「春になってくれませんか」
「………」
日課の朝の散歩のために外に出たところで声がかけられた。
意味が分からなかったので靴を整え、玄関の窓ガラスを鏡代わりにしながら髪や衣服が乱れていないか確認をする。
無視していれば諦めて帰るかと思ったが、動く気配もせず、身支度も終わってしまったので仕方なく聞き返す。
「春になるっていうのはどういう…」
と聞きながら相手の方に視線を向けると両手でしっかりと包丁を握った少女が目に映り、言葉に詰まった。
別に包丁が怖かったというわけではない。
ただここの人間に恨まれるほど危害を加えた記憶は無いし、彼女に人間が包丁程度で勝てるはずもないのは
ここの住人全てが知っているので何故、という困惑のために言い淀んだ。
状況を確認するために視線を巡らせると背後に淡いピンク色の羽が見えたところで彼女の疑問は解消された。
ああ、妖精のいつものか、と。ただ包丁を持っているのが少し気になった。
妖精はいたずらこそすれ恨んだり悪意を持って危害を加えたりすることはしない。そもそもそこまでの知能がない。
こんな小道具まで用意しているのを見ると黒幕がいるのだろう。
「誰に言われたの?」
「黒い服の金髪のにんげん」
ほんとに妖精って楽でいいわね。
「で、あなたはそんな玩具で私と戦うつもり?」
「いやです」
「…じゃあ何をしに来たの?」
「春になってくれませんか」
…妖精ってのは本当に面倒ね。
これまでの妖精と付き合ってきた経験がこれは長丁場になると警告をしてきた。
コミュニケーションどころか言葉を話せない妖精は少なくない。
むしろ会話の形になっているだけでも彼女はそれなり力のある妖精だと言える。
ただそれは所詮妖精の中では、のレベルなので情報を引き出すには骨が折れそうだと判断し、
腰を据えて話す覚悟をしたところで手に持っているものを見る。
「まずそれを放してもらえる?」
「危ないので放せません」
「…なら私に渡しなさい」
「はい」
と言って妖精は近づいてきて両手で握ったまま包丁の刃の部分を差し出す。
包丁が危ないものだと知っているようだがどう危ないのかまでは知らないらしい。
「…そこで座って待ってなさい」
叱ったところでどうせ忘れるのでそれだけ言って手を切らないように刃の部分をつまみながら家に戻る。
妖精と上手くかかわるコツはこちらが折れることだ。
「まず名前を教えなさい。話せるんだから名前くらいあるでしょう」
包丁を片付ける(切れ味が良かったので勝手に貰った)ついでに入れてきた紅茶に角砂糖を1つ入れ妖精の前に置きそう聞く。
妖精はさらに角砂糖を3つ入れ混ぜながら答える。
「リリー・ホワイトです。春告精とも呼ばれます」
「幽香よ。それで私をどうやって春にするの?」
「退治するんです」
「退治?私を?」
「はい、夏の妖怪を退治します」
「夏の妖怪?」
「そうです。退治すれば春が伸びます」
「春を伸ばす?どうやって」
「夏の妖怪を退治します」
「………どうして春が伸びるの?」
「夏の妖怪がいなくなればその分春になります」
「…それを魔理──黒服の人間が言ったの?」
「はい。夏がいなくなれば春が伸びるって」
「その時に私を夏の妖怪って言ったの」
「いえ、それは赤い人間が」
「赤い…髪は黒かった?」
「はい」
「どういう風に言ったのか覚えてる?」
「黒い人に夏の妖怪はどこにいるんだって聞いたら
あんなひまわりに囲まれてるんだから夏みたいなもんよって赤い人が」
「…他にも人がいた?」
「はい、たくさんいました」
「ああそういう…それでそいつらに包丁を渡されて来たの?」
「包丁は青い人にもらいました」
「………青い…他に特徴は?なんかつけてたりした?」
「傘を持ってました。なすみたいな」
