「高いところに行きたいわ。」
大学内のサークルが雑居する古びた部屋で時間を持て余していた時、メリーは突然切り出してきた。
「高いとこって、一体突然どうしたってのよ。」
「高いところは高いところよ。この街は首都だってのに、古くからの慣習とやらでどの建物も低いんだもの。この辺りじゃあの時計台くらいが一番高いんじゃない?東側の山を登っても木で景色が隠れちゃってるし、なんかもっと眺めの良いところに行きたいわ。」
メリーにしては珍しく思える提案だ。結界の綻びが見えたとか、夢で何かを見たとか特にそういう訳ではないらしい。それなのに晩秋のこの寒い中、わざわざ外に出かけて景色の良いところに行きたいだなんて。何か思うところがあるのだろうか。そうであったなら、ただ寒いという理由であしらってしまう訳にもいかない。
「そうねぇ、じゃあちょっと西の方に行くことになるけど、古墳跡なんていいんじゃないかな?古墳だから小高い丘になってるし、墓に行くって意味じゃ我が秘封倶楽部の活動にも相応しいと言えなくもないわ。」
「蓮子、そこって本当に景色良いの?」
「んー保証はできないわね。私も実際に行くのは初めてだもの。まあでも昔の豪族とやらがわざわざ作らせた墓だもの、そんな景色の悪いところに埋まろうだなんて思わないはずよ。」
若干不安ではあったが私たちはバスに乗って西に向かい、日が落ちる前にその景色を拝んでみることにした。小高い丘の東側に着いてみると、そこには学校と住宅街が広がっていて、丘への登り口がずいぶんと分かりにくくなっている。やっとのことで私たちは丘のすぐ傍を流れる小川を渡る橋を見つけて、入口を通り丘を登り始めた。
雨風に晒されて傷んだ案内板を見ると、大方二通りの登り方があるらしく、最短で頂上に行くルートと、遠回りするルートがある。遠回りする方には『こもれびのひろば』という文字があり、どうも憩いの場になっているらしい。
「どうしましょうね蓮子?『こもれび』と言ってるくらいだから、きっと沢山の木が綺麗に植えられてるんじゃないかしら?」
「それはそうだろうけど、ひとまず今回の目的は高いところの景色を拝むことだから、まずは頂上に行って遠回りのルートは帰りに寄ることにしましょう。」
私たちは近道ルートを通って頂上を目指すことにした。この丘はさほど人の住む所から離れていないのに、頂上までのルートはかなり草や木々が深い。常緑樹やシダ植物が鬱蒼としているだけでなく、一緒に生えている落葉樹の落ち葉もかなり積もっている。乾いた葉がカラカラと落ちる音や幾種類もの野鳥の声が聞こえ、この空間は人の世界からかなり隔離されているようだ。ブーツの足元は滑りやすく、高く登れば登るほど、重力に引っ張られて転げ落ちそうになる。
やっとのことで鬱蒼とした草木を抜け、開けたところに出た。目の前には十段ほどの階段が残っていて、どうやらこれを登りきると頂上らしい。
「着いたわね!これは絶景スポットに違いないわ!」
そう言っててメリーは足元に注意しつつも、待ちきれないように早歩きで階段を登っていった。
「蓮子!これは想像以上よ!ねえ早く見て!」
そんなにすごいのか。私も足元に気を付けながら急いで頂上に登った。
「・・・これは、すごいわね。」
溜息が出た。鬱蒼とした森とは打って変わって、とんでもなく開けた絶景だった。丘の南から西、北の方まで全部が見渡せる。傾いてきた日が秋の空を真っ赤に染めていた。
「いいじゃない!これよ!こういう高いところからの景色を蓮子と見たかったのよ!ここは来てみて大正解だったわね!」
