真夜中の魔法の森で、散歩しているルーミアは人間の少年を発見した。見るからに弱々しい。服装が幻想郷では滅多に見慣れない服装なので、外から来た人間であることはわかった。
ルーミアは久々の獲物なのだが、襲い掛からずに声をかけた。
「君は誰なの?」
「……何処なのかな?」
「貴方は食べても良い人間?」
「妖怪か何かなの?」
少年に当てられて、驚く表情をするルーミア。
「そうだよ!私はルーミア。妖怪だよ。」
「僕を食べるなら、良いけど…2日後にしてもらえないかな?僕の命が3日間までなんだ。」
少年の話だと、不治の病で病院で入院していたのだが、残り命が3日になった時に魔法の森に迷い混んだらしい。
「今食べたら、ダメなの?」
「…入院中は、ずっと病室で過ごしてきたから、死ぬ前に散歩でも良いから外に出たかったんだ…ダメかな?」
「……その代わり、3日間は私から離れたらダメ。約束…どうする?」
少年は小さく頷いて、ルーミアと一緒に行動することにした。
「なら、3日間だけ彼女になってあげる。」
「え!?それは…」
「ダメなの?」
ルーミアが涙をためて、少年を見つめると、承諾してもらったようだ。
「私の家に案内するね。」
「わかったよ。」
ルーミアの頭を撫でたら、最初は少年の手を見ていたが、撫でられてるとわかると、笑みを浮かべたのだ。
「妖怪だと、知らなかったら…ルーミアは可愛い女の子だよね。」
「それだと、私は可愛くないの?」
「ルーミア…可愛いよ…」
少年の発言に、恥ずかしいのか、ルーミアは少年の背中に顔を隠してしまったようだ。
「いきなり狡いよ…」
「嘘は言ってないよ。可愛いのは…本当。」
「次言ったら、今からでも食べる。」
「今は死にたくないからダメ。」
ルーミアは機嫌が悪くなってしまったようだ。
「ルーミア。此方向いて…」
少年の頼みに、少し怒りながらも此方を向くと、抱き締めてきたのだ。その少年の行動を見直したのか、手を少年の背中に回してきた。
「今は…許す…次はないよ。」
「ありがとう。ルーミア…」
少年は手を繋ぎながら、幻想郷の簡単な説明をルーミアに教えてもらった。
「神様までいるの!?」
「蛙みたいな、帽子を被ってるよ。」
ルーミアとの会話で少しずつではあるが、元気を取り戻した少年だが、急に頭痛がしたようで、頭を押さえながら座り込んでしまった。
「大丈夫!?私の知ってる…」
「お願い…今だけは…一緒にいて。」
「わかった…」
暫く休んでいると、痛みが引いたのか、頭痛が無くなったようだ。少年を支えながら歩く。
「大丈夫…?」
「もう…大丈夫。あれがルーミアの家?」
「小屋だけどね。河童の電気製品で、生活できてるよ。」
「河童…もう、驚かない。何でもありだね…幻想郷は。」
家の中に入り、ルーミアは少年をベットに寝かせようとする。心配してくれるようだ。
「果物持ってくるから、ベットから動いたらわかるよね?」
「おとなしくしてます。」
ルーミアは果物を取りに向かった。
(別世界か…慣れない経験だよ…)
考えているうちに、疲れが来て眠ってしまったようだ。
「果物持ってきた…寝てる。」
果物を持ってきたルーミアは、寝ている少年に静かに近づいて、観察する。
(人間は…時間が短い…)
少年の頭を撫でながら、寝顔を見ていると、目が覚めたようだ。ルーミアに撫でられているのに気づいたようで、ルーミアの手を握り離さない。
(闇が、深そう…だけど…今は食べないよ…約束だから…)
ルーミアは泣きそうな少年に、抱き締めてきたのだ。
「今だけは、私が彼女。泣いても良いよ。妖怪の私でよかったら。」
「ありがとう…ルーミア…雰囲気が変わった?」
ルーミアの容姿は変わっていないが、明らかに雰囲気が変わったのだ。少年は動揺している。
「大丈夫。約束は守るよ…人間のお前が約束を破らない限り。」
「破らない…僕の時間は…3日間しか無いんだ。」
「だから、人間は面白いよ。」
ルーミアは少年を起き上がらせて、果物を渡す。少年は果物をゆっくりと食べ始める。
「少しは食べた方がいいよ。」
「ありがとう…」
果物を食べ終えると、再び眠気が来たようで、眠った。ルーミアは少年に布団をかけると、一眠りしたのだった。
夜になる頃に少年は目を覚ましたが、ルーミアが少年の上で寝ているため、起き上がれない。
「ルーミア。起きて…」
「ん…起きたの?外が暗くなってる…」
「起き上がれない…」
少年の発言に、ルーミアは状況を確認して、怪しげな笑みを浮かべる。少年は嫌な予感がしてきた。
「今の私は彼女だよね?」
「3日間限定のね。」
「だったら、この行動も、許されるよね?」
少年に近づいて、そのままキスをしたのだ。すぐにやめたようだが、明らかにルーミアは恥ずかしそうにしていた。
「恥ずかしいなら、やらなくても…」
「君が…好き。それ以外に理由ある?」
「僕は3日間までしか生きられないよ?」
「幻想郷にも、薬師いるけど、生きたくないの?」
「いいや…正直に話すと、足が動かないんだ…久し振りに歩けたから、よかったよ。」
少年の発言に、ルーミアの目から涙が溢れたのだ。苦笑しながらルーミアの涙を手で拭って、ルーミアにキスをした。
「ンム…ン…は…何で、やめるの?」
「ごめん…眠い…」
少年は疲れて眠ってしまったようだ。ルーミアは寝顔を見て笑みを浮かべると、隣で眠り、1日目が終わった。
翌朝、少年が起きて体を動かしてみるが、やはり足は動かないようだ。ルーミアを見ると、少年のお腹に乗っかって寝ている。
(寝相…悪いのかな?)
