Coolier - 新生・東方創想話

文々。御年始巡り

2006/01/02 06:09:07
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朝日が顔を出すか出さないかという時間。まだまだ暗さが残る時間。私の朝はそれなりに早い。特に今日はそのいつもよりも少し早い。何たって今朝は初日の出。『文々。新聞』の記者として、取材しない訳には行かないじゃないですか……。

と言う訳で、皆さんおはようございます。射命丸文です。今、私は紅魔館の屋上に来ています。何故こんな所にいるかって? そりゃあ、ここなら周りが湖で見晴らしがいいですし、朝日を見るなら高台の方がいいですからね。ただ、無断で屋根に上がっているので見つかるとちょっとマズイかもしれません……。なので、出来るだけ息を潜めて取材したいと思います。

天気の方は、昨日までの雪がまるで嘘のような空模様。気温は氷点下で風は穏やか。空気が澄んでいるのがよく分かります。この分なら今日一日は良く晴れそうです。そして、只今の時刻は午前5時半……。これは日の出には少し早過ぎましたね……。仕方ありません、寒いですけど少しこのまま待ちましょうか。

ただ待つだけというのも退屈なので、今日の紙面のレイアウトでも考える事にしましょう。まずは初日の出をトップ記事に。これは外せませんね。……でも、これだけじゃあ紙面が些か寂しいです……。何か他に良いネタは無いものでしょうか……うーん……。……そうだ! せっかく年が明けたんですから、挨拶回りがてらに幻想郷の皆さんの様子を観察……いやいや、拝見させてもらいましょうか。取り敢えずは博麗神社と紅魔館、それに永遠亭と白玉楼……よし、この位でオッケーですね。……おっと……、そうこうしているうちに日が昇ってきたようです。トップ記事のネタを逃す訳には行きません。写真に収めなければ……。パシャリ、パシャリと時間を追って数枚撮影……。うん、どれも良く撮れてますね。後でこの中からベストショットを選んでおくとしましょうか。

さあ、写真も撮れたし、残りの紙面は幻想郷の元日を! そうと決まれば一度帰って取材の準備をしなくては!















――紅魔館にて――

時刻は午前9時。再び紅魔館にやってきました。さっきは暗くて気付かなかったんですが、湖が綺麗に凍ってますね……氷精さんがスケートをしています。気持ち良さそうです。素足ですけど……。さて、紅魔館の皆さんは一年の初めをどのように過ごしているのでしょう? 早速、取材をしてみたいと思いま……

―――ペシャ

「うわっぷ……」

な、な、何ですか? この突然顔に激突してきた冷たい物は……。

「って、雪玉……?」
「あー、ごめんごめん! 大丈夫?」
「め、美鈴さん……?」
「この辺ちょっと危ないかもよ?」
「危ないって……何をしてるんですか?」
「ん~、まあ見ての通り……なんだけどね」

見ての通りって……、うわっ、周りをよく見てみればあちらからこちらへ、こちらからあちらへとかなりの数の雪玉が……。何というか壮絶な雪合戦が繰り広げられてるではないですか……。それに、参加してるメイドの方達ってほとんどが門番隊?

「す、凄まじいですね……」
「みんな本気だからねぇ」

雪合戦で本気ってどうなんだろう……。でもこれは良いネタになりそうです。少しこのまま美鈴さんにお話を伺ってみましょう。

「突然ですが美鈴さん」
「うん?」
「雪合戦のコツとかってありますか?」
「え、コツ……?」
「はい。テクニックとかでも構いませんが」
「うーん、コツとかテクニックっていう感じじゃないんだけど、言うとしたら雪玉の作り方かなぁ」
「雪玉の作り方?」
「手数で攻めるなら作りやすい小さめの雪玉。威力を狙うなら大きめの雪玉とか少し硬く握った雪玉とか……」
「なるほど、戦略に応じて雪玉を作り分けると言う訳ですね」
「他にも中に石を入れるとかね」

