風がすっかり冷たくなり、世界に白い色が混ざるようになった頃。
若草色の髪をした名の無い妖精少女が、なにやら書き物をしていました。
「やっほー ……って、あれ? 大ちゃん、なにしてるの?」
「あ、チルノちゃん」
鉛筆を走らせては止めて、しばらく考え顔をしてからまた手を動かして。そんなことをしていた少女……大妖精が、来客の声に振り返ります。
外の冷たい空気をまといながらやってきたのは、元気いっぱいそうな薄着姿をした氷の妖精です。気心の知れた間柄である彼女は、気楽な様子でトコトコと大妖精に歩みよって、書いていたものを覗き込んでいきます。
「え~と…… 『サンタさんへ、いつもプレゼントありがとうございます。今年もみんなと仲良くすごしてきました』……?」
「うん。サンタさんにお手紙書こうと思って」
書きかけのものを、誰かに送るものを見られるというのは少し恥ずかしいものです。若草色の少女は照れくさそうにしながら、あらためて鉛筆をとって続きを書き始めていきます。
ところが……
「大ちゃんってばお子様だなぁ。サンタなんているわけないじゃん」
氷の少女は、自分のほうが物知りだと言いたげな表情で、そんなことを言い出してしまうのでした。
「………」
ピタリと止まる手。そのまま何も言わない少女。
さすがにマズいことをしてしまったと気付いたのでしょう。得意げだったチルノはハッとした顔をして、恐る恐る友だちの様子をうかがっていきます。
「ひどいよ」
そこへ向けられたのは、短いながらも鋭い非難の声でした。
「私だって知ってるよ。でも、もしも本当にいてくれたとしたら楽しいかもって……そう思って書いてたのに、どうしてそんなこと言うの?」
「う、あ……ごめん……」
涙をいっぱいに浮かべて口をキュッと閉じ合わせて。声を震わせながら見上げてくる若草色の少女。その視線に思わずたじろぐチルノ。
色んなことを知っている大妖精に、自分だって物知りなんだってところを見せようとしたのが失敗でした。そんなことをしようとしたせいで、大事な友だちに悲しい思いをさせてしまった……
いくらやんちゃなチルノでも、こればっかりは罪悪感を覚えずにいられません。
「ん……大丈夫。私も、子どもっぽいことしてたよね」
「………」
大妖精は穏やかな声に戻って笑ってくれましたが、手紙を書く手は完全に止まってしまっていました。さすがにこんな気持ちでは続きを書くことなんて無理というものなのですから。
「えっと、あの、その……あたい……」
こうなってしまったら、なにかお詫びをしないと気が済みません。悪いことをしてしまったら、ちゃんと謝らないといけないのです。ゴメンのひと言だけで済ませていいわけがありません。
「大ちゃん。あたい、ちゃんと埋め合わせするから!」
そうとなったら立ち尽くしている場合ではないというもの。
氷の妖精は言うが早いか、返事も待たずにドタドタと外へ飛び出していきました。
「あっ、チルノちゃん……!?」
そんな慌ただしい足音を、若草色の少女がポカンとした顔で見送っていくのでした。
「ラルバー! おーい、ラルバー!」
「わわわわっ! 寒い! 寒いってば、早くドア閉めて!!」
そんなこんなで、知恵を借りに来た相手はアゲハの妖精少女でした。
寒いのが苦手なので、冬の間は森のほら穴にこもって過ごしているラルバ。そんなところへ、冷気をいっぱいに引き連れたチルノ飛び込んできたのですからたまったものではありません。
彼女は慌てて上着を着こんで毛布にくるまって、遠巻きにしながらチルノを迎えます。
「もう、急にどうしたの? こんなところまできて」
「ラルバ! サンタだよっ 大ちゃんに埋め合わせ!!」
そして何事かと尋ねかけるのですが…… 返事はさっぱり要領を得ないものでしかありませんでした。
