「美鈴をね。大好きなね。メイド妖精がいるの~!!」
「「 きゃ~~~!! 」」
「そのことをね。咲夜に話すとね。咲夜の機嫌が悪くなるのよ」
「いや~~んですぅ」
「えと、どしてかな?」
「それはですぅね……ごにょごにょ」
「わぁ~~」
「門番さん。もてもてですぅ」
「そ~なのよ~」
「妹様、そういう噂話は本人がいないところで言ってくださいませんか……」
話題の中心人物は困り顔でした。
夕陽を背景にゆっくりと空を飛ぶ4つの影。
浴衣姿の三幼女――フランちゃんことフランドール・スカーレットさん。シロちゃんことリリーホワイトさん。小ちゃんこと小さな大妖精さん――とお目付け役の門番さんこと紅美鈴おねえさん(こっちはいつも通りの服装)です。
今日は博麗神社の夏祭りなのですね。
「で、美鈴、誰が本命なの?」
儚くなっていく陽光の中、赤い瞳が妖しく光ります。
「本命と言われましても……」
相手を魅了し従属させる魔眼ですが、このナイスバディの中華風妖怪は結構高位の存在なので通用しません。
「「 誰なの~? 」」
でも、曇りのない純粋な瞳には弱いようです。
「えー、あ、神社が見えてきましたよ。もうじき到着ですね」
「ホントだ! 鳥居が見えてきた!」
「屋台もたくさん出ているようですね。いや~これは楽しそうでございますねぇ、あははははは」
「賑やかそうですぅ」「楽しみー」「早く行こうよ!」
お子様がたの追求を手をなんとか躱せた門番さん。
心の中では(ふ~ ヤレヤレ)でした。
―――†―――†―――†―――
すこし時間をさかのぼります。
紅魔館のドレスルーム(と言っても小さな家が一軒入ってしまうくらいの広さですが)。
大図書館の館長と司書を除き、紅魔館メンバーが全員揃っています。
「お姉さま。おかしくないかしら?」
「おかしくなんかないわ。とても可愛くてよ」
メイド長に着付けしてもらったのは薄いピンクの生地にハートマークの周りに宝石羽根を置いた所謂フランドールマークがちりばめられた浴衣姿のフランちゃん。
うむうむと何度も頷くのは当主レミリア・スカーレットさん。
(さすが我が妹ね。浴衣が似合う可愛い女の子選手権があったらぶっちぎりの優勝だわ。霊夢に話を持ち掛けてコンテストを企画してもらおうかしら? ウチがスポンサーになれば問題ないでしょう)
お嬢さま……スポンサーの身内が優勝とか、出来レース丸出しで世間様の顰蹙を買いまくりですよ。
「失礼いたします」
ドアの外からメイド妖精の声がかかります。
「リリーホワイト様と小大妖精様がお見えになりました」
「お通しし―――」メイド長が言い終わらないうちに、
「「 フランちゃん! 来たよ~! 」」
メイド妖精の後ろから飛び出した二人の妖精。
「わー素敵ぃ」
「ピンクの浴衣が似合ってますぅ」
「小ちゃんもシロちゃんも可愛いよー」
春告精らしく白をベースに桜の花びらをちりばめた浴衣姿のシロちゃん。
水色に赤い金魚のデザインの浴衣姿の小ちゃん。
※小ちゃんって誰?……って方は過去作読んでね(公式本に登場する大妖精のひとりです)
お互いに「フランちゃん」「シロちゃん」「小ちゃん」と呼びあう仲良し参三人組です。
これから博麗神社の夏祭りに行くんですね。
一通りお互いの浴衣を誉めあったあと、
「それじゃあ、お姉さま。行ってきま~す」
「あ、ちょっと待って。……美鈴!」
「はい。お嬢さま」
幻想郷でも有数のタフネスを誇る門番が進み出ます。
「供をしなさい」
「えー、お姉さま、大丈夫だよー」
「ダメよ!」
「どーしてー?」
「だって…」
(あの神社は性格のひん曲がった煮ても焼いても食えない、どーしょーもないクッソみたいな不良妖怪のたまり場なのよ? しかもどいつもこいつも無駄にバカ強いんだから)
そう思っている本人がその不良妖怪であり、最古参の一人であり、最強の一角であり、ちょいちょいたむろっていることは置いときましょうか。
「……お嬢様」
ノータイムで移動してきたメイド長が、耳を舐めんばかりの極至近で甘い吐息とともに魅惑のボイスで囁きました。
「うひゃぅ! なによ! いきなり!」
これはさすがにビックリしますね。
「お言葉が少々汚ないかと。はしたないですよ」
「ふへ? ど、どーしてわかったの? 心を読んだの?」
妹たちの手前、小声での応酬ですが、お嬢様は動揺しまくりです。
「お仕えしているお嬢様のことであれば、この咲夜がわからないことことなどございません」
そう言って艶然と微笑みました。
「う…、そ、そうね、従者なら当たり前よね!」
お嬢様、ちょっとドキドキです。
「お姉さまどしたの?」
「と、とにかく! こんな可愛い子たちだけで行かせる訳にはいかないわ!」
素敵なお姉さまであるレミリア様は心の声を出すわけにもいかず、何とかゴリ押ししました。
「むー」
「美鈴、わかっているわね?」
「はい。お嬢さま。この命にかけてお守りします!」
ということで三幼女と行動をともにすることになった美鈴さんでした。
―――†―――†―――†―――
4人が飛び立つ姿を窓越しに見ているレミリアお嬢さま。
(お姉さまとお祭りにいく~、お姉さまと一緒じゃないとヤだぁ~って言ってたフランが、いつの間にか友だちと一緒に……成長したわね……)
「いつか私のもとから巣立っていくのかしら……」
