Coolier - 新生・東方創想話

いんでぃぺんでんと幻想郷 巻ノ12

2021/06/20 03:08:39
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「…ん?ここは…」

霖之助はぼやけた視界を制圧するように目を擦って体を起こす。
「…!?。魔梨沙!村だよ!僕たちの村だ!」
霖之助は魔梨沙の肩を揺する。

「ふぁあ…あれ、なんで寝てたんだ、…!?」
魔梨沙も目を覚ましたようだ。

「…そうか、脱出できたのか…」
「そうさ、君の魔法のおかげ…いや、勇気のおかげさ!」

スキマから脱出した3人は気絶していたようだ。
魔梨沙は霖之助に支えられ、立ち上がる。

靈夢の母はまだ寝ているようだ。
「靈夢の母ちゃん!朝だ!靈夢がお腹すかしてるぞ!」

「!。靈…夢…。」
母は上体を起こして周囲を見回す。靈夢がいなかった事に落胆する。

「あ、ゴメンな。別に騙したかったわけじゃないんだ」
「ああいや、分かってるよ」

落胆した表情を頑張って笑顔に変える。

「ああ、そう言えば、元の場所に戻れたんだね。
さすが魔梨沙ちゃん!信じてたよ!」

「…ありがとな」
肩を叩かれた魔梨沙に笑顔がこぼれる。

靈夢の母はその手を顎に添える。
「あら、さっき料理してた鍋がそのままだわ。火事になっちゃう」
「あそこは敵の住処なんだからそれは気にしなくていいよ…」
「あの子達に食べてもらおうかしら…って、魔梨沙ちゃん、心配しなくていいのよ。
あの子、生きてたから」

「!?。そうだったのか…。
何だか、親子揃ってお人好しなんだか…」
魔梨沙は肩をすくめる。

実際の所、顔を焼かれた藍という狐の妖怪は生きていたようだった。
元の世界に戻る直前に靈夢の母は、狐の妖怪の体が少し動いていた所を見ていた。

「この家族には敵わんな」
魔梨沙がため息を吐き切って肩の力を抜いた所で、霖之助が話し始める。

「よし、このまま靈夢と合流しよう!」

先程とは別人の様に靈夢の母は不安そうな顔をする。
「靈夢は今どこにいるの?」
「今、あの子は神社の近くで例の妖怪と戦っています。さっきのスキマ越しに見えたと思います」
「戦ってる!?何をしてんだいあの子は!!」
自分の娘が化け物と戦うなんて古今東西の話で聞いたことがない。
夫を亡くしてすぐに子どもも失うなんて考えたくもなかった。

「早く連れ戻さなきゃいけない…!」
呼吸が荒くなっている靈夢の母の両肩を霖之助は抑える。

「落ち着いて下さい!僕たちには靈夢の為にもっとするべきことがあるはずです。
連れ戻すことだけが正解ではないはず!」

呼吸が次第に落ち着き、安定する。
「…なら、何をすればいいんだい…?」

「正直に言うと、僕にも分かりません。しかし、靈夢があの妖怪と戦っているのは事実です。
という事は彼女は巫女様から何らかの力を受け取ったと考えるべきです。
巫女様はそれほど物事を変革させる能力を持っている。
ならば、僕たちは靈夢の為に何をすべきか巫女様に相談するのが得策だと思います」

「…」

「もう一つ理由があります。今一番安全なところは神社でしょう。山の麓の家からあの世界に連れて行かれた。
どこにいてもさっきの空間に戻されかねない。この周辺に安全な場所はないと考えた方がいいでしょうし、
なら神社にいれば御神力によって守って下さる可能性が高い」

「…」

「僕は靈夢を信じています。だからこそ、出来る限りの事はしたい。やれる事はやらなきゃいけないと思います」
「そうだな、私もそう思う。今回だけでも、霖之助の言うことを信じてみないか?」

「…」

顔から不安の文字が消えていく。

「そうだね。私は二人を、ちと信じきれていなかったようだ。
確かに、靈夢が私にとって一番大事さ。自慢の娘だからね。

でも、自慢出来るなら、それこそあの子を信じるべきなんだね。
ごめんよ霖之助君。私が元気じゃなきゃ皆を元気に出来ないじゃないか!」

やっと靈夢の母にも笑顔が戻ってきた。
「それじゃ、行こうじゃないか!」

「よし、決まったようだな。」
魔梨沙は神社を振り向く。

「さて、行くか…と、その前にこーりん。その前に気になる事がある。
「なんだい?」
目の向きは神社から霖之助に変わった。

「さっきの金属は何だったんだ?どういう原理であんなでかい光が出てくるんだ?」
「ああ、後で話すって言ったもんね。分かった。簡潔に話すよ」
(絶対長くなるな…)