メリーの幸せそうな笑顔を見て、私はなぜだか胸がきゅっとした。空気が冷たい中、急な坂を登り続けて息が上がっているからだろうか。頬が火照って感じるのも、きっと体温が上がって西日に当てられているからだろう。まったくこんな良い景色のところがあっただなんて。ここに埋めてくれって言った豪族とやらは、ずいぶんと贅沢な・・・
「あ、そういえばメリー、ここの墓の主の棺が置かれてるところって、どっかにあるんじゃない?ほら、どこかに横穴があって、そこに棺の置かれてる部屋があるとか。さすがに発掘調査は既にされてるだろうけど、跡地ぐらいは・・・」
「まあ、蓮子ったら本当に気が早いわね。もう少しこの景色を一緒に眺めてくれてもいいのよ?でも、そうねぇ、その左下に降りた先の草木が茂ったところが怪しいわね。その当たりにでも、その横穴とやらがあるんじゃないかしら?」
頂上から動くのを渋るメリーを連れて、彼女の目を頼りに草木の中へ分け入ってみる。探すのはさすがに苦労した。それでもついに石の積まれた横穴らしきものを見つけた。だったのだが・・・
「メリー?このあたりよね?」
「ええ、ここだと思うけど、完全にふさがってるわね。ふさがってるというよりかは、埋め戻されてるっていうか・・・」
迂闊だった。これはおそらく発掘調査隊の手によって埋め戻されたのだ。太古の昔に掘られた横穴ほど崩落の危険のある空間はない。崩落して事故が起きないよう、調査の終了とともに横穴は埋められてしまっていたのだ。
この事に最初から気付けなかった事もそうだが、私にはこのみっちりと埋まった横穴の光景がとても衝撃的に思えた。当時の権力を欲しいままにした豪族でも、時が経てばこうして彼の場所は土に埋まっていってしまうのだ。むろん、彼は発掘調査の対象となり、彼の収集品は歴史書に刻まれた訳だし、むしろ埋め戻すのは遺跡の保全のためでもある。しかし、もしそのような立場に無い人だったらどうだろうか。しばらくは知人が覚えていてくれるかもしれない。甥っ子や姪っ子が覚えていてくれるかもしれない。でももっと時間が経ってしまったら?その人の存在は百年もすれば埋没していくのだろう。
「・・・子?蓮子?ねぇ蓮子ってば?」
「ん?ああ、ごめん考え事、どうしたのメリー?」
「せっかくだけど、これほどしっかり埋められてしまっていたら、どうしようもないわね。重機でほじくり出す訳にも行かないし。頂上に戻って、来るときに後回しにしたルートを通って帰りましょ。」
「・・・そうね。そっちを通って帰りましょうか。」
私たちは再び頂上に戻り、ここに繋がっている道のうち、通ってこなかった方に行ってみる。坂はこちらの方が急なようだ。シダもより生き生きと茂っている。私はさっき感じたことを反芻してみた。生きている間、より高みへと登りたがる人は多い。それが権力的な意味でも、学問的な意味でも、何かしらを打ち立ててやろうと思うのは自然なことだ。それでも死んでしまえば、ごく一部の例外を除いて、その人のことは時間と共に埋もれていってしまう。歴史はどうしても下に積もっていくのだ。そして時間が経てば、どんどん上にまた次の歴史が積もって行く。昔の人はどんどん下へ下へと押しやられていく。私だって、その稀有な例外とならない限りいずれは・・・
「れんこーーあったわよーーー!はやく来てよ、『こもれびのひろば』ですって!散紅葉が一面に広がってるわーーー!ここも最高に綺麗よーーー!」
「・・・え、なんか言っ」
その時だった。遠くのメリーの声に意識を持っていかれて、私は木の階段に足をひっかけてしまった。前のめりになる体。倒れまいと踏ん張ろうとしても、足元が滑りそうで思うようにいかない。そのままどんどんブレーキが効かずに、速度が上がって坂を駆け降りだしてしまう。まずいまずいまずい!止まれない!
