0_false
月とともに起き、月とともに寝る生活を、ここ四百と九十五年ほど続けている。
月は良い。私の狂気を肩代わりしてくれる。月が出ているときだけは、私は私でいられるのだ。
嘘だけど。
私が一言付け加えると、みるみるうちに拗ねたこいしが私のことをげしげしと蹴った。触手でどすどすと脇腹を突かれるのも甘んじて受け入れたが、生憎と包丁まで受け入れるような奇特な趣味はしていない。
「結局わたし、フランちゃんのこと一つも教えて貰えてないんだけど」
「態々知るべきことなんて私の中には一つもないわよ」
これは本当。なんてことは絶対に言いやしないのだけど。
私は髄まで嘘つきなので、勿論こいしは「またそんな風にはぐらかして」と、私の心も知らないままにその唇を尖らせた。
1_true
七色悪魔は、嘘と虚構でできている。
私を構成しているものはその悉くが出鱈目で、故に私は常に嘘ばかり吐いている。
「その狂気により幽閉された」――嘘。狂ってなどいないし引きこもっているだけだ。
「絶対的な破壊の権能を持ち」――これも嘘。あれは単なる、鬼の膂力に魔法と手品を絡めただけの、小手先の技だ。
「四百九十五年ほど生きている」――まったくの嘘。私の生は未だに精々五十を数える程度のところだ。
「地下に秘匿された悪魔の妹」――全部、嘘。私は「お姉様」の、単なる一介の眷属である。
「その名前は、フランドール・スカーレット」――――まあ、これは。
或いはこれだけは、本当と言っても良いのかもしれない。
お姉様に拾われて名を貰うまで、私は名無しの木っ端妖怪であったのだから。
10_false
「フランちゃんて、結局いま何歳なの?」
「だいたい四百九十五歳ぐらいよ」
「嘘ばっかり」
今日も今日とてこいしは私の頬を捏ねている。わりあい手触りが良いらしい。千切ったらお団子になりそうと言うので、試してみたら? と返しておいた。
「もう十年以上おんなじ年齢のままなんだもん。流石に嘘が雑すぎるって」
「良いじゃない。私、この数字のこと気に入ってるの」
冗談めかして言ってはいるが、気に入っているのは本当のことだ。なにしろそれは、お姉様に与えられた数字だったから。
私は髄まで嘘つきで、何ならいっそ、妹という立ち位置すらも偽物だ。
何も持ってはいなかった私に、お姉様は力と立場と配役をくれた。妹という関係も、四百九十五の年齢も、そのとき私が貰ったものだ。
「完全を僅かに欠いた月の数だ。私の妹に相応しい数字だろう?」
そう紡がれた言葉の意味は、いまいち良くは分からなかった。けれどそう言ったお姉さまの顔はぞっとするほど美しく、それが特別な数字なのだと私が思うのには十分だった。
「そういうのいいからさ、そろそろほんとの年齢教えてよ」
「四百九十五歳」
「もー!」
だから、私は四百九十五歳だ。新しい数字をお姉様に貰うまで、ずっと。
微笑んで言った私の頬は、こいしのおやつと相成った。普通の肉の味だったらしく、こいしは「美味しそうだったのに……」としきりに残念がっていた。こいしは一体私を何だと思っているのか。疑問は尽きない。
11_true
世にも珍しい七色の翼。
煤にまみれて尚美しい靡く金髪。
瞳に煌めく意志と理性も輝かしく、何よりそこには芳しい運命の香りがあった。
らしい。
彼女はそう言って、私に牙を突き立てた。
太陽輝く快晴の空に、よく似た色をしている悪魔。
そいつを「お姉様」と呼ぶようになるのは、まだもう少し、先の話だ。
100_false
「フランちゃんのスペルカードってさ」
本来の種族特性ゆえか、或いは現在の形質のためか、はたまた性格によるものか。
理由は判別付かないが、とにかくこいしは時折やけに、勘が冴える。
「なんていうか、空っぽだよね」
「華も実もあるわよ?」
「うんうん、華やかだし意図も読めるんだけどさ。でもなんだかなあ」
そんな会話を交わしたのは、私がこいしと知り合ってから一月ほどの話だったか。
「根本的にあれって、飾りものの、借り物の弾幕でしょ?」
その弁は、確かに真理を突いていた。
結局のところ私のスペルは、読んだ本から借り受けたものだ。目にして幾らか気に入ったものを、書かれたままに表現した、ただそれだけの空虚な弾幕。それを見破った彼女に対し、私は強い興味を抱いた。
「正解、だけど違うわ。そういうものは、偽物の、嘘っぱちと呼ぶのよ」
私がこいしの前でだけ、嘘を嘘だと嘯くようになったのは、概ねそれがきっかけだった。
或いはその頃、私は疲労を感じていたのかもしれない。貰い物の名前、偽物の立場、一つとして事実の含まれない経歴、内容のない自己表現。七色悪魔は嘘と虚構でできていて、私は常に休みなく嘘を貫き続ける必要があった。
だからこそ、私の嘘を見破ってみせた彼女と相対するときぐらいは、虚飾を放棄しても良いのではないか。
その程度の休息ならば、許されるのではないか。
当時の私はやもすれば、そのようなことを考えていたのかもしれなかった。
NULL_???
