Coolier - 新生・東方創想話

東方外界神 二章

2021/11/14 20:21:56
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二章 「幻想郷での生活」
晴れ渡った空。夏の朝は涼しいのは幻想郷も例外ではないらしい。おおよそ午前六時頃。霊夢と茉鵯禍が境内の掃除をする。
 「朝は涼しいね。掃除が捗るよ。」
おおよそ一時間程前に霊夢に叩き起こされた茉鵯禍。しかし、これほどまでに澄んだ空気を吸うことが出来るなら早く起きるのも悪くないと思った。
 「えぇ、この時間の掃除はやりやすいのよね。まぁ掃除してから二時間も経たないうちにどっかの魔法使いが暴れるから意味ないんだけど。」
 「・・・大変だねぇ。」
 「ほんとよ全く!!」
そんな話をしていると、その魔法使いが現れた。
 「おっす!!二人ともおはよう!!茉鵯禍、眠れたか?」
 「おはよう魔理沙。よく眠れたよ。ここは良く分からないけど不思議と安心できるんだよね。」
 「おう、そりゃよかったな。」
前日、魔理沙にも敬語はやめてくれと言われていたが、なかなか実行に踏み切れず、今になって初めて敬語から脱却した。
 「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃないの。でもそれは当然よ。ここの巫女は完全な人間だもの。人間が安心できる環境にしてなくちゃ意味ないわ。」
霊夢が自慢げに語る。しかもとても嬉しそうな顔で。
 「あぁ、そうだよな。人間には最高のスポットなんだぜ。」
魔理沙が自分の手柄のように自慢する。
 「魔理沙、ここを観光スポットみたいに言うのやめて・・・。」

 「そういえば魔理沙も朝早いね。いつもこんな感じなのかい?」
茉鵯禍が問う。完全なる偏見だが、魔理沙は時間にルーズそうな気がしている。
 「いや、霊夢を冷やかしに来ただけだ。」
屈託の無い笑顔で友人を冷やかしに来たと言えることに驚いたが、あえて触れないことにした。
 「あら、掃除を手伝ってくれるのね。あんたの箒はそれでいいわね。さぁ、早く続けましょ。」
仕返しだと言わんばかりのいい笑顔で掃除を手伝ってもらう、否。強制する霊夢。無論、箒は魔理沙のそれを使わせる。
 「おいおいおい、これは掃除道具じゃないんだぜ。空を飛ぶためのアイテムだ。」
苦笑を浮かべながら抗議する魔理沙。
 「あら、私からすればただの掃除道具なのよ。それならまずは自分の使う箒を持ってくることね、そこにあるわよ。」
 「え、コレ冷やかしの代償ってことか?まぁいいぜ手伝ってやる。」
というわけで魔理沙が掃除を手伝ってくれることになった。
      ◇◇◇◇
 「・・さて、境内の掃除は終わりね。」
 「おっしゃ!!早速探索に・・・!!」
魔理沙が急にイキイキし始めた。というのも彼女、いちいち箒やちりとりを使うのが面倒だという訳で事あるごとにマスタースパークで文字通り綺麗さっぱり跡形もなくしようとしたのだ。
 「あら、まだ終わってないわ。」
浮かれる彼女に霊夢が釘を刺す。その一言に魔理沙が固まった。
 「ど、どういうことだぜ・・・霊夢。」
そして絶望感溢れる顔で問う。
 「あら、私は境内の掃除“は”終わったって言っただけよ。全て終わったとは言ってないわ。」
 「嘘だろ!?後どこ掃除するんだよ!!」
魔理沙はかなり動揺している。解放されたと思っていただけにショックが大きかったのだろう。
 「そうだよ霊夢。他にどこを掃除するんだい?」
 「今日は人手が多いから博麗大結界の近くの森まで掃除するわ。そんなに広くないから大丈夫よ。」
 「げ、あそこもかよ。今度こそマスパ撃ってもいいよな!?」
 「何言ってんの、良いわけないでしょ!?」
一瞬空気が止まったかのように静まりかえった。霊夢の怒号に魔理沙も茉鵯禍も固まっている。
 「・・・結界に当たったりその周りに影響が出たらどうするの。」
今度は氷のように、低く冷たい声で問う。
 「な、すまん。それはまずいぜ。」
魔理沙が霊夢に謝罪する。
 「・・・」
霊夢がそれに応えることは無く、ただ無言で突き進んでいく。
少しずつ陽が高くなり始める。しかし森の中は涼しい。太い木から細い木。高い木から低い木まで様々な木が生えている。
 「ここの近くに博麗大結界があるの。博麗大結界っていうのは簡単に言うと幻想郷を外の世界から分断しているもの。幻想郷の秩序を守っているの。本来なら茉鵯禍のように外から入ってくることも出ていくこともできない。でもたまに、外の世界で忘れられたりしたものが流れつくことがあるのよ。仮にもそんな結界が。これが壊れたら。」
問わず語りにそんな話を始める霊夢。その顔は真面目そのものだった。
 「境界がおかしくなって、秩序は崩壊し、最終的に幻想郷は崩壊するわ。」
霊夢の一言にまたも空気が固まった。“幻想郷の崩壊“。これほどまでに恐ろしい言葉を霊夢が放ったのは茉鵯禍も衝撃を受けた。
 「大分前だけど、この結界に異常が発生したことがあったの。その時先代の巫女はどうしたか知っているかしら?」
 「え、知らないぜ。」 「分からない。」
霊夢が空を見上げて深呼吸した。彼女は少し恐怖を感じているようだった。それもそうだろう。なぜなら。
 「・・・先代の博麗の巫女達は自分の命と力を引き換えに結界を守ったのよ。」
 「あぁ・・・。いつか聞いたな・・・。」
帽子を深く被り、顔を隠す魔理沙。
 「霊夢、それってまさか・・・」
 「えぇ、・・・死んでいったわ。幻想郷の皆を守るために自分を差し出した。自分の一つ前の代の巫女の時もそうだった。結界に乗り込んでいく姿を私は後ろで見ているしか出来なかった。止めようとした私は紫に押さえつけられていたからね。」
突然明かされた霊夢の過去と博麗大結界の秘密。しかもそれを淡々と述べていく霊夢にも魔理沙と茉鵯禍は恐怖を感じている。
 「まぁ、よほどのことがない限り結界に問題は無いから大丈夫よ。」
霊夢が笑顔を作った。しかし。
 「もし異常があったらお前までいなくなるのか?」
 「魔理沙、そんなことあるわけ・・・」
恐る恐る問う魔理沙と、そんなことはないと自分や魔理沙に言い聞かせるように否定しようとする茉鵯禍。
 「その可能性もあるわ。結界に異常があるままでは幻想郷が崩壊しかねないもの。」
笑顔は一瞬で崩れ去った。そして同じような真面目な顔で。
 「そんな・・・」
 「それが博麗の巫女の役目。・・・こんな暗い話はやめましょう?大丈夫、異常が起きる前に解決するんだから!!」
霊夢がもう一度笑ってこちらに顔を向ける。後悔と恐怖を感じながらでもこちらに向けたその笑顔から、彼女の強さの根幹にあるものを垣間見たような気がした。
 「そ、そうだね!!掃除しよう、掃除!!そうすれば早く探索行けるよ!!」
 「あ、あぁ、そうだな!!さっさと終わらせるぞ!!」
重い話であった為に二人は息が詰まっていたが、元の明るさに戻った。博麗大結界、幻想郷の秩序を守るもの。この二つの言葉が茉鵯禍の心に深く刺さった。
      ◇◇◇◇
 「終わったぞぉぉぉぉぉぉ!!!」
掃除を終えたその瞬間に魔理沙が叫びだす。
 「うるさいわよ、魔理沙。」
 「元気だねぇ。」
無事に掃除を終えた一行。陽がまた少し昇った。大体午前七時頃だろう。道具を片付け、用意をして、探索に向かう。
 「霊夢、今日はどこ行くんだ?」
箒に跨り、問う魔理沙。
 「そうねぇ・・・妖夢のところにでも行きましょうか。」
問いに対して提案する霊夢。」
 「お、いいな。あそこなら涼しいだろう。」
 「その妖夢さんはどこにいるんだい?」
茉鵯禍が尋ねると魔理沙がニヤニヤしながら答えた。
 「あの世だ。」
 「・・・・!?」
この瞬間、彼の頭の中に二つの可能性が出てきた。一つ、魔理沙の頭がおかしくなったという可能性。二つ、“あの世”と称される場所であり、実際は幻想郷のどこかにあるという可能性。でもそんな、いかにも不謹慎なあだ名をつける場所も無いだろう。そうすると残る可能性は立った一つ。魔理沙の頭がおかしくなったという可能性だけだ。
 「・・・魔理沙。」
俯きながら魔理沙に声を掛ける茉鵯禍。
 「ん?どうした?」
そして何食わぬ顔で答える魔理沙。
 「掃除してるときに頭か何か打った?」
 「いや、打ってないぜ?ほんとにどうしたんだ?」
ここまで言ったその時。茉鵯禍は魔理沙の両肩を掴んで揺さぶった。
 「いや、おかしいと思わないのかい!?あの世って何か知ってるよね?」
きっぱりと明言した魔理沙に驚いた彼は早口でまくし立てる形になってしまった。それもそのはず。あの世と呼ばれるそこは死者が行く場所であり、生きている者、さらにこの二人のような普通の人間が行けるところではないし、提案する霊夢も、涼しいから良いという理由で承諾する魔理沙にも狂気を感じたのである。
 「うぉぉ、落ち着け、茉鵯禍ぁ。」
肩を揺さぶるのを止めない茉鵯禍に声を掛ける魔理沙。
 「魔理沙、誤解されてるわ。いや、誤解はしてないんだろうけど。」
その時、彼は我に返り、すぐに魔理沙から手を離した。
 「あーそうだな。説明が足りなかったな。なんて説明したらいいかな・・・まぁ行くのはあの世なんだが、あの世はあの世でも少し違うんだ。そこなら生きている人間でも行けるんだぜ。」
 「はぁ・・・?」
余計に疑問点が増えたので困惑する一方である。
 「まぁ行けば分かるわ。実際に見た方が納得できるでしょ。」
 「そうだね・・・。行こうか・・・。」
というわけであの世に行くことになった。移動方法は変わらず空を飛んでいく。ただ今回はいきなり急上昇し始めた。風を切って上へ上へと飛んでいく。晴れた空に向かって飛んでいくのは実に爽快だった。途中、何回か雲を突き抜ける。静電気や氷が痛かったがすぐに青空が見える。そして階段が見えた。そこに降り立つ。
      ◇◇◇◇
 「しらたまざくら・・・?」
この瞬間、魔理沙と霊夢が吹き出した。魔理沙は更に笑い転げている。
 「え、違うの?」
 「いや・・・はくぎょくろうよ・・・はははははははははは!!」
 「いやぁ、楼を桜と間違えるのは分かるがしらたまって・・・ひーひー苦しい!!」
 「な・・・別にそこまで笑わなくたっていいじゃないか二人とも。」
顔を赤くして抗議する。怒りというより照れ隠しと言える。
 「いやぁ、これを笑うなって言う方が無理だぜ。」
 「ほんとよ全く。」
 「と、とにかく行こう!!」
いい加減恥ずかしくなったので早く行こうと提案する。最も、二人の笑いはしばらく収まらなかったが。
大きな建物へ続く階段。とても長い。どれだけ登っても頂上に辿り着く気がしない。
 「霊夢、ほんとにここ頂上あるの?」
茉鵯禍が疑うように霊夢に問う。
無理もないだろう。何段登っても頂上が見えないのである。
 「あるに決まってるじゃない。まぁ異様に長いけどね・・・」
 「あぁ。いい運動どころのものじゃないぞこれは・・」
さっきまで大爆笑していた二人も流石に疲れたようで、息が上がっている。
しばらくして、頂上が見えてきた。 
 「霊夢、もうすぐ頂上だよ・・・はぁ、あと少し、はぁ、あと少し頑張ろう・・はぁ。」
 「はぁ・・・えぇ・・そうね・・・。」
 「もう少しで・・・ひぃ、着くぜ。」
最後の一段は全員で同時に上った。後ろを向いても空と雲しかないので特に面白いものは見えないが、大きな達成感があった。
 「はぁーっ!!やっと終わった!!」
 「えぇ・・!!やったわ私達。」
 「ほんとだぜ!!」
全員でハイタッチをした。
しかし、達成感に浸っていられたのも束の間だった。突然、多数の人魂が一行を囲む。
 「人魂に囲まれた!?」
 「茉鵯禍、ここは冥界よ?人魂がいて当たり前じゃない。」
 「やっぱりうじゃうじゃいるなぁ。」
あれほど疲れていたというのに、もう回復したのか、相変わらず暢気な二人に驚いた。必死に何かを言おうとしたが意味がないと気付いたので何も言わないでおいた。
一斉にこちらに向かってくる人魂。食べられてしまうと思って茉鵯禍が目を閉じた矢先、人魂が全部真っ二つになって消えていった。
 「・・・?」
 「まったく何かと思えば・・・来るなら連絡してって言ってるじゃん。」
茉鵯禍が目を開けると、そこには、一人の少女が刀を携えて立っていた
 「ごめんごめん・・・じゃあ今言ったわ。」
 「そうだな今言ったから問題ないぜ。」
 「いやいやダメだって!!意味ないってそんなの!!」
少女のような見た目に違わず、必死に抗議する姿が可愛い。
 「もう少し寛容になってよ妖夢。」
 「誰のせいよ誰の!!」
短めの銀髪、黒いリボンに緑色のベストにスカート。後ろには刀が刺さっている。そして何より、横に何かが浮いている。
 「茉鵯禍、この子が妖夢よ。」 
 「どうも。自分は野神・・・」
言いかけたところで彼が両手を上げた。妖夢が剣を突き付けてきたのだ。それも笑顔のままで。
 「・・・自己紹介もさせて頂けないんですか?僕としては平和にいきたいのですが。」
少し挑発するように問う茉鵯禍。
