びゅうびゅうと風を切る音が響き渡る。後ろの犬走椛が大声で叫ぶ。
「霧雨魔理沙ァ! 今日こそ、その首をたたき落とす!」
「落とせるもんなら落としてみろ!」
ひゅうと笑いながら私は飛んでいく。犬走の追いかける速度より早く早く飛んでいく。犬走は私を一回も捕まえたことなんてないくせにそんなに叫ばなくても良いだろうに。
どうしてそんなにムキになっているのだろうか。私にはわからんさ。それでも欲しいものが妖怪の山にある限り何回でも忍び込んでやるけどな。今日の目的のものは玄武の沢の水だった。あそこは澄んでてとても良い素材だから……って、おっと、落としそうになるなんて私もまだまだどろぼ……じゃ無かった、拝借するのが下手くそなのかもしれない。
「てめえ待ちやがれ!」
ブチ切れた犬走の声が響き渡る。私は切り替えそうと箒を持ち直す。
途端、空に浮かぶ感覚が消えた。
えっ
「うわあああああーーー!?」
ガサガサガサ!! どかんと大きな音が鳴り響いた。
待て、なんで私は空から落ちた? そんなことを考える。持っていた荷物は全部どこかへ飛んでいってしまった。やってしまった、せっかくの水が。今はそんなことどうでもいいはずだろう、どうして落ちたのかということを考えなければ。魔力は普通に使っていた、なのにどうして。
頭の中はなぜ落ちたのかということでいっぱいになっているところに首筋にヒヤリとした冷たいものが当たる。
「魔法使いが聞いて呆れるな。操作ミスで落ちるなんて」
犬走が私の後ろで刀を構えていた。
「首をたたき落とすチャンスだな」
「できるもんならやってみろよ」
死ぬかもしれないということは、あいにく経験があるもので。魔法薬で飲んで死にかけたこともあるし、飛行の訓練で落ちて死ぬかもしれないと思ったこともある。今更死ぬことなんて怖くない。怖くないんだ……
「……飽きた。あいにく弱い者いじめをする趣味は無いんでね」
チャキと犬走は刀を下ろした。呆れたような顔をしている。
「どうした怖気付いたのか?」
「は、そんな強がり聞いて呆れる。お前気がついてないのか? 手が震えてることに、死ぬのが怖いなら初めから言っとけばいいんだ。命乞いでもすればいいのに」
私は指摘されてはじめて手を握った。小刻みに震える手はどう足掻いても隠しきれないもので。くそっ、どうしてだよ。
「今日は何も言わん、さっさと帰れ」
「……そうさせてもらうさ。次は負けないからな」
「二度と来るな」
私は箒にまたがる。いつものように念じて空を飛ぼうとした。
何も起きなかった。
「は……なんでだよ」
飛べないことに気がついて私はぴょんぴょんと跳ねる。全力で跳ねまくる。
はあはあと息を切らして跳ぶのを止めると笑いをこらえる音が聞こえた。その方を見ると犬走が笑いを堪えていた。
「てめ、笑うな!」
「ぷッ、笑うなという方が……無理だ……ぐふっ!」
堪えているのか声がおかしい。声をあげようとしてシャッと私の前を通り過ぎた。
「魔理沙さ〜ん、いい写真を撮らせて頂きましたよ〜!」
黒髪の烏天狗の射命丸文だった。ふざけんな、さっきの撮ってたのかよ!
