Coolier - 新生・東方創想話

私の部屋にある茸

2021/08/24 17:58:29
最終更新
サイズ
10.06KB
ページ数
1
閲覧数
1095
評価数
24/27
POINT
2400
Rate
17.32

分類タグ

1.
 目を覚ますと、私の部屋には膝辺りまである巨大茸が自生していた。

「あ、フランちゃんおはよー」

 寝惚け眼を何度か擦り幻覚でないことを確かめていると、扉の側からこいしが顔をのぞかせた。その手元には如雨露が携えられており、ちゃぷちゃぷと部屋に響いた音がその内になみなみと水の蓄えられていることを示唆していた。
 全体何処から文句を付けたら良いものかと私は暫し頭を悩ませ、然る後に言った。

「そこは如雨露ではなく霧吹きなのではないかしら」
「フランちゃん」こいしは愕然として、言った。「天才」



 巨大茸はその後もすくすくと成長を続け、数日のうちに私の背丈すら追い越した。
 ここまで来れば流石に私も分かる。これは魔法茸だ。恐らく私の身体から漏れ出た妖力を吸って巨大化しているのだ。何故私の部屋に生えているのかは分からない。

「いやー、大きくなったねー。とっても食べ応えがありそう」

 連日水やりに来るようになったこいしが言う。率直に言って正気を疑う。少なくとも青白く発光する自身の背丈より大きな茸を「食べ応えがありそう」などと評するのはこいしぐらいのものだろう。いや、或いは魔理沙も言うかもしれないが。

「ちょっと味見しちゃおっかな……ねえフランちゃん、少しでいいから食べていい?」
「勝手にすれば」そもそもその茸は私のものではない。私はそこまで趣味が悪くはない。この数日間、私がその茸の所有者であると口にしたことは一度もないし、もし仮にそう問われたとしたら私は恐らく全霊を以て否定するだろう。

「わーいありがとー、じゃあいただきまーす」

 こいしはいつもの軽い調子で茸の傘の端辺りに齧りついた。もごもごと咀嚼していくうちにこいし特有の空っぽな笑顔はなりを潜め、段々と真剣な色が代わりに彼女の瞳を彩った。

「フランちゃん」ごくりと呑み込んで、こいしは言った。
「私、凄いことに気付いちゃったかもしれない」
「はあ、そう」
「遍く命はみんなみんな一つの細胞から生まれたの。それ自身――イブゲノムという名前の彼女は生前は意思を持っていなかったけど、その本能は歴史の集積によって無意識の深層に深く深く根を張っていた。私達は結局みんな彼女の手足に過ぎないのよ」
「はあ、そう」
「この世界はいわばイブゲノムの見ている胎児の夢。彼女の目指しているものはただ一つ――うーんもう駄目我慢できない! ごめんねフランちゃんちょっと私今から新しいスペルカード作んなきゃいけないからもう帰るね! ほんとにごめん!」
「はいはいまたね」

 慌ただしく帰っていったこいしを見送って私は小さく溜息を吐いた。まるで突風が吹き荒れたかのような気分だった。こいしの弁はまったく意味不明であったが、あれが虚言を吐くことはまずないだろうという点において私はこいしを信用していた。
 こいしがあのようなことを言い始めたのはまず間違いなくこの茸を食べたことによるものだ。それを考えると一気に魔法茸へ興味がわいてきた。衝動のままに私は茸の傘を一欠片千切り、口に含んで呑み込んだ。

 視界の情報が爆発した。過去と未来と現在と異界と平行世界の情報が一斉に視界を埋め尽くした。これでも私は目が良い方だが、流石にこれは酔いそうだ。
 視界を封鎖する寸前、視界の彼方に派手なシャツと変なスカートを身に着けて紅い球を頭に乗せた女が見えた。
 私の方を見定めて、「見たわね」と口が動いていた。

 その茸の残りは魔理沙が全て買い取っていった。能力増強茸「スカーレット」という名前で今も売っているらしい。こいしの曰く、売り上げはぼちぼちということだ。



2.
 目を覚ますと、私の部屋には紫に妖しく光る巨木が生えていた。
 部屋に生えていたというか、部屋を貫通していた。
 前と同様のにこにこ笑顔で巨木の根元に水をやっているこいしがいたので、とりあえずその背に蹴りを一発叩き込んでおいた。

「それで、何か申し開きはあるかしら?」
「魔理沙さんが悪いよ」
「それが遺言ということで相違ないわね」
「わー待って待ってほんとだって、私は魔理沙さんに頼まれたの!」