 「自己紹介など不要ですよ?なぜなら貴方はここでお帰りいただくか私に斬り伏せられるかの二択しかないのですから。」
笑顔のままの彼女。しかし、先ほどのような振る舞いとは違う、恐ろしい程強い殺気。様子が一瞬で豹変した。
 「・・・なぜそんな物騒なことを?」
 「・・・私達もう疲れたから先行ってるわね。頑張ってちょうだい。」
 「頑張れよ!!茉鵯禍。」
霊夢達は助けることもなく、歩みを進める。
 「えぇ・・・?分かった。すぐ向かう。」
霊夢達は行ってしまった。ここからは彼が一人で妖夢と話をつけなければならない。手を上げたまま続ける。
 「・・・人間がお嫌いですか。」
茉鵯禍の問いに不敵な笑みを浮かべて妖夢が答える。
 「いいえ、嫌いではありません。むしろ友好的な種族だと思っています。ただ、霊夢達ならとにかく、見知らぬ人間をここに入れるわけにはいかないのですよ。」
妖夢は至極当然な理屈を並べる。これに関しては彼に弁明の余地は無い。
 「・・・まぁそうでしょうね。自分は幻想郷に迷い込んだただの人間。ここが冥界であることも知っています。」
 「なら何故来たのです?それに霊夢達まで巻き込んで。」
嘲笑うように問う妖夢。
 「貴女、ここで変なお札のようなものを見たことがありますね?」
このまま普通に話していては埒が明かない。そう判断した彼がいきなり物事の核心を突いた。
 「な、何の事です!?それに質問に対して質問で返さないでください。」
突然の質問に動揺する妖夢。そしてこの反応は見たことがあるという事を隠そうにも隠しきれていないことを示す素晴らしい反応だ。
 「当たりですね。目的はそれに関する調査です。しかも調査には僕が立ち会う必要があります。場合によってはここも危険です。詳しいことを調べたいのです。その刀を鞘に収め、早急に通してください。」
 「・・・えぇ、持っています。そのお札。この幻想郷では見ることのなかった代物。しかし、それと貴方にどのような関係があるというのです。」
少々余裕がなくなってきた妖夢。顔が険しくなっていく。
 「・・・なら、そのお札を僕の目の前に出してみて下さい。僕が立ち会わなければいけない理由が分かるはずです。」
 「構いませんよ?その代わり、しっかり証明してくださいね。」
こう言うとお札を取り出し、彼に向ける。案の定、頭に激しい痛みが走る。彼は頭を押さえて蹲った。そしてすぐ、目を閉じる。
 「・・・はぁ、はぁ、分かりましたか。この反応こそ、僕が立ち会わなければならない理由です。」
一瞬の出来事にも関わらず、頭痛及び異様な発汗を見た妖夢。これには妖夢も言い返すことはできない。
 「・・・お札と何らかの関係があるという事ですか。」
 「えぇ。見た瞬間に激しい頭痛が起きる。しかもこれが現れたのは僕がここに迷い込んだのと同時期。もう何らかの関係があるとしか思えないでしょう。」
流石に妖夢も観念したようだ。刀を収めて歩き出す。
 「・・・分かりました。認めましょう。でも、貴方を信用しているわけではないので、そこは勘違いしないでください。それともう一つ・・・」
妖夢が後ろを向いた。険しい顔のままではあるが。
 「私は魂魄妖夢。この白玉楼の庭師、そしてここの主でいらっしゃる西行寺幽々子様の剣術指南役をしています。ここで怪しい行動をとれば問答無用で斬り伏せるので覚えておいてください。」
 「はい、分かりました。僕は野神茉鵯禍。幻想郷に迷い込み、霊夢や魔理沙とこのお札について調査をしています。怪しい行動をとるつもりはないので大丈夫です。」
 「・・・・よろしくお願いします。茉鵯禍さん。」
 「・・・えぇ、こちらこそ。」
      ◇◇◇◇
無事に妖夢に認められ、白玉楼に入ることが許された。そこで霊夢、魔理沙、そして水色の着物のような服を着た女性が待っていた。
 「あら、遅かったじゃない、茉鵯禍。」
霊夢が呆れた顔で言う。しかし、どこか安心しているような様子もある。
 「うん。しばらく刀突き付けられたままで会話していたからね。それに彼女、一瞬の隙も無いから。」
 「まぁ斬られてなくてよかったぜ。もうそろそろ迎えに行こうと思ってたところだ。」
 「あぁ、ありがとう。・・・で、そちらの女性は?」
茉鵯禍が霊夢達に問う。
 「あぁ、こいつは西行寺幽々子。ここの主で亡霊よ。ついでに妖夢は半分人間で半分幽霊、つまり半人半霊ってとこね。」
 「昔はやたらと人を斬っていたからな。正直ヒヤヒヤしたぜ。」
 「ちょっと魔理沙!!そんな昔の事はもういいじゃん!!」
過去の事を言われたのが悔しかったのだろうか、顔を赤くして反論する。しかし幽々子が止めに入った。
 「まぁまぁ妖夢ちゃん、そんなに怒らないで。それよりお客さんにいきなり刀を向けては駄目よ?」
 「幽々子様!!こいつはまだ怪しいのです!!信用してはなりません!!」
 「霊夢達から事情は聞いたから大丈夫よ。」
幽々子と呼ばれた女性は、茉鵯禍に近寄り謝罪する。
 「うちの妖夢がごめんなさいね。怪我はないかしら?」
とんでもなくゆったりとした口調で話すので彼は少し驚いていたが、臆することなく続けた。
 「えぇ。大丈夫です。お気遣いありがとうございます幽々子様・・・?」
呼び方が分からないのでとりあえず様を付ける。
 「あら、様なんてつけなくてもいいのよ?でも礼儀正しい子は大好き。」
 「あ、ありがとうございます。」
あっさりと言われてしまった。
 「行きましょ。幽々子、お札を見せてもらえる?」
 「はいはいこっちよ。茉鵯禍、後でお庭も見て行ってね。」
 「いいのですか?確か妖夢さんが庭師をしていると聞いているのですが。」
 「えぇ、凄い腕前よ。期待していてちょうだい。」
 「はい。」
この時、妖夢は、余計なことを言うなと言わんばかりに幽々子を睨みつけたが、幽々子本人はさほど気にしてはいなかった。
      ◇◇◇◇
茉鵯禍達一行は和室に通され、妖夢がお札を持ってくる。
 「ふむ、同じやつね。茉鵯禍が実践したはずだから分かるはずだけど、これを見ると彼は激しい頭痛を起こす。調査のためだからこれ全部渡してちょうだい。」
 「頼むよ、幽々子。」
霊夢と魔理沙が交渉をしている一方、茉鵯禍は目を閉じ、後ろを向いている。
 「嫌!!これは私が見つけたの!!だから渡さない!!それにこれどうやって食べようか研究してないもの。」
自分が見つけたからこれは自分のものだと言い張ることには驚きもしなかったが、最後の一言で場の全員が固まった。妖夢に関して開いた口が塞がっていない。
 「聞いたか。これ食うって言ったぞ!!」
「流石大食い。考えることがぶっ飛んでるわ。」
 「「・・・」」
驚愕する魔理沙、呆れる霊夢、言葉を失う茉鵯禍と妖夢。
 「というわけで妖夢ちゃん、このお札しゃぶしゃぶの肉に見えるから、しゃぶしゃぶにして食べてみましょう?」
笑顔で恐ろしいことを言った。しかもしゃぶしゃぶの肉に見えるという理由で。
 「いやいやいや幽々子様!!駄目ですってそんなこと!!お腹壊しますよ!?」
妖夢が必死に止める。
 「駄目なの?」
 「駄目ですよ幽々子様!!」
 「お腹壊そうが何しようが勝手だけど渡さないつもりなら幽々子・・・どうするか分かってるわよね?」
更に呆れた口調で霊夢が問う。
 「えぇ、でもまずは妖夢ちゃんと戦ってみてもらえる?最近修行頑張ってるから強くなったはずよ。もし妖夢ちゃんが負けたら私が相手をする。私と妖夢ちゃんの二人に勝てたらお札を渡すわ。」
 「おいおいおい二対一かよ、大丈夫か?霊夢。」
 「そうだよ。流石に分が悪い。」
数に差がある為心配する二人。
 「いいえ、大丈夫。どうせそうしないと勝っても渡してくれないだろうから。」
呆れた顔で答える霊夢。それでも幽々子は満足したようで。
 「じゃあ始めましょう。頑張ってね!!妖夢ちゃん!!」
笑顔で妖夢に声援を送る幽々子。妖夢も期待に応えようと集中している。
      ◇◇◇◇
 「妖夢、楽しみにしているわよ?強くなったならそれを見せてちょうだい。」
 「ふん、そんなことが言えるのも今のうちだよ。私は修行頑張ったもん。霊夢こそ先に倒れないでね?」
お互いに挑発し合う。しばらく向き合って。
 「はぁぁっ!!」
そして妖夢が動いた。霊夢を斬りつけようと刀を大きく振り下ろす。しかし、霊夢の大幣によって防がれた。しかし霊夢が押されている。
 「あら、一撃が重くなったわね。強くなってる証拠だわ。でもそんなんで終わりじゃないでしょ?」
 「もちろん。まだまだいくよ!!」
一度後ろに下がって刀を握り直す。そして恐ろしい程早く斬撃を叩きこむ。流石に霊夢も避けるのが大変そうだ。実際何度か当たりそうになっていた。
 「あれ、攻撃してこないと当たらないよ?どうしたのかな。霊夢。」
 「分かってるわよそんなこと。あんたこそ気をつけなさい。」
霊夢が飛んだ。そして空中で制止して下に向けてお札を飛ばす。基本、お札の弾道は一直線だが、中には妖夢めがけて飛んでくるお札もある。お札の数も多いので、妖夢も下手に攻撃の構えをとることが出来ず、ただ降ってくるお札を避けるか斬るかしかできていなかった。
 「あら、形勢逆転ね。あんたこそ避けてばかりじゃない。さっきまでの勢いはどこへ行ったのかしら。」
今度は霊夢が妖夢を挑発する。しかしそれだけでは終わらなかった。
 「そんなんじゃ幽々子がやられるわ。主を守れない従者なんて悲しいわね。」
今の一言で妖夢が完全に怒った。霊夢もそれを狙って言ったように見える。
 「・・・いつか私は言ったはずだよ。斬れないものはあんまりないと。幽々子様を危険に晒す輩は全員斬り伏せられる。霊夢、今の発言、撤回するなら今だよ?」
本気で怒っているようだ。眼光は鋭く、見るものを確実に怯えさせるほどの声色である。しかし、謝るどころか霊夢はさらに言った。
 「あら、じゃあ斬ってみなさい。強くなったんでしょう?」
最後の最後まで妖夢を煽る。流石に可愛そうだと茉鵯禍は思ったが、黙っていた。
 「・・・なら、お望み通り斬ってあげる。極楽浄土に行けることを願ったまま斬られてもらうよ!!」
 「人符 [現世斬]  」
無数の斬撃を叩きこみながら飛び上がる。そして霊夢の前まで飛んでくると最後の一撃を食らわせた。初めて霊夢が血を流したのを見た。かすっただけのようだが、まともに食らっていたらひとたまりもないだろう。
しかし、霊夢が動いた。妖夢の後ろに回り込み、襟を掴んだ。首の後ろを持たれた妖夢はジタバタしている。
 「は、放してよぉ!!」
必死に抵抗するが、無駄だった。霊夢がこう言った。
 「・・・さぁて。これで終わりよ。あんたの負け。霊符・・・」
 「ぎゃあぁぁぁぁ!!!」

 「・・・あれ?」
霊夢は動かず、技を繰り出す様子もない。
 「こ、攻撃しないなら意味は・・・」
妖夢が動こうとしたその時。
 「はい、お疲れさん。」
ここまで言って霊夢が手を離す。そして一直線に落下していく妖夢。見事な自由落下とはこのことだ。
 「みょぉぉぉぉぉぉぉぉん!?」
 「茉鵯禍!!・・・お願いね。」
 「えぇ!?・・・分かった!!」
彼は急いで妖夢の真下に移動し、落ちてくる妖夢を受け止めた。戦っている時は気迫はあったが本当はまだ少女のまま。体は小さく軽い。そして何より怖かったのだろう、泣き出してしまった。
 「う、うえぇぇぇん!!・・・ひっぐ、えっぐ、うぐ・・・。」
 「大丈夫ですか?妖夢さん。もう大丈夫ですよ。さぁ幽々子さんのところへ行きましょう。幽々子さん待ってますよ。」
 「う・・・うん。」
無事に受け止めたのを見届けた霊夢が降りてきた。
 「さて、次はあんたよ、幽々子。」
泣きついてきた妖夢を抱きしめながら幽々子が答える。
 「構わないけど、ちょっとやりすぎよ。私の可愛い妖夢を落とすなんて。」
 「そうだぜ霊夢、なんかもう少しなかったのか?」
「大泣きしてるよ、霊夢。それにさっきの発言からどうかと思ったんだよね。」
茉鵯禍を含めた全員が非難する。
 「うるさいわねぇ。こうでもしなきゃ諦めないでしょ?それに、あそこまで言わないと本気で斬りにこないんだもん。それに、無事に受け止められたんだから良いじゃない。」
 「まぁそうだけどよ・・・。」
 「いいわ霊夢。妖夢の敵は私が討つ。茉鵯禍、魔理沙。妖夢を見ててもらえる?」
 「分かりました。」 「任せろ。」
      ◇◇◇◇
幽々子は相変わらずおっとりとした様子で霊夢のもとへ向かう。
 「霊夢、お互いに手加減はしなくても良いのよね?」
 「当たり前じゃない。どこからでもかかって来なさいな。」
正面にお互いが向き合う。霊夢は大幣を構え直し、幽々子は扇子を開く。
今度は霊夢が先に動いた。正面の幽々子に向かって突っ切っていく。この時、茉鵯禍は違和感を覚えた。
 (あのやり方は妖夢さんと同じ・・・幽々子さんも霊夢のようなやり方で動いてくるだろう。そうなった時には状況が同じになり、負けてしまうかもしれない。仮に正面ではなく、後ろからマウントを取ろうとしても、うまくはいかない可能性もある。霊夢、一体どうするつもりなんだい?)
