Coolier - 新生・東方創想話

イフ アイ ワーとかナウ アイ アム

2021/10/26 16:05:21
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男が怒っている。
少女が俯いている。
この時の男はいつも私の親父で、この時の少女とは私のことだ。
また夢を見ている。
いつもと同じ夢だ。
私が幼い頃あの家で育てられていた時の記憶。忘れたい記憶。
あの時親父に散々お前には無理だと言われたこと。
魔法をそこらの妖怪とやり合えるほどに扱えるようになること。
人里という檻の外に広がる弱肉強食の社会で生きていくこと。

あいつみたいに、空を飛び回ること。
それらは一通りできるようになったはずなのに、私はこの頃の記憶を振り払えないでいる。
つまりはもう何度もこの夢を見ている。全ては既知のものだ。
最初は訳がわからなかった。どうして親父がいるのかも、どうして怒られているのかもわからず、ただ頭を下げているしかなかった。
しかし何度も同じ夢を繰り返して、あることに気付いた。
どうやらこの夢は過去の私の記憶が再生されているだけらしく、今の私が過去の私の視点からその光景を傍観しているだけに過ぎないようだ。誰かが撮影した景色を撮影された視点から見ているのと同じ。そこに部外者が介入することはない。
この夢において、私は傍観者に過ぎないのだ。
だからいつも黙って見ている。そうして見ていると今でも色々発見がある。この頃から白髪あったんだな、親父。とか、この時の私は言い訳が下手だな。とか。最近は自分の発言も分析できるようになった。



飽きた。
以前早苗に映画というものを教えられた。良い映画は何度見ても飽きないものだと言うが、これはたぶん良いものじゃないので、三回目で飽きた。かといって私の意思で終わらせられるものじゃない。目を背けることのできるものでもない。
正直言ってこんな記憶、気持ちの良いものじゃない。目を覚ました時はいつも少し自分が嫌になる。
いつまで忘れられないんだろう。
いつまで続くんだろう。

いつになったら忘れられるんだろう。

この夢を見始めた時は、いつも躍起になってどうにか状況を楽しもうとするが、一度冷静になってからはてんでダメだ。思考がマイナスに囚われて、ほかに何も考えられなくなる。やがて、負の思考回路が最悪な考えを導き出す。

もしもあの時、あのまま———


瞬間、目の前の親父の顔がくしゃりと歪む。歪むというよりは、後ろから吸い上げられているようだ。さっきまで人の形をしていたものが、その輪郭を認識できなくなるほどに歪んでいく。
でも驚かない。これすらも既知だ。
この歪みが、夢の終わりの合図。
そうして歪みが全体に広がった後、一点に集約していく。多分もうすぐ目が覚める。永遠とも思われる悪夢は、中断されるかのように終わりを告げた。多分もうすぐ目が覚める。




最初に名入ったのは部屋の天井だった。これも既知の光景。でもこれは現実の、実在する景色。目が覚めたようだ。夜は明けているみたいだがまだ暗い。5時くらいだろうか。
起き上がって第二に目に入ったのは、おかしな格好をした少女。まるで夢の世界の住人みたいだ。



「お前か。」
「わたしです。」



毛の玉だらけの服にやたらでかいナイトキャップ。起き抜けには見たくない情報量の格好だが、その青い髪の毛だけは朝日の登りたての世界に妙に合っていた。

「また食べてくれたのか?」

各勢力にそれなりに顔を広げたつもりだったが、夢を食べる知り合いはコイツしかいない。

「魔理沙さん、正確には吸ってるんです。あなたの夢は水分多めなので。」
「水?夢が水分を含んでるのか?」

衝撃の事実を知らされる。夢というものが一気に物理的な何かに感じられた。

「あなたの気質のせいじゃないですかね。ほら見てください。これで夢を吸い出してるんですよ。」

そう言って彼女は見た目は何の変哲もないピンクのストローを取り出した。

「よく分からんが、吸ってうまいもんなのか?夢は。」
「そうですねぇ、こちらの世界でのジュースのようなものですよ。特にあなたはよく昔の夢を見るので、駄菓子のような味がします。チューペットって知ってます?」
「何だそれ。外の世界の物か?そういう知識は全部人の夢から得てるのか?」
「大体はそうですね。夢の見方も人によって多種多様ですから、覗き見るのは楽しいです。ただ記憶が垂れ流されるだけじゃなくて、その日記憶した物が滅茶苦茶に繋がった夢とか、望んだ内容の夢を見ようとして結果少しズレた形で生まれてしまった夢とか。」

