Coolier - 新生・東方創想話

蜜柑の悲劇

2006/01/01 01:18:55
最終更新
サイズ
9.72KB
ページ数
1
閲覧数
661
評価数
7/80
POINT
3560
Rate
8.85
※ぶっちゃけ題名は内容にほとんど関係ありません
 輝夜が吹っ飛んでます。用法容量は正しくお使いください









大晦日。一年最後の日であり、新年を気持ちよく迎える為の準備の日でもある

勿論、ここ幻想郷でも新年を迎えるため誰もが忙しそうにしていた



紅魔館ではメイド長による指揮の下、チリ一つ見逃さないような大掃除をし

博麗神社では巫女が一応注連縄やら何やらを新年に向けて作り

白玉楼では騒霊三姉妹による年越しカウントダウンコンサートだかなんだかをする事になったらしい

そして・・・











~ 大晦日 慧音宅 ~


「今年も後数刻で終わり・・・か」


この家の主 ─ 上白沢 慧音 ─ は、掘り炬燵に入り、お茶を啜りながら呟く

大晦日から新年にかけての二日間は妖怪達も比較的落ち着き、人間を襲うことは滅多に無い

被害があっても襲われると言うよりは、イタズラをされるに近かったりする

そんな二日間なので慧音は見回りを普段より早目に切り上げた

その空いた時間を家の大掃除へと費やし、終了させたのはつい半刻ほど前

後は静かに家で新年を迎えようとしていた


「一年は長い様に思えるが、過ぎてみるとやはり早く感じる・・・か」



何気なく窓の外を見る

チラチラと白い物が降っているのが分かる。今夜も冷えるのだろう

そんな事を考えていると『コンコン』と玄関から戸を叩く音が聞こえてきた


「こんな時間に誰だ・・・?少し待っててくれ」


突然の来訪者に声を掛けると、考えを張り巡らせる

慧音の頭の中で百人の慧音によって繰り広げられる慧音会議の始まりだ



『これより慧音会議を始める。本日の議題は掘り炬燵から出るか否かだ』

『議長、論ずる必要も無い。客は丁重に迎えなければ失礼だろう』

『異議ありだ。この糞寒い中わざわざ出て行くのはバカのやることだ』

『もし客が大事な用事だったら・・・』

『炬燵の魅力を・・・』

『いやいや慧音・・・』



10秒に渡る長い議論の結果、『どの道蜜柑が無くなりそうだから取りに行くついでに行けば良いだろう』との結論に達した

重い腰を上げ、玄関へと向かっていく。目指すは蜜柑箱である

蜜柑を入れ物に取り、掘り炬燵に戻ろうとした時、再び『コンコン』と音がする


「やれやれ、本当に誰なのやら・・・」


軽く溜息をつきながら戸を開ける

が、しかし。外には誰も居ない

慧音がイタズラかと思った瞬間であった



ガシャァン、バギバギバギィッ!

「いるすたぁーどっだーいぶっ!」

「なあぁぁぁおぶぅっ!?」










「慧音・・・、まだ怒ってたりする?」

「いいや。お前が窓を破壊して家に突撃してきて尚且つ私にタックルよろしく抱きついてきて前のめりに倒れた事とか
 その時の衝撃で屋根のツララが落ちてきて私の顔を掠めて傷が出来てしまったこととか
 壊された窓から雪やら寒気やらが進入してきてせっかく上がっていた部屋の温度が下がってしまったこととか
 木片やら何やらが辺りに飛び散ってしまってせっかく掃除したのにもう一度掃除しなければならなくなった事とか
 まっっっっっっっっっっっっっっっっったく怒って無いからな?」