まあ。
全部、嘘だけど。
IlO_farue
「もう私フランちゃんのことなんにも分かんない……」
「そもそも態々私のことを知る必要はあるのかしら」
これは本当。嘘で経歴を塗り固めた私の本当の姿など、見ても失望するだけだ。そう私は心から思っている。故にこいしが私のことをじっとりとした目で見やってくるのが、全く以て理解できない。そんな妙なことを言っただろうか。
「フランちゃんたら全然分かってない。必要とか不要とかは関係ないの。友達のことは幾らでも知りたくなるものなのよ」
「よく分からないわ」
半分は嘘。こいしのことに興味はあるから、それはある意味真実なのかもしれない、などとは思っている。
けれどそれはこいしと友人だから、だけではない。こいしが、私の虚構を見破った相手であるからだ。
だから、もし仮に。私に新たに他の友人ができたとしても、私は今ほどは相手を知りたいとは思わないだろう。
「フランちゃんだって例えばさ、レミリアさんのことを知りたいとか思ったりするでしょ?」
「しないわね。私、お姉様のことならなんでも知っているもの」
「ふーん。例えば?」
「厭ね、嘘に決まっているでしょう。私ごときがあいつのことを理解できるわけないじゃない。莫迦にしているの?」
「端的にキレそう」
渾身の嘘。
私の冗談に振り回されて、こいしは困憊した様子だった。ぐたりと床に倒れ寝そべり、うんざりした声音で言葉を続ける。
「レミリアさんとフランちゃんの仲も良く分かんない。年も知らない。趣味だってころころ変わってるし、味の好みどころか食事をするところも見たことない。こんなの私、ほんとにフランちゃんの友達なのか分からなくなって来ちゃうわ」
「それは、困るわ」
これも、本当。
漏れた私の呟きに、思わずとこいしが振り向いた。にやつきが抑えられていない。こいしにしては珍しい顔だ。妙なことでも言っただろうか。
「え、なになに? 何が困るの?」
「何って、こいしが友達じゃなくなったなら、ここに来てくれなくなるじゃない。そうなると、」
一息。危ない、思わず本心を曝け出しかけてしまった。
「嘘で惑わせる相手がいなくなってしまうわ」
「うわ、うっわ! ひっどい、フランちゃんほんと友達いないのそういうところだよ!?」
嘘だけど。
それはそうと、こいしもこいしでひとのこころを抉る言葉選びが上手いと思う。
交友が狭いのは最近自覚し始めたところで、少しだが気にしているのだ。
こいしは思わずと声を荒げて、それからふと不安が過ったように、上目遣いで言葉を継いだ。
「……だ、大丈夫だよね? フランちゃん、私のことちゃんと友達だって思ってるよね?」
「ええまあ勿論その通りよ。親友も親友、大親友ね」
軽い調子で返したけど、これは間違いなく本当だ。
ここまで本性を曝け出すのは、それこそこいしの前ぐらいだし。
「……」
こいしは無言で、無表情だった。
こういう時のこいしほど得体の知れないものはない。次の瞬間に何を言われるか、まるで分かったものではない。
私が心中で構えていると、ややあって「なるほどね」とこいしが再び口を開いた。
「フランちゃんってさ、正直なところを言うときは羽を畳む癖があるよね」
思わず羽を伸ばしたのは、反射の一種であると言えた。瞬きを挟んで気付いたことは、その動作が最早、自白に等しいということだった。こいしはといえば、彼女にしては実に珍しい、ニヤニヤという擬態語が聞こえてきそうな満面の笑みで、私の顔を覗き込んだ。
「そっかー? そうなんだー? ふーん? なるほどねー?」
「……なに、そんなに可笑しいことかしら」
「ん-? 別に、こんな簡単なブラフに引っかかるフランちゃん面白ーい可愛いー、なんて思ってるわけじゃないよ?」
諦めて開き直ってみせても、それでもこいしの方が優位だ。
どうあっても私は引っかかった側で、こいしは引っかけた側である。
反論の余地もなく、私は唯々こいしの煽りに屈することしかできない。
「たださ、こんなに自分のこと話してくれなくて、嘘ばっかりで揶揄われてさ。ほんとのところはフランちゃん、私のことをどう思ってるんだろうなって、ずっと疑問だったんだよね」
