咲夜はしゃぶ葉で夕飯を食べた。
IHヒーターの火力を強くすると、じきに「薬膳火鍋(大辛)」の鍋はぐつぐつと煮立ってきた。
あたりに立ち込める、ナツメグや八角、ホワジャオの香りと、喉に突きささるような唐辛子の蒸気。
咲夜の斜め前に座るカップルの女のほうが、この攻撃的な湯気にたびたびゲホゲホとむせかえっていた…。ひととおり、野菜も肉も煮えたので、咲夜はIHヒーターをとろ火にした。カップルの女の咳もおさまった。
ご存じの通り、鍋料理の肉は咲夜にとってはオマケ。彼女はいつも、鍋に野菜を親の仇のように大量にぶちこんで食べるのだ。つまり、しゃぶ葉のようなしゃぶしゃぶ食べ放題の店は、まさに彼女の嗜好にうってつけなのである。平皿に山盛りにした白菜、もやし、ニラ、タケノコ、キノコ類、大根にニンジン、ネギ…これらはあっという間になくなって、また野菜を盛りにビュッフェへと咲夜は出かけていく。席にもどってくると、さきほどのカップルが咲夜の席の前に立って、スマホなど眺めながら談笑していた。まあまあ邪魔だったが、咲夜はためらいもせずに自分の席へと滑り込むと、持ってきた野菜(小松菜とレンコンがおいしそうだったので、多めに取ってきた)をドサドサと鍋に入れた。当然、こういう雑なことをすると鍋の温度は下がるので、IHヒーターの火力を再び強にする。勢いを取り戻した鍋は再びぐつぐつと強烈な湯気を吐き出し、周囲へのエアロゾル攻撃を再開する。攻撃再開(Xjapan)だ。するとやっぱり、件のカップル女は、ゲホゲホやり始めた。早くここから離れればいいのにね(笑)
そこで、咲夜にとって意外なことが巻き起こった。咲夜の後ろの席の男が、
「人のそばで咳してるんじゃないよ!このコロナ女!」
と、キレてカップルに食ってかかったのだ。どうやら、最初に咲夜が唐辛子汁を煮立てたときに女が咳をしていたときから、腹に据えかねていたらしい。まあそれはそうと、咲夜は目の前の鍋のほうに食ってかかることにした。う~ん、やっぱりおいしい。
そこからはもう大騒ぎ。カップルの男のほうは、
「俺の女をウイルス扱いしてんじゃねえよ、おっさん!」と反論、
店員さん(河北まゆこ似)は、血相を変えて飛んできて、
「お客様、店内での口論はどうかお控えください!」となだめ、咲夜は野菜の中で真っ先に煮えるニラを拾い上げてハフハフハフポストと食べる。カップル女のほうは、先ほどよりいっそうゲホっている。多分、本当はもう咳なんて出ないけど、なんとなくばつが悪いので咳を続けているんだろうなぁと思った。ほら、盛り上がらない飲み会では、何をすればいいか手持無沙汰になっちゃって酒やたばこの量が増えますよね。あんな感じです。みっともない男二人の争いを止める河北まゆこも大変だよね。「お腹に、良い~リズムを!(鼻声)」お~っと、そうこうしているうちに、お鍋の底からボワっと、忘れ去られてトロトロに煮えた白菜の茎が登場だ。咲夜はフーフーして、「はもっ!…」と口に運ぶと、ほくそえみながらこうつぶやいた。
「ハローフォガットンハクサイ」驚け~←かわいい
結局、カップルと男の3人は強制退店処分となったらしく、2度と咲夜の目の前に現れることはなかった。緊張で静まり返る店内、それまでは気にも留めなかった、鍋のぐつぐつと煮えたぎる音がクリアーに聞こえる。果たしてこの音は、幸せを意味するのか、それとも不幸せを意味するのだろうか。
少なくとも、完全で瀟洒な従者にとっては、そんな問いは愚にもつかないものであるようだ。なぜなら、満足そうな顔でしゃぶしゃぶを食べ終え、デザートとして棗の身を食べて、舌で種を転がしていたからである。ちなみにこの棗の実、火鍋の薬膳のひとつとして、はじめからスープに浮かんでいたものである。咲夜は今日も幸せだ。なぜなら、世の中を整えることはできないとしても、自分の心は整えることができるということを知っているからである。そして、自分の心を整えることをf(g)、世の中の乱れぶりをf(t)とおけば、世界の感じ方は(gοt)だからである。これが彼女の処世術なのだ。f(g)が限りなくゼロに近づけるような関数ならば、どんなf(t)が来ても大丈夫なのである。