「傘?茄子?あー、それで青いのがいきなり包丁寄こしたわけ?」
「いえ、会いに行くといったら手土産を持って行けと言われて青い人が持ってきました」
「手土産?…青いのが自分から持ってきたの?」
「いえ、黒い人が青い人を連れてきました」
「そう…つまり赤いのと黒いのに春を伸ばすために夏の妖怪を倒して来いと言われて
青いのから包丁を持ってこさせて黒いのに渡されたと」
「はい。危ないから落とすなって」
「なるほどね…」
そういいながら幽香は背もたれに体重をかけて天を仰ぐ。疲れた。
私が苦労して導き出した答えはこうだ。たくさんの人と言っていたのでいつもの宴会でもしていたのだろう。
そこでいつもの赤いのと黒い人間の二人組がいて、そこにこの妖精が入り込み、酔っ払いの頭のめでたい話を真に受けてここに来たのだ。
青いのは会ったことは無いが傘の付喪神だかがいるというのは聞いたことがあるのでおそらくそいつだろう。
非常に疲れたが完全に理解した。夏の妖怪呼ばわりされる意味も分からないし手土産に包丁を持たせるセンスもまるで理解できないが
私はわかった。どうせ酔っ払いと妖怪が合わさってもろくなことにならないに決まっている。
いつものようにあの2人のせいにしておけば丸く収まるのだこんな不毛な会話はもういいもうたくさんだもう疲れた。
私に必要なのは真理ではなく都合のいい妄想だ。
必要なことがわかったのでもうこの妖精は必要ないので適当に誤魔化して帰らせよう。疲れるから。
「結論から言うと私を倒しても春は伸びないし夏の妖怪なんていないしあなたに私は倒せない」
「そこをなんとか」
「何とかって何よ。何ともならないわよ。そもそも夏の妖怪でもないし」
「じゃあなんの妖怪なんですか」
「花の妖怪よ」
「お花さんですか。じゃあしょうがないですね」
「ええそうよ。ここに居てもしょうがないからもう帰りなさい」
「はい。お茶ごちそうさまでした」
そう言って妖精は頭を少し下げた後足の届いてないイスからぴょんっと飛び降り、すたすたと歩いていく。
幽香もやっと終わったとばかりに残りの紅茶を飲みはして立ち上がる。
そうねお花だからしょうがないのよ。……花だからしょうがない?
ローギアに入れていた脳みそが今更に疑問を出してきた。このまま声を掛けなければ妖精はそのまま帰るだろう。
またあの妖精式の会話をしなければいけないのか…、と思ったが
ここまでやってもやもやしたまま終わるのはなんだか負けた気がするので妖精を呼び止める。
「ちょっと、しょうがないってのはどういう意味」
「はい?」
「花だからしょうがないって言ったでしょ。なんでしょうがないって思ったの」
「ああ、だって仲間じゃないですか」
「仲間?」
「そうですよ。お花さんってさいしょはとっても小さい芽なんですよ。でも、でもですよ!
だんだん大きくなってですね!またちっちゃい蕾が出来るんですよ!そしたらわぁーって咲くんですよ!
わぁーって!いっぱい!春になったらあんなにきれいなお花を見せてくれるんですよ!仲間じゃないですか!」
「え、あ、そう…」
妖精が急にテンションを上げながら身振り手振りも交えつつ幽香に近寄っていく。
幽香はそのテンションに若干引きながら適当な相槌を打った。
抱きつこうかという勢いで近づいてきた妖精が手前でぴたりと止まり、幽香の顔をまじまじと見る。
そしてあっという顔をして昂ったテンションの勢いのまま幽香に近づき
「思い出しました!おねーさんあの人ですね!あいたかったです!」
と言い、幽香の手を両手で握りぶんぶんと振る。
「ちょっと、なにいきなり──」
「いろんなところのお花見て回ってましたよね!」
「それがなによ」
「お花さんもすごかったんですけどあの時のお姉さんすごく優しくてきれいで!