霖之助は顎に親指と人差し指を添えて下を向いている。
如何に説明するか整理しているようだ。

…指を離し、顔を上げて話す。
「君は、"増幅"できるんだ。」

「なんだよそれ」
「増幅とは、単純に八卦炉の力を最大限に使うことができる能力だ。

そもそも八卦炉とは、内部で高電圧を生成し、標的を新しい電極という名の場所に設定することで電子を遠くへ飛ばす機械だ。
放電と言ったりする。電子も光も同じ様な物だ。厳密には違うが、対して区別しなくていい。
僕があげた金属に含まれている、粒子の様な振る舞いをした電子が波に変わるんだ。

そして、電子は手に入れやすい物質の中でも金属に多く含まれている。
八卦炉の中に金属を詰める事で電子を取り出し発射する。

しかし電極という場所は一つしか設定できない。電子はマイナス。"マイナス"は"プラス"にしか動かない。
だが君はあらゆる物質を"プラス"に帯電させる、いわば増幅させることで、電子があらゆる方向に飛んで行く。

この増幅という能力を活性化させる為には、行為者自信を信じるという過程が必要だったんだ。

そして、増幅によって増えた"プラス"を真正面に絞れば、どでかい花火の完成だ。
君だけが使える"魔法"だ」

魔梨沙は途中まで真面目に聴いていたが理解することを諦めた。

「…やっぱりわからん。んで、これは何回でも打てるのか?」
「僕がさっき渡した金属の個数分だけ使えるよ。他にも何個か作っていたんだ」

霖之助はポケットから金属を取り出す。
「この道具の名前を"ボム"と呼ぼう。ボムは数回分作ってるから持っておくといい」

金属を数個、魔梨沙の手の中に入れる。

「分かった。ありがとな」

魔梨沙は受け取った"ボム"をポケットに入れた。
すると、霖之助は空を見たり、周りをキョロキョロ見回したりしている。

「………」
「何だよ?キョロキョロして、気持ち悪いぞ」

「…魔梨沙…」
顔を下に向けてボソボソ喋る。決心したのか、顔を上げる。

「この戦いは命を懸ける戦いになる。だからこそ今のうちに君に伝えたい事がある」
「なんだよ、急に」

(あら、もしかしてこれって!霖之助君、頑張って!)
脇から見ている靈夢の母は嬉々と二人を見ている。

「…」
「言いたい事があるならはっきり言えよ」
魔梨沙は少し焦れったく感じる。

「…僕は……僕は……」
顔を上げた。



「半人半妖なんだ。人間と妖怪のハーフなんだよ」



『…は?』



(え…そういう流れじゃないの?嘘でしょ…)
母、もとい野次馬、絶句。

霖之助は話を続ける。
「さっきの妖怪がどう動いていたかもわかったのも、
ずっと前に軍隊が来た時もかなり遠くから観測することができたのも
妖怪の血が混ざってるからと言っておかしくない」

「おい…そんな事で回りくどい話し方をしたのかよ。とっくに知っているのだが」

「分かってる。でも、言葉にしたかったんだ」

魔梨沙はため息を着く。間を開けて口を動かす。
「そうか…。なら、一つだけ言いたい事がある。
どうしてそこまでためらうんだ?いくらでも話す機会なんてあっただろ」

(魔梨沙ちゃん、優しいねぇ)
この質問は、友達しかすることは出来ない。
今考えていることを一つ一つ正直に話してもらうのは、
赤の他人にさせるには相当難しい所がある。

「…言えるわけがないじゃないか…」
「私達は友達だろ? 友達ならそんな事言ったっても問題ないだ…」


【君に僕の何がわかる!!】


『!!』

聞いたことのない声に、魔梨沙と靈夢の母は驚きを隠せない。
急に声を荒げた霖之助は目を見開き、後悔する様な顔をしたまま固まる。
「…ごめん。でも、妖怪の子供なんて村の人にも、魔梨沙にも靈夢にも、口が裂けても言えなかった…怖かった…」