ちょ……さすがにそれは反則では……。というか当たったら痛いどころでは済まないと思うんですが……。

「石……ですか……」
「みんな結構色んな物入れてくるよ。クナイとか」

もはや雪合戦ではないような気がします。

「後は相手にスキを見せないって事かな」
「ふむふむ」
「みんな容赦無いからね。少しでもスキを見せたら的にされるよ」
「確かに。でも、今なら美鈴さんスキだらけですね。ホラ、後ろ」
「え?」
「隊長~、覚悟!!」
「ちょ! えぇぇ! それはでかい! でかすぎだって!」
「それっ!」
「雪玉は直径10cmまでぇぇぇ!!」

―――ズシャア……

あー、美鈴さん埋まっちゃいました。完っ全に雪に埋まってしまいました。あの雪玉、目測でも直径1mはありましたね……大丈夫でしょうか……。

「美鈴さーん、大丈夫ですか?」

ああ、雪玉から飛び出ているマフラーに何だか哀愁が……。このままなのも可哀想なので助けてあげましょう。マフラーをグイッと……。

―――ボコッ……

よし、ちょっと手荒でしたが救出成功です。

「あうう、苦しいぃ~。首が絞まるぅ~」
「美鈴さん、美鈴さん、お話の続きよろしいですか?」
「マフラー放してぇ~」
「あ、これは失礼。うっかり引っ張ったままでした」
「っはぁ……はぁ……。ありがと……」
「ところで美鈴さん、この雪合戦の発端を教えていただけませんか?」
「え、発端?」
「ええ、発端です」
「うーん、いつの間にかだったからなあ……。確か、雪合戦の前は雪かきをしてて……」
「雪かき?」
「うん。それがいつの間にか雪合戦になって………………」

あれ? 美鈴さんどうしたんでしょう。急に青くなってガタガタ震えてます。風邪ですか?

「みんな! ストップストップ! 雪合戦ストップ!!」
「えー、隊長どうしたんですか?」
「私達の注意を逸らせようったってそうは行きませんよ!」
「それー!」

―――ペシャ
―――バシャ
―――モスッ……

美鈴さん、的になってます……。

「待って待って! そうじゃなくて! 私達が雪合戦の前に何してたか思い出して!」

「へ?」
「は?」
「あ……」

今度はメイドの皆さんが固まってしまいました。って何か館の方から殺気が……。ちょっと逃げたほうが良さそうです。

「咲夜さんから言い付かった雪かきが全然終わってないぃぃ!」
「キャアァァ!」
「メイド長に怒られるぅぅ!」
「わ、私達は何て事をッ!」
「貴女達……もう遅いわよ……。ずいぶん楽しそうだったわねぇ」

―――ドスッ……

「ひいぃぃぃぃ!」
「あぁ! 隊長ぉ!」

……なるほど、大体見当は付きました。でも、制裁も雪玉なんですね……。あ、また美鈴さん埋まっちゃいました……。……何だかここにいると私も巻き添え食らいそうなのでそろそろ次に行きましょうか……。紅魔館では情け容赦無しの雪合戦が勃発していた……と。メモメモ。

「破山砲脱出!」
「あら、復活したわね。じゃあ美鈴、どんどん行くわよ」
「ああぁぁぁ……」
「た、隊長ぉ……!」

……制裁と言っても、アレはアレで楽しそうですね……。










――白玉楼にて――

時刻は午前11時半。今度は白玉楼にやってきました。ここも雪が凄いですね。屋根の雪下ろしとかしなくて大丈夫なんでしょうか……今にも軋みそうなんですが……。おや? 何だか良い匂いがしてきますね。そういえばそろそろお昼の時間ですか。もしかしたら一緒に何か頂けるかもしれませんねぇ。では、早速取材をしてみましょう。

「こんにち……わぁぁぁ!」
「幽々子様! それは鏡餅のみかんですよ! 食べちゃ駄目です!」
「えー、1つ位いいじゃない」
「駄目です!」

えーと……、少々取り乱してしまいました。そりゃ玄関開けた途端に鉢合わせすりゃあねぇ……うん。今も屋敷の何処かからドタドタドタという二人分の足音が聞こえてきます……。あ、静かになった。……では改めまして……

「こ、こんにちはー……」
「え、あ、あぁ文さん、いらしてたんですか。すいません、ちょっと取り込んでたもので」
「いえいえ……」
「今日はどうしたんです?」

出迎えたのは妖夢さん。手にみかんを持っているという事は、どうやら幽々子さんからの奪還に成功したようです。年明け前からこんな調子だったんでしょうか……。苦労お察しします。

