Coolier - 新生・東方創想話

新しい風に翼を乗せて

2022/05/04 01:03:52
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 ふわり、と少女が人里に立つ。物憂げな青い瞳で辺りを見渡すと、つかつかと里に入っていった。通りすがる人は一瞬不思議な顔をするが、特に声をかけることなく通り過ぎていく。ふと、目の前を通り過ぎた少女に目をやると、物凄い勢いで追い始めた。追いかけられてることに気がついた少女は慌てて逃げ出すが、神速と呼ぶに相応しいスピードで移動する少女から逃げられるはずもなく、首根っこを掴まれると物陰に連れ込まれた。
「な、何するのよ! 私何もしてないじゃない!」
「あんた、妖怪よね」
 少女の被っていたキャスケットと上着を剥ぎ取れば、翼と角と飾り羽が顕わになる。抵抗しようとする翼の少女―――朱鷺子と名乗る彼女―――は、目の前の相手を強く睨み付けた。
「大体あんたまた赤じゃないの!? 全身青だし!」
「元からこうよ。ねえ、ここは妖怪が過ごしてても良いの?」
「人を襲わないで、全面的に妖怪って出さなければいいんじゃない。私ここで過ごして長いけど怒られたことないし」
「そ。それならいいわ」
 真っ青な服に身を包んだ少女はゆっくりと朱鷺子の服から手を離すと、キャスケットと上着を返した。
「名乗るのが遅れたわ。今日から博麗の巫女になったの。ここについて色々教えて貰えると嬉しいわ」
 穏やかに微笑む彼女の姿に、朱鷺子はぽかんと呆けながら服を受け取った。

「へえ、外から来たの」
「そ。私に資質があるからって唐突に連れてこられてこれを着せられたの。確かに妖怪と人間の見分けが直感的につくし、考えれば凄いスピードで動けるんだけど、ここのことを私は何も知らないの」
 里の団子屋で話を聞けば、青い巫女服の少女はそう言った。顔立ちは驚くほど朱鷺子の知る巫女に似ており、全身真っ青なことを除けば見分けがつかないだろう。だがそれよりも、朱鷺子には思うことがあった。
「というか、あの巫女亡くなったんだ」
「まだ生きてるみたい。でも完全に隠居するから、私に仕事を引き継ぐんだって。結界の管理とか神様を降ろしたりとか、やること多いけど全部境界の妖怪と狐が教えてくれるわって前の巫女が言ってた」
「そうなの。というかあなた、名前は?」
「取られちゃった」
「は?」
「一応自分の名前の記憶はあるの。でもこの世界で巫女となるなら元の名前は必要ないわって、変な術で取られちゃった」
 自分から文字が剥がれていく姿なんて初めて見たわ、と青巫女は困ったように笑った。そのあまりに毒気のない姿に、朱鷺子は大きく戸惑う。自分の知る博麗の巫女は妖怪とあらば見敵必殺、こんなに妖怪と穏やかに話す人物ではなかった。人が違えばこんなに違うものなのか、と考えていると青巫女はさて、と立ち上がった。
「お団子ありがと。じゃ」
 礼を言って立ち去ろうとする背中が妙に心細そうで、朱鷺子は思わず声をかけた。
「ねえ。あなたさえ良ければ幻想郷を案内するけど・・・・・・」
 こんなことを言ってしまった。それを言ってから物凄く後悔して、キャスケットを深く被り直す。
「ごめん、やっぱ今のは・・・・・・」
「いいの? 助かるわ」
「え?」
「今日ここに飛ばされてきたばかりで土地勘がないの。今日だけでも案内してくれると助かるわ」
 にこにこ笑顔で手を握りしめられ、青巫女の顔と朱鷺子の手を交互に見やる。戸惑いながらも案内すべく、彼女の手を引いて歩き始めた。とりあえず里の中を歩き回って店の場所を案内していると、青巫女はぼんやりと呟く。
「元の世界の田舎に比べても随分のんびりしているわね。電気は通ってるみたいだけど」
「ここ最近よ。里に水を引いてる水路で水車を回して発電しているの」
「でも楽しそう。向こうは働くばかりで苦しそうな顔をしている人ばかりだったから」
「外ってそんなに厳しい世界なの?」
「こっちよりは娯楽も多いけど、それ以上に色々とね。私はこっちの方が好きかも」