二人だけの親愛を育んでいた昔に想いを馳せながらも妹の心が健やかに育っていることに少しおセンチになっているお嬢様です。
「お寂しいですか?」
「いいえ……これは喜ばしいことよ」
少し心が弱っている時には必ず寄り添ってくれるメイド長に答えます。
「フランが普通の女の子のように振舞える。これは素晴らしいことだわ」
「あの二人の妖精は妹様に良い影響をあたえてるようですね」
「生涯にわたる親友になるのかしら」
「親友、ですか」
「ふむ、では私も親友を誘って夏祭りに行ってみようかしらね」
「……」
「なによ、その顔は。夏祭りに行くなんて、スカーレット家の当主としてあるまじき行為とでも?」
「いえ。そのご親友のパチュリー様は先ほどツインテールの烏天狗様と一緒にお出かけになりましたが」
「ええっ!?」
「薄紫の浴衣がとてもお似合いでございました」
お嬢さま。お留守番決定ですね。
―――†―――†―――†―――
そんなこんなで夏祭り会場です。
「わ~ヒトでいっぱい」
と言ってもそこは妖怪神社(←違うわよ! by紅白巫女)人4・人外6の割合で人外が多いです。人外も8:2ぐらいで小妖怪、妖精たちが占めています。(ってことは半分以上が小妖怪・妖精ってことですね)
小妖怪も妖精も人間の子供も分け隔てなくお祭りを楽しんでいるようです。
その中にひときわ目立つ存在。
両肩に妖精を、頭の後ろに幼い吸血鬼を乗せて、人混みの中をゆっくり歩く紅美鈴さんです。
「しっかり掴まっていてくださいね」
「「「 は~~~い 」」」
迷子にならないように、美少女(幼女?)三人にしがみつかれて、ある性癖の方にはたまらないシチュエーションですね。
「あの赤いのはなに?」
「あれはリンゴ飴です」
「あのふわふわしたのは?」
「綿あめですね」
「香ばしくて美味しそうな匂いですぅ」
「ソース焼きそばですね」
「あのたくさん並んだ丸いのは?」
「タコ焼きと呼ばれているお祭りの定番メニューです」
「「「 ほわー 」」」
「食べたーい」
「私もですぅ」
「あ、あっちはイカ焼きって書いてあるよ?」
「なんだか平べったいね」
「クレープみたいですぅ」
イカ焼き。ざっくり言いますとイカの切り身の入った薄いお好み焼きをソースで調味してくるくる畳んで紙に包んでワンハンドで食べるちょいとジャンキーなフードです。玉子や明太子入りなどバリエもあります。
「美味しそうだよ」
大阪発祥とのことで梅田の阪神百貨店で供されるイカ焼きが代名詞のように扱わていますが、桃谷のイカ焼きこそが『真・イカ焼き』と声を上げる当チームです(異論は認める)。
「ね、美鈴、買ってきて」
「どれにしますか?」
「全部!」
「ぜ、全部ですか!?」
「みんなで分けるから、1個ずつでいいよ」
「そんなに食べられますか?」
「余ったら、ぜーんぶ美鈴にあげるわ」
「ぅえっ」
紅魔館最高の大食漢の美齢ですが、出がけに腹ごしらえをしてきてしまったのです。これは気合を入れないといけない状況になりました。
―――†―――†―――†―――
屋台の裏に並んだテーブルのひとつを陣取った4人。
「このチーズすごい伸びるよ~」
小妖精がステック状のチーズドッグにかぶりついています。モッツアレラの含まれた、ちゃんとしたチーズを使っているようです。
「コリコリしてますぅ、甘辛おいしいですぅ」
春告精の焼き鳥つくね串は『軟骨入り』の表示に偽り無しのようです。
「はぐっ! ほぐっ! あっひぃいー!」
フランちゃんは爪楊枝でタコ焼きを拾い上げつつ、ハフハフ言いながら次々と口に運んでいます。こちらもきちんとタコが入っていますね。
どの品も屋台とは思えないほど気合が入っています。
スカスカのぼったくりは主催者である巫女さんが許さないようです。自分でやるのは良いけど他人が得をするのはダメなんですって。(ヤレヤレですね)
普段見たことも食べたこともない屋台フードを囲んで三幼女はご満悦です。
三人とも一口二口しか食べないのでほとんど美鈴が一人で食べる羽目になっていますが、大丈夫でしょうか?
(こんなことなら晩御飯食べるんじゃなかった……)
と、ちょっぴり後悔中のようです。
「これ美味しい!」
フランちゃんはソース焼きそばをお気に召されたようです。
「今度、咲夜に作ってもらおうかなぁ」
「うーん、多分、こういったモノは咲夜さんはお嬢様方には作らないでしょうね」
「ダメなの?」
「従業員用(注釈:メイド妖精用)の食堂ではたまに出ますが……」
「えーずるい~。こんな美味しいのメイド妖精たちが食べてるの?」
「まあ所謂ジャンクフードですからお嬢様方がお口にするにはふさわしくないとかそんな理由でしょうが」
「うー」
「フランちゃん、こーゆーのは、たまーにお外で食べるからおいしんだよ」
「おおっ 小ちゃんってばぁ、おっとなーですぅ!」
「ははは、小ちゃん様の言われる通りかと存じますよ」
「むむぅ」
―――†―――†―――†―――
「おや? 妹様。ラムネの飲み方をご存じだったのですか?」
「あら、こんなの常識よ」
少しだけドヤ顔のフランちゃん。
飲み方を教えた二妖精は笑っていいます。
「中に入ってるガラス玉ってキラキラして綺麗~」
「ビー玉って言うんですぅ」
「取れないかなぁ」
「ちょっといいですか」
美鈴は空になった瓶を手に取り、キャップのゴム部分をキュッとひねりました―――
すぽん!
