうかと言うその槍を、見据えた闇へ無造作に投げた。
吸い込まれるように消えた紅の槍は、一瞬後、違う事無く獲物を貫いた。
…存在、概念、諸共に。



midnight dance./5 紅魔館



たったこれだけで全てが落ちる等とは、無論、美鈴も思っていなかった。
素早い動きの出来る、翼を持った妖怪が己を飛び越えて行くのを見つつ、彼女は意識を前に向ける。
スペルカードが有効時間を終え効力を失うと、彼女はすぐさま次のカードを取り出した。
発動までの間…。
鳥の姿の妖怪がその隙を突き、美鈴の首を狙って急降下を敢行して来る!

「ふっ…!」

大地に埋まった足を引き抜き、彼女はその場で一転した。
紅く、長い彼女の髪が、焔のように其処を舞い、

「ゲギッ、」

軌跡すら残さぬ、しなやかな足が捉えたのは、白鳥のような長さを持ったその妖怪の首。
それを逃さず足裏で捕らえ、彼女は先刻と同じく大地を踏み抜いた。

「ビ」

地を踏む先刻の音と、
びしゃり…、
水の詰まった花瓶を、落として割った、時の音。
その結果は、明確な死。
ギロチン代わりに使った足を引き抜くと、彼女は静かに宣言した。

「虹符―彩虹の風鈴」

ぞくりと、空気が震える。
紅魔館の門番が弱いなどと、誰が口に出来たものか。
弾幕ごっこと言うルールでは、彼女の真価が発揮出来ない。ただ、それだけの事である。
新たに展開され始めた鮮やかな弾幕の中、彼女は大地を蹴った。
先の場景に凍り付いたままだった者が、ぐるりと円を描くように展開される弾幕に飲み込まれる。慌ててその回転に習うように避け始めた者も居たが、突如、逆向きに展開された色彩に貫かれ、力を失い墜ちていった。
美鈴の持つスペルは、どれもが集団を撹乱させるのに特化している。
それで敵を墜とす必要は無い。それで墜ちてしまうなら、所詮はその程度の存在なのだ。
消耗させ、大地に足を着かせれば、それで決着が付く。

「はぁぁぁぁっ!!!」

そこからは、ただ、彼女一人の独壇場であった。
長い髪が闇に舞う。
突如目の前に現れたかのような彼女に、相対した者が腕を振り上げる。…が、彼女の震脚が巻き起こす振動は、一切の動きを剥奪する。
しかし、彼女の震脚は、魅せる為や動きを止める為に在るのではない。
その踏み込みはそのまま次の動作への流れに繋がり、その流れは、次に叩き込まれる一撃の威力を二乗も三乗にも跳ね上げる。彼女にしてみれば、そんな役割から派生した副産物的なものに過ぎなかった。
美しい肢体は、既に相手の懐の中に在った。美鈴は勢いを殺さぬまま、肩で寸勁を放つ。
崩れ落ちる相手の首を、トドメと言わんばかりにしなやかな足で刈り、すぐさま次の獲物へと向かった。
彼女の紅く、長い髪が、辛うじてその姿を追わせる。
しかし、その軌跡の向かう先、残るものは無惨な屍のみである。
艶やかな舞踏を、今宵、誰一人とて見る事は叶わない。
これが、紅美鈴の実力である。

「ま、こんなものかな?」

数匹を見逃して、彼女はパンパンと手を払う。
屍の散らばったその中で、大きく彼女は伸びをして、

「……上もちゃんと着けてくれば良かった」

少し紅くなった頬を、ぺしぺしと叩いた。



一人も逃しませんよ。

そう彼女が宣言したのなら、誰一人とて逃さないのだろう。
誰一人とて逃がす心算が無いのなら、数匹くらいは通す心算なのだ。
そんな彼女の言葉遊びに、咲夜はやれやれと溜息を吐いた。
けれど、まあ。
…彼女の事は信頼している。
意味としては知っていたが、自分にそんな人物が出来るとは思っても居なかった。
この、紅魔館に来るまでは。
彼女は自分に出来ない、自然というものが出来る。それを何度も羨ましいと思った。
自分は常に癒されていた。自分を取り巻く、全ての自然さ、に。
無論、そんな事は絶対に口にしないが、彼女…美鈴は、それに気が付いているだろう。
だからこそ、任されたお持て成しは、確りとこなさなければならないのだ。
自分を受け入れてくれる、全ての者に応える為にも。

