Coolier - 新生・東方創想話

ゆかりんデイズ10

2021/08/06 18:51:56
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 気が付くと、真っ白い地面がひたすらに広がった空間に私は立っていた。
空はうっすらと青く、星も雲もない。気温は暑くも寒くもない。

 「紫さん、ここはいわばあなたの心の中、ここで封じられた記憶を探すのです」

 どこからともなく早苗の声がする。空間に響いているのか、私の頭の中に直接語り掛けられているのか、分からない。

「一体どうすれば?」
 「記憶はいくつかの断片に分かれています。取り戻すためには障害を乗り越えなければなりません。でもあなたならできるはずです」

 声がしなくなった。出口はなく、選択の余地はないらしい。
 目の前に1メートルほどの白い立方体が幾つも浮かび出て、階段のような構造が作られた、3段先が平らな通路になっていて、その先に揺りかごが置かれている。

 「空は飛べなくなっている、か」

 私はそのブロックによじ登り、どうにか揺りかごを手に取った。その瞬間、頭の中に懐かしいビジョンが駆け巡る。



雨が降る、森の中、赤ん坊の泣き声がする。

捨て子だった。幻想郷内か外来人か。ひどい話だ。

 藍と橙だけでは寂しい気がする。

 口実は、そう、人間を知るため。



 そう、私と霊夢はそうして出会った。なぜ忘れていたのだろう。
視界が元に戻り、もう少し複雑なブロックの迷路や階段が出現した。
 どうにかよじ登り、その先に今度は陰陽玉が置かれていた。



 霊夢と名付けた。猫モードの橙の背中わしゃわしゃする。橙は嫌がっていない。かわいい。

 藍も霊夢を可愛がってくれる。ふと霊夢の前に陰陽玉、ひとりでにころころ。

 宙にふわり、陰陽玉を手も使わず動かす。次の博麗発見。



 あの時、先代博麗が引退して数年たち、まだ候補者がいなかった。
 期待にたがわず、彼女はめきめきと腕を上げたんだ。
 目の前にはまた乳白色の空と障害物。だんだんと慣れてきた私はそれらをひょいと乗り越え、今度は星の形をしたオブジェを手に取る。



 霊夢は同年代の魔法少女と知り合う。名は魔理沙。霊夢の良き競争相手。

 初めての異変解決成功。異変の黒幕は霊夢に負けた後、私たちの酒飲み友達になってくれた。幻想郷は良い方向に変わっていると思う。



 あの時に戻れたらな、と思う。
 だんだんと、障害物が多く、先に進みづらくなってきた。それでも、一つずつ障害を乗り越え、記憶のシンボルと思しき酒瓶をつかんだ。



ある満月の晩、霊夢と二人で酒を飲んだ。

 「美味しい? 良かった。今日はとっておきのお酒を持ってきたから」

 「どういう風の吹き回しかって? 別に、たまにはサービスするわ」

 「思えばいろんな事があったね」



 思い出される優しい記憶。不穏な気配は微塵も感じない。
 ビジョンが消え、また乳白色の世界。今度は少し複雑な形にブロックが並んでいる。
 三途の川のUFOみたいに、一定の場所を行き来しているブロックもあった。

 「これくらいもう慣れてるし」 

 と言いつつ足を滑らせて落ちてしまう。

 「わああ」

地面の衝撃を覚悟して身をすくませる。でも地面はトランポリンのように私をぽよんと跳ねとばし、スタート地点に戻すのだった。

 「ここは私の心の中の世界、だから大けがはしない、か」

ここが私の心を表しているのなら、だんだん進みづらくなっていく理由は……。
ブロックの先には折れたお祓い棒。やめてよ、不吉じゃない。
意を決して手に取ると、また記憶がよみがえる。



