誇り高きガグウジュウモウ二世は杖刀偶磨弓の内部を循環していた。埴安神袿姫の手で生み出され改造複製を繰り返してきた触手種の最新型である彼は、埴輪兵長の体内に広がる伽藍堂 のなかを周回し続ける労役に勤しんでいたのだ。
彼が生まれた経緯は神々の酒宴に袿姫が参加した際にさかのぼる。己 が創造した偶像のすばらしさをしつっこく、聞き手を酒混ざりの唾 で滴らせるようにして吹聴していると、ある姉妹神にこう云われた。
──命を育むこともできないなんて、最も下卑な生命にも劣るじゃないか。
この声を皮切りにして、そうだ・そうだ・と濡れ鼠となっていた神々の間から大喝采と同意が乱れ飛ぶこととなり、追われるように住処へ帰ってきた桂姫は三日三晩、瀑布もかくやの勢いで酒を飲み下し続けた。人間では書き記すことのできぬ呪詛の言葉を唇の間から吐き漏らしては糸として布を織り上げ、酔いを針として鮮やかな衣装を刺 っていく。衣装はやがて燦然と輝き、復讐と名付けられるものとなった。
──肢体を生むのに土を焼いて作るなんて、今どき人間でもやってないのに! 笑いすぎて穣 るわーッ!
──偶像だかに移ろう四季の美しさ以上のものなんて宿るわけないのに! 笑いすぎて静けさ繁るわーッ!
──ガァーッハッハッハッハ!
──ゲェーッハッハッハッハ!
以上の罵倒を桂姫はつぶさに、人間が未知の言語を習得するときのようにたゆまず丁寧に思い出し続けながら計画を練り上げ、四日目でついに外界へ飛び出すと磨弓の元へ降臨して告げた。
『磨弓!馬鈴薯 を育てなさい!』
手にした酒瓶の中身をぐいぐいと飲み干しはじめた主の次の命令を静かに待ちながら、磨弓はどうしたものかと農園経営や作物育成の知識を思い出していたが、頬をすぼめて瓶から酒を吸い出しながら袿姫は磨弓の手を引いて空へ飛びだした。そのまま袿姫の工房に連れこまれるなり瞬時に下半身の着物をすべて脱がされたため、さすがの磨弓も疑問を口にした。
『は?』
『おまえの直腸で育てンのよ! 馬鈴薯! 馬鈴薯!』
酔いどれの早口で袿姫が言うには、優れたる磨弓の身体に少しばかり手を加えて直腸で馬鈴薯を育て、己の創作物 が豊穣を内包することを神々へ──なかでも最初に噛み付いてきた秋だか収穫だかを司る神らへ目にもの見せてやるという所存らしかった。子を為すという行為の再現では現状の生物の焼き直しでしかないが、そうではなく別生命の増殖を達成してみせることで偶像の能力と優位性を喧伝し、あわよくば祀らせるのが肝要なのだという。直腸の使用は現生命の消化器官への皮肉と機能性の問題を解決する合理であるとも付け加えながら、磨弓の足の爪を狂ったように袿姫は磨き続けていた。磨弓は了解した。意味はわからなかった。
上記の理由をもって杖刀偶磨弓の直腸に当たる部分へ土壌の機能が追加され、酒乱神のぶるぶる震える手によって馬鈴薯の種芋が安置される手筈となった。発芽に必要な水分と光量の供給は、直腸内と周辺に増設された多機能セラミックの分業化で補われることとなったのだが、計画の段階で問題となったのは重力である。
芋は体内に収めるのが好ましく、そうなると茎葉の部分が重力の方向のために磨弓の内部へ伸長していくことになる。この場合における収穫まで必要な光量と空間を確保するとなると、磨弓の容積が人間の力士の二乗じみたものになってしまうため袿姫の美意識が実行を却下した。アムリタとネクタルを口内で音が鳴るほど撹拌させながら袿姫は考えた。直腸部を体外に延長させて芋の天地を逆転させるのは? だめだ。これも磨弓が美しくなくなる。
神酒の混合物を飲み下し、口直しにカストリをらっぱ飲みして、蛇のげっぷのような音を鼻から出すと創造神は解決策を練り上げた。
重力発生機構を磨弓は内蔵することになった。馬鈴薯の芋と根を体内側へ増殖させるよう重力場を固定する仕組みだが、このままでは磨弓の体外へ面白くない影響が出てしまう。
それを解決するもう一つの仕組みが触手種の体内循環である。液体が一定の速度で重力場の周囲を回転することで遠心力が発生し、体外に対する重力の中和を行う。袿姫は液体に知能と作業腕を追加する方法を採用し、こうして触手種の作成と品種改良を待ってから磨弓の内部に実装されたのだった。