ちょいと力が必要ですがキャップは外せます。でも、外せない『打ち込み型』は無理です。気を付けましょう。
「すごーい」
「これも取って」
「これもこれもですぅ」
あっという間にガラス玉が3個。それぞれ手のひらに乗せて嬉しそうに眺めています。
「これがビー玉……」
「ガラス玉の規格にA玉とB玉があったと言うお話があります」
「何が違うの?」
「A玉はたくさんの染料を使い模様をあしらった奇麗なもの、単色のものはB玉と呼んでいたガラス屋さんがあったらしいですが定かではありません」
「このビー玉はうすい青色だけだからB玉なのかな?」
「小ちゃん様、また別のお話もありますよ」
「おしえて、めーりんおねーさん、おしえてー」
教育番組のお姉さんのように指を振りながら美鈴さんがお話を続けます。
「ガラス玉に傷があったり歪んでいるとラムネの蓋にできないということで、傷や歪みがなくラムネの蓋にできる綺麗な丸いガラス玉をA玉、B玉はちょっと歪んだ規格外のガラス玉だよー、ってお話もありますがこれも定かではありません」
実はラムネに使用するビー玉は、多少傷があったり歪んでいたとしても問題がないらしいです。それはラムネ瓶の中には「くちゴム」という太い輪ゴムが入っていて、これと瓶の中に溜まった炭酸がビー玉を支えています。ですから、そこそこきちんとハマっていれば、炭酸は抜けないのだとラムネ製造会社の方のお話もあります。
「んー、よくわからないですぅ」
「そだね」
「まあ、今はA玉と呼ぶことはほとんどありませんから全部ビー玉でよろしいのではないでしょうかね」
「美鈴、ざっくりしすぎじゃない?」
「あははは」
ビー玉と言っても、ただのガラス玉。宝石と比べようもない安物ですが、この3つのガラス玉は友情の印として、ずっと大切に保管されるのでした。
―――†―――†―――†―――
バシッ!
「当たったぜ!! 今の当たったよな?」
「台の下に落ちないと駄目だよ~」
「え~ なんでだよー」
当たったのに落ちないので店主に文句たらたらの霧雨魔理沙がいました。
隣りには呆れ顔のアリス・マーガトロイドさん。
なんだかんだで仲良くお祭り見物です。
「ぜんぜんダメだぜー」
「私にもやらせて」
アリスもお金を払ってコルク玉の入った皿を受け取りました。ここはコルク鉄砲の射的屋です。
アリスは魔理沙の使っていた銃を受け取り、弾を詰め、狙いを定めます。
パシッ!
狙ったキャラメル箱の右上数センチ外れました。
パシッ!
もう一発。今度は箱を掠めました。
「それ、照準がズレてる。銃を変えた方がいいぜ」
「これでいいわ。クセがわかったから」
おっと、幻想郷最高のスナイパー余裕の微笑です。
パシッ! ぼとっ
パシッ! ぽとり
パシッ! ぽててん
3発目以降は全弾命中、次々に景品を落としていきます。
「すごーい!」
「かっこいい!」
「まるでデュ●ク東郷ですぅ」
いつのまにか後ろで見ていた三幼女+1から賞賛の雨あられです。
「「「 魔理沙、かっこわるぅ~w 」」」
「なんだよ、お前ら。笑ってないでやってみろ。結構難しいんだぜ」
「いいわよ。私がお手本を見せてあげる」
銃を手にしようとするフランちゃん。
「妹様、あぶのうございますからおやめください」
美鈴が止めました。そうは言っても、小さい子もやってますからそれほど危なくは無いんですがね。
「えー」
「お約束でございますよね」
今回のお出かけに際し、保護者(美鈴)の『ストップ』には必ず従う約束をしていたのですね。
「仕方ないわ。それじゃぁ、美鈴やってみて」
突然ふられる門番さん。
「え!? ワタシ? 飛び道具は苦手なんですよ~」
「いーから いーから」
グイグイすすめられて渋々鉄砲を手に取り---
パシッ! スカッ
パシッ! スカッ
パシッ! スカッ スカッスカスカスカァ……
「ひえ~あたりませーん」
「かっこわるいですぅ」
「美鈴、まるで魔理沙みたいよ」
「少なくとも私は当てることはできたぜ」
「めーりんさんはブドウ農家だから、銃なんて必要ないんじゃないかな?」
「小ちゃん、それ多分、ぶどーかのことだよね?」
「まーそーだな。美鈴の場合、それで良いと思うぜ。『拳銃は最後の武器だ!』って言うしな」
意味の分からない慰めをする魔理沙さんでした。
その後、輪投げ、水ヨーヨーすくいで遊んだ三幼女。小腹がすいてきたようです。
「美鈴、あそこの焼きトウモロコシ買ってきてー」
―――†―――†―――†―――
「焼きトウモロコシが美味しいのよね」
紅魔館でお留守番のレミリアお嬢様。
「醤油を塗ってじっくり焼き上げるのよね」
少し未練なお祭りの屋台に思いを馳せているようです。
「お嬢様が口にするようなものではございませんが、あれは美味しゅうございました」
「あの甘みのあるトウモロコシ……品種は何だったかしら?」
顎に手をやり、中空を見ながら考え込むお嬢様。
こんな時、デキるメイドは余計な口出しをしないで黙って待つものです。
「バンタム……バンダム……う~ん、その前に格好の良いオシャレな単語が付いていたような……」
おっと、正解は近そうですね。
「あ、『スーパーバンタム』ね?」
「それはプロボクシングの階級でございます。現在は118~122ポンドのウエイトとなっております」
「思い出したわ、トウモロコシはコーンだから『ユニコーンバンダム』よ」
「長く続くMSモノの中のツノが際立ったソレに近そうですが違いますね」
「もっと複雑だったかしら? ……そうだわ『ジャン=クロード・バンダム』?」
「それは格闘家であり、アクション俳優でもある御仁ですね」
「う~ん」
お嬢様は再び考え込んで顎をさすります。
「そのポーズは『ウ――ン。マンダム』でございます。段々と離れて行っておりますよ」
「もう! 咲夜ったら! からかっているの?」
「滅相もございません」
「なら、ちょっとはヒントを出しなさいよっ」
「では………………『変わるわよ(はぁと)』」
「は? それがヒント? 変わるわよって…………あっ! ああー! わかった! 『ハニー・バンタム』ね!」
「ご名答にございます。さすがはお嬢様です」
深々とお辞儀をしてみせるスーパーメイドさん。
「ふふん。この私にかかれば造作もないことよ」
「恐れ入りました」
うーん、いつもいつもとっても楽しそうな主従ですね。
―――†―――†―――†―――
ひゅぅぅぅぅぅ…… ど―――――ん!!!
