夕方、大学から解放されて帰り道、今日の夕食はメリーの担当だと思い出しつつ、いつものスーパーを横切って家へと帰るそんな日常。郵便受けを確認して、マンションの階段を登って家の前で鍵を探す、ここまでは言うまでもなく日常だった。
家の中から聞こえてくるドタバタとした音、きっと足音とかその他諸々だろうか。きっとメリーが良からぬことをして私にバレないように隠しているのだろう。足音が落ち着いた頃を見計らって鍵を開けて家に入る、これぞ優しさね。
「ただいまー」
「お、おかえり蓮子」
明らかに気が動転しているし息も上がっている、これで何か隠していないと弁明できる人が居るとすれば詐欺師か弁護士の素質があると思う。メリーはそんなタイプじゃないけど。
何かメリーがしでかしているのはわかるけど、とりあえずは何も指摘しない。これも同居人の優しさね、これができない馬鹿なカップルが同棲してすぐに別れるのよ。
私がネクタイを外して郵便受けに入っていたチラシをゴミ箱に捨てに行くと、メリーは風呂を入れ始めていた。風呂場に何かあるのだろうか? きっとメリーはすぐにボロを出す、私は気長に椅子に座って本を鞄から出して時間が流れるのを待つことにした。
しばらくするとメリーは風呂場から出てきてソワソワしながら私の前に座った。何かを言い出そうとしながら私の方を見たり、ソワソワしながら自室を見たりと隠し事をしているのがバレバレなメリーを見て笑わないように抑えるこっちの方がおかしくなってくる。しかしその様子を見るにきっと自室に隠しているコトがあるのだろう。
少しの間続いた無言を壊したのは風呂を沸かしたと自慢してくる給湯器のチープな音楽と音声だった、こいつは相変わらず空気を読まない。
「ね、ねぇ蓮子今日はご飯の先にお風呂入っておかない? 私買い忘れがあってそれを買いに行くから」
それを見計らったかのようにメリーが先手を打ってくる。必死なメリーの姿に免じて従うことにする、こういうところも優しさなのよ。
「わかった、先にお風呂いただくわ」
とメリーにお礼を伝えて本に栞を挟んでタンスから着替えを用意しに行く。少しメリーの様子を見ると鞄を用意していたので何かをしに外に行くのは嘘じゃないみたいね。
きっとこのまま見ていてもメリーは外に出ないだろうし一旦お風呂に入る、この時点でもうメリーが何をやらかしたのか大凡わかる。おそらく近くのコンビニで済む買い物だろうから急いでお風呂を出ても間に合わない。
身体を拭いていると扉の音が聞こえる、メリーが帰ってきたようだ。きっとこのまま自室に入って買ってきたものを使うのだろう。
髪を乾かして脱衣所を出るとメリーはまだ自室に居るようだった、決戦をするならこのタイミングが良い。私は扉越しにメリーに話しかける。
「お風呂上がったわ、メリーはどうする?」
「......ご飯食べたあとにするわ」
声をかけた瞬間少し音が止まって、メリーの返事と共にまた何かをしている音が小さく聞こえる。攻めるなら今と本能で理解できる。
「それとさ、さっきので全部栞使っちゃったからメリーの借りていい? 部屋にあるでしょ?」
「えっちょっと今は入らないでってあっ!」
ガシャッ
「にゃー」
メリーの慌てた声が途絶えると同時に食器が落ちる音がして、部屋から猫の鳴き声が聞こえた。やっぱりメリーは動物を拾ってきたようだ。
「......入るわよ」
扉を開けるとそこにはペットフードを与えるメリーと可愛らしい黒猫が居た、黒猫は尾っぽが2つに割れていたけど。
「待って蓮子これは違うの、違うのよ」
「カワイイ!」
「え?」
かわいい猫又を前にして私は我慢できなかった。メリーの弁明の声にかぶさって声を出してしまう。気がつけば私は黒猫を抱きかかえてメリーの方を見ていた。
「ね、ねぇ蓮子」
「あっ......」
「何があったか聞いてくれる......?」
「ご、ごめん、聞くわ。飼うのは駄目だけど」
「蓮子だって可愛がってるじゃない! 駄目なの?」
「そう言われてもダメなものはダメよ。さぁ話して?」
「......今日帰り道でね、路地奥にこの子が居たのよ。近づいてみたら尻尾が2つに割れているからビックリしたんだけど、全然逃げないし可愛いから飼いたくて......」
