* * * * *
稀神サグメは寝所に人を入れない。余人に寝言を聞かれる事を恐れるためである。
これは月の都では知らぬ者がいないくらいの有名な話だ。以前は玉兎の近侍をつけている事もあったが、彼らは愚かで、そのうえたいへんおしゃべりだった(そして当然だが、人とはみなされていなかった)。そんな口の軽い侍従たちに聞きつけられたサグメの寝言は、とある主流派の重鎮の失脚に繋がった。その後の一連の政治的混乱はやがて様々な人々の運命の変転をもたらして、月の姫を追放し、月の頭脳を奔らせる遠因にさえなったが、それらの事件も過去のものになりつつある。
以来、彼女は寝所から人を遠ざけるようになったが、それでもただ一人、枕元に侍る事を許している者がいた。
* * * * *
「それで、どのような用事で私を呼びつけたのでしょう?」
そう言いながらずかずかと寝所に上がり込んできた野蛮な妖怪の非礼を、サグメはひとまず許した。どうせ叱りつけたところでこの食客は気にしないだろうし、彼女を急に呼びつけたのは自分だったからだ。
「……今朝、久々に朝政に出席する事を許された。退屈だった。いつにも増して退屈だった」
サグメはぶつぶつと言った。
「私はつい居眠りをしてしまって、なにか寝言をやったみたいだ。寝言がどういったものだったのかはわからない……しかし重要な一言だったように思う。誰に聞かれていたかもわからない……しかし聞かれていれば大変だ」
相手は呆れた。「あなたの寝言は夜尿症のように具体的すぎますからね」
「夜尿の方は最近ようやくましになってきたわ」
「……ですが、今夜はあなたのおねしょ事情よりも政治的な懸念の方が気になります」
「そんなものは無い」サグメは真顔で言った。「私は既に政治的敗者よ。なにを懸念する事があるかしら。しかし……寝言の内容は、政に関係しているかもしれない」
「では、その話をお願いします」
「……静かの海に展開されている大部隊は、日に日に無用になりつつある。これらを撤収させる事は決まったが、地上に向けた牽制も依然として必要だ。なにか上手い対応がないか……しかし誰も、なんの献策もできないまま時が過ぎていった。気がつくと私は居眠りをしていて、夢の中で妙案を思いついた。しかしこれをうっかり漏らしてしまった気がする」
「誰かに寝言を聞かれて、策を横取りされたのですか?」
「まだわからない。この策が実行可能であるかは慎重な検討が必要で……事の可否が即座にわかるのは、夢を見た私だけだった。夢の中では策は完璧に運用されていた。きっと上手くいく」
「ではよろしい。誰がそれを聞いていようと関係ありません。次の朝政で、上にその策を献じるのです」
「だが献策には根回しが必要だ……今の私は、政治的に不利な状況に追い込まれ一敗地にまみれた、一介の将校でしかない。そんな者が突然策を述べたところで、聞き容れてもらえるかもわからない」
サグメがふてくされたように言うのを見て、妖怪はニヤリと笑った。彼女は未だに失政の痛手から脱しきれていないが、この様子だと中枢に返り咲く腹づもりはありそうだった。
「……あなたは献策を容れられるためには、どんな事でもなさいますか?」
「無論よ。早晩なんとかしないと、軍は破綻するわ」
「それでは、もう一度居眠りをしてもらいましょう」
「居眠りして、どうなるの?」
「心のままに叫んでいただければ、それでよろしい。きっとあなたの幸いとなります」
サグメは再び朝政に参加した。彼女は無言で、礼を失しないようにしずしずと会議の末席についたが、背後にすらりとした美少年の従者を一人連れていた――男装しているが、昨晩彼女の枕頭にいた食客だった。しかし月人特有の優雅な所作は一朝一夕に身につくものではないので、物のわかる者には一目でこれが野卑な妖怪だとわかっただろう。とは言っても、この頃では宮中の風紀も乱れがちで、出仕する大臣連中にも無教養だが見た目だけは良い玉兎などをぞろぞろと引き連れる輩が少なくなく、幸運にも目立つ存在にはならなかった。
朝政の議題は先日に引き続き、辺境に駐屯させている大軍の進退についてだった。議事は進まず、廷臣は退屈していた。そもそも、彼らが参内するまでがだらだらと永遠のように長かった。これではサグメが居眠りしてしまってもしょうがない……と彼女の食客もあくびを噛み潰しながら思った。全ては礼にかなっていて、退屈だった。
そんな中で「私に策があります」と叫んだ者があった。ただでさえ意見が出ない会議が、いっそうしんと静まり返った。
「私に策があります」ふたたび叫んだのは稀神サグメで、しかも寝言だった。たいそう大きな寝言だった。
議場に混乱が訪れる前に、サグメの従者がいち早く身を進めて、言った。男装した彼女の声音には、この、なにか夢でも見ているような異様な場を掌握する、独特の響きがあった。
「おそれながら、これは我が主のただの寝言でございます……ですが、夢とは時に託宣でもある。寝言であっても策に理があり、当を得ているものならば、採用されるべきです」
議場は困惑したが、とにかく居眠りしている主人を起こして策を述べさせるように、この従者の姿をした妖怪に命じた。妖怪はサグメに歩み寄ると、すさまじい勢いで頬を打擲して叩き起こした。
……このような事があって、稀神サグメの策は受け容れられた。辺境から大軍を退き、代わりに玉兎の居留区を設けて開墾を行わせて、平時の警備と、非常時の軍事行動まで視野に入れる――この献策は彼女の功績の一つとして、現在でも知られている。餅つきか愛玩くらいにしか能が無かった玉兎どもを軍事力として活用するという発想は、これ以前には八意永琳が、月の都で起きたクーデターに対応して臨時の(そして見せかけの)近衛軍を編成した時くらいしか前例が無く、それすらも非常行動であった。彼女が献じた策は、やがて月の民の軍制を大きく変えるものとなった。
もっとも、この出来事は一応の功績をサグメにもたらしたが、すべて本人の望む通りになったとは言えない。いわゆる言い出しっぺの法則と言うべきか、居留区の整備どころか長期的な管理まで任される羽目になった彼女は、静かの海の辺境に飛ばされる事になった。
稀神サグメの鬱屈は続いた。
* * * * *
「まあ、私はこちらの生活も案外気に入っていますがね」
ある日、サグメがようやっと日常の事務処理を終えて寝所に戻ってみると、彼女の食客は図々しくも主人の寝床の上を、ごろごろ寝転がっている。サグメは忌々しそうに皮肉を返してやった。
「……しかし主の成功を願わない客というのは、いる必要があるのかしら」
「辺境の勤務は栄転の兆しという事もありますよ」
腐らずやっていきましょう、と続けたこの食客の言葉を、サグメはかぶりを振りながら聞き流した。
「ところで明日は都から使者がやってくる……。饗応の必要があり、忙しくなるわ」
「使者ですか、急ですね」
「あなたも名前くらいは知っているでしょう。綿月姉妹よ」
それを聞いた食客は、獣じみたしなやかさと反射で身を起こした。
「……怪しいですよ、それは」
「あなたもそう思う?」
