ある春の日、月の夜。霧の湖から少し離れた所にある廃洋館。
一見すると、とても誰か住んでいるようには見えないその館内に、闇に紛れひっそりと蠢く二つの影があった。
「…メルラン。リリカはもう眠ったかしら?」
「えぇ、バッチシよ姉さん。リリカ、今朝からずっと来週のライブ用の曲作りしてたから…もう朝までぐっすりのはず。例の話をするなら、今ね」
その影の正体はルナサ・プリズムリバーにメルラン・プリズムリバー。この廃洋館の住人、騒霊三姉妹の長女と次女である。
ここはルナサの自室。月明かりに照らされた部屋で、顔を寄せ合いヒソヒソと言葉を交わす二人。
彼女らは今、早急に解決すべきある深刻な問題を抱えていた。
「…では、始めましょう」
ルナサが重々しく口を開く。普段から真面目な姉の、普段以上に真面目なその表情にメルランは思わず身を正した。
背筋を伸ばしその形の良い胸を張りながら、姉の次の言葉を待つ。
「この世に生まれてどれくらい経っただろう…。私たちはあの子と四人で、これまでに多くの問題を乗り越えてきた。あの子が逝ってしまって、三人になってからもそれは変わらない。
プリズムリバー楽団を立ち上げ、互いに支え合い騒ぎ合って、あの子を失った隙間を埋めてきた―――」
姉の真っ直ぐな視線を受け止めるメルラン。
「―――私たちは今、楽団創設以来の最大の危機に直面している。…リリカが危ない。このままではリリカが、取り返しのつかない傷を負うことになる。
もう二度と、笑顔で演奏出来なくなってしまう…。私は姉として、楽団のリーダーとしてリリカを守る。…どんな手を使ってでも。
…メルラン、貴女にもその覚悟があるかしら?」
「当然よ!」
迷いなく放たれる妹の言葉に、ルナサがほんの少し表情を和らげる。
「…ありがとう」
これは少し昔、プリズムリバー楽団黎明期にあったかもしれないお話―――。
『幽霊楽団黎明期録~リリカちゃんのパンツ編~』
その秘密の会合は粛々と行われた。
「ではメルラン、例のモノをここに」
「はい姉さん」
少女が懐から取り出したのは、一通の手紙。
ライブ活動を始めて幾年月、いつからか廃洋館へと舞い込むようになった楽団宛てのファンレター、その内の一通である。
それなりに学がある人物が筆を執ったのか、慇懃な言葉遣いで達筆が振るわれている。
宛て名に『ルナサ・プリズムリバー様へ』と記されたその手紙の内容は、次のようなものだ。
『プリズムリバー楽団の皆様、こんにちは。
まずは、先日の白玉楼でのお花見ライブ御疲れ様でした。僭越ながら私も拝聴させて頂きました。
御楽団が奏でるあの音、あのノリ、あのライブ感。どれを取ってもこれまでの幻想郷には無かったものです。
我々の旧態然とした価値観を吹き飛ばす貴女達の若いパワーに、皆惹かれ始めております。
勿論、頭の固い、古臭い連中との軋轢もあるでしょうが…貴女達は、貴女達の信じる道を突き進んでいってもらいたい。
最古参のファンとして、微力ながら支え続けていきたいと愚考しております。
ところで、これは御楽団への苦言…と云う訳でもないのですが、一つ気に掛かる事が御座います。リリカさんの事です。
少々書き記し難い事なのですが…リリカさん、ライブではとても激しい動きをなさっていますよね。
それは見ていてとても可愛らしく、活力溢れる姿に私も元気づけられているのですが、如何せん動きが激しすぎて、その。
先述のライブの最中、スカートが翻って一瞬、客席から彼女のパンツが見えてしまったのです。
一応述べておきますと、私は女です。また、パンツが見えたのはほんの一瞬の事でした。
よほど真剣にリリカさんの下腹部を注視していた者でもなければ、その一瞬を捉える事は出来無かったでしょう。
ただ、先程も述べましたとおり、御楽団に注目する者は日毎に増えております。悪意を持つ者が現れないとも限りません。
そういった輩の下卑た欲望にリリカさんが晒される事になれば…そう思うと居ても立っても居られず、こうして筆を執った次第であります。
リリカさん御本人に直接忠言しては乙女心を不用意に傷付ける結果になるかと思い、宛て名はルナサさんとさせて頂きました。
つきましては、彼女にもう少しだけ動きを大人しくして頂くか、もしくはパンツが見えにくい服装に着替える等、何らかの対策を打たれべきかと。
差し出がましい申し出かとは存じますが、何卒御一考の程を。
長文失礼致しました。これからも変わらず、御楽団を応援しております。』
手紙を読み終えたルナサが、悲痛に呻いた。
「あぁ…楽団を立ち上げた時、私は誓ったの。姉として、楽団のリーダーとして、貴女達をあらゆる障害から守ると。
でもとんだ道化だったわ。私は結局何も出来なかった。リリカの貞操を守る事が出来なかった…」
この世の終わりを迎えたような顔をする姉に対し、メルランが明るく声を掛ける。
「貞操って…姉さんってば大袈裟だなぁ。直接、あの子が何かされたって訳じゃないでしょう?