きっとお花さんがとっても好きなんだろうなーって思って!会ってお話したかったんですよ!」
妖精のされるがままになっていた手がぴたりと止まる。
妖精は気にも留めずパッと手を放しその場でくるっと回って言う。
「だんだん暑くなってきてそろそろ春も終わっちゃうなーっと思って元気なくなってきてたんですけど
お仲間に会えて元気いっぱいです!」
妖精は満面の笑みを浮かべて幽香を見る。対する幽香の顔はまったく笑っていなかった。
その表情からは喜怒哀楽のどれにも当てはまらない全くの無表情だった。
無表情とは言うが幽香の顔は整っている…というよりむしろ整いすぎているほどであり
美人と呼べるほどだがつり目なことも相まってある種の威圧感さえ感じさせる域にまで達していた。
実際人里へ行けば大抵のものは道を空け、赤ん坊に泣かれたことさえある。
そんな幽香が妖精のことをしばらく眺めていたが妖精は笑顔を崩さないでいる。
幽香が不意に妖精の方に手を伸ばしたときも避けたりもせず全幅の信頼を置いている犬のような顔を向けている。
そしてその手を妖精の顔へ向け──妖精の鼻をつまむ。
「ふぁ、なんでふか!」
「私はね、あんたたちと違って強いのよ。妖精みたいな弱い奴が仲間になったって邪魔なだけよ。」
そういって幽香は手を放す。妖精はうぅと軽く唸りながら鼻をさすっている。
「風見幽香よ」
「へ?」
「私の名前よ。そうね──もしあんたが来年まで私のことを覚えていたらあんたが必ず満足するような春を見せてあげるわ」
「お姉さんって──ツンデレさんなのですか?」
「……一回休みにしたほうが帰る手間が省けていいんじゃない?」
「面倒な性格ですね」
「妖精には言われたくないわ」
「まあリリーは大人なのでおとなしく帰りますよ。」
「そうしなさい」
「それじゃあ、ユウカさん。来年また会いましょうね。約束ですよ」
「そうね。妖精に会うのなんて年に1度でいいわ」
素直じゃないですねーと小さく言いながら妖精はふよふよと帰っていく。
幽香は姿が見えなくなるまで見送った後よくわからない達成感を感じ天を仰いだ。
そして丸一日過ごしたような疲労感からもう休もうかと考えたときに
太陽の位置がまだ正午にもなっていないことに気づいて愕然とした。
「………」
日課の朝の散歩のために外に出たところで声がかけられた。
意味が分からなかったので靴を整え、玄関の窓ガラスを鏡代わりにしながら髪や衣服が乱れていないか確認をする。
無視していれば諦めて帰るかと思ったが、動く気配もせず、身支度も終わってしまったので仕方なく聞き返す。
「春になるっていうのはどういう…」
と聞きながら相手の方に視線を向けると両手でしっかりと包丁を握った少女が目に映り、言葉に詰まった。
別に包丁が怖かったというわけではない。
ただここの人間に恨まれるほど危害を加えた記憶は無いし、彼女に人間が包丁程度で勝てるはずもないのは
ここの住人全てが知っているので何故、という困惑のために言い淀んだ。
状況を確認するために視線を巡らせると背後に淡いピンク色の羽が見えたところで彼女の疑問は解消された。
ああ、妖精のいつものか、と。ただ包丁を持っているのが少し気になった。
妖精はいたずらこそすれ恨んだり悪意を持って危害を加えたりすることはしない。そもそもそこまでの知能がない。
こんな小道具まで用意しているのを見ると黒幕がいるのだろう。
「誰に言われたの?」
「黒い服の金髪のにんげん」
ほんとに妖精って楽でいいわね。
「で、あなたはそんな玩具で私と戦うつもり?」
「いやです」
「…じゃあ何をしに来たの?」
「春になってくれませんか」
…妖精ってのは本当に面倒ね。
これまでの妖精と付き合ってきた経験がこれは長丁場になると警告をしてきた。
コミュニケーションどころか言葉を話せない妖精は少なくない。
むしろ会話の形になっているだけでも彼女はそれなり力のある妖精だと言える。
ただそれは所詮妖精の中では、のレベルなので情報を引き出すには骨が折れそうだと判断し、
腰を据えて話す覚悟をしたところで手に持っているものを見る。