「そのカメラ寄越せ! 粉々にしてやる!」
箒から降りて私は走り出した。スペルを放とうと宣言用の紙を出して掲げた。
恋符……
シュウと言うような音がなりそうな感じで八卦炉は何も答えなかった。
……は?スペルも使えないのか。
「あははは!!」
犬走は大声で笑いだした。スペル発動しようとしたところで空に逃げた射命丸は私の様子を見て驚いたような表情をしていた。
「魔理沙さん、それ冗談ですよね?」
スタッと降りてきた射命丸は私の隣に立つ。
「ふざけんな、スペル打てたらお前ごと粉々にしてやったわ!」
「……でしょうね。これなら『魔法使い魔法ナシの巻!』とでも見出し付けましょうか」
「てめえ!」
「あはははは!!」
犬走の大笑いが空に響いた。
~*~
『魔法使い、空を飛べなくなる!?』
次の日、そんな見出しを付けられ、私が箒にまたがって跳ねる姿を写した、文々。新聞を放り投げる。そのまま私は縁側から部屋の中に寝転んだ。
「朝ごはん食べた後に寝転んだら牛になるわよ」
「うるさいな、分かってるよ」
そうやって言うのは博麗霊夢。ここは博麗神社だった。
昨日は結局空を飛べなくて射命丸に博麗神社まで宙吊りにされながら運ばれたのは記憶に新しい。ここでは割愛するが。
飛べなくなったこととスペルを使えなくなったことを霊夢に言うと驚いたような(ほんの少ししか表情は変わらなかった)顔をしていた。
飛べることができるようになるまで、博麗神社預かりとなった私の身柄は確保されてしまった。今日だって紅魔館に行く予定でもあったのに。そんなこと霊夢に言ったら何されるか分かったもんじゃないけれど。
「あんたどうするのよ。空飛べないみたいだけど」
「……飛べるようになるまで面倒見てくれるんだろ? それまでお願いしたいなぁ〜なんて」
私の隣まで来ていた霊夢は私のおでこをデコピンした。
「あいた! 何すんだよ」
私は思わず飛び起きる。
「飛べるまでっていつまでゴロゴロしてるのよ。とりあえず飛べなくなったことを探して来なさいよ」
「そりゃそうだけどよ、心当たりがないんだぜ。どうしろってんだ」
妖怪の山に行く前には紅魔館に入ったけどいつも通りに本を借りてきただけだしな……あれ、借りてきただけだったか?
「そりゃあ……しらみ潰しに探せばいいじゃない」
「なんだよその微妙な言い方……」
あーあーと私はまた寝転んだ。
「だから牛になるわよって」
「今だけ牛でいいもんね……牛にしかならないぞ」
「何よそれ」
霊夢はクスリと笑った。
*
博麗神社に確保されてから二日目
噂を聞き付けたのかレミリアと咲夜がわざわざ階段を上がって来ては、霊夢に押し付けられた境内の掃除をしている私を見つけると駆け寄ってきた。
「空が飛べなくなったんだって?」
「レミリア、弄れるやつが出来たから遊びに来たんだろ?」
「おお、よく分かったな。遊べる玩具があるんだ。遊ぶに決まっているだろう?」
ニヤリとレミリアは笑った。徹底的に遊ばれるということが確定して、私はため息をついた。咲夜はと言うと楽しそうに笑っていた。
*
博麗神社に確保されてから三日目
空から飛んできたのは緑の服。二振りの剣を持った半霊半人の魂魄妖夢だった。
「あ、魔理沙さん。今回は大変ですね」
これお土産です、と渡してくれたのは里の目玉の大福だった。霊夢喜びそうだな。
「ああ、ありがとうな」
「それにしてもなんで飛べなくなったんです?」
「わからん。それがわかったらそもそも飛べるようになってるぞ」
ぽかんとしたような顔の妖夢は惚けているのか。わからないが……
「それもそうですね。とりあえず顔を見に来ただけですので失礼しますね」
言いたいことだけ言って妖夢は帰っていった。なんだったんだろうか。
とりあえず大福は霊夢と二人でおやつに食べた。
*
博麗神社に確保されてから四日目
そろそろ博麗神社にいるのも飽きてきた。魔法の研究も出来ないし、空を飛べないと家にも帰れない。なんて不便なんだろうか。魔法で楽をしていたと言うことはあったんだな、とぼんやりと思った。
また掃き掃除を押し付けられてしていると空からふらふらとピンクの服が飛んでくるのが見えた。
あ? 誰だあいつ……って、パチュリーじゃねえか!