当初、触手と磨弓の仲は良好とは言えなかった。触手は袿姫への忠誠心に溢れており、磨弓の忠誠心の高さも認めるところだった。しかし彼は結局、循環するだけの仕事を生業に命を終えるよう定められたものであり、先祖代々の歴史がこのような形で終わる無念を埴輪に向ける形となってしまっていた。凝り性の袿姫が触手に知能を持たせすぎたためだったが、とにかく口に出せぬ不満は彼の勤務態度に時々現れ、越権行為とも取れる小さからぬ反抗を生み出していた。
例えば磨弓が改造されたという噂を耳にした人間の霧雨魔理沙 が磨弓にしつこくまとわりついて身体を調べていたとき、本来であればその対応および撃退は磨弓の職分領域になるのだが、短気になっていた触手は磨弓の顔面に空いている穴という穴から触腕と粘液を噴出させた。それを目の前で目撃して呼吸と思考を止めてしまった魔理沙の顔の、空いている穴という穴へ触手は殺到し、撫でまわして戻っていった。芋へ危害が加わってしまう前に軽く脅して追い払うつもりだったこの対応はまさしくそのようになり、しかし磨弓からすれば命名決闘で完膚なきまでに叩きつぶして以後は近寄らせないようにするつもりだったため、触手にいらぬ世話を焼かれて半端な対応となった形だ。このようなことは日常茶飯事だった。ところで逃げ帰った魔理沙は以後、触手の思惑とは違ってとてつもない恐怖にとらわれてしまい、無表情症と不眠症という深刻な病状を患っていくことになるのだがこれは馬鈴薯の育成とは何の関係もない。
そうしている間にも種芋は順調に育ったのだが、土で生育した場合の馬鈴薯とは参照値が食い違ってきていることに気づいた袿姫が、自腑製の猿酒を反芻して舌鼓を打ちながら原因を探った。導き出された答えは水分の不足である。
『ずっと水なんてものがいるの? わざわざ? これだから不完全偶像は!』
発芽のときには念頭にあった水分という要素を酔いどれ特有の物忘れの良さで考えていなかった袿姫は、芋に対して「水ぶくれの緑っぽ野郎」などと毒づきながら、磨弓の肛門から頭を出した芽を観察し、現状の水分生成機能だと遠からず枯死すると結論づけた。補給装置の追加をどうやるか酔頭を捻りまわして考えてみたが、彼女の美意識の関係でコレ以上の機能追加は違法建築に相当する暴挙にあたり、そうなると外部から定期的に磨弓の肛門へ水を差していくしか方法はないがそれも納得しかねた。通常、ヒトガタがそのようにする場合で想定されるのは生命の育成のためではなく排便行為の助成である。偶像は排便しない。
即時の兵役続行を主張する磨弓をなだめながら、水の飲尻健康法という偶像にしか為せない高度な価値観が生み出されるのだという嘘を武器に、袿姫が自らの美意識と血みどろの戦いをはじめようとしたとき、触手が上奏した。
──定期的に磨弓が飲む水の量を増やしてくだされば、そして袿姫さまの創作物である埴輪の身を少しばかり欠くことを私にお許しくだされば、芋へ水を届けてみせます。
磨弓の身体には肉がない。臓器もない。血管もない。骨もない。人間の肉体からしてみれば信じがたい空洞を抱えた動物であり、その間隙に今では芋と、根を張るためのセラミックの空疎粒と、重力生成装置と、円転する触手が区分けされて存在していた。触手は自分の領域とセラミック土の壁の一部を破り、そこから水を浸透させて芋の育成を補助しようと提案したのだった。
馬鈴薯が必要とする水分量。消費されていく触手の水分を補給するために磨弓の口腔から伸ばされている補給路の許容量と触手の水分保持量。触手の作業量増大による以後の計画の見直し。磨弓の内部損壊による彼女への影響。その全てが勘案された結果、触手の提案は許可され、馬鈴薯の育成は続行された。
水分の問題を解決したころ、共同作業に従事するものたちが持つ同一の空気といったものを磨弓と触手はまとうようになり、馬鈴薯の育成に関する意見交換を前よりも頻繁に行うようになった。そして植物の芽が磨弓の尻の割れ目を沿うようにして伸びはじめると、ふたりは幻想郷の地上へと向かった。太陽光の十分な補給が目的だったが、桂姫はくれぐれも目立たぬようにとふたりに言い含めた。ある程度の成果が生まれるまでは忌々しい神姉妹へ噂が流れるのも秘しておきたいのだと、畜生界から強奪してきた数多の酒樽へ頭部を突き込む主から告げられた磨弓らは、地上でも人気の少ない原っぱの片隅へ降り立つことにした。
そこで尻から健やかに伸びつつある植物の若芽を太陽へ向ける作業に取りかかり、二日間におよぶ試行錯誤の末、寝転んで思い切り開脚した丸裸の下半身を太陽の動きに合わせて動かしていく姿勢を採用した。肛門を直射日光で焼くかのごとき姿勢を育成者たちは丹念に保持し、折を見て水分を磨弓の口吻から補給する。夜は水分の確保と貯蓄、身辺の清掃や調整に費やした。
