"ほら、もう終わり?"
「くっ!近づけない…」
衝撃波は収まり、再び紫は攻撃を始めた。
自由に体を飛ばせる様になった靈夢だが、紫の攻撃に苦戦していた。
無数の光弾は攻撃でありながら一つの壁であった。
巫女から力を継承した靈夢は神社に飼われていた亀、玄に乗らなくとも
空を飛べるようになった。
同時に妖怪の攻撃の軌道を読み取って回避する俊敏性も手に入れたのだが、
避けたところで、攻撃できなければ意味がない。
「くっ、何か…少しでも隙があれば…!」
光線の密度が高く、紫自身も背後を取られないように常に靈夢と間を取っている。
"ふふふ、じっくり考えれば分かると思うの。隙なんて見せるわけがないってね。
巫女になったばかりの女の子には分からないわよね。可愛い"
「この…!」
苛立ちを見せながらもどうにか弱点を探す靈夢。それでも上手く行かない。
"はぁ、巫女の力ってその程度なのね。やっぱり、神社に身代を宿して正解だったわ"
急に紫の攻撃が止まった。靈夢は次の攻撃を警戒している。
「…何よそれ」
「まあ、この場で消えるなら話してもいいわね」
紫の微笑は嘲笑の様なニヤつきへと変わった。
"私の力は博麗神社の神の力よ"
「!?。どういう事!?」
"ほんとに、その困惑している顔も可愛いわあ。私の家族に入らない?ペット枠があるわよ"
「早く話しなさい!」
目を大きく開いて靈夢は睨む。
"まあまあ、今の気持ちも分かるわよ。貴方、ついさっき神社の巫女から力を手に入れていたもんね。
でも、私はずっと前から博麗神社の神具に侵入し、神を追い出した。
神の座を手に入れた私は、無限の力を手に入れたの。
そう、神の力を"
「!」
"貴方の巫女の力は、神が分け与えた力。そして、神そのものの力。
どっちが強いかなんて決まっているでしょう?"
「…」
靈夢は頭を下げて聞いている。
"さあ、今降参するなら今までの生活は保障してあげる。村の状況は変わる事は無いだろうけど。
ただ、貴方は特別だから能力を捨てるという条件は必要になるわ"
「…」
"どうするの?巫女さん"
「…私の名前は靈夢よ。そろそろ覚えなさい」
" …? "
返答を催促する紫に、靈夢は顔を上げた。
「私は絶対に諦めない。お父さん、お母さん、魔梨沙、霖之助君、巫女様。皆、私の為に闘ってくれた。村を救うために。
ここまで来て、そして敵が分かっていて諦めるなんて出来るもんですか!!」
―――絶対に貴方を倒す!それが博麗の巫女、靈夢よ!!―――
紫は目を閉じて頭を横に振る。
"そう…。悲しいわ…。貴方が生きてた所で何も変わるわけがないのに"
「いや、変えて見せる!変える可能性は私が持っている!」
"そうやって、確率っていう{同様に確かでない値}を地獄でも永遠に信じ続けるがいいわ"
紫は変わらず光線を撃ち続けている。
すると、靈夢は後ろから着いて来る弾を横に避けて逆方向へ全速力で飛んだ。
軌道を紫の方向へ向くと、紫の後ろに回り込んだ。
"!?"
「でやぁあ!!」
回り込む時の反動を活かして、体を捻じ曲げて紫に蹴りを放つ。
しかし、紫が咄嗟の反射で避ける。
そのまま靈夢は御札を投げつけたが、偶然空中に飛んでいた光線によって弾かれた。
「くぅっ…」
"危なかったわあ。本当に貴方って分からないわね"
紫は靈夢と間を取る。
「どう?可能性はあるんじゃないかしら」
"まぁ、私の懐まで来られた事は認めてあげるわ。
でも、それでも、貴方は勝てない"
「なに…?」
"今まで、私は身を守りながら攻撃していたの。分かる?
全てを攻撃に回すとどうなるか"
「…!」
靈夢は背筋に冷たいものを感じる。
"お喋り楽しかったわよ…靈夢"
―――本当に、さようなら―――
(…来る!!)
紫の周囲から靈夢に向かって無数の弾が放たれる。
これは、もはや"弾幕"という言葉がふさわしいだろう。
(!?こんな無数の弾、避けきれない…!)