落ちそうになったのを見かねて私はパチュリーをキャッチしに行った。
「……ありがと魔理沙……」
「いや、ここに来るまでに死にそうになるなよ……ってなんか用事か?」
ヒーヒー言っているパチュリーの背中を擦りながら来た用事を促す。
「そう、用事よ……貴女、最近飴玉を食べてないかしら……」
「……飴玉?」
「そう、飴玉。ほんっとに食べた覚えない?」
飴玉。なんて食べた覚えない……ん? そういえば。
「紅魔館で小悪魔に飴玉渡されて食べたような気がする。それがなんかダメだったか?」
妖怪の山に行く前に紅魔館で食べた覚えがある。
「あああ〜〜それか……後で小悪魔シメる。と、飴玉の話だったわね。それ、対象の魔力を無くす飴玉だったの」
は?対象の魔力を無くす飴玉?
「……それって魔法薬じゃないか」
「話は早いわね。そう魔法薬なのよ、それを飴玉にしたってだけ」
「苦くなかったぞ?」
「飴玉にしたから甘くしたのよ。砂糖とか入れてね。そういう話じゃないの。飴玉の効果は二つ。ちゃんと聞いててね」
「どういうことだ?」
「対象の魔力を無くすことと、それを七日間続くの。そして解けた七日目に魔法を使わなければ一生魔法が使えなくなるの」
……なんだって?そもそもなんでそんなものがあるのか。
あんぐりと口を開けているとパチュリーは話を続ける。
「机の上に片付けてない飴玉がなかった時は肝が冷えたわ。誰かの魔力が消えてしまうってね。無造作に投げられてた文々。新聞を見なかったら、危なかったわ」
「……ありがとうなパチュリー。教えてくれて。七日目ってことはあと三日後だな?」
「それって食べた日も入れてる?」
「いんや、入れてない」
「食べた日も入れて七日よ。だからあと二日後ね。忘れずに魔法を使いなさいよ」
「わかってら。魔法を失いたくないしな」
そうやって言って、パチュリーを見送った。
ちゃんと魔法使わないとな。
*
博麗神社に確保されてから五日目
「ようよう、魔理沙ぁ〜魔法使えなくなったんだって?」
「萃香、酒くせえよ!」
うるさいな〜とべろべろになりながら萃香はフラフラと境内を歩く。
私が履き集めた草木のゴミの所に突っ込んで転けている。
「おい、なにやってんだよ!せっかく掃除したのに!」
「また掃除すればいいだろ」
何を言うんだ……人の頑張りを取らないでくれ。
「んあー、何ようるさいわね。 って萃香じゃないどこ行ってたのよ」
「地底〜勇儀と呑んでたあ」
……鬼同士ならそりゃあそんだけくさいわけだ。
「好きに行くのはいいけどうるさくしたら追い出すからね」
「ええ〜そりゃないよ」
「うるさくされるのは嫌なのよ……」
「あーはいはい、とりあえず社務所入ろうぜ」
萃香と霊夢を押して社務所に入って行く。
お酒の相手は面倒くさいぜ。そして萃香は分身を大量に出してうるさくしたので霊夢の『夢想封印』で追い出されていた。私はどうしたって? とりあえず霊夢の後ろに行ったさ。魔法も使えないのに当たったら死ぬかもしれないからな。それはそれで怖かったぜ。
*
博麗神社に確保されてから六日目
ついにこの時が来た。私が魔法を使う日が。この日を待ちわびていた。
霊夢が見守る中、私はゆっくりと箒にまたがる。
いつものように(いつもがどんな風か忘れそうになったが)空を飛ぶように念じる。
ヒュオオと風が集まる。そうして空に私は打ち上げられた。久しぶりすぎて風を集めるのに失敗したみたいだった。
「うわあああああ!?」
怖くて叫ぶと体がひっくり返る。ヤバいっ、この下は石畳だ! ぶつかったら死ぬ!