その…『見えちゃった』のはこの人だけっぽいし、しかも女性だって言ってくれてるし。
こっそり教えてもらえてラッキーセンキュー、来週のライブまでに改善します!で済む話じゃない?」
持ち前の楽観性を発揮するメルランさん。
「女性かどうかなんて実際は分からない…。単に気を遣ってくれてるだけかもしれないじゃない。
それに、『見えた』のがこの人だけだって保証がどこにあるの? 一人から見えていたのなら百人から見えていてもおかしくはないわ。
…今この瞬間にも、汚らわしい獣欲の矛先があの子のパンツに向けられてるんだわ、きっとそうよ…」
持ち前の悲観性を発揮するルナサさん。
「もぅ、相変わらず姉さんは考え過ぎよー。そもそもさぁ。
私たちなんて、人間で言えばせいぜい十代前半くらいの身体年齢じゃない。特にリリカはちっこいんだしー。
私たちみたいなお子様相手に欲情する殿方なんて、そうそう居るはずないじゃないのー」
明るく振舞い続ける妹を、しかし冷たい目で睨みつけるルナサ姉さん。
その視線は妹へと、主にその胸部の豊かな膨らみへと向けられていた。
「…メルラン、いい機会だから言っておくわ。実は、貴女宛てにも結構な数の『お手紙』が届いているのよね…。
貴女が傷付くかと思って、今までは私が検閲してたのだけど…そうね、確かこんな内容だったかしら。
『飛び跳ねる度にぽよぽよ揺れるのが気になります』『音楽に集中させてください』
『やっぱり管楽器を演奏するには大きくないといけないんですね…どことは言いませんが』
『姉より優れた妹は存在した』『誘ってるんですか?』『揉みたい』
呆けた事を言っていないで、貴女も少し乙女の自覚を持つべきじゃないかしらね?」
「何よそのへんたいコメントー!?」
「(しぃー!)」
大声を上げる妹の唇に、慌てて人差し指を立てる。
メルランがはっとして両手で自分の口を塞ぐ。幸い、館内は静まりきっておりリリカが起きだした気配は無かった。
再び声を潜めて話し出すメルランであったが、彼女は酷く動揺していた。
「えー…。…えぇ~……。私ってファンの人たちにそういう目で見られてたんだ。…なんかショック。
そっかー…。うん、今度から気を付けよう…サラシとか巻いてみよっかな……。…う~。うぅぅ……」
しょんぼりする妹に向けて、ルナサが慌てて謝罪した。
「ごめん…そんなにショックを受けると思わなかった。てっきりその、分かってやってるのかと」
「そんな訳ないじゃない…姉さんは私の事なんだと思ってるの?」
「…度を越した目立ちたがり屋さん?」
「否定はしないけど、こんな事で目立っても嬉しくないわよぅ…」
閑話休題。
「えっと、話を戻すわね? まぁ貴女の場合はその…身体的特徴であって、それをどうこう言う側が下衆ってだけなんだけど。
でもリリカについてはそうじゃない。…私から見ても、あの子はガードが緩いと思う。メルランはどう思う?」
「あー、私も同じ意見かなぁ…。…薄々感じてるんだけどさ。あの子って私たちに比べて、騒霊としての力が弱いんじゃないかしら?
ほらー、私や姉さんは演奏中、特に考えなくてもスカートがめくれないように抑えてるでしょう?」
「…そういえばそうね。あんまり意識したことも無かったけど」
「その無意識のガードを、あの子は出来てないんじゃないかなって。だってちゃんと力が使えてたら、逆立ちしたってパンツなんか見えっこないもん」
「なるほど…」
ルナサが暫し考え込む。
「…でもそれは多分、私たちがあの子にパートを任せすぎてるからじゃないかな…。まず、メルランがトランペットをメインに管楽器を演ってるじゃない?」
「えぇ」
「そして私がヴァイオリン含む弦楽器」
「はい」
「そしてリリカが」
「鍵盤楽器全般にパーカス(打楽器)、ベース、その他の小物いろいろ」
「………………」
「………………」
無言で見つめ合う姉さん達。
「…メルラン、あなたリリカのパートを幾らか代わってあげなさい。
あなたはいつもライブで一番目立ってるけど、それはリズム隊やベースの支えがあってこそなのよ。
それを理解する為にも、たまには裏方に徹するのも悪くない経験だと思うわ」
「えー。でも私は管楽器に集中したいしー…だって打楽器って音階が無いのが多いし、表現の幅が狭く感じてイマイチ乗り切れないんだもん。そして何よりぐるぐるしてない!
…ルナサ姉さんが代わってあげればー?…って言うか、今更過ぎる突っ込みだけどさ。三人しか居ないバンドの、一人のメイン楽器がヴァイオリンってなんか変じゃない?