暫くすると、ルーミアが目を覚まして少年を見る。何を待っているのか理解したようで、頭を撫でた。
「……………何か違う。」
「許してよ…お願い。」
「明日は覚悟してね…君を食べるとき…痛いから。」
「出来れば、痛くないように…」
ルーミアは機嫌が悪い。少年がルーミアの頬を伸ばして変顔にする。
「なにふるのしゃ?」
「妖怪でも、人間と余り変わらないね。」
ルーミアは少年の発言にぶちギレた。突如、暗闇を発生させたのである。少年は驚いたが、発生された暗闇に恐怖心を抱かなかった。
(暖かい…暗闇なのに…)
「ルーミア。」
「前が見えないからわからないよ…」
「え!?自分の闇なのにわからないのか!?だったら、暗闇を消して。」
暗闇消えると、少年の目の前にルーミアがいたのだ。
「な!?」
「捕まえた。逃がさないから。」
ルーミアは少年の顔を掴むと、そのまま抱き締めた。だが、昨日よりも力が強いため、少年の力では抵抗できない。
「………ルーミア?」
「………君は、辛くない?生きられるのが、明日で最後なんだよ。」
「辛いよ…本当は生きたい…」
ルーミアは少年の頭を撫でると、我慢が出来ずに泣き出してしまった。辛い気持ちが押し寄せて、涙が止まらないようだ
「我慢しないで…私に甘えて良いから。」
ルーミアに抱きついて、顔を胸に押し付ける。暫くして、泣き止んだようだ。だが、恥ずかしかったようだ。
「…………」
「大丈夫かな?」
「今何時?」
「午後1時だよ。人里いかない?」
「……行かない。ルーミアと2人だけでいい…」
窓から外を眺めていた少年は、突然ルーミアの手を掴んで、後ろから抱き締めてきたのだ。
「どうし………ンム…!?」
ルーミアが後ろを向いた瞬間に唇を奪った。少年の行動にルーミアは、おとなしくなり、少年の首に手を回す。
「アム…ンム…ン…は、そろそろ、どうしたいの?」
「………」
「耳掃除してあげる。ちょっと待ってね。」
少年はベットに横になると、戻ってくるのを待つ。
「綿棒持ってきたよ。」
少年の体を横に動かして、綿棒を耳の中に入れ、少しずつ綿棒を動かして、中を掃除する。
「痛い……」
「ごめん、ゆっくりするね。」
小さく綿棒を動かしながらすると、耳から取れていく。少年はくすぐったくても我慢する。
「綺麗に取れたよ。反対もする。」
「………ン……ア…」
暫く掃除をすると、中が綺麗になり最後は、息を吹き掛ける。少年は変な声を出してしまい、ルーミアを睨む。
「息はいらないよね!?」
「掃除終わったよ。昼の準備してくるね。」
ルーミアは準備をするため、寝室から出ていく。いなくなったのを確認すると、発作を起こしていたようで、我慢していたようだ。
(お願いだから…明日までなんだ…持って…)
胸を押さえていると、ルーミアが戻ってきてしまい、少年の異変に気づかれた。
「どうしたいの!?しっかりして!やっぱり…」
「ダメ!明日で…最後なんだ…お願い…ルーミアと一緒にいたい…」
「本当に?」
少年は後悔のない瞳で、ルーミアを見つめる。溜め息をしたルーミアは、説得を諦めて、少年を抱き締めて、落ち着くのを待つ。
「あ、ありがとう…ルーミア…もう大丈夫。」
(嘘つき…本当は…無理してるくせに…)
ルーミアはお粥を少年に食べさせる。恥ずかしいが、ルーミアが泣きそうになっているので、黙って食べる。
「………ごちそうさま。」
「残ってるよ…」
「食べられないんだ…」
残りのお粥を片付けると、夜まで少年と会話をした。外が暗くなると、明日に備えて早めに寝ることにした。
「明日が最終だね…」
「ルーミア…頼みたいことがあるんだ。明日は一緒に家を出よう。」
「え!?大丈夫なの?」
「わからない…でも、お願い。」
ルーミアは少年の願いを受け入れて、明日は出掛けることになった。2人は抱き締めあったまま眠りについた。
少年とルーミアは朝早くから家を出発していた。少年が奇跡的にも、歩けるようになったからである。そのため、家から出てルーミアとデートに出掛けたのだ。