「向こうに未練とかは?」
「あんまり。家族も友達も居なかったから」
 そう答える青巫女の目は哀しそうで、朱鷺子の心がちくりと痛む。その一方で自分をあんな目に遭わせたのと同じ立場というのが未だに信じられず、戸惑いが隠せずにいた。
「ねえ、人里の外はどうなってるの? 大きな山があるのは見えたけど」
「妖怪の山ね。基本的に余所者は立ち入り禁止だけど、前の巫女は異変解決のために殴り込みに行くこともあったみたい」
「やっぱ人食い妖怪とかがわんさか居るのかしら」
「それはもう。主に天狗とか河童とかすんでるけど、山頂には神社もあるわよ」
「面白そうね。でもあの高さだと山頂まではなあ」
 いまいち危機感が薄いのは外の世界の人間らしい。そう考えながら、里の外に向かい始める。とりあえず里の外にある各地を見せれば、もう少し危機感を抱いてくれるだろうか。
「どこに行くの?」
「里の外は妖怪が一杯なの。特に危ないところがあるけど、あなた戦える?」
「お祓い棒に霊力?を込めたら鉄板が切れる程度には」
「十分ね。じゃあ行くわよ」
 キャスケットと上着を脱いで朱鷺子が飛び上がる。青巫女もそれに続くようにして飛び上がった。
「・・・・・・そういえば、外の世界の人間なのに飛べるのね」
「博麗の巫女ってのは飛べるのも才能の内だって。元の世界に居たときはそんなことなかったのにね」
「ふうん。まずは・・・・・・湖に向かうか」
 霧の湖に向かえば、薄く霧が立ちこめ始める。そして対岸に真っ赤な洋館が見え始めた。
「ここが霧の湖。妖精がうろうろしているから通るときは気をつけてね。それで向こうが紅魔館」
「行かないの?」
「私じゃ危なすぎるわよ。肉体派の門番にメイド妖精軍団、罠まみれの館内に魔法使いとトドメに吸血鬼の姉妹が二人! 命がいくつあっても足りないわ・・・・・・って!」
 いかに危険か解説していると、青巫女は物凄いスピードで紅魔館に向かっていった。さながら青い流星のようなそれを全速力でどうにか追いかけ、門前に立つと門番の紅美鈴とにこにこ笑顔でお喋りをしている青巫女がいた。
「おや、その方が案内役の?」
「ええ。悪い子じゃないの。通してくれない?」
「新しい巫女となればお嬢様も喜びますよ。中にどうぞ」
「ありがと」
 あまりの交渉能力に舌を巻いていたが、のんびりしていると置いて行かれる。慌てて後を追うとメイド妖精達が恭しく出迎えてくれた。案内される青巫女をどうにか追いかけるとテラスに通され、座るよう促される。しばらく待っていると、上機嫌な館の主たるレミリア・スカーレットがやってきた。
「ふむ、お前が今回の博麗の巫女か」
「ええ。残念ながら名前がないから名乗れないけど」
「ほう? ならば私が名付けてやろうか」
「遠慮しておくわ。自分で見つけるから」
 堂々とした受け答えにレミリアはそれ以上言うことはなかった。出された紅茶を飲んで、レミリアは鷹揚に語る。
「それで、どんな用かしら」
「私今日幻想郷に来たばかりなのよ。だからこの子に幻想郷案内をして貰おうと思って。それで最初に連れてこられた場所がここというわけ」
「最初にここを案内するとは中々言いセンスをしている。見ない顔だが、里に住む妖怪か」
「え、ええ、まあ」
「ここのところつまらなかったが、良い客を連れてきてくれた。礼を言うわ」
「どうも・・・・・・」
 礼を言われ、困惑しながら朱鷺子は返す。恐ろしい吸血鬼と聞いていたが、驚くほど穏やかな様子に、完全に毒気を抜かれていた。
「霊夢は隠居なの?」
「そうみたい。大体のことは境界の妖怪と狐が教えてくれるって」
「困ったときはうちに来ると良い。お茶くらいならごちそうしてあげるわ」
「それは良いわね。甘いものに目がないの」
 そんな会話をしている様を横目に、ぼんやりと朱鷺子は思案する。青巫女のペースはなんとなく理解出来てきたが、それでもよく分からない部分がある。こうして妖怪と深く関わっていても良いのだろうか。妖怪退治の専門家なのに、まるで友達のように接している。こんな穏やかな人物と接するのは鈴奈庵の店主や随分前に亡くなった稗田のお嬢様以来で、あの巫女の後継者だというのが未だによく分からなかった。