夜明けとともに日肛浴を開始する生活は四日目で妖精に見つかり、たちまち好奇の視線と噂を呼んだ。六日目に真似を始める個体が現れると、この珍しい遊びに妖精たちは雪崩をうつようにして参加し、少女たちが入れ替わりながら向日肛 を咲かせる光景が原っぱ中で見かけられることとなった。
白白とした磨弓の太腿へ青々と広がった葉の影がくっきり落ちるようになってきたころ、近くの森に住む人形使いが原っぱの変化を見かけてしまい腰を抜かした。人形使いは尻もちをついたまま視線を外さず、腕の力だけで這いずるようにして森の奥へと消えていった。衝撃のためかやたらと息を弾ませていたその様を見て、妖精たちは自分の股ごしに声を上げて笑い、朗らかな高い声を青空へ吸い込ませた。
次の日に妖精たちが流行の遊びをはじめたあたりで、人形使いが戻って来た。森の奥から車椅子の車輪をガラガラと鳴らし、にたにたと笑いながらやって来た。車椅子には魔理沙が載せられており、暗がりから燦々とする日光の元へ出てきたときにもまばたき一つしない無表情に妖精たちはぎょっとした。人形使いはずいぶんと魔理沙に話しかけ、相手の無言にもまるで気にした様子を見せず、目の前に広がる尻と膚の群生を事細かに説明しはじめた。人形使いの紅い頬と金の髪がきらきらと美しく、しかし微に入り細に入り妖精たちの尻を描写する舌と唇 は妖しいうねりをしていたため、妖精たちは捕食者に見つめられた犠牲獣のようにじっとしてやり過ごしていた。
少女たちの間をそろそろと静かに車椅子が抜けていく間にも、魔理沙の顔にわずかばかりの動きもなかったが、肛門から茎葉を生やした尻と目が合うと突然その身体を弾ませて少しばかり浮いた。
しばらく前に涙と粘液で顔をビシャビシャにしながら恐怖の形相で家に飛び帰る魔理沙を目撃していた人形使いは、その日以来となる彼女の激烈な反応に目を見開いた。あれから日を重ねるごとに心を病んでいく人間の娘を哀れに思い、心を痛めながら入浴の補助にまで世話を焼いていた人形使いは期待を隠そうともせず、ゆっくりと植尻に近づいていった。
勤務中で真剣な磨弓の無表情と、魔理沙の痙攣する瞳孔が同時にお互いを認識した。叫喚した魔理沙は起立するや車椅子を駆け上り、そのまま人形使いの頭部を抱え込むようにしがみつくと、わあんわあんと嬰児にも負けぬほどの全身全霊で泣きはじめた。恐るべきは人形使いであり、飛びつかれた勢いで美しい首が完全に捻じ折られているにも関わらず、両足でしっかりと魔理沙を支えていた。手足や首の表面には血管がびっしりと浮き上がり、それでも赤子のように泣きじゃくる魔理沙の尻をあやすように軽くたたいて撫で回しながら、人形使いはよろよろと森の中へと戻っていった。
二人の女が森の奥へ消えると、妖精たちがワッと声を上げて生尻のまま空へと舞い上がっていき、それを見届けると磨弓は立ち上がった。触手と談義した結果この場所での生育を切り上げることに決めたのだ。ここまで騒ぎが大きくなれば噂になり、噂は人々を集めることになる。幸いにも馬鈴薯はそれなりに育ち、磨弓の下履きの隙間から外へ葉を伸ばせる程度には伸びていたため、幻想郷の空を回遊しながら陽を浴びる方法へと替えることにした。
誰もいなくなった野原へ羅刹の如き形相で飛び込んできた博麗の巫女が血眼を旋回させたあと。首から上が土気色のまま戻らなくなった人形使いの看病によって魔理沙がゆっくりと復調していくあいだ。季節がふたつ過ぎた。
磨弓と触手はついに馬鈴薯を育て上げた。本来の収穫時期からズレて生育された芋はしかし、繊細に調整された体内環境と惜しまぬ手入れのために豊かな実成を見せていた。桂姫にとってはそれも設計のうちであり、秋のさなかに件の姉妹神のところへ出向いた桂姫は、磨弓を小脇に抱えるとその股からアツアツの馬鈴薯を二神の鼻柱めがけて飛び出させた。芋の自動採集と温熱調理機能はその名の通り埴輪の火陰 へ組み込まれており、完璧なふかし芋となって姉妹神の鼻を砕いたのである。
秋姉妹と呼ばれる神々は芋を食った。痛みよりもその芋の完璧さが優先されたためである。四季や土気のまるでないところで育った芋のくせにうまいなぁ。うまいうまいと悔し涙を流しながら芋を頬張る者たちを見下し、本懐遂げた桂姫が赫々と笑顔を拡げた。まではよかったのだが、ふと磨弓の丸だしの尻と緑々と伸びる植物を創造神は見つめた。