「まず事が急です。そのうえ使者の家格も高い……高すぎます。……他に判断材料はありますか?」
「中央に残っているいくつかの伝手は、特に何も言ってきていない。月の都は平穏そのもののようよ」
食客は途端に顔色を失い、どろりとした瞳になった。
「……では中央が不穏なのではなく、私たちが平穏でないと見なされているのかもしれませんね」
やはりね、とサグメは嘆息した。「こちらは、ただ外に備えているだけだというのに」
「はっきり言って、まったく期待されていなかった施策でしたからね。中央は何もかもあなたに背負わせて、ここの責任者にした。普通の官吏ならばそれで潰れてしまうところでしょう。それが予想外に――もっとも、あなたの有能さを知っている者からすれば当然ですが――上手くいった今では、責任だけでなく権利をも与えすぎている事にようやく気がついた、といったところでしょうか。……しかし急な使者というのが気になります。まったく別の状況が都で起きているのかもしれません。私が今しがた述べた言葉は、勝手な先入主だけで練り上げた状況でしかない」
「どうすればよいかしら」
「いずれにせよ……印符はありますか?」
「このとおり、寝る時でさえ肌身離さず持っている」
と、サグメはこの都市の全ての権利を司る印璽と割符――それはむろん、ここに駐屯している、数万の玉兎たちの指揮権も含めてだ――を見せたが、この妖怪はそれを突然ひったくった。そして手の内に入ったそれをまじまじと観察し、齧り、舐めるまでした。
「こんなもの、くれてやればいい」
主が呆然としているうちに、客は言いつのった。
「そもそも綿月は月の名族、血が流れるのを嫌う事甚だしい。この使者によってなにか変事があるにしても、あなたが謀殺される可能性は限りなく低い。あなたはただの地方長官であり、まったく重要人物ではありません。この、ただ賜っただけの権利の方が重要です。……そんなものは、さっさと手放してしまうに限ります。それはあなたをここに縛りつける枷でしかない」
そう言うと、妖怪は再び主人の寝床に身を沈めた。
「……ともあれ、どうなるかは相手をよく見てから考えるべきですね……この印符、使者が帰るまでは私が預かっておきましょう」
急な使者の割には、綿月姉妹は意外にものんきな様子でサグメと会見した。
「私たちはウサギが大好きでね。今回の使いは楽しみにしていたのよ」姉がそんな事を言うのを、妹が諫めた。
「……私たちは真面目な用事で来たのです。玉兎の軍団というものがどのようなものか、新しい軍事力として有用であるか、都の方でも興味を持っております」
「私はただ可愛らしいだけの、おもちゃの兵隊でも構わないけれどね」
「お姉様!」
「だって、あんなに可愛らしい子たちを戦わせるなんてかわいそうよ」
「閲兵式をご覧になりますか」
姉妹のやり取りに割り込む形でサグメが言った。
「練兵は日常的に行っておりますので、おもちゃの兵隊よりは見応えがあると思いますが」
「熱心な事ですね」
「ここは最前線ですから」
本来ならばなんのやましさもない理由だ。
「……という事は、ここの軍はいつでも即応可能なのですね」
と、綿月の妹が言うのと行動とが同時だった。彼女は使者である手前、帯剣こそしていなかったが、巧みにサグメの身に絡みつき、拘束しながら、耳元で囁いた。
「申し訳ありません」
「私たちにはその軍権が必要なのです」
姉の綿月豊姫は、その変事をなんでもないように見つめながら言った。
「あなたはまったく知らないようですが、月の都で政変が起こりました。……私たちは幸運にもそれを察知する事ができ、地方への使者という名目を作って奔る事ができました。ここで力を蓄えて、いずれは都を奪い返すつもりがありますが、惜しむらくはまとまった兵力がありません」
「ここに駐屯する玉兎の兵団数万に目をつけた事、そしてそれを強引に奪う事を許してもらいたい」綿月依姫も言った。「ただ逃れ、再起を望めるのがここしかなかった。それだけの事なのです」
「……それだけですか。ならばこんな軍権、くれてやりましょう」
羽交い締めにされていたサグメは、あっさりと言った。ぎくりと依姫の力が緩むのを感じて、しなやかな肢体がするりとすり抜けた。
「そして、ここに留まるのは望まない方がよろしい」
二人の姫にくるりと向き直って跪きながら、サグメは策を述べた。
「あなた方は今すぐ月の都に取って返すべきです。確かに私は中央の状況をまったく知りません。しかし時を置いては不利になるばかり……。私は、即座に軍を動かす事を進言します。総大将には綿月豊姫、副将に綿月依姫――印璽と割符をここに」
呼ばわれて、食客の妖怪が印符を携えてやってきた。この状況に至っても、彼女はいつも通りの笑みを崩す事が無かった。全て予想通りという状況ではなかったが、予想された事の一つではあった。
「私も参謀としてお伴しましょう」サグメは言った。「玉兎の兵士は欲にまみれていて、我が儘です。彼らを操縦する事に関しては多少の自信がありますので」
「……よろしい!」豊姫は感激のあまり、予言めいた事を叫んだ。「たとえ千年先でも、月の都を安んじて民を救うのは、きっとあなたでしょう!」
綿月姉妹は静かの海から反撃の軍を発する事となった。
「姉妹の言い分は、大筋では正しいようです」
進軍の直前に食客がサグメに耳打ちした。
「月の都でクーデターが起きたのは事実です。情報の封鎖が行われて、あなたの伝手は連絡を寄越せませんでした。準備さえも秘密裡に行われていて、よほど政治の中枢にいなければ察知すらできなかったようです」
「私の伝手には立場が偏っている者が多いものね」サグメは素直に認めた。「反主流の人たちばかりよ。ここらで主流の方々とも縁を作っておきたいわ」
「……ですが秘密裡に行われたぶん、反乱の規模はあくまで月の都の中だけ。思いのほか小さかったようです。既に反撃に起っている諸侯も多い。……要するに、乱がどうなるかというよりも、乱を鎮めるのが誰かというところが焦点になりつつある段階です。あなたが中央に返り咲くとすれば、これを我が身の幸いとして功を立てるべきです。その事をお忘れなきよう」
そう言いながらも、この食客は主に付き従わず、辺境に留まる事にしたようだった。
「軍才だけなら、あなたは私以上のものがありますからね。……いずれ中央で身を立てたあなたの噂を聞いて、自身の悦びとしたいものです」
「……ありがとう」
政変は数日と経たず鎮められた。玉兎の即応部隊を得た姫君たちは、綿月豊姫が生来のおおらかな徳で軍をよく統御し、綿月依姫の鋭い才が進軍の勢いを保たせた。そしてその強勢でもって、寄り集まった諸侯の盟主となる事に成功した。姉妹は月の都の無血開城を主張し、稀神サグメが謀を用いて城門を開けさせた……そんな記録だけが残っている。