「ゴメンナサイ・・・」


窓から突っ込んできた張本人 ─ ミスティア・ローレライ ─ が謝る

謝罪の数は先程から数えて何十回目になるか分からない


「はぁ・・・。ま、随分と反省したようだからな。そろそろ頭を上げてくれ」


そう言いながら慧音はすっかり冷めた茶を飲み、新しく淹れ直す

湯気の出ているそれを少しずつ啜り、卓上に置く


「・・・もう怒ってない?」

「ああ、怒ってない」

「本当の本当に?」

「本当の本当だ」

「本当の本当の本当に?」

「国宝『三種の・・・」

「分かったから!だから弾幕だけは止めて!」

「よろしい」




やり取りを終えると二人は掘り炬燵へと入った

足を入れた途端、二人の顔が惚けたかのように緩む

実に恐ろしきは炬燵の魔力である

更に先程慧音が運んできた蜜柑が満載されているため、その効果は倍増

それは正しく入ったが最後、脱出不可能の要塞とも言えるだろう

二人はそれに自ら足を踏み込んでしまったのだ


「まぁそれはそれとしてだ。何か用があって来たのではないのか?」


慧音が蜜柑の皮を剥きながら話しかける

ベリベリと蜜柑の皮が剥けて行く様は見ていても気持ち良い、多分


「んー、用と言うか暇だっただけなんだけどねー」


お茶を啜りながら答えるミスティア

しばらくの沈黙が流れる・・・




モグモグ

「つまり用も無いのに人様の家を壊したと?」

「だからそれはさっきから何回も謝ったじゃない」

「それもそうだな」




ムシャムシャ

「しかし雀の主食は米粒だと思っていたが」

「そう言う迷信を信じちゃ駄目。そして私は夜雀」

「それは迷信なのか?」




ぱくぱく

「前々から思っていたんだが、爪がそこまで長いと不便じゃないか?」

「爪を無くした私に何が残ると思う?」

「んー・・・翼?」




もきゅもきゅ

「慧音、蜜柑が無くなりそうだよ」

「輸送歓迎中だ」

「やだ、出たら寒いもの」




もぐもぐ  ガッ

「慧音、これ以上胸に栄養が偏らないように最後の一つは私が食べてあげるから」

「いやいやミスティア、こういう時はお客様が遠慮するものよ。ってどこぞの亡霊が言っていた」


卓上で繰り広げられる蜜柑争奪戦

短い時間の中に幾重にも織り込まれたフェイントの数々


慧音が右手を蜜柑に差し伸べようとする

それをミスティアの左手が阻止。しかしそれは布石

慧音の本命、左手が蜜柑を捉えるべく見事な円を描きながら迫る

それを予期していたミスティアが右手で防御、返す手で蜜柑を得ようとして、掠める

いつの間にか甘くなっていた左手が慧音の右手を自由にさせてしまったようだ

自由な手で入れ物を僅かに移動させた慧音が不適な笑みを浮かべている

ミスティアもすぐさま待機状態に戻り、何時でも動けるようにしていた





そんな攻防戦が続くこと半刻

慧音の蜜柑争奪最終奥義『千手観音』とミスティアの柑橘系取得技極意『鉤爪ぶっさしアタック』がぶつかり合い

取り合っていた蜜柑が破裂し、蜜柑の果汁のシャワーが当たりに降り注ぎ

偶然それが慧音の目に入って「うわぁぁぁ、目がぁ、目がぁぁぁぁ!」と転がりながら悶え

鉤爪が炬燵に刺さり「あれ?ちょっ、これ抜けない・・・?」と少々慌て気味になり

「けーねー、新年一緒に迎えよー」と蓬莱の薬を服用した不死人 ─ 藤原 妹紅 ─ が訪ねてきて

「あんた達何やってんの?」と的確なツッコミをした所でようやく騒ぎは収まった





「はぁ、蜜柑一つで大人気ないねぇ、二人とも」


妹紅が呆れ返る

炬燵の上には妹紅が騒ぎを理解して蜜柑箱から持ってきた蜜柑・・・

もとい、蜜柑箱その物がドスンと置かれていた


「失礼な、あれはそう。戦争だ!喰うか喰われるか、その二つしか無い!」

「勝者が得るのは至高の味の蜜柑、敗者が得るのは耐え難い屈辱。そこに蜜柑ある限り戦いは終わらないのよ!」

「いや、そこまで力説されてもさ・・・」


三人で蜜柑を剥きながら雑談に興じる

先程から比べると、どれほどこの場所が平和になったのだろうか

少なくとも妹紅が、つまらない理由で起きた戦争を収めたのは確かなことである





むぐむぐ

「ところで妹紅はどうした来たんだ?」

「ん、一人で新年を迎えるってのも味気ないからね。せっかくだからって事で遊びに来た」

「それじゃあ私とあんま変わらないね」




もぐもぐ

「そういえば妹紅の所は大掃除はしたのか?」

「当たり前でしょ。そんなに物が置いてあるわけでもないんだし」

「ふむ、ミスティアの所はどうなんだ?」

「私の場合家屋じゃないからねー。掃除の必要は特に無いのよ」

「流石鳥の巣・・・(ぼそっ)」

「そこの蓬莱人、何か言った?」

「いーや、何も」




パクパク

「死なないって事はさ、どれだけ食べても平気だよね?」

「止めて置いた方が身のためだぞ、ミスティア」

「そーそー。大分前に食べられたんだけどさ、リザレクションしたら妖怪の腹の中突き破っちゃってね・・・」

「うわぁ・・・凄惨だね・・・」




ムシャムシャ

「いやー、いきなり輝夜に『もこたぁぁぁん!あいらヴふぃーりんふぉーえヴぁぁぁぁぁぁぁ!!』って言われた時はゾッとしたね」

「それは喜ぶ奴がオカシイな」

「右に同意」

「でしょ?しかも愉楽の表情で涙とか鼻水とか涎とか垂れ流しててもう本当に死ぬかと思ったわ。生き返るけど」















「もこたぁぁぁぁぁん!あいらヴぁーふぃーりんえたーなるねめしすふぉーえヴぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「そうそう、丁度こんな・・・え?」