「え、ちょっと蓮子、なんでそんな走って・・・」
「あああああ、メリー!そこどいてどいて!」
ドサァー!結局私は紅葉の降り積もった広場に突っ込んで、メリーを押し倒すように覆いかぶさってしまった。さすがにメリーに小言を言われると思ったが、メリーは黙ったままだ。むしろメリーはその澄んだ瞳で私のことをじっと見つめている。私もついメリーをじっと見つめ続けてしまった。
メリーの澄んだ瞳。ブロンドの髪と純白の帽子。紫のワンピース。私の大切なメリー。彼女は真っ赤な散紅葉に埋もれている。この美しい少女もやがては、歴史に埋もれていくのだろうか。重力に引かれ万物が下へ下へ向かうように。それは月の上でも火星の上でも同じなのだ。人として地面の上に立って生きる限り、その力は常に地中へと向かうのだ。私がメリーと過ごした日々も、誰か他に暴こうとする者が現れない限り、どんどんと埋もれていってしまうのだ。そしてきっと私たちは、いなかったものと同義になってゆくのだ。孤独だ。恐ろしい。そんなことなんて・・・私は・・・
「・・・ねぇメリー?やっぱりお墓を作るとしたら高いところがいいかしら?」
「あら、蓮子は死後の世界なんて信じていたかしら?」
自分でもびっくりした。なんだって私は急にこんなことを。私は恥ずかしくなって慌ててぶっきらぼうに言った。
「・・・たとえばの話よっ」
「・・・そうねぇ」
メリーはまじめに答えを考えているようだった。しばらくの後、メリーは言った。
「高いところに登りたかったけれど、でも、ずっと高いところに居たら、それはそれで飽きてしまいそうね。むしろこういう低いところの広場でもいいから、誰か飽きない人が傍にいてくれたほうが楽しそうで良いいわね。」
メリーは私に笑ってそう答えた。降り積もった紅葉の中の彼女の頬は、ほんのり赤く染まっていた。私は急激に安堵して、胸の奥と目頭に熱いものを感じた。私はもしかして泣きそうになっているのだろうか?
私は自分の顔を、隠すようにメリーの髪の横に寄せた。そしてメリーをぎゅっと抱きしめた。
大学内のサークルが雑居する古びた部屋で時間を持て余していた時、メリーは突然切り出してきた。
「高いとこって、一体突然どうしたってのよ。」
「高いところは高いところよ。この街は首都だってのに、古くからの慣習とやらでどの建物も低いんだもの。この辺りじゃあの時計台くらいが一番高いんじゃない?東側の山を登っても木で景色が隠れちゃってるし、なんかもっと眺めの良いところに行きたいわ。」
メリーにしては珍しく思える提案だ。結界の綻びが見えたとか、夢で何かを見たとか特にそういう訳ではないらしい。それなのに晩秋のこの寒い中、わざわざ外に出かけて景色の良いところに行きたいだなんて。何か思うところがあるのだろうか。そうであったなら、ただ寒いという理由であしらってしまう訳にもいかない。
「そうねぇ、じゃあちょっと西の方に行くことになるけど、古墳跡なんていいんじゃないかな?古墳だから小高い丘になってるし、墓に行くって意味じゃ我が秘封倶楽部の活動にも相応しいと言えなくもないわ。」
「蓮子、そこって本当に景色良いの?」
「んー保証はできないわね。私も実際に行くのは初めてだもの。まあでも昔の豪族とやらがわざわざ作らせた墓だもの、そんな景色の悪いところに埋まろうだなんて思わないはずよ。」
若干不安ではあったが私たちはバスに乗って西に向かい、日が落ちる前にその景色を拝んでみることにした。小高い丘の東側に着いてみると、そこには学校と住宅街が広がっていて、丘への登り口がずいぶんと分かりにくくなっている。やっとのことで私たちは丘のすぐ傍を流れる小川を渡る橋を見つけて、入口を通り丘を登り始めた。