彼女の瑕瑾なき創造物に、不要と切り捨てた生物が絡み合っている。その不完全性にようやく桂姫の酔いは覚めた。己が編み上げたと思っていた衣はどこにも存在せず、裸の王にすら召し上げられぬ虚ろを抱えた仕立て屋の顔となって。
皮までうまいと芋にむしゃぶりつく神々を一顧だにせず桂姫は磨弓を伴って住処へと帰り、すぐさま命じた。
『おまえのことごとくを元に戻し、芋は捨て去る』
偶像神 の完璧な声音に対し、すぐさま磨弓は拝命した。したのだが、しばしの猶予を求めた。主は一日を許可した。
そのまま再び幻想郷の空へ向かった道中のあいだ、埴輪兵長と触手は会話を重ねた。おそらくは終の会話を。
ふたりは桂姫への忠誠をよくわきまえ、互いの性格もすべてではないにしろ十分に理解していた。過ぎ去る時の来た自作に対して、拭い去るにしろ安置するにしろ桂姫が視線を再び注ぐことはあるまい。磨弓の中から芋と触手は消え去るのだ。
磨弓は惜しんだ。芋も触手も。相手も同じだった。同じ任をつとめてきた相方への別れを惜しみ、成果である芋を惜しんだ。馬鈴薯をただ捨てるというのも、主に背くということもできかねた。そうして話は重ねられ、いつしか触手は望みを口にしていた。
──子を成すということは、ついぞできそうにもないな。
触手の一言が印象として磨弓の中に染みていく。馬鈴薯の生長を通じて思うところがあったのだ。桂姫から生み出された者たちとして当然のように携わることのできなかった機能だが、偶像よりも生物と似た身体を持つ触手にとっては埴輪たちに比べて親 しい思いだったのかもしれぬ。
『やってみようか』
磨弓は幻想郷の大地の上に降り立った。そこは植物や動物の痕跡と道が混在する風景で、ふたりはしばらく眺め続けた。生殖を行わない触手にとっても、ましてや磨弓にとっても不可能事であるそれは、しかし象徴として真似事を行うことはできるだろう。そして命名決闘を良くする磨弓にとっては象徴こそが真実の代用品であり、願いを叶えるための手段でもあった。
ふたりは魔理沙を探した。行為には相手が必要で、車椅子に座る彼女を見てはじめて知った事とは言えど、不本意ながら恐怖と衝撃によってひどい痛手を手負わせた彼女へせめてもの償いとして、これから行うわざの成果と利益を受け取ってほしかったのだ。
人間の娘はすぐに見つかった。魔法の森の上空で箒にまたがり空を楽しんでいた魔理沙は磨弓の姿を見つけると飛行をやめ、不自然な間のあとで皮肉げに話しかけてきた。一定の距離を保とうとする魔理沙へ害意がないことを知らせるため、磨弓は笑いかけてから自分の股へ手を突っ込んだ。相手の行動が理解できず硬直した魔理沙の前でほかほかの馬鈴薯を取り出すと埴輪は三口で食べきり、咀嚼しながら無造作に魔女へ近寄ると優しく包容した。
予想外の出来事に混乱し続ける魔理沙の唇へ埴輪の冷たい唇が重なり、口内から熱いままの芋が流し込まれてきた。ただの芋であればやがて魔理沙は正気を取り戻しただろうが、神を魅了すべく作られた芋を直接与えられたとあっては人間の舌に耐えられるべくもない。
法悦は口の中だけにとどまらず心臓へ、血管へ、指先へ、下腹部へと広がっていき、赤面した魔理沙は汗をかきながら夢中になって神の芋を食べた。飲み下すことすら忘れた娘の様子を満足気に見ていた磨弓は、興味を持って魔女の耳を指でなぞった。布地の感触を確認する仕立て屋のようにして耳の輪郭を、首筋の曲線をたどり、指で指を調べた。唇で芋を与えながら、磨弓の指は定規で布の上に寸法を引くごとく厳格なものへと変わっていき、己の手指を用いて魔理沙という布地の反応を計測していった。
すでにふたつの肉体は地上の柔らかな苔類の上である。ふくらみを計測する磨弓の顔の空洞からはその手助けとして触手が沸き立つようにあふれ出しており、娘の白い肉体の布地へ歓びの刺繍を細やかに縫い付けていた。魔理沙は恐怖していなかった。芋の悦楽は最初こそ炎のようであったが、やがて糸と化して背を、骨を、ついで肉体と皮膚の上を常に波打つ絹となっていった。誰かのやわい指が背骨の最下部あたりで次々と絹地を仕立て直し、それによって魔理沙は編まれて衣となり、そうなるとすぐさま裁 たれて魔理沙の視界と自我を白くした。
八回ほど魔理沙をわななかせた埴輪と触手は、そろそろ時間が尽きるのを確認すると今までよりも丁寧に、充たすように布地を白くなぞった。月の弧をなぞらせるように反らせ、太古から伝わる肉体のけいれんを跳ね出させると、あえて引き止めて滾らせるにまかせた。