「……文さん? 私の顔に何か付いてますか?」
「あ、いや、すいません……つい……」
「?」
「え……えっとですね、今日は皆さんがどんな年明けを過ごしているかを伺いに来たんです」
「なるほど。あ、それなら今お雑煮作ってますから一緒にどうです?」

おお、密かに狙い通りです。お昼ゲット~、やった。

「良いんですか?」
「どうぞどうぞ、遠慮しないで下さい。いっぱいありますから。じゃあお台所に案内しますのでついてきてください」
「どうもすいません。お言葉に甘えさせていただきます」

やっぱりお正月はお餅ですよね……って、妖夢さん今お台所って言いませんでした?

「じゃあ、文さんは竃(かまど)のお鍋の様子を見ていてください。私は餅を焼いておきますから」

一緒にってこういう事ですかぁ……。てっきりお昼をご馳走してもらえるものと思っていましたよ。でも、さっきの騒ぎを見てると妖夢さんの気持ちも分からないでもないです……。やっぱり、お昼は一度帰るしか……

「安心してくださいよ。ちゃんとご馳走もしますから」
「は……はぁ、どうも」

心の中を読まれたような気がします……。余計な事はあまり考えないほうが良さそうですね……。
さて、程なくしてお雑煮が完成しました。んん~、美味しそうです。さすがは妖夢さん。

「幽々子様が待ち侘びているはずですから、持ってって一緒に食べましょう」

待ってました。私も待ち侘びていました。時刻は進んでちょうどお昼。鼻歌交じりでお鍋を運びます……ってでかいですねこのお鍋。とても一人では運べません。鼻歌なんて歌っていられません……。

「幽々子様ぁ、お雑煮が出来ましたよ」
「あら、遅いわ妖夢。お昼を3分過ぎちゃったじゃないの」
「す、すいません」

3分って……。幽々子さん、変なところで時間に厳しいです。

「そちらはお客さんかしら?」
「あれ、私の事覚えてませんか? 射命丸文ですよ」
「あんなに昔の事は忘れたわ」
「覚えてるじゃないですか……。それに前にお会いしたのはそんなに昔じゃありません」
「そうだったかしら? ねえ妖夢?」
「幽々子様は過去の事を忘れすぎるんですよ。昨日の晩御飯も覚えてないでしょう?」
「失礼ねぇ、覚えてるわよ。確か焼き魚だったわね」
「お蕎麦です」

まあ……何と言うか、のんびりしているのは悪くないとは思います……。そう言えば幽々子さん、さっきから何か食べてますね。何だろう?

「幽々子さん、それは何ですか?」
「これ? 栗と干し柿よ」
「栗と干し柿?」
「ええ。歯固めと言って、お正月にこういう物を食べる風習があるの」
「ほうほう。でも、何でお正月に食べるんです?」

……って、幽々子さん、栗の皮剥きに夢中になっちゃってます。鼻歌まで歌って……さっき私が歌いそびれたのにぃ。……何かすっごく幸せそうです。

「それはですね、『歯固め』の歯の字には“齢”という意味があって、お正月に栗・干し柿・猪・鹿・押鮎・大根・瓜などを食べることで長寿を願うって事なんですよ。後は鏡餅なんかもそうですね」

おや、妖夢さんが代わりに答えてくれました。

「へぇ……、そうなんですか。幽々子さん、私も頂いて良いですか?」
「ええ、どうぞ」
「おぉ、干し柿甘くて美味しいです~」
「ありがとうございます。実は自家製なんですよ?」

これは驚きましたね。自家製干し柿ですか。何と言うか、やはりさすがです。

「ところで、長寿を願うと仰ってましたが、幽々子さんがこれらを食べる意味はあるんですか?」
「あー……、あんまり無いかも……」
「美味しいからいいのよ」

細かい事は気にしないんですね……。

「はい、お雑煮よそリましたよ。文さんもどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「よーむ、お代わり頂戴」
「食べるの速いですよ幽々子様……」

せっかちなんだかのんびりなんだか分かりませんねこの人は……。……まあ、お昼にもありつけた事だし、食べ終わったら次に向かうとしましょう。白玉楼では特製雑煮が振舞われていた……と。メモメモ。