どう考えても食い合わせがオカシイ。この機会に、ヴァイオリン以外の楽器も少しは触ってみたらどうかしらー?」
「だって私はヴァイオリンが得意だし。得意じゃなければ自在に音は出せないし、良いライブなんて創れっこない。
だいたい、幻想郷の住人からすれば『西洋音楽団』って時点で十二分に『変』なのよ。そんな変な楽団にヴァイオリンが混じってたところで何も変わらないわよ」
やいのやいのと、自分が興味の無いパートを醜く押し付け合う。
妹想い、姉想いではあるのだが、こと音楽の話になると途端にワガママになる二人である。
数分間の不毛なやり取りを経て一時休戦となる。
「…まぁね? あの子からパートを奪う、ってのは得策とは言えないかなー。
あの子だってプライドと自信を持って自分の演奏をしてるのよ、それを横から奪っちゃうのはなんか違うかもなー」
「…そうよね。あの子の頑張りを無碍には出来ないわよね。うん、パート変更の話は無かった事にしよう」
そんな白々しい会話を交えた後。
「あの子の負担を減らしての、無意識のガード発動が望めないとなると…意識してもらうしかないか。
つまりあの子にそれとなく伝えて、ライブ中の動きを抑えてもらう。…ううん、でもそれだと……」
「そうなのよねぇ…あの動きってさ、どうしても影に隠れがちなあの子が、ちょっとでも目立つ為に考えたあの子なりのパフォーマンスじゃない?
理由がどうあれ、私たちがそれを辞めさせちゃうのは…残酷な気がするわよね」
少しの沈黙。二人の騒霊はその視線を合わせ、小さく頷き合う。
「そうなるともう、手段はこれしか―――」
「よね。まぁ正直、最初から分かってた事だけど―――」
月の夜、霧の湖から少し離れた所にある廃洋館、その一室で。
「ねぇねぇ! メルラン、こんなのはどうかしら?」
「お、おおう、すっごいフリフリ…。さすが姉さんのセンスね。んー、でもリリカはこういうのは苦手なんじゃないかなぁ」
「そんな…絶対可愛いのに」
「うん、可愛いんだけど絶対ライブ向きではないよね? それに、装飾が凝り過ぎてて来週のライブには間に合わないだろうし…」
「でも、絶対可愛い…」
「うん、そういうのは楽団服じゃなくてパジャマとかで、ね? それより姉さん、こういうのはどう?
これなら、あの子の演奏スタイルと元気の良さを引き立ててくれるんじゃないかしら? ベースは一旦、今のままにしておいてさ―――」
その深夜の会合は、東の空が白み始めるまで続いた。
一週間後、ライブ当日の朝。ルナサとメルランの二人は、完成した『それ』を片手に彼女の部屋へと踏み入った。
「リリカリリカおっはよー、もう起きてる? それとも寝てる? よし起きてるわね!」
「んにゃむにゃ…なによーメル姉、まだリハーサルするには早いでしょ~?」
ベッドの上から聞こえる寝ぼけ声の主はリリカ・プリズムリバー。この廃洋館の住人、騒霊三姉妹の末妹である。
「ほらほらー、起きて起きて。寝る子は育つとは言うけど、お化けはいくら寝たって大きくなんかなれないぞー?」
「朝からうっさい…って言うかさぁ。メル姉、部屋に入る時はノックしてって何百回も…ってあれ、ルナ姉もいるじゃん」
「おはよう、リリカ。起こしちゃってごめんね、どうしてもライブ前に渡しておきたい物があって」
「私たちから、いつも頑張ってくれてるあんたにプレゼント! さぁ今すぐこれを着るのよ! さぁさぁさぁ! ナウ!」
リリカがもぞもぞと布団から這い出てくる。
「プレゼント~? なんでまたこんなライブ直前に…あれこれ、私の楽団服? 新品だ…でもなんで? 今持ってるやつ、まだ全然着れるよ?」
当然の疑問を向けられて、しかし目を逸らすルナサ。
「あー、それはその。イメチェンと言うかなんと言うか…」
実直な性格の彼女は、話を誤魔化すのが下手だった。メルランが慌ててフォローに入る。
「ほ、ほらーあんたってば最近、ちょっと背が伸びてきたんじゃないかしら? きっと成長期なのよね!