「遠路遥々、よくいらっしゃいました。
 私はこの館の維持を任されております、メイド長の十六夜咲夜と申す者です」

大扉を開け放ち現れた数匹を前に、咲夜は静かに腰を折った。

「…ですが、真に申し上げ難い事が御座います。
 今宵、この館の主で在られるお嬢様は、愛しい恋人の元へと逢瀬に出掛けておりまして…、あら、…失礼」

これは余計な事だった、と言わんばかりに苦笑して、再度、咲夜は目の前に居る数匹、…基、数頭へと改めて微笑む。

「本日のご用件は、この館での雇用事かとお見受けしましたが、
 …残念な事に、門の番、狗、共々、既に間に合っておりますの。
 地獄へとお引き取り下さい」

それだけ言って、咲夜は前で組んでいた手を広げた。
じゃらり、と音を立て、両の手に其々三本ずつ計六本のナイフが現れ、…鈍い輝きを放った。
彼女の前に現れたのは、巨躯を持つ犬と犬と、…狼である。
あまりのバリエーションの少なさに、咲夜は軽く眩暈を覚えた。
門番隊は一体何をしているのかと問い詰めたくなるのを必死に抑えつつ、咲夜の頭にこんな言葉が浮かんで来た。

「…悪魔の狗の、犬退治…なーんて。……、はぁ…」

言ってみて馬鹿らしくなった。
しかし美鈴ならば考えそうだ。
キッと前を見据えると、咲夜は気を持ち直すように言う。
それを投げ掛けた相手は、夕刻、ナイフで確かに貫いたあの人狼であった。

「で、死に真似は熊に対してするものだけど、メイドにした貴方は何のつもり?」
「…貴様の主と同じように、夜が己の本領であっただけだ」
「あら、吃驚。普通に喋れましたの?てっきりあれが、発声の限界だとばかり」

言いながら右を投擲。
犬と人狼が、弾かれたように動き出した。
その三本は、空しく床へ突き刺さった。…流石に、此方の防衛網を抜けて来ただけはあるらしい。
咲夜はすぐさま後ろにある大階段を駆け上がる。
飛び道具を使う者としては、高い方がより有利に事を運べるからだ。

「しっ!」

無論、相手もそれに乗ってくれる訳も無い。
再度ナイフで牽制しながらも、人間の瞬発力とは欠片も違う二頭の犬が、飢えた獣の勢いで距離を詰めてきた。
すぐさまその場を横に跳ね、左のナイフも振るう。と同時で、彼女はすかさず時を止めた。
そんな彼女のすぐ後ろには、人狼の爪の先。
小さく舌を打って、咲夜は大きく距離を取った。
一足では駆け寄れぬ位置まで遠退くと同時に、集中もせずに止めた時が、その呪縛を引き千切った。

「…またか」
「ええ、種も仕掛けもございませんわ」

捕らえたと思ったら一瞬で遠くに居る。
夕刻と同じ事象に、人狼は苛立たしげに舌を打った。
ころころと笑う咲夜も、内心、慎重にならずには居られない。
人間の持つ体力では、いずれ捕まるのが目に見えている。
他の犬を如何にかしないと、足を掬われてしまう気がした。

「あら?」

そう思ったのも束の間、他の二頭が階段両脇に在る右扉と、左右に在る廊下への右扉へと駆けて行く。
この場は人狼にでも任せてか、それともそういう指示だったのか、他の場所へ向かうらしい。
咲夜と向かい合うように立った人狼が、彼女の行動を阻むようにして笑うと、

