Coolier - 新生・東方創想話

れいすいかショートショート

2021/06/08 01:45:28
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〈霊夢が海老を買ってきてくれる話〉

霊夢が海老を買ってきてくれた。
袋いっぱいの海老。
こんなにたくさんの海老、どうしたのって、わたしが聞いたら、安かったから、って。何も安かったからってそんなに買う必要ないだろうがようって思ったけど、わたしも海老は好きだから何も言わなかった。すべての生命体が等しくいつか死ぬように、海老が嫌いな生き物なんていないのだ。
袋いっぱいの全部の海老を霊夢はフライパンの上にひといきに開けて一気に焼いた。霊夢は料理が上手だと思うけれど、とにかく大雑把な霊夢なんだった。たくさんの海老たちがフライパンの上に窮屈そうに収まってぱちぱちぱちと殻の割れる音がしている。なんだかポップコーンみたいだねとわたしが言うと、ぜんぜんちがうと霊夢は言う。まあ、それはそうだね。フライパンの上の灰色が少しずつ赤く変わっていって、現代美術かなんかみたいなモザイク模様だ、でも、今度は言わずにそれを見ていた。香ばしいおいしそうな匂いがする。焼き加減……って、どれくらいかしら、わたし海老なんて食べたことないからさ。と霊夢が言った。それはわたしにもわからないことなので、ひとときは黙っていた。まあ、これくらいでいいかしら。もうちょっと焼いたほうがいいんじゃない。焼きすぎたらよくないし。でも焼かなすぎてもよくないよ。フライパンの上の海老は真っ赤だった。すこしあとで霊夢はざるの上に海老たちをあげて、神社の縁側で風に当てて冷やしていた。霊夢はうちわで扇いでいた。
暑くなりはじめた夏のはじまりの季節のことだった。

「そんなんするの?」
「しないの?」
「わかんない、けど」
「萃香も扇いでよ」
「うん。ぱたぱた」
「ちがう、海老じゃなくて、わたしをよ」
「なんで?」
「わたしは萃香のために海老を扇いであげてるのよ」
「しかたないなあ。ぱたぱた」
「ああ、涼しい」
「ぱたぱた」
「きっと、おいしくなるわ」
「霊夢が?」
「なんでよ。海老がじゃん」

数十分、わたしたちは、縁側で、そうした。
霊夢はざるを持って部屋に戻り、数ヶ月前に仕舞い忘れ冬を待ちながら夏先にうざく名残る炬燵の上に乗せて言ったのだ。

「じゃあ、食べよっか」

わたしがざるの上の海老の山に手をのばすと、霊夢はそれを制した。
剥いてあげる。
海老のひとつを手にとってそんなこと言うのだった。霊夢は海老の殻を綺麗につるりと剥きあげ、殻を別のざるに乗せて、生身の赤い海老をわたしに向けて差し出した。

「ほら」
「もしかして、食べさせてくれるつもりなの?」
「もちろん。口を開けなさい」
「いいよ。自分で食べるから」
「いいから、早く」

こういうときの霊夢に何を言ってもしかたないことは知っているから、おとなしくわたしは口を開けてみせる。霊夢がわたしの口の中に海老を放り込んだ。

「もぐもぐ」
「どう?」
「おいしい」
「よかったね。ほら、次。あーん、って」
「あー」
「はい」
「もぐもぐ」
「どう?」
「おいしいよ」
「味が欲しくならない?」
「海老だけでもおいしいよ。でも醤油があるといいかな」
「もう、しょうがないわねえ」

小さな皿の上に醤油を開けて、霊夢は海老の殻を剥いて、それに浸したやつをまたひとつ。

「ほら、あーん」
「あー」
「はい」
「もぐもぐ」
「どう?」
「おいしいよ。やっぱり醤油があうなあ」
「よかったね」
「うん」
「萃香って海老大好きそうだもんね」
「そう見える?」
「漁師っぽいわ。海の子って感じ。船とか似合いそう」
「そうかな? どっちかと山の生まれだし、そっちのほうがわたしな気がするけど」
「てきとー言ってるだけだもん。海なんか知らないし」

そういえば海がないのにここに海老があるのはどういう理由だろう。川でも採れるのかな。海老のことはぜんぜん知らないし、海のことはもっと知らない。でも、それを言うなら、山のこともあんまり知らないし、まあ海老はおいしいからどうでもいいことだろう。ほんとはお酒を飲みたいと思っていた。海老はつまみにぴったりだからどうしてもお酒が飲みたくなってしまう。でも、一生懸命海老の殻を剥いている霊夢を見ているとそれは悪いかなあという気もする。こんなにあるのに、自分でたくさん買ってきたくせに、霊夢は海老をちっとも食べないのだ。