 「あら、それじゃ妖夢と同じじゃない。それなら話は早いわ。」
幽々子が弾幕を展開する。広い範囲まで広がっていく上に一つ一つの弾が小さく、大量に発射されているため、避けるのは難しい。更に、殆どの弾が霊夢を追跡する。本当に妖夢と同じ形勢になってしまった。
 「あら、妖夢に手本を見せようとしているだけよ。本来ならあんたなんか夢想封印で一発なの。」
弾を避けながらも涼しい顔で答える霊夢。
 「あら、じゃあ私はそのお手伝いね。妖夢が強くなるなら私、頑張っちゃおうかしら。」
ゆったりとした口調は変わらないままだが、幽々子の弾幕がさらに増えた。範囲は広くなり、弾の数も多くなった。一見するとこれは明らかに霊夢のピンチである。しかし、霊夢には考えがあった。
 (このまま突っ切れば妖夢と同じになる。相手は幻想郷の五大老と恐れられたうちの一人。一筋縄ではいかない相手ね。さてどうしたものか。あの方法を試してみるか。)
 「あーらら。霊夢どうした?このままでは負けちまうぞ?」
 「霊夢、どうして私と同じやり方で戦ってるの・・・?」
ここで急停止した。そして高く飛び上がる。
 「あら、無駄よ?この桜(たま)は上にも舞い上がる(飛ぶ)のよ?」
 「そんなの知ってるわ。まぁこの時点であんたの負けだけどね。」
霊夢がいきなり勝利宣言をした。そして、上空からお札を大量に投下する。桜形の弾に当たってはお互いに消えていく。幽々子が発射する弾の全てが霊夢に向くようになった。それでも霊夢はお札と大幣を使い、打ち消していく。
 「あら、どうしたのかしら。そのままでは攻撃できないでしょう?」
本当に不思議そうな表情で問う幽々子。
 「もうすぐ攻撃が当たるはずよ。」
 「あら・・・いくら私でもそんなハッタリは通用しないわよ?」
確証を感じられない勝利宣言をする霊夢。それに対して、どこか嘲笑と哀れみの表情を浮かべる幽々子。
 「・・・言い残したことはそれだけのようね。」
この時点で勝っていると宣言している霊夢。それがハッタリなのか、それとも本当なのかは彼女にしか分からない。そして霊夢はさらに高く飛び上がり、そこで何かを唱え始めた。
 「・・・・決まったわ。完全勝利とはこのことね。」
 「あいつは何言ってるんだ?まだ確定できるはずないのに。」
 「そうだよ!!幽々子様は負けないもん!!」
 「でもあれだけ自信があるなら本当に何か考えがあるのかな。」
三人全員が不思議そうに霊夢を見ている。
しばらく見ていると、魔理沙が一つの可能性を見出した。
 「・・・なるほど。分かったぜ、あいつの考え。」
 「嘘!?」 「本当かい?」
二人が驚きの表情で魔理沙を見る。そして魔理沙も笑顔で答える。
 「詳しくは見てれば分かるから言わないでおくが・・・。」
白玉楼に来てから一番の笑顔で言った。
 「この勝負も霊夢の勝ちだぜ!!こいつらはきっと面白いものを見せてくれるはずだ。」
二人が驚いている間に、霊夢は降下を始めていた。上昇した速さより遅いが、その間に陰陽玉を出した。攻撃の入り方は妖夢とほぼ同じである。しかし、何かが違う。そう察した幽々子が動こうとしたその瞬間、霊夢が勝利宣言をした訳を全員が理解した。
 「あら、攻撃が激しくなりそうね。じゃあ私もそろそろ・・・」
その瞬間、幽々子が足元を見た。一瞬後、霊夢を見上げて言う。
 「・・・そう簡単には倒せないようね、流石博麗の巫女。」
幽々子の周りには結界が張られてあり、幽々子は動くことが出来なくなっていた。だから霊夢は勝利宣言をすることが出来たのだ。
 「あら、分かっちゃった?でももう遅い。大人しく食らいなさい!!」
 「あら、最後まで諦めないわ。」
幽々子が新しい弾幕を展開した。半分は霊夢に真正面からとんでいくもの。もう半分は幽々子を取り囲んで盾のような役目をする。
霊夢があの技を出した。
 「これで終わりよ。妖夢のために、本当の敗北を見せてあげる。」
 「霊符  [夢想封印] 」
紅魔館門前での戦いで出した技。陰陽玉から飛び出す無数の発光する球体。飛んで、当たって、爆発。そして霊夢は直接幽々子に当てるために、向かってくる弾を全てお札と大幣で消し去った。盾となっていたものは全て無くなり、残りの球体が幽々子に直撃する。鮮やかに散っていく幽々子。桜は美しく散り続ける。白玉楼総力戦、終結。
 「・・・さ、お札をよこしなさい。」
 「えぇ、約束は守るわ。妖夢、机の上にあるから持ってきてちょうだい。」
 「幽々子様・・・。承知しました。」
 「流石だぜ霊夢。まさか結界を張るとは考えてなかった。」
 「幽々子さんの弾のすごく美しかったですよ!!桜の形をしていたのがとても優雅に感じられました。」
 「あら、ありがとう。満足してもらえたみたいで嬉しいわ。・・・ちょっと手を貸してもらえる?」
 「はい。」
倒れてしまった幽々子を起こした時、妖夢が戻ってきた。そこには何枚ものお札がある。
 「これで全部よ。持って行きなさいな。」
 「最初からそうしてれば良かったのよ。」
白玉楼での争いは無事に幕を閉じ、昼ご飯をご馳走になることになった。
      ◇◇◇◇
 「はー美味しかった!!妖夢、また腕上げたわね。」
 「あぁ前回より美味かったぜ。」
 「大変美味しかったです。料理お上手なんですね。」
三人が妖夢の料理の出来を褒める。
 「えへへ、ありがとう。」
 「そうよ、これが妖夢の腕よ!!」
 「なんであんたが自慢げになってるのよ。」
食卓に笑いが起きた。
 「それにあんた食いすぎよ。よく倒れないわね。」
 「いや、霊夢もだぜ。」
 「そうだよ。幽々子様が二人いるって思ったもん。」
 「まぁ、疲れてるときの食事は普段より美味しいからね・・・・。」
こう言ったものの、二人の食事の量は尋常ではなかった。幽々子は大皿のおかずをほとんど一人で平らげ、ご飯も半升分ぐらい食べただろう。霊夢もここまではいかないが、茉鵯禍達よりはるかに多く食べている。途中、妖夢が幾度となく次の料理を持ってきた。
 「いやぁ、妖夢のご飯は美味しいからいくらでも食べられちゃうのよね。」
 「亡霊と共感なんかしたくないけどそれは分かるわ。」
また一つ大きな笑いが起きた。
 「そういえば思ったんだけど、霊夢はちょっとケチじゃない?前の異変の時もそう。春を分けてくれても良かったじゃない?」
 「あら、もっかい戦って説教されたいのかしら?もうあんなことはこりごりよ。」
 「あー、幽々子さんもなんかやったんですか・・・。」
 「そういえば霊夢、こいつにも異変の話してやろうぜ?紅魔館の時も話についていけてなかったしな。」
 「そうね・・・。でも直接本人に言わせた方がいいと思うわよ?」
 「まぁ、そうだな。今の異変の主犯は幽々子だから聞いてみるといい。」
幽々子が少々驚いている。それも当然と言えば当然なのかもしれない。かつて自分が起こした異変の話をいきなり迷い込んだ見ず知らずの人間に話すのは幽々子に限らず多少の抵抗はあるだろう。
 「いや、流石にそれは申し訳ないよ。いくら何でも今日初めて会ったばかりの人にそんなことは聞けない・・・。」
茉鵯禍がかぶりを振って幽々子の方を見る。しかし、幽々子は。
 「あら、話すことなど容易なのに。聞きたくなかったかしら?」
幽々子が不思議そうに首を傾ける。ここまで来たら聞いていこう、と彼は決めた。
 「・・・差支えない程度で聞きたいです。」
 「・・・えぇ。それはある春の日・・・。」
幽々子が異変の事を語り始めた。それはこんな内容だった。
暖かい春の日。桜は舞い、博麗神社では妖怪たちが宴会を開くこの季節。しかし、春が来ない。五月になっても、冬のように雪が降り続けた。寒いことを嫌う霊夢、家の前に桜の花びらを見つけ、これを頼りに春を探そうとした魔理沙、紅魔館の燃料が尽きそうになったために、冬を終わらせようとした咲夜の三人が異変解決の為に動き出した。後に「春雪異変」と称されたこの異変は、幽々子が、庭にある封印された桜の木、「西行妖」を満開にすることで封印を解こうとしたのがすべてのきっかけだった。西行妖を満開にするために、妖夢と協力して、春を集めた。幻想郷内で五月になっても春が来ず、雪が降っていたのはそのためである。最初は別々に行動していた彼女らは、最終的に幽々子と妖夢の本拠地である白玉楼に辿り着く。白玉楼では、すでにほとんど満開、つまり八分咲き程度になっていた。本当の白玉楼総力戦はとても激しい戦いだった。幽々子や妖夢はもちろん、霊夢や魔理沙も必死に戦い抜いたという。その結果、霊夢達は春を取り戻すことに成功したのだった。
ここまでが幽々子や妖夢から聞いた話だが、ここからは茉鵯禍が後に別の人から聞いた話になる。その人曰く、この異変の恐ろしい点は春が失われることではなかったという。なぜなら、幽々子が消失する可能性を秘めているがあるからだ。
話によれば、この西行妖はもともとは普通の桜の木だった。そして、幽々子の父親は有名な歌人であり、この桜をこよなく愛していたという。幽々子の父親は生前、こう言ったそうだ。
 「自分が死ぬときは、この桜の木の下で死にたい。」
そしてその彼の望み通り、幽々子の父親はその木の下で息を引き取った。彼は様々な人に慕われており、彼を慕っていた人々が、次々にその木の下で自殺しようとした。そのために桜の木は人の精気を吸い取り、西行妖という姿で妖怪になり、咲くたびに人を死に誘う恐ろしいものになってしまった。幽々子は元から「死霊を操る程度の能力」を持っていたが、この影響で「死を操る程度の能力」に代わってしまった。父が愛した桜は、人を殺す妖となってしまったこと、そして自分も同じように人を殺せるようになってしまったことに気づいた幽々子は、嘆き、落胆し、ついには西行妖が満開になったその時。
彼女も自ら命を絶った。
死しても力がある限り、どんどん人を死へと誘い続けると考えられた結果、幽々子の身体を鍵として、西行妖を封印したそうだ。亡霊となった幽々子は生前の記憶が無いため、苦しむことなく、生活している。その時に、たまたま、西行妖には何者かが封印されていると知った彼女は、その封印を解こうとしてこの異変が起きた。つまり、幽々子が封印を解き、復活させようとしたその人物は幽々子自身であり、もう少し遅ければ、封印が解け、死体が解き放たれ幽々子を亡霊のままでいさせている力が消える。
これは、西行寺幽々子の完全なる消滅を意味している。今回は間に合った為に、封印が解けることはなかったが、彼女が封印されていることを彼女自身が知ることはなかったそうだ。
      ◇◇◇◇
 「・・・なるほど。だから幻想郷内に春が来なかったと。」
 「えぇ、そういう事よ。結局・・・誰が封印されていたのかは分からなかったけどね。まぁどうせ変な妖怪か何かでしょうけど。」
 「まぁ、私の庭の木に何が封印されていようとも、私には幻想郷の仲間や可愛い妖夢がいるから問題ないわよ。」
どこか遠くに思いを馳せているような顔を浮かべて幽々子が締める。