声のない悲鳴を出すように魔理沙の唇が半ば形づくられるや、磨弓と触手は残しておいた最後の白地へ細やかな法悦の彩りを塗りこんだ。そして魔理沙は身体を失い、自分を失い、時間を失って目を閉じた。
余分な水分を使って作成した馬鈴薯のジュレを触手が魔理沙の肉体へ撒くと、ふたりの象徴は終わりを告げた。つきあってくれた人間の娘に感謝を示して主の元へと帰っていった耕作者たちが、その後どうなったのか知るものがいるだろうか? 少なくともこの物語の続きを話す語り部はすべて、各々が違った結末を用いている。
ただ、眠る魔理沙を見つけたのが魔法の森に住む人形使いであったのは間違いないようであり、そのときに土気色だった顔色が一瞬で元の白晰な肌に戻ったことも確かなようだ。人形使いは魔理沙の体にかけられた馬鈴薯のジュレを指ですくって色と感触を確かめると、顔中の穴という穴から瀑布のように血液を奔出させ、それから眠る娘の身体をきれいにぬぐい清めた。心地よさそうな眠りから少女を起こさぬように魔法使いの寝床まで抱えたその姿は、ほかの何よりも誇り高く見えたということである。
Fin
彼が生まれた経緯は神々の酒宴に袿姫が参加した際にさかのぼる。
──命を育むこともできないなんて、最も下卑な生命にも劣るじゃないか。
この声を皮切りにして、そうだ・そうだ・と濡れ鼠となっていた神々の間から大喝采と同意が乱れ飛ぶこととなり、追われるように住処へ帰ってきた桂姫は三日三晩、瀑布もかくやの勢いで酒を飲み下し続けた。人間では書き記すことのできぬ呪詛の言葉を唇の間から吐き漏らしては糸として布を織り上げ、酔いを針として鮮やかな衣装を
──肢体を生むのに土を焼いて作るなんて、今どき人間でもやってないのに! 笑いすぎて
──偶像だかに移ろう四季の美しさ以上のものなんて宿るわけないのに! 笑いすぎて静けさ繁るわーッ!
──ガァーッハッハッハッハ!
──ゲェーッハッハッハッハ!
以上の罵倒を桂姫はつぶさに、人間が未知の言語を習得するときのようにたゆまず丁寧に思い出し続けながら計画を練り上げ、四日目でついに外界へ飛び出すと磨弓の元へ降臨して告げた。
『磨弓!
手にした酒瓶の中身をぐいぐいと飲み干しはじめた主の次の命令を静かに待ちながら、磨弓はどうしたものかと農園経営や作物育成の知識を思い出していたが、頬をすぼめて瓶から酒を吸い出しながら袿姫は磨弓の手を引いて空へ飛びだした。そのまま袿姫の工房に連れこまれるなり瞬時に下半身の着物をすべて脱がされたため、さすがの磨弓も疑問を口にした。
『は?』
『おまえの直腸で育てンのよ! 馬鈴薯! 馬鈴薯!』
酔いどれの早口で袿姫が言うには、優れたる磨弓の身体に少しばかり手を加えて直腸で馬鈴薯を育て、己の
上記の理由をもって杖刀偶磨弓の直腸に当たる部分へ土壌の機能が追加され、酒乱神のぶるぶる震える手によって馬鈴薯の種芋が安置される手筈となった。発芽に必要な水分と光量の供給は、直腸内と周辺に増設された多機能セラミックの分業化で補われることとなったのだが、計画の段階で問題となったのは重力である。
芋は体内に収めるのが好ましく、そうなると茎葉の部分が重力の方向のために磨弓の内部へ伸長していくことになる。この場合における収穫まで必要な光量と空間を確保するとなると、磨弓の容積が人間の力士の二乗じみたものになってしまうため袿姫の美意識が実行を却下した。アムリタとネクタルを口内で音が鳴るほど撹拌させながら袿姫は考えた。直腸部を体外に延長させて芋の天地を逆転させるのは? だめだ。これも磨弓が美しくなくなる。
神酒の混合物を飲み下し、口直しにカストリをらっぱ飲みして、蛇のげっぷのような音を鼻から出すと創造神は解決策を練り上げた。
重力発生機構を磨弓は内蔵することになった。馬鈴薯の芋と根を体内側へ増殖させるよう重力場を固定する仕組みだが、このままでは磨弓の体外へ面白くない影響が出てしまう。
それを解決するもう一つの仕組みが触手種の体内循環である。液体が一定の速度で重力場の周囲を回転することで遠心力が発生し、体外に対する重力の中和を行う。袿姫は液体に知能と作業腕を追加する方法を採用し、こうして触手種の作成と品種改良を待ってから磨弓の内部に実装されたのだった。