震える声も、魔梨沙は受け止めた。
「…言いたい事があるなら吐き出していいんだぞ。お前が辛い気持ちになるのは私が望んでいない」

「ありがとう。…じゃあ…、…僕の家族について話したい。いいかな…?」
「いいから話せ。その方がお互い楽になる」

そうだね、と返すと霖之助は自分を振り返り始めた。

「…僕の母は、山に山菜を取りに行って生計を立てていた。
ある日、その途中で妖怪に出会った。

母が山と村を行き来している内に二人は惹かれあった。
お互いの種族にばれないように、空き家だった家でひっそり会ってたんだ。
やがて、二人はその家に住み始めた」

霖之助はポケットから"ボム"とは違う丸い形の金属を取り出した。


 「―――これ、山の麓の家に置いてあったアクセサリー。これ、お母さんの物と同じなんだ―――」


「!?…まさか」

「恐らく、二人が一緒に過ごしたのは僕たちがさっき靈夢達といたあの家。
それが本当なら、これは僕のお父さんのアクセサリーかもしれない」

「…」

魔梨沙が驚いた顔をしたまま、霖之助は話を続ける。

「…やがて、僕が生まれた。母は、ずっとその事を隣人に隠した。
辺りに住んでいるのは人間だけ。
妖怪との子供だなんてバレたら何が起きるか分からない。

でも、隠し切る事には限界があった。情報なんていくらでもどこからか入ってくる。
周辺では、あそこに化け物が住んでると噂になっていた。

母は村へ逃げた。息子は完全な妖怪ではない。
だからこそ、受け入れてくれる可能性があるんじゃないかって。
だとしても、人間の里に妖怪である旦那を住まわせるわけにいかない。
逆に、妖怪のいる山は人間を住まわせるわけにはいかないから引っ越すことが出来ない。

2人は離ればなれになるしかなかった。

それでも、村の中で新しい生活を始めた。
しかし、どこに行こうが変わらなかった。
当然僕もいじめられた。母も隣人に罵られた。

そんなある日、ついに僕のお母さんの心は壊れてしまった。

この世への絶望感に覆われ、
お母さんは我慢の限界に達してしまった様だ。

僕に対する態度も以前と変わった。
まるで、他人と接するかの様だった」

「…」

「お母さんには感謝しているんだ。こんな僕を育ててくれて。
でも、思ってしまうんだ。
誰にも優しくされずに僕達はこんな生活をして…
何のために生きているんだって。

そんな事を考えながらずっと生きてきた。」

「こーりん…」

「でも、ある日君と偶然出会って僕だけは救われた。
こんな体の僕を家に入れてくれて、そこで読んだ本が凄く面白くて、ひたすら本を読んだ。
"窮理学"に興味を持って、そこから工作を始めたんだ。ただ、楽しかった。
生きがいだった…君のおかげなんだ。僕が生きる意味を持たせてくれたのは。」

「違う…」

「魔梨沙、この事は別に他人に言っても構わない。元々僕はここにいてはいけない存在なんだ。
でも、母さんにはいつの日か生きる意味を…」

「違うよこーりん…」
「魔梨沙?」

「私こそこーりんから生きる意味をくれたんだよ!」
「!」

魔梨沙は顔を赤くして霖之助の目を見る。
霖之助も顔が赤いのに魔梨沙の目を見ることが出来ない。

「私の家は他の家よりも大きくて、あまり外に出してくれなかった。
親の仕事の時だけ表に出させられて、自分は飼われているだけの人形じゃないかって思ってた。

でも、こーりんが何故か家の庭に来て、遊んで、本を読んで、そこから私の人生は変わったんだ!
こんなに自由に生きていいんだって、思わせてくれた。
私もあんたから生きる意味をくれたんだ!」

はっとする。僕が助けられたのではなく、僕が魔梨沙も助けた。

「魔梨沙…ごめん、僕はわがままだったようだ。君が僕のおかげで救われたなんて…嬉しいよ」
「こーりん…!」
霖之助もやっと魔梨沙の目を見て話すようになった。

「…ただ、一つだけ約束してほしい。僕が妖怪とこれから蔑まれても、それでも…君とずっと友達でいたい。…いいかな?」

「何を言ってるんだ、靈夢と3人で約束しただろ。私たち3人は永遠に友達だ!こーりんをいじめる奴は私がぶっ潰してやる!」
「ありがとう…魔梨沙。その武器で村を救ってくれ」
「おう!」
二人の約束は笑顔によってサインされた。

「二人とも…良かったねぇ…」
一人は泣いていた。

(僕は知らない間に誰かを幸せにしているのかもしれない。苦しめているのかもしれない。
…でも、僕が僕で有ることで、魔梨沙や靈夢が幸せになるのかもしれない。

なら、僕が今出来ることをやるだけ…!)