無数の弾は靈夢を360度囲み、襲っていた。
「きゃあぁああぁ!!」
―――――――――――
「…あれが神具か。ガラスの玉みたいだな」
神具は神棚に置いてある。3人は神棚のある部屋へ入った。すると…
「…!?うわぁ!!」
「…何だ、これ…ぐぅうう!!」
魔梨沙と霖之助は向かい風に打たれた様な表情をしている。
神具の膨大な魔力に近づけないようだ。
「こーりん、靈夢の母ちゃん!一旦戻るぞ!」
一行は神具から一旦離れた。
一人を除いて。
「?。魔梨沙ちゃん、霖之助君どうしたの?」
「魔力が…って、靈夢の母ちゃんは何も感じないのか?」
「いや、何も。ただの部屋でしょ」
『…』
魔梨沙と霖之助は瞬きを繰り返している。
「何故だ?私とこーりんが行けないという事は、魔力と妖力がある者のみ近づけないという事か?それとも…」
「考えても仕様がない!頼むしかないよ!」
霖之助は思考に耽けている少女を諭す。
「…そうだな!靈夢の母ちゃん、頼みがある!」
魔梨沙の言葉を全て理解した顔で靈夢の母は頷いた。
「ああ、分かってるよ!霖之助君、その剣借りるね!」
「はい!よろしくお願いします!」
霖之助は剣を鞘から取り出し、持ち手を靈夢の母に向けた。
靈夢の母はその剣を手にすると、刃先をじっと見つめる。
「良い刃じゃないか、これなら美味しいご飯が作れそうだ!」
「まだまだですよ。もっと良い物作りますよ!」
「そんな話しは後にしてくれ!」
「へいへい」
靈夢の母は剣を下に下げて持ったまま神具に近付く。
「んじゃ、行くよ!」
神具の目の前に立つと、剣を両手に持ち、天に捧げるように持ち上げる。
「でぁあああああ!!!」
えいえい声と共に壮年の女性はガラス玉目掛けて剣を振り落とした。
――――――――――
「きゃあぁああぁ!!」
……
「……………え…?」
(弾が…消えている…)
"ぐあぁあぅあううああ!!!"
「!?」
紫は何とも言えない嗚咽と共に苦しんでいる。
"…何故だ、あの神具には誰も近づけない様になっている。…まさか、博麗の…!"
紫は神社に向かって光線を放つ。
「させない!!」
靈夢は神社に衝突する軌道の光線だけに対して御札を投げる。
御札が壁になり、光線が消失する。
"…くそ、何もかも上手く行かない…もうこのまま攻めるしかない…!"
紫が焦っている様子を靈夢は察する。
「…何が起きているか分からないけど、いける…!」
すると、どこかから声が聞こえた。
(今がチャンスよ!靈夢!)
「…!?」
靈夢の頭に声が流れる。
(貴方は天性の素質を持った、巫女になるべき存在だったようね。
今から自分の精神を一にしなさい。すると、自分の周りに光が生まれるわ。
それをあの妖怪に当てなさい!)
「…巫女様…」
しみじみする。
(あの妖怪はかなり弱っているわ。畳みかけなさい!応援してるわ)
「…はい…!」
「妖怪!今すぐに楽にしてあげる。覚悟しなさい!」
勝つ。その事だけを考えていた。
"うぉおおぉおぉあああぁあ!"
紫は一心不乱に光線を発射し続ける。だが狙いが定まらず一つも靈夢に当たらない。
チャンスとばかりに靈夢は目を閉じて精神を統一し始めた。
(……すぅーはぁー……………すぅー……はぁー……)
靈夢の周りに光の玉が生まれる
"な、あれは…!?"
紫は眩しくて腕で目を隠す。
光の玉は動き始めた。
妖怪、覚悟しなさい―――
―――夢想封印!!!―――
光の玉は紫に向けて飛んでいく。
紫に当たると、光の玉は弾けた。
"ぐおっぉおおおぉおおっ!!!"
獣の様な叫び声をあげる。
紫は傷口を手で抑え、短く息を吐く。それでも、空中には浮いていた。
"はぁはぁ…まだ…諦め…切れない…"
ボロボロになっても戦おうとする紫に靈夢は哀れみのため息をつく。
「まだ戦おうとするなんて…ここまで来ると執念すら感じるわね…可哀想に」
お祓い棒を持った右手を天にかざす。
「今、楽にしてあげるわ。…陰陽玉!」
声に呼ばれた大きなメノウの玉。大陸の芸術と呼ばれる模様の玉が2つ、靈夢の両脇に現れた。
「あの妖怪を縛りなさい」
陰陽玉は妖怪に近づくと玉の中から細長い鎖を出し、紫の体を縛り付ける。
"…っ、動けない…!"