ひとまず解ることは、大妖精になにかをやらかしてしまって、そのお詫びをしようとしているということのようです。ですが、今の言葉だけではさすがにすべてを理解することなんてできません。
「えっと…… とりあえず落ち着いてよ。はい、深呼吸」
「あ、うん。吸ってぇ、吐いてぇ……」
吸ってと言いながら息を吐いて、それからその逆のことをして。
やっていることはチグハグですが、それでもとりあえず多少は落ち着きを取り戻せたようです。チルノは何があったのか、何をしたのかをラルバに伝えていきます。
それでも、ちゃんと正しいところを伝えきるまでには何度か質問を繰り返す必要がありましたが……
「で…… 大ちゃんにサンタ役の代わりをしてあげたいってこと?」
「ん、何でもいいから大ちゃんを喜ばせてあげたいんだ」
ミノムシみたいにもこもこな恰好をして、口元に指をあてて思案顔をするラルバ。
妖精仲間たちの中では、大妖精と並んで珍しく常識的で物知りな少女だけあって、相談するならとっても頼りになる人材です。
視線を宙にさまよわせながら「うーん」と声をこぼして。それから彼女はポツリと考えを口にしていきます。
「やっぱり……プレゼント、かなぁ」
「そんなんでいいの?」
「うん、だって時季的に……ねぇ?」
「じゃあ、何を贈ればいい?」
そのアイデアはとっても単純なものでした。とはいえ具体的にどうしようかとなると、それはとても難しいもの。
あれが欲しいこれが欲しいというものをほとんど見せない大妖精を相手に、どんなプレゼントをすればいいというのでしょう。
「それは……大ちゃんの好きな物だよねぇ」
「大ちゃんの好きな物…… お花?」
「そうなんだよなぁ、いつも通りになっちゃうんだよなぁ……」
たしかに、彼女と言えばお花というのが真っ先に浮かぶのですが…… それは普段から誰かが渡していたりするものです。もっとほかにいいものがあれば、そちらを贈るのがいいというものでしょう。
ただし、その「もっといいもの」が思いつけばの話になってしまうわけなのですが。
「ラルバなら何贈る?」
「う、う~ん……」
これにはラルバも唸るしかできませんでした。
「私ならミカン詰め合わせとかが嬉しいけど……」
「ラルバの欲しい物はきいてないんだってば」
自分が欲しい物ということなら簡単です。もしくは、どんなものが好みなのかが周りに知れ渡っていたりするなら、それを贈ればいいでしょう。
でも、物を欲しがるところをあまり見せない大妖精相手ではどうしようもありません。
「た、たとえば…… 『プレゼントはあたい♡』とか?」
「んんん? なんかよくわかんない」
苦し紛れに出したアイデアは、純粋に理解できない顔で返されてしまいました。
さすがに詳しいことを説明する気にもなれず、もう一度答えの出せない思考に戻っていくラルバ。けれどいい考えは浮かびそうにありません。
そうなるといっそ、プレゼント作戦から離れてしまったほうがいいのかもしれません。
「プレゼントはあたい…… チルノがなにかになる…… そっか、それなら……」
そうして方向性を変えてみたのがよかったのでしょうか。迷路に入り込んでいた思考に、糸口が見えてきました。
「……あたい、プレゼントの箱に入るの?」
「それはもういいから……
あ、そうだ! ねえ、こういうのはどう? チルノがサンタさんになるってのとか!」
そうしてヒントがつかめれば、考えはどんどんいい方向に向かっていってくれます。まるで、絡まった糸が少しずつほどけていくように。キッカケさえつかめれば後はスムーズに進んでくれるというものなのです。
「チルノ、みんなを集めて! サニーたちのミズナラで集合ってことで!」
「んんん? と、とりあえずわかった。
でも、みんなってどのメンバーまで?」
「みんなって言ったらみんなだよ!