そんな育ち盛りの妹にはぴったりの服を新調してあげなきゃって思って! 私と姉さんが夜なべしながらチクチク作ったのよー」
「騒霊に成長期とかあんの…? …身長なら時々自分で測ってるけど、別に一ミリも伸びてないんですけど。さっきからいつも以上にテンション高いし…なーんか怪しいなぁ…」
「う」
感情が表に出やすいメルランも大概、嘘を吐くのが下手だった。そんな不器用な姉さん達を見て、リリカが小さく溜め息を吐く。
「まぁ、プレゼントって言うんなら嬉しいけどね。…えへへ、ありがと♪ ルナサ姉さん、メルラン姉さん」
一転その表情を崩し、はにかみながら姉さん達からの贈り物を受け取るリリカ。ほっとした様子の姉さん達に向かって、そのまま言葉を続けた。
「それで…着替えたいから、ちょっと部屋から出てってもらってもいいかな?」
リリカの着替えを待ちながらの二人の会話。
「何とかライブに間に合ったわねー。…でもさ、いちいち追い出さなくたっていいのに。家族の前での着替えくらい、別に恥ずかしがることなんか無いわよね?」
「だから、貴女はもう少し慎みを持ちなさい。…もう一度『お手紙』の内容を読み上げるわよ?」
「う…ごめんなさい。そうだった、私達は乙女、私達は乙女、私達は乙女…」
「…それにしても」
「え?」
「あのファンレターは誰が書いたものだったんだろう。…送り主の名前はどこにも書かれてなかったのよね。いつかきちんと、お礼を言えると良いのだけれど…」
時間は進みライブ本番、観客席の最後列付近にて。
「あぁ…なるほど。リリカが履いてるあれは、キュロットパンツね。英国ヴィクトリア朝に於いて、女性が馬の背に跨がれるようにと開発された衣服でしたっけ。
確かにあれなら、傍目にはスカートのように見えるから、三人並んでいてもまとまりがある。それでいて構造は半ズボンと同じ、激しく動いてもスカートのようにめくれる心配も無い…。
うん、一週間でちゃんと考えて対策を練ってきたのね。感心感心」
あからさまに怪しい人影が、遠目からリリカ・プリズムリバーの下腹部を注視していた。
そこに駆けつけたもう一人。ボリューム満点の尻尾をワサワサと揺らしながら、怪人物へと声を掛ける。
「あぁ、いたいた…紫さま~、境界の管理放り出して何やってるんですかー」
「あら藍。貴方もプリズムリバー楽団に興味があって?」
「いえ私は別に…冬眠明けで色々忙しいんですから、勝手にどっか行かないでくださいよー。確か、この前の白玉楼ライブも聴きに来てましたよね。何なんですか、紫様は暇なんですか?」
「聴きに来ただけではない。もうファンレターまで送っちゃったわ」
「もう一度言います。暇なんですか?」
「あら、私が暇するために貴方が居るんじゃなくって?」
「それはそうですけどー。…にしても、なんでまたあんなチンドン屋なんかにご執心なんです?」
一際大きな歓声が上がった。どうやら、これからリリカの創った新曲がお披露目されるようだ。
「…彼女達はね、拠り所を失ったばかりなのよ。右も左も分からないままこの世に放り出さたの。
そんな若者達が、新たな拠り所を求めて懸命に戦っている姿に老婆心が湧いた…ってところかしら」
「なるほど老婆心。すごくなるほど」
「…何か言いたいことが?」
「滅相もないです」
そして演奏が始まる。
「…それからね、藍。彼女達が幻想郷に吹く新しい風、その先触れだからよ。これから幻想郷は大きく変わり始めるわ。
新しい人、物、妖がどんどんやってくるでしょう。そんな時に、お客様を歓迎する賑やかな音楽の一つも無いと、なんだか寂しいじゃない」
「相変わらず、紫様の仰ることは分かり辛いです。…でも確かにこの曲、悪い感じはしないですね」
少しだけ時間を巻き戻し、ライブ本番直前。舞台袖で待機中のリリカの様子。
(まったく…姉さん達ったらほんと仕方無いよ。回りくどい事しなくっても、素直に言ってくれりゃ良いのにさー)
(うー…でも私もまだまだ未熟だなー、熱くなり過ぎてパンツが見えてた事にも気付かないなんて…。うん、ここは姉さん達に素直に感謝しておこう)
(…でも、姉さん達がスカートなのに、私だけズボンってのも、なんだかなぁ…。ちょっとセクシーさが足りないんじゃない?
キュロットだってバレたら、全国のリリカちゃんファンがガッカリしちゃうよ。…そうだ! 不足したセクシー分を補うためにー…)
「みんなー!! 今日も私たちの演奏を聴きに来てくれてありがとー!! ひゃっほー!!
ライブを盛り上げるのはぁ、まずはみんなの姉さん、騒霊ヴァイオリニストのルナサ・プリズムリバー!! 続いて私ぃ、騒霊トランペッター、メルラン・プリズムリバー!!」
先んじて舞台へと上がる姉達に続きながら、リリカはこっそりと襟元を留めるホックを外した。
赤い楽団服に緑色に映える、その第一ボタンの辺りまで胸元を開く。
「そしてそして三人目はー!! ちっちゃな頑張り屋さん、みんなの妹! 騒霊キーボーディストのリリカ・プリズムリバーだー!!
な、なんと本日は、新曲を引っさげての登場だぞー!! はいみんな盛大に拍手ー!!」
歓声と共に舞台に上がる。独特の高揚感と、小さな羞恥心にその身を震わせながら。
(ちょっと恥ずかしいけど…私だって、これくらいはさ。…姉さん達には負けないんだからね!)