「ふふ…っ」

その咲夜はさも可笑しそうに笑い、犬の突っ込んで行った扉とは反対に在るそれに向かい、両の手からナイフを投げた!
人狼が疑問に思う暇も無い。
体当たりで扉を開けた犬は、その反対側の扉の中から、勢いをそのままに飛び出して来たのだ。
そして目の前に在るナイフを何故と思う暇も無く。
絶命した。
言葉の無い人狼をそのままに、咲夜は念を押して何度もナイフを叩き込む。
目の前の人狼と同じであるなら無意味かも知れなかったが、如何やらそれは懸念であったようだ。
その頭部がハリネズミのように成って尚動かぬそれを、咲夜は満足気に見遣った。

「何が…っ」

人狼が声を荒げた。

「何故だっ!!」

吠える人狼を愉しげに見つつ、咲夜が言う。

「貴方の訪れたこの場所は、既に私の自由な空間」

ひゅ、と、人狼の眉間の前に、一本のナイフが止まる。

「貴方の訪れたこの場所は、既に私の完璧な空間」

ひゅ、と、人狼の右胸の前に、一本のナイフが止まる。


「ようこそ。私の空間……咲夜の世界へ」


ひゅ、と、人狼の左膝の前に、一本のナイフが止まった。

「貴方の時間も私のものよ」
「グッウゥゥゥ…ッ」

止まる前と同等の速度を持って、ナイフは再び動き出した。
夕刻とは微妙に違いつつも、同じ数の異物を生やした姿を見て咲夜は問いかける。…軽やかに。

「痛くありませんの?」
「きっ、貴様ぁぁぁぁぁぁぁああああっ!!!!」

時を、止める。
人狼は既に、三分の二の距離を消化していた。
会話中に集中していた分、まだ余裕の在る停滞の中、咲夜は三本のナイフを向かって来る人狼に放り、再び距離を取る。
そして、時の呪縛を解除した。

「ぐっが!?」

刺さったナイフが倍に増える。
右目、右肩、左腹部に更なる異物を生やし、けれども、その人狼は堪えない。…いや、堪えてはいるだろうが、莫迦のような生命力で懲りずに咲夜を追い回して来る。

「追い駆け回してくれるのは、お嬢様だけで十分よ!」

再度それの繰り返し。
刺さったナイフが九つに増える。
相対速度を向かい合わせたそれも、悲鳴を上げさせる程度にしかならないらしい。咲夜は舌打ちしつつも、思考を回さずには居られなかった。
咲夜にしてみれば、こう云う輩が一番性質が悪い。
こう云う奴の相手こそ、魔術を操るパチュリーや、気を扱う美鈴がするべきだと、咲夜は内心溜息を吐く。
十六夜咲夜は、あくまで人間である。
普通ではないが、筋力は一般女性の少し上程しか持ち合わせていないし、体力に自信が在っても、無限では無い。
咲夜が出来る事と言えば、
殴る、蹴る、ナイフを投げる、ナイフで切る、ナイフで刺す、柄で殴る、時を止める、
と、それくらいだ。…素敵過ぎて涙が出そうだ。
夜になり、再生能力も跳ね上がっているのだろう。その人狼の左胸には、夕方に突き刺したナイフの傷跡が見えた。

「…?」

ふと、人狼が立ち止まり、ナイフを引き抜く。

「…なっ!」

からんとナイフの落ちた音は、咲夜の驚愕と重なった。
引き抜かれた其処には既に傷が無く、瘡蓋が残るだけだったからだ。

「食い殺してやる…っ!!」
「遠慮するわ!」

早過ぎる回復能力に、咲夜は初めて焦りを感じた。
更に、いい加減、此方の能力を理解してきたのだろう。
相手の動きが徐々にではあるが、合わされてくる。
跳弾気味に放つナイフで相手の足を止めつつ、咲夜は過去の記憶を思い出した。

――お嬢様とやり合った時を思い出すわね

今は主人のレミリア・スカーレットと戦った時も、その少女は驚異的な再生能力を持って、此方の攻撃を血塗れに、しかし涼しげに乗り越えた。
その時の感覚に、徐々に身体が戻っていく。
再び両手のナイフを投じ、咲夜は時を止めた。

――あの時は如何したのだったか…

全て命中。痛みを感じる直前で止まったらしく、人狼は表情を歪めていない。
咲夜は全力で駆け寄り、内腿に巻いてあったナイフホルダーから、大振りのサバイバルナイフを引き抜いた。
すれ違い様に停滞を解除して一閃!

