Coolier - 新生・東方創想話

ちょっとした悩みから

2021/09/22 00:02:14
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 つまらない現実と、その世界の狭間で少女は揺れている。
 現実にあるのは山のようにある課題、レポート、論文、受けたくもない講義。大学を出ても、いつまでも誰かと比較され、追い越し追い越されまいと競争し、心と体を擦り減らす毎日。インターネットの上では、誰かが口論をし、不特定多数の誹謗中傷で溢れ帰っている。
 しかし、この世界にはそのような概念は見当たらない。多くの人が手を取り合い、よそ者でも快く歓迎する。競争とする者もおらずゆったりとした生活を送っている。
 そんな美しく見えるこの世界に少女は心を奪われかけていた。
現実とは限りなく隔絶され、理想とさえ勘違いさせるこの世界は、現実に疲弊しきった少女を引きとどめるにはであった。
「メリー、ここって不思議と落ち着くわね。なんだか縛りっていう縛りがなくて」
辺り一面に広がる美しい大自然の草や木、さわやかな風は少女をこの世界に歓迎していた。
「私もそう思うけど、ずっとここにいるのは良くないと思うわ。日が暮れる前にここを離れない」
「そうかな、むしろずっと此処にいてもいいと思えるわ」
此処に良い印象も持っている少女の反応に対し、メリーと呼ばれる少女の反応は違っていた。
 辺りを散策していた少女達は、先程から一キロ程歩いたところ農村に辿り着いた。農村の規模は三十人程で、水田が引いてあったり、見たことがない野菜を育てていたり、牛に似た奇妙な動物が飼育されている。また、辺りの木々は、少女たちを囲い込むかのようにしている。
 そんな現実とかけ離れた光景に少女は嬉々として、もう一人の手を掴んで走り出した。
「ねぇメリーこの生き物って何だろう、牛なのかな。それに、この野菜ってなんだろう、見たことない、根菜類だっていうところまでは分かるだけど。」
「蓮子落ち着きなよ。ほら、向こうに人がいるから聞いてみましょう」
彼女が指差した先に若い優しそうな男性が、農作業を終え一休みしている。
 「すみません。今、お時間頂いてもよろしいでしょうか」
「ええ、構いませんよ。ここは、新顔にも優しくがモットーなので、是非何でも聞いてください」
「それでは、この牛みたいな生き物はなんですか、それとこの野菜はなんですか」
「ええとですね、この牛は・・・・」
 少女の好奇心溢れる熱意の籠った声に気合が入ったのか、男性は意気揚々と早口で彼女の質問に答えていった。
その後も男性との次へ、次へと繰り出され,その様子を側でもう一人の少女は眺めていた。
 「蓮子、お話は終わった」
待ち疲れたように少女はあくびをしていた。
「ごめん待たせた。ついつい、知的好奇心が刺激されて止まらなかったんだ」
少女は、先ほどと変わらない早口であった。
「本当にすごいんだって、絶対にありえない交配が出来たり、成長速度を自由に改編したり、もう普通の感覚が麻痺しちゃうくらいなんだ」
「そうなのね。確かに私もすごいと思うわ。あんな見たこともないような生物が居るなんて思いもしなかったわ。それと、そろそろお昼の時間じゃないかしら」
「そういえばさっき、この後村のみんなで一緒にお昼ご飯を食べないかって誘われたからいこう」
「うーんでも、あんまり長居すると良くない気がするのだけど」
「折角誘ってくれたからいこうよ」
そのまま、蓮子に流されるようにメリーは納得した。
 日が照りつけるような時間、彼女たちは村人達と昼食を採っていた。だが、先ほどまで農作業をしていた男性は、何処か別のところに居るかのように姿は見えなかった。
 仲良さげ集まって食べる村人たちの様子は少女の目には、かつて自らが想像していた、温かい村のようすと重なって映っている。まるで、ゲームや小説などの世界の酒場のような風景は彼女を引き付けた。
 そんな村の席だが、いくつかの席が不自然にぽつんと空いている。普通は席を詰めたりするはずなのだが、村人も少女も全く気にしてはいなかった。だが、メリーには違和感が残った。