一つの俗説によれば、彼女は城内にこんな噂を放ったという――玉兎の兵士は死の穢れも恐れず、殺し殺される事を好むらしい、と。また同時に陣中に令を出し、人肉と見紛うばかりに真っ赤な餅を搗かせて大いに振る舞い、その様子を城内に見せつけた、ともある。血の穢れさえ恐れる事甚だしい月人の反乱者たちは、それらを見聞きして恐慌した。彼ら自身によって城門は開かれ、あるいは城外に逃れて自決した。この話を信じるならば、都の内だけは穢すまいという彼らなりの美しい倫理が働いた事になる。
いずれにせよ、策の内容が固く秘されて公式の記録に残っていないというどこか後ろ暗い事実、そしてこの事変をきっかけに中央に返り咲いた稀神サグメの栄達が、どこか裏道を駆けるようなものになっていく事も含めて、何らかの示唆があるようにも思われる。
* * * * *
稀神サグメは夜空を眺めていた。重力という拠り所を失った妖怪たちが月から追い落とされて、ぱらぱらと地球へと落下していくのが見える。その大多数は地上に叩きつけられて潰れてしまうか、あるいは燃え尽きてしまうだろうが、そうならない方が悲惨だ。月の重力にも地球の重力にも捕まらなかった場合(もしくは両者の間でうまく均衡が取れてしまった場合)、宇宙空間に漂う一つの塵芥に成り果てるしかない。地上の妖怪たちの墜落は、月からは四晩に渡って眺める事ができた。彼らが燃え尽きていく様は、不思議と美しい光景だったという。
サグメの策はふたたび月の都を救った。しかも月の表面には一滴の血も落とさず、完璧に。これによって彼女の名はいっそう上がったが、同時に謀が多すぎるといった評判も、それ以上に積み重なってきている。
かぶりを振りながら寝所に戻ると、思いもしない再会が待っていた。
「お久しぶりです」と口元がにやける笑みは、忘れるはずがない。会わなくなって久しい顔――かつて、枕元に侍る事をただ一人だけ許していた食客だった。
サグメは、目の前の女が月から出奔して姿を消していた事を、そこでようやく思い出した。後任の地方長官と折り合いが悪かったとか、そういった噂も聞いていた。そんなふうに消え失せていた人物が、こんな騒動の後になって急に姿を現すというのも、不安な気分にさせられる。
そんな気分をよそに、女は「ところで、私も最近になって名前を得ました」とさらりと言った。「これからはドレミー・スイートと呼んでください」
名前の奇妙な響きに浸りながら、サグメはわかった、と答えた。
「月に攻め込んだ妖怪たちの潰走を眺めていると、ふとあなたが懐かしくなりましてね」とドレミーは続けた。「地上では、月の進んだ技術に負けたとか、そういう事になっております」そう言って笑った。「涙ぐましいプロパガンダですよね。ああおかしい。それ以前のレベルの敗北だったという事に、どうして気付けないのか――いや、気付きたくないのか」
「彼らが月の都をただ穢す事のみに賭けていたのは、わかりやすすぎるほどだった」サグメは、あまり愉快でなさそうに言った。「月の民は、禁裏どころか都の中でさえも血が流れる事を厭う。つけ込まれるなら、そこだと思った」
「あなたは相手のそういうところまで読んで、軍略に組み込んでいますね。他の月の将や臣とはそこが違うのです」
褒めているのかいないのか、ドレミーは言った。
「……そして、そういうところを身内からも不気味に見られている」
それを聞いてサグメは目を細めたが、相手はさらに続けた。
「私が月から離れてだいぶ経ちますが、あなたの評判は手に取るようにわかりますよ。謀ばかり多く、心底が読めない女」
「そう言われるのはもう慣れっこよ」面白くなさそうにサグメは言った。「よく陰口を叩かれるわ。……逆に、どういうわけか言い寄られることも増えたけれども」
「人の心が一番わかりませんね!」ドレミーは呵々大笑した。「そうですか、そういう、ミステリアスで底知れぬところがあなたの魅力なんですかね……。まあ私はあなたの色事になど興味は無いので、それはよろしい」
ところで、本日は妖怪側の使者として参りました、とドレミーは言った。サグメはちょっと微笑んだ。
「……驚いてはあげられないわ」
「でしょうね……まあ、私も向こう側にあまり深入りしているわけではなく、戦見物を楽しんでいたところに使いを頼まれたってだけです。それで、私の役目はたったひとつ。月人は地球に侵攻してくるつもりが、有るのか、無いのか。それをはっきりさせて、何かしらの証しをもらいたい。もちろん私自身は、あなたがた月人に地上侵攻の腹などあるわけがないという事はわかっています。しかし――」
「攻めてこないという確証が無い、というわけね」サグメは言った。「一つ条件があるわ」
「なんでしょう」
「私たちの反撃が無いという情報は、妖怪の長の中で、最も賢明で最も穏健な人にのみ伝えなさい。そして、同時にその人に次のように献策なさい――あなたはこの機に、同盟している他の勢力を全て呑んでしまうべきです、と」サグメは続けた。「敗北した地上の妖怪たちの間でも、熾烈な勢力争いが起きているでしょう……むしろ敗軍だからこそ、崩壊したパワーバランスの再調整が必要になる。しかし月からの反撃の可能性がある限りは、ただ睨み合い、政治的駆け引きを行って、せいぜい足元を引っかけようとする事しかできやしない。――月が反撃してこないという、確かな情報を掴んだ者以外はね」
「そういたします……それで、地上に侵攻しないという証しはどうしますか?」
「必要ない」サグメは即座に答えを返した。「私は、最も賢明で最も穏健な人にのみ情報を流せと言った。そんな人ならば、きっと証しなど無くても信じてくれるわ……敵を信じられない者に、この情報を握る権利など無い。……証しなどがあれば、かえってどう利用されるか分かったものじゃないわ」
「確かにね。情報とは時に刃物のようなもの。これが彼らの幸いになればいいのですが……」
その後は、ドレミーが地上で見聞きした話になった。彼女自身は軍にすら参加していなかったが、多くの話は真実に近かった。敗戦後、妖怪たちの混乱は頂点に達して、統制は崩壊した――しかも、統制を取り戻そうと努力すればするほどに崩壊していた。あらゆる種類の相反する指示が飛び交い、しかもそれらは一切の矛盾なく、なぜか一つの軍令の中に組み込まれてしまった。壊乱した妖怪たちは進みながら退き、味方を敵と認識して、降伏しながらに玉砕していた。
「悪夢のような話ね」
「夢は人生を織りなす糸。悪夢は現実の中にこそあるのでしょう」
そして二人は、そんな複雑怪奇な命令を発する事ができた妖怪の賢者の異形の才能について、しみじみ考えた。地上の一部では、この戦いを大仰にも月面戦争といった言葉で呼ぶ向きがあるようだが、月の方では、何時の年に起こった、野蛮な連中の大規模な侵犯行為というふうにしか認識されていない。
これ以来、ドレミー・スイートは、月と地上とをこっそり行き来するようになる。一介の妖怪である彼女の具体的な働きは確かな記録には残っていないが、以前のようにしばしばサグメの寝所に侍して、時に献策したと言われる。
* * * * *
ある年の如月の十日頃、一匹の玉兎の兵士が月から姿を消した。稀神サグメの謀によってだ。
「彼女には様々な夢を見せました」
ドレミーは膝元にサグメを寝かせながら、伽をするように言った。