「あんたなにしてんのよ!」
その声が聞こえたと思ったら私は首根っこを掴まれて宙ぶらりんになっていた。箒は下に落ちてカラランと音を立てている。
「あ、危なかった……ありがとう霊夢」
「危なっかしいのよあんたは。また何か奢りなさいよ」
「そのくらいならいくらでも。とりあえず下ろしてくれないか?」
そう言うと霊夢はゆっくりと空から降りていく。足が地面に着いたと思ったら腰が抜けたのか私は座り込む。
「怖かったんじゃないの?」
霊夢はそう言う。確かに怖かった。また死にそうになっていた。
「……怖かったな」
魔法が使えなくなることも、魔法が使えても落ちそうになったことも。怖かったなあ。
少し涙が出てきた。
「とりあえず戻りましょう」
そう言って霊夢は私の手をとって起き上がらせた。
「うわっ」
「これから魔法、使えたらいいじゃない」
……そうだな。それがいいか。
私は霊夢に手を引かれて社務所に戻って行った。
~*~
『博麗の巫女熱愛か!?』
そんな見出しを付けられた文々。新聞を握りつぶした霊夢は殺気立っていた。昨日の私と霊夢が手を引かれている写真をを取られてそんなことを言われたらぶちギレたくなると思う。という私もキレているが。
「とりあえず行ってくるわ」
「私も行っていい?」
「いいわよ」
そうやって2人で烏天狗を丸焼きにするべく出発した。
この新聞は沢山売れたそうな。解せぬ。
「霧雨魔理沙ァ! 今日こそ、その首をたたき落とす!」
「落とせるもんなら落としてみろ!」
ひゅうと笑いながら私は飛んでいく。犬走の追いかける速度より早く早く飛んでいく。犬走は私を一回も捕まえたことなんてないくせにそんなに叫ばなくても良いだろうに。
どうしてそんなにムキになっているのだろうか。私にはわからんさ。それでも欲しいものが妖怪の山にある限り何回でも忍び込んでやるけどな。今日の目的のものは玄武の沢の水だった。あそこは澄んでてとても良い素材だから……って、おっと、落としそうになるなんて私もまだまだどろぼ……じゃ無かった、拝借するのが下手くそなのかもしれない。
「てめえ待ちやがれ!」
ブチ切れた犬走の声が響き渡る。私は切り替えそうと箒を持ち直す。
途端、空に浮かぶ感覚が消えた。
えっ
「うわあああああーーー!?」
ガサガサガサ!! どかんと大きな音が鳴り響いた。
待て、なんで私は空から落ちた? そんなことを考える。持っていた荷物は全部どこかへ飛んでいってしまった。やってしまった、せっかくの水が。今はそんなことどうでもいいはずだろう、どうして落ちたのかということを考えなければ。魔力は普通に使っていた、なのにどうして。
頭の中はなぜ落ちたのかということでいっぱいになっているところに首筋にヒヤリとした冷たいものが当たる。
「魔法使いが聞いて呆れるな。操作ミスで落ちるなんて」
犬走が私の後ろで刀を構えていた。
「首をたたき落とすチャンスだな」
「できるもんならやってみろよ」
死ぬかもしれないということは、あいにく経験があるもので。魔法薬で飲んで死にかけたこともあるし、飛行の訓練で落ちて死ぬかもしれないと思ったこともある。今更死ぬことなんて怖くない。怖くないんだ……
「……飽きた。あいにく弱い者いじめをする趣味は無いんでね」
チャキと犬走は刀を下ろした。呆れたような顔をしている。
「どうした怖気付いたのか?」
「は、そんな強がり聞いて呆れる。お前気がついてないのか? 手が震えてることに、死ぬのが怖いなら初めから言っとけばいいんだ。命乞いでもすればいいのに」
私は指摘されてはじめて手を握った。小刻みに震える手はどう足掻いても隠しきれないもので。くそっ、どうしてだよ。
「今日は何も言わん、さっさと帰れ」
「……そうさせてもらうさ。次は負けないからな」
「二度と来るな」
私は箒にまたがる。いつものように念じて空を飛ぼうとした。
何も起きなかった。
「は……なんでだよ」
飛べないことに気がついて私はぴょんぴょんと跳ねる。全力で跳ねまくる。
はあはあと息を切らして跳ぶのを止めると笑いをこらえる音が聞こえた。その方を見ると犬走が笑いを堪えていた。
「てめ、笑うな!」
「ぷッ、笑うなという方が……無理だ……ぐふっ!」
堪えているのか声がおかしい。声をあげようとしてシャッと私の前を通り過ぎた。
「魔理沙さ〜ん、いい写真を撮らせて頂きましたよ〜!」
黒髪の烏天狗の射命丸文だった。ふざけんな、さっきの撮ってたのかよ!