必死に体を動かして抵抗するが、解ける事はない。
「こんな風にするのは申し訳ないと思ってる。ごめんね」
"くそぉ!人間風情があぁ!!"
靈夢は話を続ける。
「貴方とは対等にいたいと思っているの。
これが、人間と妖怪の、そしてこの世界の始まりよ」
"!?やめろ…!"
靈夢は持っていたお祓い棒を天に掲げ…
「これから、よろしくね」
振り下ろした。
鎖は弾け、紫は地上に吸い込まれる。
妖怪は、堕ちた。
―――――――――――――――――――――――――――――――
"…××…、私は正しい事を…していたのかしら………"
(貴方は悪くないわ。生きて。そうすれば…私とまた会えるはず…。
さようなら…じゃないわね。
また逢いましょう。Dr.--------)
―――――――――――――――――――――――――――――――
"はっ!"
「気が付いたようね」
靈夢と紫は二人、田んぼの上で泥にまみれながら相対していた。
紫は体を縄で縛られている。縄の端は陰陽玉に結合しており、解くことは出来ない。
"…動けない…。なぜだ、私は[救おうとした]のに…"
「そりゃあそうよ、貴方は"悪い事"をしたんだから」
紫は負けた。
人間の里は解放され、解放軍に村は支配された。
先程まで響いていた金属の擦り合いの音も消え始めた。
"悪い…事…"
「何を言っているの?貴方のせいで村をめちゃくちゃにして、私のお父さんも死んじゃったのよ?
悪くないわけないじゃない」
"………"
「まずは、貴方の罪を理解しなさい。そして償いなさい」
"………そうか、やっとわかった。私は負けたのね…"
紫は急に晴れたような顔をした。
その中に、極わずかの哀しみと怒りが混じっているように、靈夢は見えた。
「そう。負けたの。博麗の巫女によって、私によって」
"なら、なぜ生かしている。さっさと殺せばいい"
「それはだめ、貴方にはしなければいけない事があるから」
"はっ、断頭台に登れと?そんな覚悟なら出来てる。さっさと連れて行けばいい!"
「違う。貴方の償いはそんな生温いものじゃない」
靈夢は罪状を通告する。
[貴方の贖罪は"村を元通りにする事"。それまで死んではならない]
"…そうね、こんな酷い仕打ちは久しぶりだわ。
でも、するしかないのなら…貴方達への [償い] を、して見せましょう"
紫にやっと笑顔が戻った。
「その言葉、信じているわ」
靈夢は紫を縛っていた陰陽玉を消した。同時に紫を縛る鎖も消えた。
紫は泥だらけのまま、立ち上がる。
"…敵を自由にさせてもいいの?また襲うかもしれないわよ"
「そうかもね。でも、私は信じている。貴方はそんなことをしないと」
"………"
「まあ、また暴れたら私が懲らしめるし。
取り敢えず、あの動物の元に帰りなさいな。帰りを待ってるはずよ」
その言葉を聞き、一瞬体が止まった後、靈夢に深く礼をする。
"感謝します。博麗の巫女、博麗靈夢"
「やっと私の名前を覚えてくれたのね」
紫は等身大の"スキマ"を作って中に入り、消えた。
「…ふぅ、本当に、本当に長い一日だったわね。
もう疲れたから家に…って、村は…」
「君が靈夢ちゃんか!すごいじゃないか」
「!」
背丈の高い大人達が駆け寄ってくる。
「え…、えと、どちら様でしょうか…?」
「ああ、すまんな驚かせて。俺たちは村の為に蜂起した者達だ。
村の信者共を倒すために立ち上がったんだ」
リーダーと思われる青年が話しかけた。
「そうだったの。ありがとうございます」
靈夢は大人達にお辞儀する。
そんな律儀に挨拶しなくていいんだよと靈夢を嗜める。
「正直、あの妖怪を倒せるなんて思ってもいなかった。それでも、
あの訳の分からない宗教がこの村を支配するなんて我慢できなかった。
でもまさか、君の様な女の子があの化け物を倒すなんてな!君は村の英雄だ!」
「英雄…」
言葉から凄い事になってるんだなとは思っても実感が一切なかった。
「まあ、疲れている所すまないが早速訊きたい。君はこれからどうする?」