この日のライブも、また一段と盛り上がることだろう。
一見すると、とても誰か住んでいるようには見えないその館内に、闇に紛れひっそりと蠢く二つの影があった。
「…メルラン。リリカはもう眠ったかしら?」
「えぇ、バッチシよ姉さん。リリカ、今朝からずっと来週のライブ用の曲作りしてたから…もう朝までぐっすりのはず。例の話をするなら、今ね」
その影の正体はルナサ・プリズムリバーにメルラン・プリズムリバー。この廃洋館の住人、騒霊三姉妹の長女と次女である。
ここはルナサの自室。月明かりに照らされた部屋で、顔を寄せ合いヒソヒソと言葉を交わす二人。
彼女らは今、早急に解決すべきある深刻な問題を抱えていた。
「…では、始めましょう」
ルナサが重々しく口を開く。普段から真面目な姉の、普段以上に真面目なその表情にメルランは思わず身を正した。
背筋を伸ばしその形の良い胸を張りながら、姉の次の言葉を待つ。
「この世に生まれてどれくらい経っただろう…。私たちはあの子と四人で、これまでに多くの問題を乗り越えてきた。あの子が逝ってしまって、三人になってからもそれは変わらない。
プリズムリバー楽団を立ち上げ、互いに支え合い騒ぎ合って、あの子を失った隙間を埋めてきた―――」
姉の真っ直ぐな視線を受け止めるメルラン。
「―――私たちは今、楽団創設以来の最大の危機に直面している。…リリカが危ない。このままではリリカが、取り返しのつかない傷を負うことになる。
もう二度と、笑顔で演奏出来なくなってしまう…。私は姉として、楽団のリーダーとしてリリカを守る。…どんな手を使ってでも。
…メルラン、貴女にもその覚悟があるかしら?」
「当然よ!」
迷いなく放たれる妹の言葉に、ルナサがほんの少し表情を和らげる。
「…ありがとう」
これは少し昔、プリズムリバー楽団黎明期にあったかもしれないお話―――。
『幽霊楽団黎明期録~リリカちゃんのパンツ編~』
その秘密の会合は粛々と行われた。
「ではメルラン、例のモノをここに」
「はい姉さん」
少女が懐から取り出したのは、一通の手紙。
ライブ活動を始めて幾年月、いつからか廃洋館へと舞い込むようになった楽団宛てのファンレター、その内の一通である。
それなりに学がある人物が筆を執ったのか、慇懃な言葉遣いで達筆が振るわれている。
宛て名に『ルナサ・プリズムリバー様へ』と記されたその手紙の内容は、次のようなものだ。
『プリズムリバー楽団の皆様、こんにちは。
まずは、先日の白玉楼でのお花見ライブ御疲れ様でした。僭越ながら私も拝聴させて頂きました。
御楽団が奏でるあの音、あのノリ、あのライブ感。どれを取ってもこれまでの幻想郷には無かったものです。
我々の旧態然とした価値観を吹き飛ばす貴女達の若いパワーに、皆惹かれ始めております。
勿論、頭の固い、古臭い連中との軋轢もあるでしょうが…貴女達は、貴女達の信じる道を突き進んでいってもらいたい。
最古参のファンとして、微力ながら支え続けていきたいと愚考しております。
ところで、これは御楽団への苦言…と云う訳でもないのですが、一つ気に掛かる事が御座います。リリカさんの事です。
少々書き記し難い事なのですが…リリカさん、ライブではとても激しい動きをなさっていますよね。
それは見ていてとても可愛らしく、活力溢れる姿に私も元気づけられているのですが、如何せん動きが激しすぎて、その。
先述のライブの最中、スカートが翻って一瞬、客席から彼女のパンツが見えてしまったのです。
一応述べておきますと、私は女です。また、パンツが見えたのはほんの一瞬の事でした。
よほど真剣にリリカさんの下腹部を注視していた者でもなければ、その一瞬を捉える事は出来無かったでしょう。
ただ、先程も述べましたとおり、御楽団に注目する者は日毎に増えております。悪意を持つ者が現れないとも限りません。
そういった輩の下卑た欲望にリリカさんが晒される事になれば…そう思うと居ても立っても居られず、こうして筆を執った次第であります。
リリカさん御本人に直接忠言しては乙女心を不用意に傷付ける結果になるかと思い、宛て名はルナサさんとさせて頂きました。
つきましては、彼女にもう少しだけ動きを大人しくして頂くか、もしくはパンツが見えにくい服装に着替える等、何らかの対策を打たれべきかと。
差し出がましい申し出かとは存じますが、何卒御一考の程を。
長文失礼致しました。これからも変わらず、御楽団を応援しております。』
手紙を読み終えたルナサが、悲痛に呻いた。
「あぁ…楽団を立ち上げた時、私は誓ったの。姉として、楽団のリーダーとして、貴女達をあらゆる障害から守ると。
でもとんだ道化だったわ。私は結局何も出来なかった。リリカの貞操を守る事が出来なかった…」
この世の終わりを迎えたような顔をする姉に対し、メルランが明るく声を掛ける。
「貞操って…姉さんってば大袈裟だなぁ。直接、あの子が何かされたって訳じゃないでしょう?