雨風に晒されて傷んだ案内板を見ると、大方二通りの登り方があるらしく、最短で頂上に行くルートと、遠回りするルートがある。遠回りする方には『こもれびのひろば』という文字があり、どうも憩いの場になっているらしい。
「どうしましょうね蓮子?『こもれび』と言ってるくらいだから、きっと沢山の木が綺麗に植えられてるんじゃないかしら?」
「それはそうだろうけど、ひとまず今回の目的は高いところの景色を拝むことだから、まずは頂上に行って遠回りのルートは帰りに寄ることにしましょう。」
私たちは近道ルートを通って頂上を目指すことにした。この丘はさほど人の住む所から離れていないのに、頂上までのルートはかなり草や木々が深い。常緑樹やシダ植物が鬱蒼としているだけでなく、一緒に生えている落葉樹の落ち葉もかなり積もっている。乾いた葉がカラカラと落ちる音や幾種類もの野鳥の声が聞こえ、この空間は人の世界からかなり隔離されているようだ。ブーツの足元は滑りやすく、高く登れば登るほど、重力に引っ張られて転げ落ちそうになる。
やっとのことで鬱蒼とした草木を抜け、開けたところに出た。目の前には十段ほどの階段が残っていて、どうやらこれを登りきると頂上らしい。
「着いたわね!これは絶景スポットに違いないわ!」
そう言っててメリーは足元に注意しつつも、待ちきれないように早歩きで階段を登っていった。
「蓮子!これは想像以上よ!ねえ早く見て!」
そんなにすごいのか。私も足元に気を付けながら急いで頂上に登った。
「・・・これは、すごいわね。」
溜息が出た。鬱蒼とした森とは打って変わって、とんでもなく開けた絶景だった。丘の南から西、北の方まで全部が見渡せる。傾いてきた日が秋の空を真っ赤に染めていた。
「いいじゃない!これよ!こういう高いところからの景色を蓮子と見たかったのよ!ここは来てみて大正解だったわね!」
メリーの幸せそうな笑顔を見て、私はなぜだか胸がきゅっとした。空気が冷たい中、急な坂を登り続けて息が上がっているからだろうか。頬が火照って感じるのも、きっと体温が上がって西日に当てられているからだろう。まったくこんな良い景色のところがあっただなんて。ここに埋めてくれって言った豪族とやらは、ずいぶんと贅沢な・・・
「あ、そういえばメリー、ここの墓の主の棺が置かれてるところって、どっかにあるんじゃない?ほら、どこかに横穴があって、そこに棺の置かれてる部屋があるとか。さすがに発掘調査は既にされてるだろうけど、跡地ぐらいは・・・」
「まあ、蓮子ったら本当に気が早いわね。もう少しこの景色を一緒に眺めてくれてもいいのよ?でも、そうねぇ、その左下に降りた先の草木が茂ったところが怪しいわね。その当たりにでも、その横穴とやらがあるんじゃないかしら?」
頂上から動くのを渋るメリーを連れて、彼女の目を頼りに草木の中へ分け入ってみる。探すのはさすがに苦労した。それでもついに石の積まれた横穴らしきものを見つけた。だったのだが・・・
「メリー?このあたりよね?」
「ええ、ここだと思うけど、完全にふさがってるわね。ふさがってるというよりかは、埋め戻されてるっていうか・・・」
迂闊だった。これはおそらく発掘調査隊の手によって埋め戻されたのだ。太古の昔に掘られた横穴ほど崩落の危険のある空間はない。崩落して事故が起きないよう、調査の終了とともに横穴は埋められてしまっていたのだ。
この事に最初から気付けなかった事もそうだが、私にはこのみっちりと埋まった横穴の光景がとても衝撃的に思えた。当時の権力を欲しいままにした豪族でも、時が経てばこうして彼の場所は土に埋まっていってしまうのだ。むろん、彼は発掘調査の対象となり、彼の収集品は歴史書に刻まれた訳だし、むしろ埋め戻すのは遺跡の保全のためでもある。しかし、もしそのような立場に無い人だったらどうだろうか。しばらくは知人が覚えていてくれるかもしれない。甥っ子や姪っ子が覚えていてくれるかもしれない。でももっと時間が経ってしまったら?その人の存在は百年もすれば埋没していくのだろう。