蜂起のリーダーは腕を組みながら靈夢に訊く。
「若い女の子に村を支配してもらうのも悪くないかもな」
『はっはっは!』
青年達は盛り上がっている。
「ほら、冗談はそこまでにしときな。
それで、靈夢ちゃんはどうしたい?」
(私のする事は決まっている)
一拍置いて口を開く。
「…私は次代の博麗の巫女として、これから活動させて頂きます。
神社に住み込んで、村やこの地域に貢献出来るよう頑張ります」
リーダーは笑顔で深く頷く。
「そうか、素晴らしいじゃないか。俺も賛成だ。だが、一つだけ言いたい事がある。
君の道は君が選ぶんだ。間違えてもいい、後悔してもいい。
それでも、常に考えることを止めるな。それさえ守れば何だって上手くいく。
何かあったら俺たちがついている。いつでも相談しに来な」
「!…はい!その時はどうぞよろしくお願いします!」
「おう!」
リーダーが話し終えると、
"霧雨商会"の名を冠した法被を着た青年が集団の中から前に出る。
「靈夢さん。いや、博麗靈夢さん。この度は本当に申し訳ございませんでした。
私が村の信者に屈した為に、靈夢さんのお父様を始め、
様々な方にご迷惑をお掛けしました」
青年は頭を深く下げる。
靈夢は神妙な顔を見せる。
「そうね。あの時は大変だったのよ」
「本当に言葉もございません。あの時の行動は全て私に非があります。
如何なる罰も受け入れる所存です。どうか、ご判断を」
青年の頭はまだ下がっている。
「なら、貴方は魔梨沙ともっと一緒にいてあげなさい」
「!」
青年は顔を上げる。
「貴方達が仕事の事しか考えてないから魔梨沙はずっと一人で本を読んでいた。
寂しかったと思うの。私達に着いて来た時、あの子に未練はない様に話していた」
「…」
「それでも、魔梨沙は村からいなくなる事に少し心残りがあるように見えた。
優しい子なの、あの子は」
「…仰る通りでございます」
青年は唇を噛み締めながら言葉を絞り出す。
「…だから、これからは魔梨沙を絶対にほっとかないで。私からは以上」
「…本当にありがとうございます」
商会員はお辞儀をすると村の門に向かって歩き始めた。
「…話しは済んだかい?」
リーダーが優しく声を掛ける。
「…ええ、これでいい。後悔していないわ」
「そうか」
「そういや、後で解放記念の宴をするんだ。靈夢ちゃんも来ないか?
最初から最後までいろとは言わない。ちょっとだけ座って飲み物飲むだけでいい」
「あー…、いや、参加するわ。皆に挨拶したいし」
「そうか!じゃあ後でな。よろしく!」
そう言うと、青年たちは村に帰り始めた。
『靈夢!』
「魔梨沙!霖之助君!」
二人は駆け足でやってきた。
「よくあんな化け物を倒したな!すげぇしか言葉が出てこねぇぜ!」
「やっぱり靈夢はすごいよ。僕は信じていたけどね」
「よく言うぜ、まったく」
「本当の事さ。何を今更」
「そう言えば、お母さんは?」
「ああ、私達だけ先に来たんだ。後で来るはずだぜ」
「そう」
ホッとため息を突く。
(無事で良かった…お母さんもいなくなったらどうすればいいか…)
「みんなが助けてくれたからここまで来れたの。本当に、ありがとう。
これから私は博麗の巫女として神社で働くわ。よろしくね」
「そうか…なんか、遠い所に行った様な感じがするな」
遠い目をする魔梨沙を見て、靈夢は笑う。
「ふふ、何を行ってるのよ。神社に住むだけじゃない…って実際遠いか」
「はは、なら僕は定期的にお邪魔しようかな」
「私もだ!毎日遊び行くぜ!」
「毎日は疲れるわ…」
靈夢は眉を上げる。
「まあ、そんでもって村から離れてしまうけど、二人友達でいてほしいの」
「勿論さ!今更言わなくても大丈夫だぜ」
「そうだよ。僕達にいつでも頼ってくれ」
「ありがとう、二人とも」
改めて三人は友達の誓いを行う。
魔梨沙は目を大きくした。何かひらめいたようだ。
「そうだ。私主催でパーティーを開く!靈夢も参加してくれよ。
お前は村の英雄なんだから!」
「英雄って…。その話なんだけど、蜂起のリーダーが催しをするらしいわよ。