「そのカメラ寄越せ! 粉々にしてやる!」
箒から降りて私は走り出した。スペルを放とうと宣言用の紙を出して掲げた。
恋符……
シュウと言うような音がなりそうな感じで八卦炉は何も答えなかった。
……は?スペルも使えないのか。
「あははは!!」
犬走は大声で笑いだした。スペル発動しようとしたところで空に逃げた射命丸は私の様子を見て驚いたような表情をしていた。
「魔理沙さん、それ冗談ですよね?」
スタッと降りてきた射命丸は私の隣に立つ。
「ふざけんな、スペル打てたらお前ごと粉々にしてやったわ!」
「……でしょうね。これなら『魔法使い魔法ナシの巻!』とでも見出し付けましょうか」
「てめえ!」
「あはははは!!」
犬走の大笑いが空に響いた。
~*~
『魔法使い、空を飛べなくなる!?』
次の日、そんな見出しを付けられ、私が箒にまたがって跳ねる姿を写した、文々。新聞を放り投げる。そのまま私は縁側から部屋の中に寝転んだ。
「朝ごはん食べた後に寝転んだら牛になるわよ」
「うるさいな、分かってるよ」
そうやって言うのは博麗霊夢。ここは博麗神社だった。
昨日は結局空を飛べなくて射命丸に博麗神社まで宙吊りにされながら運ばれたのは記憶に新しい。ここでは割愛するが。
飛べなくなったこととスペルを使えなくなったことを霊夢に言うと驚いたような(ほんの少ししか表情は変わらなかった)顔をしていた。
飛べることができるようになるまで、博麗神社預かりとなった私の身柄は確保されてしまった。今日だって紅魔館に行く予定でもあったのに。そんなこと霊夢に言ったら何されるか分かったもんじゃないけれど。
「あんたどうするのよ。空飛べないみたいだけど」
「……飛べるようになるまで面倒見てくれるんだろ? それまでお願いしたいなぁ〜なんて」
私の隣まで来ていた霊夢は私のおでこをデコピンした。
「あいた! 何すんだよ」
私は思わず飛び起きる。
「飛べるまでっていつまでゴロゴロしてるのよ。とりあえず飛べなくなったことを探して来なさいよ」
「そりゃそうだけどよ、心当たりがないんだぜ。どうしろってんだ」
妖怪の山に行く前には紅魔館に入ったけどいつも通りに本を借りてきただけだしな……あれ、借りてきただけだったか?