――永遠亭にて――

時刻は午後2時。永遠亭にやってきました。うわぁ、どこも雪が凄いですね……。それに兎達が多いせいか、賑やかですねここは。お、お餅つきも行われているようです。もの凄い速いテンポです。双方の息がピッタリじゃないと成せない業ですね、あれは。さすがです。あ、失敗……痛そ……。

―――カンッ……
―――カンッ……

ん? 何の音でしょう? あちらの方からですね。早速行って取材してみましょう。

「それー! トリモチ攻撃!」
「うえあ!? ちょっとてゐー!」

―――ドサッ……

「はい、鈴仙ちゃんミス~」
「い、今のは反則でしょお!?」

なるほど。さっきの音は羽根つきの音でしたか。てゐさんと鈴仙さんが楽しそうに(?)対戦しています。

「失敗は失敗だよ~。ホレ、墨」
「いやあぁぁ……」

ああ……、鈴仙さんのお顔が大変な事に……。それにてゐさん、それトリモチじゃなくて普通のお餅じゃないですか……。食べ物を粗末にすると巫女さんに怒られますよ? 色々と。

「こんにちは。お二人共楽しそうですね」
「あ、あんたはいつかの新聞屋」
「楽しそうに見えるぅ……? うう……」

泣かないで下さい鈴仙さん。その状態で泣くと墨で大変な事になりますよ……。

「今日はどうしたの? 年明けだから私のお賽銭箱にお賽銭を入れにきたのかしら」
「賽銭詐欺はもういいですよ……。でも、年明けだからってのは合ってますね。今日は永遠亭の皆さんの様子を取材に来たんですよ」
「ふーん、そうなの」
「皆さんの様子って……ちょっと、まさか今の私のこの顔なんか写真に撮ってないでしょうね!?」
「あ、なるほど。それはいいネタになりそうですね」
「あ……」
「鈴仙ちゃん、なに自滅してんの……」

ふふふ、鈴仙さんのお顔を激写……って、冗談ですよ、冗談ですってば。だから羽子板のカドだけは勘弁してください……。

「うわーん、撮られたぁぁ」
「撮ってませんってば……。ね?」
「あー、鈴仙ちゃん……泣くから顔凄い事になってるよ……。ホラ、これで拭きなよ」
「あ、ありがと……って、てゐ! これ私のマフラー!」

いやあ、ははは……。この二人は数多くの兎達より賑やかですね……。

「ところで、永琳さん達はどこに?」
「ん? 姫様だったらあっちの方で羽根つきしてるけど……多分永琳様も一緒じゃないかな」
「そうですか。ありがとうございます」
「大丈夫だと思うけど、一応気をつけたほうがいいよ~」
「どういう事です?」
「ちょっとね……あででで! 鈴仙ちゃんゴメン、ゴメンってば! 耳痛い痛い痛いッ! ねじらないでー!」
「こ、このマフラーお気に入りだったのにー!」

ま、まあ楽しそうで何よりです……。それにしてもさっきのてゐさんの言葉が気になりますね。羽根つきの何に気をつければいいのでしょう……? やっぱ墨?

―――カンッ……
―――カンッ……

あ、聞こえてきました。確かに羽根つきをしているようです。輝夜さんと永琳さんがしているのでしょうか。ん? 何故かこの辺りは雪がありませんね……。

「そらー! 食らえ輝夜ぁ! 火の玉!」
「あら……駄目じゃない妹紅、羽根を燃やしたら羽根つきにならないじゃないの」

どうやら、永琳さんではなく妹紅さんが相手のようですね。永琳さんはというと……あ、いました。縁側でお二人の羽根つきを観戦しているようです。隣にいるのは慧音さんですか。対戦の邪魔をしては悪いですから、あのお二人にお話を伺う事にしましょう。