「本当に人里に行かなくて良いの?」
「人里に行ったら…生きたいと…思ちゃうよ。」
そう、今日が少年の最後の日なのだ。昨日少年は発作を起こしているため、何時倒れても、おかしくない状態に陥っている。
「それにしても、少し寒い。」
「そろそろ、冬になるよ。」
魔法の森を出て、最初は霧の泉に向かう。妖精も存在するが、朝早くからはいないようだ。まだ寝ているのだろう。
「綺麗な泉…」
「この泉の近くに吸血鬼が住む洋館があるよ。」
「………吸血鬼!?」
「行かないよ…」
「行きたくない。」
暫く綺麗な泉を眺めると、妖精が泉に来たようで、少年とルーミアは急いで、泉から離れる。
「どうしたのチルノちゃん?」
「人間がいたような…気のせいかも。大ちゃん今日も遊ぼ!」
泉から離れた場所から妖精を見ていた少年とルーミア。
「あれが…妖精…」
「妖精は自然がある限り、何度でも復活するよ。」
「……………行こう…別の場所に。」
「次は…花畑のある場所に行こう!」
次に到着した場所は、太陽の畑だ。花畑の中には入らずに外から眺めている。
「向日葵が咲いている?季節違うよね?」
「うん…幽香が来た!」
太陽の畑の管理をしている風見幽香が、気づかない内に向日葵の手入れをしていたのだ。ルーミアと少年の存在に気づいて、来るように手招きしている。
「久し振りね…ルーミア。隣は人間ね。私は風見幽香。」
「よろしくお願いします。」
幽香は少年の服装を見て、
外から来た人間だと気づいた。だが、幽香は少年を見て、違和感を感じたようだ。
(足に妖力の気配がするわね…誰かが干渉してる。)
「どうしたんですか?」
「……見た感じ、貴方はどこか悪いの?」
「病気です。絶対に治らない病気…」
「………そう。」
幽香は何かを思い出したかのように、少年とルーミアに頼みごとをする。
「ちょっと2時間のくらい、花畑を見てもらえないかしら?知り合いに花の種を届けないといけないのよ。」
「………わかりました。」
「荒らさない限り、近くで見ても構わないわ。お願いね。」
幽香はそう言って、出掛けたのだ。留守を任された2人は花畑を眺め時間が過ぎていき、楽しかった時間が終わりを告げる。
「帰ってこないね…」
「そうだね……ルーミア…ごめん。時間だよ…」
少年に異変が起きた。発作を引き起こした。今までにない、酷い発作である。ルーミアは少年を抱えて、必死に呼び掛ける。
「ねぇ…しっかりして!」
「3日間…傍にいてくれて…ありがとう…」
「嫌だよ!死なないでよ…」
少年は痛みを我慢しながら、懐から鍵の形をしたペンダントをルーミアに握らせる。
「これは…」
「ルーミアに…あげる。お守り…そうだ…最期に…」
「そんな……ンム!?」
少年は最後の力を振り絞り、ルーミアにキスをした。
「…ンム…ン…ンチュ…は、お願い…生きてよ…」
「元気でね…」
「お願い…だから…目を覚ましてよ!」
少年はルーミアの傍で、永遠の眠りについた。ルーミアは少年を抱き締めながら泣き叫んだ。
「………最後…せめて…君を…食べなきゃ…誰にも…渡さない…」
少年の肉体をルーミアは喰らった。泣きながら、少年の存在を忘れないように、全てを喰らったのだ。
「……これで…私は…君を…忘れない…永遠に…一緒だよ…」
鍵のペンダントを首につけて、泣きながら家に帰ったのだった。それから、1年後。ルーミアは悲しみが癒えて、博麗神社の宴会に参加した。
ルーミアは神社の屋根から満月を見ていると、博麗霊夢がお酒を持ってルーミアに声をかけた。
「霊夢…どうしたの?」
「珍しいわね。1人で満月を見てるなんて。隣…」
「良いよ。隣に来ても…」
ルーミアは霊夢に聞きたいことがあり、質問した。
「もし、人間の好きな人が目の前で死んじゃたら…霊夢はどうする?」
「そうね…泣くわね。確実に…ルーミアの実際にあった話なの?」
霊夢に質問されたルーミアは、笑みを浮かべながら満月を見て、発言した。
「話してあげる…妖怪の少女と外から来た人間の少年が、一緒に過ごした3日間の物語を…」
終わり