当初、触手と磨弓の仲は良好とは言えなかった。触手は袿姫への忠誠心に溢れており、磨弓の忠誠心の高さも認めるところだった。しかし彼は結局、循環するだけの仕事を生業に命を終えるよう定められたものであり、先祖代々の歴史がこのような形で終わる無念を埴輪に向ける形となってしまっていた。凝り性の袿姫が触手に知能を持たせすぎたためだったが、とにかく口に出せぬ不満は彼の勤務態度に時々現れ、越権行為とも取れる小さからぬ反抗を生み出していた。
例えば磨弓が改造されたという噂を耳にした人間の
そうしている間にも種芋は順調に育ったのだが、土で生育した場合の馬鈴薯とは参照値が食い違ってきていることに気づいた袿姫が、自腑製の猿酒を反芻して舌鼓を打ちながら原因を探った。導き出された答えは水分の不足である。
『ずっと水なんてものがいるの? わざわざ? これだから不完全偶像は!』
発芽のときには念頭にあった水分という要素を酔いどれ特有の物忘れの良さで考えていなかった袿姫は、芋に対して「水ぶくれの緑っぽ野郎」などと毒づきながら、磨弓の肛門から頭を出した芽を観察し、現状の水分生成機能だと遠からず枯死すると結論づけた。補給装置の追加をどうやるか酔頭を捻りまわして考えてみたが、彼女の美意識の関係でコレ以上の機能追加は違法建築に相当する暴挙にあたり、そうなると外部から定期的に磨弓の肛門へ水を差していくしか方法はないがそれも納得しかねた。通常、ヒトガタがそのようにする場合で想定されるのは生命の育成のためではなく排便行為の助成である。偶像は排便しない。
即時の兵役続行を主張する磨弓をなだめながら、水の飲尻健康法という偶像にしか為せない高度な価値観が生み出されるのだという嘘を武器に、袿姫が自らの美意識と血みどろの戦いをはじめようとしたとき、触手が上奏した。
──定期的に磨弓が飲む水の量を増やしてくだされば、そして袿姫さまの創作物である埴輪の身を少しばかり欠くことを私にお許しくだされば、芋へ水を届けてみせます。
磨弓の身体には肉がない。臓器もない。血管もない。骨もない。人間の肉体からしてみれば信じがたい空洞を抱えた動物であり、その間隙に今では芋と、根を張るためのセラミックの空疎粒と、重力生成装置と、円転する触手が区分けされて存在していた。触手は自分の領域とセラミック土の壁の一部を破り、そこから水を浸透させて芋の育成を補助しようと提案したのだった。
馬鈴薯が必要とする水分量。消費されていく触手の水分を補給するために磨弓の口腔から伸ばされている補給路の許容量と触手の水分保持量。触手の作業量増大による以後の計画の見直し。磨弓の内部損壊による彼女への影響。その全てが勘案された結果、触手の提案は許可され、馬鈴薯の育成は続行された。
水分の問題を解決したころ、共同作業に従事するものたちが持つ同一の空気といったものを磨弓と触手はまとうようになり、馬鈴薯の育成に関する意見交換を前よりも頻繁に行うようになった。そして植物の芽が磨弓の尻の割れ目を沿うようにして伸びはじめると、ふたりは幻想郷の地上へと向かった。太陽光の十分な補給が目的だったが、桂姫はくれぐれも目立たぬようにとふたりに言い含めた。ある程度の成果が生まれるまでは忌々しい神姉妹へ噂が流れるのも秘しておきたいのだと、畜生界から強奪してきた数多の酒樽へ頭部を突き込む主から告げられた磨弓らは、地上でも人気の少ない原っぱの片隅へ降り立つことにした。
そこで尻から健やかに伸びつつある植物の若芽を太陽へ向ける作業に取りかかり、二日間におよぶ試行錯誤の末、寝転んで思い切り開脚した丸裸の下半身を太陽の動きに合わせて動かしていく姿勢を採用した。肛門を直射日光で焼くかのごとき姿勢を育成者たちは丹念に保持し、折を見て水分を磨弓の口吻から補給する。夜は水分の確保と貯蓄、身辺の清掃や調整に費やした。
夜明けとともに日肛浴を開始する生活は四日目で妖精に見つかり、たちまち好奇の視線と噂を呼んだ。六日目に真似を始める個体が現れると、この珍しい遊びに妖精たちは雪崩をうつようにして参加し、少女たちが入れ替わりながら
白白とした磨弓の太腿へ青々と広がった葉の影がくっきり落ちるようになってきたころ、近くの森に住む人形使いが原っぱの変化を見かけてしまい腰を抜かした。人形使いは尻もちをついたまま視線を外さず、腕の力だけで這いずるようにして森の奥へと消えていった。衝撃のためかやたらと息を弾ませていたその様を見て、妖精たちは自分の股ごしに声を上げて笑い、朗らかな高い声を青空へ吸い込ませた。