「そろそろおいとまするわ。まだまだ見て回りたいところがあるし」
「幻想郷は広くて狭い。また会えるさ」
 今度はうちのメイド長に会いに来てくれ、とレミリアに言われながら紅魔館を後にする。再び空に舞い上がると、朱鷺子はウエストポーチから地図を取り出して悩み始めた。
「永遠亭は竹林の先だし、彼岸は危ないしなあ。地底なんてもってのほかだし、やっぱ魔法の森かなあ」
「それが幻想郷の地図なの? ちょっと見せて」
 横から覗き込む青巫女に地図を見せると、楽しそうに地図を見始める。しばしその様子を眺めていると、色々と質問が飛んできた。
「ねえ、竹林の奥にお屋敷があるの? この太陽の畑って? 三途の川って実際にいけるの?」
「あーもう! いっぺんに聞かないで!」
 それから二人はいろいろなところを回った。永遠亭や命蓮寺でもてなしを受け、太陽の畑の向日葵たちを眺めながら飛び、無縁塚で閻魔から死神と共に説教を受けたりしながらあちこちを回った。そして最後に向かった場所が魔法の森入り口にあるあの店だ。バン!と扉を蹴っ飛ばし気味に開くと、にっくきあの店主の顔が目についた。
「・・・・・・うちの扉を優しく開けない奴は客と見なさなくて良いのかな」
「大体その認識で良いんじゃない。買い物に来たわけじゃないし」
「だったら何しに・・・・・・!? なるほど、新しい巫女が来たのか。しかし驚くほど霊夢に似ているな」
「よく言われましたけど、そんなに似てるかな」
「あの頃の霊夢が帰ってきたみたいさ。さて、僕の名前は森近霖之助、この香霖堂の店主をしている。君の前の巫女である霊夢もよくここを使っていたから、君もここを利用してくれると嬉しい。勿論お代は頂くけどね」
 霖之助が自己紹介をすると、青巫女が首をひねった。
「お店でお代を払うのは当然なんじゃ・・・・・・?」
「・・・・・・まともな客に感動すら覚える僕がいるよ。良客を連れてきてくれたね」
「じゃあ良客の紹介賃で本くれない?」
「それとこれは別問題だよ」
 青巫女が店内をぶらぶらと眺めている間、朱鷺子は霖之助と彼女について話をする。今までのことを説明すると、霖之助は呆れたようにため息をついた。
「命蓮寺や永遠亭はともかく、紅魔館に無縁塚まで行ったのかい? 戦闘能力皆無の二人で?」
「それはあんたもでしょ? 無縁塚までよく行ってるじゃない」
「ぼくは半妖だからね。妖怪から嫌われるから問題ないのさ」
「あの巫女だってそれなりに戦えるみたいだし大丈夫でしょ」
「ほとんど外来人みたいなものさ。どこも歓待してくれたのは、流石博麗の巫女という所かな」
 霖之助が感心していると、青巫女が戻ってきた。売り物を見るだけでも面白かったようで、随分上機嫌である。
「ちょっとレトロな物ばかりで面白いですね。これ全部売り物なんですか?」
「一応そうさ。ああ、僕には畏まらなくて構わないよ」
「それなら、そう、するわ。ありがとう」
「別に良いさ。それで何か買って・・・・・・ああ、お金がなかったな。すまない」
「気にしてないわ。今は買い物より名前決めないと」
「名前?」
「この巫女、名前を境界の妖怪に取られたんだって。自分の名前の記憶はあるけど、今名前がないみたい」
「変なことをするものだ。まあ名前という物は大事だからね。名付けというのも・・・・・・」
 霖之助が蘊蓄を喋り始めたので、朱鷺子は一冊適当な本を握ると青巫女と一緒に香霖堂を出た。日も傾いてきたので、二人は博麗神社へと戻ることにした。
「今日はありがと。色々案内して貰えて助かったわ」
「別に良いわよ。そういえば、一人暮らしになるの?」
「まあ、そうなるわね。食材とかあるのかしら、あの神社」
「前の巫女が生活出来てたんだし何とかなるんじゃない? 私はすぐ帰るけど」
「ええー、泊まっていっても良いんじゃない?」
「お生憎様。妖怪退治の専門家に身をさらす真似はしないわ」
「私もそうよ?」
「まだ弾幕ごっこだってやったことないじゃない。恐るるに足らずよ」