そういう夢なら私も見たことがある。きのこ狩りににとりを連れ出して、胡瓜の栽培方法を聞き流しながらきのこを採ってた日には、私がきのこを畑で育ててて、食べ頃になったきのこから黄色い花が咲く夢を見た。他にも小さい頃、空を飛びたくてせめて夢の中ぐらい大空を飛び回りたいなんてお願いしながら眠った日には、オオワシに捕まって振り回される夢を見たっけな。夢の中だからって何でも思い通りにはいかないようだ。


また思い出してしまった。あの時の記憶を。

小さい頃。空が飛びたい。

「お前には無理だ。」

「お前には無理だ。」

「お前には無理だ—————————


「———そういえば、ここの所、同じ夢を何度も見るんですよ。余程ショックだったのか、幼い頃に自分の憧れを否定される記憶が何度も何度も再生されるようです。それはもう夢を見ているのではなく、夢にうなされているように。」

やっぱりバレている。コイツ、わかって喋っている。
この記憶はきっと、私の弱さなんだ。親父の元を離れて、一人で生きていくことを決めて、今じゃ当初の目的はそれなりに果たせているように感じる。それでも時々思ってしまう。私は本当に後悔していないのか。親父に逆らっていなければ今頃どんな人生を歩んでいたのか。

もしもあの時、あのまま「もしもし、」

声をかけられてふと我に帰った。

「覚醒直後のネガティブ思考は危険ですよ。一日がどんよりしてしまいます。」
「元はと言えば悪夢を見たせいだがな。お前は一体何しに来た?どうせ全部わかってるんだろう?」
とぼけた態度を取られたから、少し意地悪な言い方をした。
「そんな言い方しちゃいますー?これでも私、ちゃんと貴女のことが心配で、警告しに来たんですよ?」
「警告?」
「えぇ、実は私貴女のことを幼い頃から面白い夢を見る人だなと思ってマークしてまして、日々見る夢を覗いてたんですよ。新聞紙みたいに。」

いきなりとんでもないことを言い出した。ガード不可のストーカーだ、こいつ。

「するとやっぱり、あの夢をよく見ることも知ってるわけで、特に最近はなかなかの頻度で見ちゃってる感じですよね。私の分析だと、魔理沙さんがそういう時期に陥る時は、たいてい無理し過ぎちゃってるんです。」
「無理し過ぎてる...すまん、自覚が無い。」
「だから警告しに来たんです。貴女、自分でも気付かずに頑張り過ぎちゃうタイプの人なので。」

どうやら本気で私の心配してのことらしい。

「適当にあしらって悪かった。詳しく教えてくれ。」
「いいでしょう。夢というものは自分自身の意思を元に構成されるもので間違い無いのですが、実はその夢はあなた自身の意識と切り離されて作られるんですよ。」
「難しいな。どういう事だ?」
「眠っている間にあなたの意識は切り離されて夢世界を漂い、残った肉体の意思を元に夢が構成され、それをあなたの意識が知覚するということですね。瞳を閉ざしたさとり妖怪でも、体があるから夢を生み出せるわけです。この時脳も肉体の一部に含まれますから、覚えている記憶を元に夢が作られても不思議ではないのです。」

ややこしい話だが、なんとか理解できた。ふだん反射的な行動でしか現れない肉体の意思が、夢を通じて可視化されるということだろう。

「でも、どうして私の体は同じ記憶ばかりを再生するんだ?それも、一番忌まわしい記憶を。」
「それはきっと、その記憶が魔理沙さんにとっての大きなターニングポイントだからでしょうね。」
「ターニングポイント?」
「話を続けます。恐らく貴女はあの時、自分自身に大きな選択を迫ったはずです。このままお父上の所に残って家業を引き継ぐか、独立して憧れに突き進むかの二択を。そして貴女は後者を選んだ。辛くて厳しい道であることを散々教えられ、それを理解した上でその道に進んだ。」

そういえばそうだった気がする。考え無しに家を飛び出したんじゃなくて、しばらく悩んで、悩みまくった末に私は一人で生きていく決断をしたんだ。

「ここで質問です。魔理沙さんはその道を選んだことに後悔していますか?」
「してないさ。苦労も多いが、自分のやりたい事ができている。一人で立派に生きて行けている。」

即答した。そうでもしなきゃ、何かに捕まってしまうような気がしたのだ。

「そうですか。いや、本当らしいですね。少なくとも貴女自身の意識では。」
「また意識の話か。私の身体は後悔しているとでも言いたいのか?」
「おおむねそういうことです。きっと貴女は自分の身体を酷使し過ぎているのでしょう。体が悲鳴を上げる、とか言いますし、目の下にくまとかできてますよ。」