そう言って、こいしはふと儚げな色を見せた。
「元々今日はね、八つ裂きにして拷問してでもフランちゃんのほんとのところを教えてもらうつもりだったんだ」
嘘だけど。拷問などという物騒な単語に頬を染める儚げ美少女などいてたまるか。
ただ、そう。こいしがそこまで不安を持っているのは予想外だった。考えれば当然ではあるのだが。なにせ私は心情すらも虚実織り混ぜて曖昧なままにしていたのだから。
……流石に少し、悪かったとは思っている。
「でも、今はいいや。フランちゃんが私のことを大親友だって思ってくれてることが分かったんだもの。今日のところはこれだけで我慢しておくわ」
とは言えそれも、今日の手酷くやられた分で相殺だろう。つまり嘘吐きは続行である。特段の問題もないだろう。結局今までと何ら変わることなどないし。
それに、どうせ私にはこれしかないのだし。
「あ、そろそろ帰らなきゃ。じやーねフランちゃん、また明日!」
「明日は定休日よ」
「え、待、なにそれ」
「嘘だけど」
「あのさあ、フランちゃんほんとあのさあ!」
七色悪魔は、嘘と虚構でできている。
確かなことは、名前と、それから。
大親友が一人いる、ということぐらいだ。
月とともに起き、月とともに寝る生活を、ここ四百と九十五年ほど続けている。
月は良い。私の狂気を肩代わりしてくれる。月が出ているときだけは、私は私でいられるのだ。
嘘だけど。
私が一言付け加えると、みるみるうちに拗ねたこいしが私のことをげしげしと蹴った。触手でどすどすと脇腹を突かれるのも甘んじて受け入れたが、生憎と包丁まで受け入れるような奇特な趣味はしていない。
「結局わたし、フランちゃんのこと一つも教えて貰えてないんだけど」
「態々知るべきことなんて私の中には一つもないわよ」
これは本当。なんてことは絶対に言いやしないのだけど。
私は髄まで嘘つきなので、勿論こいしは「またそんな風にはぐらかして」と、私の心も知らないままにその唇を尖らせた。
1_true
七色悪魔は、嘘と虚構でできている。
私を構成しているものはその悉くが出鱈目で、故に私は常に嘘ばかり吐いている。
「その狂気により幽閉された」――嘘。狂ってなどいないし引きこもっているだけだ。
「絶対的な破壊の権能を持ち」――これも嘘。あれは単なる、鬼の膂力に魔法と手品を絡めただけの、小手先の技だ。
「四百九十五年ほど生きている」――まったくの嘘。私の生は未だに精々五十を数える程度のところだ。
「地下に秘匿された悪魔の妹」――全部、嘘。私は「お姉様」の、単なる一介の眷属である。
「その名前は、フランドール・スカーレット」――――まあ、これは。
或いはこれだけは、本当と言っても良いのかもしれない。
お姉様に拾われて名を貰うまで、私は名無しの木っ端妖怪であったのだから。
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「フランちゃんて、結局いま何歳なの?」
「だいたい四百九十五歳ぐらいよ」
「嘘ばっかり」
今日も今日とてこいしは私の頬を捏ねている。わりあい手触りが良いらしい。千切ったらお団子になりそうと言うので、試してみたら? と返しておいた。
「もう十年以上おんなじ年齢のままなんだもん。流石に嘘が雑すぎるって」
「良いじゃない。私、この数字のこと気に入ってるの」
冗談めかして言ってはいるが、気に入っているのは本当のことだ。なにしろそれは、お姉様に与えられた数字だったから。
私は髄まで嘘つきで、何ならいっそ、妹という立ち位置すらも偽物だ。
何も持ってはいなかった私に、お姉様は力と立場と配役をくれた。妹という関係も、四百九十五の年齢も、そのとき私が貰ったものだ。
「完全を僅かに欠いた月の数だ。私の妹に相応しい数字だろう?」
そう紡がれた言葉の意味は、いまいち良くは分からなかった。けれどそう言ったお姉さまの顔はぞっとするほど美しく、それが特別な数字なのだと私が思うのには十分だった。