「そりゃあ……しらみ潰しに探せばいいじゃない」
「なんだよその微妙な言い方……」
あーあーと私はまた寝転んだ。
「だから牛になるわよって」
「今だけ牛でいいもんね……牛にしかならないぞ」
「何よそれ」
霊夢はクスリと笑った。
*
博麗神社に確保されてから二日目
噂を聞き付けたのかレミリアと咲夜がわざわざ階段を上がって来ては、霊夢に押し付けられた境内の掃除をしている私を見つけると駆け寄ってきた。
「空が飛べなくなったんだって?」
「レミリア、弄れるやつが出来たから遊びに来たんだろ?」
「おお、よく分かったな。遊べる玩具があるんだ。遊ぶに決まっているだろう?」
ニヤリとレミリアは笑った。徹底的に遊ばれるということが確定して、私はため息をついた。咲夜はと言うと楽しそうに笑っていた。
*
博麗神社に確保されてから三日目
空から飛んできたのは緑の服。二振りの剣を持った半霊半人の魂魄妖夢だった。
「あ、魔理沙さん。今回は大変ですね」
これお土産です、と渡してくれたのは里の目玉の大福だった。霊夢喜びそうだな。
「ああ、ありがとうな」
「それにしてもなんで飛べなくなったんです?」
「わからん。それがわかったらそもそも飛べるようになってるぞ」
ぽかんとしたような顔の妖夢は惚けているのか。わからないが……
「それもそうですね。とりあえず顔を見に来ただけですので失礼しますね」
言いたいことだけ言って妖夢は帰っていった。なんだったんだろうか。
とりあえず大福は霊夢と二人でおやつに食べた。
*
博麗神社に確保されてから四日目
そろそろ博麗神社にいるのも飽きてきた。魔法の研究も出来ないし、空を飛べないと家にも帰れない。なんて不便なんだろうか。魔法で楽をしていたと言うことはあったんだな、とぼんやりと思った。
また掃き掃除を押し付けられてしていると空からふらふらとピンクの服が飛んでくるのが見えた。
あ? 誰だあいつ……って、パチュリーじゃねえか!
落ちそうになったのを見かねて私はパチュリーをキャッチしに行った。
「……ありがと魔理沙……」
「いや、ここに来るまでに死にそうになるなよ……ってなんか用事か?」
ヒーヒー言っているパチュリーの背中を擦りながら来た用事を促す。
「そう、用事よ……貴女、最近飴玉を食べてないかしら……」
「……飴玉?」
「そう、飴玉。ほんっとに食べた覚えない?」
飴玉。なんて食べた覚えない……ん? そういえば。
「紅魔館で小悪魔に飴玉渡されて食べたような気がする。それがなんかダメだったか?」
妖怪の山に行く前に紅魔館で食べた覚えがある。
「あああ〜〜それか……後で小悪魔シメる。と、飴玉の話だったわね。それ、対象の魔力を無くす飴玉だったの」
は?対象の魔力を無くす飴玉?
「……それって魔法薬じゃないか」
「話は早いわね。そう魔法薬なのよ、それを飴玉にしたってだけ」
「苦くなかったぞ?」
「飴玉にしたから甘くしたのよ。砂糖とか入れてね。そういう話じゃないの。飴玉の効果は二つ。ちゃんと聞いててね」
「どういうことだ?」
「対象の魔力を無くすことと、それを七日間続くの。そして解けた七日目に魔法を使わなければ一生魔法が使えなくなるの」
……なんだって?そもそもなんでそんなものがあるのか。
あんぐりと口を開けているとパチュリーは話を続ける。
「机の上に片付けてない飴玉がなかった時は肝が冷えたわ。誰かの魔力が消えてしまうってね。無造作に投げられてた文々。新聞を見なかったら、危なかったわ」
「……ありがとうなパチュリー。教えてくれて。七日目ってことはあと三日後だな?」
「それって食べた日も入れてる?」
「いんや、入れてない」
「食べた日も入れて七日よ。だからあと二日後ね。忘れずに魔法を使いなさいよ」