IHヒーターの火力を強くすると、じきに「薬膳火鍋(大辛)」の鍋はぐつぐつと煮立ってきた。
あたりに立ち込める、ナツメグや八角、ホワジャオの香りと、喉に突きささるような唐辛子の蒸気。
咲夜の斜め前に座るカップルの女のほうが、この攻撃的な湯気にたびたびゲホゲホとむせかえっていた…。ひととおり、野菜も肉も煮えたので、咲夜はIHヒーターをとろ火にした。カップルの女の咳もおさまった。
ご存じの通り、鍋料理の肉は咲夜にとってはオマケ。彼女はいつも、鍋に野菜を親の仇のように大量にぶちこんで食べるのだ。つまり、しゃぶ葉のようなしゃぶしゃぶ食べ放題の店は、まさに彼女の嗜好にうってつけなのである。平皿に山盛りにした白菜、もやし、ニラ、タケノコ、キノコ類、大根にニンジン、ネギ…これらはあっという間になくなって、また野菜を盛りにビュッフェへと咲夜は出かけていく。席にもどってくると、さきほどのカップルが咲夜の席の前に立って、スマホなど眺めながら談笑していた。まあまあ邪魔だったが、咲夜はためらいもせずに自分の席へと滑り込むと、持ってきた野菜(小松菜とレンコンがおいしそうだったので、多めに取ってきた)をドサドサと鍋に入れた。当然、こういう雑なことをすると鍋の温度は下がるので、IHヒーターの火力を再び強にする。勢いを取り戻した鍋は再びぐつぐつと強烈な湯気を吐き出し、周囲へのエアロゾル攻撃を再開する。攻撃再開(Xjapan)だ。するとやっぱり、件のカップル女は、ゲホゲホやり始めた。早くここから離れればいいのにね(笑)
そこで、咲夜にとって意外なことが巻き起こった。咲夜の後ろの席の男が、
「人のそばで咳してるんじゃないよ!このコロナ女!」
と、キレてカップルに食ってかかったのだ。どうやら、最初に咲夜が唐辛子汁を煮立てたときに女が咳をしていたときから、腹に据えかねていたらしい。まあそれはそうと、咲夜は目の前の鍋のほうに食ってかかることにした。う~ん、やっぱりおいしい。
そこからはもう大騒ぎ。カップルの男のほうは、
「俺の女をウイルス扱いしてんじゃねえよ、おっさん!」と反論、
店員さん(河北まゆこ似)は、血相を変えて飛んできて、
「お客様、店内での口論はどうかお控えください!」となだめ、咲夜は野菜の中で真っ先に煮えるニラを拾い上げてハフハフハフポストと食べる。カップル女のほうは、先ほどよりいっそうゲホっている。多分、本当はもう咳なんて出ないけど、なんとなくばつが悪いので咳を続けているんだろうなぁと思った。ほら、盛り上がらない飲み会では、何をすればいいか手持無沙汰になっちゃって酒やたばこの量が増えますよね。あんな感じです。みっともない男二人の争いを止める河北まゆこも大変だよね。「お腹に、良い~リズムを!(鼻声)」お~っと、そうこうしているうちに、お鍋の底からボワっと、忘れ去られてトロトロに煮えた白菜の茎が登場だ。咲夜はフーフーして、「はもっ!…」と口に運ぶと、ほくそえみながらこうつぶやいた。
「ハローフォガットンハクサイ」驚け~←かわいい
結局、カップルと男の3人は強制退店処分となったらしく、2度と咲夜の目の前に現れることはなかった。緊張で静まり返る店内、それまでは気にも留めなかった、鍋のぐつぐつと煮えたぎる音がクリアーに聞こえる。果たしてこの音は、幸せを意味するのか、それとも不幸せを意味するのだろうか。
少なくとも、完全で瀟洒な従者にとっては、そんな問いは愚にもつかないものであるようだ。なぜなら、満足そうな顔でしゃぶしゃぶを食べ終え、デザートとして棗の身を食べて、舌で種を転がしていたからである。ちなみにこの棗の実、火鍋の薬膳のひとつとして、はじめからスープに浮かんでいたものである。咲夜は今日も幸せだ。なぜなら、世の中を整えることはできないとしても、自分の心は整えることができるということを知っているからである。そして、自分の心を整えることをf(g)、世の中の乱れぶりをf(t)とおけば、世界の感じ方は(gοt)だからである。これが彼女の処世術なのだ。f(g)が限りなくゼロに近づけるような関数ならば、どんなf(t)が来ても大丈夫なのである。
鉄の女!?^ー^;