「そういうのいいからさ、そろそろほんとの年齢教えてよ」
「四百九十五歳」
「もー!」
だから、私は四百九十五歳だ。新しい数字をお姉様に貰うまで、ずっと。
微笑んで言った私の頬は、こいしのおやつと相成った。普通の肉の味だったらしく、こいしは「美味しそうだったのに……」としきりに残念がっていた。こいしは一体私を何だと思っているのか。疑問は尽きない。
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世にも珍しい七色の翼。
煤にまみれて尚美しい靡く金髪。
瞳に煌めく意志と理性も輝かしく、何よりそこには芳しい運命の香りがあった。
らしい。
彼女はそう言って、私に牙を突き立てた。
太陽輝く快晴の空に、よく似た色をしている悪魔。
そいつを「お姉様」と呼ぶようになるのは、まだもう少し、先の話だ。
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「フランちゃんのスペルカードってさ」
本来の種族特性ゆえか、或いは現在の形質のためか、はたまた性格によるものか。
理由は判別付かないが、とにかくこいしは時折やけに、勘が冴える。
「なんていうか、空っぽだよね」
「華も実もあるわよ?」
「うんうん、華やかだし意図も読めるんだけどさ。でもなんだかなあ」
そんな会話を交わしたのは、私がこいしと知り合ってから一月ほどの話だったか。
「根本的にあれって、飾りものの、借り物の弾幕でしょ?」
その弁は、確かに真理を突いていた。
結局のところ私のスペルは、読んだ本から借り受けたものだ。目にして幾らか気に入ったものを、書かれたままに表現した、ただそれだけの空虚な弾幕。それを見破った彼女に対し、私は強い興味を抱いた。
「正解、だけど違うわ。そういうものは、偽物の、嘘っぱちと呼ぶのよ」
私がこいしの前でだけ、嘘を嘘だと嘯くようになったのは、概ねそれがきっかけだった。
或いはその頃、私は疲労を感じていたのかもしれない。貰い物の名前、偽物の立場、一つとして事実の含まれない経歴、内容のない自己表現。七色悪魔は嘘と虚構でできていて、私は常に休みなく嘘を貫き続ける必要があった。
だからこそ、私の嘘を見破ってみせた彼女と相対するときぐらいは、虚飾を放棄しても良いのではないか。
その程度の休息ならば、許されるのではないか。
当時の私はやもすれば、そのようなことを考えていたのかもしれなかった。
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まあ。
全部、嘘だけど。
IlO_farue
「もう私フランちゃんのことなんにも分かんない……」
「そもそも態々私のことを知る必要はあるのかしら」
これは本当。嘘で経歴を塗り固めた私の本当の姿など、見ても失望するだけだ。そう私は心から思っている。故にこいしが私のことをじっとりとした目で見やってくるのが、全く以て理解できない。そんな妙なことを言っただろうか。
「フランちゃんたら全然分かってない。必要とか不要とかは関係ないの。友達のことは幾らでも知りたくなるものなのよ」
「よく分からないわ」
半分は嘘。こいしのことに興味はあるから、それはある意味真実なのかもしれない、などとは思っている。
けれどそれはこいしと友人だから、だけではない。こいしが、私の虚構を見破った相手であるからだ。
だから、もし仮に。私に新たに他の友人ができたとしても、私は今ほどは相手を知りたいとは思わないだろう。
「フランちゃんだって例えばさ、レミリアさんのことを知りたいとか思ったりするでしょ?」
「しないわね。私、お姉様のことならなんでも知っているもの」
「ふーん。例えば?」
「厭ね、嘘に決まっているでしょう。私ごときがあいつのことを理解できるわけないじゃない。莫迦にしているの?」
「端的にキレそう」
渾身の嘘。
私の冗談に振り回されて、こいしは困憊した様子だった。ぐたりと床に倒れ寝そべり、うんざりした声音で言葉を続ける。
