Coolier - 新生・東方創想話

Chaos第2話 メリーゴーランド

2021/12/09 00:01:34
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「あら蓮子、今日もここには居るのね」
 ここは学校の敷地のはずれにひっそりと残る廃校舎の教室。蓮子は授業に現れなくとも、やはりここには来ているのだ。蓮子はいつものように、黒板に向かって沢山の数式を書き連ねている。普段ほとんどの文字は見たことのない不思議なものばかりだが、今日は割と見慣れたものが多い気がする。大きめに書かれたアルファベットが黒板一杯に並び、それぞれの文字の横には小さなギリシア文字(・・・かしら?)が添えられている。小さな文字は少し丸みを帯びていて、なんだか可愛らしい。

「ねえ、今日は一体何を書いてるの?」
 私が尋ねると蓮子の文字を書く手がピタリと止まった。ニヤリと口角の上がったのが後ろからでも見えた。蓮子は私の方に向き直ってにやにやしながら言った。
「相対性理論よ。」
「そうたいせい・・・理論。確か聞いたことがあるわ。少し昔に精神学にも影響があったとかなんとか・・・。詳しくは分かっていないけれど。」
「まあ相対性理論が発表されてもう二百年くらいは経ってるからね。色んな分野に影響があってもおかしくないわ。・・・ねえメリー、相対的な世界、あなたも感じてみたくない?」
 蓮子は不敵な笑みを浮かべて言った。そして彼女の手はぐりぐりと、黒板に書かれた数式を指し示している。その文字は、えっと、ジー、いこーる、ティー、かしら?このアルファベットの横にも小さな文字がいくつも添えられてる。
「蓮子?とても楽しそうなのは良いけど、私これの意味なんて分からないわよ?」
「まあまあ。重要なのはこの数式そのものよりも、これが描く世界を想像することよ。目の前の世界に囚われない、豊かな心でね!」
「・・・ええっと?」
「メリー、まずは手始めに、すごーく広い何もない空間を想像してみてよ。その中に自分が浮いていると思って。」

 想像・・・、何もない広い空間ね・・・。一体何のことやらと戸惑っていたら、視界の端で何かが動いたような気がした。「え?」と思って目をやると、なんと蓮子の書いた文字が、ちょこちょこと動き出していた。大きなアルファベットがゆったりとリズムを刻み、そのまわりを幾つもの小さな文字が動き回って、まるでダンスを踊っているかのようだ。やがてその可愛らしいダンサーの子たちは黒板をはなれ、私を中心にしてくるくると楽しそうに回り出した。これは一体・・・と思っていると、突然この子たちは強烈な閃光になった。
 まぶしい!私はとっさに目をつむった。
 しばらくして恐る恐る目を開けると、そこにはもう黒板も、古びた教卓も机も、何もかもがなくなっていた。ただそこには、無限に続く明るい空間だけが広がっていた。

「どう?想像できた?やっぱりメリーの想像力はとても豊かよねぇ!」
 気付いたら蓮子も私の横で、この広い空間の中に浮いていた。蓮子はこの広い空間の中をヒュンヒュンと気持ちよさそうに動き回る。
「よし、じゃあこの世界でちょっと遊んでいきましょ。」
 蓮子はそう言って、立てた人差し指をつんっと振った。すると広い空間の中に無限に続く金色の格子が現れた。まるで巨人が遊ぶためのジャングルジムの中にいるようだ。蓮子は続けて言った。
「じゃあ、ここに太陽でもおいてみましょう。ほらメリー想像して!」
「ちょっとちょっと、『太陽でも』って何よ、一体何をす」
「いいでしょ、想像の世界なんだから、ほらメリー早くっ」
 そう言って蓮子は私の方を向いて、体の前に手を広げてみせた。・・・そこに太陽があると思えってことかしら。蓮子は「ンっ」と手を上下に振ってせかしてくる。言われるがままに私は蓮子の手を見つめながら念じてみた。すると蓮子の手のひらの上にぽこっと丸いものが現れた。
「そうそう、メリー、良い感じじゃない。でもこれじゃあ小さすぎるわ。太陽よ?もっともっと大きくしなきゃ!」
 私はもっと大きくなるように念じてみた。するとその丸い物体はみるみると膨らんでいった。だんだんと蓮子はそれを抱えきれなくなり頭の上に掲げ始めた。まだまだ大きくなってく。蓮子よりはるかに大きく、どんどん大きく、そしてどんどんと輝きを増していった。ちょっと蓮子!?見るからにとんでもなく重そうだけど、あなた潰れちゃわないの!?
「よっこいせっと。」
 蓮子はいともたやすくその太陽を運んでいき、広い空間のなかにぽんと置いた。すると太陽の周りの金色のジャングルジムがぐにゃりと曲がった。
「これは・・・?」
「これは時空のゆがみ。そしてここは相対的な世界。そこのゆがんだ所では相対的に時間がゆっくり進んでいるわ。」
「あら、それは不思議ね・・・。でも、時間の進み方が人それぞれってのは、割りとすんなり受け入れられそうな考え方だわ。」
 そう言いながら蓮子の顔を見ると、なんだか物足りなさそうな表情をしていた。私が割とすんなりとこの相対的な世界を受け入れてしまったせいかしら。蓮子はしばらくむすっとしていたが、突然表情がぱっと明るくなってポンと手を叩いた。

