Coolier - 新生・東方創想話

主人が寝相悪くて次元突破して

2022/01/12 01:22:48
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※ちょっと橙が大人びてるかもしれません。



 何言ってるかわからないだろうねえ。
 今晩来てもらったのはね、まあ、寒い冬だし、ちゃんと生活できてるかなって久しぶりに会いたくなったのもあるけどね。
 なんというか、あれだ。

 心細くなったのだよ。橙。



 そーいって、藍様はずーずずっと不思議なリズムでお茶を啜りました。気取っているわけではないでしょう。だって、手震えてるもん。

「甘酒あったかい‥‥」
「ちぇん。現実逃避しないでくれ」
「しますよー。藍様が私にヘルプ頼んでなおかつ冷静じゃないんですもん。私に何ができるってんですか」
「式剥がれてる?」
「来る途中の吹雪ではんぶん」
「ああ、すまない」
「今日は再インストール結構なんで‥‥」

 ちょっと引き気味に言ったらざざざざと隣に這って来てギュっと抱きしめられた。ふわぁ。
 自慢ですが私のご主人はすっごい美人ですよ。目鼻立ち整ってて肌は透き通っててすべすべもちもちで傾国の美女ですよ。
 そんな藍様が私を抱きしめて頬にすりすりぎゅうぎゅうスーハ―してくれるのはすっごい幸せなんですよ。
 でも面倒ごとセンサーはビンビン来てるんです。髭も尻尾も凶兆感じてバッチバチ逆立ってるんですよ。
 わたし凶兆のクロネコですもん。わからないわけないですもん。

「やめ、あ、もふもふっ、気持ちいいけど、藍様っ、ああんっ、ま、巻き込まないでくださいか弱いわたしを」
「いやだ!今日は一緒に居てもらうぞ!橙の好きなおかずも酒の肴も用意してるんだ!頼むから今晩は一緒に居てくれ!」
「こ、今晩、今晩だけなんですね!」
「ああ!」

 ばっ、と真面目な顔になった藍様が、ぎゅうと私の手を握ってこっちを見つめてくる。
 藍様が、私を頼ってくださって。ああ。
 
 ああ、藍様の脳天から何か生えてきた。
 ああ、手が、手が‥‥

「にょわあああああ!」
「怯むなっ!これはレベル1だ!」
「わけわかりません!」

 びっくりして叫ぶ私に、藍様は頭から腕を生やしたまま、凛々しいお顔で叫んだのでした。


*********************


「ゆかりさまの‥‥」
「無意識に境界を開け閉めしててな」

 脳天からだらん、と力の抜けた腕を生やしたまま藍様がこたつでお茶を飲んでいます。
 何事かと聞いた顛末は驚きこそすれちょっと拍子抜けするものでした。
 冬になると、我らのご主人紫さまは冬眠に入ります。布団でしっかり春まで寝ます。
 フツーはそれまでです。
 
「今年に限って、夢か何か見てるみたいでな‥‥」
「はぁ」

 藍様の頭に生えてる腕。それがつまり紫さまの腕だそうで。
 どうも、藍様の見立てでは夢を見ているらしく、昨日の晩から、マヨヒガじゅうの隙間から紫さまの手足などが出たり入ったりしているそうなのです。
 キノコみたいですね。

「でも、特に害はないんですよね」
「あるよ」

 藍様の頭の腕がゆら、と指を伸ばしました。寺子屋の生徒がやる挙手みたいです。
 これくらいなら鴨居にお手てぶつけないように歩きゃいいんじゃないんでしょうか。見た目はへんちくりんですけど。

「無意識らしくてな‥‥まずランダムでどこから出てくるか法則性がない。さらに出てくる場所に制限がない」
「‥‥今どこから出てるんです?」
「私の髪の分け目」
「‥‥」
「あ」

 ずるん、と腕が引っ込んでいきました。
 
「さっきレベル1と言ったな」
「はい」
「橙、レベル5だ」
「え」
「うしろ」
「うし‥‥」

 振り返った私の目に飛び込んできたのは、今と廊下を隔てる障子、その合わせ目からずるんと生え出た紫様の生首!
 あ、よだれ垂らしてるー。

「かわいいー」
「冷静だな?」
「現実逃避かもですー」

 言っている間に生首はずるん、と引っ込んでいった。
 なるほど。もぐらたたき遊戯のようにこのおうちのあちこちから紫様が生えてくるんですね。
 確かにカオスですけど‥‥それくらいで私を助けてくれって呼びます?藍様。

「それくらいでなんで私が‥‥」
「橙飲むな!」
「え」

 叫び声に手に持った湯呑みの甘酒を見下ろす私。
 白い麹に目玉が浮かんでました。

「ふにゃあああ!」
「こぼすな!こぼさないで!」
 
 目玉はまたするんと甘酒の中に消えて‥‥って、いくらなんでも!