「レミリアさんとフランちゃんの仲も良く分かんない。年も知らない。趣味だってころころ変わってるし、味の好みどころか食事をするところも見たことない。こんなの私、ほんとにフランちゃんの友達なのか分からなくなって来ちゃうわ」
「それは、困るわ」
これも、本当。
漏れた私の呟きに、思わずとこいしが振り向いた。にやつきが抑えられていない。こいしにしては珍しい顔だ。妙なことでも言っただろうか。
「え、なになに? 何が困るの?」
「何って、こいしが友達じゃなくなったなら、ここに来てくれなくなるじゃない。そうなると、」
一息。危ない、思わず本心を曝け出しかけてしまった。
「嘘で惑わせる相手がいなくなってしまうわ」
「うわ、うっわ! ひっどい、フランちゃんほんと友達いないのそういうところだよ!?」
嘘だけど。
それはそうと、こいしもこいしでひとのこころを抉る言葉選びが上手いと思う。
交友が狭いのは最近自覚し始めたところで、少しだが気にしているのだ。
こいしは思わずと声を荒げて、それからふと不安が過ったように、上目遣いで言葉を継いだ。
「……だ、大丈夫だよね? フランちゃん、私のことちゃんと友達だって思ってるよね?」
「ええまあ勿論その通りよ。親友も親友、大親友ね」
軽い調子で返したけど、これは間違いなく本当だ。
ここまで本性を曝け出すのは、それこそこいしの前ぐらいだし。
「……」
こいしは無言で、無表情だった。
こういう時のこいしほど得体の知れないものはない。次の瞬間に何を言われるか、まるで分かったものではない。
私が心中で構えていると、ややあって「なるほどね」とこいしが再び口を開いた。
「フランちゃんってさ、正直なところを言うときは羽を畳む癖があるよね」
思わず羽を伸ばしたのは、反射の一種であると言えた。瞬きを挟んで気付いたことは、その動作が最早、自白に等しいということだった。こいしはといえば、彼女にしては実に珍しい、ニヤニヤという擬態語が聞こえてきそうな満面の笑みで、私の顔を覗き込んだ。
「そっかー? そうなんだー? ふーん? なるほどねー?」
「……なに、そんなに可笑しいことかしら」
「ん-? 別に、こんな簡単なブラフに引っかかるフランちゃん面白ーい可愛いー、なんて思ってるわけじゃないよ?」
諦めて開き直ってみせても、それでもこいしの方が優位だ。
どうあっても私は引っかかった側で、こいしは引っかけた側である。
反論の余地もなく、私は唯々こいしの煽りに屈することしかできない。
「たださ、こんなに自分のこと話してくれなくて、嘘ばっかりで揶揄われてさ。ほんとのところはフランちゃん、私のことをどう思ってるんだろうなって、ずっと疑問だったんだよね」
そう言って、こいしはふと儚げな色を見せた。
「元々今日はね、八つ裂きにして拷問してでもフランちゃんのほんとのところを教えてもらうつもりだったんだ」
嘘だけど。拷問などという物騒な単語に頬を染める儚げ美少女などいてたまるか。
ただ、そう。こいしがそこまで不安を持っているのは予想外だった。考えれば当然ではあるのだが。なにせ私は心情すらも虚実織り混ぜて曖昧なままにしていたのだから。
……流石に少し、悪かったとは思っている。
「でも、今はいいや。フランちゃんが私のことを大親友だって思ってくれてることが分かったんだもの。今日のところはこれだけで我慢しておくわ」
とは言えそれも、今日の手酷くやられた分で相殺だろう。つまり嘘吐きは続行である。特段の問題もないだろう。結局今までと何ら変わることなどないし。
それに、どうせ私にはこれしかないのだし。
「あ、そろそろ帰らなきゃ。じやーねフランちゃん、また明日!」
「明日は定休日よ」
「え、待、なにそれ」
「嘘だけど」
「あのさあ、フランちゃんほんとあのさあ!」
七色悪魔は、嘘と虚構でできている。
確かなことは、名前と、それから。
大親友が一人いる、ということぐらいだ。
尊くて好き。
嘘で固めたフランちゃんに翻弄されるこいしがかわいかったです
ここになんというか『らしさ』が詰まっているなあ、と思いました。
ご馳走様でした。