今日はもう疲れてるけど、ちょっとだけ参加しようかな」
「そうなのか、そっちに参加するか!」
「確かに、英雄だね。これは語り継がれるのかも。
僕達がいなくなった遠い未来に、こんな話があったんだって。
ちょっとでも知っている人がいればいいな」
三人は笑う。
「考えすぎよ。別に英雄でもないし、語り継ぐ必要もないわ。
私は自分自身を変えただけ。勇気を持っただけ。
それだけよ」
魔梨沙と霖之助はニヤニヤしながら靈夢を見つめる。
「な、何よ。そんなに見ないでよ」
「…じゃあ、私達は先に村へ戻ってるから、帰ってこいよ!」
「今日はお疲れ様!靈夢」
魔梨沙と霖之助は村の門へ向かっていった。
二人が村の中に入ると、神社の方から母親の姿が見えた。
「靈夢!」
「お母さん!」
「靈夢…無事で良かった…ぅう…」
「お母さん……ぉ母さん…ぐすっ…」
親子の再会。
しばらく二人は抱き合っていた。
しばらくして二人の感情が収まってきた。
「靈夢、怪我はないかい?」
「大丈夫よ。意外とあいつの攻撃に当たらなかったわ」
「はぇー…本当にうちの娘かい?」
「何言ってるのよ。私は、お母さんの娘よ」
「そうか…そうか…」
靈夢の言葉を噛みしめる。
「あの…お母さん…。お父さんが…」
「…知ってるよ。見たんだ、最期の姿」
「…そっか」
「明日…土に埋めるよ」
「分かった」
二人は頭を下げる。
『…』
靈夢が顔を上げる。
「ただ、これからは新しい人生よ、お母さん。
お父さんの為にも私が今より村を良くする。
私は神社でこれから働くわ」
靈夢の母は空を見上げる。
「そうかい。お父さんも今、笑ってるだろうね」
「ふふ、そうね」
「それじゃあ、私は帰るよ。呼ばれてるんだろ?みんなから」
「…ほんと、勘だけは鋭いんだから」
「はは!そうかもね!」
母は靈夢の肩をポンと叩いた。
「私が思う以上に立派になった!よくやった!靈夢!」
「ありがとう、お母さん」
「じゃ、後でね!」
母は村へ帰った。
(…)
靈夢は父の場所へ行った。
「…お父さん」
未だに受け入れられない、目の前の光景。
「…今までありがとう。これからは巫女として
村の為に働きます。見守っていて下さい」
靈夢も村の中に入った。
そして夜。
宴は村に潜んでいる信者を追い出すかの様な盛り上がりだった。
「こんな事して、あの信者が何かしてこないのかな?」
「大丈夫。何もさせないようにするって妖怪と約束したから」
「あの妖怪と約束させるとか想像がつかないよ…」
魔梨沙から見た靈夢は更に遠くなったようだ。
「おぅ、靈夢ちゃん!いや、英雄様よ!一杯どうだい?」
「まだ成人してないから飲めないわよ」
「ちぇー。じゃあ酒じゃなくていいさ!ほら、こっち来な!」
「え、ちょ…」
青年に引っ張られて大勢の真ん中に立つ。
「英雄様のお通りだぁ!」
「おおおおお!!!」
「何かすごい活気ね…」
「ほら、靈夢ちゃんの好きな甘酒だよ」
「ありがと、ってなんで知って…って!」
「饅頭屋さん!」
「うちは饅頭だけじゃなくて甘酒も商売道具にしようと思ってね。
今日まで取っておいた傑作さ」
甘酒をゆっくり流し込む。
「うわぁ!甘い、美味しい!!」
「その反応、あの頃と変わらないね。そうだ、新作の饅頭も作ったから後で食べてよ」
「ありがとう!饅頭屋さん、好きよ!」
「全然変わってない事…」
饅頭屋は鼻から息を出し切った後、靈夢に声を掛ける。
「甘酒飲んでる途中に申し訳ないんだけど、あの男の子は今どこにいるか知ってる?」
「あの男の子って?」
「昔、靈夢ちゃんが饅頭あげた男の子、覚えてる?」
「ああ、霖之助君ね。あの子とは今でも友達よ」
「そうか…良かった。あの時の事、謝りたくて」
「気にしなくていいわよ。あの子、ちゃんと大人になったから。
でも何か言いたいならあっちの方にいたはずよ。霖之助君によろしくね」
「おう!ありがとな」
饅頭屋は靈夢に礼をすると指を指してもらった方向へ向かった。