「まずそれを放してもらえる?」
「危ないので放せません」
「…なら私に渡しなさい」
「はい」
と言って妖精は近づいてきて両手で握ったまま包丁の刃の部分を差し出す。
包丁が危ないものだと知っているようだがどう危ないのかまでは知らないらしい。
「…そこで座って待ってなさい」
叱ったところでどうせ忘れるのでそれだけ言って手を切らないように刃の部分をつまみながら家に戻る。
妖精と上手くかかわるコツはこちらが折れることだ。
「まず名前を教えなさい。話せるんだから名前くらいあるでしょう」
包丁を片付ける(切れ味が良かったので勝手に貰った)ついでに入れてきた紅茶に角砂糖を1つ入れ妖精の前に置きそう聞く。
妖精はさらに角砂糖を3つ入れ混ぜながら答える。
「リリー・ホワイトです。春告精とも呼ばれます」
「幽香よ。それで私をどうやって春にするの?」
「退治するんです」
「退治?私を?」
「はい、夏の妖怪を退治します」
「夏の妖怪?」
「そうです。退治すれば春が伸びます」
「春を伸ばす?どうやって」
「夏の妖怪を退治します」
「………どうして春が伸びるの?」
「夏の妖怪がいなくなればその分春になります」
「…それを魔理──黒服の人間が言ったの?」
「はい。夏がいなくなれば春が伸びるって」
「その時に私を夏の妖怪って言ったの」
「いえ、それは赤い人間が」
「赤い…髪は黒かった?」
「はい」
「どういう風に言ったのか覚えてる?」
「黒い人に夏の妖怪はどこにいるんだって聞いたら
あんなひまわりに囲まれてるんだから夏みたいなもんよって赤い人が」
「…他にも人がいた?」
「はい、たくさんいました」
「ああそういう…それでそいつらに包丁を渡されて来たの?」
「包丁は青い人にもらいました」
「………青い…他に特徴は?なんかつけてたりした?」
「傘を持ってました。なすみたいな」
「傘?茄子?あー、それで青いのがいきなり包丁寄こしたわけ?」
「いえ、会いに行くといったら手土産を持って行けと言われて青い人が持ってきました」
「手土産?…青いのが自分から持ってきたの?」
「いえ、黒い人が青い人を連れてきました」
「そう…つまり赤いのと黒いのに春を伸ばすために夏の妖怪を倒して来いと言われて
青いのから包丁を持ってこさせて黒いのに渡されたと」
「はい。危ないから落とすなって」
「なるほどね…」
そういいながら幽香は背もたれに体重をかけて天を仰ぐ。疲れた。
私が苦労して導き出した答えはこうだ。たくさんの人と言っていたのでいつもの宴会でもしていたのだろう。
そこでいつもの赤いのと黒い人間の二人組がいて、そこにこの妖精が入り込み、酔っ払いの頭のめでたい話を真に受けてここに来たのだ。
青いのは会ったことは無いが傘の付喪神だかがいるというのは聞いたことがあるのでおそらくそいつだろう。
非常に疲れたが完全に理解した。夏の妖怪呼ばわりされる意味も分からないし手土産に包丁を持たせるセンスもまるで理解できないが
私はわかった。どうせ酔っ払いと妖怪が合わさってもろくなことにならないに決まっている。
いつものようにあの2人のせいにしておけば丸く収まるのだこんな不毛な会話はもういいもうたくさんだもう疲れた。
私に必要なのは真理ではなく都合のいい妄想だ。
必要なことがわかったのでもうこの妖精は必要ないので適当に誤魔化して帰らせよう。疲れるから。
「結論から言うと私を倒しても春は伸びないし夏の妖怪なんていないしあなたに私は倒せない」
「そこをなんとか」
「何とかって何よ。何ともならないわよ。そもそも夏の妖怪でもないし」
「じゃあなんの妖怪なんですか」
「花の妖怪よ」
「お花さんですか。じゃあしょうがないですね」
「ええそうよ。ここに居てもしょうがないからもう帰りなさい」
「はい。お茶ごちそうさまでした」
そう言って妖精は頭を少し下げた後足の届いてないイスからぴょんっと飛び降り、すたすたと歩いていく。
幽香もやっと終わったとばかりに残りの紅茶を飲みはして立ち上がる。
そうねお花だからしょうがないのよ。……花だからしょうがない?