 曰く、先日この部屋に発生した茸が予想以上に優秀だったので、他の魔法植物でもできないかと魔理沙がこいしに相談したらしい。ちゃっかり契約書まで作られていた。おかしい。一応ここは私の部屋なのだが。
 まあ、良いか。魔理沙だし。魔理沙と遊ぶのは楽しいし。今度図書館に、人間だけに反応する私の部屋への転送トラップを大量に配備するだけで我慢しておくことにする。

「それで?」
「それでって?」
「どうしてこんな巨木を選んだのかと聞いているのよ」
「いや違うの違うの、私が持ってきたときはまだ片手で持てるぐらいの苗木だったのよ」
「……予測できなかったのね。確かに漏れ出た魔力だけで一晩かからずにこの大きさまで成長するのは、私だって想像できないわ」
「あーいや、それはフランちゃんの血をちょっぴりもらってかけたからなんだけど」
「……」
「待って待って待って痛い痛い痛い今ゴキって言った関節外れたから!」

 こいしの四肢の関節を全て外してやってから、改めて巨木と向き合った。
 流石にこれは私の一存ではどうしようもない。お姉様にも咲夜にもパチェにも迷惑がかかってしまう。勿体ないが処分してしまおう、と思ったところで私のお腹が小さく鳴った。
 ……そりゃあまあ、そうもなるだろう。まだ寝起きの夕食も食べていないのだ。その上私が寝ている内に血まで取られていたとなっては、燃料不足もむべなるかなといったところだ。
 咲夜を呼ぼうかと考えて、ふと、気付いた。
 この巨木、美味しそうだ。

 幹にばりりと齧りつくと、全身に妖力が染みわたるようだった。それも当然か。こいしの弁を考えれば、この樹は魔法の森原産だ。あの場所で芳醇な魔力に漬け込まれ、その上私の血まで啜ったこの巨木は、もはや魔力或いは妖力の塊と呼んでも相違ないだろう。
 理解してからは夢中だった。ばりばりと端から食らいつき、気付けば数時間が経っていた。残っていたのは片手に収まる程度の量の木片ぐらいで、それもパチェの使い魔が回収していったから全てなくなってしまった。全身に満ちた妖力の心地好さに熱の籠った吐息を漏らしつつ座り込んでいると、背中にむずむずと違和感が走った。

「ううー、酷い目に遭ったー……あれ、フランちゃん?」
「あらこいし、一人で復活できたのね」
「あーうん、おかげさまで。ってそうじゃなくって、背中の羽が……」
「……?」

 首を傾げて背を見やると同時、ごとりと二つ音がした。
 落ちていたのは、骨のような木のような奇妙な黒い棒。そして、そこに連なった七色の宝石。

「ああ……」私は思い出して、呟いた。「そういえばそろそろ、生え代わりの時期だったわね」



3.
 話す相手がいないので知られていないことなのだが、私の羽に連なった宝石は自然に生えてくるものではない。ざっくり言えば、外部演算補助アタッチメントのようなものだ。私の能力はどれもこれも考えることが多すぎるので、こういうものでも付けていないと、とてもではないがやってられないのだ。

「だから、宝石が欲しいのよ」
「なるほどー……なるほど?」
 私の言葉に、こいしは首を傾げた。
「え、じゃあ前の羽のときに付けてた宝石じゃ駄目だったの?」
「良くはないわね。この宝石は羽との親和性が重要なのよ。そして今回の羽は魔法の森の巨木製。つまり」
 私は、ぴ、とこいしを指で指し示した。
「魔法の森でできる宝石が、欲しいの」

 とは言ったが、まさか本当にあるとは思わなかった。

「というわけで、こちらが魔法の森原産の宝石生成生物、タンスイマホウシンジュガイ……」
 ばっとこいしの手で指し示した先にあるのは、何故か私の部屋にできていた青く発光する淀んだ池だ。
「の、棲む池でーす!」
「なんで池ごと?」
「えーだって池がないと貝が死んじゃうもの」
「質問を変えるわ。どうして宝石だけじゃないのかしら?」
「魔理沙さん曰く、時期が悪いんですって」