「今のどこに境界があったんですか!?ただの甘酒ですよ!」
「水面」
「ええ‥‥」

 私は湯飲みを置いて立ち上がる。ぐるりと辺りを見渡す。正面では藍様がおこたに入ってこっちを見ている。

「理解したか?」
「今のレベルいくつですか」
「あれも5」
「‥‥すいません、やっぱり再インストールしてください」
「よし」

 ブーストかけてもらわないと思考がおっつかないよう。
 みよんみよん、再インストールでなんとなく理解力が上がった気がする、式も憑きたてほやほやの私に藍様が説明してくれた状況がこうだ。

・紫さまが寝ぼけて境界をつなげまくっている
・最初は普通に家の外に出て行ってたが結界を張って、どうにかマヨヒガの中だけに留めている。
・寝ぼけ境界繋ぎの対象はマヨヒガ内の境界すべて。スキマすべて。

「いや、家の外に逃げましょうよそれ」
「結界維持できないんだよ」
「そんな、家の外からすれば」
「家の外からじゃ細かいコントロールができない」
「コントロールって」
「紫様が私の結界にハッキングをかけている」
「は」

 藍様のほっぺがぐにぐに動いてる。‥‥皮膚の直下を紫さまの指が、指が這って、ひいいいい!顔が歪んで!

「大丈夫、隙間の中だけに存在してるから痛くない」
「皮伸びて蠢いてますよ!?」
「引き裂かれたりはしてないから‥‥」
「いやでも、見た目が!」
「これでレベル10」
「MAXどんだけですか!」
「100」
「あれで10ですか!?」

 そのうち指は消えて、また藍様の顔は元に戻った。
 そんな、フィラリアみたいな‥‥
 って、さっきの続き!

「ハッキングってどういうことですか藍様」
「紫様が私の結界を破ってマヨヒガの外へ出ようとしている」
「寝てるんですよね?」
「寝てるからこそだ。起きてたら一瞬でハッキングされてる」
「‥‥幻想郷中で紫さまの手足が出たり入ったり?」
「イヤだろ?」

 藍様はじっと私の目を見る。
 
「‥‥むしろ幻想郷中に対象が広がるならかえって目立たないんじゃないですか?」
「幻想郷だけならいいんだ」
「‥‥どういうことです」

 藍様が傍らに置いた袋に手を突っ込んだ。何やらごそごそやっている。

「これだ」
「?」

 出してきたのは水晶の結晶だった。いかにもな柱のカタチで、水色に輝いている。大きさは私の握りこぶしくらい。

「水晶がどうかしたんですか」
「これは生き物だ」
「はい?」

 水晶はこたつの上でキラキラ輝いている。
 生き物って、妖怪か何かだろうか。

「ケイ素生物だ。地球外生命体のたまごで」
「いや、あの」
「結界を張る前、紫さまの髪に絡まって出てきたんだ」

 抱えた頭にずっしりとした感覚。

「お前の頭に紫様の頭が生えてるぞ」
「言わなくていいです」
「お前のうなじから」
「いわなくていいですぅぅぅぅ」

 藍様が疲れた声で指摘してくれるのを跳ねのける。
 いや、まってちょっと待って。

「要するに寝ぼけて境界弄り放題の紫様は幻想郷どころか他の星にまで手を」
「いや、なんとなく!誰かに教えてもらった気がしますけど!すぅっっっっっっっっっっっごい遠くなんですよね!他の星って!ねえらんさま!」
「遠い」
「3文字!」
「遠いよ」
「もっと強調して言ったっていいでしょおおおお!あっさり言いすぎですよおおおお!」
「めっちゃ遠い」
「フランク!」

 いやだー!アップデートタイプの式憑いたから理解できちゃう私いやだー!
 何光年?どれだけ遠く!?でもって無害なの?元の場所に返さなくていいんですか?

「返すよ。春になったら‥‥」

 両目から紫さまの指がにょろにょろ出ている藍様がぐったりした声で応える。その間に孵化したりしないですよね?それ?
 理解しました。私を呼んだ理由理解しました。心細かったんですね。正気保ちたかったんですよね。
 でも、そんな収容失敗したKeterクラスが闊歩しているようなマヨヒガで私ごときがお手伝いできることなんてあるんでしょうか!

