幻想郷の土用の丑の日の屋台のお話

パタパタパタ……
パタパタパタ……

ふぅ、ずっと炭火の前にいると、さすがに暑いですね。
炭をあおぐうちわで自分に風を送りたい所ですが、一瞬でもそんなふうにサボったりなんかすれば、うなぎに打つクギが勢いよくこちらに飛んで来る事でしょう。

今日は土用の丑の日。
いつも常連客だけでひっそりと程よく賑わっているのミスティアさんの屋台も、この日ばかりはうなぎを買い求めるお客が殺到して、屋台の前に長い長い列ができます。

その長い列を前に、うなぎの頭にクギを打って手際よくさばくミスティアさんの手付きは職人そのものですが、手元へ視線を向ける目は、あまりの忙しさに血走っているし、包丁を滑らすたびに低い声でゔーっとうなる様は邪悪な妖怪そのものです。

そんなミスティアさんの様子を見かねた優しい霊夢さんは、こうしてあうんをお手伝いに派遣したのでした。
と言っても、お手伝いに来ているのはあうん一人ではありません。

屋台の中ではミスティアさんとよくつるんでいるちっこいの達が調理に接客、虫除けやお持ち帰り用の瞬間冷凍、つまみ食いにと精を出しているし、誰に命令されたか、山からは白狼天狗達が来て列を整理し、鴉天狗が便乗して新聞の悪質な勧誘を行っています。
そして遠くから聞こえるけたたましい声は、列のお客が退屈しないようにとゲリラライブを行っている響子ちゃんのものです。

みんなそれぞれ献身的にミスティアさんを手伝っているように見えますが、本当はみんな見返りにおいしいうなぎをもらいたいだけなんです。
もちろん霊夢さんも例外ではありません。

ミスティアさんもみんなの本音には気づいていますし、みんなにお礼を渡すと利益がトントンになってしまうとわかっていますが、それでも力を借りない訳にはいかず、悶々としながらそれを受け入れているような状態です。

ちょっと可愛そうな気もしますが、ある意味需要と供給のバランスが取れていて、これはこれでいいのかなと思います。


ああ、早く帰って霊夢さんとおいしいうなぎが食べたいですねぇ。

パタパタパタ……
パタパタパタ……

昨日食べたうなぎの余韻がまだ喉に残っています。