「たぁまやー!!」
ひゅぅぅぅぅぅぅぅ! ど―――――ん!!
「かぁぎやー!!」
夜空に花火が上がるたびに周りから声が上がります。
社務所の屋根の上や鳥居の上には大勢の妖精が集まっています。
特等席に陣取った三幼女+門番さん。
「きれ――い」
「でも、さっきから”たまや”、”かぎや”ってなんのこと?」
「それはですね―――」
美鈴お姉さんの解説が始まりました。
「むかーしこの国が江戸時代と呼ばれていた頃火薬を使って花火を打ち上げていた『鍵屋(かぎや)』さんがあったそうです」
「花火なのに鍵屋なの?」
「そこは屋号と言って何でも良いのですよ」
「ふーん」
「その鍵屋さんから暖簾分けしてお店を出したのが玉屋さんなのです」
「かぎやさんとたまやさんはお師匠さんとお弟子さんみたいなものなのね」
「素晴らしいです妹様! その通りです」
「それじゃ、かぎやさんとたまやさんはずーっと花火屋さんとして有名だからみんなが声を出すのね」
「ところがですね」
少し声を落とすお姉さん。
「どちらも競って花火を打ち上げていたのですが、玉屋が大きな火事を出してしまい追放されてしまったのです」
「「「 ええ――! 」」」
「玉屋が活躍したのは30年ちょっとだそうです。鍵屋は今も続いているそうですが」
素晴らしい花火を披露しながらもあっという間に消えてしまった儚さを江戸の粋な人たちが惜しんで『玉屋』の名を語り継いだのではないでしょうか。
―――†―――†―――†―――
「もう花火は終わりかしら」
静かになった夜空を見ながらレミリアお嬢様がつぶやきますが、傍に仕える瀟洒なメイドは返事は必要ないと判断し、沈黙を続けています。
紅魔館のバルコニーからは花火を見ることができるんですね。
昨年は紅魔館のみんなで花火を見ていたのですが、今日はひとり、ワインを手にくつろぐお嬢様。
少し寂しそうです。
「咲夜」
「はい」
「みんな、この屋敷から出て行っても、あなただけは私の傍にいてくれる?」
「それはプロポーズと取ってよろしいですか?」
「はぁ? なに言ってるの!?」
「申し訳ありませんがお断りします」
勝手に告白したことになって、勝手にフラれた感じのお嬢様。
納得いきません。故にちょっとだけ意地悪したくなります。
「他に心に決めたヒトでもいるのかしら?」
「黙秘します」
「私が知っているヒト――」
問い詰めようとしたちょうどその時
「ただいま~!」
フランちゃんが帰ってきました。
「お帰りなさいませ」
「あら、美鈴は?」
「トイレにダッシュしてったよ~」
ちょっと苦笑いのフランちゃん。
「食べ過ぎで、お腹が苦しいってw」
「咲夜、胃腸薬を持ってい―――」
咲夜さんはすでに消えていました。
やれやれといった表情のお嬢様。
きょとんとしている妹ちゃん。
「お祭りは楽しかった?」
「うん。とぉ――――――っても楽しかったぁ」
「明日はお姉さまと一緒に行くの」
お祭りは2日間あるのです(ナンダッテー!)。
「あら、嬉しいわ」
良かったですねお嬢様。
「でね、明日のミス浴衣コンテスト、お姉さまの分も申し込んできちゃった」
「はえ!?」
―――†―――†―――†―――
後日談
ミス浴衣コンテスト―――
子供部門はフランちゃんがぶっちぎりの優勝。
一般部門は博麗霊夢さんの優勝でしたが場内からはブーイングの嵐で、それが面白くない紅白巫女が観客相手に暴れだしそうになったりで大混乱。
準優勝は魔法の森の人形遣いさん、お嬢さまは僅差で3位でしたとさ。
――― おしまい ―――
次回
仲良し三人組の前に立ちふさがる巨大な敵。
太陽と月と星の力を操る三妖精と氷と闇と狂気の炎を操る2妖精+1小妖怪。
白銀の丘で三つどもえの壮絶な戦い。
「よろしい。ならば戦争よ」
「殲滅だ! 1機残らずの殲滅だ!!」
次回、「楽しい雪合戦! 第19回ホワイトロック杯を手にするのは誰だ!?」につづく。
(つづきません! 作者註)
「「 きゃ~~~!! 」」
「そのことをね。咲夜に話すとね。咲夜の機嫌が悪くなるのよ」
「いや~~んですぅ」
「えと、どしてかな?」
「それはですぅね……ごにょごにょ」
「わぁ~~」
「門番さん。もてもてですぅ」
「そ~なのよ~」
「妹様、そういう噂話は本人がいないところで言ってくださいませんか……」
話題の中心人物は困り顔でした。
夕陽を背景にゆっくりと空を飛ぶ4つの影。
浴衣姿の三幼女――フランちゃんことフランドール・スカーレットさん。シロちゃんことリリーホワイトさん。小ちゃんこと小さな大妖精さん――とお目付け役の門番さんこと紅美鈴おねえさん(こっちはいつも通りの服装)です。
今日は博麗神社の夏祭りなのですね。
「で、美鈴、誰が本命なの?」
儚くなっていく陽光の中、赤い瞳が妖しく光ります。
「本命と言われましても……」