 蓮子と目が合った。今日一番の不敵な笑みだ。こういう時の蓮子は・・・。そう思った矢先、蓮子はものすごい勢いで私に飛びついて来て、ひょいと私の体を持ち上げてしまった。
「ねえメリー、太陽を置いたんだからやっぱりこの周りを回ってくれる人が欲しいわよね?」
「???」
「ほらほら、メリー行くわよ!」
「え?待って待って蓮子、まさか」
「そーーーれぇーーーーー!」
 ひゃあああああああ。蓮子は私をぐるぐると回して太陽の方に向かって投げ飛ばしてしまった。なんてことをするのよ!
 飛ばされた私は太陽に引っ張られて、その周りをぐるぐると回りだした。
「どうメリー?楽しいでしょ?」
 蓮子は離れたところで眺めながらゲラゲラと笑っている。まったくこの子ったら!
「ついでに太陽をもっともっと重くしちゃうわよ!」
 蓮子はまた人差し指を立ててつんと振った。すると太陽はどんどんと大きくなり、輝きを増していった。太陽の色がオレンジから青くなったと思ったら、今度は一気に真っ暗な闇に変わってしまった。何でも吸い込んでしまいそうな深い闇だ。
 私の回る速度はみるみるうちに速くなってき、どんどんと真っ暗な闇に吸い込まれていく。ちょっと?これ大丈夫なの?
「ほらほらメリー!メリーがどんどん吸い込まれていくわよ!」
「ちょっと?蓮」
「それに、メリーがどんどん赤く見えてきたわね!」
「???何を言ってるの?私はいつもの私のままよ?」
「そりゃそうよ。これは相対的な世界だもの。メリーから出た光が引き延ばされて、私には赤く見えてるのよ。ほらほら、光がもっともっと引き延ばされてきたわよ。赤を通り越して電波になってきたわ。電波よ電波!メリーが電波になってきたわよ!」
「ねえ、ちょっと?なんかそれ別の意味で言ってない?気のせい?」
 真っ暗な闇がどんどん近づいてきた。引っ張られる。どんどん強く引っ張られていく。怖い。蓮子?ねぇ蓮子?私ほんとに吸い込まれちゃうんじゃないの???

 蓮子がまた指を経ててつんと振った。その瞬間、真っ暗な闇が一気に消滅した。金色のゆがんだジャングルジムも無限に広い空間も全てが消滅した。私はもとの教室の椅子にぐったりとへたり込んでいた。
「どうだったメリー?相対的な世界は?」
 それどころじゃない。鼓動が激しい。息が荒い。本当に危なかった気がする。蓮子が調子に乗ってしまうとドキドキが止まらない。何で蓮子といるとこうもドキドキが
「さあて、じゃあ次は・・・」
「待って蓮子!とにかく一旦落ち着かせて!」
蓮子に振り回されンメリー。
しらゆい
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コメント



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1.90奇声を発する程度の能力削除
楽しめました
5.100南条削除
面白かったです
小難しくいちゃついてる2人がよかったです
6.90モブ削除
仲が良いってそれだけで素晴らしいものだと思うのです。ご馳走様でした。