「霊夢も食べなよ」
「わたしはいいわ」
「海老、嫌いなの?」
「大嫌い」
「え、なんで。アレルギーとか?」
「ううん。見た目が嫌なの。虫みたいじゃない。きもいから食べたくない」
「じゃあ、なんで買ったのさ!」
「安かったもの。ほら、あーん」
「あー」
「はい」
「もぐもぐ」

言いたいことがいっぱいある気がした。虫みたいなら触るのも嫌じゃないの、とか、わたしのためだけに買ってくれたわけ、とか。でも、喋ろうとするたびに、とりとめない考えがたしかな音になる前に、霊夢がわたしの口の中に海老を放り込むから、言葉は消えてしまう。おいしい味に変わってしまう。

「ほら、あーん」
「もぐもぐ」
「あんた、もう20個目なのにおいしそうに食べるわねえ」
「そりゃあね、いくら食べても飽きないよ、海老」
「信じらんないなあ」

霊夢の手の中でぱきりぱきりと割れていく海老は、赤と白。
なんだか霊夢の色みたいだった。

「霊夢みたいだね」
「え、なにが?」
「海老」
「それどういう意味?」
「色がさ」
「たしかに」
「同族嫌悪? 嫌いなのって」
「ああ――そうかも」
「あはは、そうなんだ」
「そう、そう。だから、全部食べちゃってよ。なくしちゃって」
「うん。あーん」
「はい」
「もぐもぐ」
「ほら、次、次」
「もぐもぐ」
「はい、あーん」
「もぐもぐ」

それでも、まだまだたくさん海老は残っている。
それをぱきりぱきりと霊夢は剥き続けて、わたしは食べた。
甲殻類を剥いて食べるときは静かになってしまうとか言うけど、霊夢は珍しくよく喋っていた。
まあ、映画みたいにはいかないね。
夏の少し前の暑い日のこと、海老の匂いがする日だった。


おしまい


〈すいかわり〉

「西瓜割り」
「買ってきたの?」
「そう」
「大きいね」
「萃香割ってよ」
「いいよ、任しときな」
「右、右、あ、左、ちょっと左」
「左?」
「もっと左、そう……前、前、前、前、前、前」
「きゃあ!」
「何ぶつかってきてんのよ。え、喧嘩? 喧嘩売ってんの」
「いや、霊夢が指示したんじゃん!」
「惑わされないで。自分の感覚を信じて」
「えぇ……」
「ほら、右、右、左、あ、後ろ、後ろ、ぜんぜん後ろ」
「このへんだろうな」
「あ、そこにはヤクザがいるわ」
「どういう世界観なの……えいっ」
「あ、割れた」
「え、ほんと? ほんとだ! すごい! すごくない?」
「まあ、わたしが萃香が叩くところに合わせて置いたんだけどね」
「えー本当に? なんでも言えるじゃん」
「ほんとのことはいつでもわかんないものよ」
「なにそれ」
「食べよっか」
「甘い!」
「うん、甘い」



「萃香割り」
「そういう冗談、千回くらい言われたよ」
「じゃあ、わたしが千一回目ね!」
「今日の霊夢はうざいなあ」
「わたしが目隠しして叩くから萃香は指示してね」
「ええ……じゃあ、後ろ、後ろ、もっと後ろ、後ろ、後ろ、永遠に後ろ!」
「えいっ」
「いったぁ。なんでわかるわけ?」
「だって、声出してんじゃん」
「あ、そっかあ」
「萃香は、馬鹿ね。大馬鹿だわ。愚鈍だし。愚図、頭が悪い、チルノ、大天才のいちばん逆、馬鹿の最先端、あほの金字塔」
「そんな言う!?」



「萃香割」
「また?」
「萃香という名前の人にはお安くなってます」
「そういう割かあ」
「萃香ならお買い得!」
「なにが?」
「わたしが。ちゅーしてあげる」
「え、いくらで?」
「通常、一万円のところ、今なら100%引きで、100円です!」
「計算間違ってるよ?」
「どうする」
「買うけど!」
「おまけでパンチもついてくるわ」
「えぇ……いらな」
「どうする?」
「買うけど!」
「じゃあ、いくわよ」
「う、うん……」
「ちゅ……えいっ」
「///……痛っ!?」
「どんな気持ち?」
「逆にしておけばよかった!」