「わかってら。魔法を失いたくないしな」
そうやって言って、パチュリーを見送った。
ちゃんと魔法使わないとな。
*
博麗神社に確保されてから五日目
「ようよう、魔理沙ぁ〜魔法使えなくなったんだって?」
「萃香、酒くせえよ!」
うるさいな〜とべろべろになりながら萃香はフラフラと境内を歩く。
私が履き集めた草木のゴミの所に突っ込んで転けている。
「おい、なにやってんだよ!せっかく掃除したのに!」
「また掃除すればいいだろ」
何を言うんだ……人の頑張りを取らないでくれ。
「んあー、何ようるさいわね。 って萃香じゃないどこ行ってたのよ」
「地底〜勇儀と呑んでたあ」
……鬼同士ならそりゃあそんだけくさいわけだ。
「好きに行くのはいいけどうるさくしたら追い出すからね」
「ええ〜そりゃないよ」
「うるさくされるのは嫌なのよ……」
「あーはいはい、とりあえず社務所入ろうぜ」
萃香と霊夢を押して社務所に入って行く。
お酒の相手は面倒くさいぜ。そして萃香は分身を大量に出してうるさくしたので霊夢の『夢想封印』で追い出されていた。私はどうしたって? とりあえず霊夢の後ろに行ったさ。魔法も使えないのに当たったら死ぬかもしれないからな。それはそれで怖かったぜ。
*
博麗神社に確保されてから六日目
ついにこの時が来た。私が魔法を使う日が。この日を待ちわびていた。
霊夢が見守る中、私はゆっくりと箒にまたがる。
いつものように(いつもがどんな風か忘れそうになったが)空を飛ぶように念じる。
ヒュオオと風が集まる。そうして空に私は打ち上げられた。久しぶりすぎて風を集めるのに失敗したみたいだった。
「うわあああああ!?」
怖くて叫ぶと体がひっくり返る。ヤバいっ、この下は石畳だ! ぶつかったら死ぬ!
「あんたなにしてんのよ!」
その声が聞こえたと思ったら私は首根っこを掴まれて宙ぶらりんになっていた。箒は下に落ちてカラランと音を立てている。
「あ、危なかった……ありがとう霊夢」
「危なっかしいのよあんたは。また何か奢りなさいよ」
「そのくらいならいくらでも。とりあえず下ろしてくれないか?」
そう言うと霊夢はゆっくりと空から降りていく。足が地面に着いたと思ったら腰が抜けたのか私は座り込む。
「怖かったんじゃないの?」
霊夢はそう言う。確かに怖かった。また死にそうになっていた。
「……怖かったな」
魔法が使えなくなることも、魔法が使えても落ちそうになったことも。怖かったなあ。
少し涙が出てきた。
「とりあえず戻りましょう」
そう言って霊夢は私の手をとって起き上がらせた。
「うわっ」
「これから魔法、使えたらいいじゃない」
……そうだな。それがいいか。
私は霊夢に手を引かれて社務所に戻って行った。
~*~
『博麗の巫女熱愛か!?』
そんな見出しを付けられた文々。新聞を握りつぶした霊夢は殺気立っていた。昨日の私と霊夢が手を引かれている写真をを取られてそんなことを言われたらぶちギレたくなると思う。という私もキレているが。
「とりあえず行ってくるわ」
「私も行っていい?」
「いいわよ」
そうやって2人で烏天狗を丸焼きにするべく出発した。
この新聞は沢山売れたそうな。解せぬ。
他の子達にも飴玉舐めさせてたいですね。
これはレイマリですね間違いない
ゲラゲラわらってる椛がとてもよかったです
文も文でだいぶひどい奴で読んでいて楽しかったです
レイマリをありがとう
楽しませて頂きました。
魔理沙の葛藤する姿はやっぱり絵になる
良い魔理沙でした
そこまで状況を作り出したうえで書きたかったものが若干見えづらかった印象がありました。
使えなくなった理由不明でシンプルに密度濃く描いてもありかと。
テンポよくするすると読めました。