その…『見えちゃった』のはこの人だけっぽいし、しかも女性だって言ってくれてるし。
こっそり教えてもらえてラッキーセンキュー、来週のライブまでに改善します!で済む話じゃない?」
持ち前の楽観性を発揮するメルランさん。
「女性かどうかなんて実際は分からない…。単に気を遣ってくれてるだけかもしれないじゃない。
それに、『見えた』のがこの人だけだって保証がどこにあるの? 一人から見えていたのなら百人から見えていてもおかしくはないわ。
…今この瞬間にも、汚らわしい獣欲の矛先があの子のパンツに向けられてるんだわ、きっとそうよ…」
持ち前の悲観性を発揮するルナサさん。
「もぅ、相変わらず姉さんは考え過ぎよー。そもそもさぁ。
私たちなんて、人間で言えばせいぜい十代前半くらいの身体年齢じゃない。特にリリカはちっこいんだしー。
私たちみたいなお子様相手に欲情する殿方なんて、そうそう居るはずないじゃないのー」
明るく振舞い続ける妹を、しかし冷たい目で睨みつけるルナサ姉さん。
その視線は妹へと、主にその胸部の豊かな膨らみへと向けられていた。
「…メルラン、いい機会だから言っておくわ。実は、貴女宛てにも結構な数の『お手紙』が届いているのよね…。
貴女が傷付くかと思って、今までは私が検閲してたのだけど…そうね、確かこんな内容だったかしら。
『飛び跳ねる度にぽよぽよ揺れるのが気になります』『音楽に集中させてください』
『やっぱり管楽器を演奏するには大きくないといけないんですね…どことは言いませんが』
『姉より優れた妹は存在した』『誘ってるんですか?』『揉みたい』
呆けた事を言っていないで、貴女も少し乙女の自覚を持つべきじゃないかしらね?」
「何よそのへんたいコメントー!?」
「(しぃー!)」
大声を上げる妹の唇に、慌てて人差し指を立てる。
メルランがはっとして両手で自分の口を塞ぐ。幸い、館内は静まりきっておりリリカが起きだした気配は無かった。
再び声を潜めて話し出すメルランであったが、彼女は酷く動揺していた。
「えー…。…えぇ~……。私ってファンの人たちにそういう目で見られてたんだ。…なんかショック。
そっかー…。うん、今度から気を付けよう…サラシとか巻いてみよっかな……。…う~。うぅぅ……」
しょんぼりする妹に向けて、ルナサが慌てて謝罪した。
「ごめん…そんなにショックを受けると思わなかった。てっきりその、分かってやってるのかと」
「そんな訳ないじゃない…姉さんは私の事なんだと思ってるの?」
「…度を越した目立ちたがり屋さん?」
「否定はしないけど、こんな事で目立っても嬉しくないわよぅ…」
閑話休題。
「えっと、話を戻すわね? まぁ貴女の場合はその…身体的特徴であって、それをどうこう言う側が下衆ってだけなんだけど。
でもリリカについてはそうじゃない。…私から見ても、あの子はガードが緩いと思う。メルランはどう思う?」
「あー、私も同じ意見かなぁ…。…薄々感じてるんだけどさ。あの子って私たちに比べて、騒霊としての力が弱いんじゃないかしら?
ほらー、私や姉さんは演奏中、特に考えなくてもスカートがめくれないように抑えてるでしょう?」
「…そういえばそうね。あんまり意識したことも無かったけど」
「その無意識のガードを、あの子は出来てないんじゃないかなって。だってちゃんと力が使えてたら、逆立ちしたってパンツなんか見えっこないもん」
「なるほど…」
ルナサが暫し考え込む。
「…でもそれは多分、私たちがあの子にパートを任せすぎてるからじゃないかな…。まず、メルランがトランペットをメインに管楽器を演ってるじゃない?」
「えぇ」
「そして私がヴァイオリン含む弦楽器」
「はい」
「そしてリリカが」
「鍵盤楽器全般にパーカス(打楽器)、ベース、その他の小物いろいろ」
「………………」
「………………」
無言で見つめ合う姉さん達。
「…メルラン、あなたリリカのパートを幾らか代わってあげなさい。
あなたはいつもライブで一番目立ってるけど、それはリズム隊やベースの支えがあってこそなのよ。
それを理解する為にも、たまには裏方に徹するのも悪くない経験だと思うわ」
「えー。でも私は管楽器に集中したいしー…だって打楽器って音階が無いのが多いし、表現の幅が狭く感じてイマイチ乗り切れないんだもん。そして何よりぐるぐるしてない!
…ルナサ姉さんが代わってあげればー?…って言うか、今更過ぎる突っ込みだけどさ。三人しか居ないバンドの、一人のメイン楽器がヴァイオリンってなんか変じゃない?