「こんにちは」
「おや、貴女は確か何とか新聞の……」
「『文々。新聞』の射命丸文です」
「おっと、そうだったな。すまんすまん」
「また何かの取材かしら?」
「鋭いですね」
「貴女が取材の他にどういった用事で来るのよ」
「それを言われると返す言葉に困ります……」
「ははは。して、今日は何の取材なんだ?」
「えっとですね、皆さんが年の初めをどのように過ごしているかを取材して回ってるんです」
「なるほど。それで今は私達の番という事ね」
「ええ、その通りです」
「なぁに、私達は特に変わった事はしてないさ」
「そうね、大抵の事はウドンゲ達に任せてあるし」
「てゐさんと鈴仙さんならさっき向こうで羽根つきをしてましたよ?」
「……サボりかしら。後で問いただしたほうが良さそうね」

何だか私、今余計な事を言ったかもしれません。心の中でてゐさんと鈴仙さんに謝っておきましょう。そうそう、てゐさんと言えば……。

「さっきそのてゐさんに輝夜さんの羽根つきには気を付けろと言われたのですが?」
「ああ、それならあの二人の間の特殊ルールの事だろう」
「特殊ルール?」
「普通ならミスをした方が筆で墨を付けられるだろう? あの二人の場合は……」
「これでどうだ輝夜っ!」
「甘いわよ。はいお返し」
「あッ……」
「ふふふ……、ミスったわね妹紅。覚悟なさい! ブディストダイアモンド!!」

え……。羽根つき中にいきなりスペルですか……?

「あの二人の場合は、ミスったら致死ダメージなんだそうだ」
「この辺りの雪が消し飛んでるのはこういう事ですか……」

でも雪かきの手間は省けますね……。意外な利点発見です。

「いつもの勝負もこの程度なら屋敷への被害も少なくて済むんだけど……」
「お二人共手を抜きませんからね……」
「すまないな永琳どの……。妹紅には私からよく言っておく」
「貴女が謝る事じゃないわ。でもお気遣いありがとうね。……そうそう、話は変わるけどお屠蘇がまだ残っているのよ。良かったら二人共どうかしら?」
「そうか? じゃあありがたく頂こう。記者さんはどうだい?」
「そうですねぇ、一応仕事中なので少しだけ頂きます」

これは嬉しい収穫ですね。取材はこの辺にしてゆっくりお屠蘇を味わうとしましょう。永遠亭では命を懸けた羽根つきが行われていた……と。メモメモ。










――博麗神社にて――

時刻は午後4時半。永遠亭で少々飲みすぎましたか……ちょっとクラクラします。でも、後はここを取材すれば終わりです。頑張ろう。……ん? どうやら縁側にいるのは霊夢さんだけではないみたいですね。新年早々宴会でもしてるんでしょうか。取材してみましょう……あぁ頭クラクラする……。

「こ、こんにちはぁ」
「あら、新聞屋ね」
「何だ? また随分と覇気の無い奴が来たな……」
「す、すいません。お屠蘇を少し飲みすぎまして……」
「言っとくが酔い止めの薬はここには無いぞ」
「いや、別にそれで来たわけでは……」
「じゃあ、年始のお賽銭かしら? 素敵なお賽銭箱なら外よ」

またお賽銭ですか……。さっきも似たようなやり取りをしたんですが……。

「違いますよ。今日は皆さんの年始の様子を伺いに来たんです」
「そうなのか? 私はてっきりこの餅の匂いに釣られてやって来たのかと思ったが……」

いや、確かにさっきから霊夢さんが七厘でお餅を焼いていますけど……。私はそんなに食い意地張ってるつもりはありません。

「そういう魔理沙さんはどうしてここに?」
「餅の匂いに釣られてだ」
「正直ですね……」
「そりゃどうも」
「どっちでもいいけどお餅が焼けるわよ」

ぷくーっとお餅が膨らんできました。ぷくぷくぷく……ぷしゅー。ああ、香ばしい匂い。ふふ、そろそろ食べ頃ですね。

「あんたそこに突っ立ってるんだったら台所からお醤油と海苔を持ってきてくんない?」
「え、わ、私ですか?」
「お賽銭を入れに来たんじゃないんでしょ? だったらいいじゃない」

凄い理屈です……。

「分かりましたよ……」

まったく、霊夢さん意外と他人使いが荒いですね。でも逆らうと取材させてもらえなさそうなので大人しく従っておきましょうか……。台所のお醤油と海苔……おや? この重箱は……? おぉ、おせち料理ではありませんか。しかもかなり豪華です。霊夢さんもこういうの作れたんですねぇ……見直しました。