 「そういえば、妖夢と私が戦ったのもあの時が初めてだよな。」
魔理沙が別の切り口から話を続ける。
 「そうだね。あの時の魔理沙はとっても強かったなぁ。」
妖夢もまた、昔を懐かしんでいるような様子である。
 「いろいろあったんですね。でもその西行妖というのは今もここにあるんですか?」
 「えぇ。妖夢が手入れしている庭にあるわよ。見に行きましょう。」
 「はい。楽しみです。」
というわけで、妖夢が手入れしている庭と、そこにある西行妖を見に行くことになった。
 「なんと美しい!!流石妖夢さん!!」
これが庭を見た茉鵯禍の第一声である
 「あら、分かってくれるのね。貴方いい目をしてるわ。」 
幽々子が誇らしげになる。
 「はいはいどうせ分かりませんよだ。」
 「へいへいどうせ分からないのぜ。」 
霊夢と魔理沙が同時に同じことを喋ったので笑ってしまったが、この庭は確かに美しい。枝は綺麗に剪定され、下の砂利は真っ白。それほど手入れが行き届いているのだった。
茉鵯禍はここまで綺麗な庭は見たことはないであろう、と話す。
 「あれが西行妖よ。あの一本だけ何も咲いていないあの木。」
幽々子が指さした先には一本だけ何も生えていない、どこか寂しさを感じる木が一本生えていた。封印こそされているが、どこか妖しい雰囲気がある。しかし、茉鵯禍は庭の美しさに圧倒され、寂しいと感じるどころか、あれもまた一つの美である、と思った。
庭を見学した後、霊夢と魔理沙、そして幽々子が昼寝を始めた。畳の上に雑魚寝ということで、それは面白い光景だった。少しずつ妖夢の信頼を得た茉鵯禍は、妖夢と片付けの手伝いを終えた後、縁側に座りながら庭を眺めていた。妖夢にはまだ仕事が残っているらしいが、茉鵯禍はお客人だという事で、それ以上の手伝いはさせてもらえなかった。
しばらくすると、妖夢が仕事を終えて戻ってきた。
 「・・・おや、妖夢さん。お疲れさまでした。」
 「いえ・・・。そうだ。私の事は妖夢って呼び捨てで構わないからね!?それにそんな丁寧な言葉じゃなくてもいいのに。」
 「あ、うん。ありがとう。」
 「隣いい?」
 「いいよ。」
妖夢が隣に座った。
      ◇◇◇◇
庭の手入れの話や剣の話などいろいろな話をしている中、突然、妖夢が頭を下げた。
 「あの、さっきは本当にごめんなさい。」
 「んん?どうしたんだい、いきなり。」
少し泣き出しそうな様子で妖夢が答える。
 「その・・・ここに着いた時、いきなり刀を向けたうえに冷たい態度をとって。それに助けてくれた時もお礼ができなかった。」
 「・・・あぁ。そんなこともあったね。でも気にしなくたって良いんだよ?確かに自分は幻想郷に迷い込んだばかりだから不審な人間に見えるのは仕方ない。でも君は主を守るためにやったことでしょう?なら自信を持っていいと思うよ?まぁ、強いて言うならいきなり笑顔で刀を向けられるのは流石に怖かったけどね。」
 「・・・ありがとう茉鵯禍さん。」
 「自分の方こそ呼び捨てで構わないよ。改めてよろしくね、妖夢。」
 「・・・うん!!」
二人はなんとか打ち解けることが出来た。今握手を交わした時の妖夢の顔は数時間前のそれとは違い、明るい笑顔だった。
その後、妖夢も寝てしまった。普段の幽々子もあれほど食べるらしく、料理や片付けに追われているうえに霊夢との戦闘もあり、疲れているのだろう。
彼は、妖夢を霊や魔理沙達が寝ている部屋に運ぼうとしたが。
 「・・・。」
背負っていくと妖夢が起きてしまいそうなので諦めたが、運ぶには抱きかかえていくしかなくなった。初めてお姫様抱っこをした瞬間である。
 (・・・せめて部屋に着くまでは目覚めないでおくれ・・・。)
少し顔を紅潮させた茉鵯禍だった。
無事に部屋に運ぶことが出来たが、一緒に寝ていたはずの幽々子の姿はなかった。
 「・・・お疲れ様、妖夢。」
彼は言い残し、また縁側へと戻った。妖夢も霊夢達よろしく幸せそうな顔で寝ている。
      ◇◇◇◇
 「ありがとう茉鵯禍。」
いきなり幽々子が現れた。流石亡霊。壁をすり抜けてのご登場なので二倍驚いた。
 「ん!?あ、どうも幽々子さん。」
今度は幽々子が隣に座ってきた。
 「貴方、疲れてない?まだ迷い込んだばかりだから慣れないこともあるでしょう?」
 「・・・えぇ、それもありますね。記憶も曖昧なままここに迷い込んだというのは正直大変困ります。それでも・・・。」
一瞬空を見上げて、息を吸い込む。そして微笑みながら。
 「自分は幻想郷が楽しい世界だと信じています。」
それを聞いた幽々子は、優しく頷いた。
 「それは良かったわ。また機会があればここに寄ってきてね。」
そう言い残すと、突然、幽々子と茉鵯禍の間に桜の花びらが大量に割り込んできた。視界が戻るころには、幽々子の姿はなかった。
 「・・・自由な人ですね、幽々子さんは。」
幽々子を探そうと後ろを振り向くが、姿はない。代わりに、霊夢がやって来た。
 「おはよう。そろそろ行きましょ。」
 「んぉ、行くか?」
魔理沙もやってくる。
 「そうだね。」
一行は白玉楼をあとにした。出るとき、幽々子が屋根の上に立ってこちらを見守っていたのを茉鵯禍は気付かなかったことにした。
      ◇◇◇◇
すっかり夕方の気候になった。時間にしておよそ五時頃だろう。特にこれといってめぼしい場所はないという事で、少し早いが今日の探索を終えることになった。
幻想郷にもなぜか人里があり、そこで夕飯の買い物をしていくことになった。人々は着物を着ていてさながら江戸時代のような感覚を覚える。それでもこの地に普通の人間がいるということは彼からすれば大変複雑な気持ちではあったが、とても平和な場所だった。ここは人間がと妖怪が共生しているような感じだった。
 「おや、茉鵯禍じゃないか。」
 「おや、どうも慧音さん。」
偶然、慧音に出会った。
 「あら、慧音じゃない。授業終わったのかしら。」
 「あぁ、いつも通りあいつらはやんちゃだがな・・・。」
苦笑いを浮かべる慧音。
 「あいつら元気にしてるか?」
 「おかげさまで元気にしてるぞ。あいつらもお前らに会いたいって言ってたしな。」
そして慧音は茉鵯禍の方を向いて言った。
 「ところで茉鵯禍。丁度いい。君に用があってな。」
ここで一回深呼吸をした。そしてこう続けたのである。
 「君・・・寺子屋に来てみるかい?」
 「「ええぇぇぇぇ!?」」
三人の声が見事に揃ったので慧音が少し困っていたが続けた。
 「ちょっとどうしたのよ。自ら寺子屋に誘うなんて珍しい。」
 「まったくだ。こいつ一応人間だぞ?ただでえあいつらに手ぇ焼いてるのに大丈夫なのか?」
霊夢と魔理沙が慧音に問い続ける。
 「あぁ、偶然紫に会ってな・・・。」
      ◇◇◇◇
 「あら、慧音。こんにちは。」
 「おやおや、紫じゃないか。」
 「元気そうね。そういえばこの前茉鵯禍に会ったんでしょう?どうだったかしら?」
 「ん、あぁ。なんか面白そうな人間だ。」
 「で、考えたんだけど。」
 「どうしたんだ?」
 「私の考えでは、彼は外の世界でいうところの学生・・つまり寺子屋にいるあの子たちみたいな立場だと思うのよ。」
 「はぁ。そうだな、あいつらよりは年上だが、大人って訳でもなさそうだ。・・・でもそれがどうしたんだ?」
「外の世界の学生っていうのはあの子たちと同じように学校というところで勉強していると聞いたことがあってね。」
 「・・・だから誘ってみたらどうだって言いたいのか?」
「ご名答。勉強という日常でしてきたような行動をすることで何か思い出すことがあるかも知れないじゃない?最も、彼はあの子たちのレベルの授業じゃ意味がないだろうから、ここ(幻想郷)の話でもしてあげたらいかがかしら。」
 「それもそうだな・・・聞いてみるよ。」
 「分かったわ。」
      ◇◇◇◇
 「・・・という話があったわけなんだよ。」
 「そうですね・・・。確かに学校には行っているはずです。記憶はありませんが。」
口元に手を当てて考え込む茉鵯禍。
 「あーそういえば学生の本分は勉強だって言葉聞いたことあるな。こういう意味だったんだな。」
何かを心得たかのように頷く魔理沙。
 「まぁ、紫にしては面白いことを言うものね。行ってきたら?茉鵯禍。」
 「それは嬉しいけど、大丈夫かな。なんかあった時に困るだろうし・・・。」
 「あちゃー、それがあったな。でも大丈夫だぜ。私たちは幾度となくこの幻想郷の異変を解決してきたから強い。それに慧音もかなりの実力者だから問題は無いぜ。」
 「そうよ、頑張って勉強してきなさいな。」
 「・・・どうだ?君もまだ分からないことだらけで混乱しているだろう。その状態で勉強するのは難しいかもしれない。ただ、慣れ親しんだはずの事をすることで少しでもヒントがあればと思ったんだが・・・。」
慧音の顔が曇っていく。そして茉鵯禍は。
 「よろしくお願いします慧音さん、いえ、慧音先生!!」
「・・・そうか。良かった。・・・よし!!明日から君も私の生徒だ。妖精や妖怪しかいないが、仲良くできると思うぞ。ちなみに寺子屋はあそこだ。朝来てくれればいいから、寺子屋で待っているぞ!!」
慧音の顔が一気に明るくなった。
 「はい!!」
こうして茉鵯禍が寺子屋に行くことが決定した。
慧音と別れた一行は博麗神社に向かう。話によれば、今夜、白玉楼からは妖夢と幽々子の
二人、紅魔館からは咲夜が、霊夢と魔理沙と一緒に彼の歓迎会を開いてくれるらしい。もちろん、紫も参加するようだ。
    ◇◇◇◇
 「ただいまですー。」
 「疲れたぜぇ。」
 「全くよ。でもこのあとはみんなで飲むわよ!!」
 「「おー!!」」
するとスキマから紫が現れた。
 「紫、まだ準備できてないわよ?」
 「まぁ、それは私も手伝うわ。まだ皆は来てないようだから今のうちに言っておくわ。」
最初は微笑みを浮かべていたが、急に真面目な顔になって言った。
 「・・・茉鵯禍、今夜は私の家に来てもらえるかしら。」
突然紫がそんなことを言い出した。全員が困惑する。
 「・・・何かあったようね、紫。」
 「どうしたんだ?」
空気が引き締まる。何かあったとみて間違いはなさそうだ。
 「気のせいかも知れないのだけど、貴方から感じる不思議な力のようなものが少し大きくなっている気がしてね。それに貴方の事をいろいろ詳しく調べたいのよ。今持っているものや記憶がどこまで失われているのかとかをね。」
 「・・・そんなまさか。」
彼が少し落胆する。まさか自分がそんなことになっているとは感じなかったからだ。
 「ならしょうがないわ。茉鵯禍、今夜は紫の方に行ってあげてちょうだい。こいつはごくごく稀にだけど面白いことに気づく時があるのよ。可能性は圧倒的に低い。もはや無いと言っても過言ではないけど、少しでも可能性があるなら調べるべきだと思うの。」
霊夢はことごとく紫を煽りながらだが、茉鵯禍に紫のところへ行くように促す。