どう考えても食い合わせがオカシイ。この機会に、ヴァイオリン以外の楽器も少しは触ってみたらどうかしらー?」
「だって私はヴァイオリンが得意だし。得意じゃなければ自在に音は出せないし、良いライブなんて創れっこない。
だいたい、幻想郷の住人からすれば『西洋音楽団』って時点で十二分に『変』なのよ。そんな変な楽団にヴァイオリンが混じってたところで何も変わらないわよ」
やいのやいのと、自分が興味の無いパートを醜く押し付け合う。
妹想い、姉想いではあるのだが、こと音楽の話になると途端にワガママになる二人である。
数分間の不毛なやり取りを経て一時休戦となる。
「…まぁね? あの子からパートを奪う、ってのは得策とは言えないかなー。
あの子だってプライドと自信を持って自分の演奏をしてるのよ、それを横から奪っちゃうのはなんか違うかもなー」
「…そうよね。あの子の頑張りを無碍には出来ないわよね。うん、パート変更の話は無かった事にしよう」
そんな白々しい会話を交えた後。
「あの子の負担を減らしての、無意識のガード発動が望めないとなると…意識してもらうしかないか。
つまりあの子にそれとなく伝えて、ライブ中の動きを抑えてもらう。…ううん、でもそれだと……」
「そうなのよねぇ…あの動きってさ、どうしても影に隠れがちなあの子が、ちょっとでも目立つ為に考えたあの子なりのパフォーマンスじゃない?
理由がどうあれ、私たちがそれを辞めさせちゃうのは…残酷な気がするわよね」
少しの沈黙。二人の騒霊はその視線を合わせ、小さく頷き合う。
「そうなるともう、手段はこれしか―――」
「よね。まぁ正直、最初から分かってた事だけど―――」
月の夜、霧の湖から少し離れた所にある廃洋館、その一室で。
「ねぇねぇ! メルラン、こんなのはどうかしら?」
「お、おおう、すっごいフリフリ…。さすが姉さんのセンスね。んー、でもリリカはこういうのは苦手なんじゃないかなぁ」
「そんな…絶対可愛いのに」
「うん、可愛いんだけど絶対ライブ向きではないよね? それに、装飾が凝り過ぎてて来週のライブには間に合わないだろうし…」
「でも、絶対可愛い…」
「うん、そういうのは楽団服じゃなくてパジャマとかで、ね? それより姉さん、こういうのはどう?
これなら、あの子の演奏スタイルと元気の良さを引き立ててくれるんじゃないかしら? ベースは一旦、今のままにしておいてさ―――」
その深夜の会合は、東の空が白み始めるまで続いた。
一週間後、ライブ当日の朝。ルナサとメルランの二人は、完成した『それ』を片手に彼女の部屋へと踏み入った。
「リリカリリカおっはよー、もう起きてる? それとも寝てる? よし起きてるわね!」
「んにゃむにゃ…なによーメル姉、まだリハーサルするには早いでしょ~?」
ベッドの上から聞こえる寝ぼけ声の主はリリカ・プリズムリバー。この廃洋館の住人、騒霊三姉妹の末妹である。
「ほらほらー、起きて起きて。寝る子は育つとは言うけど、お化けはいくら寝たって大きくなんかなれないぞー?」
「朝からうっさい…って言うかさぁ。メル姉、部屋に入る時はノックしてって何百回も…ってあれ、ルナ姉もいるじゃん」
「おはよう、リリカ。起こしちゃってごめんね、どうしてもライブ前に渡しておきたい物があって」
「私たちから、いつも頑張ってくれてるあんたにプレゼント! さぁ今すぐこれを着るのよ! さぁさぁさぁ! ナウ!」
リリカがもぞもぞと布団から這い出てくる。
「プレゼント~? なんでまたこんなライブ直前に…あれこれ、私の楽団服? 新品だ…でもなんで? 今持ってるやつ、まだ全然着れるよ?」
当然の疑問を向けられて、しかし目を逸らすルナサ。
「あー、それはその。イメチェンと言うかなんと言うか…」
実直な性格の彼女は、話を誤魔化すのが下手だった。メルランが慌ててフォローに入る。
「ほ、ほらーあんたってば最近、ちょっと背が伸びてきたんじゃないかしら? きっと成長期なのよね!