「いいんだ、話し相手がいればいいんだ。誰かと喋ってないと、私という個の境界まで弄られそうで」
「いやああああ!でるうう!猫の里にかえるううう!そんなアンチATフィールド展開領域なんていやだぁぁあぁ!逃げるの無理なんでしょうけどおおお」
「そうだ。無理だ」
「ふにゃあああ!うえろろろろろろ」

 叫んだらずぼぼぼぼぼぼぼぼぼと金髪が流れ出て畳の隙間に流れ込んでいった。
 もうこの光景で悲鳴でない。慣れ始めてるの‥‥?
 畳に四つん這いでぜーはー言ってる私に、藍様が静かに語りかけてきた。
 耳から紫様の指がにょろにょろ出てる。
 ‥‥実は起きててからかってるんじゃないのか、これ。

「とりあえずやることはある」
「な、なんでしょうか‥‥」
「紫様が出入りした後の境界にできるだけパッチを当てる。ハッキングを帳消しにするんだ」
「‥‥できるだけ」

 今私が来てからどれだけの境界から紫様が出入りしたんでしょうね。

「とりあえず今晩乗り切ろう。明日の朝まで」
「朝になったら」
「水掛けて起こす」
「今しない理由は」
「‥‥霊夢が起きている間にしたい。寝ぼけギレで暴れるかもしれないし」
「にゃあ‥‥」

 つまり今は夜で博麗の巫女も寝てるのでいざというときのストッパーがいないと。今起こして、冬眠中の紫様を起こして万一怒り出したら止めるすべがないからと。
 ゆかりさま‥‥春になったらご褒美弾んでもらいますからね‥‥

「やるぞ、橙。我々で幻想郷を守るんだ」
「はい、らんさま‥‥」

 尻尾の真ん中から頭が突き出てる藍様と一緒にすっくと立ちあがる。背中が重いのは肩甲骨あたりから足が生えているから。
まだまだ夜明けまでは遠い。でも、きっと、きっと大丈夫。だって藍様といっしょだもん‥‥
 ああ、フラグだよねえ、これ。

「とりあえず、そこの障子を‥‥」

 言って私が障子を開けたら、星々輝く無限の暗闇。

「‥‥」
「‥‥」


 あー、これは。
 任務あっさり終わったんでしょうか。
 式再インストールアップデートで私の処理能力あがってますもん。何となくわかりますよ。
 宇宙ですよね。ここ宇宙ですよね。宇宙船マヨヒガ号漂流中ですね。地球見えませんね。見覚えのある星座も見えませんね。
 守るべき幻想郷から何光年離れましたかね、これ。

「らんさま」
「やられた」
「そうですね」
「私が張ったマヨヒガを包む結界ごと境界をひっくり返したな」
「ワープじゃないですか」
「これはレベル1000かな」
「MAX10倍じゃないですか」

 開けた窓から空気が出てかないのは藍様の結界がすごいからでしょうね。

「‥‥」
「‥‥」

 二人とも言葉が出ない。
 その間にも視界の端で腕や足がいろんなスキマから出て伸びては引っ込んでいる。

「橙」
「はい」

 金髪ロングになっている藍様が声をかけてきた。
 やっぱり起きてんだろゆかりさま。

「とりあえずお茶でも飲もうか。まんじゅうもあるよ」
「そうですね」

 あっさり終わった仕事。もう何も心配事もなくなった私たちは、とりあえず休息をとることにした。
 テーブルの上で水晶がきらきらと水色に光っていた。



 ああ、祈ってね、猫の里のみんな。わたしが、春になったら地球に帰ってくることを‥‥
 
 
 

 
知霊奇伝のちょっと賢そうで大人びた橙もかわいいと思うのです。
そんな橙をわちゃわちゃさせたいためだけにこの話を書きました。

投げっぱなしバンザイ。
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コメント



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マヨヒガ宇宙漂流記!
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6.100水十九石削除
ウソだろ!?
7.100Actadust削除
ぶっ飛んでるのに妙に二人とも冷静なのがシュールで好き。
8.100夏後冬前削除
橙ちゃんが口から金髪を吐き出した辺りで耐えられなかった
9.100ガニメデ削除
二人とも常に冷静なのでシュールすぎて面白すぎる。全編笑いが止まらない素晴らしい一作です。
10.100南条削除
面白かったです
橙さんのツッコミがキレキレでよかったです
このキレは大人のなせるワザでした
11.100名前が無い程度の能力削除
おもしろかったです