「…よし!それじゃ、神社に向けて出発…」


「お前らあぁああぁぁああ!!」

『!?』
「藍様の敵ども!見つけたぞ!」

「またあの猫か!」
「空気読みなさいよあの猫!」
さっきの猫だ。靈夢の母は怒り心頭である。
「橙って名前じゃなかったか?」
「こーりん、名前を覚える頭を戦いに使え!」

「絶対に逃がさないぞ!覚悟しろ!」
魔梨沙が二人の正面に立つ。八卦炉と足さばきで橙の攻撃を抑えている。

「くっ!!ここは私が食い止める!こーりんと靈夢の母ちゃんは神社へ向かってくれ!」
「分かった!魔梨沙、絶対に生き残れよ!!」
「もちろんだ!」

「さっきは食事できなかったから、帰ったら美味しい料理またごちそうするわね!」
「ああ!靈夢の母さんの料理が楽しみだぜ!」


靈夢の母と霖之助は神社に向かって走り始めた。



………



霖之助と靈夢の母は神社の近くまで来ていた。
靈夢の母は空を見上げて指をさす。

「あれが靈夢?」
「僕の目に間違いがなければ靈夢です」
ずっと口を開けている。塞がらないから両手で押さえる。

「飛んでるし、亀に乗ってるし…頭が、付いて行けないわ…」
霖之助は靈夢の母をじっと見る。

「大丈夫です、お母さん。靈夢なら何とかしてくれると思います。
今、無理やりあの戦いに巻き込むのは危険です、下手したら靈夢が不利になるかもしれない」

「靈夢…」
「急ぎましょう」


小走りで神社に向かう。やがて、村の入り口が見えてきた所だった―――


『!?』

「え…!?」
「お、お父さん…」

無残にも撲殺された旦那の姿がそこにあった。
愛する人の所へ一目散に駆ける。

「お父さん…!…ぁ…な、何があったんだい?…そんなに叩かれて……………ぅっ…」
「…」
「痛かっただろうに…ねぇ、辛かっただろう?
後で土に還すからさ、待ってておくれよ…」

霖之助は声を掛ける事も出来なかった。
それでも、声を掛ける人間はいた。


          ―――そこにいるのは誰ですか?―――


村の門番が近寄ってくる。

「何ですか。貴方に用はありません」
霖之助の言葉から怒りが伝わる。
「こちらが貴方達に用があるのです。"あれ"の知り合いでしょうか」
靈夢の父を指差す。

『!!』

「"あれ"…だって…?やっぱりそうなのか。父さん、あの人達からやられたんだね…」
「左様です。"あれ"の同族ですか…」

「!!!!!!!!!!!!!!!!」――――

      「そうだよ!私はこの人の奥さんだよ!何か悪いかい!!」

もう、我慢が、出来なかった。怒りしか、なかった。

「そうか、なら私達の教えに反する悪魔どもだな!粛清だ!者ども出て来い!」
門番の声で、村の門から人間が出てくる。

「あの子どもとおばさんをやっちまえばええんですね?」
「そうだ!女子供と言えど手加減しなくていい!あやつらは紫様に反するものだ。
パージせよ!!」
「へい!!」

霖之助は靈夢の母の手を握って目を見つめる。
「ここは僕がしのぎます!お母さんは早く神社へ!!」
「霖之助君…」

「さっき魔梨沙に話した通り、僕には妖怪の血が混ざっています。そんな簡単にはやられません!」
靈夢の母は笑顔になる。

「そうかい、ならここは任せた!死なないって信じているよ!」
「勿論です!」

走りながら後ろを振り返って霖之助に叫ぶ。
「私が少し若かったらあんたに嫁入りでもしようかと思ったよ!」
「それは嬉しいですが、靈夢のお父さんの方がお似合いですよ!」
「冗談も上手くなったね!いい男になったよ!」
「ありがとうございます!さあ、早く!」

《靈夢、待っててくれ…》

各々がそれぞれの戦場で戦っていた。
いつも読んで頂きありがとうございます。まやしまです。
出来るなら友達には包み隠さずお話できると一緒に過ごしやすいですよね。僕は、包み隠さず話してる…はず?

ところで、電極を設定とかトンデモ理論が出てますが、
魔法なので何でもありという事でそっとして頂けると…。
放電なら、見た目かみなりでしょっていう…。

今回も何卒よろしくお願い致します。

※長編ではございますが、「それぞれ完結している・展開上一旦区切りがつく」というルールを出来るだけ遵守しながら書かせて頂いております。
この作品は時代背景を考慮して作成しております。
その為、現代では倫理的に不適切な発言が作品内で書かれる可能性がありますが、筆者にはそのような思想はない事をご理解した上で読んで頂けると幸いです。
まやしま
[email protected]
https://twitter.com/mayashym
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