「ちょっと~、まだぁ? お餅焦げちゃうわよ」
「はいはい、ただいま!」
「お前すっかり使われてるな……」

なんの、これも取材の為です。

「霊夢さん、台所におせちがありましたがあれは貴女が作ったんですか?」
「違うわよ」
「え、じゃあ魔理沙さん?」
「魔理沙でもないわ。あれを作った張本人なら境内の方で自分の式と遊んでるわよ」

ああ、なるほど。誰が作ったか見当が付きました。せっかくですからちょっとそちらにもお話を伺ってみましょうか。

「境内ですね。ちょっと行ってきます」
「お賽銭入れてきてもいいわよ」

お醤油と海苔取ってあげたじゃないですか……。あれはお賽銭の代わりにという事じゃあなかったんですか? まあ、お賽銭くらいだったらどちらでもいいですけど……。ん……、確かに境内の方から声が聞こえてきましたね。随分楽しそうな声です。

「こんにちは」
「くっ、なかなかやりますね紫様……」
「ふふふ、藍こそ……」
「今度こそ! それっ……あッ」
「甘いわよ藍」

……えーと、何でしょうこのお二方は……。それにこの場にいないはずの方がいるようですが?

「藍、次が最後の1本よ」
「望むところです!」
「あのー……盛り上がってるところ悪いんですが……」
「悪いと思うなら後にしてくれ。勝負! それっ」

二人共すっかりコマ遊びにのめり込んでしまってます……。あ、藍さんのコマが弾き飛ばされました。

「ま、参りました紫様……」
「だいぶ手こずらせてくれたわね」
「えっと、そろそろよろしいですか?」
「あら、貴女は……」
「『文々。新聞』の射命丸文です。そのコマは一体どうしたんです?」
「スキマを大掃除したら出てきたのよ」

貴女のスキマは倉庫ですか……。ま、まあコマの事はどちらでもいいです。

「そ、そうですか。それより、神社の台所にあったおせちを作った方がこちらにいると聞いたのですが」

霊夢さんの言葉からして、私はあのおせちを作ったのは藍さんだと思っていたのですが……。この状況、もしかして……。

「ああ、あのおせちなら紫様が作ったものだよ」

あらやっぱり。

「貴女まで意外そうな顔をしないで頂戴……。藍だって最初に見せたら失神しかけるんだもの……私悲しいわ……」

いや、でもそりゃあ驚きもしますって。普段家事どころか料理もしない方が、しかも本来なら冬眠しているはずの時期に、手間の掛かるおせち料理を突然作って現れたら私だって失神しますよ……。

「あぁ失礼しました……。でも凄いですね。冬眠を押しのけてまであれ程のおせち料理をお作りになるとは」
「なんてことは無いわよ。あのおせちだってスキマを大掃除してたら……」
「ちょ……紫様……!?」

待って……ストップ。その先は聞かないほうが良さそうです。というか、既に聞いてはいけない事を聞いてしまったような気がします……。藍さんも知らなかったようですし……。とりあえずこの事は霊夢さん達には伏せて起きましょう。知らぬが仏です。

「もしかして紫様がわざわざ冬眠から起きてここに来ようと言い出したのは……」
「死なば諸共、食中毒」

さっきつまみ食いしなくて良かった……。

「藍さまー! こんなもの見つけましたよー!」

おや? あれは橙さんですね。手に持っているのは凧かな?

「おお橙、それは凧か?」
「はい、神社の倉庫にありました。揚げてみましょうよ」
「しかし、凧は風がないと揚がらんぞ?」
「えー?」

確かに今日は風がほとんどありませんね。これでは凧を揚げるのは難しそうです。

「あらぁ橙、良かったわねぇ。ここに天狗さんがいるわよ?」

いててて、腕を引っ張らんで下さい紫さん。動物虐待は……あててて、分かりました分かりましたって……。ちょっとした風くらいなら起こしますから両手を自由にさせてください……。藍さんもそんなに睨まないで……。

「じゃ、じゃあいきますよ? それっ」
「今だ、橙、風上に向かってダッシュ!」
「はいッ」
「電線には気を付けるのよぉ」

え……、電線って何の事ですか紫さん……。

―――ビュオオォォォ……

「わーい、揚がりましたよー」
「おお、結構高く揚がりましたね」
「うむ、いい風だ。その調子で頼む」

はいはい……。でも、こうして見るとあの凧も気持ち良さそうですね。橙さんも楽しそうですし……って、橙さん?

