「例えばの話。読経妖怪となった山彦に、記憶と存在の連続性はあるのでしょうか?」
勿論、これは例え話。決して現実の話じゃないし、私達に関わる話でもない。
八咫烏になったお空にも、サトリじゃなくなった私にも、全然、関係ない話。
なーんて。
そう断言できたなら、本当に良かったのに、ね。
地霊殿へと久々に帰ってきた私が目にしたのは、すっかり様変わりしたお空の姿だった。
腕に棒、胸元に宝石。星空柄のマントに、何より、見違えるほどのその背丈。つい前までは私と変わらない背丈だったのに、今ではうちの誰もが見上げる巨体だった。
間欠泉異変。お空が火力を暴走させて、お燐が地上に助けを呼んだ、一連の事象。お空が姿を変えた経緯とともにその話を聞かされて、私はははあと呆れることしかできなかった。精々うちの中だけで収まるような話なのだと思っていたのに。
「でも……そうだね、みんな無事で良かったよ」
「良かったです!」
「良かないよ!」
殆ど反射で言い放ったお空をお燐の拳骨が襲った。一歩間違えばどうなっていたことか、あんたの脳髄がすっぽり書き換えられてたのかも知れないんだよと、そのまま懇々と説教を垂れる。流石にお燐はよく分かっているらしい。怨霊のエキスパートなだけあって、頭を乗っ取られた妖怪の末路をよくよく知っているのだろう。
しゅんと項垂れてお燐の弁を受け止めているお空を眺めて、いつも通りの光景に私は少し安堵した。普段通りにできているなら、多分だけどそれが一番良い。これなら一先ずは大丈夫かな、と私は一つ頷いて、二人を放ってその場を離れた。お燐にしてもお姉ちゃんにしても、説教は結構、長いから。
大丈夫なわけがないのにね。
姿が変わって、お空は下向きになった。たぶんそのことに気付いているのは、私ぐらいのものだと思う。お姉ちゃんの前でだと、お空にそんなことを考える暇は全く無い。お燐は単に、ぼんやりするときの顔の向きが少し変わった、ぐらいの理解しかしていないと思う。
仕方ないことなんだとも思う。お空の頭の中のプロセッサが食い潰されているなんてこと、私ぐらいにしか見えないだろうし。
これは私の持論だけど、ぼんやりするって行為には二つのパターンが存在する。
上を向きながらぼんやりするのは、外部の情報を取り込む行為。頭をなるべく空っぽにして、映る視界を広く取って、外からの刺激を一身に浴びる。その逆に、下を向くのは内部の情報を深める行為。視界を狭めて、刺激を断って、脳髄の処理機構を全部、考えごとに回すもの。私やお姉ちゃん以外からすれば、傍目にはまるで同じように見えるだろうけど、本質的には全く逆の意味がある。
お空のぼんやりは、前まではずっと前者だった。何も考えず、ずっとぼんやり上を見ていた。
でも今は、下を見ている。その目は何も映さずに、ただただ何かを考えている。
その考えていることについて、私には心当たりがあった。
きっと合っていると思う。あれは本当に、苦しいものだから。
「私が本当に私なのか、最近自信がなくなるんです」
お空はそう言って、その心細さを私はよくよく知っていたから、頷いて続きを促した。
こういう時に、私という存在は便利だ。地霊殿という内輪にいながら、微妙に外れた特殊な立ち位置。管理者の妹君ながら、定まった立場を持たない存在。神出鬼没で気配も希薄、誰かに気取られることもない。
あと、ついでにこれは秘密の話。私はこれでも、内緒ごとには口が堅い。私は一種のイマジナリーフレンド。友人との約束は守るのだ。
私に促されて、お空は再び口を開いた。そこからは濁流のようだった。私の言葉を挟む余地もなかった。
「前まで大好きだったお菓子、昔お気に入りだった読み聞かせ。私が八咫烏を降ろした時から、好みががらっと変わりました。今の私はもう砂糖菓子よりクッキーが好きだし、怖い話だって嫌いじゃなくなった。でも変わっただけならまだ良いんです。初めてさとり様にお菓子を貰ったときの感動、眠れなくなってお燐の布団にもぐり込んだときの暖かさ。変わってしまった好みに連なる思い出が、どんどん曖昧になっていくんです。怖い。怖いです。私がどんどん私から離れていっている気がして。さとり様を、お燐を騙して、成り替わっているような気がして。私は。私は、どうすれば」