だんだんわかってきた。無理し過ぎているとはたんに度重なる研究で生活習慣が乱れに乱れている事のようだ。

「つまりはあれか?私が無理し過ぎているから自分の身体が私にネガティブな夢を見せてやる気をなくさせようとしているわけか?でもそれだけだと、決まってあの時の記憶が再生される訳がわからないぞ。」
「だから言ったでしょう。あの時が貴女のターニングポイントだと。たぶん、お父上の家に残った方が楽だった、とか貴女がどこかで考えたのを、体がいつまでも引きずっているから、事あるごとにそっちの道に引き戻させようとしているんですよ。現に貴女は少し揺らいでいるようじゃありませんか。もしもあの時あのまま———って。」

謎は全て解けた。そうか。私はとっくに覚悟を決めたつもりだったけど、体が追い付いて来れなかったようだ。この程度で限界を感じでしまう私の体も、少しでも揺らいでしまった私の心も、まだまだ未熟なようだ。

「それじゃあ、とりあえず休めばしばらく悪夢は見なくなるって事か?というかお前的には私が悪夢を見なくなっても良いのか?」
「ご心配無く。食べる夢はいくらでもありますから。あ、でもやっぱりあなたの夢はたまに無償に味わいたくなるので適度にうなされてくれると嬉しいです。」

なんだそれ。心配してくれてるのか人を都合の良い存在としたいのかわからない。まぁあいつなりのジョークだろう。

「それと最後にもう一つ。貴女は今まで一人で生きてきたとか言ってましたけど、それは間違いです。どんな環境で生きてても結局は人間なんですから、孤独じゃ生きてはいけません。今まで心の支えになってくれた人、それに貴女が心の支えになっていたという人、沢山いるはずです。たまにはそういう人達に頼っても良いんじゃないんですかぁ?」

わざととぼけた口調で抜かされる。そういえば、最近あいつとは会うたびに弾幕勝負を仕掛けてばっかりで、何でもない時間を過ごすことが無かったな。

そうだな。確かに人には弱さを見せないように振る舞ってたし、それで散々苦労してきたな。

「なぁ、人間が弱さを抱えている事は、ダメな事じゃ無いんだな?」
「えぇ、弱くても、時々弱音を吐いても、自分を律して頑張れる人間が私は大好きですよ。私だけじゃありません。夢の中で、貴女との記憶を思い浮かべている人をたくさん知っています。貴女自身が思っているよりずっと、魔理沙さんは魅力的な人物ですよ。」

それは何か知らなくて良かったな。恥ずかしい。

「少し楽になったぜ。ありがとうは言わない。しばらくしたら、どでかい悪夢を見てやるからそれでお返ししてやるよ。」
「まーた無茶する気なんですか?こう見えても意外と少食ですよ?」


なんてやり取りを最後に、彼女は夢の世界に帰って行った。
気付けばもう6時だ。1時間近くあいつと話していたことになる。いつもなら魔法の森の各地で同時に培養を始めたキノコの観察に行く所だが......サボるか。今日はいいや。というか週3か4にしよう。あんまり変化無いし。二度寝しよう。そして起きたら神社に行ってあいつにちょっかい出しに行こう。今日はいい一日になりそうだから、1人で過ごすのは勿体無い。

とりあえずは、今を楽しんでみよう。
ここでははじめて作品を上げました。ややこしい表現が多くなってしまいましたが、わかってくれると嬉しいです。話の中で一貫してドレミーの名前を出さなかったのは、彼女が「誰もがその存在知っているがあえて名前を呼ばれることは無い人物」みたいな感じだったら良いなと思ったからです。評価とかくれたら喜びます。

追記:後で見返すと所々誤字がありますね。すみません。みなさんからの感想非常にありがたいです。自分の意図や解釈を汲み取ってもらえたのが本当に嬉しいです。次の話も作ってるので、また読んで頂けると幸いです。
美見未
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コメント



0.100簡易評価
2.90奇声を発する程度の能力削除
面白かったです
3.100ヘンプ削除
魔理沙のターニングポイントを見切れてないのが人間臭くてとても良かったです。
悪夢という形で見るということの意味、それも素敵な人間だったのだと思いました。面白かったです。
4.90名前が無い程度の能力削除
面白かったです。二人のやり取りが軽妙でよかったです。
5.100名前が無い程度の能力削除
めっちゃ胡散臭い喋り方なのにドレミーいいやつ
7.100南条削除
面白かったです
気付かないところで無理をしていたとわかったときの魔理沙が妙に素直で素敵でした
8.100そらみだれ削除
読後感が良く楽しめました。ありがとうございました。