 「分かりました。お世話になります。紫さん。」
 「じゃあ、歓迎会が終わったら家に案内するわ。」
 「霊夢、一回戻ってもいいか?せめてシャワーぐらいは浴びたいんだが。」
 「いいわよ。すぐ戻って手伝ってくれるならね。」
 「分かったぜ。じゃあ後でな。」
魔理沙は飛んで行った。
 「霊夢、何か手伝おうか?」
 「いいえ、大丈夫よ。みんなを待っててあげて。」
 「了解。」
      ◇◇◇◇
しばらくして、咲夜がやって来た。
 「どうもこんばんは、咲夜さん。」
 「あら、こんばんは。元気そうで良かったわ。今日の為にいいお酒持ってきたのよ。」
 「わぁ、ありがとうございます!!」
 「いいのよ。それにお嬢様が貴方とお話してみたいって言ってたわ。」
 「おやおや、レミリアさんが。これは嬉しいですね。」
 「また機会があったら紅魔館へいらっしゃい。待ってるわよ。」
 「はい!!」
そして咲夜は中へ入ろうとした。そしてその直後、中からは紫の悲鳴と霊夢の怒鳴り声が聞こえる。
 「きゃあ!!霊夢、焦げちゃった!!」
 「何やってんのよ紫!!咲夜、来てもらって早々に悪いんだけど、手伝ってもらえる?紫に任せると駄目なのよ。」
 「分かったわ。」
咲夜は一つため息をついた後、手伝うことにした。
 「ねぇ霊夢、私どうすればいいのよぉ。」
 「あんたは中で待ってなさい!!」
 「はぁい。」
平和な声が聞こえて彼も安心していた。
そして妖夢と幽々子が到着した。
 「こんばんわぁ、茉鵯禍。」
 「どうもこんばんは、幽々子さん。」
 「茉鵯禍~来たよ~。」
 「おやおや、妖夢。こんばんは。」
 「今日はねぇ、妖夢がいっぱい料理作ってくれたのよ!!美味しいお酒もあるから飲んでね。」
 「えへへ、頑張っちゃった。」
 「ありがとう、妖夢。それに幽々子さんもありがとうございます。霊夢や紫さんも中にいるはずなので行きましょう。」
 「えぇ、行きましょう。」
 「お邪魔しまーす!!」
その後、魔理沙も遅れてやって来て、歓迎会のメンバーが全員揃った。
      ◇◇◇◇
 「えーでは、野神茉鵯禍の幻想郷入りを歓迎して・・・」
霊夢が挨拶を始めた。全員の持っているグラスには咲夜が持ってきたお酒が入っている。
茉鵯禍のグラスにも入っている。
 「「かんぱーい!!」」
カキンッというグラスの音が響き渡る。全員のみ始めた。
 「ぷはぁ!!美味しい!!」
 「このお酒美味いなぁ!!流石咲夜だぜ。」
 「本当に美味しいです。ありがとうございます。」
日本であれば、彼は酒を飲めるかどうかは分からないが、年齢もはっきりしない上に、ここにはそういった法律は無いと聞く。ならばいちいち気にする必要はない。
 「そう言ってもらえると嬉しいわ。彼も飲みやすそうなお酒を選んできたのよ。大正解だったようね。」
 「えぇ、ご飯にも合うからどんどん食べられちゃうわぁ。」
 「幽々子様、食べ過ぎないでくださいね!!皆の分なんですから!!」
「分かってるわよぉ。でも私たちの持ってきたお酒は少し強いかも知れないわ。でも美味しいから飲んでみてね。」
 「はい、後程いただきます。」
 「今夜は飲むわよぉ!!ほらほらこの博麗の巫女と勝負する奴はいないのかぁ!?あんたら全員酒に弱すぎるのよ!!そんなんじゃ私には勝てないわ!!はーっはっはっはー!!」
一升瓶を振り回しながら霊夢が騒ぎ出す。
 「元気だねぇ。羨ましいぜ。」
 「まったくだ。」 「そうねぇ。」
次に話題を振ったのは咲夜である。
 「ねぇねぇ茉鵯禍、ちょっと聞いたんだけど、貴方、寺子屋行くんですって?」
 「はい、紫さんと慧音さんのご厚意で行くことになりました。」
 「あらぁ、分かってるじゃない、茉鵯禍。慧音から聞いたのね。」
 「はい、ありがとうございます、紫さん。」
茉鵯禍が頭を下げる。そして幽々子が続けていく。
 「いやぁ寺子屋ね。うちの妖夢も行かせてあげたいんだけど、この子がいないと私死んじゃうから・・・。」
 「あんた元から死んでるでしょーが。」
 「そうよねぇ。うちもね、お嬢様に行ってみたらどうかって聞いたのよ。そしたらなんて言ったと思う?」
「私、当てられる自信あるわ。」
霊夢が手を上げてアピールする。
 「どうせ、[私みたいなカリスマには知識がなくても魅力があるから大丈夫なのよ。]とでも言ってたんでしょ。」
どこか誇らしげな顔で答える霊夢。
 「すごい!!一字一句同じこと言ってたわ!!流石霊夢ね。」
驚愕する咲夜。まさか一字一句同じことを言い当てるとは思っていなかったのだ。
 「そのくらい分かるわ!!それは私がぁ、博麗の巫女だからよ!!」
会場の全員が大爆笑した。魔理沙はともかく咲夜まで腹を抱えている。
今度は幽々子が話題を振った。
 「あらあらぁ。面白い話なら私達だってあるわよ。」
 「そうですね、今日、幽々子様が・・・。」
 「よ、妖夢ちゃん、流石にその話はちょっと・・・!!」
妖夢の言動に慌てる幽々子。しかし、紫が食いついた。
「え、幽々子何やったのよ。妖夢、教えてちょうだい。
 「ゆ、紫!!・・・妖夢、教えてあげて。こいつ絶対しつこく聞いてくるから。」
苦笑いしながらため息をつく幽々子。
 「はい、ちょうど茉鵯禍達が白玉楼に来た時の話なんですが・・・。」
 「妖夢、それってあれだろ?昼寝してるときに幽々子が腹出して寝てた話だろ?あの腹は柔らかかったよな。」
 「は!?魔理沙、そんな事してたの!?」
幽々子が赤面する。
 「あぁ。柔らかかったぜ☆。」
 「いやぁぁぁ!!」
赤面しながら更に顔を押える幽々子。
妖夢がやっと軌道修正に入った。
 「ち、違うよ魔理沙!!幽々子様がその前に
とんでもないこと言ってたでしょ!!」
 「あ、あれね。あの話でしょ。」
霊夢が勘づいたようだ。
 「そう、それそれ!!咲夜、紅魔館にもお札あったよね?」
妖夢が咲夜に水を向ける。
 「あったわよ。あれがどうしたの?」
不思議そうに首を傾げる咲夜。
 「幽々子様はあれをしゃぶしゃぶにして食べようって言いだしたんだよ。」
屈託の無い笑顔で答える妖夢。そして咲夜は驚愕した。
 「嘘ぉ!?あれを!?お嬢様でさえ食べようとは言わなかったのに!!」
 「はーっはっはっはー!!幽々子、そんなことしようとしてたの!?流石大食いの考えることは違うわね。」
紫が大爆笑している。
 「いやぁ、あれは驚きましたよ。理由がしゃぶしゃぶの肉に見えるからってことなんですから。幽々子様が心配になりましたもん。」
 「でも霊夢が勝ったので我々に引き渡されたんですよ。」
 「あら、魔理沙は戦わなかったの?そういえば紅魔館では魔理沙も私達と戦ってたわよね?」
 「あぁ。でもこの大食いが霊夢一人で妖夢と自分の二対一で戦って勝ったらお札を渡すっていうからしょうがなくな。」
半分呆れたような顔で補足する。
 「そういえば妖夢ちゃんも面白い話あったわよね?霊夢に上空から・・・。」
幽々子も黙ってはいなかった。反撃だと言わんばかりに妖夢の話を始めようとする。
 「幽々子様!!そ、それは!!ねぇ?茉鵯禍。」
今度は妖夢が赤面し、茉鵯禍に助けを求めてくる。
 「ん、そうだねぇ。あれは驚いたよ。まさか妖夢が・・・」
 「うあぁぁぁぁん!!」
あえて裏切ってみたら、妖夢が大声で掻き消しにきた。
 「冗談だって。まぁこれは聞かないであげてください。幽々子さん、自分がお酌するので勘弁してください。」
幽々子は頬を膨らませているが、ご機嫌は取れたようだ。
 「あら、聞きたかったわ。妖夢の話。」
咲夜がニヤニヤしながら妖夢と茉鵯禍を交互に見る。
 「すいません咲夜さん。ここで暴露すると僕が斬り伏せられそうなんで・・・。」
茉鵯禍も苦笑いを浮かべている。
そして次の話題を振ったのは魔理沙だった。
 「そういえば霊夢は面白い話無いのか?お前の所なら賽銭が無いとかいろいろありそうなんだがな。」
賽銭箱のある場所を指さしながら問う。
しかし、実際問題として、あまり多くは入っていなかった。
 「無いわよそんなもん。あんたの方こそ毎日爆発でも起きてるんでしょ?」
今度は霊夢が言い返した。
普段から火力だパワーだと言っている魔理沙ならやりかねないと思った自分もいるが。
 「まさか!!爆発が起きるのはむしろ紅魔館だろうよ。」
そして魔理沙は咲夜に水を向けた。
 「悔しいけど言い返せないわね・・・。」
紅魔館クラッシャーナンバー2だからねと苦笑いする咲夜。
 「ちなみにナンバー1は誰なんですか?」
茉鵯禍が問う。
 「えぇ、それはもちろん妹・・・いえ、確かパチュリー様だったわ。お体が弱いからうまく制御できないのよね。」
 「そうでしたか・・・まぁ難しそうですもんね。」
苦笑いを浮かべておく茉鵯禍。
 「あ、あぁ。魔法を使うのは難しいんだ。」
茉鵯禍は納得した素振りを見せたが、咲夜が言葉に詰まって『妹』と言いかけて、それを隠すように『パチュリー』と言ったこと。
そして魔理沙に目線で助けを求めたこと、魔理沙の援護もかなりぎこちなかったということも見逃しはしなかった。
 (この人達は何か隠しているように見えるな。まぁ、ここで無理に深堀りする必要もないかな。)
冷静に判断しつつ、当たり障りのなさそうな顔を浮かべて酒を飲み、明るい顔を作った。
パチン。
音がした。指を鳴らす音。その瞬間、自分の思考は時間と共に止まる。目の前の景色をただ単に見ているだけ。
咲夜がこちらに近づき、何かを確認しているような行動をとる。次に霊夢達は、真顔で咲夜に何かを問う。咲夜は少し暗い顔をして。魔理沙たちも質問を続けているように見えるが、よく分からない。ただ一つだけ分かること。
 (自分は何かを隠されている。)
   パチン。
同じ音だ。そして全て動き出す。

 「なぁ、茉鵯禍。お前から見て霊夢ってどうだ?」
「え、魔理沙それ聞いちゃう?教えてあげようか。霊夢はねぇ・・・」
だが、
 「うるさい!!あんたら変な事言いそうだからストップ!!」
 「あーもー、分かったからその大幣を置いてくれよ霊夢。」
 「ごめんごめん。」
      ◇◇◇◇
 「さーてお前ら、二本目開けるぞ!!幽々子の酒はどこじゃ!!」
 「霊夢、かなり酔ってるねぇ。」
いよいよ呆れてきた茉鵯禍がぼやく。
 「あん!?茉鵯禍、博麗の巫女はね、こんなんじゃ酔ったりしないのよ!!」
 「はいはい。」
力説する霊夢に対し、茉鵯禍は半分呆れている。
 「じゃあ紫、全員にお酌しなさい。」
 「分かったわよ。」
紫が全員分のグラスに幽々子が持ってきたお酒を注いだ。
 「よし、全員に行き渡ったわね。じゃあもう一回・・・」
 「「かんぱーい!!」」
 「これも美味しいですね幽々子さん!!」
先程までの事を忘れようとして勢いで口に含んだ。しかし、その味は最高だった。
 「あら、貴方いい舌を持ってるわね。これが私たちの持ってきたお酒よ。」
 「あら、美味しい。これも酒屋で売ってるのかしら?」