ピースも、リリーたちも、あとアズゥとロズリィも!」
「え、アズとロズも……? 大ちゃんには秘密でなんだよねぇ……」
名案に辿り着いて、目を大きく見開いて、早速実行に移し出していくラルバ。
そんな彼女が挙げるメンバーを聞いて、一瞬困惑していくチルノ。
でも、大妖精への埋め合わせのためには、たじろいでる場合ではありません。冬は外に出たがらないラルバを動かすのですから、大妖精の妹分ふたりを呼び出すことくらいは果たしてみせるくらいはしなくてはいけないというものです。
「さあ、作戦会議だよ!」
コートを着て、マフラーを巻いて、耳当てをつけて手袋をはめて。もっこもこの完全防備になりながら、ラルバはチルノを急かしたてるように外へと出て行くのでした。
三妖精のミズナラの樹に集まって、みんなで決めた作戦はこうでした。
まず、大妖精の妹分たちであるピンク色の少女ロズリィが、彼女を外へ連れ出します。そのまま夕方まで時間を稼いで、その間にみんなでパーティーの準備をする……
物を欲しがるよりも、みんなで一緒に遊んだりすることを望みそうな大妖精には、友だちみんなでクリスマスパーティーを開くのが一番じゃないかとラルバは考えたのです。
「ただいまー…… って、えっ!?」
「メリークリスマース!!」
家に帰るなり、みんなからの明るい声で迎えられて目を丸くさせる若草色の少女。
そんな彼女へ一斉にクラッカーが鳴らされて、賑やかな音とともに色とりどりのリボンや紙吹雪が降り注いでいきます。そんな中で、サニーは紐だけが抜けて不発になってしまったり、ルナのタイミングが遅れてしまったり、というハプニングがあったようですが……
「あの、えっと……?」
「びっくりした? チルノがね、みんなでパーティー開こうって言ったからさ」
アイデアを出した手柄を譲りながら、戸惑う少女にラルバが説明していきます。それを聞きながら目を白黒させている大妖精を、彼女の妹分であるアズゥとロズリィが席へと案内していきます。
テーブルに並んでいるのは、スターやリリーブラック、アズゥたちで作った料理やケーキたち。それを囲んで、買い物を担当したサニーとルナとリリーホワイト、飾り付けを担当したラルバやピースやニコニコと笑顔を見せています。
「チルノちゃんが…… みんな、ありがとう!」
パーティーは特別なことではありませんが、それでも驚かせることはできたのでしょう。
ようやく我に返った大妖精はニコリと笑顔を見せて、心からの言葉を口にしていきます。
その目の端には、少しだけ感激の涙がにじんでいます。どうやら作戦は上手くいってくれたようでした。
でも、これで終わりなんかじゃありません。クリスマスといえば、忘れてはいけないものがあるのですから。
「あれ……でも、チルノちゃんは?」
そしてその大役を任されているのは、事の発端であるチルノです。
彼女の姿が見えないことを訝しんで、若草色の少女が怪訝そうな顔を見せたときに……
「それじゃ、みんなで呼んでみよう!
せーの、サンタさーん!!」
ラルバの音頭に合わせて全員が一斉に声を重ねていき、それと同時に玄関が音をたてて開け放たれていきました。
そして……
「メリークリスマース! いい子にしてたみんなにはプレゼントだよー!」
少したどたどしい棒読みがちなセリフとともに、赤い服を着た白髪白髭の人物が姿をみせたのでした。
「サンタさん…… チルノちゃん?」
サンタを否定して悲しませてしまったのですから、そうしてしまった自分自身がサンタ役をやらなければいけないというものでしょう。ラルバの案を聞いて始めは渋ったいたチルノでしたが、引き受けないわけにはいきませんでした。
担いでいた大きな袋から、可愛らしく包まれた小箱を取り出して配っていく薄着のサンタさん。みんなで用意していたものをワイワイと配り分けて、それが全員に行き届いたところで、それから少女たちは席について乾杯を交わしていくのでした。
「あの、大ちゃん……」
サンタ姿のまま、あらたまった調子で声をかけていくチルノ。
「チルノちゃん」
それに、真っ直ぐ向き合って笑顔を返す大妖精。
「あたい、ちゃんと埋め合わせできたかな」
「十分だよ。ありがとう」
ラルバが考えた通り、みんなで楽しい時間を過ごせることを喜ぶだろうというのは当たっていたようです。大妖精は、心の底から楽しそうな表情を見せてくれるのでした。
