「メリー、貴方お酒好きだっけ?」
お茶を取りに行った蓮子が冷蔵庫を漁りつつ、聞いてくる。
「あまり飲まないの、前に旧型酒で酔い潰れてからは一回も」
お酒は嫌いではないが、オールドアダムでベロベロになって、翌朝蓮子の部屋で目覚めた時に禁酒を誓った。
「あらメリー。学生たる者、酔い潰れて介抱されるぐらいがいいのよ」
「いつの時代の話よ」
蓮子は無視して冗談を飛ばす。
「新歓の季節のうちに飲んでおかないと」
「新歓なんてやったことないでしょ」
「いいから、私はメリーと飲みたいの」
そう言うと、余所行きの支度を始めた。裏表ルートがどうとか、在庫がどうとかブツブツ呟いている。
「どこ行くの?」
「秘密よ」
「遅くなる?」
「すぐ帰るわ、貴方はいい感じのつまみでも用意してて」
そう言って彼女は外に飛び出していった。
私が買い出しを終えて家に帰ってくると、蓮子は既に飲みの準備を進めていた。
「遅いじゃない」
「貴方が早すぎるの」
「まあまあメリーさん、愚痴は飲みながら聞きますから」
「なにがまあまあよ」
軽口を叩きつつも、蓮子はテキパキと用意を済ませる。テーブルには、見たことのない缶が並んでいる。
「なに飲むのかわからないから、いろいろ買ってきたけど」
蓮子が待っていましたと言わんばかりに、袋を覗きこむ。
「餃子に唐揚げに枝豆……いいじゃない」
「お眼鏡に適ったようで」
「でもローストビーフとチーズは高すぎるね、ワインの時まで取っておきましょう」
それらを冷蔵庫に入れに行くついでに、疑問をぶつける。
「それで今日のお酒は?」
缶を指さす蓮子。その自信ありげな顔は普段以上だ。
「これよ」
「缶にお酒をねぇ」
「それもただの旧型酒じゃないの、かつての若者の必需品よ!」
手渡されて確認してみるが、ラベルは剥がされて、アルミが剥き出しになっているだけだ。
「どう見ても怪しいのだけれど」
「裏表ルートのだからね、でも安全は保証するわ」
「本当に?」
「本当に。さっさと乾杯しちゃいましょう」
「乾杯!」
「乾杯……」
恐る恐る口に運ぶ。
それはとてもじゃないが、上品なお酒とは言えない味だった。
「これが半世紀前の若者のソーマよ」
蓮子は自慢げだ。
「ソーマねぇ、これで安らかになれるかは疑問だわ」
「これに頼るしかない時もあるの」
彼女にこの酒が必要になる時などあるのか、そんな疑問に四分の一だけ満足の回答が与えられる。
「一年中お世話になった時もあったのよ」
「へぇ、どうして?」
「色々あったの」
何か思いついたかのような表情を見せて続ける。
「もっと酔ったら教えてあげる」
そう言われてしまえば酔うしかないだろう。
「おっ、良い飲みっぷりね」
アルミ缶は空になった。
「貴方の秘密を知りたいの」
「簡単じゃないわよ」
彼女も一気に飲み干す。顔はちっとも赤くなっていない。
そうして二本目が開いた。
目が覚める。頭がズキズキと痛む。久し振りに夢を見なかった。顔を上げてみると、空になった皿の上に缶が転がっている。
その向こうでは蓮子が机に突っ伏していた。結局蓮子の話は分からなかった。飲み比べに負けたのかもしれないし、勝ったがそのまま忘れてしまったのかもしれない。
「聞かなきゃいけないこと、また増えたわね」
お茶を取りに行った蓮子が冷蔵庫を漁りつつ、聞いてくる。
「あまり飲まないの、前に旧型酒で酔い潰れてからは一回も」
お酒は嫌いではないが、オールドアダムでベロベロになって、翌朝蓮子の部屋で目覚めた時に禁酒を誓った。
「あらメリー。学生たる者、酔い潰れて介抱されるぐらいがいいのよ」
「いつの時代の話よ」
蓮子は無視して冗談を飛ばす。
「新歓の季節のうちに飲んでおかないと」
「新歓なんてやったことないでしょ」
「いいから、私はメリーと飲みたいの」
そう言うと、余所行きの支度を始めた。裏表ルートがどうとか、在庫がどうとかブツブツ呟いている。
「どこ行くの?」
「秘密よ」
「遅くなる?」
「すぐ帰るわ、貴方はいい感じのつまみでも用意してて」
そう言って彼女は外に飛び出していった。
私が買い出しを終えて家に帰ってくると、蓮子は既に飲みの準備を進めていた。
「遅いじゃない」
「貴方が早すぎるの」
「まあまあメリーさん、愚痴は飲みながら聞きますから」
「なにがまあまあよ」
軽口を叩きつつも、蓮子はテキパキと用意を済ませる。テーブルには、見たことのない缶が並んでいる。
「なに飲むのかわからないから、いろいろ買ってきたけど」
蓮子が待っていましたと言わんばかりに、袋を覗きこむ。
「餃子に唐揚げに枝豆……いいじゃない」
「お眼鏡に適ったようで」
「でもローストビーフとチーズは高すぎるね、ワインの時まで取っておきましょう」
それらを冷蔵庫に入れに行くついでに、疑問をぶつける。
「それで今日のお酒は?」
缶を指さす蓮子。その自信ありげな顔は普段以上だ。
「これよ」
「缶にお酒をねぇ」
「それもただの旧型酒じゃないの、かつての若者の必需品よ!」
手渡されて確認してみるが、ラベルは剥がされて、アルミが剥き出しになっているだけだ。
「どう見ても怪しいのだけれど」
「裏表ルートのだからね、でも安全は保証するわ」
「本当に?」
「本当に。さっさと乾杯しちゃいましょう」
「乾杯!」
「乾杯……」
恐る恐る口に運ぶ。
それはとてもじゃないが、上品なお酒とは言えない味だった。
「これが半世紀前の若者のソーマよ」
蓮子は自慢げだ。
「ソーマねぇ、これで安らかになれるかは疑問だわ」
「これに頼るしかない時もあるの」
彼女にこの酒が必要になる時などあるのか、そんな疑問に四分の一だけ満足の回答が与えられる。
「一年中お世話になった時もあったのよ」
「へぇ、どうして?」
「色々あったの」
何か思いついたかのような表情を見せて続ける。
「もっと酔ったら教えてあげる」
そう言われてしまえば酔うしかないだろう。
「おっ、良い飲みっぷりね」
アルミ缶は空になった。
「貴方の秘密を知りたいの」
「簡単じゃないわよ」
彼女も一気に飲み干す。顔はちっとも赤くなっていない。
そうして二本目が開いた。
目が覚める。頭がズキズキと痛む。久し振りに夢を見なかった。顔を上げてみると、空になった皿の上に缶が転がっている。
その向こうでは蓮子が机に突っ伏していた。結局蓮子の話は分からなかった。飲み比べに負けたのかもしれないし、勝ったがそのまま忘れてしまったのかもしれない。
「聞かなきゃいけないこと、また増えたわね」
ストロングゼロかな?