「……具体的ではなく、潜在的な印象の断片でしたがね。それらのサブリミナルの参照元の多くは、いつだったか妖怪たちが月に挑んで大敗した時に見かけた情景です。……あれは、あまりに惨めな敗走だったので」
「懐かしい話ね」
「悲惨な印象を植え付けられた彼女は、戦争と敗北を大いに恐れるようになりました……もっとも、玉兎一匹が戦争への予感を覚えたところで、ただ一個人の妄想でしかありません。彼女の周囲にも漠然とした不安を抱いてもらう必要があった……。代償に、玉兎どころか月の都全体にまで、うすぼんやりした戦争への予感が蔓延してしまった事は、今後収拾すべき問題ですね」
「地上人と戦争に対する恐れを誰よりも抱いていたのは、私だったのかもしれない」サグメは起き上がると、ふらりと寝所から外に出て、夜空の向こうにある地球を見下した。「その強迫観念が私の中に謀を持ち上げさせて、彼女を奔らせたのよ」
「ぼんやりした不安は、時として事実以上のものになり得ます」ドレミーは背後に従いながら言った。「私はそれをたくさん見てきました」
「彼女はやってくれるだろうか」
「どうでしょう……。たとえ地上人の要人相手だろうと、暗殺なんて事はやらないかもしれません。彼女も玉兎とはいえ、月人の傍らで生きてきた者です。死に対する忌避感は強い」
「私はおかしくなっていたのよ。戦争の影に一番怯えていたのは、他ならぬ私だった。……策を用いておいて我が儘な話だけれど、あの子には、暗殺なんて事はせず、いっそどこへなりと逃れて、平穏無事に暮らして欲しい」
「ええ。少なくとも彼女はそれでいい。……なぜなら手筈が狂った陰謀とは、仕掛けた者たちにふりかかるもの。私たちが毒の杯を呷らなければいけません」
「そういう運命ならね」
「運命……運命ですか」
ぽつりと呟いたサグメの言葉を、ドレミーは眠たそうな目で何度か口の中で転がし、ふっと微笑んだ。
「……そういえば今回の謀の中で、私は一つだけ勝手をしました」
「なに?」
「彼女の識閾下に、もしもの時にはとある場所に落ち延びるよう行動様式を植え付けたんです」
「……どこに?」
周囲に誰もいないのに、ドレミー・スイートはいたずらっぽく、こっそり耳打ちをした。そしてサグメが目を丸くして驚愕するのを気分よく眺めながら、子守唄めいた鼻歌をくゆらせ始めた。
「……まさか!」
「運命の輪はまだ回り続けています。いずれまた、地上の彼女たちが私たちの幸いになる事があるかもしれません」
この時の計略が、その通りに実行されたのかどうかすらも、サグメにはわかっていない。少なくとも標的は暗殺されてしまったが、自分たちが放った玉兎の刺客の手によるものかどうかまでは、よくわからなかった。得られた情報を総合すると、どうも違うような気もする。魔法の銃弾などという言葉を報告書に見た時には一瞬どきりとしたが、それも情報を精査していくうちに、単純な錯誤であるようだと結論した。
……ともかく、この謀が完全な失策となってしまった事は、彼女も認めるしかなかった。陰謀は二人の内に秘された。暗殺は何も変える事ができなかった。彼女たちが止めようとした地上人の国家プロジェクトは、標的の暗殺後も整然と続いたのだ。だらだらと、官僚的に……もっと悪く言えばなし崩しに。人の死を乗り越える事ができる地上の人々が作り上げたシステムの手強さと愚かさとを、彼女は同時に思い知った。
* * * * *
稀神サグメは、完全に眠ってしまった月の都をふらふら彷徨っていた。彼女と共に最低限の首都機能をなんとか維持してきた官僚たちも遂に眠りに落ちてしまって、今では細く長い息を吐いている。彼女の足はやがて宮中に向かったが、門には警護の兵士すらいない。彼女はそのまま無人の内裏にまで入りこんで、玉座についてみた。非常に気分が良かった。
「あらあら……何しているんですか?」
と傍らで言ったドレミー・スイートの声は、半分面白がっていて、半分慌てていた。
「どうって、見ての通り。みんな眠ってしまった今では、私が月人の長よ」
「あなたにそんな野望があったとは思いもしませんでした」
「あはは、今なら御璽だって利用し放題よ……どう? 試しにあなたが、この月を統べる後継者になってみない?」
「そのお鉢が回ってくる頃には、よぼよぼの婆さんになっていそうなので、やめておきましょう……」
ドレミーは笑ったが、サグメの乱行じみた戯れだけは怖い。「今この都に生きているのは、私とあなただけ!」と言ってはしゃぎ回る女を見ているのは、危なっかしくてしかたがなかった。
「それでは、私もそろそろ例の通路を維持しなければいけませんので……」
「では行きなさい。そして、通すべきと思った幸いは通しなさい」
それまでの狂態が嘘のように、透き通った声で稀神サグメは言った。
「……地上にばら撒いた幸いが、新世界の力となって私たちを救ってくれるかもしれない」
と呟いて思い出すのは、数年前、月の都に捕虜としてやってきた巫女の姿だった。あの、綿月姉妹が対処した騒動そのものに関しては、サグメはあまり興味を覚えなかったが、あの巫女がかつて戦った妖怪の賢者が放った刺客だと聞くと、ほんの僅かに感慨を覚えた。そんな程度の事だったが、そういうものが幸いになるのだろうと、奇妙な巡りあわせを思う。
ドレミーはサグメの感慨に覆いかぶさるように言った。
「全てはあなたの運命と徳によるものですよ」
「徳?」そんな事は、初めて言われた言葉だった。
「たしかに、あなたは策が多く、謀略の士です」ドレミーはニヤリと笑いながら言った。「それによって人から恐れられることもあります。信用ならない奴だと思われることもあります。……しかしあなたの策は、基本的に誰かを救おうとしてそうなったものです。時に自分自身を救い、時に綿月姉妹を救い、時に月の都を……月に敵対した妖怪たちすらも、彼らの逃れえなかった自滅から救いました。その事を忘れてはなりません」
「私は暗殺すら計画したことがあったわ」
「ええ。でも、あれは上手くいかなかった。……結果としてはただ一匹、月の兎を地上に落としただけです。しかし、それもまた運命の中で巡り巡って幸いとなり、あなたを救おうとする因子の一つになっている。全てはあなたの徳によるものです」
「私は沢山の人を死なせてきているし、死なせようとしている。そんなに綺麗なものじゃないわ」
「私は清い行いをすれば清い報いが戻ってくるなんて話はしていませんよ。あなたは謀略の士、計略によって事態を覆す女です。それは間違いない」
「ひどい事を言う」
「しかし、徳とは時にそういった清濁を超越したものです……綺麗は汚く、汚いは綺麗なのですよ。私は闇と穢れの中を飛んできますね」
ドレミー・スイートはするすると下がっていき、後に残された稀神サグメは、じっと、何かを待ち続けた。
* * * * *
稀神サグメは寝所に人を入れない。余人に寝言を聞かれる事を恐れるためである。