「よかったー 大ちゃんにあんな思いさせたままじゃいられないもんね」
できれば自分だけでこれを考えつけられればよかったのですけれど、たぶんそれはとても無理なことだったでしょう。それなら、いい相談役を選び出せたことに満足しておけばいいのかもしれません。
けれどそれよりもなによりも、大切な友だちに心からの笑顔を浮かべさせることができたということ…… それが叶ったということが、とても嬉しいことでした。
「チルノちゃん、食べよっか。
みんなで準備してくれたんだもんね」
料理をとりわけるスターやリリーブラック、アズゥを手伝おうと席を立つ大妖精。小綺麗に盛り付けられたお皿をふたりで手にして笑い合って、そして温かい料理を口にしていきます。
苦い思いをしたからでしょうか。こうして一緒に食べるごちそうは、とてもとても美味しく感じられるものでした。
ひときわ大きな樹に開いた、妖精だけが見ることのできる窓。そこからは楽し気な声と温かい声がこぼれてきています。
白く細かいものが舞いだしている雲の間で、なにかがゆっくりと滑っていくのが見えるのは気のせいなのでしょうか。鈴の音を残しながら進んでいくそれを、森の動物たちだけが静かに見上げていたのでした……
若草色の髪をした名の無い妖精少女が、なにやら書き物をしていました。
「やっほー ……って、あれ? 大ちゃん、なにしてるの?」
「あ、チルノちゃん」
鉛筆を走らせては止めて、しばらく考え顔をしてからまた手を動かして。そんなことをしていた少女……大妖精が、来客の声に振り返ります。
外の冷たい空気をまといながらやってきたのは、元気いっぱいそうな薄着姿をした氷の妖精です。気心の知れた間柄である彼女は、気楽な様子でトコトコと大妖精に歩みよって、書いていたものを覗き込んでいきます。
「え~と…… 『サンタさんへ、いつもプレゼントありがとうございます。今年もみんなと仲良くすごしてきました』……?」
「うん。サンタさんにお手紙書こうと思って」
書きかけのものを、誰かに送るものを見られるというのは少し恥ずかしいものです。若草色の少女は照れくさそうにしながら、あらためて鉛筆をとって続きを書き始めていきます。
ところが……
「大ちゃんってばお子様だなぁ。サンタなんているわけないじゃん」
氷の少女は、自分のほうが物知りだと言いたげな表情で、そんなことを言い出してしまうのでした。
「………」
ピタリと止まる手。そのまま何も言わない少女。
さすがにマズいことをしてしまったと気付いたのでしょう。得意げだったチルノはハッとした顔をして、恐る恐る友だちの様子をうかがっていきます。
「ひどいよ」
そこへ向けられたのは、短いながらも鋭い非難の声でした。
「私だって知ってるよ。でも、もしも本当にいてくれたとしたら楽しいかもって……そう思って書いてたのに、どうしてそんなこと言うの?」
「う、あ……ごめん……」
涙をいっぱいに浮かべて口をキュッと閉じ合わせて。声を震わせながら見上げてくる若草色の少女。その視線に思わずたじろぐチルノ。
色んなことを知っている大妖精に、自分だって物知りなんだってところを見せようとしたのが失敗でした。そんなことをしようとしたせいで、大事な友だちに悲しい思いをさせてしまった……
いくらやんちゃなチルノでも、こればっかりは罪悪感を覚えずにいられません。
「ん……大丈夫。私も、子どもっぽいことしてたよね」
「………」
大妖精は穏やかな声に戻って笑ってくれましたが、手紙を書く手は完全に止まってしまっていました。さすがにこんな気持ちでは続きを書くことなんて無理というものなのですから。
「えっと、あの、その……あたい……」
こうなってしまったら、なにかお詫びをしないと気が済みません。悪いことをしてしまったら、ちゃんと謝らないといけないのです。ゴメンのひと言だけで済ませていいわけがありません。
「大ちゃん。あたい、ちゃんと埋め合わせするから!」
そうとなったら立ち尽くしている場合ではないというもの。
氷の妖精は言うが早いか、返事も待たずにドタドタと外へ飛び出していきました。
「あっ、チルノちゃん……!?」
そんな慌ただしい足音を、若草色の少女がポカンとした顔で見送っていくのでした。
「ラルバー! おーい、ラルバー!」
「わわわわっ! 寒い! 寒いってば、早くドア閉めて!!」
そんなこんなで、知恵を借りに来た相手はアゲハの妖精少女でした。