「萃香、悪ぃ」
「え、どうしたの?」
「いや、ほんとごめんね。わたし取り返しのつかないことをしちゃったの」
「な、なにをしたの?」
「今日、里で買い物をしてたら、きれいな女の人に話しかけられてね。ちょっと気があったから話し込んで……すっごくいい人だったの。やさしいし、おもしろいし」
「えぇ、まじかよう……」
「それで立ち話もなんだからってことで、ふたりで近くの甘味処に行ったの」
「霊夢、お前なあ」
「そこでわたしは天国について知ったわ。この世界にやがて来たるべき終焉と救いの道についてその人は話してた。でも、神様を信じれば救われるんだって。一緒に布教活動をしましょうということで契約書?っていうか、なんか神的な契約書みたいなやつに名前を書けって言われたの。なんか怖かったから萃香の名前を書いたわ。ごめんね」
「なにしてくれてんの、ばか!」
「集会とか呼びに来るかも。里で会ったら無理やり連れてかれるかも。ほんとごめんなさい」
「いや、っていうか、知らない女に着いてって甘味処に行ってるっていう時点でわたしてきにアウトだからな!」
「それについては……萃香、悪ぃ」
「ふざけんな!」バキッ
「いたい!」



「萃香が悪い」
「突然、なに?」
「だってこんなにちっちゃくてかわいくて一緒にいると襲いたくなっちゃうもん」
「そ、そうかな」
「うん。襲っていい?」
「えー、怖い~」
「がおー」
「きゃー」




「ツイ騙り」
「え、なに?」
「実は、わたし、萃香の名前でTwitterやってるのね」
「えぇ……。変なこと言ってないだろうな?」
「うん、もちろん。普通の日本人、猫のアイコン、有名人にいっぱいリプ飛ばす、薬の画像ばっかアップする、あと萃香への愛をいっぱい語ってるわ」
「すごい、最後のでイーブンになってぎりぎりまあいいかと感じる……」
「まあ萃香の名前だから自分がめっちゃ好きな人みたいになってるんだけどね」
「やっぱだめ!」



「つうかたりぃ」
「大丈夫?」
「なんか疲れちゃった。異変とか解決する気出ないし、家事とかもやる気でないな」
「まあ、そういうときもあるよね」
「萃香がチアリーダーの服着て黄色いボンボン持って踊ってくれたら元気出るかも」
「そういう性癖あるの!?」
「性癖っていうか……ただ、そうだから」
「やんないよ? 言っとくけど」
「あーだるい。だるすぎて死んじゃうかも。異変とかも解決できなくて幻想郷が滅びちゃうかも」
「やらないからな」
「萃香もだるいの?」
「そうだよ」
「わたしがチアリーダーの格好して黄色のボンボン振ったら元気出る?」
「そうかも」
「でも、だめでーす。わたし、いまは何もやる気ないから」
「生きるのがつらい」
「そうね」



「夕方に」
「夕方に、なんなの?」
「わたし狼になる」
「満月の夜とかじゃなくて!?」
「そうよ。大きな夕日を見ると狼少女に変わっちゃうの」
「毎日大変だね」
「あ、もうじき夕暮れだわ……きっと萃香を襲っちゃうな」
「や、やめてよ?」
「でも、今日は曇りだから狼にはならないけどね」
「ふーん」
「萃香のことも襲わないけどね?」
「いいことじゃん」
「襲わないけどね?」
「いや、べつにいいけど」
「あ、夕方のこと考えてたら記憶の中の夕日がまんまるだった」
「結局じゃん」
「がおー」
「きゃー」



「萃香たち」
「たしかにわたしは程度の能力で分裂できるけど」
「萃香たちの中でいちばんこの萃香が好き」
「えへへ」



「萃香、なに?」
「え、逆になにが?」
「なに、なんなの、その目、ガンくれてんの」
「いつもこういう目だよ!」
「え、やる? タイマンはる? 表でなよ?」
「そんな言うなら、やってやろうじゃん」
「ふふ、幻想郷の守護者たるわたしに喧嘩売ったこと後悔させてやるわ……」
「おりゃっ」バキッ
「いたい~。ふつーに殴るのはなしじゃん……。弾幕ごっこにガチパンチは禁止じゃない…。うわ、これ折れてる絶対。そのくらい痛い。顔面骨折だし、絶対……」
「霊夢って、ばかなの?」