これは月の都では知らぬ者がいないくらいの有名な話だ。以前は玉兎の近侍をつけている事もあったが、彼らは愚かで、そのうえたいへんおしゃべりだった(そして当然だが、人とはみなされていなかった)。そんな口の軽い侍従たちに聞きつけられたサグメの寝言は、とある主流派の重鎮の失脚に繋がった。その後の一連の政治的混乱はやがて様々な人々の運命の変転をもたらして、月の姫を追放し、月の頭脳を奔らせる遠因にさえなったが、それらの事件も過去のものになりつつある。
以来、彼女は寝所から人を遠ざけるようになったが、それでもただ一人、枕元に侍る事を許している者がいた。
* * * * *
「それで、どのような用事で私を呼びつけたのでしょう?」
そう言いながらずかずかと寝所に上がり込んできた野蛮な妖怪の非礼を、サグメはひとまず許した。どうせ叱りつけたところでこの食客は気にしないだろうし、彼女を急に呼びつけたのは自分だったからだ。
「……今朝、久々に朝政に出席する事を許された。退屈だった。いつにも増して退屈だった」
サグメはぶつぶつと言った。
「私はつい居眠りをしてしまって、なにか寝言をやったみたいだ。寝言がどういったものだったのかはわからない……しかし重要な一言だったように思う。誰に聞かれていたかもわからない……しかし聞かれていれば大変だ」
相手は呆れた。「あなたの寝言は夜尿症のように具体的すぎますからね」
「夜尿の方は最近ようやくましになってきたわ」
「……ですが、今夜はあなたのおねしょ事情よりも政治的な懸念の方が気になります」
「そんなものは無い」サグメは真顔で言った。「私は既に政治的敗者よ。なにを懸念する事があるかしら。しかし……寝言の内容は、政に関係しているかもしれない」
「では、その話をお願いします」
「……静かの海に展開されている大部隊は、日に日に無用になりつつある。これらを撤収させる事は決まったが、地上に向けた牽制も依然として必要だ。なにか上手い対応がないか……しかし誰も、なんの献策もできないまま時が過ぎていった。気がつくと私は居眠りをしていて、夢の中で妙案を思いついた。しかしこれをうっかり漏らしてしまった気がする」
「誰かに寝言を聞かれて、策を横取りされたのですか?」
「まだわからない。この策が実行可能であるかは慎重な検討が必要で……事の可否が即座にわかるのは、夢を見た私だけだった。夢の中では策は完璧に運用されていた。きっと上手くいく」
「ではよろしい。誰がそれを聞いていようと関係ありません。次の朝政で、上にその策を献じるのです」
「だが献策には根回しが必要だ……今の私は、政治的に不利な状況に追い込まれ一敗地にまみれた、一介の将校でしかない。そんな者が突然策を述べたところで、聞き容れてもらえるかもわからない」
サグメがふてくされたように言うのを見て、妖怪はニヤリと笑った。彼女は未だに失政の痛手から脱しきれていないが、この様子だと中枢に返り咲く腹づもりはありそうだった。
「……あなたは献策を容れられるためには、どんな事でもなさいますか?」
「無論よ。早晩なんとかしないと、軍は破綻するわ」
「それでは、もう一度居眠りをしてもらいましょう」
「居眠りして、どうなるの?」
「心のままに叫んでいただければ、それでよろしい。きっとあなたの幸いとなります」
サグメは再び朝政に参加した。彼女は無言で、礼を失しないようにしずしずと会議の末席についたが、背後にすらりとした美少年の従者を一人連れていた――男装しているが、昨晩彼女の枕頭にいた食客だった。しかし月人特有の優雅な所作は一朝一夕に身につくものではないので、物のわかる者には一目でこれが野卑な妖怪だとわかっただろう。とは言っても、この頃では宮中の風紀も乱れがちで、出仕する大臣連中にも無教養だが見た目だけは良い玉兎などをぞろぞろと引き連れる輩が少なくなく、幸運にも目立つ存在にはならなかった。
朝政の議題は先日に引き続き、辺境に駐屯させている大軍の進退についてだった。議事は進まず、廷臣は退屈していた。そもそも、彼らが参内するまでがだらだらと永遠のように長かった。これではサグメが居眠りしてしまってもしょうがない……と彼女の食客もあくびを噛み潰しながら思った。全ては礼にかなっていて、退屈だった。
そんな中で「私に策があります」と叫んだ者があった。ただでさえ意見が出ない会議が、いっそうしんと静まり返った。
「私に策があります」ふたたび叫んだのは稀神サグメで、しかも寝言だった。たいそう大きな寝言だった。
議場に混乱が訪れる前に、サグメの従者がいち早く身を進めて、言った。男装した彼女の声音には、この、なにか夢でも見ているような異様な場を掌握する、独特の響きがあった。
「おそれながら、これは我が主のただの寝言でございます……ですが、夢とは時に託宣でもある。寝言であっても策に理があり、当を得ているものならば、採用されるべきです」
議場は困惑したが、とにかく居眠りしている主人を起こして策を述べさせるように、この従者の姿をした妖怪に命じた。妖怪はサグメに歩み寄ると、すさまじい勢いで頬を打擲して叩き起こした。
……このような事があって、稀神サグメの策は受け容れられた。辺境から大軍を退き、代わりに玉兎の居留区を設けて開墾を行わせて、平時の警備と、非常時の軍事行動まで視野に入れる――この献策は彼女の功績の一つとして、現在でも知られている。餅つきか愛玩くらいにしか能が無かった玉兎どもを軍事力として活用するという発想は、これ以前には八意永琳が、月の都で起きたクーデターに対応して臨時の(そして見せかけの)近衛軍を編成した時くらいしか前例が無く、それすらも非常行動であった。彼女が献じた策は、やがて月の民の軍制を大きく変えるものとなった。
もっとも、この出来事は一応の功績をサグメにもたらしたが、すべて本人の望む通りになったとは言えない。いわゆる言い出しっぺの法則と言うべきか、居留区の整備どころか長期的な管理まで任される羽目になった彼女は、静かの海の辺境に飛ばされる事になった。
稀神サグメの鬱屈は続いた。
* * * * *
「まあ、私はこちらの生活も案外気に入っていますがね」
ある日、サグメがようやっと日常の事務処理を終えて寝所に戻ってみると、彼女の食客は図々しくも主人の寝床の上を、ごろごろ寝転がっている。サグメは忌々しそうに皮肉を返してやった。
「……しかし主の成功を願わない客というのは、いる必要があるのかしら」
「辺境の勤務は栄転の兆しという事もありますよ」
腐らずやっていきましょう、と続けたこの食客の言葉を、サグメはかぶりを振りながら聞き流した。
「ところで明日は都から使者がやってくる……。饗応の必要があり、忙しくなるわ」
「使者ですか、急ですね」
「あなたも名前くらいは知っているでしょう。綿月姉妹よ」
それを聞いた食客は、獣じみたしなやかさと反射で身を起こした。
「……怪しいですよ、それは」
「あなたもそう思う?」
「まず事が急です。そのうえ使者の家格も高い……高すぎます。……他に判断材料はありますか?」
「中央に残っているいくつかの伝手は、特に何も言ってきていない。月の都は平穏そのもののようよ」
食客は途端に顔色を失い、どろりとした瞳になった。