次の日に妖精たちが流行の遊びをはじめたあたりで、人形使いが戻って来た。森の奥から車椅子の車輪をガラガラと鳴らし、にたにたと笑いながらやって来た。車椅子には魔理沙が載せられており、暗がりから燦々とする日光の元へ出てきたときにもまばたき一つしない無表情に妖精たちはぎょっとした。人形使いはずいぶんと魔理沙に話しかけ、相手の無言にもまるで気にした様子を見せず、目の前に広がる尻と膚の群生を事細かに説明しはじめた。人形使いの紅い頬と金の髪がきらきらと美しく、しかし微に入り細に入り妖精たちの尻を描写する舌と
少女たちの間をそろそろと静かに車椅子が抜けていく間にも、魔理沙の顔にわずかばかりの動きもなかったが、肛門から茎葉を生やした尻と目が合うと突然その身体を弾ませて少しばかり浮いた。
しばらく前に涙と粘液で顔をビシャビシャにしながら恐怖の形相で家に飛び帰る魔理沙を目撃していた人形使いは、その日以来となる彼女の激烈な反応に目を見開いた。あれから日を重ねるごとに心を病んでいく人間の娘を哀れに思い、心を痛めながら入浴の補助にまで世話を焼いていた人形使いは期待を隠そうともせず、ゆっくりと植尻に近づいていった。
勤務中で真剣な磨弓の無表情と、魔理沙の痙攣する瞳孔が同時にお互いを認識した。叫喚した魔理沙は起立するや車椅子を駆け上り、そのまま人形使いの頭部を抱え込むようにしがみつくと、わあんわあんと嬰児にも負けぬほどの全身全霊で泣きはじめた。恐るべきは人形使いであり、飛びつかれた勢いで美しい首が完全に捻じ折られているにも関わらず、両足でしっかりと魔理沙を支えていた。手足や首の表面には血管がびっしりと浮き上がり、それでも赤子のように泣きじゃくる魔理沙の尻をあやすように軽くたたいて撫で回しながら、人形使いはよろよろと森の中へと戻っていった。
二人の女が森の奥へ消えると、妖精たちがワッと声を上げて生尻のまま空へと舞い上がっていき、それを見届けると磨弓は立ち上がった。触手と談義した結果この場所での生育を切り上げることに決めたのだ。ここまで騒ぎが大きくなれば噂になり、噂は人々を集めることになる。幸いにも馬鈴薯はそれなりに育ち、磨弓の下履きの隙間から外へ葉を伸ばせる程度には伸びていたため、幻想郷の空を回遊しながら陽を浴びる方法へと替えることにした。
誰もいなくなった野原へ羅刹の如き形相で飛び込んできた博麗の巫女が血眼を旋回させたあと。首から上が土気色のまま戻らなくなった人形使いの看病によって魔理沙がゆっくりと復調していくあいだ。季節がふたつ過ぎた。
磨弓と触手はついに馬鈴薯を育て上げた。本来の収穫時期からズレて生育された芋はしかし、繊細に調整された体内環境と惜しまぬ手入れのために豊かな実成を見せていた。桂姫にとってはそれも設計のうちであり、秋のさなかに件の姉妹神のところへ出向いた桂姫は、磨弓を小脇に抱えるとその股からアツアツの馬鈴薯を二神の鼻柱めがけて飛び出させた。芋の自動採集と温熱調理機能はその名の通り埴輪の
秋姉妹と呼ばれる神々は芋を食った。痛みよりもその芋の完璧さが優先されたためである。四季や土気のまるでないところで育った芋のくせにうまいなぁ。うまいうまいと悔し涙を流しながら芋を頬張る者たちを見下し、本懐遂げた桂姫が赫々と笑顔を拡げた。まではよかったのだが、ふと磨弓の丸だしの尻と緑々と伸びる植物を創造神は見つめた。
彼女の瑕瑾なき創造物に、不要と切り捨てた生物が絡み合っている。その不完全性にようやく桂姫の酔いは覚めた。己が編み上げたと思っていた衣はどこにも存在せず、裸の王にすら召し上げられぬ虚ろを抱えた仕立て屋の顔となって。
皮までうまいと芋にむしゃぶりつく神々を一顧だにせず桂姫は磨弓を伴って住処へと帰り、すぐさま命じた。
『おまえのことごとくを元に戻し、芋は捨て去る』
そのまま再び幻想郷の空へ向かった道中のあいだ、埴輪兵長と触手は会話を重ねた。おそらくは終の会話を。
ふたりは桂姫への忠誠をよくわきまえ、互いの性格もすべてではないにしろ十分に理解していた。過ぎ去る時の来た自作に対して、拭い去るにしろ安置するにしろ桂姫が視線を再び注ぐことはあるまい。磨弓の中から芋と触手は消え去るのだ。
磨弓は惜しんだ。芋も触手も。相手も同じだった。同じ任をつとめてきた相方への別れを惜しみ、成果である芋を惜しんだ。馬鈴薯をただ捨てるというのも、主に背くということもできかねた。そうして話は重ねられ、いつしか触手は望みを口にしていた。
