「クストス・アル・ロマニア=ヴォイヴォダ・デ・ワラキア=レミリア・チェル・マレ=ヴラド・ベグザーディー=スカーレットよ」
「クストス・アル・ロマニア=ヴォイヴォダ・デ・ワラキア=レミリア・チェル・マレ=ヴラド・ベグザーディー=スカーレット……?」
高らかに名乗るレミリアに魔理沙は聞き返した。さっぱりわからなかった。
「ヴラドの娘、ローマ人の守護者にしてワラキアの大君主、『素晴らしき』レミリア・スカーレットって意味よ!」
「ヴラドの娘、ローマ人の守護者にしてワラキアの大君主、『素晴らしき』レミリア・スカーレットか……!」
場所は博麗神社。季節は冬。雪見酒の宴席。
誰も彼も(いつも通り)酔いが回って、益体もない談笑に興じていた。話の流れは(やっぱり)誰も覚えてないのであるが、レミリアが自身の称号も含めた正式な名乗りをすることになったのだが――。
「クストス・アル・ロマニア=ヴォイヴォダ・デ・ワラキア=レミリア・チェル・マレ=ヴラド・ベグザーディー=スカーレット……ねぇ……」
ちょうど同じ席に居座っていた博麗霊夢は思った。「レミリアのくせにやたらカッコいい名前持ちやがって」と。
「ふふぅぅぅん、まぁわたしってば貴族だしぃ? いいとこ生まれだしぃ? いつの間にかに爵位とか称号が名前についちゃうのよねぇ……あとこれ、わりと簡略的な名乗りよ? 祖国がオスマン帝国に編入されてたときの名乗りだし、わたしってロンドンとか上海に住んでた時期にそれぞれ爵位貰ってるしぃ……」
レミリアはたいへんご満悦な表情だった。極東の田舎者どもにハイカラマウント(?)が取れることに気が付いたのである。
「あーあっ! 広い世界で生きてるとねーっ! しがらみが多くってねーっ! 大変だわーっ! イギリスじゃ男爵位にも任じられたしぃ! 上海じゃ貝子の地位貰っちゃったのよねェ~! 私って要人だから~!!!! グレートブリテンの男爵ゥゥゥ~! ロード・スカーレット・レミリア!!!! あーっはっはっはっは!!!」
「ぐ、ぐぬぬ……ちくしょう、霊夢、こいつは勝てねぇ。私たちド田舎の日本人じゃ勝てねぇ……」
魔理沙は地に突っ伏して負けを宣言した。ハイカラポイント(?)でまるで勝てないことを認めざるをえなかった。
その言葉にいきり立ったのは、耳をそばだてていた日本の神仏妖怪たちである。まさかまさか、ぽっとでの西洋のコウモリごときに? 名乗りのスケールで? 神国秋津洲の大権現大妖怪の我々が? 負けるものかよ!
「聞き捨てならない、聞き捨てならないねェ……我ら神国の文化が、舶来の赤くてちみっこい幼女に負けるなんてさァ。ほれ、吸血コウモリ……わたしの名を言ってみなァ~~~!!」
「きっ、貴様は!?」
「そうよッ! わたしこそはァ~……弥栄のォ~~~八坂ッ! 神奈子ッ! 建御名方神ッ!」
「う、うおお! やったれ神奈子! その性悪吸血鬼を倒してくれー!」
魔理沙はトラの威を借りてイキった。
「即ちッ! 我こそは諏方のッ! 南宮ッ! 法性ッ! 上下ッ! 大! 明! 神! にしてェッ~~~軍神ッ! でありィ……その垂迹はァ~~~ッ! サマンタバドラ! 菩提薩埵でェあるゥゥゥッ!」
わーわーきゃーきゃー。ぱたぱたぱたぱた。いきなり現れた早苗と諏訪子は紙吹雪を散らした。
「ぼ、菩薩だとーッ……!?」
レミリアはこれにおののく。いくら称号を持ったところで、己の称号はすべて人界のもの。神仏溢れる幻想郷ではちっぽけなものであると気付かされたのだ。
「おうおう、ずいぶん楽しそうな話してんねぇ」
「げぇっ、酒呑童子!」
レミリアはさらにおののいた。一説によれば八岐大蛇の落とし仔である伊吹萃香。その別名は酒呑童子……童子とは即ち仏さまである(ホントか?)