「萃香だし」
「なに?」
「萃香だしね、しかたないか」
「だから、なにが?」
「冷蔵庫とかちゃんと閉めないけどしかたないか、萃香だし」
「たしかに、わたし、そういうのたまにミスっちゃうね」
「日がなお酒ばっか飲んでごろごろしてちっとも家事とかしないけどしかたないか、萃香だし」
「お風呂掃除はしてる!」
「働く働くと言いながら一向に働かずただ飯ばっか食って居候の身分で偉そうにしてるけどしかたないか、萃香だし」
「ごめんね!がんばるから」




「萃香出汁」
「今度は何!?」
「萃香で出汁とったお味噌汁食べてみたいな」
「変態なの?」
「変態よ」
「そうなんだ」
「あ、お風呂煮えたけど、入る?」
「入らない」
「なんで? 汚いなあ」
「だって、出汁とるじゃん」
「とらないわ。きっとどろどろのプリン体とかコレステロールみたいやつがいっぱい出て気持ち悪いもの」
「ひど! てか、お風呂煮えたとか言わないからな!」
「蟹、とか買ってこようかしら。蟹の出汁はおいしいから萃香を誤魔化せそうだし。あごだしと味の素も入れようかな」
「わたしだけを楽しめよ!」
「すいかに 」
「なに!?」
「萃香に、あげるね。出汁とったあとの蟹の部分は」
「それは、それは……たしかに嬉しいけど!」



「悔いがない」
「よかったじゃん」
「ように生きたいの思うのね」
「それはいいことだ」
「これをせずに死んだらきっとわたしが後悔すること、ベストスリー!」
「いきなりだ」
「三位、萃香に好きって言う! 萃香、わたしあんたのこと好きよ」
「えへへ。知ってる」
「では、二位! 3段重ねのアイスを全部同じ味にする!」
「ちっちゃいなあ」
「一位はなんだと思う?」
「えー? 案外真面目な話で、博霊のシステムを変えるとかそういう……?」
「残念! 一位は萃香の初任給で旅行に連れてってもらうでした!」
「がんばるから!」
「まあ、いいのよ。いつかさ、いつかね」
「うん。長生きしてね」
「すいかわり」
「なに?」
「萃香は理」
「?」
「萃香はわたしの生きる理由だわ。生きてる間はずっとそばにいてね」
「うん。ずーっと」

おしまい


<今夜、星を見に行こう>

って、霊夢は言った。
23歩を歩いて神社の境内で星を見た。星を見るっていったらもっとなんていうか星を見るに値する場所に行くんじゃねえのかようと思ったけれど、言わなかった。じゃあ星を見るのに値する、場所、って、どこ、なの、って霊夢は絶対聞くだろうし、目下のところそういう場所はちょっと思いつかない。だから神社の境内にふたり座って星を見ていた。キャロル、と霊夢は言うのだった。

「人工衛星なんだ。小さなロケット。子供の頃の友だちだった」
「友だち? ロケットって言えば機械だろう」
「喋るのよ。丸いやつで、真ん中にランプがついてんの。赤とか黄色に光って、その点滅如何で気持ちがわかる」
「ふうん。それでそいつは今はどこにいるの?」
「決まってるじゃない」

宇宙。
もちろんほんとに空を飛ぶことのできるようなロケットなんかじゃない。幼い子供の作ったお手製の小さなロケットだ。近い宙を浮くような機能なんて備えていないし、大気圏を超えるような強度だってない。投げたら、それで壊れてしまうよなロケットだった。だから、霊夢は自分の中にそのロケットを飛ばすことにした。内宇宙ってやつだね。60年代に生まれて70年代にはたしかにあった、”ない宇宙”についての物語。つまりはまあ頭の中の空想の宇宙というところだろう。幼い空っぽの子供の頭の中は宇宙にちょうどよかった。わたしたちが思うほど宇宙には何もないけれど、あるときはわたしたちの想像を超えるような突拍子もないものがあったりもする。
宇宙人を探しに行ったんだと思う、と霊夢は言う。

「霊夢、そういうの興味あったんだ」
「子供の頃よ。なんでもよかったの別に。でも本が好きだったから本の中にあるような不思議なものを見つけてみたかったのかも」
「ふうん。かわいいね」
「思考停止みたいなこと言わないで。子供の頃のわたしについてもっと深く味わって」
「えー」
「本を一冊書けるくらいにさ。これ以上無理ってくらいにわたしを分析して解体して議論してよ」
「わたし、物事にそういう楽しみ方しないんだ。かわいいとか楽しいとか悲しいとかだけ」
「浅いなあ」
「でも溺れずにすむさ」
「え、え、それ、どういうこと?」
「いや、特に深い意味はないんだけど、考えすぎて行き詰まっちゃうこともないから、悪いことばかりじゃないみたいなそういう」
「そういう、なに?」
「やつ……」
「なにそれ。浅いなあ」