「お嬢ちゃんたち、一体なんでこんなところまで迷い込んじまったんだ」
筋肉質の男性が陽気に、そして不思議そうに質問した。
「山道を散歩していて気づいたらここにいたんです」
「そうか。しかし、お嬢ちゃんたちも災難だなあ。実は、俺たちもここに迷い込んでしまって数ヶ月もここに居続けてる。此処は、来るもの拒まず去る者追わずっていうルールがあって、そこが気に入っちまったんだ。まあ気がすむまで此処にいるといいさ」
男はそうしてその場を後にした。
「蓮子、もうそろそろ帰らない」
少女に問い掛けるも、もうちょっとだけ、とそう楽観的な答えしか帰ってこなかった。
 辺りの草や木は風もなく大きくその体は揺らしている。
 日が沈みかけ、辺りは薄暗くなり木々は依然として一人でにその体を大きく揺らしている。
「ねぇ、そろそろ早く帰ろうよ」
「もー、なんでさっきから帰ろう帰ろうってなんでそんなに急いでるの。何も急ぐことはないじゃない」
不安げに心配する彼女に対し、不機嫌そうに少女は言った。
「別にあっちに帰ったからって、つらい事しかないんだから」
その言葉は少し寂しげであった。
「悩みがあるなら聞こうか」
 静かな沈黙の後、少女は少し躊躇いながら言葉を綴った。
「私さ、今まで勉強とかなんでも他の人に負けないよう努力してきたつもりなんだ。高校までは、そんな努力だけで何とかなったんだ。でも、大学に進んでからそううまくいかなくてさ。研究もうまく進まないし、教授にも怒られるしさ。私よりも、頭が良くて努力する出来る人がごろごろいる。それで、なんか疲れちゃった」
喉から絞り出したような声だった。
 そばにいる少女はただ、その主張を否定せずに聞いていた。少女は、考えていた。何か励ますような言葉が出てこなかった。いつも、一緒にいる友人がこんなにも悩んでいたことに気づけなかったことに。
 しばらくして不意に立ち上がって叫んだ。
「私のバカヤロー。親友が悩んでいることぐらいキヅケー」
少女は、今まで見たことのない親友の姿に目を丸くして驚いていた。
「ほら、蓮子も何か叫んで」
有無を言わさず、少女に叫ばせた。
「え、えっと、ばかやろぉ」
「声が小さいよー蓮子」
「私のバカヤロー」
恥じらいながらも、叫んだ言葉は何度も山へ木霊した。
「どう、すっきりしたでしょう」
親友は、清々しい顔をしている。
「そうかな」
顔を赤面させウジウジしながらそう返す。 
「ほら、世界はこんなに広いんだから別に上には上がいるんだよ。でも、貴方の努力できるってことは、私凄いことだと思うんだよ。そこは、誰にも負けないって思うわ」
「でも、私に出来るかな」
「出来るって、だって今貴方もいい顔してるんだから。だからほら、明日は講義があるわよ。帰りましょう」
「分かったよメリー。帰ろうか」
 二人の表情は、お互いが知らない程いい笑顔をしていた。
 もう木々は少しも揺れていない。

 「お嬢ちゃんたち、此処から外れたみたいだな。今時珍しい女性プレイヤーだったから此処に残って欲しかったんだがなぁ」
先ほどの筋肉質の男性が寂しそうに言葉をこぼした。
「まあそう言うなよ、此処のモットーは新顔にも優しく、そして来るもの拒まず、去る者追わず。そうだろ」
「でもそういうリーダーだって実は、あんなに頼ってもらったんだから寂しいだろ」
「ほら、余計なことを言うな。明日は仕事だから今日はもう帰るぞ」
リーダーと呼ばれる男は、頭をガシガシと手でかきながら言葉を返した。
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コメント



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5.90名前が無い程度の能力削除
人のもろいところを見たような気がしました。
7.100南条削除
面白かったです
蓮子が残ろうとしてメリーが連れて帰ろうとするという対比がよかったです
10.100モブ削除
二回読んで多分そういうことなんじゃないのかなあと思いながら読むと、すごく面白かったです。ご馳走様でした。ある意味で境界なのかもしれませんね。