霖之助は人混みに潰されているかのように地面に座っていた。
「霖之助君…かな?」
「…えっと、すみません。どちら様でしょうか」
「覚えてるかな?靈夢ちゃんに饅頭を売ってた店主だよ」
「…ああ!初めて靈夢と会った時の饅頭屋さん!お世話になってます」
「…こちらこそ。うちの店をよろしくね」
罪悪感が更に強くなった。
「ところで、何か私に御用ですか?」
「ああ、一言言いたくてね」
「…」
霖之助は少し警戒する。
「あの時、靈夢ちゃんと店に着た時、悪いことを言った。ほんとにすまない」
警戒はすぐに解けた。
「なんだ、そんな事か。びっくりした」
「そんな事…」
「全然気にしてないですよ。あの時は、僕も他人の目を見すぎて生きていたようでして」
饅頭屋は呆気に取られている。
「…そうか。靈夢ちゃんの言う通りだ」
「?。何でしょう」
「君は大人になったって。俺もそう思う。立派になったな」
「そうですか。それはとても嬉しいです。ありがとうございます」
「要件はそれだけさ。そうだ、新作の饅頭があるんだけど食べるかい?」
「いえ、嬉しいですがお腹いっぱいなので明日買いに行きますね」
「お腹いっぱいならしゃあないな。饅頭あげるから、
腹減ったら靈夢ちゃんと分けて食べな」
「…はい!頂きます」
「…いい子だ。じゃあな」
饅頭屋は人混みに紛れて消えた。
(明日、靈夢と食べようかな)
そんな事を霖之助は考えていると、人混みから女性が霖之助に向かって来た。
「!。…母さん…」
「霖之助君…いや、霖之助」
「!」
母親は頭を下げていた。その姿に言葉が何も出なかった。
「今まで、本当にごめんね。貴方を真正面から見ることが出来なかった
母親失格だって、今更気づいたの。だから、もっと真っ当に…」
「ありがとう、お母さん」
「!」
「僕もお母さんを真正面から見ることが出来ていなかった。
だから、友達の家に駆け込んで、逃げた。
でも、今度は逃げない。もう一度、やり直そう」
「…!…うううあぁああああ……ぅぅ…」
霖之助は母の頭をポンポンする。
「はいはい。それじゃ、家に帰ろうよ」
「…うん」
―――――――――
翌朝、酒の酔いと戦の疲れが出たからか、村の人間は皆外で倒れている。
靈夢は妖怪との戦いの疲れが出て、家の中で動けなかったようだ。
魔梨沙と霖之助は一晩寝たら疲れが取れたようだ。
「靈夢と饅頭食べる予定だったけど、また明日かな」
「饅頭?」
「僕が初めて靈夢と会ったのが饅頭屋なんだよ。そこの饅頭の新作をもらってね」
「そっか、楽しみだな」
二人は外を歩いている。広場だけではなく、
道という道に酒で倒れている大人が沢山いた。
「こんな風に倒れるのが幸せだよね」
「はは、血が流れてないもんな」
「というか、魔梨沙は疲れてないの?僕はこういう体だから大丈夫だけど」
「大丈夫さ。あの魔法はそんなに体への負担がなかったようだ」
「そうか」
『…』
静かに、道を歩く。
「こーりんは家に帰ったのか?」
「当たり前さ、どこで寝たって言うのさ」
「はは、あのおっさん達の中にいてもおかしくないぞ」
「もう…。僕はちゃんと親と話したよ。これからも僕はここで暮らす。でも…」
「でも?」
「母さんはお父さんの所へ行ったよ。何とか山の妖怪に事情を説明して一緒に暮らすって。
自分なりに前を見た結果だってさ」
魔梨沙は間を開けて口を開いた。
「そうか」
「僕は母さんを応援してるよ。それで、魔梨沙はどうなの?家に帰ったんでしょ?」
「ああ。なんか、不思議な感覚だった。父さんもうちの会員も掌を返したかの様に
私と仲良くしてきたな」
「…」
「でも、悪くなかった。本を読む以外の世界は、自分の家にあったようだ」
「…うん」
「まあ、あの店を継ぐかは別だけどな」
「それでいいよ。自分の人生さ」
村の門まで歩いた。門の外から山の上に神社が見える。
「そうだ、靈夢なんだが」
「聞いたよ、そのうち神社の巫女として正式に働くんでしょ」
「聞いたのか」
「これからの村のあり方とかも考えるらしい」