相手を魅了し従属させる魔眼ですが、このナイスバディの中華風妖怪は結構高位の存在なので通用しません。
「「 誰なの~? 」」
でも、曇りのない純粋な瞳には弱いようです。
「えー、あ、神社が見えてきましたよ。もうじき到着ですね」
「ホントだ! 鳥居が見えてきた!」
「屋台もたくさん出ているようですね。いや~これは楽しそうでございますねぇ、あははははは」
「賑やかそうですぅ」「楽しみー」「早く行こうよ!」
お子様がたの追求を手をなんとか躱せた門番さん。
心の中では(ふ~ ヤレヤレ)でした。
―――†―――†―――†―――
すこし時間をさかのぼります。
紅魔館のドレスルーム(と言っても小さな家が一軒入ってしまうくらいの広さですが)。
大図書館の館長と司書を除き、紅魔館メンバーが全員揃っています。
「お姉さま。おかしくないかしら?」
「おかしくなんかないわ。とても可愛くてよ」
メイド長に着付けしてもらったのは薄いピンクの生地にハートマークの周りに宝石羽根を置いた所謂フランドールマークがちりばめられた浴衣姿のフランちゃん。
うむうむと何度も頷くのは当主レミリア・スカーレットさん。
(さすが我が妹ね。浴衣が似合う可愛い女の子選手権があったらぶっちぎりの優勝だわ。霊夢に話を持ち掛けてコンテストを企画してもらおうかしら? ウチがスポンサーになれば問題ないでしょう)
お嬢さま……スポンサーの身内が優勝とか、出来レース丸出しで世間様の顰蹙を買いまくりですよ。
「失礼いたします」
ドアの外からメイド妖精の声がかかります。
「リリーホワイト様と小大妖精様がお見えになりました」
「お通しし―――」メイド長が言い終わらないうちに、
「「 フランちゃん! 来たよ~! 」」
メイド妖精の後ろから飛び出した二人の妖精。
「わー素敵ぃ」
「ピンクの浴衣が似合ってますぅ」
「小ちゃんもシロちゃんも可愛いよー」
春告精らしく白をベースに桜の花びらをちりばめた浴衣姿のシロちゃん。
水色に赤い金魚のデザインの浴衣姿の小ちゃん。
※小ちゃんって誰?……って方は過去作読んでね(公式本に登場する大妖精のひとりです)
お互いに「フランちゃん」「シロちゃん」「小ちゃん」と呼びあう仲良し参三人組です。
これから博麗神社の夏祭りに行くんですね。
一通りお互いの浴衣を誉めあったあと、
「それじゃあ、お姉さま。行ってきま~す」
「あ、ちょっと待って。……美鈴!」
「はい。お嬢さま」
幻想郷でも有数のタフネスを誇る門番が進み出ます。
「供をしなさい」
「えー、お姉さま、大丈夫だよー」
「ダメよ!」
「どーしてー?」
「だって…」
(あの神社は性格のひん曲がった煮ても焼いても食えない、どーしょーもないクッソみたいな不良妖怪のたまり場なのよ? しかもどいつもこいつも無駄にバカ強いんだから)
そう思っている本人がその不良妖怪であり、最古参の一人であり、最強の一角であり、ちょいちょいたむろっていることは置いときましょうか。
「……お嬢様」
ノータイムで移動してきたメイド長が、耳を舐めんばかりの極至近で甘い吐息とともに魅惑のボイスで囁きました。
「うひゃぅ! なによ! いきなり!」
これはさすがにビックリしますね。
「お言葉が少々汚ないかと。はしたないですよ」
「ふへ? ど、どーしてわかったの? 心を読んだの?」
妹たちの手前、小声での応酬ですが、お嬢様は動揺しまくりです。
「お仕えしているお嬢様のことであれば、この咲夜がわからないことことなどございません」
そう言って艶然と微笑みました。
「う…、そ、そうね、従者なら当たり前よね!」
お嬢様、ちょっとドキドキです。
「お姉さまどしたの?」
「と、とにかく! こんな可愛い子たちだけで行かせる訳にはいかないわ!」
素敵なお姉さまであるレミリア様は心の声を出すわけにもいかず、何とかゴリ押ししました。
「むー」
「美鈴、わかっているわね?」
「はい。お嬢さま。この命にかけてお守りします!」
ということで三幼女と行動をともにすることになった美鈴さんでした。
―――†―――†―――†―――
4人が飛び立つ姿を窓越しに見ているレミリアお嬢さま。
(お姉さまとお祭りにいく~、お姉さまと一緒じゃないとヤだぁ~って言ってたフランが、いつの間にか友だちと一緒に……成長したわね……)
「いつか私のもとから巣立っていくのかしら……」
二人だけの親愛を育んでいた昔に想いを馳せながらも妹の心が健やかに育っていることに少しおセンチになっているお嬢様です。
「お寂しいですか?」
「いいえ……これは喜ばしいことよ」
少し心が弱っている時には必ず寄り添ってくれるメイド長に答えます。
「フランが普通の女の子のように振舞える。これは素晴らしいことだわ」
「あの二人の妖精は妹様に良い影響をあたえてるようですね」
「生涯にわたる親友になるのかしら」
「親友、ですか」