――まずは足を止めた

最初に右膝を。

「!?ぐあぁぁぁぁぁぁっっ!!」

時を止める。
振り向き様に三本のナイフを投擲。
そして解除。
次に左膝を。

「ぐゥ…ッ、きさ」

時を止める。
血塗れの人狼の前に立ち、…解除。

――そして暗闇を

「ま゛アァァァア゛ァア」

――そして私は

何処にそんな量のナイフを持っていたのか。
小振り普通大振りと、様々なナイフが彼女の両手に現れた。
しかし彼女は指を切るような真似はしない。
彼女得意のその技は、今まで数多の敵を消してきたのだ。


「幻符―殺人ドール」


「ア゛アアあ゛ああアアァァァァァァア゛アアぁぁァァアアァア゛アああアッッッ!!!!!」

幾多のナイフが血風を撒き散らす。
茶色のソレに突き刺さり、更なる悲鳴を撒き散らす。
ぴしゃりと、生温いものが頬を打った。

――朱く、紅く、染まっていく

目障りな茶色が、真っ赤に真っ赤に染まっていく。

――私の身体が、染まっていく

真一文にされた瞳が見開いて。

――そうして伸びてきた小さな手に私は掴まれたのだ

「っ!!!」

その恍惚の酔えたのは、過去の映像通り数秒の事だった。
咲夜が慌ててその場を飛び退くのと、鋭い爪が其処を薙ぎ払うのは同時。
朱く汚れた彼女の仕事着が飛び散って、白の肌が顔を覗かせる。つぅ…と、赤く走った線から、一筋の血が流れ落ちた。
咲夜の瞳が紅く揺らぐ。
それは、次に訪れる時間の光景を写し取ったからか。
その空間は赤く。朱く。紅く。あかく、アカク赤く朱く紅くあかくアカクあかく赤くアカ赤紅あか朱赤くアカク赤く朱く紅くあかくアカクあかく赤くアカ赤紅あか朱赤くアカク赤く朱く紅くあかくアカクあかく赤くアカ赤紅あか朱赤くアカク赤く朱く紅くあかくアカクあかく赤くアカ赤紅く。

それはただ、とても赤い、真っ赤な空間。

咲夜がスカートにナイフを突き立て裂いた次の瞬間には、だらりと下げた空いた手にもう一刃が握られていた。きつく、きつく、きつく。二度と離れぬよう別れぬよう永遠に完全に完璧に同化したように!
限界まで見開かれた目に、瞳と同じ赤が血走る。主君と同じくただ真紅。見据えた獲物が竦むように、逃さぬよう逸らさぬよう返れぬように血潮より紅く!黄昏より紅く!煉獄より紅く!
……獲物を見据える為に貌が上がり、浮かび上がるのは、三日月に、笑む、唇。