「本当にそうかしら」
 ずばん、と鋭いような鈍いような音がして、朱鷺子の背中に激痛が走る。飛行を維持出来ず落下していき、強か地面に叩き付けられた。
「なん、で」
 背後からお祓い棒で切りつけられたのだと、遅れて思い至る。這いつくばりながら空を見上げると、青巫女は逃げるように飛び去ってしまった。やっぱり妖怪と人間は相容れないものなのか。巫女なんかに近づくんじゃなかったと深く後悔しながら、ゆっくりと意識を失った。

 ふと気がつけば、朱鷺子は布団に寝かされていた。見覚えのない天井に、馴染みのない大陸風の部屋。一体ここはどこだろうと辺りを見回していると、誰かが部屋に入ってきた。
「良かった、気がつきましたか」
「あ、いつかの仙人」
「茨華仙です。名前ぐらい覚えなさい」
「随分前に連れ回されたきりじゃん。でもいいや、あなたが助けてくれたの」
「神社周りで動物たちが騒がしいから何事かと行ってみれば、あなたが血塗れで倒れていたんです。切りつけられたような痕がありましたが、何かありましたか?」
 背中に手を回せば、包帯が巻いてある。擦るだけで鋭い痛みが走り、顔をしかめた。
「まだ痛みますか? 強い薬を塗ったので、もうしばらく痛みますよ」
「ありがと。ねえ、少し話を聞いてくれる?」
「私で良ければ」
 それからぽつぽつと、朱鷺子は怪我をするまでのことを話し始めた。少しずつ仲良くなれたような気がしたのに、いきなり背後からの急襲。それがまた哀しくなって、話し終わる頃には涙が止まらなくなっていた。そんな様子でも華仙はじっくりと話を聞いてくれた。どうにか話し終わると、華仙は自分の事かのように憤慨する。
「それはあなたは悪くないでしょう。案内してあげたのに背後から攻撃なんて、幾ら巫女でもやって良いことと悪いことがあります!」
「う、うん・・・・・・」
「傷が治るまではうちにいて構いません。里の人間達には私が預かっていると言っておきましょう。直ったら博麗神社に行きますよ!」
「ええ!? そ、それは唐突すぎるかも・・・・・・」
「何を言っているんですか! 今回の件は妖怪退治の範疇を超えています。霊夢だって背後から闇討ちはしてこなかったでしょう!?」
「ごめん、あった」
「もう! 霊夢にもお説教しておかないと!」
 勝手に怒っている華仙はともかく、朱鷺子は複雑な気持ちだった。今青巫女にどんな顔をして会いに行けば良いんだろうか。彼女は何故あんなことをしたのだろう。そういう事がぐるぐる回って、どうして良いか分からなくなる。とりあえず背中が痛んで仕方ないので、朱鷺子は布団に潜り込んだ。
 それから三日間、朱鷺子は華仙の家で過ごした。食事は質素と言いつつ自分で調理するより豪華な物が出てくるし、呼んだことない本がごろごろ転がっているので退屈もしない。傷も順調に癒えていき、飛ぶにも支障がない程まで回復した。そして華仙に引っ張られながら、朱鷺子は博麗神社を訪れた。
「霊夢! いますか!」
「前の巫女はもう隠居したって」
「ああもう! どう呼べば良いのかしらあの子!」
「えっと、うちに用ですか・・・・・・? っ!」
 大声を張り上げる華仙に気がついて青巫女が出てきたが、朱鷺子の顔を見るなり逃げようとした。そうはさせまいと華仙の右腕の包帯が伸びて、青巫女を縛り上げる。
「逃がしませんよ。さて、まずは自己紹介から行きましょうか。私は茨華仙、山に住んでいる仙人です。傷を負っていた彼女を保護していました。言いたいことは分かりますよね?」
「ねえ華仙。あなたが出しゃばると話がややこしくなるからその辺にして」
「しかし・・・・・・」
「私のために怒ってくれてるのは分かるけど、これは私が解決しないといけないから」
 そう言ってつかつかと前に出ると、青巫女に向き直る。今にも泣きそうな青巫女の顔をまっすぐ見つめながら、朱鷺子は問うた。
「ねえ、これだけ答えて。何で私を攻撃したの?」
「・・・・・・・・・・・・」
「答えて」
「・・・・・・妖怪退治って、そう言うものなのかなって」
「そう、わかった。じゃあ幻想郷のやり方って言うのを教えてあげるわ」