 タンスイマホウシンジュガイの真珠を作る時期は、普通は今からおよそ半年後なのだという。そのスパンを、私から漏れる妖力によって短縮させようという目論見らしい。

「あと魔理沙さんからフランちゃんに伝言だよー。真珠が余ったら分けてほしいんだって」
「私のところに遊びに来てくれるなら幾らでも手を貸すわ、と伝えておいて頂戴」
「それとこないだの羽、とっても研究に役立ったって言ってたわー」
「パチェより上手く使いこなせることを願っているわ、と付け加えておいてくれるかしら」
「うんうんいいよいいよー、ところで私には何かくれたりしないの?」
「仕方ないわね……骨が良い? それとも血? 心臓は駄目よ、大仰過ぎるもの」
「うーん、眼球! フランちゃんと同じものを見てみたいわ!」
「食べたからといって同じものが見えるわけではないと思うのだけど……はい、どうぞ」
「ありがとー、でもフランちゃんったら無粋だわー。これは単なる願掛けよ願掛け」

 貴方の眼球はホルマリン漬けにして地霊殿のエントランスに飾ってあげる! と言い残してこいしは去っていった。本気で言っているのなら彼女の家はなかなか凄まじい様相なのだろう。見てみたい気持ちは少しだけあるが、実際に見ることは恐らくそうそうないだろう。なにせ彼女の家の中には太陽がいるという話だし。



4.
 目を覚ますと、ぱちぱちと木の爆ぜる音が聞こえた。
「あ、フランちゃんおはよー。今ね、魚焼いてるんだけど食べる?」
 こいしが私の部屋の中で焚火をしていたのだ。

「どうかな、美味しく焼けてる?」
「ええ。でも魔力は案外少ないのね」
「えー、だってそれ妖怪の山で取ってきたんだもん。もしかしてフランちゃん、私が常に魔法の森にしか行ってないって思ってない?」
「思ってないわよ、だって此処に来ているじゃない」
「うわそうやってけむに巻くんだ、フランちゃんのいじわるー」
「なら聞くのだけど、この薪は何処産なのかしら?」
「え? 魔法の森産だけど」
「そういうところよ」

 ぱちぱちと静かな部屋に響く音が、不思議なことに心地好かった。最近慌ただしく過ごしていたからだろうか。こいしの持ってくる面倒ごとは奇妙奇天烈で振り回されることばかりだったが、けれど刺激的で愉快だったことも確かだ。そしてだからこそ、こういう何でもないような時間が心地好く感じるのだと思う。

「そういえば」とこいしが言った。その懐から取り出したのは、煙管が二本と、それに見覚えのある色をした乾燥茸だ。
「魔理沙さんからおすそ分けですって。こうやって煙を吸うと一番効能が強いらしいわ」
「ああ……私はパス。一度試してみたのだけど、視界に酔って楽しむどころではなかったもの」
「ありゃりゃ」
 口調こそおどけているようだったが、こいしは見るからにしょんぼりとした様子だった。どうしたものかと一瞬私は考え込んだが、何のことはない、丁度良いものはすぐ傍にあるのだ。
「こいし、ちょっと貰うわよ」
 言って、返事を待たずに彼女の触手を指先程度切り取った。ついでに私の羽の先の辺りを、同じくらいだけ切り離す。

「フランちゃん、何やってるのそれ?」
「茸は吸えないけれど、こっちなら付き合うわ」

 宙に浮かべて、裁断、乾燥。入る分だけ集めて丸め、煙管の火皿に詰め込んだ。私が取ったのはこいしの管、こいしに渡すのは私の羽の入った方だ。

「はい、どうぞ」
「……フランちゃんって、もしかして天才?」
 こいしが私の顔を覗き込んだ。その目はきらきらと輝いていたから、きっとお気に召したのだろう。私は、は、と鼻で笑った。
「何をいまさら」

 わーフランちゃんの味がするー、とにこにこ笑顔のこいしを横目に、私も煙管に火をつけた。
 無味無臭、とはこういう味を言うのだろう。言語化し難い、唯の吐息のような、或いは真水のような不思議な味。仙人の食うという霞とやらは、やもすればこんな味なのかもしれない。
 まあ、要するに、こいしらしい味だ。彼女の振り撒く騒々しさとは比較する気にもなれないが、それでもこの空っぽな味こそが彼女の本質なのだと思う。