猫又に路地で出くわしたことなんてこの人生で一度も無いけど、夢の中から持ち帰ってきていないようで安心した。変なところから持ち帰ってきていたら元いた場所に返せない。
「うーん......たしかに可愛いし猫又は気になるけど駄目よ、元いた場所に返さないと」
「駄目?」
うっ、私はこの上目遣いのメリーに弱い。それでもここはきっぱり言わないといけない、同居人としてしっかり言わなければならないの。
「駄目」
少しの沈黙の後、猫又の黒猫は私の膝を降りて扉を爪でカリカリと引っ掻く。
「ほら、この子も帰りたいって」
「......うん、わかった」
そうして私達はこの猫を拾った場所へと向かう。大人しくメリーに抱かれている姿は本当にペットのようで、いつか余裕が出たら飼わせてあげようと思わせる愛らしさがある。
細い路地に入ってきた頃、メリーが何かを見つけたようで屈んで何かを見ながら私に声をかける。
「ねぇ蓮子、これは何かしら」
メリーが見ていたのは異様に小さい靴だった。その靴は人間の赤ん坊にも厳しい程の小ささで、丁度猫の足でなんとか履けるぐらいの余裕しか無い。
しかしその靴は豪華な装飾が施されており、蝶や牡丹に蓮の花の刺繍と金や銀の色をしたものが散りばめられていた。そのおかげで暗い路地の中でもキラキラと光って更に美しくなる。
「動物用の靴かしら? 凄い装飾ね」
私達が靴を眺めていると、メリーに抱かれて後ろを向いていた猫が前を向いて靴を見るなりメリーから飛び降りた。
「もしかしてこの子のだったのかしら」
「にゃー」
「きっとそうね、ここでお別れしましょうか」
丁度良かった。メリーは拾ってきた動物と別れるときにかなり時間がかかるので今日もかなりの覚悟をしてきていたけどそんなのはいらなかったみたい。
「じゃあね、猫又ちゃん」
「グスッ、元気でね」
メリーはきっと帰ってから悲しんで私に色々と言ってくるかな。残念だけどメリーを慰めるのは私だけの仕事なのよ猫ちゃん、自由奔放な同居人は増やせないの。
家の中から聞こえてくるドタバタとした音、きっと足音とかその他諸々だろうか。きっとメリーが良からぬことをして私にバレないように隠しているのだろう。足音が落ち着いた頃を見計らって鍵を開けて家に入る、これぞ優しさね。
「ただいまー」
「お、おかえり蓮子」
明らかに気が動転しているし息も上がっている、これで何か隠していないと弁明できる人が居るとすれば詐欺師か弁護士の素質があると思う。メリーはそんなタイプじゃないけど。
何かメリーがしでかしているのはわかるけど、とりあえずは何も指摘しない。これも同居人の優しさね、これができない馬鹿なカップルが同棲してすぐに別れるのよ。
私がネクタイを外して郵便受けに入っていたチラシをゴミ箱に捨てに行くと、メリーは風呂を入れ始めていた。風呂場に何かあるのだろうか? きっとメリーはすぐにボロを出す、私は気長に椅子に座って本を鞄から出して時間が流れるのを待つことにした。
しばらくするとメリーは風呂場から出てきてソワソワしながら私の前に座った。何かを言い出そうとしながら私の方を見たり、ソワソワしながら自室を見たりと隠し事をしているのがバレバレなメリーを見て笑わないように抑えるこっちの方がおかしくなってくる。しかしその様子を見るにきっと自室に隠しているコトがあるのだろう。
少しの間続いた無言を壊したのは風呂を沸かしたと自慢してくる給湯器のチープな音楽と音声だった、こいつは相変わらず空気を読まない。
「ね、ねぇ蓮子今日はご飯の先にお風呂入っておかない? 私買い忘れがあってそれを買いに行くから」
それを見計らったかのようにメリーが先手を打ってくる。必死なメリーの姿に免じて従うことにする、こういうところも優しさなのよ。
「わかった、先にお風呂いただくわ」
とメリーにお礼を伝えて本に栞を挟んでタンスから着替えを用意しに行く。少しメリーの様子を見ると鞄を用意していたので何かをしに外に行くのは嘘じゃないみたいね。
きっとこのまま見ていてもメリーは外に出ないだろうし一旦お風呂に入る、この時点でもうメリーが何をやらかしたのか大凡わかる。おそらく近くのコンビニで済む買い物だろうから急いでお風呂を出ても間に合わない。