 華仙に包帯を解くよう言うと、朱鷺子は空に舞い上がる。青巫女も釣られるようにして空へと上がった。
「勿論話が通じない相手ならこの間みたいに直接攻撃することはあるわ。人食い妖怪とかね。でも、こうしてお互いに同意があればスペルカードルールで決着を付ける」
「スペルカードルール?」
「一つ、妖怪が異変を起こし易くする。
 一つ、人間が異変を解決し易くする。
 一つ、完全な実力主義を否定する。
 一つ、美しさと思念に勝る物は無し。
この理念で戦うものよ」
「どう、すればいいの?」
「お互いが納得出来れば何でも良いわ。じゃんけん、相撲、けん玉で妖怪の度肝を抜いた奴もいるって聞く。でも私達はもっぱら弾幕ごっこで決着を付けるわ」
 そう言いながら、懐から朱鷺子は二枚のカードを取り出す。それを見せつけながら続けた。
「こういう風に、弾幕をカードとして宣言して勝負する。指定枚数避けきるか、ブレイクすれば勝利。ブレイクは己の弾幕で私の弾幕を破壊すればブレイクよ」
「私弾幕撃てないんだけど」
「百も承知よ。その場合は指定時間避け続ければ良いわ、今回はイージー二枚で相手してあげるから、全部避けきってね」
神鳥『飢え喰らうイビス』
 弾幕で形成された朱鷺が、青巫女に向かって殺到する。しかし朱鷺の大きさはさほどではなく、狙いも甘い。弾幕ごっこに慣れてるものなら簡単に避けられるだろう。しかし青巫女は弾幕ごっこ初心者も良いところである。最初の三つ四つはどうにか避けられたが、逃げ道を塞がれ、あえなく被弾した。
「いった・・・・・・弾幕って結構痛いのね」
「無痛だと勝った負けたがわかりにくいからね。さ、これで最後よ」
朱空『ドリームルート』
 鱗のような弾がばらまかれると、その轍のように朱色の弾が並んでいく。空に何本かの線が引かれると、パンと音と共に朱色の弾が飛び散った。弾の速度はさほどではないが数が多く、おたおたと避けていたが横から飛んできた弾を避けきれず、これも被弾した。結果としては青巫女の惨敗である。
「私の勝ちね。降りましょうか」
「・・・・・・ええ」
 境内に降りると、華仙が駆け寄ってきた。地に足を着けると、二人ともその場に崩れ落ちる。
「あー、疲れた。久々に動くと羽が痛い」
「二人とも大丈夫ですか?」
「どうにか。あーしんどい」
「私負けたけど、どうなるの?」
「基本的に敗者は勝者に従うわ。妖怪退治なら見逃せって言うのが定番かなあ」
「何が要求なわけ?」
「そうねえ・・・・・・」
 ぼんやりとした頭で、青巫女を見やる。色々と考えたが、やっぱり求めることは一つしかなかった。
「じゃあさ、まだ友達でいてくれる?」
「え?」
「あんなことがあったけどさ、私は友達でいたいの。だめ?」
「私達って、友達だったの?」
「あんだけ一緒に飛び回ったら友達じゃない?」
 あっけらかんと言う様に、青巫女は目を見開いた。そして次の瞬間、大声を上げて笑い出した。
「あはははは! 何それ、私あなたを背中から切ったのに!」
「あんたは私を切った。私は怒って弾幕ごっこをした。それでお終い。それでいいでしょ?」
「うん、でも、それでいいわ。それでいい」
 ゆっくりと立ち上がると、朱鷺子の手を引いて立ち上がらせる。そして彼女の手を握りしめた。
「これからよろしく、朱鷺子」
「うん、よろしく・・・・・・なんて呼べば良い?」
「ああ、名前なかったわね私・・・・・・じゃあ」
 ぼそりと、朱鷺子の耳元で呟く。それを聞いて、朱鷺子は目を見開いた。
「その名前・・・・・・」
「外の世界での私の名前。誰も居ないときだったら呼んでもいいわ」
 そうはにかみながら答える彼女は、眩しいほどの笑顔を浮かべていた。
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コメント



0.簡易評価なし
1.100名前が無い程度の能力削除
転々と出会いが巡る感じ、面白かったです。新しい巫女さんに幸あれ。
2.90名前が無い程度の能力削除
巫女と朱鷺子が友達に慣れたのが良かったです。