「……では中央が不穏なのではなく、私たちが平穏でないと見なされているのかもしれませんね」
やはりね、とサグメは嘆息した。「こちらは、ただ外に備えているだけだというのに」
「はっきり言って、まったく期待されていなかった施策でしたからね。中央は何もかもあなたに背負わせて、ここの責任者にした。普通の官吏ならばそれで潰れてしまうところでしょう。それが予想外に――もっとも、あなたの有能さを知っている者からすれば当然ですが――上手くいった今では、責任だけでなく権利をも与えすぎている事にようやく気がついた、といったところでしょうか。……しかし急な使者というのが気になります。まったく別の状況が都で起きているのかもしれません。私が今しがた述べた言葉は、勝手な先入主だけで練り上げた状況でしかない」
「どうすればよいかしら」
「いずれにせよ……印符はありますか?」
「このとおり、寝る時でさえ肌身離さず持っている」
と、サグメはこの都市の全ての権利を司る印璽と割符――それはむろん、ここに駐屯している、数万の玉兎たちの指揮権も含めてだ――を見せたが、この妖怪はそれを突然ひったくった。そして手の内に入ったそれをまじまじと観察し、齧り、舐めるまでした。
「こんなもの、くれてやればいい」
主が呆然としているうちに、客は言いつのった。
「そもそも綿月は月の名族、血が流れるのを嫌う事甚だしい。この使者によってなにか変事があるにしても、あなたが謀殺される可能性は限りなく低い。あなたはただの地方長官であり、まったく重要人物ではありません。この、ただ賜っただけの権利の方が重要です。……そんなものは、さっさと手放してしまうに限ります。それはあなたをここに縛りつける枷でしかない」
そう言うと、妖怪は再び主人の寝床に身を沈めた。
「……ともあれ、どうなるかは相手をよく見てから考えるべきですね……この印符、使者が帰るまでは私が預かっておきましょう」
急な使者の割には、綿月姉妹は意外にものんきな様子でサグメと会見した。
「私たちはウサギが大好きでね。今回の使いは楽しみにしていたのよ」姉がそんな事を言うのを、妹が諫めた。
「……私たちは真面目な用事で来たのです。玉兎の軍団というものがどのようなものか、新しい軍事力として有用であるか、都の方でも興味を持っております」
「私はただ可愛らしいだけの、おもちゃの兵隊でも構わないけれどね」
「お姉様!」
「だって、あんなに可愛らしい子たちを戦わせるなんてかわいそうよ」
「閲兵式をご覧になりますか」
姉妹のやり取りに割り込む形でサグメが言った。
「練兵は日常的に行っておりますので、おもちゃの兵隊よりは見応えがあると思いますが」
「熱心な事ですね」
「ここは最前線ですから」
本来ならばなんのやましさもない理由だ。
「……という事は、ここの軍はいつでも即応可能なのですね」
と、綿月の妹が言うのと行動とが同時だった。彼女は使者である手前、帯剣こそしていなかったが、巧みにサグメの身に絡みつき、拘束しながら、耳元で囁いた。
「申し訳ありません」
「私たちにはその軍権が必要なのです」
姉の綿月豊姫は、その変事をなんでもないように見つめながら言った。
「あなたはまったく知らないようですが、月の都で政変が起こりました。……私たちは幸運にもそれを察知する事ができ、地方への使者という名目を作って奔る事ができました。ここで力を蓄えて、いずれは都を奪い返すつもりがありますが、惜しむらくはまとまった兵力がありません」
「ここに駐屯する玉兎の兵団数万に目をつけた事、そしてそれを強引に奪う事を許してもらいたい」綿月依姫も言った。「ただ逃れ、再起を望めるのがここしかなかった。それだけの事なのです」
「……それだけですか。ならばこんな軍権、くれてやりましょう」
羽交い締めにされていたサグメは、あっさりと言った。ぎくりと依姫の力が緩むのを感じて、しなやかな肢体がするりとすり抜けた。
「そして、ここに留まるのは望まない方がよろしい」
二人の姫にくるりと向き直って跪きながら、サグメは策を述べた。
「あなた方は今すぐ月の都に取って返すべきです。確かに私は中央の状況をまったく知りません。しかし時を置いては不利になるばかり……。私は、即座に軍を動かす事を進言します。総大将には綿月豊姫、副将に綿月依姫――印璽と割符をここに」
呼ばわれて、食客の妖怪が印符を携えてやってきた。この状況に至っても、彼女はいつも通りの笑みを崩す事が無かった。全て予想通りという状況ではなかったが、予想された事の一つではあった。
「私も参謀としてお伴しましょう」サグメは言った。「玉兎の兵士は欲にまみれていて、我が儘です。彼らを操縦する事に関しては多少の自信がありますので」
「……よろしい!」豊姫は感激のあまり、予言めいた事を叫んだ。「たとえ千年先でも、月の都を安んじて民を救うのは、きっとあなたでしょう!」
綿月姉妹は静かの海から反撃の軍を発する事となった。
「姉妹の言い分は、大筋では正しいようです」
進軍の直前に食客がサグメに耳打ちした。
「月の都でクーデターが起きたのは事実です。情報の封鎖が行われて、あなたの伝手は連絡を寄越せませんでした。準備さえも秘密裡に行われていて、よほど政治の中枢にいなければ察知すらできなかったようです」
「私の伝手には立場が偏っている者が多いものね」サグメは素直に認めた。「反主流の人たちばかりよ。ここらで主流の方々とも縁を作っておきたいわ」
「……ですが秘密裡に行われたぶん、反乱の規模はあくまで月の都の中だけ。思いのほか小さかったようです。既に反撃に起っている諸侯も多い。……要するに、乱がどうなるかというよりも、乱を鎮めるのが誰かというところが焦点になりつつある段階です。あなたが中央に返り咲くとすれば、これを我が身の幸いとして功を立てるべきです。その事をお忘れなきよう」
そう言いながらも、この食客は主に付き従わず、辺境に留まる事にしたようだった。
「軍才だけなら、あなたは私以上のものがありますからね。……いずれ中央で身を立てたあなたの噂を聞いて、自身の悦びとしたいものです」
「……ありがとう」
政変は数日と経たず鎮められた。玉兎の即応部隊を得た姫君たちは、綿月豊姫が生来のおおらかな徳で軍をよく統御し、綿月依姫の鋭い才が進軍の勢いを保たせた。そしてその強勢でもって、寄り集まった諸侯の盟主となる事に成功した。姉妹は月の都の無血開城を主張し、稀神サグメが謀を用いて城門を開けさせた……そんな記録だけが残っている。
一つの俗説によれば、彼女は城内にこんな噂を放ったという――玉兎の兵士は死の穢れも恐れず、殺し殺される事を好むらしい、と。また同時に陣中に令を出し、人肉と見紛うばかりに真っ赤な餅を搗かせて大いに振る舞い、その様子を城内に見せつけた、ともある。血の穢れさえ恐れる事甚だしい月人の反乱者たちは、それらを見聞きして恐慌した。彼ら自身によって城門は開かれ、あるいは城外に逃れて自決した。この話を信じるならば、都の内だけは穢すまいという彼らなりの美しい倫理が働いた事になる。