「正直ね」
流れが途切れたところに一言挟んだ。
「私は、受け入れるしかないと思ってる」
お空が顔を上げたのを見て、私はゆっくり言葉を続ける。
「一番古い私の記憶は、私の身体の世話をするお姉ちゃんの姿。どうかどうか目を覚まして、って祈るみたいに呟いてて、その時にはもう私の三つ目の方の眼は潰れていたの」
それは、誰にも言ったことがない、ほんとのほんとに内緒な話。
お姉ちゃんには絶対伝えちゃいけない、私の一番重い秘密。
「そもそもおかしい話なんだよね。瞳を潰して他人の心を読めなくなったサトリ妖怪が、そのまま平然と生きてるなんて」
お空がはっとした顔をして、それから周囲を落ち着かない様子で見回した。私の弁の重さを理解しちゃったのだろう。彼女が賢くなったというのは本当のことだったんだ、と私はどこか場違いな感想を抱いていた。
「仮説はあるの。私が自由に動けるようになったのは、目が覚めてから恐らくだいたい百年ぐらいが経った頃。思うに、今ここにいる私というのは「古明地こいし」の屍に入った付喪神のようなものなんじゃないかな、って」
「それじゃあ」
「うん」頷き一つ。「私はたぶん、お姉ちゃんの思ってる「古明地こいし」とは別の存在なんだろうね」
私の言葉にお空は震えていた。たぶん、恐怖で。
「なら……なら、こいし様は、私もそうなるって言いたいんですか」
「んなわけないじゃん……」
流石にない。飛躍が過ぎる。
そもそもこれは、前提の話だ。私も近しい立場にいるというだけの、至極単純な、前提の話。
「私は別物になっちゃったし、お空も変容しつつある。私達はどちらも皆を騙しているようで、罪悪感を感じてる。だけど、それでも私達は、このまま騙し続ける他ないでしょ?」
そりゃ私だって最初の頃は、そのことに随分悩まされた。正直に言えば、未だにずっと悩んでいる。悩まなければならないのだとも思っている。究極的には、私は偽物なのだから。
でもこれは、それとは完全に独立した、全く別の話なわけで。
「私の場合はお姉ちゃんに大事にされていたからこそ、今はこうして立って話せているわけなんだけど。それで、そのことはお空も同じだよね? お燐がわざわざ危険を冒して地上に助けを求めたからこそ、地上を焼き払っちゃう前に止めて貰えたわけなんだから」
もしお姉ちゃんが途中で私の身体の世話を、諦めて止めていたならば。きっと私は動けるようになる前に、朽ちて消え去っていただろう。
お空の場合も大概だ。仮に本当に地上へ火を放っていたら、きっと弾幕ごっこでの退治だけでは終わらなかったんじゃないかと思う。規模によっては、それこそ殺されていたかもしれない。
だから、真贋なんて抜きにして、私達は皆のおかげで生き永らえさせて貰っている。そう言っても、過言じゃないはずなのだ。
だから。
「だから、私達には恩返しする義務がある。みんなを騙してでも、悲しませない責務がある。仮にここにいるお空が偽物だったとして、自白したならどこかから本物が現れる、なんてことになる筈もないもの。そんなことをするぐらいなら、私達の方がその秘密を抱え込んでいるべきでしょう?」
たとえ、その秘密にどれだけ悩まされようとも、なんて。
最後の言葉は続けなかったけど、そんなことはもう私もお空も、よくよく理解できていた。
「そう……そうですね。その通りだと思います」
お空は頷いて、「ちょっと迂遠すぎる気もしますけど」と付け加えた。正直それは私も思ってる。
ただ、それは仕方ないのだ。一人でずっと悩んでいると、無駄に複雑な袋小路へ迷い込んでしまうものなのだから。
そう口にしようとしたところで、三時の鐘の音が鳴り響いた。続いて耳に届いたのは、お燐のお空を探す声。