「はえー、そんなご身分に」
「別にいいでしょ、どんなに偉くても僕達は友達さ」
「ま、そうだな。じゃあ、友達のよしみで何かくれないかね」
「魔梨沙の親に頼んだ方が貰えそうだけど…」
「そんなもんじゃなくてさ。村の支配者とかさ」
「魔梨沙が支配した村はどうなるんだろうね…」
魔梨沙は手を顎に押さえながら黙り込む。
表情が変わらないまま手を話した。考えることを諦めたようだ。
「私も頑張らないから村の皆も頑張らずに暮らそうぜ!」
「そうすると、食料がなくなっちゃうな」
「そうか…。じゃあ、私には向いてないな」
「向き不向きがあるんじゃないか?」
「うーん、こーりんから見た私は何が向いてるんだ?」
「どうなんだろう…」
霖之助も手を顎に押さえて考える。すぐに答えを返した。
「意外と商売人が合ってるかも」
「ほう。意外な答えだ」
「まあ、将来なんて分からないし、そんなに深く考えなくて良いんじゃない?」
「はは、こーりんも私に似てきたな!」
「はは、そうだね!」
いつもの日常、話が絶えない二人。
―――そして、3日が経った。
ついに靈夢が巫女として神社で働き始めるそうだ。
大きな唐草模様の風呂敷に荷物を詰めて草履を履き、外にでる。
靈夢の母といつもの二人が玄関に見送りに来ている。
「忘れ物はないかい?」
「ありがとう、大丈夫よ。お父さんにも挨拶してきた」
「そうかい」
「靈夢、頑張って来いよ!」
「靈夢、重役を任せられたとは言え、無理は禁物だ。程々に頑張れ」
靈夢は魔梨沙と霖之助から激励を受ける。
「二人とも、ありがとう」
「そうだ靈夢、ちょっと聞いてくれるかい?」
「何?」
「今まで言ってなかった事があるんだよ」
「え?」
靈夢は少し不安になる。
「本当の事を言うとね、私も昔は博麗の巫女だったんだよ」
「ええ!?」
呆然。
「なんでそんな大事な事を…」
「別に言う必要がないじゃないか、そんな事」
「そんな事って…」
「お父さんと暮らす事を決めた時にあの巫女さんに変わってもらったんだ。
だから、あんたが巫女になってもおかしくないんだ」
「…」
「でも、そんな事気にしなくていい!
お前は私とお父さんの自慢の娘だ!好きな様に生きな」
靈夢の母は自慢の娘の頭を撫でる。
「だからね、たまには顔を見せてくれよ」
「…!…ぅ………うん…!」
涙が、流れた。
「何泣いてんだい!こういう時はね、笑顔を見せるんだ。
それが、"人間"さ」
「…ふふ、その通りね!」
涙を流しきり、笑顔を見せる。
「綺麗な娘に育ったもんだ!"博(ひろ)く麗しい"博麗の名も伊達じゃないね」
「お母さんがそうさせてくれたからよ。博麗、にね」
「褒めても何も出ないよ!あっはっは!」
「それじゃ、元気でな」
「お母さん、元気でなって。何も会わなくなるわけじゃないんだから」
「そうだね。それじゃあ」
「行ってらっしゃい。ご飯を作って待ってるよ」
「はい、行ってきます。お母さん」
靈夢は歩き始めた。神社に向かって。
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
………
博麗の巫女が紫を成敗した翌週、
紫に対し、支配を撤廃する和睦条約を締結させた。
紫は、贖罪の為、村の新興宗教による原理主義者の回復に周った。
市場が宗教と密接に絡み合っていた為、正常な状態に戻すにはかなりの労力と時間がかかったが、
現在このような思想を持つ人間は極僅かである。
それと同時に、妖怪の力が増す事のないよう神社を人間が管轄する事にした。
博麗神社の代表を靈夢にする事へ人間・妖怪双方が同意。"博麗"の名を冠し、"博麗靈夢"と名乗る。
これにより、人間と妖怪は対等の立場になった。
しかし、人間と妖怪が対等の立場になることは妖怪に対する人間の感情が薄くなる事であり、
人間の感情に依存している妖怪の消滅に繋がりかねなかった。
そこで靈夢は、妖怪の中でも特に知性に優れた者を集め、対策を取ることにさせた。
紫を含めた、いわゆる"賢者"達は長い議論を交わしたが結論は出ず。