寒いのが苦手なので、冬の間は森のほら穴にこもって過ごしているラルバ。そんなところへ、冷気をいっぱいに引き連れたチルノ飛び込んできたのですからたまったものではありません。
彼女は慌てて上着を着こんで毛布にくるまって、遠巻きにしながらチルノを迎えます。
「もう、急にどうしたの? こんなところまできて」
「ラルバ! サンタだよっ 大ちゃんに埋め合わせ!!」
そして何事かと尋ねかけるのですが…… 返事はさっぱり要領を得ないものでしかありませんでした。
ひとまず解ることは、大妖精になにかをやらかしてしまって、そのお詫びをしようとしているということのようです。ですが、今の言葉だけではさすがにすべてを理解することなんてできません。
「えっと…… とりあえず落ち着いてよ。はい、深呼吸」
「あ、うん。吸ってぇ、吐いてぇ……」
吸ってと言いながら息を吐いて、それからその逆のことをして。
やっていることはチグハグですが、それでもとりあえず多少は落ち着きを取り戻せたようです。チルノは何があったのか、何をしたのかをラルバに伝えていきます。
それでも、ちゃんと正しいところを伝えきるまでには何度か質問を繰り返す必要がありましたが……
「で…… 大ちゃんにサンタ役の代わりをしてあげたいってこと?」
「ん、何でもいいから大ちゃんを喜ばせてあげたいんだ」
ミノムシみたいにもこもこな恰好をして、口元に指をあてて思案顔をするラルバ。
妖精仲間たちの中では、大妖精と並んで珍しく常識的で物知りな少女だけあって、相談するならとっても頼りになる人材です。
視線を宙にさまよわせながら「うーん」と声をこぼして。それから彼女はポツリと考えを口にしていきます。
「やっぱり……プレゼント、かなぁ」
「そんなんでいいの?」
「うん、だって時季的に……ねぇ?」
「じゃあ、何を贈ればいい?」
そのアイデアはとっても単純なものでした。とはいえ具体的にどうしようかとなると、それはとても難しいもの。
あれが欲しいこれが欲しいというものをほとんど見せない大妖精を相手に、どんなプレゼントをすればいいというのでしょう。
「それは……大ちゃんの好きな物だよねぇ」
「大ちゃんの好きな物…… お花?」
「そうなんだよなぁ、いつも通りになっちゃうんだよなぁ……」
たしかに、彼女と言えばお花というのが真っ先に浮かぶのですが…… それは普段から誰かが渡していたりするものです。もっとほかにいいものがあれば、そちらを贈るのがいいというものでしょう。
ただし、その「もっといいもの」が思いつけばの話になってしまうわけなのですが。
「ラルバなら何贈る?」
「う、う~ん……」
これにはラルバも唸るしかできませんでした。
「私ならミカン詰め合わせとかが嬉しいけど……」
「ラルバの欲しい物はきいてないんだってば」
自分が欲しい物ということなら簡単です。もしくは、どんなものが好みなのかが周りに知れ渡っていたりするなら、それを贈ればいいでしょう。
でも、物を欲しがるところをあまり見せない大妖精相手ではどうしようもありません。
「た、たとえば…… 『プレゼントはあたい♡』とか?」
「んんん? なんかよくわかんない」
苦し紛れに出したアイデアは、純粋に理解できない顔で返されてしまいました。
さすがに詳しいことを説明する気にもなれず、もう一度答えの出せない思考に戻っていくラルバ。けれどいい考えは浮かびそうにありません。
そうなるといっそ、プレゼント作戦から離れてしまったほうがいいのかもしれません。
「プレゼントはあたい…… チルノがなにかになる…… そっか、それなら……」
そうして方向性を変えてみたのがよかったのでしょうか。迷路に入り込んでいた思考に、糸口が見えてきました。
「……あたい、プレゼントの箱に入るの?」
「それはもういいから……
あ、そうだ! ねえ、こういうのはどう? チルノがサンタさんになるってのとか!」
そうしてヒントがつかめれば、考えはどんどんいい方向に向かっていってくれます。まるで、絡まった糸が少しずつほどけていくように。キッカケさえつかめれば後はスムーズに進んでくれるというものなのです。
「チルノ、みんなを集めて! サニーたちのミズナラで集合ってことで!」
「んんん? と、とりあえずわかった。
でも、みんなってどのメンバーまで?」
「みんなって言ったらみんなだよ!