「フランちゃん、どう? 私、美味しい?」
「味はしないわね」
「そんなー」

 肩を竦めて私は返した。

「でも、こういう落ち着いた気分の時に吸う分には、丁度良いわ」
https://twitter.com/sakuuma_ROMer/status/1430006141287735296
サク_ウマ
https://twitter.com/sakuuma_ROMer
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.130簡易評価
1.100疾楓迅蕾削除
これ眼球の百合じゃないですか!!!
私大好物なんですよ!!!
私大好物なんですよ!!!
私大好物なんですよ!!!
2.70名前が無い程度の能力削除
よかったです
3.90名前が無い程度の能力削除
咲夜が図書館のトラップぜんぶ踏み潰していきそう
4.80名前が無い程度の能力削除
よかったです
5.100名前が無い程度の能力削除
こいしちゃんは言わずもがなフランちゃんも心臓以外のものなら大体なんでもあげられるあたり負けず劣らずやばくて最高ですね…
とてもよいこいフラでした
6.100柏屋削除
>>目を覚ますと、私の部屋には膝辺りまである巨大茸が自生していた。
開幕巨大茸

>>軽い調子で茸の傘の端辺りに齧りついた。
>>一欠片千切り、口に含んで呑み込んだ。
茸生食、ダメ、ゼッタイ

>>笑顔で巨木の根元に水をやっているこいし
安定こいしムーブ

>>こいしの四肢の関節を全て外してやってから
とりあえず全部外すのかw

>>それでもこの空っぽな味こそが彼女の本質なのだと思う。
ぐっ、スタティックでありながらなんて濃度のこいフラ!
画面が眩しい尊過ぎて直視できない!

良かったです!
7.90奇声を発する程度の能力削除
良かったです
8.100牛丼ねこ削除
サク_ウマさんのこいフラが帰ってきた! 軽妙な会話で楽しめると同時に地霊殿のテキストを踏まえた描写も混ざっていてニヤッとしました。この作品のこいしちゃん、かわいいマッドサイエンティストみたいですね。頼んでる魔理沙が普通に変な魔法使いであるがゆえの結果なのかもしれませんが。サクッと読めて楽しめる、良い作品だと思います。
9.80名前が無い程度の能力削除
 二人の不穏なようでどうしようもなく穏やかな日常?風景に、寄り添うように読めました。
 羽の宝石を演算機と見る解釈は初耳ですが、不思議にすとんと腑に落ちました。
 ……最初に子供たちが地下室でキノコを育てだすあたりで、ブラッドベリのぼくの地下室においでを連想してやべーぞシリアスホラー巨編だ!と勝手に身構えてしまうなどもしました。
12.100名前が無い程度の能力削除
可愛らしい混沌でした。
14.100水十九石削除
殺風景なはずの地下室を視覚的にイカれきった展開をさせ、かつ二人の楽しげな雰囲気で元ネタを上書きするかのような面白さを見せてくれた作品だったと思います。
愉しい狂気でしっかりとカップリングを魅せてこられたのは実にズルい。好き。
15.100南条削除
面白かったです
実に体重の乗った百合でした
16.90名前が無い程度の能力削除
面白いを拾っていたら読み終わっていた
面白かったです
17.100めそふ削除
定期的にフランちゃんの部屋めちゃくちゃにしたい。
18.100夏後冬前削除
可愛らしくて程よくイカれてて良かったです
19.70名前が無い程度の能力削除
さっくりとした読み口で面白かったです。
こいフラは良いぞ。
20.100まやしま削除
良かったです(色々感想を考えて思いつかなかった)。
ありがとうございます。
21.100クソザコナメクジ削除
面白かったです
22.100モモモ@多重評価がうんぬん言われる削除
巨大キノコに大木に、多分室内焼き魚にあまり動じてないフランドール・スカーレットと、当然と言った感じのこいしちゃんが可愛かったです。こいしはからっぽで、フランドール・スカーレットちゃんはどんな味がするのだろう?
23.100名前が無い程度の能力削除
作者様の作品の中でも今作はかなり奇妙であり、ある種この作中に出てくるアイテムがこいしとフランの2人の関係に起因する何らかの暗喩のようにも思えて興味深かったです。作者様の独自の価値観が2人の距離感に見事に反映されており、読んでいて面白いと思うと同時に、何処か得体の知れない薄暗い森の中にズブズブと入り込んでいってしまうような不思議な感覚、抗い難い魅力のような物を感じました。とても面白かったです。
24.100名前が無い程度の能力削除
良かったです。
25.100名前が無い程度の能力削除
ちょっかいかけにいくこいフラいいね…
26.100名前が無い程度の能力削除
レミリアが理解できないものを見る眼差ししてそう
27.100ヘンプ削除
まずキノコが生えてくるところから面白すぎるし、そもそもそれを食べようとする発想が面白い。
眼球貰っていいのか?ってなったけど二人がいいならいいんだろうと納得した。
とても面白すぎました。ありがとうございます。