「ひぅ…ッ」

その音は獲物の漏らした本能の慟哭か、
ジャック・ザ・リッパーの漏らした歓喜の笑みか。



「傷魂―ソウルスカルプチュア」



大振りのナイフが振り上げられる。まず縦に。引かれる。そして横に。裂かれる斜めに。返され袈裟に貫かれ抉られ、続く宴は暴虐の嵐!貰った玩具を振り回す、無垢な赤子の成すままに!!
既に刺さったナイフをバラし、紅く染まった毛を舐めて、その下に息衝く皮膚を貪った。下へ、下へ、更に下へ!まだ飽き足らぬとばかりに貪欲なまでに、まだ足りぬ!更に赤を!吹き上がる朱を!奥へ、奥へ、更なる奥へ!邪魔な全てを剥ぎ取って、絶頂催す凄惨で最悪な紅色の最奥を!!
「ハ…ッ」
過剰を越えた運動に、ぎちぎち腕が悲鳴を立てた。だが足りない。全然まだまだ足りないのだ!
指が血で滑らぬように更にきつく!きつく!もっと強く!
握りの硬さに柔な爪が負け、ぱきりと音を立てて跳ねて逝った。
だが指は既に固まっていた。もう大丈夫。もう大丈夫だ…!後は腕の撓るがままに!
「ハハッ…」
ばきりと刃が跳ね、未だ突き刺さっていたスローイングダガーを粉々に砕く。破片が飛んで目の下が切れた。目の赤が零れ落ちたように流れて行く。何故解る?頬を伝う血の音が、更に、もっとと喚き立てるのだ。
さあ近い!アレが近い!それを告げる脳が麻薬を分泌し過ぎて、耳の穴から零れてきそうだっ!
「ハハハハハハハハハハハッッ!!アハハハハハハハハハハハッッッ!!!!!」
こんなにも嗤っている!悦んでいた!十六夜咲夜の最奥に棲んでいる真っ赤な記憶がこれほどまでに!さあ見えてきた!掴み取れ!いいや貫け!違う切り裂け!全てを剥いだ獲物の奥に潜む、真っ赤な命の宝石を!朱くて甘い宝石をっ!鬼灯みたいに紅い魂!!
魂さえも、切り刻めッッ!!!!

「咲夜さんっ!」

其れを貫き抉り、引き切り裂いて、瞳は静かに蒼へと還る。
だらりと下がったその先の、大振りのナイフは、形振り構わぬ扱いで刀身が半分になっていた。
全身を真っ赤に染めて静かに立つ咲夜に、美鈴が慌てた様子で駆け寄った。

「大丈夫ですか!?何処か怪我とかしてませんかっ!?」
「あら、美鈴。私が怪我なんてする訳が無いでしょ?」

実際は爪が数枚飛び、薄く腹を切られていたのだが、血塗れになった彼女のそれに気付く者は居なかった。
顔中真っ赤に血に染めて、咲夜がパタパタと右手を振る。ナイフを持ったまま。
今までの事から、美鈴はついつい身を引いてしまう。
…ナイフが飛んで来そうで。

「おぉっと、こいつは殺伐とした夜だな」
「だから言ったでしょう。付いて来ない方が良いって」

突然聞こえて来たその声に、二人はぎょっとして振り返った。
其処に居たのは、既に進入していたらしい霧雨魔理沙と、紅魔館の居候、パチュリー・ノーレッジだった。
魔理沙は興味津々にそれを覗き込み、パチュリーは持って来ていた本をペラペラと捲っている。

「珍しいわね、ワーウルフ。レミィには及ばないけど、高い再生能力を持ち、脳や心臓は多少の傷なら回復してしまう」
「へぇ、それじゃこの状態はどうなんだっ?再生するのかっ?しないのかっ?」
「んっ、こほ、……これが多少の傷な訳無いでしょ。…まあ一応、燃やしておこうかしら」

輝かんばかりの瞳で質問をする魔理沙に、パチュリーは紅くなった頬を、咳き込む振りで誤魔化した。
そんな二人の姿を見て、咲夜と美鈴の肩から力が抜ける。
パチュリーがアグニシャインで残骸を燃やすのを横目に見た後、魔理沙はにんまりと笑った。

「しかし…、半裸の血塗れメイドと、扇情的なノーブラチャイナか。こういうのを眼福って言うんだろうなぁ」
「なっ!?」
「ええ!!」

………それは酷くマニアックでもあったが。
その言葉に、血塗れメイドと扇情チャイナが慌てて前を隠す。
ギリギリで避けた腕はそれほどまでに勢いが在ったのか、見れば、咲夜のメイド服は丁度胸の下半分から、臍で巻いているエプロンの帯までが破れ、服の上からは想像も出来なかったふくよかな乳房と、セクシャルな助骨がが露になっている。
ついぶっ飛んでしまった時には、面倒臭がってスカートをナイフで切り裂いた為、足の付け根辺りまでが見えてしまっていた。そのスリットっぽさは、ある意味二人、お揃いである。