「神様が入用なの? 呼ばれて飛び出て秋姉妹で~す!」
「げぇっ、秋葉権現!」
レミリアはおののいた。以下略。
「ひぃ……極東こわい……かみさまほとけさまいっぱいいるよぅ……うー……」
レミリアは泣いた。咲夜はゆびをちゅぱちゅぱしゃぶらせてレミリアをあやした。
魔理沙は片肘ついてケラケラ笑って言った。
「まぁまぁ、逆に考えてみろって。カミサマがたくさんいるってことは、この国じゃ簡単にカミサマになれるってことだろ?」
「おお……おお! いいこと言うわね、魔法使い! それよ、それだわ! コペルニクス的転回!」
レミリアは目を輝かせた。
◆
翌日、博麗神社の境内の片隅、守谷神社の分社の右隣に珍妙な社が建った。
真っ赤に血塗られた鳥居をまたげば、社には『レミリア大権現』の名札とやたら美化された肖像画が置いてある。
なおこの社は、霊夢が気が付いた数刻後には撤去された。
さらに翌日、守谷神社の分社の左隣にも珍妙な社が建った。
やたらきらきら装飾された社には『魔理沙大権現』の名札が置かれた。
霊夢が気が付いた数刻後には撤去された。
「クストス・アル・ロマニア=ヴォイヴォダ・デ・ワラキア=レミリア・チェル・マレ=ヴラド・ベグザーディー=スカーレット……?」
高らかに名乗るレミリアに魔理沙は聞き返した。さっぱりわからなかった。
「ヴラドの娘、ローマ人の守護者にしてワラキアの大君主、『素晴らしき』レミリア・スカーレットって意味よ!」
「ヴラドの娘、ローマ人の守護者にしてワラキアの大君主、『素晴らしき』レミリア・スカーレットか……!」
場所は博麗神社。季節は冬。雪見酒の宴席。
誰も彼も(いつも通り)酔いが回って、益体もない談笑に興じていた。話の流れは(やっぱり)誰も覚えてないのであるが、レミリアが自身の称号も含めた正式な名乗りをすることになったのだが――。
「クストス・アル・ロマニア=ヴォイヴォダ・デ・ワラキア=レミリア・チェル・マレ=ヴラド・ベグザーディー=スカーレット……ねぇ……」
ちょうど同じ席に居座っていた博麗霊夢は思った。「レミリアのくせにやたらカッコいい名前持ちやがって」と。
「ふふぅぅぅん、まぁわたしってば貴族だしぃ? いいとこ生まれだしぃ? いつの間にかに爵位とか称号が名前についちゃうのよねぇ……あとこれ、わりと簡略的な名乗りよ? 祖国がオスマン帝国に編入されてたときの名乗りだし、わたしってロンドンとか上海に住んでた時期にそれぞれ爵位貰ってるしぃ……」
レミリアはたいへんご満悦な表情だった。極東の田舎者どもにハイカラマウント(?)が取れることに気が付いたのである。
「あーあっ! 広い世界で生きてるとねーっ! しがらみが多くってねーっ! 大変だわーっ! イギリスじゃ男爵位にも任じられたしぃ! 上海じゃ貝子の地位貰っちゃったのよねェ~! 私って要人だから~!!!! グレートブリテンの男爵ゥゥゥ~! ロード・スカーレット・レミリア!!!! あーっはっはっはっは!!!」
「ぐ、ぐぬぬ……ちくしょう、霊夢、こいつは勝てねぇ。私たちド田舎の日本人じゃ勝てねぇ……」
魔理沙は地に突っ伏して負けを宣言した。ハイカラポイント(?)でまるで勝てないことを認めざるをえなかった。
その言葉にいきり立ったのは、耳をそばだてていた日本の神仏妖怪たちである。まさかまさか、ぽっとでの西洋のコウモリごときに? 名乗りのスケールで? 神国秋津洲の大権現大妖怪の我々が? 負けるものかよ!
「聞き捨てならない、聞き捨てならないねェ……我ら神国の文化が、舶来の赤くてちみっこい幼女に負けるなんてさァ。ほれ、吸血コウモリ……わたしの名を言ってみなァ~~~!!」
「きっ、貴様は!?」
「そうよッ! わたしこそはァ~……弥栄のォ~~~八坂ッ! 神奈子ッ! 建御名方神ッ!」
「う、うおお! やったれ神奈子! その性悪吸血鬼を倒してくれー!」
魔理沙はトラの威を借りてイキった。
「即ちッ! 我こそは諏方のッ! 南宮ッ! 法性ッ! 上下ッ! 大! 明! 神! にしてェッ~~~軍神ッ! でありィ……その垂迹はァ~~~ッ! サマンタバドラ! 菩提薩埵でェあるゥゥゥッ!」
わーわーきゃーきゃー。ぱたぱたぱたぱた。いきなり現れた早苗と諏訪子は紙吹雪を散らした。
「ぼ、菩薩だとーッ……!?」
レミリアはこれにおののく。いくら称号を持ったところで、己の称号はすべて人界のもの。神仏溢れる幻想郷ではちっぽけなものであると気付かされたのだ。
「おうおう、ずいぶん楽しそうな話してんねぇ」
「げぇっ、酒呑童子!」
レミリアはさらにおののいた。一説によれば八岐大蛇の落とし仔である伊吹萃香。その別名は酒呑童子……童子とは即ち仏さまである(ホントか?)
「神様が入用なの? 呼ばれて飛び出て秋姉妹で~す!」
「げぇっ、秋葉権現!」
レミリアはおののいた。以下略。
「ひぃ……極東こわい……かみさまほとけさまいっぱいいるよぅ……うー……」
レミリアは泣いた。咲夜はゆびをちゅぱちゅぱしゃぶらせてレミリアをあやした。
魔理沙は片肘ついてケラケラ笑って言った。
「まぁまぁ、逆に考えてみろって。カミサマがたくさんいるってことは、この国じゃ簡単にカミサマになれるってことだろ?」
「おお……おお! いいこと言うわね、魔法使い! それよ、それだわ! コペルニクス的転回!」
レミリアは目を輝かせた。
◆
翌日、博麗神社の境内の片隅、守谷神社の分社の右隣に珍妙な社が建った。
真っ赤に血塗られた鳥居をまたげば、社には『レミリア大権現』の名札とやたら美化された肖像画が置いてある。
なおこの社は、霊夢が気が付いた数刻後には撤去された。
さらに翌日、守谷神社の分社の左隣にも珍妙な社が建った。
やたらきらきら装飾された社には『魔理沙大権現』の名札が置かれた。
霊夢が気が付いた数刻後には撤去された。
クストス・アル・ロマニア=ヴォイヴォダ・デ・ワラキア=レミリア・チェル・マレ=ヴラド・ベグザーディー=スカーレットさんがかわいそうで読んでいて楽しかったです