咲夜も目を輝かせている。
 「えぇ、貴女のところの吸血鬼がこういうのを飲むか分からないけど、飲むなら買ってあげてもいいと思うわ。」
 「へぇ、ありがとう幽々子。」
情報提供が済んだと思えば。
 「幽々子ぉ、あんたはいっつも何飲んでるのよぉ。こんなんじゃ水と大差ないわ!!後で皆にも私が選んだお酒飲んでもらうわ。これを飲めば、この酒がどんなもんか分かるわ。」
更に一升瓶を振りまして霊夢が騒ぐ。
 「霊夢ぅ、倒れるなよぉ。倒れても介抱しないぜ。」
 「うるさいわねぇ、言ってるじゃない。こんなんじゃ酔わないって。」
そして話題はそのまま紅魔館の話になる。
 「そういえば咲夜、美鈴が最近寝てないんだよな。私驚いたぜ。あいつが寝てないんだもん。まぁ、あの時は寝てたがな。」
 「あぁ、それ分かるわぁ。驚きよねぇ。」 
 「あぁ美鈴ね。最近寝たらお仕置きするシステムにしてあるから寝てないのよね。」
 「お仕置き・・・幽々子様がつまみ食いするから、うちもそのシステム導入した方がいいのかな。」
 「ひどいっ!!ちょっとくらい良いじゃないの妖夢のケチ!!」
 「幽々子様のつまみ食いは、我々の普通の食事の量なんですよ!!」
「つまみ食いの程度を超えてるよなぁ、この亡霊。」
魔理沙が笑いだすが、他の人達はそうではなかった。
 「あら、魔理沙。貴女も度を越えているのよ。いい加減どうにかならないかしら。」
咲夜がため息をついて魔理沙に水を向ける。
 「んん?なんのことなんだ?」
なんとなく理由を察した彼は咲夜に問う。
 「咲夜さん、あれですよね。」
 「ほら魔理沙。茉鵯禍でさえも分かってるのよ。とぼけないでちょうだい。」
 「いやいや、ほんとに何のことだ!?私なんかしたか!?」
 「してるわね。」 「してるね。」 「してるしてる。」
魔理沙以外の全員が頷いた。魔理沙が茉鵯禍に助けを求める。
 「な、なぁ茉鵯禍。私何したんだ?私お前が来てから何もしてないぜ?」
困り顔で助けを求める魔理沙に、茉鵯禍はため息を一つついてニヤニヤしながら。
 「・・・紅魔館の図書館。」
しばらく悩んだ後、思い出したようだ。
 「・・・いやいやいや、いつも言ってるだろ!?死ぬまで借りるって。」
 「魔理沙、そこが問題なの。パチュリー様が毎日頭を抱えているの。返してもらえるかしら。」
 「嫌だぜ☆しかもあいつがもう少し貸してあげるって言ってたぜ?」
 「そうだけど・・・読み終わるまでどれだけかかるのよ。それに霊夢、貴女だってこの前、紅魔館の食糧全部盗もうとしたじゃないのよ。しかも失敗した腹いせに美鈴の顔に落書きまでして・・・。まぁ、面白かったから良いんだけどね。」
 「あぁ。紅魔館でのお話ですね。美鈴さんが言ってましたよ。そういえばレミリアさんは何か用事ですか?」
思い出したかのようにレミリアの存在を確認する茉鵯禍。
 「あぁ、お嬢様は私がいないので今ごろ部屋で[うー☆うー☆]って言ってるわよ。来るか聞いたらメンバーが少ないという事で行かないって言ってたわ。」
 「なんだよあいつ、まだうーうー言ってるのか。いつまでたってもお子様だぜ。」
 「ほんとよねぇ。五百歳の吸血鬼が言うセリフじゃないわよねぇ。」
 「ええぇ!?」 「嘘ぉ!?」
 「何よ妖夢、茉鵯禍まで。」
 「いやいや、五百歳だったんだって思ったから・・・。」
 「妖夢と同じく。」
      ◇◇◇◇
 「・・・で?咲夜はレミリアの事どう思ってるのよ。」
 「えぇ!?そうね・・・カリスマになる道はまだまだ険しいと思うわ。妖夢もそうだと思うけど、従者って意外と大変よねぇ。」
 「あ!!良かった仲間がいたぁ!!咲夜、今度一緒に飲もう?そしてお互いの苦労を語り合おう?」
 「いいわね。語るネタなら腐るほどあるわよ。」
 「それいいね!!私もいっぱいある!!」
 「「あーはっはっは!!」」
妖夢と咲夜が乾杯した。同じ従者同士感じるものがあったのだろう。
そのあともこんな具合に飲んで食べてを繰り返した。あっという間に夜もいい時間になってきた。
 「じゃあそろそろお開きにしましょう。もうなかなかいい時間でしょう。」
咲夜が動いた。
 「そうですね。皆さん、今日はありがとうございました!!とても嬉しかったです!!今後もよろしくお願いします!!」
大歓声と大きな拍手が起きる。いい締め方になったようだ。
幻想郷の住民たちによって行われた歓迎会は大盛況のまま終わった。彼自身も、住民たちとの絆が少し深まったとは思うが、複雑な心境である。
幽々子、妖夢、咲夜、魔理沙の四人は片付けが終わったところで帰って行った。霊夢は寝る支度をしている。茉鵯禍も紫の家へ向かう準備を終わらせた。
 「おやすみ、霊夢。また明日ね。」
 「はーいおやすみー。」
      ◇◇◇◇
 「お待たせしました、紫さん。」
 「えぇ、行きましょう。案内するわ。でも今日は疲れているでしょう。私も疲れたし、明日、寺子屋が終わったら来てもらえる?今日はここで寝ていっていいから。」
 「分かりました。」
ついに茉鵯禍が八雲邸に乗り込むことになった。スキマの中は暗く目のような模様が浮いている。奥に大きな屋敷が一つあるだけの空間だった。
 「あれが私たちの家よ。この家には私以外にも私の式神とその式神の三人で住んでいるのよ。」
 「そうなんですか。」
屋敷の中に入り、部屋まで案内された彼は、この家について少し説明された後、風呂に入らせてもらい、そのまま泥のように眠りについた。
翌早朝、目が覚めて起き上がると、左右の扉の外に誰かの気配を感じた。それも、紫ではない別の気配で、こちらをかなり警戒している。彼は手を上げて言った。
 「この屋敷の方ですか?怪しい者ではなので安心してください。・・・まあ、こうやって言っても無駄ですかね。」
とため息をつく。気配の主は、動かず何も喋らない。
そして気付いたことがある。周りにいるのは一人では無いこと。その人達は、左右にいること。そして、左側にいる人の方が気配を隠しきれていないあたり、力が弱い。一方の方は、完全ではないがかなり隠れている。
実力行使を覚悟した彼は思い切って左前の扉のもとへ走り、廊下に出た。するとそこには猫のような耳と、二つに分かれた尻尾をつけた少女が牙をむき出し、爪をたて、こちらを睨んでいる。攻撃を仕掛けようと向かってきたので広い場所へと走り出す。
 「あ、逃げた!!」
猫のような少女が口を開く。
 「君は一体!?」
振り向きながら、意思疎通を試みる。
 「・・・甘いぞ人間。後ろに気を取られて前の確認が疎かになっているな。」
 「な!?」
囲まれた。前から出てきた女性がほとんど隠れていた気配の主だったようだ。主は、狐のような尻尾を九本つけている。狐と化け猫に囲まれた、と後に彼は語った。
 「・・・貴女方が紫さんの言っていた、式神さんとその式神さんですね。何もそんな敵を見るような目で睨みつけなくてもいいじゃあないですか。」
 「「・・・」」
狐と猫が動いた。猫は後ろから飛びかかり、狐は弾を発射してくる、しかも弾の配置が真ん中にしか間が無いようになっている。左右どちらかに避けることが出来れば、猫の攻撃をかわすことが出来る上に、紫を探して逃げることもできた。しかし、そうもいかなくなった。彼は、一度しゃがみ込んで猫の攻撃を避け、そのまま右横にあった部屋の扉を開けて、部屋に入り込んで扉を閉め、隣の部屋、更に隣の部屋へと逃げる。狐が弾で扉を破壊し、猫が素早い動きで駆けてくる。茉鵯禍も必死に逃げたが、部屋の奥まで来てしまったため、逃げ場は無い。最後の扉を壊し、狐と猫が入り、囲む。
万事休す。もう戦うしかない。目の前に落ちている扉の木材を素早く拾い上げ、腰を落とす。周りを見渡し、作戦を考える。
 (どうする、このまま正面突破か?どうやっていこうか・・・・。)
数秒後、まずは猫に向かって走る。それを見た猫が飛び掛かってくるので、仰向けのスライディング状態で猫の爪と牙をかわし、横にいる狐の脛に木材を当てる。猫は止まることが出来ずに壁に衝突し、狐は脛を押さえて蹲っている。その隙に駆け出した茉鵯禍であったが、後ろに発射された狐の発射した弾に当たって倒れた。もう本当に逃げ場はない。
 「・・・降参です。」
すると慌てた様子で紫が入ってきた。
 「ちょっと!!みんな大丈夫!?今、大きな物音が・・・。」
紫は惨状を見た瞬間に全てを察した。
 「おはようございます紫さん。・・・申し訳ないんですが助けて頂けます?今ピンチなんですよ。」
苦笑いで助けを求める茉鵯禍。
 「えぇ・・・見れば分かるわ。そこの二人にやられたのでしょう?」
「仰る通りです。」
すると険しい顔になって茉鵯禍を見下ろす二人に怒号を飛ばした。
 「ちょっと二人とも!!何してるのよ!!家が壊れるじゃないの!!それに私の客人を傷つけるなんていい度胸じゃない。」
 「しかし、紫様!!こいつは!!」
狐が口を開いた。
 「うるさい!!壊したのは貴女ね、藍。」
 「・・・」
藍と呼ばれた女性は黙り込んだ。そして紫はまだまだ続ける。
 「それに橙!!貴女の爪でひっかかれたら、普通の人間はまず死ぬだろうと教えたはずだけど?」
「・・・ごめんなさい、紫さま。」
 「申し訳ありません。」
 「相手は私じゃないでしょ?まったく、ごめんなさいね、朝からこんなことに巻き込んで・・・。」
紫が頭を下げた。
 「え、いえいえ。それにこちらの方の脛に木材をぶつけてしまったことも謝罪しなければならないので・・・。」
 「いいえ、それは構いません。こちらが一方的に攻撃をしたばかりに・・・申し訳ありません。」
 「ごめんなさい・・・。」
藍と橙が頭を下げる。八雲家の全員が彼に頭を下げるというこの光景は、彼にとってはただただ申し訳ない気持ちになった。
 「いえいえ、そんな。頭を上げてくださいよ。怪我もありませんし・・・。」
慌てて答える茉鵯禍。実際に、被害らしい被害は無い。
 「・・・ありがとう。さ、朝ご飯を食べましょう。藍と橙は後で直しておきなさい。」
 「はい。」 「畏まりました。」
      ◇◇◇◇
朝の戦闘劇は終わり、着替えて無事に食卓に着くことが出来た。紫手作りのご飯をいただく。
 「・・・ご馳走様でした。ありがとうございます、紫さん。」
空になった食器を前に、手を合わせる。
 「いえいえ、美味しそうに食べてもらえて何よりよ。それより今日から寺子屋へ行くのでしょう?そろそろ行かないと間に合わないわよ?」
 「あ、そうですね。では、行ってきます。」
リュックを背負い、スキマを抜け、博麗神社に出てから、寺子屋へ向かう。
 「あら、おはよう、茉鵯禍。気を付けていって来てね。」
 「おはよう、霊夢。行ってくるよ。」
階段を駆け下り、寺子屋へ走る。しばらく行くと、人里に着き、ものの数分で寺子屋に到着した。
そこでは慧音が待っていた。
 「おはようございます、慧音先生。遅刻じゃないでしょうか。」