「ふむ、では私も親友を誘って夏祭りに行ってみようかしらね」
「……」
「なによ、その顔は。夏祭りに行くなんて、スカーレット家の当主としてあるまじき行為とでも?」
「いえ。そのご親友のパチュリー様は先ほどツインテールの烏天狗様と一緒にお出かけになりましたが」
「ええっ!?」
「薄紫の浴衣がとてもお似合いでございました」
お嬢さま。お留守番決定ですね。
―――†―――†―――†―――
そんなこんなで夏祭り会場です。
「わ~ヒトでいっぱい」
と言ってもそこは妖怪神社(←違うわよ! by紅白巫女)人4・人外6の割合で人外が多いです。人外も8:2ぐらいで小妖怪、妖精たちが占めています。(ってことは半分以上が小妖怪・妖精ってことですね)
小妖怪も妖精も人間の子供も分け隔てなくお祭りを楽しんでいるようです。
その中にひときわ目立つ存在。
両肩に妖精を、頭の後ろに幼い吸血鬼を乗せて、人混みの中をゆっくり歩く紅美鈴さんです。
「しっかり掴まっていてくださいね」
「「「 は~~~い 」」」
迷子にならないように、美少女(幼女?)三人にしがみつかれて、ある性癖の方にはたまらないシチュエーションですね。
「あの赤いのはなに?」
「あれはリンゴ飴です」
「あのふわふわしたのは?」
「綿あめですね」
「香ばしくて美味しそうな匂いですぅ」
「ソース焼きそばですね」
「あのたくさん並んだ丸いのは?」
「タコ焼きと呼ばれているお祭りの定番メニューです」
「「「 ほわー 」」」
「食べたーい」
「私もですぅ」
「あ、あっちはイカ焼きって書いてあるよ?」
「なんだか平べったいね」
「クレープみたいですぅ」
イカ焼き。ざっくり言いますとイカの切り身の入った薄いお好み焼きをソースで調味してくるくる畳んで紙に包んでワンハンドで食べるちょいとジャンキーなフードです。玉子や明太子入りなどバリエもあります。
「美味しそうだよ」
大阪発祥とのことで梅田の阪神百貨店で供されるイカ焼きが代名詞のように扱わていますが、桃谷のイカ焼きこそが『真・イカ焼き』と声を上げる当チームです(異論は認める)。
「ね、美鈴、買ってきて」
「どれにしますか?」
「全部!」
「ぜ、全部ですか!?」
「みんなで分けるから、1個ずつでいいよ」
「そんなに食べられますか?」
「余ったら、ぜーんぶ美鈴にあげるわ」
「ぅえっ」
紅魔館最高の大食漢の美齢ですが、出がけに腹ごしらえをしてきてしまったのです。これは気合を入れないといけない状況になりました。
―――†―――†―――†―――
屋台の裏に並んだテーブルのひとつを陣取った4人。
「このチーズすごい伸びるよ~」
小妖精がステック状のチーズドッグにかぶりついています。モッツアレラの含まれた、ちゃんとしたチーズを使っているようです。
「コリコリしてますぅ、甘辛おいしいですぅ」
春告精の焼き鳥つくね串は『軟骨入り』の表示に偽り無しのようです。
「はぐっ! ほぐっ! あっひぃいー!」
フランちゃんは爪楊枝でタコ焼きを拾い上げつつ、ハフハフ言いながら次々と口に運んでいます。こちらもきちんとタコが入っていますね。
どの品も屋台とは思えないほど気合が入っています。
スカスカのぼったくりは主催者である巫女さんが許さないようです。自分でやるのは良いけど他人が得をするのはダメなんですって。(ヤレヤレですね)
普段見たことも食べたこともない屋台フードを囲んで三幼女はご満悦です。
三人とも一口二口しか食べないのでほとんど美鈴が一人で食べる羽目になっていますが、大丈夫でしょうか?
(こんなことなら晩御飯食べるんじゃなかった……)
と、ちょっぴり後悔中のようです。
「これ美味しい!」
フランちゃんはソース焼きそばをお気に召されたようです。
「今度、咲夜に作ってもらおうかなぁ」
「うーん、多分、こういったモノは咲夜さんはお嬢様方には作らないでしょうね」
「ダメなの?」
「従業員用(注釈:メイド妖精用)の食堂ではたまに出ますが……」
「えーずるい~。こんな美味しいのメイド妖精たちが食べてるの?」
「まあ所謂ジャンクフードですからお嬢様方がお口にするにはふさわしくないとかそんな理由でしょうが」
「うー」
「フランちゃん、こーゆーのは、たまーにお外で食べるからおいしんだよ」
「おおっ 小ちゃんってばぁ、おっとなーですぅ!」
「ははは、小ちゃん様の言われる通りかと存じますよ」
「むむぅ」
―――†―――†―――†―――
「おや? 妹様。ラムネの飲み方をご存じだったのですか?」
「あら、こんなの常識よ」
少しだけドヤ顔のフランちゃん。
飲み方を教えた二妖精は笑っていいます。
「中に入ってるガラス玉ってキラキラして綺麗~」
「ビー玉って言うんですぅ」
「取れないかなぁ」
「ちょっといいですか」
美鈴は空になった瓶を手に取り、キャップのゴム部分をキュッとひねりました―――
すぽん!