いずれにせよ、策の内容が固く秘されて公式の記録に残っていないというどこか後ろ暗い事実、そしてこの事変をきっかけに中央に返り咲いた稀神サグメの栄達が、どこか裏道を駆けるようなものになっていく事も含めて、何らかの示唆があるようにも思われる。
* * * * *
稀神サグメは夜空を眺めていた。重力という拠り所を失った妖怪たちが月から追い落とされて、ぱらぱらと地球へと落下していくのが見える。その大多数は地上に叩きつけられて潰れてしまうか、あるいは燃え尽きてしまうだろうが、そうならない方が悲惨だ。月の重力にも地球の重力にも捕まらなかった場合(もしくは両者の間でうまく均衡が取れてしまった場合)、宇宙空間に漂う一つの塵芥に成り果てるしかない。地上の妖怪たちの墜落は、月からは四晩に渡って眺める事ができた。彼らが燃え尽きていく様は、不思議と美しい光景だったという。
サグメの策はふたたび月の都を救った。しかも月の表面には一滴の血も落とさず、完璧に。これによって彼女の名はいっそう上がったが、同時に謀が多すぎるといった評判も、それ以上に積み重なってきている。
かぶりを振りながら寝所に戻ると、思いもしない再会が待っていた。
「お久しぶりです」と口元がにやける笑みは、忘れるはずがない。会わなくなって久しい顔――かつて、枕元に侍る事をただ一人だけ許していた食客だった。
サグメは、目の前の女が月から出奔して姿を消していた事を、そこでようやく思い出した。後任の地方長官と折り合いが悪かったとか、そういった噂も聞いていた。そんなふうに消え失せていた人物が、こんな騒動の後になって急に姿を現すというのも、不安な気分にさせられる。
そんな気分をよそに、女は「ところで、私も最近になって名前を得ました」とさらりと言った。「これからはドレミー・スイートと呼んでください」
名前の奇妙な響きに浸りながら、サグメはわかった、と答えた。
「月に攻め込んだ妖怪たちの潰走を眺めていると、ふとあなたが懐かしくなりましてね」とドレミーは続けた。「地上では、月の進んだ技術に負けたとか、そういう事になっております」そう言って笑った。「涙ぐましいプロパガンダですよね。ああおかしい。それ以前のレベルの敗北だったという事に、どうして気付けないのか――いや、気付きたくないのか」
「彼らが月の都をただ穢す事のみに賭けていたのは、わかりやすすぎるほどだった」サグメは、あまり愉快でなさそうに言った。「月の民は、禁裏どころか都の中でさえも血が流れる事を厭う。つけ込まれるなら、そこだと思った」
「あなたは相手のそういうところまで読んで、軍略に組み込んでいますね。他の月の将や臣とはそこが違うのです」
褒めているのかいないのか、ドレミーは言った。
「……そして、そういうところを身内からも不気味に見られている」
それを聞いてサグメは目を細めたが、相手はさらに続けた。
「私が月から離れてだいぶ経ちますが、あなたの評判は手に取るようにわかりますよ。謀ばかり多く、心底が読めない女」
「そう言われるのはもう慣れっこよ」面白くなさそうにサグメは言った。「よく陰口を叩かれるわ。……逆に、どういうわけか言い寄られることも増えたけれども」
「人の心が一番わかりませんね!」ドレミーは呵々大笑した。「そうですか、そういう、ミステリアスで底知れぬところがあなたの魅力なんですかね……。まあ私はあなたの色事になど興味は無いので、それはよろしい」
ところで、本日は妖怪側の使者として参りました、とドレミーは言った。サグメはちょっと微笑んだ。
「……驚いてはあげられないわ」
「でしょうね……まあ、私も向こう側にあまり深入りしているわけではなく、戦見物を楽しんでいたところに使いを頼まれたってだけです。それで、私の役目はたったひとつ。月人は地球に侵攻してくるつもりが、有るのか、無いのか。それをはっきりさせて、何かしらの証しをもらいたい。もちろん私自身は、あなたがた月人に地上侵攻の腹などあるわけがないという事はわかっています。しかし――」
「攻めてこないという確証が無い、というわけね」サグメは言った。「一つ条件があるわ」
「なんでしょう」
「私たちの反撃が無いという情報は、妖怪の長の中で、最も賢明で最も穏健な人にのみ伝えなさい。そして、同時にその人に次のように献策なさい――あなたはこの機に、同盟している他の勢力を全て呑んでしまうべきです、と」サグメは続けた。「敗北した地上の妖怪たちの間でも、熾烈な勢力争いが起きているでしょう……むしろ敗軍だからこそ、崩壊したパワーバランスの再調整が必要になる。しかし月からの反撃の可能性がある限りは、ただ睨み合い、政治的駆け引きを行って、せいぜい足元を引っかけようとする事しかできやしない。――月が反撃してこないという、確かな情報を掴んだ者以外はね」
「そういたします……それで、地上に侵攻しないという証しはどうしますか?」
「必要ない」サグメは即座に答えを返した。「私は、最も賢明で最も穏健な人にのみ情報を流せと言った。そんな人ならば、きっと証しなど無くても信じてくれるわ……敵を信じられない者に、この情報を握る権利など無い。……証しなどがあれば、かえってどう利用されるか分かったものじゃないわ」
「確かにね。情報とは時に刃物のようなもの。これが彼らの幸いになればいいのですが……」
その後は、ドレミーが地上で見聞きした話になった。彼女自身は軍にすら参加していなかったが、多くの話は真実に近かった。敗戦後、妖怪たちの混乱は頂点に達して、統制は崩壊した――しかも、統制を取り戻そうと努力すればするほどに崩壊していた。あらゆる種類の相反する指示が飛び交い、しかもそれらは一切の矛盾なく、なぜか一つの軍令の中に組み込まれてしまった。壊乱した妖怪たちは進みながら退き、味方を敵と認識して、降伏しながらに玉砕していた。
「悪夢のような話ね」
「夢は人生を織りなす糸。悪夢は現実の中にこそあるのでしょう」
そして二人は、そんな複雑怪奇な命令を発する事ができた妖怪の賢者の異形の才能について、しみじみ考えた。地上の一部では、この戦いを大仰にも月面戦争といった言葉で呼ぶ向きがあるようだが、月の方では、何時の年に起こった、野蛮な連中の大規模な侵犯行為というふうにしか認識されていない。
これ以来、ドレミー・スイートは、月と地上とをこっそり行き来するようになる。一介の妖怪である彼女の具体的な働きは確かな記録には残っていないが、以前のようにしばしばサグメの寝所に侍して、時に献策したと言われる。
* * * * *
ある年の如月の十日頃、一匹の玉兎の兵士が月から姿を消した。稀神サグメの謀によってだ。
「彼女には様々な夢を見せました」
ドレミーは膝元にサグメを寝かせながら、伽をするように言った。
「……具体的ではなく、潜在的な印象の断片でしたがね。それらのサブリミナルの参照元の多くは、いつだったか妖怪たちが月に挑んで大敗した時に見かけた情景です。……あれは、あまりに惨めな敗走だったので」
「懐かしい話ね」