身体を拭いていると扉の音が聞こえる、メリーが帰ってきたようだ。きっとこのまま自室に入って買ってきたものを使うのだろう。
髪を乾かして脱衣所を出るとメリーはまだ自室に居るようだった、決戦をするならこのタイミングが良い。私は扉越しにメリーに話しかける。
「お風呂上がったわ、メリーはどうする?」
「......ご飯食べたあとにするわ」
声をかけた瞬間少し音が止まって、メリーの返事と共にまた何かをしている音が小さく聞こえる。攻めるなら今と本能で理解できる。
「それとさ、さっきので全部栞使っちゃったからメリーの借りていい? 部屋にあるでしょ?」
「えっちょっと今は入らないでってあっ!」
ガシャッ
「にゃー」
メリーの慌てた声が途絶えると同時に食器が落ちる音がして、部屋から猫の鳴き声が聞こえた。やっぱりメリーは動物を拾ってきたようだ。
「......入るわよ」
扉を開けるとそこにはペットフードを与えるメリーと可愛らしい黒猫が居た、黒猫は尾っぽが2つに割れていたけど。
「待って蓮子これは違うの、違うのよ」
「カワイイ!」
「え?」
かわいい猫又を前にして私は我慢できなかった。メリーの弁明の声にかぶさって声を出してしまう。気がつけば私は黒猫を抱きかかえてメリーの方を見ていた。
「ね、ねぇ蓮子」
「あっ......」
「何があったか聞いてくれる......?」
「ご、ごめん、聞くわ。飼うのは駄目だけど」
「蓮子だって可愛がってるじゃない! 駄目なの?」
「そう言われてもダメなものはダメよ。さぁ話して?」
「......今日帰り道でね、路地奥にこの子が居たのよ。近づいてみたら尻尾が2つに割れているからビックリしたんだけど、全然逃げないし可愛いから飼いたくて......」
猫又に路地で出くわしたことなんてこの人生で一度も無いけど、夢の中から持ち帰ってきていないようで安心した。変なところから持ち帰ってきていたら元いた場所に返せない。
「うーん......たしかに可愛いし猫又は気になるけど駄目よ、元いた場所に返さないと」
「駄目?」
うっ、私はこの上目遣いのメリーに弱い。それでもここはきっぱり言わないといけない、同居人としてしっかり言わなければならないの。
「駄目」
少しの沈黙の後、猫又の黒猫は私の膝を降りて扉を爪でカリカリと引っ掻く。
「ほら、この子も帰りたいって」
「......うん、わかった」
そうして私達はこの猫を拾った場所へと向かう。大人しくメリーに抱かれている姿は本当にペットのようで、いつか余裕が出たら飼わせてあげようと思わせる愛らしさがある。
細い路地に入ってきた頃、メリーが何かを見つけたようで屈んで何かを見ながら私に声をかける。
「ねぇ蓮子、これは何かしら」
メリーが見ていたのは異様に小さい靴だった。その靴は人間の赤ん坊にも厳しい程の小ささで、丁度猫の足でなんとか履けるぐらいの余裕しか無い。
しかしその靴は豪華な装飾が施されており、蝶や牡丹に蓮の花の刺繍と金や銀の色をしたものが散りばめられていた。そのおかげで暗い路地の中でもキラキラと光って更に美しくなる。
「動物用の靴かしら? 凄い装飾ね」
私達が靴を眺めていると、メリーに抱かれて後ろを向いていた猫が前を向いて靴を見るなりメリーから飛び降りた。
「もしかしてこの子のだったのかしら」
「にゃー」
「きっとそうね、ここでお別れしましょうか」
丁度良かった。メリーは拾ってきた動物と別れるときにかなり時間がかかるので今日もかなりの覚悟をしてきていたけどそんなのはいらなかったみたい。
「じゃあね、猫又ちゃん」
「グスッ、元気でね」
メリーはきっと帰ってから悲しんで私に色々と言ってくるかな。残念だけどメリーを慰めるのは私だけの仕事なのよ猫ちゃん、自由奔放な同居人は増やせないの。
蓮子が強い立場な蓮メリ、解釈一致で良かったです。
挙動不審なメリーに皆まで聞かない懐の広い蓮子がよかったです
あとこちらの知識不足なのですが締めがうまく消化できなかったところがあります。
ただそれはそれとしてメリーがとてもかわいくかけていて、
そこがとても好きでした。