「さとり様がおやつにスコーン焼いたんだって! 早く来ないと全部あたいが食べちゃうよ!」
「分かった、すぐ行く!」
お空はぱっと顔を輝かせて、飛び上がらんばかりの勢いで立ち上がった。
「……どうしたの? すぐ行くって言ったのに」
「いえ、その」
なのにそのまま立ち止まって、ぽんと手を叩いたものだから、変なことをするなと私は思ったのだけど。
「さっきの話なんですが、冷静になって思ったんです。私のお燐やさとり様を大好きな気持ちは、少なくとも本物なんじゃないかなって」
「……あー、うん」
そんなことを純真な目で言われては、私はもはや諸手を上げて降参する他なかった。
いや、本当にその通り。どんなに嗜好が変わったって、家族を想う気持ちは本物。それは心底正しい理屈で、いっそ正しすぎて眩しいぐらいだ。
迷いから覚めれば一発で正しい答えを出せるお空は本当に賢くなったな、と思う。それと同時に、向こう百年を超える時間を考えるのに費やしてきて、未だその答えに行きつけなかった私は、正直ちょっと情けない。
「……ほーんと、本物は違うわー」
「こいし様だって、私にとっては本物の家族ですよ?」
「うんうん、ありがとねー」
それが同情だったならまだ、救いようがあったんだけどなあ。
なんて思っちゃったから、私はお空のその弁に、肩を竦めて見せるしかなかった。
勿論、これは例え話。決して現実の話じゃないし、私達に関わる話でもない。
八咫烏になったお空にも、サトリじゃなくなった私にも、全然、関係ない話。
なーんて。
そう断言できたなら、本当に良かったのに、ね。
地霊殿へと久々に帰ってきた私が目にしたのは、すっかり様変わりしたお空の姿だった。
腕に棒、胸元に宝石。星空柄のマントに、何より、見違えるほどのその背丈。つい前までは私と変わらない背丈だったのに、今ではうちの誰もが見上げる巨体だった。
間欠泉異変。お空が火力を暴走させて、お燐が地上に助けを呼んだ、一連の事象。お空が姿を変えた経緯とともにその話を聞かされて、私はははあと呆れることしかできなかった。精々うちの中だけで収まるような話なのだと思っていたのに。
「でも……そうだね、みんな無事で良かったよ」
「良かったです!」
「良かないよ!」
殆ど反射で言い放ったお空をお燐の拳骨が襲った。一歩間違えばどうなっていたことか、あんたの脳髄がすっぽり書き換えられてたのかも知れないんだよと、そのまま懇々と説教を垂れる。流石にお燐はよく分かっているらしい。怨霊のエキスパートなだけあって、頭を乗っ取られた妖怪の末路をよくよく知っているのだろう。
しゅんと項垂れてお燐の弁を受け止めているお空を眺めて、いつも通りの光景に私は少し安堵した。普段通りにできているなら、多分だけどそれが一番良い。これなら一先ずは大丈夫かな、と私は一つ頷いて、二人を放ってその場を離れた。お燐にしてもお姉ちゃんにしても、説教は結構、長いから。
大丈夫なわけがないのにね。
姿が変わって、お空は下向きになった。たぶんそのことに気付いているのは、私ぐらいのものだと思う。お姉ちゃんの前でだと、お空にそんなことを考える暇は全く無い。お燐は単に、ぼんやりするときの顔の向きが少し変わった、ぐらいの理解しかしていないと思う。
仕方ないことなんだとも思う。お空の頭の中のプロセッサが食い潰されているなんてこと、私ぐらいにしか見えないだろうし。
これは私の持論だけど、ぼんやりするって行為には二つのパターンが存在する。
上を向きながらぼんやりするのは、外部の情報を取り込む行為。頭をなるべく空っぽにして、映る視界を広く取って、外からの刺激を一身に浴びる。その逆に、下を向くのは内部の情報を深める行為。視界を狭めて、刺激を断って、脳髄の処理機構を全部、考えごとに回すもの。私やお姉ちゃん以外からすれば、傍目にはまるで同じように見えるだろうけど、本質的には全く逆の意味がある。
お空のぼんやりは、前まではずっと前者だった。何も考えず、ずっとぼんやり上を見ていた。