ちょいと力が必要ですがキャップは外せます。でも、外せない『打ち込み型』は無理です。気を付けましょう。
「すごーい」
「これも取って」
「これもこれもですぅ」
あっという間にガラス玉が3個。それぞれ手のひらに乗せて嬉しそうに眺めています。
「これがビー玉……」
「ガラス玉の規格にA玉とB玉があったと言うお話があります」
「何が違うの?」
「A玉はたくさんの染料を使い模様をあしらった奇麗なもの、単色のものはB玉と呼んでいたガラス屋さんがあったらしいですが定かではありません」
「このビー玉はうすい青色だけだからB玉なのかな?」
「小ちゃん様、また別のお話もありますよ」
「おしえて、めーりんおねーさん、おしえてー」
教育番組のお姉さんのように指を振りながら美鈴さんがお話を続けます。
「ガラス玉に傷があったり歪んでいるとラムネの蓋にできないということで、傷や歪みがなくラムネの蓋にできる綺麗な丸いガラス玉をA玉、B玉はちょっと歪んだ規格外のガラス玉だよー、ってお話もありますがこれも定かではありません」
実はラムネに使用するビー玉は、多少傷があったり歪んでいたとしても問題がないらしいです。それはラムネ瓶の中には「くちゴム」という太い輪ゴムが入っていて、これと瓶の中に溜まった炭酸がビー玉を支えています。ですから、そこそこきちんとハマっていれば、炭酸は抜けないのだとラムネ製造会社の方のお話もあります。
「んー、よくわからないですぅ」
「そだね」
「まあ、今はA玉と呼ぶことはほとんどありませんから全部ビー玉でよろしいのではないでしょうかね」
「美鈴、ざっくりしすぎじゃない?」
「あははは」
ビー玉と言っても、ただのガラス玉。宝石と比べようもない安物ですが、この3つのガラス玉は友情の印として、ずっと大切に保管されるのでした。
―――†―――†―――†―――
バシッ!
「当たったぜ!! 今の当たったよな?」
「台の下に落ちないと駄目だよ~」
「え~ なんでだよー」
当たったのに落ちないので店主に文句たらたらの霧雨魔理沙がいました。
隣りには呆れ顔のアリス・マーガトロイドさん。
なんだかんだで仲良くお祭り見物です。
「ぜんぜんダメだぜー」
「私にもやらせて」
アリスもお金を払ってコルク玉の入った皿を受け取りました。ここはコルク鉄砲の射的屋です。
アリスは魔理沙の使っていた銃を受け取り、弾を詰め、狙いを定めます。
パシッ!
狙ったキャラメル箱の右上数センチ外れました。
パシッ!
もう一発。今度は箱を掠めました。
「それ、照準がズレてる。銃を変えた方がいいぜ」
「これでいいわ。クセがわかったから」
おっと、幻想郷最高のスナイパー余裕の微笑です。
パシッ! ぼとっ
パシッ! ぽとり
パシッ! ぽててん
3発目以降は全弾命中、次々に景品を落としていきます。
「すごーい!」
「かっこいい!」
「まるでデュ●ク東郷ですぅ」
いつのまにか後ろで見ていた三幼女+1から賞賛の雨あられです。
「「「 魔理沙、かっこわるぅ~w 」」」
「なんだよ、お前ら。笑ってないでやってみろ。結構難しいんだぜ」
「いいわよ。私がお手本を見せてあげる」
銃を手にしようとするフランちゃん。
「妹様、あぶのうございますからおやめください」
美鈴が止めました。そうは言っても、小さい子もやってますからそれほど危なくは無いんですがね。
「えー」
「お約束でございますよね」
今回のお出かけに際し、保護者(美鈴)の『ストップ』には必ず従う約束をしていたのですね。
「仕方ないわ。それじゃぁ、美鈴やってみて」
突然ふられる門番さん。
「え!? ワタシ? 飛び道具は苦手なんですよ~」
「いーから いーから」
グイグイすすめられて渋々鉄砲を手に取り---
パシッ! スカッ
パシッ! スカッ
パシッ! スカッ スカッスカスカスカァ……
「ひえ~あたりませーん」
「かっこわるいですぅ」
「美鈴、まるで魔理沙みたいよ」
「少なくとも私は当てることはできたぜ」
「めーりんさんはブドウ農家だから、銃なんて必要ないんじゃないかな?」
「小ちゃん、それ多分、ぶどーかのことだよね?」
「まーそーだな。美鈴の場合、それで良いと思うぜ。『拳銃は最後の武器だ!』って言うしな」
意味の分からない慰めをする魔理沙さんでした。
その後、輪投げ、水ヨーヨーすくいで遊んだ三幼女。小腹がすいてきたようです。
「美鈴、あそこの焼きトウモロコシ買ってきてー」
―――†―――†―――†―――
「焼きトウモロコシが美味しいのよね」
紅魔館でお留守番のレミリアお嬢様。
「醤油を塗ってじっくり焼き上げるのよね」
少し未練なお祭りの屋台に思いを馳せているようです。
「お嬢様が口にするようなものではございませんが、あれは美味しゅうございました」
「あの甘みのあるトウモロコシ……品種は何だったかしら?」
顎に手をやり、中空を見ながら考え込むお嬢様。
こんな時、デキるメイドは余計な口出しをしないで黙って待つものです。
「バンタム……バンダム……う~ん、その前に格好の良いオシャレな単語が付いていたような……」
おっと、正解は近そうですね。
「あ、『スーパーバンタム』ね?」
「それはプロボクシングの階級でございます。現在は118~122ポンドのウエイトとなっております」
「思い出したわ、トウモロコシはコーンだから『ユニコーンバンダム』よ」
「長く続くMSモノの中のツノが際立ったソレに近そうですが違いますね」
「もっと複雑だったかしら? ……そうだわ『ジャン=クロード・バンダム』?」
「それは格闘家であり、アクション俳優でもある御仁ですね」
「う~ん」
お嬢様は再び考え込んで顎をさすります。
「そのポーズは『ウ――ン。マンダム』でございます。段々と離れて行っておりますよ」
「もう! 咲夜ったら! からかっているの?」
「滅相もございません」
「なら、ちょっとはヒントを出しなさいよっ」
「では………………『変わるわよ(はぁと)』」
「は? それがヒント? 変わるわよって…………あっ! ああー! わかった! 『ハニー・バンタム』ね!」
「ご名答にございます。さすがはお嬢様です」
深々とお辞儀をしてみせるスーパーメイドさん。
「ふふん。この私にかかれば造作もないことよ」
「恐れ入りました」
うーん、いつもいつもとっても楽しそうな主従ですね。
―――†―――†―――†―――
ひゅぅぅぅぅぅ…… ど―――――ん!!!