 「お祓い棒が折れた? 弾幕ごっこの最中に?」

 「ええ? このまま異変解決を?」

「だめ。いつもの道具がないと調子が狂うかも。直してからにしなさい」

 「心配性? そりゃあ娘を心配しない親はいないもの。こら笑うな」 



 記憶の中の霊夢はいつもの強気だけど優しい霊夢のまま。だけどこの不安は何だろう。
 目の前のブロックはさらに複雑なつくりになっていた。私の心の世界が、私をこれ以上進ませまいとしているのか? そんなに重い記憶なのか? 転んだり落ちたり、重力がなぜか逆さになったり横になったり。そんな道のりを進んだ。
行き着いた先には破れたリボンがあった。なんとなく、そういうオブジェだろうと思った。



「何ですって!? 霊夢が!」

「私はここまでするつもりじゃ……」
  
『号外 博麗霊夢氏負傷』

 「事故はあり得る。妖怪退治は本来そういうもの。それよりも……霊夢は何処?」

                   「いえ、被弾による怪我はわずかです」

「じゃあどうして!?」

「それよりもバランスを崩して頭を打った怪我のほうが……」

 「霊夢、お願い。目を覚まして」

                        「紫様、気を確かに」

 「うるさい!」



 …………。いやしかし、これは私のいた幻想郷の話だ。この並行世界の幻想郷になぜ私が来たのか? こちらの幻想郷がなぜこうなったのか? その答えはま…………!

ある確信が私の頭を駆け巡り、その場に立ち尽くす。

 「……そうか、ここは並行世界の幻想郷……じゃない」
 「その通りです」 再び早苗の声が響いた。
 「そして、最後の失われた記憶を取り戻せば、貴方の疑問は晴れるでしょう」

 目の前にはブロックで作られた山、谷、壁。今まででもっとも険しい。

 「無理にとは申しません、ここで引き返すのも選択肢です」

 なんとなくどのような真相か分かったような気がする。そしてそれはとても辛いものに違いない。でも確かめるのは自分の義務でもある。そう私の心が告げている。

 時間を変えてゴールにたどり着いた。



「私の妖力を霊夢に注ぐ、これしかない」

                     「それでは紫様のお体が……」

 「藍、橙、結界維持は貴方たちに任せるわ」
 
 「まだ幻想的な力が足りないというの? なら結界のエネルギーを借りれば」

              「もし結界が維持できなくなったらどうするのですか?」

 「許容範囲は把握しているから」

              「結界の維持が限界に来つつあります、私共の力では……」

「血色が良くなってる。もう少しで霊夢はきっと」

                 「駄目です、外界の成分が浸食を」

 「あと少し、あと少しで」

                 「紫様! 現実を見て下さい!」

 「現実? 霊夢は助かるのよ。まだ希望はある」
 
                         「紫様! もはや結……」

 暗転する世界。

幻想郷が崩壊寸前になった。
多くの幻想たちが消えた。
人もいなくなった。
 すべて、原因は私。
 みんな、私のせい。

 私は、いつの間にか元の世界に戻っている事にも気づかず、自分がしてしまった行為の大きさ、愚かさに打ちのめされ、乾いた笑いを上げるしかなかった。

 
「あははは、こういうオチだったんだ。崩壊した世界をさまよう記憶喪失の主人公、でもその者こそが世界崩壊の大戦犯でしたとさ」

 笑い終えると、罪悪感と悲しさと徒労感が湧き、地面を殴りつけていた。

 「世界より! 自分のエゴで! 大事な一人を選んだ! その挙句その一人を救えたかもわからん! 私はバカだ、ちくしょう! ちくしょう!」

 チルノがおびえてこちらを見ている。

 「ユカリ……」
 「見たでしょ、すべて私のせいだよ。ごめんね。チルノは私の大切な友達だった。ずっと友達でいたかった。でももう無理だよね。私が『らすぼす』だったんだもの」

 「ユカリ、幻想郷がこうなったのが例えユカリのせいだとしても、あたいにいろいろ優しくしてくれて、いろいろ危ない目にあって、いっしょに歩いてきたのは本物の思い出だと思う」

 「チルノ……」
 「だけど、あたいの頭の中がぐちゃくちゃして、どうしたらいいかわかんなくて、このままだとユカリにひどい事言っちゃいそうだから、ちょっと一人にさせて」

 そういってチルノは里のほうへと走っていく。私の最後の希望が遠ざかっていく。これが罰なのか。
 それからどれくらい時間がたったのかわからない、しばらくその場でただただ泣いていた。