「とっ、時よ止まれぇ…っ!」

普段肌など見せぬ、意外と純情な悪魔の狗が、涙声を上げるのも無理はなかった。



そしてあれからちょっとすぎ。
きっちりと服を変え如何にか落ち着いた咲夜と、ちゃんと着替えてきた美鈴は、疲れた身体を引き摺りながらも客間へと足を運んだ。
後片付けは他のメイド達が率先してやってくれた為、咲夜も美鈴も後はシャワーを浴びて寝るだけだと思っていたのだが……、好奇心を大発生させた魔理沙の視線に負けたのだ。
とは言え、紅魔館としては稀に在る事だけに、二人は口を揃えてこう言うしかないのだが。

「「いつもの事よ」」
「いつもの事かよ」

びしっと魔理沙が突っ込んで、今回のちょっとした騒動はお仕舞いである。
パチュリーは魔理沙の美しい突っ込みに、惚れ直すしか無かったとか。



おち。 博麗神社



「れいむぅ…」
「れっ、レミリア!?」

げしげしと妖怪虐待…では無かった、調伏をしていた霊夢は、吹っ飛ばされた鳥居の下、階段から上がって来たレミリアを見て珍しく慌てた姿を見せた。
それもその筈、五百もの歳月を生き、強大な力を誇った夜の王…幼きデーモンロードが、まるで負けたかのような様相で歩いて来たのだ。よたよたと。

「如何したの!?まさか負け…っ、うぅん、そんな事は如何だって良いわ!怪我は無い!?何処か痛い所は在る!?」
「怪我は…、治ったから…平気よ」

力無く、しかし気丈に少女は言う。
あれほど決まっていたドレスは無惨に裂かれ、白い肌と少女の蕾が露になってしまっている。
ほつれた髪が頬に掛かり、俯き加減の瞳は、何とか目の前の彼女に向けようと必死になっていた。
普段は誇るように広げられている翼も縮こまり、ドレスも肌も泥に血に汚れ、その姿はまるで…、
そう、…まるで、………。

「…兎に角、今お風呂を沸かすから上がって、…大丈夫よ、何も言わなくて良いからね?」
「うん…」

唖然とその様子を見ていた猿に、レミリアは、
にやぁ…、
と悪魔のそれで笑ってみせた。
勿論、霊夢には見えない角度で、しかし絶対確実に。

「霊夢…、今夜は…」
「うん、一緒に寝てあげるからね。だからまず綺麗にしなさい」
「…うん」

俯きながら、内心レミリアは、ふふふと笑った。
これも作戦である。
欲しいものを手に入れる為ならば、どんな事だろうとするのだ。だって悪魔だし!
まずは兵糧で釣り、次は情で釣るのだ。
その後にも、様々な段階に分けて彼女の頭には計画が成り立っている。
名付ける必要も無い、まさに霊夢ゲット作戦である。
彼女を手に入れる日は近い!
祝福の月を背に、レミリアは密かに笑うのであった…。



今度こそお仕舞い。
どうもこんばんわそしてすいません絵描人ですよ!