でも今は、下を見ている。その目は何も映さずに、ただただ何かを考えている。
その考えていることについて、私には心当たりがあった。
きっと合っていると思う。あれは本当に、苦しいものだから。
「私が本当に私なのか、最近自信がなくなるんです」
お空はそう言って、その心細さを私はよくよく知っていたから、頷いて続きを促した。
こういう時に、私という存在は便利だ。地霊殿という内輪にいながら、微妙に外れた特殊な立ち位置。管理者の妹君ながら、定まった立場を持たない存在。神出鬼没で気配も希薄、誰かに気取られることもない。
あと、ついでにこれは秘密の話。私はこれでも、内緒ごとには口が堅い。私は一種のイマジナリーフレンド。友人との約束は守るのだ。
私に促されて、お空は再び口を開いた。そこからは濁流のようだった。私の言葉を挟む余地もなかった。
「前まで大好きだったお菓子、昔お気に入りだった読み聞かせ。私が八咫烏を降ろした時から、好みががらっと変わりました。今の私はもう砂糖菓子よりクッキーが好きだし、怖い話だって嫌いじゃなくなった。でも変わっただけならまだ良いんです。初めてさとり様にお菓子を貰ったときの感動、眠れなくなってお燐の布団にもぐり込んだときの暖かさ。変わってしまった好みに連なる思い出が、どんどん曖昧になっていくんです。怖い。怖いです。私がどんどん私から離れていっている気がして。さとり様を、お燐を騙して、成り替わっているような気がして。私は。私は、どうすれば」
「正直ね」
流れが途切れたところに一言挟んだ。
「私は、受け入れるしかないと思ってる」
お空が顔を上げたのを見て、私はゆっくり言葉を続ける。
「一番古い私の記憶は、私の身体の世話をするお姉ちゃんの姿。どうかどうか目を覚まして、って祈るみたいに呟いてて、その時にはもう私の三つ目の方の眼は潰れていたの」
それは、誰にも言ったことがない、ほんとのほんとに内緒な話。
お姉ちゃんには絶対伝えちゃいけない、私の一番重い秘密。
「そもそもおかしい話なんだよね。瞳を潰して他人の心を読めなくなったサトリ妖怪が、そのまま平然と生きてるなんて」
お空がはっとした顔をして、それから周囲を落ち着かない様子で見回した。私の弁の重さを理解しちゃったのだろう。彼女が賢くなったというのは本当のことだったんだ、と私はどこか場違いな感想を抱いていた。
「仮説はあるの。私が自由に動けるようになったのは、目が覚めてから恐らくだいたい百年ぐらいが経った頃。思うに、今ここにいる私というのは「古明地こいし」の屍に入った付喪神のようなものなんじゃないかな、って」
「それじゃあ」
「うん」頷き一つ。「私はたぶん、お姉ちゃんの思ってる「古明地こいし」とは別の存在なんだろうね」
私の言葉にお空は震えていた。たぶん、恐怖で。
「なら……なら、こいし様は、私もそうなるって言いたいんですか」
「んなわけないじゃん……」
流石にない。飛躍が過ぎる。
そもそもこれは、前提の話だ。私も近しい立場にいるというだけの、至極単純な、前提の話。
「私は別物になっちゃったし、お空も変容しつつある。私達はどちらも皆を騙しているようで、罪悪感を感じてる。だけど、それでも私達は、このまま騙し続ける他ないでしょ?」
そりゃ私だって最初の頃は、そのことに随分悩まされた。正直に言えば、未だにずっと悩んでいる。悩まなければならないのだとも思っている。究極的には、私は偽物なのだから。
でもこれは、それとは完全に独立した、全く別の話なわけで。
「私の場合はお姉ちゃんに大事にされていたからこそ、今はこうして立って話せているわけなんだけど。それで、そのことはお空も同じだよね? お燐がわざわざ危険を冒して地上に助けを求めたからこそ、地上を焼き払っちゃう前に止めて貰えたわけなんだから」
もしお姉ちゃんが途中で私の身体の世話を、諦めて止めていたならば。きっと私は動けるようになる前に、朽ちて消え去っていただろう。