「お、お、お、おー?」
「あら、橙ったら凧とお空のお散歩かしら?」
「紫様! 何のんきな事言ってるんですかっ。おい! 風が強すぎるぞ!」
「わ、私はもう風を操ってはいませんよ……?」
「何だって!? ちぇーん! 手を離すんだぁ!」
「うわーん、藍さまー」

ひ、東の風……これは正月に吹く冬の風、初東風(はつごち)ですね……。

「と、とにかく追いかけましょう」
「……あんたら何やってんのよ……」

―――プツッ……

あ……霊夢さん、凧糸切っちゃった。

「霊夢! 助かった……すまない。危うく橙が凧と一緒に揚がってってしまうところだったよ……。橙、大丈夫か?」
「び、びっくりしましたぁ……」
「突然現れる紫といいお前達といい、相変わらず賑やかな一家だぜ……」
「あらん、賑やかなほうが楽しいじゃない?」

ちょっとは呆れられている事に気付いてください……。でも、確かにこの方達と一緒だと何かと賑やかで楽しいですね。せっかくだからもうちょっと取材していきましょうか。

「ちょっと早いけど、そろそろ夕飯にするわ。あんたらどうする?」
「お、いいねぇ。年明けの宴会といこうぜ」
「取材もここで最後ですし、私も参加させてもらおうかな……」
「じゃあ紫、さっきのおせちを持ってきてくんない? 台所にあるから」
「んもう、霊夢ったら妖怪使いが荒いわねぇ」
「さっさと行くッ」

……前言撤回ッ。

「あ、あぁやっぱり編集が残ってるので私はこれで失礼しますっ」
「そう? 別にどっちでもいいわよ」
「で、では……」

ふー、危ない危ない。あんな曰く付のおせちは食べたくないです……。食べたらどうなるか分かりませんし。アレの出所についての紫さんの発言を知っている藍さんも、橙さんを連れていつの間にかにいなくなってました。紫さんは……、まあ“死なば諸共”とか言ってたし……。でも、ちょっとお腹は空いてきましたね。私も帰ったら夕飯にしましょうか。博麗神社では猫と凧が風に乗っていた……と。メモメモ。















ふう、これで予定していた分は一通り回り終えました。これだけあれば新年号には十分でしょう。只今の時刻は午後6時。これから編集をかければ明日にでも発行できそうですね。

―――「もーいーくつねーてもー、ねーしょーおーがーつー♪」

あ、どこかでミスティアさんが歌ってますね。ふふ、また時期になったら屋台にお世話になりますよ?

……さあ、初日の出に紅魔館、白玉楼と永遠亭、そして博麗神社。気合を入れて編集に取り掛かりますか! 皆さん、今年も『文々。新聞』をよろしくお願いします!





只今の時刻は午後9時。文は新聞作成に勤しんでいます。


明けました、lesterです。正月の磯辺餅にはもう飽きました(早。そろそろ黄粉餅な気分。親戚から大量に送ってくるんで結構大変です(汗。

皆さんは初詣もう済ませました? 私はまだです。忘れないうちに行かないとなぁ……。やっぱり御神籤が気になるので(中吉祈願。


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コメント



0.1980簡易評価
15.90hima削除
いいね、文さん!
どうでもいいけど文さんを
「ぶんさん」って読みたくなるの俺だけ?
19.無評価まっぴー削除
初詣いけないんだよこん畜生……orz<三が日ずっと仕事で……

おせちで食中毒、っていうのは記事にしなかったのか?
20.60おやつ削除
初詣行ってないよーorz
それはそうと、随分と可愛らしい新聞屋さんだと思います。
食べ歩いてばっかな気もしましたがw
24.無評価無限に近づく程度の能力削除
あわれ鈴仙・・・
25.80無限に近づく程度の能力削除
おっと点入れ忘れ
50.80名前が無い程度の能力削除
寝正月ワロタwwww