そんな育ち盛りの妹にはぴったりの服を新調してあげなきゃって思って! 私と姉さんが夜なべしながらチクチク作ったのよー」
「騒霊に成長期とかあんの…? …身長なら時々自分で測ってるけど、別に一ミリも伸びてないんですけど。さっきからいつも以上にテンション高いし…なーんか怪しいなぁ…」
「う」
感情が表に出やすいメルランも大概、嘘を吐くのが下手だった。そんな不器用な姉さん達を見て、リリカが小さく溜め息を吐く。
「まぁ、プレゼントって言うんなら嬉しいけどね。…えへへ、ありがと♪ ルナサ姉さん、メルラン姉さん」
一転その表情を崩し、はにかみながら姉さん達からの贈り物を受け取るリリカ。ほっとした様子の姉さん達に向かって、そのまま言葉を続けた。
「それで…着替えたいから、ちょっと部屋から出てってもらってもいいかな?」
リリカの着替えを待ちながらの二人の会話。
「何とかライブに間に合ったわねー。…でもさ、いちいち追い出さなくたっていいのに。家族の前での着替えくらい、別に恥ずかしがることなんか無いわよね?」
「だから、貴女はもう少し慎みを持ちなさい。…もう一度『お手紙』の内容を読み上げるわよ?」
「う…ごめんなさい。そうだった、私達は乙女、私達は乙女、私達は乙女…」
「…それにしても」
「え?」
「あのファンレターは誰が書いたものだったんだろう。…送り主の名前はどこにも書かれてなかったのよね。いつかきちんと、お礼を言えると良いのだけれど…」
時間は進みライブ本番、観客席の最後列付近にて。
「あぁ…なるほど。リリカが履いてるあれは、キュロットパンツね。英国ヴィクトリア朝に於いて、女性が馬の背に跨がれるようにと開発された衣服でしたっけ。
確かにあれなら、傍目にはスカートのように見えるから、三人並んでいてもまとまりがある。それでいて構造は半ズボンと同じ、激しく動いてもスカートのようにめくれる心配も無い…。
うん、一週間でちゃんと考えて対策を練ってきたのね。感心感心」
あからさまに怪しい人影が、遠目からリリカ・プリズムリバーの下腹部を注視していた。
そこに駆けつけたもう一人。ボリューム満点の尻尾をワサワサと揺らしながら、怪人物へと声を掛ける。
「あぁ、いたいた…紫さま~、境界の管理放り出して何やってるんですかー」
「あら藍。貴方もプリズムリバー楽団に興味があって?」
「いえ私は別に…冬眠明けで色々忙しいんですから、勝手にどっか行かないでくださいよー。確か、この前の白玉楼ライブも聴きに来てましたよね。何なんですか、紫様は暇なんですか?」
「聴きに来ただけではない。もうファンレターまで送っちゃったわ」
「もう一度言います。暇なんですか?」
「あら、私が暇するために貴方が居るんじゃなくって?」
「それはそうですけどー。…にしても、なんでまたあんなチンドン屋なんかにご執心なんです?」
一際大きな歓声が上がった。どうやら、これからリリカの創った新曲がお披露目されるようだ。
「…彼女達はね、拠り所を失ったばかりなのよ。右も左も分からないままこの世に放り出さたの。
そんな若者達が、新たな拠り所を求めて懸命に戦っている姿に老婆心が湧いた…ってところかしら」
「なるほど老婆心。すごくなるほど」
「…何か言いたいことが?」
「滅相もないです」
そして演奏が始まる。
「…それからね、藍。彼女達が幻想郷に吹く新しい風、その先触れだからよ。これから幻想郷は大きく変わり始めるわ。
新しい人、物、妖がどんどんやってくるでしょう。そんな時に、お客様を歓迎する賑やかな音楽の一つも無いと、なんだか寂しいじゃない」
「相変わらず、紫様の仰ることは分かり辛いです。…でも確かにこの曲、悪い感じはしないですね」
少しだけ時間を巻き戻し、ライブ本番直前。舞台袖で待機中のリリカの様子。
(まったく…姉さん達ったらほんと仕方無いよ。回りくどい事しなくっても、素直に言ってくれりゃ良いのにさー)
(うー…でも私もまだまだ未熟だなー、熱くなり過ぎてパンツが見えてた事にも気付かないなんて…。うん、ここは姉さん達に素直に感謝しておこう)
(…でも、姉さん達がスカートなのに、私だけズボンってのも、なんだかなぁ…。ちょっとセクシーさが足りないんじゃない?
キュロットだってバレたら、全国のリリカちゃんファンがガッカリしちゃうよ。…そうだ! 不足したセクシー分を補うためにー…)
「みんなー!! 今日も私たちの演奏を聴きに来てくれてありがとー!! ひゃっほー!!
ライブを盛り上げるのはぁ、まずはみんなの姉さん、騒霊ヴァイオリニストのルナサ・プリズムリバー!! 続いて私ぃ、騒霊トランペッター、メルラン・プリズムリバー!!」
先んじて舞台へと上がる姉達に続きながら、リリカはこっそりと襟元を留めるホックを外した。
赤い楽団服に緑色に映える、その第一ボタンの辺りまで胸元を開く。
「そしてそして三人目はー!! ちっちゃな頑張り屋さん、みんなの妹! 騒霊キーボーディストのリリカ・プリズムリバーだー!!
な、なんと本日は、新曲を引っさげての登場だぞー!! はいみんな盛大に拍手ー!!」
歓声と共に舞台に上がる。独特の高揚感と、小さな羞恥心にその身を震わせながら。
(ちょっと恥ずかしいけど…私だって、これくらいはさ。…姉さん達には負けないんだからね!)
この日のライブも、また一段と盛り上がることだろう。
俺だってパンツみてえよ
紫様は間違いなくプリズムリバー楽団のファンです
ついでに女子二楽坊と鳥獣伎楽もチェック済みです
そうに違いありません