──子を成すということは、ついぞできそうにもないな。
触手の一言が印象として磨弓の中に染みていく。馬鈴薯の生長を通じて思うところがあったのだ。桂姫から生み出された者たちとして当然のように携わることのできなかった機能だが、偶像よりも生物と似た身体を持つ触手にとっては埴輪たちに比べて
『やってみようか』
磨弓は幻想郷の大地の上に降り立った。そこは植物や動物の痕跡と道が混在する風景で、ふたりはしばらく眺め続けた。生殖を行わない触手にとっても、ましてや磨弓にとっても不可能事であるそれは、しかし象徴として真似事を行うことはできるだろう。そして命名決闘を良くする磨弓にとっては象徴こそが真実の代用品であり、願いを叶えるための手段でもあった。
ふたりは魔理沙を探した。行為には相手が必要で、車椅子に座る彼女を見てはじめて知った事とは言えど、不本意ながら恐怖と衝撃によってひどい痛手を手負わせた彼女へせめてもの償いとして、これから行うわざの成果と利益を受け取ってほしかったのだ。
人間の娘はすぐに見つかった。魔法の森の上空で箒にまたがり空を楽しんでいた魔理沙は磨弓の姿を見つけると飛行をやめ、不自然な間のあとで皮肉げに話しかけてきた。一定の距離を保とうとする魔理沙へ害意がないことを知らせるため、磨弓は笑いかけてから自分の股へ手を突っ込んだ。相手の行動が理解できず硬直した魔理沙の前でほかほかの馬鈴薯を取り出すと埴輪は三口で食べきり、咀嚼しながら無造作に魔女へ近寄ると優しく包容した。
予想外の出来事に混乱し続ける魔理沙の唇へ埴輪の冷たい唇が重なり、口内から熱いままの芋が流し込まれてきた。ただの芋であればやがて魔理沙は正気を取り戻しただろうが、神を魅了すべく作られた芋を直接与えられたとあっては人間の舌に耐えられるべくもない。
法悦は口の中だけにとどまらず心臓へ、血管へ、指先へ、下腹部へと広がっていき、赤面した魔理沙は汗をかきながら夢中になって神の芋を食べた。飲み下すことすら忘れた娘の様子を満足気に見ていた磨弓は、興味を持って魔女の耳を指でなぞった。布地の感触を確認する仕立て屋のようにして耳の輪郭を、首筋の曲線をたどり、指で指を調べた。唇で芋を与えながら、磨弓の指は定規で布の上に寸法を引くごとく厳格なものへと変わっていき、己の手指を用いて魔理沙という布地の反応を計測していった。
すでにふたつの肉体は地上の柔らかな苔類の上である。ふくらみを計測する磨弓の顔の空洞からはその手助けとして触手が沸き立つようにあふれ出しており、娘の白い肉体の布地へ歓びの刺繍を細やかに縫い付けていた。魔理沙は恐怖していなかった。芋の悦楽は最初こそ炎のようであったが、やがて糸と化して背を、骨を、ついで肉体と皮膚の上を常に波打つ絹となっていった。誰かのやわい指が背骨の最下部あたりで次々と絹地を仕立て直し、それによって魔理沙は編まれて衣となり、そうなるとすぐさま
八回ほど魔理沙をわななかせた埴輪と触手は、そろそろ時間が尽きるのを確認すると今までよりも丁寧に、充たすように布地を白くなぞった。月の弧をなぞらせるように反らせ、太古から伝わる肉体のけいれんを跳ね出させると、あえて引き止めて滾らせるにまかせた。
声のない悲鳴を出すように魔理沙の唇が半ば形づくられるや、磨弓と触手は残しておいた最後の白地へ細やかな法悦の彩りを塗りこんだ。そして魔理沙は身体を失い、自分を失い、時間を失って目を閉じた。
余分な水分を使って作成した馬鈴薯のジュレを触手が魔理沙の肉体へ撒くと、ふたりの象徴は終わりを告げた。つきあってくれた人間の娘に感謝を示して主の元へと帰っていった耕作者たちが、その後どうなったのか知るものがいるだろうか? 少なくともこの物語の続きを話す語り部はすべて、各々が違った結末を用いている。
ただ、眠る魔理沙を見つけたのが魔法の森に住む人形使いであったのは間違いないようであり、そのときに土気色だった顔色が一瞬で元の白晰な肌に戻ったことも確かなようだ。人形使いは魔理沙の体にかけられた馬鈴薯のジュレを指ですくって色と感触を確かめると、顔中の穴という穴から瀑布のように血液を奔出させ、それから眠る娘の身体をきれいにぬぐい清めた。心地よさそうな眠りから少女を起こさぬように魔法使いの寝床まで抱えたその姿は、ほかの何よりも誇り高く見えたということである。
Fin
面白かったです!
最初から最後まですさまじかったです
迫力満点でした