ピースも、リリーたちも、あとアズゥとロズリィも!」
「え、アズとロズも……? 大ちゃんには秘密でなんだよねぇ……」
名案に辿り着いて、目を大きく見開いて、早速実行に移し出していくラルバ。
そんな彼女が挙げるメンバーを聞いて、一瞬困惑していくチルノ。
でも、大妖精への埋め合わせのためには、たじろいでる場合ではありません。冬は外に出たがらないラルバを動かすのですから、大妖精の妹分ふたりを呼び出すことくらいは果たしてみせるくらいはしなくてはいけないというものです。
「さあ、作戦会議だよ!」
コートを着て、マフラーを巻いて、耳当てをつけて手袋をはめて。もっこもこの完全防備になりながら、ラルバはチルノを急かしたてるように外へと出て行くのでした。
三妖精のミズナラの樹に集まって、みんなで決めた作戦はこうでした。
まず、大妖精の妹分たちであるピンク色の少女ロズリィが、彼女を外へ連れ出します。そのまま夕方まで時間を稼いで、その間にみんなでパーティーの準備をする……
物を欲しがるよりも、みんなで一緒に遊んだりすることを望みそうな大妖精には、友だちみんなでクリスマスパーティーを開くのが一番じゃないかとラルバは考えたのです。
「ただいまー…… って、えっ!?」
「メリークリスマース!!」
家に帰るなり、みんなからの明るい声で迎えられて目を丸くさせる若草色の少女。
そんな彼女へ一斉にクラッカーが鳴らされて、賑やかな音とともに色とりどりのリボンや紙吹雪が降り注いでいきます。そんな中で、サニーは紐だけが抜けて不発になってしまったり、ルナのタイミングが遅れてしまったり、というハプニングがあったようですが……
「あの、えっと……?」
「びっくりした? チルノがね、みんなでパーティー開こうって言ったからさ」
アイデアを出した手柄を譲りながら、戸惑う少女にラルバが説明していきます。それを聞きながら目を白黒させている大妖精を、彼女の妹分であるアズゥとロズリィが席へと案内していきます。
テーブルに並んでいるのは、スターやリリーブラック、アズゥたちで作った料理やケーキたち。それを囲んで、買い物を担当したサニーとルナとリリーホワイト、飾り付けを担当したラルバやピースやニコニコと笑顔を見せています。
「チルノちゃんが…… みんな、ありがとう!」
パーティーは特別なことではありませんが、それでも驚かせることはできたのでしょう。
ようやく我に返った大妖精はニコリと笑顔を見せて、心からの言葉を口にしていきます。
その目の端には、少しだけ感激の涙がにじんでいます。どうやら作戦は上手くいってくれたようでした。
でも、これで終わりなんかじゃありません。クリスマスといえば、忘れてはいけないものがあるのですから。
「あれ……でも、チルノちゃんは?」
そしてその大役を任されているのは、事の発端であるチルノです。
彼女の姿が見えないことを訝しんで、若草色の少女が怪訝そうな顔を見せたときに……
「それじゃ、みんなで呼んでみよう!
せーの、サンタさーん!!」
ラルバの音頭に合わせて全員が一斉に声を重ねていき、それと同時に玄関が音をたてて開け放たれていきました。
そして……
「メリークリスマース! いい子にしてたみんなにはプレゼントだよー!」
少したどたどしい棒読みがちなセリフとともに、赤い服を着た白髪白髭の人物が姿をみせたのでした。
「サンタさん…… チルノちゃん?」
サンタを否定して悲しませてしまったのですから、そうしてしまった自分自身がサンタ役をやらなければいけないというものでしょう。ラルバの案を聞いて始めは渋ったいたチルノでしたが、引き受けないわけにはいきませんでした。
担いでいた大きな袋から、可愛らしく包まれた小箱を取り出して配っていく薄着のサンタさん。みんなで用意していたものをワイワイと配り分けて、それが全員に行き届いたところで、それから少女たちは席について乾杯を交わしていくのでした。
「あの、大ちゃん……」
サンタ姿のまま、あらたまった調子で声をかけていくチルノ。
「チルノちゃん」
それに、真っ直ぐ向き合って笑顔を返す大妖精。
「あたい、ちゃんと埋め合わせできたかな」
「十分だよ。ありがとう」
ラルバが考えた通り、みんなで楽しい時間を過ごせることを喜ぶだろうというのは当たっていたようです。大妖精は、心の底から楽しそうな表情を見せてくれるのでした。
「よかったー 大ちゃんにあんな思いさせたままじゃいられないもんね」
できれば自分だけでこれを考えつけられればよかったのですけれど、たぶんそれはとても無理なことだったでしょう。それなら、いい相談役を選び出せたことに満足しておけばいいのかもしれません。
けれどそれよりもなによりも、大切な友だちに心からの笑顔を浮かべさせることができたということ…… それが叶ったということが、とても嬉しいことでした。
「チルノちゃん、食べよっか。
みんなで準備してくれたんだもんね」
料理をとりわけるスターやリリーブラック、アズゥを手伝おうと席を立つ大妖精。小綺麗に盛り付けられたお皿をふたりで手にして笑い合って、そして温かい料理を口にしていきます。
苦い思いをしたからでしょうか。こうして一緒に食べるごちそうは、とてもとても美味しく感じられるものでした。
ひときわ大きな樹に開いた、妖精だけが見ることのできる窓。そこからは楽し気な声と温かい声がこぼれてきています。
白く細かいものが舞いだしている雲の間で、なにかがゆっくりと滑っていくのが見えるのは気のせいなのでしょうか。鈴の音を残しながら進んでいくそれを、森の動物たちだけが静かに見上げていたのでした……
妖精たちがクリスマスを楽しんでいて読んでいて暖かい気分になりました。