最後は八百万の神々及び龍神の知恵を頂くことにした。
神々の知恵と長い思索の結果から生まれた結論は、
"村の外に結界を張ろう"というものだった。
大規模な結界を張ることで外からの情報を遮断する。
これにより、知性による進化を止める事で、
人間の精神から妖怪の存在を消さない様にした。
ただ、人間にとっては、文明を発展させなくする事になり、生物としての進化を止める事になる。
靈夢はこれが本当に正しいのかと悩んだが、
妖怪と対等である以上妖怪が生きるためには必要と判断、認可。
計画は実行された。明治17年、博麗大結界―――展開―――。
しかし、結界は完全ではなかった。少しばかりの情報が外部から村へ流入していく。
やがて、少しずつ知恵を増やした人間にはその方法も通用しなくなり、進化を続ける。
妖怪は次第に消滅しそうになっていった。
同時期に吸血鬼が外からやってきた為、頃合いを図って、
"スペルカードシステム"という体制を都合よく作ることで妖怪の消滅が免れたという話があるが、
それは遠い将来の話である。
----幻想郷創設趣意書----
真面目ナル農民ノ労働及妖怪ノ生命ヲ最高度ニ発展セシムベキ自由闊達ニシテ愉快ナル理想郷ノ創設。
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―――人間の里―――
霊夢「ふーん、そんなことがあったのね」
阿求「博麗の巫女なんですからご先祖様は知っておかないといけませんよ」
霊夢「ま、まあなんとかなってるし……」
阿求「そんなんだから妖怪神社って呼ばれるんですよ」
霊夢「う…」
魔理沙「霊夢、ここにいたか」
霊夢「魔理沙、何か用?」
魔理沙「今日は恒例の鍋の日だぜ」
霊夢「何よ急に」
魔理沙「決まってるだろ?気温の低い日は鍋の日だ。美宵ちゃんから鍋の材料をもらったんだ。私は先に香霖の所へ行ってるからな」
霊夢「はいはい、行きますよ…その本、後で続き読ませてね」
阿求「むしろ読みに来て下さいねー」
―――香霖堂―――
魔理沙「よお香霖。今日は鍋の日だ」
霊夢「霖之助さん。お邪魔するわ」
霖之助「あぁ二人ともいい所に来た。ちょうどいい物が入ってね。あらゆる支配をする事が可能な物だそうだ。
この赤と青の物質を使って、このモニターと呼ばれる物を遠隔支配する事が…」
霊夢「台所借りるわねー」
魔理沙「そういえば香霖、八卦炉の調子が悪いんだ。見てくれないか?」
霖之助「ああ、見ておくよ」
魔理沙「それじゃ、白味噌鍋作ってくるから待っててくれ。」
霊夢「今日は赤味噌よ」
魔理沙「あー?白味噌に決まってるだろ。ちょっとやるか?」
霖之助「やるなら外でやってくれよ。というか、八卦炉はまだ治ってないが…」
魔理沙「私は八卦炉がなくても戦うことの出来る普通の魔法使いさ」
2人はいつものようにどうでもいい理由で決闘している。
大方霊夢が勝って終わるが。
「…ここの部品が壊れているな」
僕は、毎日欠かさず新しい物を作っていた。だが、ある日を境に物を作らなくなった。
新しいものを作るより今ある物を大切にする方が大事だと思ったのだ。
壊れている部品を新しい部品に変えて、修理は完了。
「ふぅ、終わった………あの子の方がもっと壊して持ってきてたけどね」
長く生きると昔の話ばかり思い出す。それとも、今の生活に変化がないのだろうか。
外の音が静まった。今日は白味噌で作るようだ。珍しい事もあるものだ。
霊夢はボロボロの服で家に入り、
あんな技は卑怯だと納得しない顔で私の替えの服を壁のハンガーから外し、着替えに行った。
どんな手段を使ったのかは聞かない事にしよう。
魔理沙「今日の鍋はうまいぞ、期待してくれ!」
霖之助「ああ、期待しているよ」
END
幻想感を見て頂いて幸せです。
自分でも書いててこういう話が好きなんだなと言う事を知ることが出来ました!
しばらくは短編になるとは思いますが、読んで頂ければ幸いです。
よろしくお願いします!