ローギアに入れていた脳みそが今更に疑問を出してきた。このまま声を掛けなければ妖精はそのまま帰るだろう。
またあの妖精式の会話をしなければいけないのか…、と思ったが
ここまでやってもやもやしたまま終わるのはなんだか負けた気がするので妖精を呼び止める。
「ちょっと、しょうがないってのはどういう意味」
「はい?」
「花だからしょうがないって言ったでしょ。なんでしょうがないって思ったの」
「ああ、だって仲間じゃないですか」
「仲間?」
「そうですよ。お花さんってさいしょはとっても小さい芽なんですよ。でも、でもですよ!
だんだん大きくなってですね!またちっちゃい蕾が出来るんですよ!そしたらわぁーって咲くんですよ!
わぁーって!いっぱい!春になったらあんなにきれいなお花を見せてくれるんですよ!仲間じゃないですか!」
「え、あ、そう…」
妖精が急にテンションを上げながら身振り手振りも交えつつ幽香に近寄っていく。
幽香はそのテンションに若干引きながら適当な相槌を打った。
抱きつこうかという勢いで近づいてきた妖精が手前でぴたりと止まり、幽香の顔をまじまじと見る。
そしてあっという顔をして昂ったテンションの勢いのまま幽香に近づき
「思い出しました!おねーさんあの人ですね!あいたかったです!」
と言い、幽香の手を両手で握りぶんぶんと振る。
「ちょっと、なにいきなり──」
「いろんなところのお花見て回ってましたよね!」
「それがなによ」
「お花さんもすごかったんですけどあの時のお姉さんすごく優しくてきれいで!
きっとお花さんがとっても好きなんだろうなーって思って!会ってお話したかったんですよ!」
妖精のされるがままになっていた手がぴたりと止まる。
妖精は気にも留めずパッと手を放しその場でくるっと回って言う。
「だんだん暑くなってきてそろそろ春も終わっちゃうなーっと思って元気なくなってきてたんですけど
お仲間に会えて元気いっぱいです!」
妖精は満面の笑みを浮かべて幽香を見る。対する幽香の顔はまったく笑っていなかった。
その表情からは喜怒哀楽のどれにも当てはまらない全くの無表情だった。
無表情とは言うが幽香の顔は整っている…というよりむしろ整いすぎているほどであり
美人と呼べるほどだがつり目なことも相まってある種の威圧感さえ感じさせる域にまで達していた。
実際人里へ行けば大抵のものは道を空け、赤ん坊に泣かれたことさえある。
そんな幽香が妖精のことをしばらく眺めていたが妖精は笑顔を崩さないでいる。
幽香が不意に妖精の方に手を伸ばしたときも避けたりもせず全幅の信頼を置いている犬のような顔を向けている。
そしてその手を妖精の顔へ向け──妖精の鼻をつまむ。
「ふぁ、なんでふか!」
「私はね、あんたたちと違って強いのよ。妖精みたいな弱い奴が仲間になったって邪魔なだけよ。」
そういって幽香は手を放す。妖精はうぅと軽く唸りながら鼻をさすっている。
「風見幽香よ」
「へ?」
「私の名前よ。そうね──もしあんたが来年まで私のことを覚えていたらあんたが必ず満足するような春を見せてあげるわ」
「お姉さんって──ツンデレさんなのですか?」
「……一回休みにしたほうが帰る手間が省けていいんじゃない?」
「面倒な性格ですね」
「妖精には言われたくないわ」
「まあリリーは大人なのでおとなしく帰りますよ。」
「そうしなさい」
「それじゃあ、ユウカさん。来年また会いましょうね。約束ですよ」
「そうね。妖精に会うのなんて年に1度でいいわ」
素直じゃないですねーと小さく言いながら妖精はふよふよと帰っていく。
幽香は姿が見えなくなるまで見送った後よくわからない達成感を感じ天を仰いだ。
そして丸一日過ごしたような疲労感からもう休もうかと考えたときに
太陽の位置がまだ正午にもなっていないことに気づいて愕然とした。
ほっこりしました。
会話に苦労する感じがとても面白かったです。
いまいち話の見えない妖精から諸々を聞き出す幽香がクレバーでよかったです
春同士多くは語らない