 背後から誰かの足音が聞こえてくる。恐らくこの事を把握している者達だろう。自らの罪を思い出した所で断罪するつもりだろうか? なら、好きにすればいい。

「ついに、記憶を取り戻したのですね」

 意外なほど優しく、懐かしい声がした。私が何をしたのかを知っているにも関わらず、声に責め立てる雰囲気はない。
式神の八雲藍だった。黒猫の姿をした橙がそばにいる。続いて現れる、上白沢慧音、風見幽香、黒谷ヤマメ、川城にとり、八意永琳。
 
「ええ、全て私の責任。殺されても文句は言えないでしょうね」

藍は首を横に振った。

「いいえ、紫様は今でも私と橙の主です。あなたはそれでも生きるべきだ」

「にゃーお」 橙が足元に絡みついてくる。

「霊夢は、どうなったのかしら?」

 藍が目を伏せる。

「霊夢は行方不明です。あの後外界の風が吹いて、私たちも衝撃を受けたので」
「……」
「しかし、本当の事を言わせていただくと、貴方はもう少し、霊夢だけでなく、幻想郷にも目を向けていただきたかった」
「そう、全ては私のエゴがもたらした災厄」

慧音がやや感情を押し殺した雰囲気を醸し出している。

 「あなたに恨みがないと言えば嘘になる。だが、人々の記憶から無かった事にできても、起きた結果は変えられない。だから復興に力を貸してほしい」 

教え子の中には栄養失調の子も多いと聞いた。おそらく、亡くなった子も……。

「理性が邪魔してるこいつらの代わりに私が言ってやるけど」 と幽香。
「貴方は間接的にあれ、妖怪や妖精たちを大勢消滅させた」

言葉で私を殴打する。物理よりもつらい。

「その通りよ」
「人間も死に追いやった」
「風見殿、もうその辺で」 藍が幽香を止めようとする。
「きっとそう」

足が震える。幽香は構わず続けた。

「お前が殺した」

見えない何か打ちのめされたように、膝を突いた。

「やめろと言っている!」 藍が怒鳴る。幽香がため息をつく。

空気を入れ替えるみたいに、ヤマメがいつもの軽やかな口調で言う。

「キスメは教えてあげた方が良いって言ってたけどね、自分でたどり着くのが大事だと思ったわけよ」
「償うなら、私としては、発明品のテストを手伝ってほしいな」
「みんな、ごめんね、ありがとう」

 幽香が日傘を閉じ、先端を私に突き付けてくるくる回した。

「本来なら私の恐ろしさを十分に味合わせて、それから消滅させてやりたいところだけど、その代わりたっぷり働いてもらうわよ」

 「これ以上ない言葉です」 私はようやく立ち上がり、頭を下げた。
「私も、貴方を責め立てるつもりはありません。しかし、『幻想食い』と呼ばれる脅威がまだ残っています」 と永琳。

「私の見立てでは、あれは外界からの侵略者ではなく、危機に陥った博麗大結界の生み出した防御機構のようなものだと思います。八雲紫、貴方には結界の作り方、修復の仕方に関する記憶も戻っているでしょう」
「ええ、私は結界自体にある程度の自己修復機能を付けました。それが私の知らない所で独自に進化して、あのような存在を生み出したのかも知れません」
「私もそう見ています。ぜひ結界にアクセスして、可能なら『幻想食い』の機能を停止させて下さい。あとは永遠亭の研究室で詳しく話しましょう」
「今すぐ伺います」
「これは貴方の償いの一環でもあるのでしょうけど、私にとっては復興の第一歩です」

 私の罪は消えない。失ったものは戻らない。霊夢もどうなったかは分からない。それでも私にするべきこと、できることがあるのなら。そうしよう。許されるかは別にして。そして、この私に少しでも自分の望みを言える資格があるのなら、チルノとまた笑い合いたい。
なるべく早く続きをお出しできたらいいなと思います。でも自分の性格上いつになるか????

 ゲーム的に言うと、次からはしばらくチルノを操作する展開です。
とらねこ
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