少し息を切らしながら問う茉鵯禍。
 「あぁ、おはよう。遅刻ではないし、しっかりと時間に余裕を持って来ている。良い心がけだ。」
素晴らしい。と頭を撫でる慧音。
 「ありがとうございます。教室はどこですか?」
 「いや、いきなり行く前に、君はまだ別室で待機していてくれ。後でしっかり紹介するからな。案内しよう。」
笑顔の慧音に連れられ、部屋で待機する。十数分後、慧音が部屋にやって来た。
 「これから始めるから来てくれ。みんなに自己紹介するからよろしくな。」
 「あ、はい!!」
緊張しているのか、わずかに上ずった声が出る。
 「よし、いい返事だ。では行くぞ。・・・そうだ、この教室には人間がいないから、幻想郷に迷い込んだ人間だってことをしっかり伝えてやってくれないか?」
振り向きざまに話す慧音。その表情はどこか不安げではあった。
 「分かりました。」
教室に到着した。扉の前で待つように言われた。
 「よーしお前ら、授業を始める前に、新しい仲間の紹介だ。入って来てくれ。」
 「はい。」
扉を開ける。そこにいたのは数名の生徒。人間でないことは聞いていたのであまり驚かなかったが、少々緊張した。
 「彼が今日から一緒に勉強する仲間だ。さぁ、自己紹介を頼む。」
黒板が無いので、名前を書くことはできなかったが、深呼吸して口を開く。
 「初めまして。自分は野神茉鵯禍と言います。先日、幻想郷に迷い込んだばかりの人間です。」
ここまで言うと、数名の生徒が驚きを露わにする。
 「迷い込んだ時に記憶の一部を失っているので、答えられる質問に限りがあるので、よく分からない人間だなと思うこともあるかも知れません。しかし怪しい者ではないので、仲良くしてもらえると嬉しいです。今日からよろしくお願いします!!」
聞いていた生徒たちの目がどんどん輝いていくのが分かった。見たところ、全員女子生徒らしい。青い服の子が声を上げた
 「せんせー、彼に質問良いかー?」
 「どうだ?大丈夫そうか?」
「はい、どうぞ。」
 「趣味はなんだー?」
ワクワクしながら質問される。記憶の無い彼にとっては答えにくい質問だったので、慧音が心配していたが、なんとか答えを考えた。
 「そうだね・・・そこは記憶が無いから何とも言えないけど、多分友達と遊んだりすることだと思うよ。だから君とも仲良くしていきたいな。」
 「なーなー、私もいいかー?」
黒い服の子が手を上げる。彼女は他の子とは違い、羽が無い。でも元気そうな子だ。
 「いいよ。どうしたの?」
しかし、笑顔で発したその質問に彼は固まった。記憶が無いからではない。そもそも質問すること自体がおかしい内容だからだ。
 「お前は食べてもいい人間なのかー?」
 「・・・は?」
 「こらルーミア!!そういうことを聞くんじゃない!!食べてはいけないに決まっているだろう!!」
 「あ、あはは・・・。」
慧音がフォローしてくれたので無事に終わったが、かなりの恐怖を覚えた。
 「・・・まぁ、そんなわけで仲良くしてやるように、そして幻想郷の事も教えてやってくれ。で、席はそうだな・・・そこ。緑髪の子がいるだろう。その子の隣だ。大妖精、頼むぞ。」
慧音が席を指した。大妖精と呼ばれた子が笑顔でこちらを呼んでくれた。
 「私は大妖精って言います。よろしくね、茉鵯禍くん。」
 「よろしくね、大妖精。」
お互いに自己紹介を済ませたところで慧音が話始める。
 「じゃあ、自己紹介も済んだし、さっそく授業を始めるぞ。教科書は、今日は大妖精に見せてもらってくれ。」
 「はい。」
寺子屋での授業は主に四則計算、漢字、幻想郷や慧音が知っている限りではあるが、外の世界の歴史、ちょっとした化学実験をしていた。外の世界ではちょうど小学校程度の範囲だった為、茉鵯禍にとっては簡単だったが、中には難しく感じる子もいるようだ。特に青い服の女子。
授業が終わり、周りの生徒が一斉に話しかけてくる。一番先に来たのは最初の青い服の子だった。
 「なーなー、茉鵯禍。あたいはチルノ。幻想郷サイキョーなのはこのあたいなんだぜ!!覚えときな!!」
腰に手を当てて堂々と語っている。無邪気で元気がいい。
 「私はルーミアなのだー。よろしくね~。」
自分を食べてもいいのかと問うた黒い服の子だ。彼はかなり緊張していたが頑張って話をしてみると、面白い子だと分かった。
 「僕はリグル。よく男に間違われるけど女だよ。よろしく。」
白い服の女子。正直、見た目だけでは男子と間違えそうなので、間違ってもリグル君とは呼ばないように気をつけたい。
 「私はミスティア・ローレライ。ミスティアって呼んでください。近くで鰻屋さんをしているの。ぜひ来てくださいね。」
一通り紹介が終わった。
 「これで全員だよ。」
大妖精の発言に、茉鵯禍は改めて全員を見回して。
 「みんな、よろしくね。」
と頭を下げる。
 「で、茉鵯禍くん、慧音先生以外に幻想郷でもう誰かに会った?誰か知ってる人がいれば困ったときはその人のところへ行けばいいよ。」
心配そうな顔で気に掛ける大妖精。
 「そうだね。今は霊夢に魔理沙、白玉楼の二人と紅魔館の四人と永遠亭の三人に会ったよ。みんないい人たちだったね。」
 「良かった、霊夢さん達に会っていれば怖いものなしだね。しかも永遠亭も知ってるみたいだから具合悪くなっても大丈夫。意外といろんな人に会ってるんだね。良かった。」
安心したような表情を浮かべて、いつもの笑顔になる。
 「ありがとう、大妖精。」
 「なーなー、お前はどうやって幻想郷に来たんだ?それと、あたいが記憶を取り戻す手伝いをしてやるよ。」
チルノが自信満々に言う。
 「本当かい!?ありがとうチルノ。助かる。どうやって来たかは知らないけど博麗神社に倒れていたみたいなんだ。それからいろいろあって魔理沙のマスタースパーク食らって永遠亭に運ばれたよ。その次の日に紅魔館に行って、もう一回永遠亭に戻って、昨日白玉楼に行ってきたところだよ。」
 「どうしてそんなに移動してるの?霊夢に頼めばすぐに外の世界に戻してくれるよ?」
 「そ、それは・・・」
返答に困った。慧音曰く、確か彼女達にはお札があるという事しか伝えていないとのことである。自分が関与しているとは言わない方がいいのだが、何といえばいいか分からないのだ。そこに慧音がやってきて、変わりに答えてくれた。
 「彼はな、どうやって幻想郷に迷い込んだのかも分かっていないんだ。この前教えたように、幻想郷は忘れられたモノが流れ込んでくることがある。しかし、彼が外の世界で忘れられた存在には見えない。だから幻想郷のいろいろなところへ行って、情報を探しているんだ。今日も霊夢達が動いているはずだ。」
 「そ、そうなんだよ。その間に僕はここに来て勉強しているんだ。」
 「そーなのかー。」
 「・・・そ、そーなのだー。」
ルーミアの真似をしてみた。どうやら皆にも好評だったようだ。
      ◇◇◇◇
 「授業にもしっかりと追いついているし、質問にも的確に答えられているみたいだ。外の世界でこの辺まではやったという記憶はあるか?」
 「まぁ、一応は。」
 「ちなみにどこまでやったかは覚えてはいないのか?今やった内容も簡単すぎるように見えたが。」
 「そうですね・・・やった範囲としては、漢字やもう少し難しい計算、後は世界史に地理とかですかね。」
口元に手を当てて考える茉鵯禍。
 「おや、どんな計算なんだい?」
 「そうですね・・・こういう計算とか、こういう計算とかですね。」
茉鵯禍が紙に数式を書いた。連立方程式、二次方程式の解の公式、三平方の定理。彼は外の世界では中学校卒業程度の学習をした記憶があるそうだ。最も、内容だけに限るが。
 「ほぉ、私も知らない数式だ。今度教えておくれ。」
興味深そうに応える慧音。
 「はい。」
すると、横で見ていたチルノが叫んだ。
 「だめだぁ!!幻想郷一番の天才的な頭脳を誇るあたいでも分からん!!」
 「チルノはただバカなだけなのだー。」
 「まぁまぁチルノちゃん。大丈夫だよ。私でも分からないから。」
 「え、大ちゃん分からない?」
 「みすちーは分かる?」
 「分からない。リグルは?」
 「分からない。」
全員分からないようだ。やはり外の世界と幻想郷では、内容に違いが出るのだろう。
しかし、その分、寺子屋では、歴史の授業が本当に深い内容だった。幻想郷の歴史については他の授業とは比べ物にならないほど細かく、大半の生徒が寝てしまっていた。更に、世界史では外の世界でやった内容でさえも知らない箇所が多くあることに気づいた。
 「さぁお前ら。いい時間だ。家に帰って宿題を始めろ。忘れたら・・・どうなるか分かるよな?」
 「は、はーい・・・・。」
怖気づいたように全員が元気のない返事をする。
 「じゃあ茉鵯禍。明日な。」
 「はい。」
寺子屋を出ると、そこには紫が待っていた。
 「お疲れ様。早速で悪いけど行きましょうか。」
 「はい。」
      ◇◇◇◇
再び八雲邸に戻ってきた。今朝の戦闘で破壊された箇所は既に修復されており、藍と橙が仲良く遊んでいる。そして、紫の部屋に案内された。
 「さて、じゃあいろいろ質問していくけど緊張しないで正直に答えてね。」
 「はい。」
紫の質問が始まる。
 「ちょうど今、具合が悪いところは無いかしら?」
 「ありません。」
 「どこまで記憶を失っているのか見当は付いた?」
 「はい。自分の名前、性別、外の世界で学習した内容などは覚えていて、個人の特定に繋がる記憶だけが無いんです。」
 「なるほど。奇妙な話ね・・・次行きましょう。」
 「はい。」
様々な切り口での質問が飛び出す。様々な方面から研究していくようだ。
現時点での彼の様子はこうだ。
現時点で掴んでいるすべての情報からは個人の特定には至らない。それは、年齢、生年月日、出身地など、個人の特定に繋がりそうな記憶が無いという事。つまり、彼の外の世界でのステータスなど、個人の特定に繋がる記憶だけがごっそり無くなっているという事。
 「・・・じゃあ最後の質問。幻想郷に来て何か気になっていることや違和感を覚えたことはあったかしら?」
「いえ、外の世界との違いという点以外ではありませんが・・・“野神茉鵯禍”。自分の名前のはずなんですが、この名前になんとなく違和感を覚えますね。自分の名前ではないような気がしているんです。まぁ、気のせいかもしれませんが。」
左胸に手を当て、首を傾げる茉鵯禍。
 「なるほど・・・まぁいろいろ分かったことがあって良かったわ。あと、言い忘れていたことがあってね・・・幻想郷には普通は外の世界の人や物は流れつかないの。たまに外の世界で忘れられた、つまり認知されなくなってしまったモノがここに流れ着くことがあるのよ。でも貴方は誰かに忘れられるような人間ではなさそうだし・・・まぁとにかく、まだ幻想郷に留まってもらう予定だから、今後も何かあったら教えてね。」
 「分かりました。」
 「じゃあ霊夢のところに戻りましょう。さっきのように隙間を通ってくれればいいわ。」