「悲惨な印象を植え付けられた彼女は、戦争と敗北を大いに恐れるようになりました……もっとも、玉兎一匹が戦争への予感を覚えたところで、ただ一個人の妄想でしかありません。彼女の周囲にも漠然とした不安を抱いてもらう必要があった……。代償に、玉兎どころか月の都全体にまで、うすぼんやりした戦争への予感が蔓延してしまった事は、今後収拾すべき問題ですね」
「地上人と戦争に対する恐れを誰よりも抱いていたのは、私だったのかもしれない」サグメは起き上がると、ふらりと寝所から外に出て、夜空の向こうにある地球を見下した。「その強迫観念が私の中に謀を持ち上げさせて、彼女を奔らせたのよ」
「ぼんやりした不安は、時として事実以上のものになり得ます」ドレミーは背後に従いながら言った。「私はそれをたくさん見てきました」
「彼女はやってくれるだろうか」
「どうでしょう……。たとえ地上人の要人相手だろうと、暗殺なんて事はやらないかもしれません。彼女も玉兎とはいえ、月人の傍らで生きてきた者です。死に対する忌避感は強い」
「私はおかしくなっていたのよ。戦争の影に一番怯えていたのは、他ならぬ私だった。……策を用いておいて我が儘な話だけれど、あの子には、暗殺なんて事はせず、いっそどこへなりと逃れて、平穏無事に暮らして欲しい」
「ええ。少なくとも彼女はそれでいい。……なぜなら手筈が狂った陰謀とは、仕掛けた者たちにふりかかるもの。私たちが毒の杯を呷らなければいけません」
「そういう運命ならね」
「運命……運命ですか」
ぽつりと呟いたサグメの言葉を、ドレミーは眠たそうな目で何度か口の中で転がし、ふっと微笑んだ。
「……そういえば今回の謀の中で、私は一つだけ勝手をしました」
「なに?」
「彼女の識閾下に、もしもの時にはとある場所に落ち延びるよう行動様式を植え付けたんです」
「……どこに?」
周囲に誰もいないのに、ドレミー・スイートはいたずらっぽく、こっそり耳打ちをした。そしてサグメが目を丸くして驚愕するのを気分よく眺めながら、子守唄めいた鼻歌をくゆらせ始めた。
「……まさか!」
「運命の輪はまだ回り続けています。いずれまた、地上の彼女たちが私たちの幸いになる事があるかもしれません」
この時の計略が、その通りに実行されたのかどうかすらも、サグメにはわかっていない。少なくとも標的は暗殺されてしまったが、自分たちが放った玉兎の刺客の手によるものかどうかまでは、よくわからなかった。得られた情報を総合すると、どうも違うような気もする。魔法の銃弾などという言葉を報告書に見た時には一瞬どきりとしたが、それも情報を精査していくうちに、単純な錯誤であるようだと結論した。
……ともかく、この謀が完全な失策となってしまった事は、彼女も認めるしかなかった。陰謀は二人の内に秘された。暗殺は何も変える事ができなかった。彼女たちが止めようとした地上人の国家プロジェクトは、標的の暗殺後も整然と続いたのだ。だらだらと、官僚的に……もっと悪く言えばなし崩しに。人の死を乗り越える事ができる地上の人々が作り上げたシステムの手強さと愚かさとを、彼女は同時に思い知った。
* * * * *
稀神サグメは、完全に眠ってしまった月の都をふらふら彷徨っていた。彼女と共に最低限の首都機能をなんとか維持してきた官僚たちも遂に眠りに落ちてしまって、今では細く長い息を吐いている。彼女の足はやがて宮中に向かったが、門には警護の兵士すらいない。彼女はそのまま無人の内裏にまで入りこんで、玉座についてみた。非常に気分が良かった。
「あらあら……何しているんですか?」
と傍らで言ったドレミー・スイートの声は、半分面白がっていて、半分慌てていた。
「どうって、見ての通り。みんな眠ってしまった今では、私が月人の長よ」
「あなたにそんな野望があったとは思いもしませんでした」
「あはは、今なら御璽だって利用し放題よ……どう? 試しにあなたが、この月を統べる後継者になってみない?」
「そのお鉢が回ってくる頃には、よぼよぼの婆さんになっていそうなので、やめておきましょう……」
ドレミーは笑ったが、サグメの乱行じみた戯れだけは怖い。「今この都に生きているのは、私とあなただけ!」と言ってはしゃぎ回る女を見ているのは、危なっかしくてしかたがなかった。
「それでは、私もそろそろ例の通路を維持しなければいけませんので……」
「では行きなさい。そして、通すべきと思った幸いは通しなさい」
それまでの狂態が嘘のように、透き通った声で稀神サグメは言った。
「……地上にばら撒いた幸いが、新世界の力となって私たちを救ってくれるかもしれない」
と呟いて思い出すのは、数年前、月の都に捕虜としてやってきた巫女の姿だった。あの、綿月姉妹が対処した騒動そのものに関しては、サグメはあまり興味を覚えなかったが、あの巫女がかつて戦った妖怪の賢者が放った刺客だと聞くと、ほんの僅かに感慨を覚えた。そんな程度の事だったが、そういうものが幸いになるのだろうと、奇妙な巡りあわせを思う。
ドレミーはサグメの感慨に覆いかぶさるように言った。
「全てはあなたの運命と徳によるものですよ」
「徳?」そんな事は、初めて言われた言葉だった。
「たしかに、あなたは策が多く、謀略の士です」ドレミーはニヤリと笑いながら言った。「それによって人から恐れられることもあります。信用ならない奴だと思われることもあります。……しかしあなたの策は、基本的に誰かを救おうとしてそうなったものです。時に自分自身を救い、時に綿月姉妹を救い、時に月の都を……月に敵対した妖怪たちすらも、彼らの逃れえなかった自滅から救いました。その事を忘れてはなりません」
「私は暗殺すら計画したことがあったわ」
「ええ。でも、あれは上手くいかなかった。……結果としてはただ一匹、月の兎を地上に落としただけです。しかし、それもまた運命の中で巡り巡って幸いとなり、あなたを救おうとする因子の一つになっている。全てはあなたの徳によるものです」
「私は沢山の人を死なせてきているし、死なせようとしている。そんなに綺麗なものじゃないわ」
「私は清い行いをすれば清い報いが戻ってくるなんて話はしていませんよ。あなたは謀略の士、計略によって事態を覆す女です。それは間違いない」
「ひどい事を言う」
「しかし、徳とは時にそういった清濁を超越したものです……綺麗は汚く、汚いは綺麗なのですよ。私は闇と穢れの中を飛んできますね」
ドレミー・スイートはするすると下がっていき、後に残された稀神サグメは、じっと、何かを待ち続けた。
* * * * *
ケネディも含め一貫して過去の出来事とリンクさせるかのようなストーリーラインも大変良く、また月都の過去という物をこうであったかもしれないという形にバランス良く収めていた点も含め面白い物語であったと思います
ドレミーのキャラがとてもドレミーで素敵でした
サグメも飛び抜けた悪意と策略で月の政争を攻略していく様がとてもよかったです
ずっしりとした骨太な展開と、その中で揺れながらも目的に向かって進み続けるサグメの心理描写が素敵な、素晴らしい作品でした。
面白かったとしか言えないです。