「・・・子?蓮子?ねぇ蓮子ってば?」
「ん?ああ、ごめん考え事、どうしたのメリー?」
「せっかくだけど、これほどしっかり埋められてしまっていたら、どうしようもないわね。重機でほじくり出す訳にも行かないし。頂上に戻って、来るときに後回しにしたルートを通って帰りましょ。」
「・・・そうね。そっちを通って帰りましょうか。」
私たちは再び頂上に戻り、ここに繋がっている道のうち、通ってこなかった方に行ってみる。坂はこちらの方が急なようだ。シダもより生き生きと茂っている。私はさっき感じたことを反芻してみた。生きている間、より高みへと登りたがる人は多い。それが権力的な意味でも、学問的な意味でも、何かしらを打ち立ててやろうと思うのは自然なことだ。それでも死んでしまえば、ごく一部の例外を除いて、その人のことは時間と共に埋もれていってしまう。歴史はどうしても下に積もっていくのだ。そして時間が経てば、どんどん上にまた次の歴史が積もって行く。昔の人はどんどん下へ下へと押しやられていく。私だって、その稀有な例外とならない限りいずれは・・・
「れんこーーあったわよーーー!はやく来てよ、『こもれびのひろば』ですって!散紅葉が一面に広がってるわーーー!ここも最高に綺麗よーーー!」
「・・・え、なんか言っ」
その時だった。遠くのメリーの声に意識を持っていかれて、私は木の階段に足をひっかけてしまった。前のめりになる体。倒れまいと踏ん張ろうとしても、足元が滑りそうで思うようにいかない。そのままどんどんブレーキが効かずに、速度が上がって坂を駆け降りだしてしまう。まずいまずいまずい!止まれない!
「え、ちょっと蓮子、なんでそんな走って・・・」
「あああああ、メリー!そこどいてどいて!」
ドサァー!結局私は紅葉の降り積もった広場に突っ込んで、メリーを押し倒すように覆いかぶさってしまった。さすがにメリーに小言を言われると思ったが、メリーは黙ったままだ。むしろメリーはその澄んだ瞳で私のことをじっと見つめている。私もついメリーをじっと見つめ続けてしまった。
メリーの澄んだ瞳。ブロンドの髪と純白の帽子。紫のワンピース。私の大切なメリー。彼女は真っ赤な散紅葉に埋もれている。この美しい少女もやがては、歴史に埋もれていくのだろうか。重力に引かれ万物が下へ下へ向かうように。それは月の上でも火星の上でも同じなのだ。人として地面の上に立って生きる限り、その力は常に地中へと向かうのだ。私がメリーと過ごした日々も、誰か他に暴こうとする者が現れない限り、どんどんと埋もれていってしまうのだ。そしてきっと私たちは、いなかったものと同義になってゆくのだ。孤独だ。恐ろしい。そんなことなんて・・・私は・・・
「・・・ねぇメリー?やっぱりお墓を作るとしたら高いところがいいかしら?」
「あら、蓮子は死後の世界なんて信じていたかしら?」
自分でもびっくりした。なんだって私は急にこんなことを。私は恥ずかしくなって慌ててぶっきらぼうに言った。
「・・・たとえばの話よっ」
「・・・そうねぇ」
メリーはまじめに答えを考えているようだった。しばらくの後、メリーは言った。
「高いところに登りたかったけれど、でも、ずっと高いところに居たら、それはそれで飽きてしまいそうね。むしろこういう低いところの広場でもいいから、誰か飽きない人が傍にいてくれたほうが楽しそうで良いいわね。」
メリーは私に笑ってそう答えた。降り積もった紅葉の中の彼女の頬は、ほんのり赤く染まっていた。私は急激に安堵して、胸の奥と目頭に熱いものを感じた。私はもしかして泣きそうになっているのだろうか?
私は自分の顔を、隠すようにメリーの髪の横に寄せた。そしてメリーをぎゅっと抱きしめた。