でも、きっと見つからなかったのね、と霊夢は言う。
宇宙人が。
それどころか不思議なものは霊夢の中にはきっと何も見つからなかった。そんなときに光って飛ばすビームは永遠に霊夢のもとに届かなかった。まあ、しかたのないことだと霊夢は言う。そもそもワープ航法で霊夢の中を飛んでいったロケットから飛んでくるビームはこちら側に届くまでとても時間がかかる。気の遠くなる時間が。
ワープ航法、わたしの知らないそれを霊夢はこんなふうに説明した。ここに一枚の紙とそこに置かれた二つの点があるとして、それを最短で結びには点と点の間に直線を引けばいい。少なくとも二次元下においてはそうである。次元をひとつ上げれば、もっと簡単に点と点を結ぶことができる。つまり、紙を折るのだ。紙を折って点と点を重ねれば、点はあまりに単純に最も近い距離で結ばれる。三次元に対しての四次元も似たようなこと。だから霊夢は霊夢を自分自身を四次元的で形で折り畳んだ。その中にある宇宙を広げるために。
そろそろ開いてもいい頃合いだと思うのと霊夢は言った。内宇宙のこともその頃合いのこともわたしにはわからない。だから、ただ、肯いた。わたしが肯いてしまったので、霊夢は言う。

「開いてよ」
「霊夢を?」
「もちろん」
「どうやって?」
「簡単でしょ。折り畳んだ折り紙を開くのとおんなじよ」
「え、わからん」
「やってみて」

いつもそうだが霊夢が言うならそれはそうだということでわたしにはどうしようもないので、わたしは霊夢の色んな部分に触れて折り目を探した。折り目を見つけることができればきっと開けるだろうと思ったのだ。
わたしは霊夢に触れた。ひとつなぎの霊夢の体をわたしの知る名前によって部位へと分割し、ひとつずつ触れてそうではないことを確かめて、また、次に、触れた。

「あはは。くすぐったい。萃香、くすぐったいってば」
「霊夢がやれって言ったんじゃん!」
「あはは、ばか、ばか、何もそんなとこをさわんなくても……あはははっ」
「なんか楽しくなってきた……」
「へんたい!」

でも、やがてそれを見つけた。
折り目を見つけてしまえば開くのは簡単だった。
わたしは霊夢を開いた。

「あ、雪だ」

開いた部分から小さな雪の塊が現れた。触ると冷たい。あまりに小さいから触るとその部分からすぐに溶けて失くなってしまう。

「そうだわ、思い出した。ロケットを打ち上げたのは冬の日だった。雪がたくさん降ってたんだ」

折るということは外側にあるものが内側に折りたたまれるということだ。だから古い雪が霊夢の中に残っていたということなんだろう。夏の星空のもとに突然現れた白い雪はなんだかちょっと箪笥の上に残った埃みたいだった。霊夢を完全に開いてもロケットは出てこなかった。きっとどこかで事故があって燃え尽きたりしちゃったのかもね、と霊夢は推理を披露した。あるいは、ほんとに宇宙人でも見つけて彼らの技術によって遠い場所にワープしてしちゃったのかもしれないわね。
こうして開かれた霊夢はこれまでの霊夢と見た目には何も変わらない。

「ねえ、霊夢、どんな気分?」
「なんだかすごく退屈ね。今まではわたしの中に色んなものがある気がしたの。そりゃそうよね。折ってあったから、構造としてはずっと複雑だったもの。でも、いまは……」
「今は?」
「なんだかすごく単純になってしまった気分」
「ふうん」

星を見に行こう、と霊夢はまた言った。
近くに山があるからそこからならきっと星がよく見えるからって。
せっかくだから、お菓子とかもってこうよ夜のピクニックだもんね、わたしが言うと、浅いなあって霊夢は笑った。
冷たいココアの入った水筒を1つに大きなチョコレートを3枚と袋いっぱいのお煎餅、3875歩で、2人、山まで歩いた。

おしまい
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コメント



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6.90名前が無い程度の能力削除
なんかよかった
7.100名前が無い程度の能力削除
小気味良く展開される物語をエビのように剥いて食べてたら無くなっちゃった。かなしい。
たぶん一番好きなのは「萃香たち」。だいすき。
8.90ヘンプ削除
面白かったです!
9.100おもしろかった削除
って感想
10.100南条削除
面白かったです
すいかわりの怒涛のラッシュがとてもよかったです
11.100めそふ削除
可愛くて良かったです。