詰め込み過ぎです。誰が如何見ても詰め込み過ぎました。そして趣味に走りました。
殺伐とした凄惨な夜。兎に角、格好良く、その中に在るちょっぴりエロス。それが絵描人のジャスティスです。…他に誰も居なそうなんで、ロンリーウルフですね。フフフ。…少しでも表現出来てると良いなぁ(トオイメ
今回魅せたつもりの四人は、魅力的な東方キャラの中でも、何と言うか絵描人的に、格好良い&可愛いという部類に入ると思ったのです。そうしたら前回と同じく、こう…手が勝手に。でも文花帳のルーミアがめっさ可愛い&強いと思ナニヲスルキサマー!
作中のメイド長と同じく、絵描人もトランスしたように書いたので、途中の継ぎ接ぎ部分を繋げるのが大変でした。

さて、その中でも一番悩んだのが、十六夜咲夜の持つ…時間を操る程度の能力です。
プライベートスクウェア。パーフェクトスクウェア。
果たして名前通りに取って良いものか、奥の見えないメイド長だからこそ悩みます。
まだまだ突き詰める必要が有りそうです。むむ…。

まあ取り合えずですよ、最後まで読んで頂いた方、本当に有難う御座いました!

追記・誤字誤表現等有りましたら、ご指摘お願いします。…そんな風に見えてしまうのも多いかも知れませんが!(汗
絵描人
http://www.yoroduya.org/
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コメント



0.5010簡易評価
4.100削除
あー、そのー、なんだ。
頑張れレミ様。きっとその努力は報われる・・・ことはないだろうけれど。
18.100まっぴー削除
はぁぁぁぁ…………(恍惚

美鈴の口上から始まり、締めは咲夜さん暴走……
気持ちいいくらい殺伐でした。やばい、酔ったかも……

しかしれみりゃ。お前は何やってんだ五百歳児。
猿も突っ込め。いいから突っ込んでやれ。
22.90翔菜削除
よし! そのレミリア様は僕がいただk(殺人ドール
っていうか咲夜さんはp(ソウルスカルプチュア

冗談はさておき(本気だが)みんなかっこよかったです、はい。
23.90名前が無い程度の能力削除
別の何かでレミィと霊夢の続きが見たいですねぇ♪
他にはどんなこと考えてるのだろう、気になる。。
34.70変身D削除
数々のガチ勝負、痺れました。
紅魔館にはやはり殺伐が似合う、そう思わせて頂きましたです(礼
36.80ぐい井戸・御簾田削除
やっぱり
れみりゃは
えろい

41.無評価絵描人削除
レス有難う御座います絵描人です!

前回のイメージで読みたかった方をさくっと裏切る今回の話。
次回は変な壊れ系ですので良ければ期待を!(宣伝

レミリア>今回はまともに!と思っていたのですが…やっぱり霊夢好きになっていました(汗

殺伐>今後もより一層魅せられるように頑張りますよ!

全部にレスしてしまうと文が長くなってしまうので、レスの欠片に返す事をお許し下さいませ。
それでは失礼します。有難う御座いました~
50.100rock削除
こういう話が読みたかったのです…。最高ー
68.100霊万手韻削除
まず一言

Good Job!!

最高です。
対多勢殲滅(ナンカ違)用な自由的門番"紅美鈴"最高です!
やっぱかっこいい中国はいいなぁ、そしてノーブr(彩虹

にしてもこんな面白いことになってるのに妹様は何をしていらっしゃったのだろうか
70.100れふぃ軍曹削除
もう終始ぞくぞく、鳥肌立って読ませて貰いました。

霊夢、美鈴。
そしてレミィに咲夜。みんな格好良すぎです。
まさに私の中の、理想の紅魔館メンツっ!
81.90名前が無い程度の能力削除
咲夜さんが翠夢想で、傷符or傷魂発動の瞬間に目が紅くなる演出が大好きなんで、あの部分の描写に大満足です。
イっちゃってる咲夜さんも純な咲夜さんもイイ!
あと悪魔なれみりゃ(笑
86.100名前が無い程度の能力削除
おおお、面白いなぁ。
この殺伐さが似合うこと……。みんなかっこ良すぎです。
104.100名前が無い程度の能力削除
こんな殺伐とした雰囲気が当たり前と言わんばかりの紅魔館組が素敵。
あと悪魔ッ子なレミィ可愛いなww
105.80名前が無い程度の能力削除
美鈴かっこいいよ美鈴

114.90名前が無い程度の能力削除
なんて表現したらいいか分からないけど
( ゚∀゚)o彡゜したい感じです