「たぁまやー!!」
ひゅぅぅぅぅぅぅぅ! ど―――――ん!!
「かぁぎやー!!」
夜空に花火が上がるたびに周りから声が上がります。
社務所の屋根の上や鳥居の上には大勢の妖精が集まっています。
特等席に陣取った三幼女+門番さん。
「きれ――い」
「でも、さっきから”たまや”、”かぎや”ってなんのこと?」
「それはですね―――」
美鈴お姉さんの解説が始まりました。
「むかーしこの国が江戸時代と呼ばれていた頃火薬を使って花火を打ち上げていた『鍵屋(かぎや)』さんがあったそうです」
「花火なのに鍵屋なの?」
「そこは屋号と言って何でも良いのですよ」
「ふーん」
「その鍵屋さんから暖簾分けしてお店を出したのが玉屋さんなのです」
「かぎやさんとたまやさんはお師匠さんとお弟子さんみたいなものなのね」
「素晴らしいです妹様! その通りです」
「それじゃ、かぎやさんとたまやさんはずーっと花火屋さんとして有名だからみんなが声を出すのね」
「ところがですね」
少し声を落とすお姉さん。
「どちらも競って花火を打ち上げていたのですが、玉屋が大きな火事を出してしまい追放されてしまったのです」
「「「 ええ――! 」」」
「玉屋が活躍したのは30年ちょっとだそうです。鍵屋は今も続いているそうですが」
素晴らしい花火を披露しながらもあっという間に消えてしまった儚さを江戸の粋な人たちが惜しんで『玉屋』の名を語り継いだのではないでしょうか。
―――†―――†―――†―――
「もう花火は終わりかしら」
静かになった夜空を見ながらレミリアお嬢様がつぶやきますが、傍に仕える瀟洒なメイドは返事は必要ないと判断し、沈黙を続けています。
紅魔館のバルコニーからは花火を見ることができるんですね。
昨年は紅魔館のみんなで花火を見ていたのですが、今日はひとり、ワインを手にくつろぐお嬢様。
少し寂しそうです。
「咲夜」
「はい」
「みんな、この屋敷から出て行っても、あなただけは私の傍にいてくれる?」
「それはプロポーズと取ってよろしいですか?」
「はぁ? なに言ってるの!?」
「申し訳ありませんがお断りします」
勝手に告白したことになって、勝手にフラれた感じのお嬢様。
納得いきません。故にちょっとだけ意地悪したくなります。
「他に心に決めたヒトでもいるのかしら?」
「黙秘します」
「私が知っているヒト――」
問い詰めようとしたちょうどその時
「ただいま~!」
フランちゃんが帰ってきました。
「お帰りなさいませ」
「あら、美鈴は?」
「トイレにダッシュしてったよ~」
ちょっと苦笑いのフランちゃん。
「食べ過ぎで、お腹が苦しいってw」
「咲夜、胃腸薬を持ってい―――」
咲夜さんはすでに消えていました。
やれやれといった表情のお嬢様。
きょとんとしている妹ちゃん。
「お祭りは楽しかった?」
「うん。とぉ――――――っても楽しかったぁ」
「明日はお姉さまと一緒に行くの」
お祭りは2日間あるのです(ナンダッテー!)。
「あら、嬉しいわ」
良かったですねお嬢様。
「でね、明日のミス浴衣コンテスト、お姉さまの分も申し込んできちゃった」
「はえ!?」
―――†―――†―――†―――
後日談
ミス浴衣コンテスト―――
子供部門はフランちゃんがぶっちぎりの優勝。
一般部門は博麗霊夢さんの優勝でしたが場内からはブーイングの嵐で、それが面白くない紅白巫女が観客相手に暴れだしそうになったりで大混乱。
準優勝は魔法の森の人形遣いさん、お嬢さまは僅差で3位でしたとさ。
――― おしまい ―――
次回
仲良し三人組の前に立ちふさがる巨大な敵。
太陽と月と星の力を操る三妖精と氷と闇と狂気の炎を操る2妖精+1小妖怪。
白銀の丘で三つどもえの壮絶な戦い。
「よろしい。ならば戦争よ」
「殲滅だ! 1機残らずの殲滅だ!!」
次回、「楽しい雪合戦! 第19回ホワイトロック杯を手にするのは誰だ!?」につづく。
(つづきません! 作者註)