 「はい、失礼します。」
茉鵯禍は隙間から博麗神社に戻った。
 「・・・いかがでしたか、紫様。」
 「あぁ、藍。いたのね。・・・やっぱり違和感があるわね。私が招いたわけでもなければ、入った方法はおろか、個人の特定に繋がりそうな情報だけが無いのよね。」
 「さようでございますか。」
 「えぇ。何か異変が起きる可能性があるわね。パトロールを強化しておきましょう。」
 「畏まりました。」
      ◇◇◇◇
 「へぇー、貴方、よくあの二人と戦おうって思ったわね。橙の爪を避けて、しかも、あの藍に一発当てるとはなかなか強いわ。」
 「いや、本当にあの時は必死だったね。殺されるって思ったもん。」
帰ってきてから、霊夢と今朝の話をした。霊夢もどこか感心している。
 「で、二人はどうなったの?」
 「紫さんに怒られてた。」
 「でしょうね・・・。」
そしてこんな平和な日々が続く。時間の流れは無慈悲にも止まることは無い。一瞬、また一瞬と過ぎていく。彼が幻想郷に迷い込んでからおよそ一週間経った。平和な時間が流れていくと思っていたのも束の間。
いよいよ幻想郷が変わりだす。異変の始まりなのだ。雨こそ降らないが今はかなり曇っている。
      ◇◇◇◇
そして後日、茉鵯禍が突然、体調を崩した。
 「「・・・」」
 「分からないわね。何の前触れもなくいきなり眩暈に倦怠感。熱があるわけでもなければ、感染病って訳でもないし・・・。」
永琳が頭を抱える。
先日、彼が眩暈を起こして倒れた。それからというもの、[何者かが体にのしかかっているように、体が重い]と言い出した。紫と霊夢と彼の三人で永遠亭に向かった。
 「やっぱりそうよね・・・。」
霊夢ががっくりと項垂れた。
 「まさか永琳でも分からないとはね。私も霊夢と一緒にいろいろ調べたけど、全部駄目だったわ。」
紫も頭を抱えている。
 「まぁ、今回はとりあえず薬の処方はできないけど、しっかり寝て、それでも駄目ならまた来てちょうだい。」
一行は永遠亭を後にして神社に戻る。するとそこには慌てた様子の魔理沙がいた。
 「あら、魔理沙じゃない。どうしたのよ。」
 「やぁ・・・どうしたんだい・・・。」
すると、魔理沙は霊夢の肩を掴んで激しく揺さぶる。
 「ゆ、紫は!?紫はどこだ!!」
 「紫さんならもう戻っちゃったよ。」
 「どうしたのよ、そんなに慌てて。」
霊夢が呆れた様子で魔理沙の手を払う。
 「こ、紅魔館に、紅魔館に。」
 「落ち着きなさい、魔理沙。とりあえず上がって。」
      ◇◇◇◇
 「嘘でしょ!?」 「大変だ!!」
霊夢と茉鵯禍の声が重なる。
魔理沙の話はこうだ。紅魔館に突然、新たなお札が現れた。しかもそれは、今までのそれとは少し異なり、返り血がかかったかのように部分的に赤く染まっていた。しかし、紅魔館内で誰かが出血したわけでもなければ、突然、現れたのだ。染まった箇所もお札によって少し異なるが、大差ないと思われるとのこと。パチュリーが結界の中に保管しているらしい。
 「今すぐ行かないと!!急ごう!!」
勢いよく立ち上がった彼を霊夢が制する。
「あんたねぇ、永琳に何て言われたか忘れたの?」
 「永遠亭に行ったのか。どうだったんだ、大丈夫か?」
「原因は完全に不明。とりあえず寝てろとの事よ。」
 「それでも!!」
淡々と事実を述べていく霊夢。それに食い下がる茉鵯禍。
 「・・・それでも、何かしら?」
霊夢の落ち着いた声に震え上がった。落ち着いたというよりかは、冷酷な声色。
 「お、お札ってことは少なからず、自分が絡んでいてもおかしくはない。なのにおとなしく寝てろって言われてもそんなことはできない!!」
 「じゃあ、あんたに何が出来るの?確かにあんたが絡んでいてもおかしくはない。じゃあどうするのよ、そんな体で。」
 「でも・・・」
 「出来ることは何も無いの。私たちが調査してくるから、あんたは寝てなさい。いいわね?」
 「・・・分かった。」
霊夢の気迫に押されてしまった。いつもなら聞くことのない冷酷な声。その声で発せられる冷たい事実。彼女に従う以外に、道は無かったのだ。
 「行きましょう、魔理沙。早くしないと雨が降るわ。」
 「あ、あぁ。じゃあな、茉鵯禍。寝てるんだぞ!!」
 「うん・・・・」
曇天の空に飛んで行った二人。
 (自分がもっと強ければ・・・!!)
雨が降り出してきた。
翌日、同じく曇天の空。霊夢達の姿は無かったが、机の上に書置きがある。
 「茉鵯禍へ
この書置きを見ているという事は、まだ私たちが帰ってきていないという事。紅魔館へ行って来て、お札を見せてもらったわ。とても不気味なもので、紅魔館以外にも現れたみたい。それも貴方が訪れたことのある場所に。
私達はそこへ調査に行ってくるわ。白玉楼、永遠亭、そして寺子屋。全て周りきるのにはかなり時間がかかる。いつ戻れるかは分からない。それでも、貴方なら大丈夫。すぐに戻ってくるから安心しなさい。 追伸―この紙の下に、そのお札を置いておくわ。もし見たり触ったりして違和感があれば教えなさい。
 博麗霊夢」
 「霊夢・・・。」
彼は霊夢の無事を確認し、ひとまず安心し、
紙の下に置かれていたお札を見る。しかし、頭痛が起きない。手を伸ばしそれに触れる。
 「!?」
すると、目の前が暗闇に包まれ、吸い込まれていく。
      ◇◇◇◇
どこかに落ちる。そして視界が戻ってくる。晴天の空。目の前には大きな鳥居がある。博麗神社だろうか。後ろから、何者かの気配を感じる。
 「・・・茉鵯禍?」
霊夢の声だ。振り返ると、魔理沙もいる。
 「霊夢、魔理沙・・・!!」
不覚にも目元から一筋。
 「良かった・・・無事で良かった!!」
 「「・・・」」
なぜか泣き崩れる彼を困惑しながらも霊夢が抱きしめる。
 「・・・当たり前じゃない。私たちがこんなところで倒れるわけがないでしょ。でも心配かけてごめんなさい。」
 「すまなかった。」
 「・・・うん。それより、お札なんだけどね。」
まだ赤い顔のまま、しかしどこか吹っ切れたような顔で彼が続ける。
 「そうだ、どうだった?それになんでここにいるの?」
そして霊夢も普段のように戻る。
 「いや、見ても頭痛は起きないし、何にも変わらなかったけど、触ったらいきなり暗闇に吸い込まれてここにいたんだ。」
起きた現象を説明していく。
 「奇遇だな。私達もそうなんだよ。パチュリーたちには何も起きなかったんだけどな。」
 「そうなんだ・・・。」
 「そろそろ探索してみましょう。見たところ、この辺は博麗神社の近くだろうし。」
 「うん。」 「おう。」
そして目の前にあった大鳥居をくぐり、境内に入る。霊夢曰く、ここはどうやら本当に博麗神社のようだ。しかし、吸い込まれる前の博麗神社の天気は曇りだった。それなのにここはなぜか晴れている。すると、ピンク色っぽい髪をした女子がいることに気づく。
 「あら・・・さとり?」
さとりと呼ばれた少女はこちらを振り向く。
 「おやおや霊夢さんに魔理沙さん。どうもどうも。」
 「おお、久しぶりだな。さとり。」
ピンク色の髪に赤色と黄色っぽい色のコードのようなものがある。赤色のコードのようなものは黄色っぽい色のそれよりも長い。その先に、目玉がついている。
 「で、どうしてあんたがここにいるのよ。どうやって来たの?ここは私たちでさえも良く分からない場所なのよ。」
 「なんかよく分からないお札をお空が見つけたので、いじっていたら吸い込まれてここにいました。」
そして彼女は茉鵯禍を指した。
 「・・・ちょうど、そこの貴方が持っているお札ですよ。」
 「・・・!?な、なんで分かるんですか?まだ見せるどころか話してもいないのに。」
彼は今までで一番驚いた。少し顔を見ただけだというのに。
 「あぁ、こいつ、人の心を読めるんだよ。面白い奴だよな。」
魔理沙が彼女の能力を説明する。
 「へぇぇ。」
困惑しながらもさとりと呼ばれた少女の方を見る。
 「・・・本当ですよ。そして私は古明地さとり。・・・妖怪です。」
心の中で本当に心を読めるんですかと問う。するとさとりが答えた。
 (どうやって心を読んでいるんです?)
 「・・・このサードアイを使っているんですよ。」
 (その目玉で見えるんですか!?すごい能力ですね!!)
 「そこまで驚かれるとは思っていませんでした。」
 (人の心を読めるのって面白いですか?自分もやってみたいです!!)
 「そうですね・・・意外と面白いですよ。」
といった具合に、さとりの声と茉鵯禍の表情でしか会話を推測することが出来ない状態が続いた。
 「あんたら・・・無言で会話しないでちょうだい・・・。」
霊夢が止めに入る。魔理沙はニヤニヤしている
 「あ、ごめんごめん。なんか面白くなっちゃって。」
 「失礼しました、霊夢さん。」
  ◇◇◇◇
 「なるほど、外の世界の方ですか。」
さとりへの事情説明が始まる。と言ってもほとんど読まれてしまっているのでこれと言って説明することはなかった。
 「そうなんですよ。記憶も一部曖昧というか実質失ってますし。」
 「ほぉ、面白いこともあるものですね。そして今は同じ条件でここにいるわけですか。」
 「そういえばお空やお燐はどうしたんだ?いないようだが。」
 「あぁ・・・いじっていた時にお燐がいたのですが、吸い込まれたのは私だけのようです。こいしは・・・いつも通りですね。」
慣れたように家族構成を説明するさとり。
 「家族で住んでるんですね。どちらにお住まいなんですか?」
 「正確に言うと、お燐とお空は私のペットで、こいしは私の妹です。それで四人で地霊殿という地下の建物に住んでいます。」
認識を訂正し、説明するさとり。
 「地下ですか・・・」
茉鵯禍が地面を見る。
 「じゃあお札が地下にまで現れたってことなの?」
 「いえ、たまたま地上に出ていたお空が見つけたんです。それを地下まで持って帰って来ましてね。」
一行の心を読んだのか、さとりがこう続けてくる。
 「・・・ちょうど、紅魔館の目の前にあったらしいですよ。」
驚く一行。そしてある仮説がほぼ確信に変わる。
 「・・・なるほど。じゃあ本当にこいつが行った場所にしか現れていないようだな。」
魔理沙がまとめる。
 「そうね・・・。」
 「そう考える方が妥当だよね。」
 「おや、彼が行った場所にしかお札が現れていないというのですか。」
さとりが確認する。
 「おそらく、そういう事になるかと。」
 「まぁ、とにかくもっと探索してみましょう。他に誰かがいるかも知れないし。」
 「はい。」 「うん。」 「おう。」
怪しげなこの場所の探索が始まった。彼の突然の体調不良と赤く染まったお札。幻想郷は大きな危機を迎える。最も、今の一行がそれに気づくのは、もっと後になるが。
               二章 完
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