妹紅が後ろを振り向くと同時に、壁が音を立てて吹っ飛んでいく

その先に居たのは先程妹紅が言った顔とほぼ同じ

愉楽の表情で涙とか鼻水とか涎とかもう体液全部出してるんじゃなかろうかと思えてしまう輝夜だった


「うわぁぁぁ!やぁぁぁめぇぇろぉぉぉぉっ!」

「もこたぁぁん!照れてるのね!?そうなのね!?んもう本当にうぶなんだからぁ(はぁと)」

「来るなぁぁぁ!!」


叫びながら家の中を暴れまわる輝夜と妹紅

既に部屋は居住空間から戦場へと戻っていた


「何故こんなことに・・・」


一生懸命掃除したあの苦労は一体

部屋を一通り見回して、慧音は意識を手放した























「・・・ね・・・け・・・ね・・・慧音・・・」


自分を呼ぶ声が聞こえてくる

目を開けるとそこにはミスティアの顔があった


「慧音、大丈夫!?」

「ん・・・ああ、大丈夫だ・・・」


あれは夢だったのかと思い、辺りを見渡す


「これは・・・凄いな・・・」


見渡す限りの銀世界

その幻想的な雰囲気は慧音をも圧倒した


「・・・じゃなくてだ。・・・げっ」


あれが夢でありますようにと言う慧音の儚い願いは悲しくも叶わなかった





自分の体に降り積もる雪

仄かに漂う硝煙の匂い

完膚なきまでに崩れ去った我が家

どこからか聞こえてくる絶叫と媚声





私が一体何をしたというのだろうか。まさかあれか?疫病神でも憑いてしまったか?

いいや、まてまて。全て他人に押し付けるのは良くない

・・・もしかしたら私が疫病神か?もしくは貧乏神

いや貧乏ではないから疫病神だな

まてよ?もしかしたら私が疫病神か?そーなのかー?

そうか、私はとうとう神に昇華したんだな!?それは喜ばしい事じゃないか!

断じて、断じて家が壊れて遣る瀬無い気持ちを紛らわそうとしているわけではないっ!







「うふ、うふふふふ、うふふははははははは。ハァーッハッハッハッハッハ!」

「け、慧音が壊れたぁっ!」

「ハァーッハッハッハッハ!ぐずっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「慧音、ほら、大丈夫だから、ね?だから落ち着いて。せめて笑うか泣くかどっちかにして、ね?」







ゴォーーン・・・・ゴォーーン・・・・



遠くから一年の終わりと始まりを告げる除夜の鐘が聞こえてくる



降り積もる雪に乗せてその音が幻想郷に鳴り響く



しかし



焼け焦げた自分の家の前で泣いたり笑ったり情緒不安定になっている慧音

それを抱いて、背中をポンポンと叩きながら総力を挙げて落ち着かせようとしているミスティア

絶叫をひたすらあげながら自らの貞操を必死になって守っている妹紅

奇声と媚声をあげながら獅子の如く全力で獲物を狙う輝夜




この四人にはその音は全く届かなかった・・・

前回のX'masで暖かいのを書いた反動か軽くカオスになっているARBです
炬燵に蜜柑は伝統的隔離兵器だと思う

ARB式慧音三か条
一つ、苦労人
一つ、意外と天然
一つ、泣き顔が良く似合う

今回の話はほとんど勢いで書いてしまったので短く
そして味が色んな意味で濃くなってしまっています
それでは皆さん、良いお年を

あ、最後に
ここまで読んでいただき有難う御座います。お客様は神様です

12/31 17:48
誤字の指摘を頂き即座に修正
ついでに名前に間違ってついてた]も消去
ARB
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.3080簡易評価
3.60名前が無い程度の能力削除
誤字がありましたので、一応書いときますね。

奇声と媚声をあげながら獅子の如く全力で獲物を狙う『輝妹』

ではでは、良いお年をー
5.50名前が無い程度の能力削除
内容はともかく、ミスティアは可愛い。
あれか? どこかでミスティア×慧音でもキャンペーン張ってるのか?
22.70名前が無い程度の能力削除
慧音会議! ツボにはまりましたわ・・・
34.60沙門削除
 炬燵の上で和やかに繰り広げられるミカン争奪戦から、一転穏やかな年越しの話になるのかなと思ったら・・・・・・ 。慧音先生に幸あれ。自分は炬燵に、あと酒とタバコがあったらもう天国です。
46.70A削除
>一つ、泣き顔が良く似合う
正義を感じます。
実家では一日のほとんどを炬燵の中ですごすのも珍しくはありません。
68.90名前が無い程度の能力削除
全篇を通して面白かったです、特にミスティアVS慧音の蜜柑争奪戦は声出して笑いましたw
ミスティア可愛いよ、慧音苦労人w
最後に誤字があったので。
果汁のシャワーが『当たり』に降り注ぎ  ○辺り
77.80名前が無い程度の能力削除
なんだこれwwwwwww