お空の場合も大概だ。仮に本当に地上へ火を放っていたら、きっと弾幕ごっこでの退治だけでは終わらなかったんじゃないかと思う。規模によっては、それこそ殺されていたかもしれない。
だから、真贋なんて抜きにして、私達は皆のおかげで生き永らえさせて貰っている。そう言っても、過言じゃないはずなのだ。
だから。
「だから、私達には恩返しする義務がある。みんなを騙してでも、悲しませない責務がある。仮にここにいるお空が偽物だったとして、自白したならどこかから本物が現れる、なんてことになる筈もないもの。そんなことをするぐらいなら、私達の方がその秘密を抱え込んでいるべきでしょう?」
たとえ、その秘密にどれだけ悩まされようとも、なんて。
最後の言葉は続けなかったけど、そんなことはもう私もお空も、よくよく理解できていた。
「そう……そうですね。その通りだと思います」
お空は頷いて、「ちょっと迂遠すぎる気もしますけど」と付け加えた。正直それは私も思ってる。
ただ、それは仕方ないのだ。一人でずっと悩んでいると、無駄に複雑な袋小路へ迷い込んでしまうものなのだから。
そう口にしようとしたところで、三時の鐘の音が鳴り響いた。続いて耳に届いたのは、お燐のお空を探す声。
「さとり様がおやつにスコーン焼いたんだって! 早く来ないと全部あたいが食べちゃうよ!」
「分かった、すぐ行く!」
お空はぱっと顔を輝かせて、飛び上がらんばかりの勢いで立ち上がった。
「……どうしたの? すぐ行くって言ったのに」
「いえ、その」
なのにそのまま立ち止まって、ぽんと手を叩いたものだから、変なことをするなと私は思ったのだけど。
「さっきの話なんですが、冷静になって思ったんです。私のお燐やさとり様を大好きな気持ちは、少なくとも本物なんじゃないかなって」
「……あー、うん」
そんなことを純真な目で言われては、私はもはや諸手を上げて降参する他なかった。
いや、本当にその通り。どんなに嗜好が変わったって、家族を想う気持ちは本物。それは心底正しい理屈で、いっそ正しすぎて眩しいぐらいだ。
迷いから覚めれば一発で正しい答えを出せるお空は本当に賢くなったな、と思う。それと同時に、向こう百年を超える時間を考えるのに費やしてきて、未だその答えに行きつけなかった私は、正直ちょっと情けない。
「……ほーんと、本物は違うわー」
「こいし様だって、私にとっては本物の家族ですよ?」
「うんうん、ありがとねー」
それが同情だったならまだ、救いようがあったんだけどなあ。
なんて思っちゃったから、私はお空のその弁に、肩を竦めて見せるしかなかった。
対して人間は新しい要素を取り入れ続けつつ精神的にも肉体的にも更新を続けていきます。でもそれはあくまで生存活動の一環であって、テセウス的命題が生命活動そのものを脅かす訳ではなく、ある種の(学問を習得する意味での)豊かさを得るための手段にとどまるものです。
妖怪は自己認識によって寿命へ極端に変化が生じる、というのも東方の設定です。その意味では作品の冒頭の、”下向きになったお空”は大変危険な状態だったのかもしれません。まだまだ掘り下げられそうで、広げられそうで、面白い作品の土台設定ですね。東方設定に詳しながら中々無い独創性のある着眼点だと感じました!
ところで余談になりますが、町で塀や電線などに止まっている野良のカラスはよく首を90度傾けるしぐさをします。これは鳥類は頭の構造上視界が左右には広く上下には狭い為に、上下の観察域を広げる為の動きと言われています。ですが人間のしぐさに照らし合わせると「あれ?今何考えてたっけなぁ?」って風にも見えますよね。"上向きと下向きが同時に存在するお空"ですね。
楽しめました!次回作も楽しみにしています!
そして既に終わっている古明地こいし。
重いテーマなのにすっきり書かれていて読みやすかったです。
さとりが思っているこいしとは別の存在なんだって思っているこいしちゃん、いとおしい。